2013/07/10(水) - 18:23
スタート時に198人いた選手たちは9日間のレースを終えて182人になった。頻発する落車の影響に加え、ピレネー山岳で厳しいレースが展開されたからだ。100回記念大会は例年より厳しいツールになっているようだ。
しかし休息日明けのサン・ジルダ・デ・ボワには明るい雰囲気が満ちている。昨日を家族や子供と過ごした選手も多かったことだろう。子供のほっぺから離れられないのはジェローム・ピノー(オメガファーマ・クイックステップ)。再びのツールの出発を前に別れを惜しむ姿がいたるところで見受けられた。
降り注ぐ太陽のもとリラックスした空気が流れるが、今日勝負を狙う4強スプリンター、マーク・カヴェンディッシュ(オメガファーマ・クイックステップ)、アンドレ・グライペル(ロット・ベリソル)、ペーター・サガン(キャノンデール)、マルセル。キッテル(アルゴス・シマノ)の周りには緊張感がちょっと違う。
キッテルは相変わらずヘルメットをかぶることが前提と思えないヘアスタイルにティアドロップのサングラスで決めるが、ファンのサインに応じることは控えながら集中している。
カヴェンディッシュはなぜかスパナを持参してスタートサインにやってきて、サインを済ませた後で念入りにブレーキの調整をしている。使うのは通常のワイヤー引きブレーキだが、今までの油圧ブレーキ搭載バイクと同じCVNDSHカラーのバイクだったということは、油圧はもう使用しなくなったのか? しかし、サイン台の前で選手がスパナを持って自分でブレーキを調整する姿は初めて見た。
ブレーキの調整に余念がないカヴのもとにマイヨジョーヌのフルームがやってきて、かつてのチームメイトに話しかける。でも会話はあまり弾まないようだ。
かつてカヴの最終発射台をつとめたマーク・レンショーのオメガファーマ・クイックステップ移籍の話がにわかに出てきたことで、カヴのことを誰よりも知る監督、ブライアン・ホルム氏のところにはその話を嗅ぎつけたメディアが質問をしようと集まる。
しかし移籍話の発表は8月1日まで待たなければならない決まりがあるためホルム氏は契約については明言はせず。そして、サガンに許しているリードは106ポイントと大きいが、カヴはまだマイヨヴェールを諦めていないと言う。
ブルターニュ半島をひたすら北上するプロトン。ゴールスプリントで決まることはほぼ確定的ながら「まったくの平坦ステージ」とは言えない、うねるような丘のアップダウンが繰り返す。そして海が近くなると風の気配を感じるようになり、暑さが和らいでゆく。去る暑さに変わって強さを増すのが風の存在。ランス川を渡るとき、そして海が近づく頃には肌寒ささえも感じる強い海風が吹くようになる。
103km地点にはツール3勝のルイゾン・ボベの生誕地サンメーン・ルグランがあり、132km地点には「ブルターニュの穴熊」の異名をとるツール5勝の英雄ベルナール・イノーが現在住むカロルゲンの街がある。ツールの英雄を生み出してきたこのブルターニュ地方は、細かいアップダウンが無数に続くのが特徴だ。集団は細い道に長く伸びながら進んだ。英雄を生み出した土地だけに自転車ファンも多く、沿道の声援も多い。
後半、海が近づくと強い風が吹きつけるようになる。ゴールに向けての直線では、強い追い風が吹いていた。風になびく旗で確認できるその風向きは、ゴールに向けて突進してくる選手たちの進行方向と完全に一致していた。
そして4車線はある広い道幅のコースが、ゴールライン直前で左にカーブを切る。路面はやや荒れた石畳となる。ゴールラインを越えた後すぐに、自転車が跳ねるだろう深い窪みが確認できる。風にのってハイスピードで突っ込んでくる選手にとっては危険なゴールだ。
リアディレーラー破損でチャンスを逃したユキヤ
ゴールスプリントに向けて位置取りが激化するプロトンでトラブルを起こしてしまったのは新城幸也(ユーロップカー)。追い風にのって意欲たっぷりに位置取りをしていたそのとき、リアディレイアーがもげてしまったという。
「レース途中からディレイラー周辺から変な音がしていたので、メカトラがあることは気がついていたんです。でも交換するタイミングはなかったのでそのまま走っていたんです。」
「チーム3人でいい位置につけていて、踏みをいれたところでリアディレーラーが壊れて吹っ飛んでしまいました。絶対ゴールスプリントに加わるつもりで温存しながら走って、一桁を狙える良い位置にいたのに、悔しい!」
ゴール前の緊張が高まるそのタイミングでの「アラシロに問題発生!」のアナウンスは、ゴールで待つ我々には落車を心配させるに十分だった。
キッテルのツール2勝目 カヴと絡んで落車したフィーレルス
長い直線のゴールスプリントに向けて吹く強い追い風。爆発的な加速力よりも、スピードに乗った状態を維持できる選手に有利だ。カヴェンディッシュは最終アシストのヘルト・ステーグマンの後輪にはつけず、キッテルの発射台のトム・フィーラースの後輪につけて発射のタイミングを待った。
そしてフィーレルスが牽引を終えて右に下がるとき、左に曲がるゴールに向けて進路を変えて加速するカヴェンディッシュがぶつかった。肩で故意にプッシュしたような様子にも見え、降格か? との声があがるが、審判はビデオリプレイで確認。カヴへのペナルティ無しが決まった。
グライペルとゴール寸前まで競り合い、ゴールに飛び込んだキッテル。荒れていた路面とカーブのおかげで手放しはできず、派手なゴールパフォーマンスは無く両手はハンドルを握ったままだった。
転んだフィーラースへの心配をしながら、喜びながらゴールするアルゴス・シマノのチームメイトたち。もう一人のスプリンター、ジョン・デゲンコルブも一度フィーラースのところで立ち止まるが、無事を確認するとクーン・デコルトとともにハイタッチしながらゴール。フィーラースはブレーキレバーが曲がった状態になった転んだバイクに乗ってゴールに到達した。全身に擦過傷があるが、深い傷や骨折は無さそうだった。
キッテルの第1ステージの1勝目は、グリーンエッジのバスによる混乱と、発生した落車によりカヴェンデュッシュもサガンもグライペルもいなくなったことで、せっかくのツールの初勝利も評価は最高のものとはならなかった。2勝目のこのステージ優勝で、やっとツール最速の男の仲間入りをした。
キッテルは言う「この勝利で、ぼくがどれだけ速いか、ぼくのチームがふどれだけ強い、そしてどれだけチームワークがうまくいっているかを証明することができた」。
キッテルは2011年に現在の同チームの前名であるスキル・シマノでプロデビュー。いきなりシーズン18勝と勝利を量産。そして昨年のツールに初出場するが、消化器系のトラブルで棒に振り、無勝でリタイアしている。出場2回目のツールでの成功で、ようやくツールでの評価を確かなものにした。
グライペルは石畳の存在を知らなかった
グライペルはゴール前の石畳の存在を知らなかったことが失速した原因だと言う。
「最後に石畳があるなんて知らなかった。全開でもがいていて、最後のコーナーで後輪が弾んだからサドルに座り直さなければならなかった。スピードにして3,4㎞は失速して、負けてしまった。」そう言って事前に情報をもらえなかったチームの首脳陣を暗に批判した。このことをうけてキッテルには「石畳の存在を知っていたか?」の質問がされたが、キッテルはそのことを知っていた。
カヴェンディッシュはゴール前までにチームメイトがいなくなってしまったのが不満だ。「トレインが無くなった。ヘルト(ステーグマン)は前に出るのが早すぎて、そのままでと彼から発射された後に最後まで持たないと思ったから一度下がってフィーラースの後輪についたんだ。」
「グライペルが行ったからぼくも行った。そしてフィーレルスと接触したんだ。また”カヴェンディッシュは悪いやつだ”と言われるんだろうね。でもコースはその先で左に曲がっていたからぼくは左に行ったんだ。チームプレイが機能しなかったことについては今夜話し合うよ。」
その夜、レンショーの移籍が各メディアでリークされだした。オメガファーマ・クイックステップは自分の勝利を求めて他チームに移ったレンショーを取り戻すことで、かつての最強HTC時代に匹敵する最強列車を再構築だ。
photo&text:Makoto.AYANO
しかし休息日明けのサン・ジルダ・デ・ボワには明るい雰囲気が満ちている。昨日を家族や子供と過ごした選手も多かったことだろう。子供のほっぺから離れられないのはジェローム・ピノー(オメガファーマ・クイックステップ)。再びのツールの出発を前に別れを惜しむ姿がいたるところで見受けられた。
降り注ぐ太陽のもとリラックスした空気が流れるが、今日勝負を狙う4強スプリンター、マーク・カヴェンディッシュ(オメガファーマ・クイックステップ)、アンドレ・グライペル(ロット・ベリソル)、ペーター・サガン(キャノンデール)、マルセル。キッテル(アルゴス・シマノ)の周りには緊張感がちょっと違う。
キッテルは相変わらずヘルメットをかぶることが前提と思えないヘアスタイルにティアドロップのサングラスで決めるが、ファンのサインに応じることは控えながら集中している。
カヴェンディッシュはなぜかスパナを持参してスタートサインにやってきて、サインを済ませた後で念入りにブレーキの調整をしている。使うのは通常のワイヤー引きブレーキだが、今までの油圧ブレーキ搭載バイクと同じCVNDSHカラーのバイクだったということは、油圧はもう使用しなくなったのか? しかし、サイン台の前で選手がスパナを持って自分でブレーキを調整する姿は初めて見た。
ブレーキの調整に余念がないカヴのもとにマイヨジョーヌのフルームがやってきて、かつてのチームメイトに話しかける。でも会話はあまり弾まないようだ。
かつてカヴの最終発射台をつとめたマーク・レンショーのオメガファーマ・クイックステップ移籍の話がにわかに出てきたことで、カヴのことを誰よりも知る監督、ブライアン・ホルム氏のところにはその話を嗅ぎつけたメディアが質問をしようと集まる。
しかし移籍話の発表は8月1日まで待たなければならない決まりがあるためホルム氏は契約については明言はせず。そして、サガンに許しているリードは106ポイントと大きいが、カヴはまだマイヨヴェールを諦めていないと言う。
ブルターニュ半島をひたすら北上するプロトン。ゴールスプリントで決まることはほぼ確定的ながら「まったくの平坦ステージ」とは言えない、うねるような丘のアップダウンが繰り返す。そして海が近くなると風の気配を感じるようになり、暑さが和らいでゆく。去る暑さに変わって強さを増すのが風の存在。ランス川を渡るとき、そして海が近づく頃には肌寒ささえも感じる強い海風が吹くようになる。
103km地点にはツール3勝のルイゾン・ボベの生誕地サンメーン・ルグランがあり、132km地点には「ブルターニュの穴熊」の異名をとるツール5勝の英雄ベルナール・イノーが現在住むカロルゲンの街がある。ツールの英雄を生み出してきたこのブルターニュ地方は、細かいアップダウンが無数に続くのが特徴だ。集団は細い道に長く伸びながら進んだ。英雄を生み出した土地だけに自転車ファンも多く、沿道の声援も多い。
後半、海が近づくと強い風が吹きつけるようになる。ゴールに向けての直線では、強い追い風が吹いていた。風になびく旗で確認できるその風向きは、ゴールに向けて突進してくる選手たちの進行方向と完全に一致していた。
そして4車線はある広い道幅のコースが、ゴールライン直前で左にカーブを切る。路面はやや荒れた石畳となる。ゴールラインを越えた後すぐに、自転車が跳ねるだろう深い窪みが確認できる。風にのってハイスピードで突っ込んでくる選手にとっては危険なゴールだ。
リアディレーラー破損でチャンスを逃したユキヤ
ゴールスプリントに向けて位置取りが激化するプロトンでトラブルを起こしてしまったのは新城幸也(ユーロップカー)。追い風にのって意欲たっぷりに位置取りをしていたそのとき、リアディレイアーがもげてしまったという。
「レース途中からディレイラー周辺から変な音がしていたので、メカトラがあることは気がついていたんです。でも交換するタイミングはなかったのでそのまま走っていたんです。」
「チーム3人でいい位置につけていて、踏みをいれたところでリアディレーラーが壊れて吹っ飛んでしまいました。絶対ゴールスプリントに加わるつもりで温存しながら走って、一桁を狙える良い位置にいたのに、悔しい!」
ゴール前の緊張が高まるそのタイミングでの「アラシロに問題発生!」のアナウンスは、ゴールで待つ我々には落車を心配させるに十分だった。
キッテルのツール2勝目 カヴと絡んで落車したフィーレルス
長い直線のゴールスプリントに向けて吹く強い追い風。爆発的な加速力よりも、スピードに乗った状態を維持できる選手に有利だ。カヴェンディッシュは最終アシストのヘルト・ステーグマンの後輪にはつけず、キッテルの発射台のトム・フィーラースの後輪につけて発射のタイミングを待った。
そしてフィーレルスが牽引を終えて右に下がるとき、左に曲がるゴールに向けて進路を変えて加速するカヴェンディッシュがぶつかった。肩で故意にプッシュしたような様子にも見え、降格か? との声があがるが、審判はビデオリプレイで確認。カヴへのペナルティ無しが決まった。
グライペルとゴール寸前まで競り合い、ゴールに飛び込んだキッテル。荒れていた路面とカーブのおかげで手放しはできず、派手なゴールパフォーマンスは無く両手はハンドルを握ったままだった。
転んだフィーラースへの心配をしながら、喜びながらゴールするアルゴス・シマノのチームメイトたち。もう一人のスプリンター、ジョン・デゲンコルブも一度フィーラースのところで立ち止まるが、無事を確認するとクーン・デコルトとともにハイタッチしながらゴール。フィーラースはブレーキレバーが曲がった状態になった転んだバイクに乗ってゴールに到達した。全身に擦過傷があるが、深い傷や骨折は無さそうだった。
キッテルの第1ステージの1勝目は、グリーンエッジのバスによる混乱と、発生した落車によりカヴェンデュッシュもサガンもグライペルもいなくなったことで、せっかくのツールの初勝利も評価は最高のものとはならなかった。2勝目のこのステージ優勝で、やっとツール最速の男の仲間入りをした。
キッテルは言う「この勝利で、ぼくがどれだけ速いか、ぼくのチームがふどれだけ強い、そしてどれだけチームワークがうまくいっているかを証明することができた」。
キッテルは2011年に現在の同チームの前名であるスキル・シマノでプロデビュー。いきなりシーズン18勝と勝利を量産。そして昨年のツールに初出場するが、消化器系のトラブルで棒に振り、無勝でリタイアしている。出場2回目のツールでの成功で、ようやくツールでの評価を確かなものにした。
グライペルは石畳の存在を知らなかった
グライペルはゴール前の石畳の存在を知らなかったことが失速した原因だと言う。
「最後に石畳があるなんて知らなかった。全開でもがいていて、最後のコーナーで後輪が弾んだからサドルに座り直さなければならなかった。スピードにして3,4㎞は失速して、負けてしまった。」そう言って事前に情報をもらえなかったチームの首脳陣を暗に批判した。このことをうけてキッテルには「石畳の存在を知っていたか?」の質問がされたが、キッテルはそのことを知っていた。
カヴェンディッシュはゴール前までにチームメイトがいなくなってしまったのが不満だ。「トレインが無くなった。ヘルト(ステーグマン)は前に出るのが早すぎて、そのままでと彼から発射された後に最後まで持たないと思ったから一度下がってフィーラースの後輪についたんだ。」
「グライペルが行ったからぼくも行った。そしてフィーレルスと接触したんだ。また”カヴェンディッシュは悪いやつだ”と言われるんだろうね。でもコースはその先で左に曲がっていたからぼくは左に行ったんだ。チームプレイが機能しなかったことについては今夜話し合うよ。」
その夜、レンショーの移籍が各メディアでリークされだした。オメガファーマ・クイックステップは自分の勝利を求めて他チームに移ったレンショーを取り戻すことで、かつての最強HTC時代に匹敵する最強列車を再構築だ。
photo&text:Makoto.AYANO
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