2013/04/20(土) - 00:04
4月21日、ベルギー東部のリエージュ近郊で第99回リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(UCIワールドツアー)が開催される。ワロン地域最大のクラシックで、ワロン出身の世界チャンピオンは輝けるのか?負傷したヴォクレールに代わって新城幸也(ユーロップカー)の出場も決まった。
道路工事によってフォーコン回避 コース難易度はダウン
歴史あるクラシックレースは数あれど、このリエージュほど長い歴史のあるロードレースは他に無い。
リエージュの第1回大会が開催されたのはなんと今から111年前の1892年。近代オリンピック(1896年〜)や、日本の箱根駅伝(1920年〜)よりも歴史が長い。そのため「La Doyenne(ラ・ドワイエンヌ=最古参)」という愛称で呼ばれることも多い。
「モニュメント」と呼ばれる世界5大クラシック(サンレモ、ロンド、パリ〜ルーベ、リエージュ、ロンバルディア)の一つとして数えられており、格式の点ではアルデンヌ3連戦の中で際立って大きい。
ベルギー西部のフランデレン地域を代表するのがロンド・ファン・フラーンデレンであれば、東部ワロン地域を代表するのがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。レースの舞台となるのは、リエージュの南に広がる丘陵地帯だ。
コースはレース名の通りリエージュとバストーニュの往復で、山岳とも呼べるほどスケールの大きな丘陵地帯を逆回りに8の字を描き、リエージュ近郊の街アンスにゴールする。
「アップダウンを繰り返し、最後は短い坂を駆け上がってゴール」というコースの特性は、他のアルデンヌ2戦(アムステルとフレーシュ)と同じ。しかし登り一つ一つの距離が長いのがリエージュの特徴。アムステルとフレーシュが「丘のレース」なら、リエージュは「山のレース」。ほとんどの登りは全長が2km以上であり、一日の獲得標高差は4600mに達する。コース全長も261.5kmと最も長く、難易度、距離、格式においてアルデンヌナンバーワンと呼ばれるのも頷ける。
細かい上りを数え始めるとキリが無いようなアップダウンコース。そのうち、カテゴリーが付けられた登り坂は11カ所。中でも、選手たちが壁をよじ上っているような光景が見られるのが、116.5km地点に登場する「コート・ド・サンロシュ(平均勾配11%)」だ。この難所を越え、ラスト100kmを切ってからは断続的に登り坂が襲いかかる。
本格的な闘いのゴングが鳴らされるのが、ゴール40kmを切ってから登場する「コート・ド・ラ・ルドゥット(平均8.8%)」。フィリップ・ジルベール(ベルギー)の出身地が近く、PHILのペイントが施されたこのラ・ルドゥットの最大勾配は17%。頂上通過後は横風が吹く平坦路が続くため、毎年ここで集団は大きく人数を減らす。
これまでラ・ルドゥットに続く定番の勝負どころとして「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(平均9.3%)」が設定されていたが、今年は道路工事の影響でコースから外れた。代替ルートとして東に迂回し、「コート・ド・コロンステ(平均勾配6%)」を通る。細くて急勾配のフォーコンに比べると、コロンステは幅広で勾配は緩い。アタックが決まる可能性が下がるため、より多くの人数が勝負に残るだろう。
そして今年もゴールの6km手前で最後の難所「コート・ド・サンニコラ(平均8.6%)」を越え、アンスに至る緩やかな登りを登ってゴール。この「アンス」の登りは「カウベルグ」や「ユイ」ほど厳しくはなく、ラスト2kmから緩斜面がダラダラと続く。連続する登りで飛び出した選手、もしくは少人数のグループが平坦な最終ストレートでスプリントを繰り広げるだろう。
登場する11カ所の登り
1 70.0km コート・ド・ロッシュ・アン・アルデンヌ 長さ2.8km・平均勾配6.2%
2 116.5km コート・ド・サンロシュ 長さ1.0km・平均勾配11%
3 160.0km コート・ド・ワンヌ 長さ2.7km・平均勾配7.3%
4 166.5km コート・ド・ストック 長さ1.0km・平均勾配12.2%
5 172.0km コート・ド・ラ・オートルヴェ 長さ3.6km・平均勾配5.7%
6 185.0km コル・ドゥ・ロジェ 長さ4.4km・平均勾配5.9%
7 198.0km コル・ドゥ・マキサール 長さ2.5km・平均勾配5%
8 208.0km モン・トゥー 長さ2.7km・平均勾配5.9%
9 223.0km コート・ド・ラ・ルドゥット 長さ2.0km・平均勾配8.8%
10 244.5km コート・ド・コロンステ 長さ2.4km・平均勾配6%
11 256.0km コート・ド・サンニコラ 長さ1.2km・平均勾配8.6%
ベルギーの危機を救うのはワロンの星ジルベールか?
とにかく2013年はベルギー人が目立っていない。今シーズン、ベルギーで開催されたクラシックならびにセミクラシックレースで勝ったベルギー人選手はゼロ。この危機的状況を打破出来るベルギー人は、ワロン出身のフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)しかいない。
ジルネールは2011年にアムステル、フレーシュ、リエージュで怒濤の3連勝を果たした。しかしBMCレーシングチームに移籍した2012年以降、クラシックで勝てていない。今シーズンはアムステル5位、フレーシュ15位。「ユイの壁」の登坂タイムは2011年の優勝時よりも22秒遅いというデータもある。
しかし急勾配のフォーコンがコースから外されたことはジルベールに味方するだろう。より大きなグループで登りをこなし、人数の揃ったスプリント勝負に持ち込まれればジルベールにチャンスがある。PHILの路上ペイント並ぶラ・ルドゥットには今年も大勢のジルベールファンが集まり、地元の英雄に声援を送るだろう。
距離が長く、登りも長い。レースの進行とともにセレクションがかかるサバイバルで有利になるのがカードの多さだ。ジルベールを単独エースに据えるBMCに対し、ライバルチームは数を揃えている。
2006年と2008年に勝っているアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)は、ナイロ・クインターナ(コロンビア)やルイ・コスタ(ポルトガル)を引き連れての出場。アムステルとフレーシュで好走したバルベルデが本命だが、ゴールまで距離を残したセカンドエースのアタックがそのまま決まってしまう可能性もある。
昨年フォーコンで攻撃を仕掛けたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、当時リクイガス)にラスト1kmで追いつき、そのまま独走でゴールしたのはマキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ)。3位にはエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)が入った。今年はニーバリがアスタナに移籍したため、昨年表彰台に登った3名がチームメイトととして走ることになる。ニーバリは直前のジロ・デル・トレンティーノで抜群の登坂力を見せて逆転総合優勝。現在最も登れている選手だ。
フレーシュ2位のセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、スカイプロサイクリング)は、ツール・ド・フランスに向けて調子を上げるクリス・フルーム(イギリス)とタッグを組む。その他、グランツールさながら、もしくはグランツール以上に豪華なオールラウンダーたちが一堂に会する。
サクソ・ティンコフはアムステル覇者のロマン・クロイツィゲル(チェコ)とアルベルト・コンタドール(スペイン)、カチューシャはフレーシュ覇者のダニエル・モレーノ(スペイン)とホアキン・ロドリゲス(スペイン)、ガーミン・シャープはダニエル・マーティン(アイルランド)とライダー・ヘジダル(カナダ)、そしてオリカ・グリーンエッジはサイモン・ゲランス(オーストラリア)とミハエル・アルバジーニ(スイス)の二枚看板だ。
フランスのレキップ紙によると、アムステルで鎖骨骨折を負ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)に代わって、新城幸也が急遽リエージュに出場することが決まった。ユキヤはアムステルで24位に入るとともに、直前のジロ・デル・トレンティーノでアシストとして好走。コンディションの良さをアピールしている。リエージュでは引き続きピエール・ロラン(フランス)をアシストすることになりそうだ。
text:Kei Tsuji
道路工事によってフォーコン回避 コース難易度はダウン
歴史あるクラシックレースは数あれど、このリエージュほど長い歴史のあるロードレースは他に無い。
リエージュの第1回大会が開催されたのはなんと今から111年前の1892年。近代オリンピック(1896年〜)や、日本の箱根駅伝(1920年〜)よりも歴史が長い。そのため「La Doyenne(ラ・ドワイエンヌ=最古参)」という愛称で呼ばれることも多い。
「モニュメント」と呼ばれる世界5大クラシック(サンレモ、ロンド、パリ〜ルーベ、リエージュ、ロンバルディア)の一つとして数えられており、格式の点ではアルデンヌ3連戦の中で際立って大きい。
ベルギー西部のフランデレン地域を代表するのがロンド・ファン・フラーンデレンであれば、東部ワロン地域を代表するのがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。レースの舞台となるのは、リエージュの南に広がる丘陵地帯だ。
コースはレース名の通りリエージュとバストーニュの往復で、山岳とも呼べるほどスケールの大きな丘陵地帯を逆回りに8の字を描き、リエージュ近郊の街アンスにゴールする。
「アップダウンを繰り返し、最後は短い坂を駆け上がってゴール」というコースの特性は、他のアルデンヌ2戦(アムステルとフレーシュ)と同じ。しかし登り一つ一つの距離が長いのがリエージュの特徴。アムステルとフレーシュが「丘のレース」なら、リエージュは「山のレース」。ほとんどの登りは全長が2km以上であり、一日の獲得標高差は4600mに達する。コース全長も261.5kmと最も長く、難易度、距離、格式においてアルデンヌナンバーワンと呼ばれるのも頷ける。
細かい上りを数え始めるとキリが無いようなアップダウンコース。そのうち、カテゴリーが付けられた登り坂は11カ所。中でも、選手たちが壁をよじ上っているような光景が見られるのが、116.5km地点に登場する「コート・ド・サンロシュ(平均勾配11%)」だ。この難所を越え、ラスト100kmを切ってからは断続的に登り坂が襲いかかる。
本格的な闘いのゴングが鳴らされるのが、ゴール40kmを切ってから登場する「コート・ド・ラ・ルドゥット(平均8.8%)」。フィリップ・ジルベール(ベルギー)の出身地が近く、PHILのペイントが施されたこのラ・ルドゥットの最大勾配は17%。頂上通過後は横風が吹く平坦路が続くため、毎年ここで集団は大きく人数を減らす。
これまでラ・ルドゥットに続く定番の勝負どころとして「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(平均9.3%)」が設定されていたが、今年は道路工事の影響でコースから外れた。代替ルートとして東に迂回し、「コート・ド・コロンステ(平均勾配6%)」を通る。細くて急勾配のフォーコンに比べると、コロンステは幅広で勾配は緩い。アタックが決まる可能性が下がるため、より多くの人数が勝負に残るだろう。
そして今年もゴールの6km手前で最後の難所「コート・ド・サンニコラ(平均8.6%)」を越え、アンスに至る緩やかな登りを登ってゴール。この「アンス」の登りは「カウベルグ」や「ユイ」ほど厳しくはなく、ラスト2kmから緩斜面がダラダラと続く。連続する登りで飛び出した選手、もしくは少人数のグループが平坦な最終ストレートでスプリントを繰り広げるだろう。
登場する11カ所の登り
1 70.0km コート・ド・ロッシュ・アン・アルデンヌ 長さ2.8km・平均勾配6.2%
2 116.5km コート・ド・サンロシュ 長さ1.0km・平均勾配11%
3 160.0km コート・ド・ワンヌ 長さ2.7km・平均勾配7.3%
4 166.5km コート・ド・ストック 長さ1.0km・平均勾配12.2%
5 172.0km コート・ド・ラ・オートルヴェ 長さ3.6km・平均勾配5.7%
6 185.0km コル・ドゥ・ロジェ 長さ4.4km・平均勾配5.9%
7 198.0km コル・ドゥ・マキサール 長さ2.5km・平均勾配5%
8 208.0km モン・トゥー 長さ2.7km・平均勾配5.9%
9 223.0km コート・ド・ラ・ルドゥット 長さ2.0km・平均勾配8.8%
10 244.5km コート・ド・コロンステ 長さ2.4km・平均勾配6%
11 256.0km コート・ド・サンニコラ 長さ1.2km・平均勾配8.6%
ベルギーの危機を救うのはワロンの星ジルベールか?
とにかく2013年はベルギー人が目立っていない。今シーズン、ベルギーで開催されたクラシックならびにセミクラシックレースで勝ったベルギー人選手はゼロ。この危機的状況を打破出来るベルギー人は、ワロン出身のフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)しかいない。
ジルネールは2011年にアムステル、フレーシュ、リエージュで怒濤の3連勝を果たした。しかしBMCレーシングチームに移籍した2012年以降、クラシックで勝てていない。今シーズンはアムステル5位、フレーシュ15位。「ユイの壁」の登坂タイムは2011年の優勝時よりも22秒遅いというデータもある。
しかし急勾配のフォーコンがコースから外されたことはジルベールに味方するだろう。より大きなグループで登りをこなし、人数の揃ったスプリント勝負に持ち込まれればジルベールにチャンスがある。PHILの路上ペイント並ぶラ・ルドゥットには今年も大勢のジルベールファンが集まり、地元の英雄に声援を送るだろう。
距離が長く、登りも長い。レースの進行とともにセレクションがかかるサバイバルで有利になるのがカードの多さだ。ジルベールを単独エースに据えるBMCに対し、ライバルチームは数を揃えている。
2006年と2008年に勝っているアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)は、ナイロ・クインターナ(コロンビア)やルイ・コスタ(ポルトガル)を引き連れての出場。アムステルとフレーシュで好走したバルベルデが本命だが、ゴールまで距離を残したセカンドエースのアタックがそのまま決まってしまう可能性もある。
昨年フォーコンで攻撃を仕掛けたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、当時リクイガス)にラスト1kmで追いつき、そのまま独走でゴールしたのはマキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ)。3位にはエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)が入った。今年はニーバリがアスタナに移籍したため、昨年表彰台に登った3名がチームメイトととして走ることになる。ニーバリは直前のジロ・デル・トレンティーノで抜群の登坂力を見せて逆転総合優勝。現在最も登れている選手だ。
フレーシュ2位のセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、スカイプロサイクリング)は、ツール・ド・フランスに向けて調子を上げるクリス・フルーム(イギリス)とタッグを組む。その他、グランツールさながら、もしくはグランツール以上に豪華なオールラウンダーたちが一堂に会する。
サクソ・ティンコフはアムステル覇者のロマン・クロイツィゲル(チェコ)とアルベルト・コンタドール(スペイン)、カチューシャはフレーシュ覇者のダニエル・モレーノ(スペイン)とホアキン・ロドリゲス(スペイン)、ガーミン・シャープはダニエル・マーティン(アイルランド)とライダー・ヘジダル(カナダ)、そしてオリカ・グリーンエッジはサイモン・ゲランス(オーストラリア)とミハエル・アルバジーニ(スイス)の二枚看板だ。
フランスのレキップ紙によると、アムステルで鎖骨骨折を負ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)に代わって、新城幸也が急遽リエージュに出場することが決まった。ユキヤはアムステルで24位に入るとともに、直前のジロ・デル・トレンティーノでアシストとして好走。コンディションの良さをアピールしている。リエージュでは引き続きピエール・ロラン(フランス)をアシストすることになりそうだ。
text:Kei Tsuji
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