2013/01/29(火) - 18:30
2013年度UCIプロツアーチームへと昇格したアルゴス・シマノのゼネラルマネジャー、イワン・スペークンブリンク氏に、プロツアー昇格への道のりとチーム運営ポリシーなどを語ってもらった。
イワン・スペークンブリンク氏は2005年のシマノ・メモリーコープ発足当時よりチームには広報として関わっていた。スポーツマーケティング会社での経験を経て2008年に現チーム、当時のスキル・シマノのゼネラルマネジャーに就任、チーム運営に専念するようになる。
2008年の氏のGM就任時より目標として語られてきたとおり、もっとも若いチームながら2013年度のUCIプロツアーチーム昇格を果たしたアルゴス・シマノ。話されるその言葉からは氏のスポーツをマネジメントする手腕の高さが垣間見える。氏は例年シマノ鈴鹿ロードレースなどでチームに帯同し、何度も来日している。37歳、オランダ人。(インタビュー: 綾野 真)
ー プロツアーライセンス獲得おめでとうございます。今の気持ちを聞かせて下さい。
ありがとう。ライセンスの獲得はとても嬉しいことで、チームが待ち望んでいたことだ。ここまで、我々はプラン通りに物事を進め、選手、スタッフ、スポンサーもその目的を果たすために全力を注いできた。今季ライセンスを獲得できたことは当然の結果ではあると思うけれど、改めて喜びを噛み締めている。チームの誰もがとても誇りを感じているんだ。
ー 2005年にシマノ・メモリーコープとしてスタートした日のことを良く覚えています。雪の降るオランダはヌンスピートのシマノヨーロッパの会社の広間で行った、小さなプレゼンテーションを。
そう、ビッグチェンジでしょう?(笑)。私はその後2008年にゼネラルマネジャーとしてチームを任され、今日まで来ました。
ー ここまでの8年、あなたがGMになってからの5年間。ここまで来るのは難しい道のりでしたか?
それは 「ノー」だね。なぜなら当初のプラン通りだったから。スタートした時から、2013年にプロツアーになるべくプランを立ててきた。才能ある若い選手、正しい経験を持つスタッフらとつながりをもち、通常の「トップスポーツ」、つまりサッカーなど”メジャースポーツ”と同様のチームの育て方をしてきたんだ。
すべての選手、スタッフ、スポンサーと目的を共有し、トップチームになるために必要なことに全力を注いできた。「ごくノーマルなトップスポーツとしての組織」を作り上げたんだ。その結果としてプロツアーライセンス獲得は当然のこと。
昨年、アルゴス(オランダの石油関連企業)がチームのメインスポンサーとなったとき、我々はすでにトップチームにふさわしい力と組織を備えていたんだ。
ー つまりチームは正しいステップを踏んでここまできた、と。なぜUCIはプロツアーライセンスを認めたのだと思いますか? その決定に至った理由は?
我々はルールにのっとってきたから。そしてチームの「質」を見た時に、それは明らかだ。アルゴス・シマノは昨シーズン、すでにプロツアーレースでもそれ以外のトップレースでも良い結果を残してきた。チームのクライテリア(判定基準)の面ですでに高いものをもっていた。チーム組織やマネジメント体制の質、倫理、スポンサーなど経営面の質などについても…。
我々はプロトンでもっとも若いチームであるにもかかわらず、チームのクオリティはトップ18チームのなかでも良い位置につけていた。だからUCIが次のステップへ進むことを認める判断を下したのは極めてロジカルなことだと言えるね。
ー チームには2人の強力なスプリンターがいますが、どうレースを戦わせていくつもりですか? 同じレースを走ると問題は出てくるのでしょうか?
最初に、プロツアーチームとなったことで昨年と違ってくることは、我々はすべてのメジャーレースに出れるようになったこと。つまりレースはたくさんある。勝利を狙うチャンスがあるレースはたくさんあり、2人を配分していく。
2つめに2人は違うタイプのスプリンターだということ。マルセル(キッテル)はピュアなスピードが武器。ジョン(デゲンコルブ)は少し上りの後のスプリントに強い。2人のタイプは違うが、2人が協力し合えばもっと強くなれる。
レースごと、ステージごとに最適なプランを立て、勝つためにはどの方法がベストかを考えて作戦を決める。だからお互いに協力することもある。マルセルが狙うときはジョンが協力するし、ジョンが狙うときはマルセルが協力する。2人はライバルでなく、かつてから良い関係でもある(2人はドイツの同じアマチュアチーム出身)。つまり彼らは補完しあえるんだ。
2人にとっても、チームの他の選手にとっても、目標はひとつ。それは ”勝つこと” だ。今、プロレースは非常に高いレベルにあるので、個人的な目標だけでは勝利は達成できない。チーム全員で勝てる選手をアシストし、チーム一丸となって全力を尽くすことでようやく勝利はやってくるんだ。
ー プロツアーチームになってプレッシャーは高まりますか?
いいや、それは無いね。プレッシャーがあるとすればチームの外側だろう。チームは今までと変わらずやっていく。やることは変わらない。
プレッシャーといえば、チームはレースのプロセスにこそ最大限のプレッシャーをかけるんだ。勝つためのプランづくりに。
つまり、精神的にも、技術的にも。機材、エアロダイナミクス、ニュートリション(栄養)、すべての詳細に対して最大のプレッシャーをかけてことをすすめるんだ。そうすればリザルトは自動的にやってくる。もちろん格上のチームとなったことで周囲からの見られ方や期待値など、外的なプレッシャーは増すと思うが、チーム内部では何も変わらない。今までと同じ事を、淡々と続けるだけだ。
ー チームは8年間、ドーピングスキャンダルとは縁がありません。どのように選手やスタッフをコントロールしてきたのでしょうか?
選手を100%コントロールすることなどしない。もしチームが選手たちに「何が何でも強くなれ」と望んだら、ドーピングが入り込む隙が生じるだろう。我々は常に「トップスポーツ」を望んでいる。科学、栄養学、コーチングなどすべての面から選手たちをサポートする。それが選手を良くする。そして選手と一緒に懸命に働くこと、選手たちにとって「安全な家」を提供すること。そして彼らをよく知ること。それらこそがドーピングを遠ざけるんだ。それが我々の在り方だ。
ー 今後、再び日本人選手をチームに迎え入れる予定はありますか?
チームに迎える選手は決してパスポートをみて選んでいるわけではない。いつも可能性のある優れた才能をチームに迎えるべく探している状態だ。日本のシマノレーシングともいい関係を持っているし、いろいろなレースをみていい選手をチェックしているんだ。可能性は常にある。
ー チームが乗るバイクブランドのフェルト、そして代表のジム・フェルト氏とはどういった協力関係をもっていますか?チームで乗るバイクをどう決めていますか?
バイク選びで重要なのはイノベーションだ。チームには大勢のエキスパートスタッフがいて、機材の進化やアレンジに気を配っている。チームがレースで使うバイクを決めるとき、どのモデルがそのレースに向くかといった視点で選ぶのではなく、そのレースに勝つためにはどういったバイクが必要なのかをジムとは良く話し合う。
レースによって、エアロダイナミクス、スティフネス(剛性)、ウェイト(重量)、そられのどの要素を重視するのか、そしてそれらのバランスを考慮しながら最適な機材を選び、つくり上げていく。タイヤ、ホイール、ポジション、いろいろな要素の組み合わせの最適なバランスによって機材を選び、勝つべくしてレースに投入するんだ。
決してどのモデルのバイクを使う、といったことではなく、ジムとはそういった論点で議論をしていき、彼らはその要求に応えてくれる。そういった環境においても我々のチームはプロトンの中で傑出していると思う。
photo&text:Makoto.AYANO
イワン・スペークンブリンク氏は2005年のシマノ・メモリーコープ発足当時よりチームには広報として関わっていた。スポーツマーケティング会社での経験を経て2008年に現チーム、当時のスキル・シマノのゼネラルマネジャーに就任、チーム運営に専念するようになる。
2008年の氏のGM就任時より目標として語られてきたとおり、もっとも若いチームながら2013年度のUCIプロツアーチーム昇格を果たしたアルゴス・シマノ。話されるその言葉からは氏のスポーツをマネジメントする手腕の高さが垣間見える。氏は例年シマノ鈴鹿ロードレースなどでチームに帯同し、何度も来日している。37歳、オランダ人。(インタビュー: 綾野 真)
ー プロツアーライセンス獲得おめでとうございます。今の気持ちを聞かせて下さい。
ありがとう。ライセンスの獲得はとても嬉しいことで、チームが待ち望んでいたことだ。ここまで、我々はプラン通りに物事を進め、選手、スタッフ、スポンサーもその目的を果たすために全力を注いできた。今季ライセンスを獲得できたことは当然の結果ではあると思うけれど、改めて喜びを噛み締めている。チームの誰もがとても誇りを感じているんだ。
ー 2005年にシマノ・メモリーコープとしてスタートした日のことを良く覚えています。雪の降るオランダはヌンスピートのシマノヨーロッパの会社の広間で行った、小さなプレゼンテーションを。
そう、ビッグチェンジでしょう?(笑)。私はその後2008年にゼネラルマネジャーとしてチームを任され、今日まで来ました。
ー ここまでの8年、あなたがGMになってからの5年間。ここまで来るのは難しい道のりでしたか?
それは 「ノー」だね。なぜなら当初のプラン通りだったから。スタートした時から、2013年にプロツアーになるべくプランを立ててきた。才能ある若い選手、正しい経験を持つスタッフらとつながりをもち、通常の「トップスポーツ」、つまりサッカーなど”メジャースポーツ”と同様のチームの育て方をしてきたんだ。
すべての選手、スタッフ、スポンサーと目的を共有し、トップチームになるために必要なことに全力を注いできた。「ごくノーマルなトップスポーツとしての組織」を作り上げたんだ。その結果としてプロツアーライセンス獲得は当然のこと。
昨年、アルゴス(オランダの石油関連企業)がチームのメインスポンサーとなったとき、我々はすでにトップチームにふさわしい力と組織を備えていたんだ。
ー つまりチームは正しいステップを踏んでここまできた、と。なぜUCIはプロツアーライセンスを認めたのだと思いますか? その決定に至った理由は?
我々はルールにのっとってきたから。そしてチームの「質」を見た時に、それは明らかだ。アルゴス・シマノは昨シーズン、すでにプロツアーレースでもそれ以外のトップレースでも良い結果を残してきた。チームのクライテリア(判定基準)の面ですでに高いものをもっていた。チーム組織やマネジメント体制の質、倫理、スポンサーなど経営面の質などについても…。
我々はプロトンでもっとも若いチームであるにもかかわらず、チームのクオリティはトップ18チームのなかでも良い位置につけていた。だからUCIが次のステップへ進むことを認める判断を下したのは極めてロジカルなことだと言えるね。
ー チームには2人の強力なスプリンターがいますが、どうレースを戦わせていくつもりですか? 同じレースを走ると問題は出てくるのでしょうか?
最初に、プロツアーチームとなったことで昨年と違ってくることは、我々はすべてのメジャーレースに出れるようになったこと。つまりレースはたくさんある。勝利を狙うチャンスがあるレースはたくさんあり、2人を配分していく。
2つめに2人は違うタイプのスプリンターだということ。マルセル(キッテル)はピュアなスピードが武器。ジョン(デゲンコルブ)は少し上りの後のスプリントに強い。2人のタイプは違うが、2人が協力し合えばもっと強くなれる。
レースごと、ステージごとに最適なプランを立て、勝つためにはどの方法がベストかを考えて作戦を決める。だからお互いに協力することもある。マルセルが狙うときはジョンが協力するし、ジョンが狙うときはマルセルが協力する。2人はライバルでなく、かつてから良い関係でもある(2人はドイツの同じアマチュアチーム出身)。つまり彼らは補完しあえるんだ。
2人にとっても、チームの他の選手にとっても、目標はひとつ。それは ”勝つこと” だ。今、プロレースは非常に高いレベルにあるので、個人的な目標だけでは勝利は達成できない。チーム全員で勝てる選手をアシストし、チーム一丸となって全力を尽くすことでようやく勝利はやってくるんだ。
ー プロツアーチームになってプレッシャーは高まりますか?
いいや、それは無いね。プレッシャーがあるとすればチームの外側だろう。チームは今までと変わらずやっていく。やることは変わらない。
プレッシャーといえば、チームはレースのプロセスにこそ最大限のプレッシャーをかけるんだ。勝つためのプランづくりに。
つまり、精神的にも、技術的にも。機材、エアロダイナミクス、ニュートリション(栄養)、すべての詳細に対して最大のプレッシャーをかけてことをすすめるんだ。そうすればリザルトは自動的にやってくる。もちろん格上のチームとなったことで周囲からの見られ方や期待値など、外的なプレッシャーは増すと思うが、チーム内部では何も変わらない。今までと同じ事を、淡々と続けるだけだ。
ー チームは8年間、ドーピングスキャンダルとは縁がありません。どのように選手やスタッフをコントロールしてきたのでしょうか?
選手を100%コントロールすることなどしない。もしチームが選手たちに「何が何でも強くなれ」と望んだら、ドーピングが入り込む隙が生じるだろう。我々は常に「トップスポーツ」を望んでいる。科学、栄養学、コーチングなどすべての面から選手たちをサポートする。それが選手を良くする。そして選手と一緒に懸命に働くこと、選手たちにとって「安全な家」を提供すること。そして彼らをよく知ること。それらこそがドーピングを遠ざけるんだ。それが我々の在り方だ。
ー 今後、再び日本人選手をチームに迎え入れる予定はありますか?
チームに迎える選手は決してパスポートをみて選んでいるわけではない。いつも可能性のある優れた才能をチームに迎えるべく探している状態だ。日本のシマノレーシングともいい関係を持っているし、いろいろなレースをみていい選手をチェックしているんだ。可能性は常にある。
ー チームが乗るバイクブランドのフェルト、そして代表のジム・フェルト氏とはどういった協力関係をもっていますか?チームで乗るバイクをどう決めていますか?
バイク選びで重要なのはイノベーションだ。チームには大勢のエキスパートスタッフがいて、機材の進化やアレンジに気を配っている。チームがレースで使うバイクを決めるとき、どのモデルがそのレースに向くかといった視点で選ぶのではなく、そのレースに勝つためにはどういったバイクが必要なのかをジムとは良く話し合う。
レースによって、エアロダイナミクス、スティフネス(剛性)、ウェイト(重量)、そられのどの要素を重視するのか、そしてそれらのバランスを考慮しながら最適な機材を選び、つくり上げていく。タイヤ、ホイール、ポジション、いろいろな要素の組み合わせの最適なバランスによって機材を選び、勝つべくしてレースに投入するんだ。
決してどのモデルのバイクを使う、といったことではなく、ジムとはそういった論点で議論をしていき、彼らはその要求に応えてくれる。そういった環境においても我々のチームはプロトンの中で傑出していると思う。
photo&text:Makoto.AYANO
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