2013/07/03(水) - 18:24
コルシカ島からの移動は休息日になるわけでもなく、関係者やスタッフたちは夜のフェリーに揺られて明け方ニースについた。関係者数千人と車両、機材が大きな混乱もなく海を渡った。
フェリーで渡るツールといえば近年ではイギリス・ロンドンで開幕した2007年ツールがあるが、ドーバーはトンネルでもつながっている。そしてその前は1998年のアイルランド・ダブリン開幕のツールが海を渡ったが、フェリーが到着したときに起こったのがフェスティナ事件。フェリーの中ではジャーナリストたちと「何も起こらないといいけれどね」と話し合った。
ちなみに個室は足りず、フロアで雑魚寝したため寒くてよく寝れなかった。休息日にならなかった代わりにニースでのTTのスタート時間は15時15分という遅めの設定が助かる。しかし気になるのは暑さ。コルシカ以上と思える気温の高さ、湿度を感じる空気に目まいがしそうだ。
距離が25kmと短いためかスタート1時間半ほど前からアップを開始する選手たち。身体を暖めつつも、オーバーヒートさせないようにする工夫がたくさん見られた。大型のファン式扇風機を持ち込んでいたのはベルキンとスカイ。アルゴス・シマノとBMCは氷嚢ベストを用意。
それぞれチームジャージの柄がデザインされたスペシャル品であるあたりがスタイリッシュだ。バッグに入れた氷を背中に入れてアップするロット・ベリソル。すべてのチームを見て回れなかったが、スタイルは様々だ。
しかし距離が短いだけに試走ができたのは良かったようで、ローラー上で長く追い込むよりコースに出るチームが多かったようだ。チームスカイのピットはひときわピリピリした空気が漂っている。この日はピナレロが用意した新型TTバイク”BOLIDE”が用意されたことが話題に。ジロでウィギンズのみが使用して華々しいデビューとなるはずが、メカトラで途中で交換を強いられたあのバイクだ。
今回はチーム全員に用意された。先進のカーボン技術を駆使して整形されたスタイリッシュなそのバイクが姿を表した。ブレーキはエアロカバーで覆われているがなぜかUCIの規定をクリアしているという魔法のバイクだ。
しかし調整が非常にシビアなようで、メカニシャンたちは最終調整に余念が無い。後輪エンドはピスト車のように逆爪になっていて、タイヤのクリアランスが調整できるのだが、なんとタイヤとフレームの間にクレジットカードを差し込みながら最低限の空間に調整していく様には驚かされた。周囲の観客からも感嘆の声が上がる。ロット・ベリソルの駆るリドレー、FDJのラピエールなど、このツールでお目見えした新型TTバイクもいくつか確認できた。機材戦争の様相については追ってプロバイク記事でお伝えします。
ただ、オリカ・グリーンエッジはシマノのフルサポートチームにあって旧型10スピードのバイクで走り、最新機材投入により生まれるメリットよりも慣れたバイクでリスクのないことを選んだようだ。それもひとつの良い選択だったのかもしれない。
サクソ・ティンコフにはこの日から宮島正典マッサーが合流。スタート前の選手たちの介添えにあたっていた。そしてアスタナにはついに引退した名スプリンター、ヤン・キルシプー(エストニア)がスタッフとして姿を見せた。
今年はTTの距離が短いツールだ。2012年は101.5kmあったTT総距離が今年はたった65km。第11ステージのモンサンミッシェルでの個人TTも33kmと距離が短く、第3週の17ステージに待つTTは32kmでクライマーに有利といわれる山岳TTだ。距離のあるTTでタイムを大きく失うことがないため、クライマーにチャンスが大きい。スタートのその瞬間までバイクのチェックなどを神経質に繰り返すアルベルト・コンタドール(サクソ・ティンコフ)からは、一秒たりとも失わないといった気迫が伝わってくる。
注目を集めるスカイプロサイクリングは、スタートラインに並ぶ際もクリス・フルームはじめ選手皆にどこか余裕を感じられる雰囲気だ。オメガファーマ・クイックステップは負傷したマルティンの走りがカギを握る。マルティンはいつもどおりのビッグギアを選択し、機関車になる覚悟だが、どこまでいつもの走りができるのか。薄いスキンスーツ越しに怪我の様子が透けて見えるが、背中全体に傷があり、痛々しい。スカイも機関車役のゲラント・トーマスが初日の落車で骨盤の一部を骨折しているため、互角の条件と言えるかもしれない。
総合を狙うピエール・ロランのためにタイムを失えないユーロップカーもいつになく緊張感が漂う。今日は緑のワンピースに身を包むユキヤが、山岳賞への意欲も出てきたロランのそばに寄り添う。今まで重視してこなかったチームTTの練習を重ねたその成果は発揮できるか。
午後3時過ぎに始まったレースは、すべてのチームが走り終える夕刻17時過ぎにかけて気温がぐんぐん上昇。舗装路が熱を持って触れないぐらいになっていた。
結果的には16位でレースを終えたユーロップカー。ユキヤは言う「コースはうちのチーム向きではなかったけど、なるべくタイム差を開かれないよう、最後は必死にスピードを上げた。まぁ、距離も25kmだし、チームタイムトライアルはこんなもの。今日はスタートがゆっくりだったから、午前中はすごくゆっくり眠れてよかった(笑)。まだ始まったばかりだから、気負わず自分の仕事をこなしながら、チャンスを待つよ」。
2番手スタートを切ったオメガファーマ・クイックステップは、暫定トップタイムのため2時間を表彰台の裏で座って過ごすことになった。しかしそのホットシートからはレース閉幕直前に降りることに。ラスト2番手スタートのオリカ・グリーンエッジが0.75秒という差で逆転。ゴール地点に詰めかけていた観客の、オーストラリア応援団とも言えるグリーンエッジのサポーターたちから大歓声が上がった。
オリカ・グリーンエッジの2連勝。表彰台に揃って上がるチーム9人は全員がいい表情で、ノリが良く友達同士のような雰囲気だ。マイヨジョーヌを着たゲランスを囲むチーム表彰の最後には、カメラマンエリアにいるチーム専属ビデオクルー(ジャパンカップにも来た彼)を見つけると、「ここでアレをやるか」と顔を見合わせると、ギターを引くポーズでおどけてみせた。
てっきりお馴染みの「電話ちょうだい」の”コール・ミー・メイビー”のポーズが出るものだと思っていたのだが、意表を突かれた。どうやらこれはチームが現在用意を進めているオリカ・グリーンエッジの「ミュージックビデオ」のことらしい。チームのツィッターでは#OGERock のハッシュタグで予告されるそれは、タトゥーに髭面のオージー(だと思われる)ロックンローラーがエレキギターを抱えてジャンプしている日替わりの予告画像がある。
それによると5日後の7月8日にそのミュージックビデオが発表されるらしい。そして、今最高だからって発表日が前倒しされることはないそうだ。はたして、その日までゲランスがまだマイヨジョーヌを着ているかは楽しみに待たなければならない。
チームオーナーのゲイリー・ライアン氏もニースに来ており、レース終了後のチームバスでは長く祝福のクールダウンが続いた(選手たちはローラーを回しながら)。ライアン氏からは昨日もシャンパンが振舞われたが、今日ももちろんあることだろう。
「昨日はグラス半分ぐらい。今日は2杯ぐらい? いやいや、明日からもハードなステージに備えて飲み過ぎは控えなければね。スイス、南アフリカと国際色もあるツールチームだが、オーストラリアのサイクリング界にとって記念すべき日が続いたね。昨年は今ひとつで批判もあった。やっと成し遂げた感じがするね」とライアン氏は顔をほころばせっぱなしだ。
オリカ・グリーンエッジはノリのいい明るいチームだ。「勝利の秘訣は、全員が使命感を持って団結して闘ったこと」と、ゲランスはチームワークの良さを強調する。
「今日は、ぼくたちがチームとして綿密に連携が取れて機能できているかを実際に示せた。勝てたのはコースが特別だったとか、特別なことをしたからではない。ただ単に素晴らしいほど一体感のある働きをしただけだ。ぼくたちは互いの距離がとても近い集団、つまり全員が良き友人だ。それがチーム・タイムトライアルでうまく示せたのだと思う」。
自転車競技はチームスポーツ。その意味を改めて認識させてくれるグリーンエッジ。初日のバス事件が批判もされたが、オージーチームならではのノリでツールを楽しい雰囲気にしてくれる。
photo&text:Makoto.AYANO
フェリーで渡るツールといえば近年ではイギリス・ロンドンで開幕した2007年ツールがあるが、ドーバーはトンネルでもつながっている。そしてその前は1998年のアイルランド・ダブリン開幕のツールが海を渡ったが、フェリーが到着したときに起こったのがフェスティナ事件。フェリーの中ではジャーナリストたちと「何も起こらないといいけれどね」と話し合った。
ちなみに個室は足りず、フロアで雑魚寝したため寒くてよく寝れなかった。休息日にならなかった代わりにニースでのTTのスタート時間は15時15分という遅めの設定が助かる。しかし気になるのは暑さ。コルシカ以上と思える気温の高さ、湿度を感じる空気に目まいがしそうだ。
距離が25kmと短いためかスタート1時間半ほど前からアップを開始する選手たち。身体を暖めつつも、オーバーヒートさせないようにする工夫がたくさん見られた。大型のファン式扇風機を持ち込んでいたのはベルキンとスカイ。アルゴス・シマノとBMCは氷嚢ベストを用意。
それぞれチームジャージの柄がデザインされたスペシャル品であるあたりがスタイリッシュだ。バッグに入れた氷を背中に入れてアップするロット・ベリソル。すべてのチームを見て回れなかったが、スタイルは様々だ。
しかし距離が短いだけに試走ができたのは良かったようで、ローラー上で長く追い込むよりコースに出るチームが多かったようだ。チームスカイのピットはひときわピリピリした空気が漂っている。この日はピナレロが用意した新型TTバイク”BOLIDE”が用意されたことが話題に。ジロでウィギンズのみが使用して華々しいデビューとなるはずが、メカトラで途中で交換を強いられたあのバイクだ。
今回はチーム全員に用意された。先進のカーボン技術を駆使して整形されたスタイリッシュなそのバイクが姿を表した。ブレーキはエアロカバーで覆われているがなぜかUCIの規定をクリアしているという魔法のバイクだ。
しかし調整が非常にシビアなようで、メカニシャンたちは最終調整に余念が無い。後輪エンドはピスト車のように逆爪になっていて、タイヤのクリアランスが調整できるのだが、なんとタイヤとフレームの間にクレジットカードを差し込みながら最低限の空間に調整していく様には驚かされた。周囲の観客からも感嘆の声が上がる。ロット・ベリソルの駆るリドレー、FDJのラピエールなど、このツールでお目見えした新型TTバイクもいくつか確認できた。機材戦争の様相については追ってプロバイク記事でお伝えします。
ただ、オリカ・グリーンエッジはシマノのフルサポートチームにあって旧型10スピードのバイクで走り、最新機材投入により生まれるメリットよりも慣れたバイクでリスクのないことを選んだようだ。それもひとつの良い選択だったのかもしれない。
サクソ・ティンコフにはこの日から宮島正典マッサーが合流。スタート前の選手たちの介添えにあたっていた。そしてアスタナにはついに引退した名スプリンター、ヤン・キルシプー(エストニア)がスタッフとして姿を見せた。
今年はTTの距離が短いツールだ。2012年は101.5kmあったTT総距離が今年はたった65km。第11ステージのモンサンミッシェルでの個人TTも33kmと距離が短く、第3週の17ステージに待つTTは32kmでクライマーに有利といわれる山岳TTだ。距離のあるTTでタイムを大きく失うことがないため、クライマーにチャンスが大きい。スタートのその瞬間までバイクのチェックなどを神経質に繰り返すアルベルト・コンタドール(サクソ・ティンコフ)からは、一秒たりとも失わないといった気迫が伝わってくる。
注目を集めるスカイプロサイクリングは、スタートラインに並ぶ際もクリス・フルームはじめ選手皆にどこか余裕を感じられる雰囲気だ。オメガファーマ・クイックステップは負傷したマルティンの走りがカギを握る。マルティンはいつもどおりのビッグギアを選択し、機関車になる覚悟だが、どこまでいつもの走りができるのか。薄いスキンスーツ越しに怪我の様子が透けて見えるが、背中全体に傷があり、痛々しい。スカイも機関車役のゲラント・トーマスが初日の落車で骨盤の一部を骨折しているため、互角の条件と言えるかもしれない。
総合を狙うピエール・ロランのためにタイムを失えないユーロップカーもいつになく緊張感が漂う。今日は緑のワンピースに身を包むユキヤが、山岳賞への意欲も出てきたロランのそばに寄り添う。今まで重視してこなかったチームTTの練習を重ねたその成果は発揮できるか。
午後3時過ぎに始まったレースは、すべてのチームが走り終える夕刻17時過ぎにかけて気温がぐんぐん上昇。舗装路が熱を持って触れないぐらいになっていた。
結果的には16位でレースを終えたユーロップカー。ユキヤは言う「コースはうちのチーム向きではなかったけど、なるべくタイム差を開かれないよう、最後は必死にスピードを上げた。まぁ、距離も25kmだし、チームタイムトライアルはこんなもの。今日はスタートがゆっくりだったから、午前中はすごくゆっくり眠れてよかった(笑)。まだ始まったばかりだから、気負わず自分の仕事をこなしながら、チャンスを待つよ」。
2番手スタートを切ったオメガファーマ・クイックステップは、暫定トップタイムのため2時間を表彰台の裏で座って過ごすことになった。しかしそのホットシートからはレース閉幕直前に降りることに。ラスト2番手スタートのオリカ・グリーンエッジが0.75秒という差で逆転。ゴール地点に詰めかけていた観客の、オーストラリア応援団とも言えるグリーンエッジのサポーターたちから大歓声が上がった。
オリカ・グリーンエッジの2連勝。表彰台に揃って上がるチーム9人は全員がいい表情で、ノリが良く友達同士のような雰囲気だ。マイヨジョーヌを着たゲランスを囲むチーム表彰の最後には、カメラマンエリアにいるチーム専属ビデオクルー(ジャパンカップにも来た彼)を見つけると、「ここでアレをやるか」と顔を見合わせると、ギターを引くポーズでおどけてみせた。
てっきりお馴染みの「電話ちょうだい」の”コール・ミー・メイビー”のポーズが出るものだと思っていたのだが、意表を突かれた。どうやらこれはチームが現在用意を進めているオリカ・グリーンエッジの「ミュージックビデオ」のことらしい。チームのツィッターでは#OGERock のハッシュタグで予告されるそれは、タトゥーに髭面のオージー(だと思われる)ロックンローラーがエレキギターを抱えてジャンプしている日替わりの予告画像がある。
それによると5日後の7月8日にそのミュージックビデオが発表されるらしい。そして、今最高だからって発表日が前倒しされることはないそうだ。はたして、その日までゲランスがまだマイヨジョーヌを着ているかは楽しみに待たなければならない。
チームオーナーのゲイリー・ライアン氏もニースに来ており、レース終了後のチームバスでは長く祝福のクールダウンが続いた(選手たちはローラーを回しながら)。ライアン氏からは昨日もシャンパンが振舞われたが、今日ももちろんあることだろう。
「昨日はグラス半分ぐらい。今日は2杯ぐらい? いやいや、明日からもハードなステージに備えて飲み過ぎは控えなければね。スイス、南アフリカと国際色もあるツールチームだが、オーストラリアのサイクリング界にとって記念すべき日が続いたね。昨年は今ひとつで批判もあった。やっと成し遂げた感じがするね」とライアン氏は顔をほころばせっぱなしだ。
オリカ・グリーンエッジはノリのいい明るいチームだ。「勝利の秘訣は、全員が使命感を持って団結して闘ったこと」と、ゲランスはチームワークの良さを強調する。
「今日は、ぼくたちがチームとして綿密に連携が取れて機能できているかを実際に示せた。勝てたのはコースが特別だったとか、特別なことをしたからではない。ただ単に素晴らしいほど一体感のある働きをしただけだ。ぼくたちは互いの距離がとても近い集団、つまり全員が良き友人だ。それがチーム・タイムトライアルでうまく示せたのだと思う」。
自転車競技はチームスポーツ。その意味を改めて認識させてくれるグリーンエッジ。初日のバス事件が批判もされたが、オージーチームならではのノリでツールを楽しい雰囲気にしてくれる。
photo&text:Makoto.AYANO
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