2011/07/02(土) - 10:35
2007年末に登場したSUPERSIX、そしてちょうど2009年ジロ・デ・イタリアの直前にデビューしたSUPERSIX Hi-Modから3年。キャノンデールはフルモデルチェンジともいうべきフラッグシップモデルSUPERSIX EVO を発表した。イタリアでのプレゼンテーション、そしてインプレッションなどでその新フラッグシップモデルのすべてをお伝えしよう。
5月5日、ジロ・デ・イタリアの開幕が控えるイタリアへと飛んだ。向かったのはトリノ郊外、ピエモンテ州の丘陵が続く、サイクリストならため息を漏らすほどのライディング好適地にある古城ホテル カステッロ・ディ・モンタールド。
キャノンデール社から、ここで開催されるニュープロダクツ・プレゼンテーションに招待されたのだ。その地で発表される新製品が、SUPERSIXに次ぐニューモデルであること以外、知らされてはいなかった。
今季よりUCIがルールを変更し、プロレースで使うバイクが事前登録制になった。マスプロ製品は事前にUCIの検査を受け、規定に合うことを許可された製品がレースで使えることになった。そのため、SUPERSIX EVOという名前はすでにUCIのリストに掲載され、事情通やジャーナリストの間では知るところになっていた。
今回の新製品は同社の新フラッグシップモデルのSUPERSIX EVO。しかし、その製品の特徴まではわからない。キャノンデール・ジャパンのスタッフでさえその新モデルがどういうものかは知らされていなかったという状態だった。
ここでまず先に断っておくと、筆者(編集部・綾野)にはある予感があった。それはかなり軽いスペックのカーボンバイクが発表するであろうという確信に近い予感が。それと言うのも、2010年末にキャノンデール・ジャパンを通じてSUPER Xという名のシクロクロスバイクを個人的に購入していたからだ。スーパーエックスという名のそのバイクは、ハイエンドのフルカーボン製CXバイクとして欧米で華々しくデビューしたものの、日本でのターゲットユーザーの少なさから残念ながら輸入が見合わされたモデルだ。
しかしそのカーボンバイクの随所に見られる先進の設計から、ある程度その流れを汲むモデルが登場するだろうことは予想していたのだ。実際、シクロクロスバイクにして7kgを切るかという超軽量で、レースにだけ狙いを定めたスペックを備えている。
プレゼンテーションは、世界各国から代表的サイクリングメディアのジャーナリストが出席するなかで催された。その幕開けと同時に発表された数字は、「フレーム重量695g(560mmフレーム・塗装済み)」という驚くべきものだった。
その数字がスクリーンに浮かぶと、ジャーナリストの間からはため息が漏れた。しかし、同時にある種の「不安感」がよぎる。その数字は明らかにマスプロメーカーの市販モデルとしては「行き過ぎた数字」に思えたからだ。「軽さは脆(もろ)さ」ではないのか?
しかし、自信満々にプレゼンを続けるキャノンデール社の開発陣たち。過激な重量に対して抱いた不安は、そのディテールの説明が重ねられるごとにひとつづつ打ち消されていく。
まず安心に足る説得材料が、ドイツにある第三者検査機関ゼドラー(Zedler)社で検査されたフレームのなかで、フレーム単体重量695gという最軽量を記録しつつも、重量剛性比142.3NM/Deg/Kgという非常に高い数値を実現したということだ。
自転車生産大国ドイツにおいて、徹底的な検査によって工業製品としての自転車製品のテストを行う第3者検査機関「ゼドラー・ラボ」。自前のテストとは違い、その結果が裏付ける信頼感は大きい。良い結果が得られれば揺るぎない信頼感につながる。その逆もしかり。
SUPERSIX EVOは、「重量剛性比」つまり「重量あたりの強度」において並外れた強度と剛性を兼ね備えていることが実証されたという。量産バイク史上最軽量であるにもかかわらず、同時に最高レベルの強度と剛性を誇るというのだ。
フロントフォークは現行SUPERSIX同様に、どこかクラシカルな印象さえある先曲げフォーク。ドロップアウトのエンド取り付け位置がオフセットされているのは、CAAD10のフォークと同様だ。シートステーの接合部あたりの形状も、CAAD10とほぼ同様の形状を採用している。
ケーブル類は流行の内蔵処理を大きくは採用してはいない。リアのブレーキケーブルのみヘッドチューブからシート周辺に内蔵されるが、シフトケーブルは露出している。これはもちろんケーブル交換のメンテナンスの容易さを優先させてのことだろう。
ISP=インテグラルシートポストはSUPERSIX同様今回も採用されず、ノーマルの丸ポスト。しかしキャノンデールが発案したBB30はもちろん採用され、同社オリジナルのHOLLOWGRAMクランクをセットすることで最軽量の駆動系が実現できる。
レースでの使い勝手やメンテナンスに関わる点において、いたずらに流行を追わず、使い勝手の良さを優先するのはいかにもキャノンデールらしい姿勢だ。過激な重量の数字と裏腹に、スタイリング上においてはきわめてオーソドックスにみえる。
「史上最軽量」が最初に発表されたことで衝撃を受けたものの、続けられる説明はその衝撃的な数字から不安を取り去るかのような内容が続く。
補強材を貼る手法は従来からあった考え方だが、それをより連続的に、かつ効果的に配置する極めて高度な、かつ手間のかかる技術と言えるだろう。
また、当然ながらカーボン素材の配置や設計を細部まで徹底的に煮詰めていることも、剛性アップと軽量化に繋がっている。それを象徴するのがリアエンド周辺の構造だろう。
ディレイラー取付ブラケット以外はフルカーボン化されたリアエンドは、徹底的に小型化され、かつフレーム内部の空間の壁をスムーズな構造にすることで強度アップと軽量化を同時に達成し、軽量ながら破断に強いエンドを達成している。
ライバルとするS社とC社のトップモデルのエンド部が34g、38gなのに対し、17gとほぼ半分の重量に抑えている。エンド部だけで20gの軽量化は、驚くべき数字だ
もちろん高品質のハイモジュラスカーボンがフレーム全体に使用され、フレーム外径やヘッド部の大幅なスリム化にもかかわらず、強度は前モデルより向上しているのだ。
そしてCAAD10でも採用されたオフセット・ドロップアウトは、フロントフォークの先端に対してやや後方にオフセットした位置に取り付けられたエンドにより、フォーク先端の前後方向のしなりを増幅するサスペンションの働きを持つ。
さらにシートチューブはカーボンファイバーの配置によって前後方向のしなりをつくりだす構造になっている。
この2つのサスペンションの働きを、キャノンデールの開発スタッフは「F1マシンに搭載されるような"マイクロサスペンション"」と呼ぶ。決して過剰な快適性を追求するものではなく、最小限の働きをすることで、タイヤが路面を捉え、バイクが跳ねることを防ぐ、路面追従性向上のためのショックアブソーバーなのだ。
「フワフワした乗り心地や、ソフトな快適性は期待しないで欲しい。EVOはレーシングマシンなのだから。乗り心地はあくまでもプロレベルにスパルタンなロードバイクだ」と開発スタッフは念を押す。
とくに目を引くヘッドチューブまわりはSUPERSIXよりもスリムになったが、剛性はより高まっているという。
スリム化はエアロダイナミクスにも通じる。細身のフロント周りは前面投影面積を減らすことに成功している。フロントフォークブレード、ダウンチューブもそれぞれ15%、20%のスリム化を達成。トップチューブはチューブ中央付近を細く絞ることでペダリング中に内腿がトップチューブに擦れる現象を減らしている。それは例えばダウンヒル中に脚を内側に絞ることでさらに空気抵抗の少ないダウンヒルフォームをとることも可能にしている。
次ページでは図解を交えてSUPERSIX EVOのテクノロジーのディティールに迫っていく。
→次のページへ
5月5日、ジロ・デ・イタリアの開幕が控えるイタリアへと飛んだ。向かったのはトリノ郊外、ピエモンテ州の丘陵が続く、サイクリストならため息を漏らすほどのライディング好適地にある古城ホテル カステッロ・ディ・モンタールド。
キャノンデール社から、ここで開催されるニュープロダクツ・プレゼンテーションに招待されたのだ。その地で発表される新製品が、SUPERSIXに次ぐニューモデルであること以外、知らされてはいなかった。
今季よりUCIがルールを変更し、プロレースで使うバイクが事前登録制になった。マスプロ製品は事前にUCIの検査を受け、規定に合うことを許可された製品がレースで使えることになった。そのため、SUPERSIX EVOという名前はすでにUCIのリストに掲載され、事情通やジャーナリストの間では知るところになっていた。
今回の新製品は同社の新フラッグシップモデルのSUPERSIX EVO。しかし、その製品の特徴まではわからない。キャノンデール・ジャパンのスタッフでさえその新モデルがどういうものかは知らされていなかったという状態だった。
ここでまず先に断っておくと、筆者(編集部・綾野)にはある予感があった。それはかなり軽いスペックのカーボンバイクが発表するであろうという確信に近い予感が。それと言うのも、2010年末にキャノンデール・ジャパンを通じてSUPER Xという名のシクロクロスバイクを個人的に購入していたからだ。スーパーエックスという名のそのバイクは、ハイエンドのフルカーボン製CXバイクとして欧米で華々しくデビューしたものの、日本でのターゲットユーザーの少なさから残念ながら輸入が見合わされたモデルだ。
しかしそのカーボンバイクの随所に見られる先進の設計から、ある程度その流れを汲むモデルが登場するだろうことは予想していたのだ。実際、シクロクロスバイクにして7kgを切るかという超軽量で、レースにだけ狙いを定めたスペックを備えている。
695gという驚きの数値
プレゼンテーションは、世界各国から代表的サイクリングメディアのジャーナリストが出席するなかで催された。その幕開けと同時に発表された数字は、「フレーム重量695g(560mmフレーム・塗装済み)」という驚くべきものだった。
その数字がスクリーンに浮かぶと、ジャーナリストの間からはため息が漏れた。しかし、同時にある種の「不安感」がよぎる。その数字は明らかにマスプロメーカーの市販モデルとしては「行き過ぎた数字」に思えたからだ。「軽さは脆(もろ)さ」ではないのか?
しかし、自信満々にプレゼンを続けるキャノンデール社の開発陣たち。過激な重量に対して抱いた不安は、そのディテールの説明が重ねられるごとにひとつづつ打ち消されていく。
まず安心に足る説得材料が、ドイツにある第三者検査機関ゼドラー(Zedler)社で検査されたフレームのなかで、フレーム単体重量695gという最軽量を記録しつつも、重量剛性比142.3NM/Deg/Kgという非常に高い数値を実現したということだ。
自転車生産大国ドイツにおいて、徹底的な検査によって工業製品としての自転車製品のテストを行う第3者検査機関「ゼドラー・ラボ」。自前のテストとは違い、その結果が裏付ける信頼感は大きい。良い結果が得られれば揺るぎない信頼感につながる。その逆もしかり。
SUPERSIX EVOは、「重量剛性比」つまり「重量あたりの強度」において並外れた強度と剛性を兼ね備えていることが実証されたという。量産バイク史上最軽量であるにもかかわらず、同時に最高レベルの強度と剛性を誇るというのだ。
先進的かつオーソドックスな性能を目指したスペック
SUPERSIX EVOはその軽さが衝撃的だが、外観上のルックスは非常にオーソドックスなものだ。細身のチューブ形状に、ヘッド周りのボリュームは現行モデルのSUPERSIXよりもすっきりして細い印象だ。オーバーサイズではまったくない。フロントフォークは現行SUPERSIX同様に、どこかクラシカルな印象さえある先曲げフォーク。ドロップアウトのエンド取り付け位置がオフセットされているのは、CAAD10のフォークと同様だ。シートステーの接合部あたりの形状も、CAAD10とほぼ同様の形状を採用している。
ケーブル類は流行の内蔵処理を大きくは採用してはいない。リアのブレーキケーブルのみヘッドチューブからシート周辺に内蔵されるが、シフトケーブルは露出している。これはもちろんケーブル交換のメンテナンスの容易さを優先させてのことだろう。
ISP=インテグラルシートポストはSUPERSIX同様今回も採用されず、ノーマルの丸ポスト。しかしキャノンデールが発案したBB30はもちろん採用され、同社オリジナルのHOLLOWGRAMクランクをセットすることで最軽量の駆動系が実現できる。
レースでの使い勝手やメンテナンスに関わる点において、いたずらに流行を追わず、使い勝手の良さを優先するのはいかにもキャノンデールらしい姿勢だ。過激な重量の数字と裏腹に、スタイリング上においてはきわめてオーソドックスにみえる。
EFFICIENCY(効率性)というキーワード
SUPERSIX EVOが目指したのは、おもに軽量(Light Weight)、強度(Strength)、剛性(Stiffness)、垂直方向の追従性(Vertical Compliance)、空気抵抗の削減(Drag Reduction)という5つの要素。その5つのどれかが突出しているのではなく、高いレベルで調和した性能を目指したという。「史上最軽量」が最初に発表されたことで衝撃を受けたものの、続けられる説明はその衝撃的な数字から不安を取り去るかのような内容が続く。
軽量性を実現するバリステックカーボンテクノロジー
今回の軽量化に大きく貢献しているのは新しい技術「バリステック(BallisTec)カーボンテクノロジー」だ。これは補強のためのカーボンシートを側面に増し貼りすることで強度アップを図るという方法で、フレーム側面を中心に、補強カーボン材を連続的に配位することで剛性を上げる新技術だ。補強材を貼る手法は従来からあった考え方だが、それをより連続的に、かつ効果的に配置する極めて高度な、かつ手間のかかる技術と言えるだろう。
また、当然ながらカーボン素材の配置や設計を細部まで徹底的に煮詰めていることも、剛性アップと軽量化に繋がっている。それを象徴するのがリアエンド周辺の構造だろう。
ディレイラー取付ブラケット以外はフルカーボン化されたリアエンドは、徹底的に小型化され、かつフレーム内部の空間の壁をスムーズな構造にすることで強度アップと軽量化を同時に達成し、軽量ながら破断に強いエンドを達成している。
ライバルとするS社とC社のトップモデルのエンド部が34g、38gなのに対し、17gとほぼ半分の重量に抑えている。エンド部だけで20gの軽量化は、驚くべき数字だ
もちろん高品質のハイモジュラスカーボンがフレーム全体に使用され、フレーム外径やヘッド部の大幅なスリム化にもかかわらず、強度は前モデルより向上しているのだ。
タテ方向の柔軟性を生み出すSAVE&オフセットドロップアウト
SUPERSIX EVOには、ハードテールのクロスカントリーマウンテンバイクの世界に衝撃をもたらしたキャノンデール・フラッシュ・カーボンと、CAAD10に応用されたSPEED SAVEテクノロジーが採用されている。垂直方向に扁平加工されたカーボンチューブが特徴的なこのシステムは、横方向への剛性を保ちつつ、タテ方向にはわずかにしなるサスペンションの働きをもつ。そしてCAAD10でも採用されたオフセット・ドロップアウトは、フロントフォークの先端に対してやや後方にオフセットした位置に取り付けられたエンドにより、フォーク先端の前後方向のしなりを増幅するサスペンションの働きを持つ。
さらにシートチューブはカーボンファイバーの配置によって前後方向のしなりをつくりだす構造になっている。
この2つのサスペンションの働きを、キャノンデールの開発スタッフは「F1マシンに搭載されるような"マイクロサスペンション"」と呼ぶ。決して過剰な快適性を追求するものではなく、最小限の働きをすることで、タイヤが路面を捉え、バイクが跳ねることを防ぐ、路面追従性向上のためのショックアブソーバーなのだ。
「フワフワした乗り心地や、ソフトな快適性は期待しないで欲しい。EVOはレーシングマシンなのだから。乗り心地はあくまでもプロレベルにスパルタンなロードバイクだ」と開発スタッフは念を押す。
剛性アップがもたらしたスリム化、エアロダイナミクス
今まで「剛性アップのためにフレームを大口径化する」というのは当然の理屈だった。しかしSUPERSIX EVOは、設計構造の最適化とカーボン素材の質向上、そしてバリスティックカーボン構造の採用で強度アップを実現したことで、口径を大きくすることなく必要な剛性を確保することに成功したという。とくに目を引くヘッドチューブまわりはSUPERSIXよりもスリムになったが、剛性はより高まっているという。
スリム化はエアロダイナミクスにも通じる。細身のフロント周りは前面投影面積を減らすことに成功している。フロントフォークブレード、ダウンチューブもそれぞれ15%、20%のスリム化を達成。トップチューブはチューブ中央付近を細く絞ることでペダリング中に内腿がトップチューブに擦れる現象を減らしている。それは例えばダウンヒル中に脚を内側に絞ることでさらに空気抵抗の少ないダウンヒルフォームをとることも可能にしている。
次ページでは図解を交えてSUPERSIX EVOのテクノロジーのディティールに迫っていく。
→次のページへ
提供:キャノンデールジャパン 制作:シクロワイアード