1994年、フルアルミフレームの初代パリがロードバイク界に与えた衝撃は大きかった。時代はスチールからアルミへの過渡期。使い慣れないアルミという素材に、各メーカーが四苦八苦していた頃だ。しかしピナレロは、アルミの軽さ、鋭い反応性、そして極上のしなやかさを持ち合わせるという、当時としては夢のような性能を武器に一世を風靡する。日本でもピナレロの人気が爆発した。

ピナレロ パリ50-1.5ピナレロ パリ50-1.5
ピナレロの出世作となったパリはいったんカタログから名を消すが、その後ハイドロフォーミングアルミチューブ/オンダカーボンバックという構成の『パリFP』で復活。2006年にはフルカーボンの『パリFPカーボン』へと進化する。
“PARIS”とは、プリンスやドグマと同じく、ピナレロ伝統の車名なのである。それが意味するのは、もちろんツール・ド・フランスの集団が目指す最終目的地。この名を冠するフレームに、中途半端な走りは許されない。

ダウンチューブに入るロゴは右側が「PINARELLO」、左側が「PARIS」となり、グラフィックでも左右非対称を主張ダウンチューブに入るロゴは右側が「PINARELLO」、左側が「PARIS」となり、グラフィックでも左右非対称を主張 かつてのプロ供給フレーム、プリンス・カーボンと同等の素材を用いたモノコックフレーム。鮮やかなペイントも魅力かつてのプロ供給フレーム、プリンス・カーボンと同等の素材を用いたモノコックフレーム。鮮やかなペイントも魅力

プリンスの素材とドグマの設計を受け継ぐ

現代のパリも、もちろんフルカーボン。2011年に登場し、ドグマ譲りの左右非対称設計や、2008年当時の旗艦プリンス・カーボンと同じ東レ50トンカーボンを使用するなど、セカンドグレードながら他ブランドのトップモデルかそれ以上の実力を有する。

フォークはもちろんオンダフォーク。2012モデルからヘッド下側のベアリングが1.5インチへと大口径化されたフォークはもちろんオンダフォーク。2012モデルからヘッド下側のベアリングが1.5インチへと大口径化された
iReady(電動コンポーネント用)フレームも用意される。バッテリーはダウンチューブ下側に装着するタイプiReady(電動コンポーネント用)フレームも用意される。バッテリーはダウンチューブ下側に装着するタイプ
通常のBB(イタリアン規格)を用いながら、可能な限り幅を広げ、ボリュームを持たせたハンガー部通常のBB(イタリアン規格)を用いながら、可能な限り幅を広げ、ボリュームを持たせたハンガー部


2012年には、ヘッド下ワンが1.5インチへと大口径化され、ケーブル類が全て内蔵されるなど、各部がさらにブラッシュアップされた。通常のフレームセットに加え、電動コンポ専用のiReadyフレーム、そしてシマノ・アルテグラ完成車が用意される。

また、セカンドグレードながらカラーラインナップが5種類、フレームサイズはなんと11種類も用意されことにも注目したい。「プリンス・カーボンと同等の実力が30万円以下で手に入る」と、あえてこのパリを選ぶレーサーも多いという。伝統の車名が与えられたこのモデルは、やはりピナレロの本気度がうかがえる戦闘機なのである。

アシンメトリックデザインを採用するパリ。フォーク、トップチューブ、シートステー、チェーンステーが左右非対称となるアシンメトリックデザインを採用するパリ。フォーク、トップチューブ、シートステー、チェーンステーが左右非対称となる 2012年モデルよりヘッド下ワンが1.5インチへと大口径化され、さらなるブラッシュアップを行なった2012年モデルよりヘッド下ワンが1.5インチへと大口径化され、さらなるブラッシュアップを行なった

ピナレロ パリ50-1.5

サイズ42.5EF, 44SL, 46.5SL, 50, 51.5, 53, 54, 55, 56, 57.5, 59.5
マテリアルCarbon 50HM1.5K
フォークOnda FPK Carbon 50HM1.5K 1” 1/8 1” 1/2 Asymmetric integral system
リアステイOnda FPK Carbon 50HM1.5K Asymmetric
ボトムブラケットMOst Croxover (ITA規格)
フレーム重量約1,040g (サイズ54、ベア重量)
価格299,000円(フレームセット・税込)
319,000円(iReady(電動専用)フレームセット・税込)
399,000円(シマノ アルテグラ完成車・税込)

インプレッション

「これこそピナレロの走り!」 二戸康寛

CW:お、本気で攻めていた二戸さんが帰ってきました。どうでした?

二戸:素晴らしい。これぞピナレロ。これこそがピナレロの走りですよ。

CW:おぉ、いつも冷静な二戸さんのテンションが高い。そんなに良かったんですか?

二戸:「ピナレロらしさ」を最も濃く受け継いでいる一台でしょう。これこそがピナレロだと思います。

「これこそピナレロの走り!ピナレロらしさを最も濃く受け継いでいる」 白川賢治「これこそピナレロの走り!ピナレロらしさを最も濃く受け継いでいる」 白川賢治
白川:快適性、動力性能…どこをとっても平均点以上をたたきだすフレームですね。私はハイエンドほどの個性はないと感じましたが、路面をしっかりととらえながら機敏に走ってくれます。ピナレロらしく、安定感も高いですね。欠点が全くない優等生。

CW:具体的には?

二戸:伸びのある加速感。全体的なバランス。安定感。本格的に勝ちを狙うなら、パリから上が超本気モードです。クアトロとパリの間に一本の線が引かれると思います。パフォーマンスが格段に違う。エントリーライダーには、クアトロ以下の剛性感がマッチすると思いますが。

CW:そんなに違いますか。

二戸:違いますね。パリはライダーのパフォーマンスを余すとこなく引き出してくれる。かといって剛性過多では決してありません。しっかりはしているんですが、ガチガチではない。踏んだときにウィップはあるんですよ。でも、それがいい方向に効いている。バランスがいいのでちゃんと前に進む。ペダリングパワーをしっかりとホイールに伝えてくれて、加速が一瞬では終わらなくてどんどん続いて伸びていく。だから気持ちいい。これがピナレロの意図する性能なのではないでしょうか。近年の軽量・高剛性フレームとは一味違いますね。

「レース向けのバイク。短距離のパワフルなダッシュに向く」 二戸康寛

CW:ピナレロらしさ、ここにあり!ですか。白川さんはどうでした?

白川:ウィップはあるんですが、少なめ。だから短距離のパワフルなダッシュにはいいでしょうね。キシリウムのような、シャキッとしたホイールを組み合わせるとパリの良さが引き立つのではないでしょうか。

二戸:個人的には、ピナレロはこの乗り味を絶やさないでほしい。「ピナレロってどんなバイクなの?」と聞かれたら、「これに乗ってみて下さい」と言えるモデル。

「レース向けのバイク。短距離のパワフルなダッシュに向く」 白川賢治「レース向けのバイク。短距離のパワフルなダッシュに向く」 白川賢治
CW:では、このパリはどんな用途に向くのでしょう?

二戸:何にでも使えると思います。ロングライドからレースまで。安定性はいいんですが、ハンドリングはクイック気味です。さらに安定感が欲しいならロクがいいでしょう。

白川:私も、これはオールラウンドに使えると思います。でも、あくまでレース向け。短距離のレースにいいと思います。

二戸:クリテリウムにはもっと軽くて硬いフレームがいいかもしれません。ヒルクライムでも、もうちょっとレスポンスが欲しいと思う人がいるかもしれませんね。でもパリの魅力はそこじゃない。ピナレロらしい加速感と安定感。伝統的なピナレロ・バイクだと言えます。いいフレームですよ。名機です。
編集:シクロワイアード 提供:カワシマサイクルサプライ