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MTBライダーの永田隼也が昨年に続き2度目のアンバウンド・グラベル200マイルレースに挑戦。昨年の経験を活かし用意周到に臨むも、超過酷コンディションに見舞われた。厳しい状況で何を得たのか? レース体験とノウハウを綴る渾身の実走レポートだ。

永田隼也(ながた・じゅんや)

シマノブースでメカの最終調整を受けた永田隼也 photo:Makoto AYANO

プロMTBエンデューロレーサー。16歳でJシリーズのダウンヒル・エリートクラスに当時最年少で優勝。2015年に全日本選手権優勝。エンデューロ競技の国内第一人者として海外レースにも参戦し、2020・2021・2023年にエンデューロナショナルシリーズで総合優勝。現在はグラベルも含めマルチに活動中。

1年間をかけた準備は順調とは言い難かったが...

はじめてアンバウンドの200マイルレースに挑戦した昨年は、右も左も分からない参戦となり、まずは完走することだけを目標に走った。あれから1年。再び200マイルレースに参戦することは帰国後すぐに決めていた。

EVOCのバッグでバイクを預ける。行きは無事ロスバゲせずに届いた photo:Makoto AYANO
まずはガレージでバイクの組み立てセットアップと調整だ


10年前の自分は、まさか世界的なグラベルレースに参戦するようになるなんて考えてもいなかった。3分で終わるMTBのダウンヒルやエンデューロとは競技の種類が違い過ぎるからだ。しかしそれと同時に、MTBで培ったベースで走り切れたことも一つの収穫になった。

そんな1年目のレースは、事前の乗り込み不足があったものの、ひたすら耐えるレースで「なんとか走り切った」という感覚だったのを覚えている。

今年も日本からエンポリアにやってきた「乗ルンジャー」たち

2度目の挑戦はとにかく乗り込んでから挑もうと決め、1年かけて乗り込んで備えるつもりだった。しかし7月に再びの転倒事故で、鎖骨&肋骨8本の骨折、肺挫傷という大怪我を負ってしまい、それが完治したのが12月だった...。

朝食にアメリカンブレックファストが楽しめるダイナーへ
古き良きアメリカを感じるダイナーでブレックファストを


怪我からの回復期間はしっかりと乗り込むのは難しく、もどかしい日々が続いたが、年明けからは全開で乗れるようになり、準備を進めた。とはいえMTB活動との両立もあり、2月は海外合宿などで距離が乗れず、急ピッチで乗り込みを行ったのは3月になってから。

とにかくグラベルバイクに乗り込もうと、ロードトレーニングでもグラベルバイクで走り、200kmライドなどを月に数度走り込んだ。

こうしてレース目標を立てて調整していくと、やはりエンデュランス競技ならではの難しさに直面する。それは自分自身の知識がまだ手探り状態で、感覚として身体が仕上がってきているのか、この内容で良いのか、などの「答え合わせ」が自分のなかでできないのがもどかしい。MTBであればどれだけのレベルにあるかは自分の中に指標があり、そこに到達出来ればレースも気持ちに余裕があるのだが、その「引き出し」が今の自分にはまだ無く、レースで答え合わせするしかないのが辛かった。

今年もエンポリアに来た喜びを感じつつ、シェイクアウトライドへ photo:Makoto AYANO

色々な情報が溢れる現代。情報を取りに行くのは簡単だけど、そこはやはり自分で追い込んで、失敗して、なぜそのロジックが良いとされてるかを身体で理解しないと自分の引き出しは増えない。自分でトライしながら失敗も一つの知識として収穫にすべく、色々なトライをしていった。

そんななかで自分には長距離を乗り続ける絶対的なベースが足りていないことも分かってきて、ベースづくりのトレーニングを重点的に行った。あとはエナジーマネジメント。これも自分ではまだ未知なことだから色々試した。

「この道のメンテナンスは最低限。自己責任で通ってください」 photo:Makoto AYANO

ロード選手でもなかった自分が世界レベルの長距離グラベルレースで未知の領域に挑戦する感覚は楽しく、色々な発見と共にモチベーションを上げて行った。

ライド仲間によるユニット「ノルンジャー」としては、昨年レース中の怪我でDNFとなった田村繁貴さんの完走を目指すモチベーションも力になり、一緒に乗り込めたことも今年の挑戦へ大きなパワーとなった!

グラベルソファに座る「乗ルンジャー」たち photo:Makoto AYANO

そして今年は元プロロード選手でシマノの国内宣伝を担当する島田真琴さんも参戦を表明してくれて、意見交換をしながら色々なアドバイスをもらい、機材セットアップやトレーニング内容も話し合うことができて、心強い体制で挑むことが出来た。レースはただ完走するのではなく、11時間を切ることを目標に取り組んだ。

一軒家を借りて滞在 食事を工夫して体調を整えていく

大型ミニバンでスーパーで買い出し
レンタルした家はアメリカ式に大きくて豪華だった



大会期間中の滞在には、シマノアメリカの紹介で会場近くの一軒家を借りることができた。昨年は大会が斡旋する大学寮に泊まったのだが、食事は1日3食ブッフェで準備されることは良かったのだが、部屋の冷房が冷えすぎて体調を崩してしまった。

一軒家のリビングでの食事風景。レースに向けて話が弾む

今年は皆で一軒家に泊まることができて、リビングでは色々な話ができたし、レースまでの準備に充実した時間を過ごすことができた。いちばん懸念していた食事は庶民的なメキシカン食堂が街にあり、通うことに。カーボローディングになる炭水化物中心のヘルシーで美味しいメニューがあり、値段・味・量すべてが完璧だった。

好みの食材を組み合わせてオーダーできるメキシカン食堂
ヘルシーで美味しかったメキシカンフード。アスリート食として完璧だった


朝食には日本でも日々食べ慣れている食材をスーパーで買った。オートミール、フルーツ、ヨーグルトなど、どこに行っても調達できるメニューで日々過ごせば海外遠征はストレスが少ない。「ステーキとかアメリカらしいものを食べたい」という要望は誰からも出ず、低脂肪のアスリート向けの食事で日々を淡々と過ごした。

この期間貸しの一軒家には大きなガレージやプール、リビングが2つもあって最高に快適な滞在だった。ちなみに料金は5日間で70万円ほど。安価ではないが皆で割り勘した。

福田暢彦さんがXLのスタート前日に事情により帰国になってしまう

連日のシェイクアウトライドにも参加して、バイクのセットアップを徐々に煮詰めていった。そしてレース2日前になってバッドニュースが。福田さんが事情によりXLクラス出場を取りやめ、急遽日本に帰ることになったのだ。乗ルンジャーの仲間としてここまで共に乗り込んで備えてきたのに、残念だ。もっとも福田さん本人がいちばん悔しいだろうが...。

新たな相棒、キャノンデール SuperX LAB71を選んだ理由とセッティング

個人スポンサーが変わり、今年からキャノンデールにバイクをサポートしてもらっている。本業のMTBとともに、グラベルバイクも充実しているブランドであることがその理由でもある。いま最強なグラベルレースバイク、SuperX LAB71と共に挑戦することができるからだ。

永田隼也とキャノンデール SuperX LAB71 photo:Makoto AYANO

アンバウンドではとにかく巡航速度を高速に保てるバイクで挑みたかった。SuperXは重量も軽く、とにかく走りが軽快。オンロードを走ってもストレスが無いほどだ。そして軽いのにグラベルとは思えないしなやかさで路面に接地して突き進んでくれる。SuperXはエアロ、タイヤクリアランス、軽さ、どれをとっても素晴らしいバイクだ。

おもなセットアップとしては、MOMOモノコックハンドル(ステム長110mm・幅400mm)に、コンポは1✕(ワンバイ)、つまりフロントシングルを選んだ。

1✕駆動系はXTRとDURA-ACEによるミックスコンポ photo:Makoto AYANO

STIレバー&クランクにデュラエース、ドライブトレインはXTRで、フロントチェーンリングに48T、カセットに10-51Tの「マレット」セッティングだ。登りも平地も十分なギア比でストレス無く走ることができる。MTBベースのXTRリアディレイラーはチェーンテンションが非常に強く、荒れた路面であっても脚の力を緩めずに変速し放題で、かつ正確に変速してくれる。

補給食や装備を収めるバッグ類にはフレームバックを取り付ける前提で、ダウンチューブ側にトピークの横出しボトルゲージを採用した。

タイヤはマキシスRAMBLER。フロントは50Cをチョイス photo:Makoto AYANO
リアタイヤは45Cをチョイス つまり前後で太さを変える「マレットセッティング」だ photo:Makoto AYANO


タイヤは今年も絶対的信頼をおいているマキシスRUMBLERで、フロントは50C、リアに45Cをチョイス。前後で太さを変える「マレット」セッティングだ。

準備と装備、サプリ&補給食の配置も戦略的に

レースキット、ハイドレーションバッグ、補給食とドリンク類

レースウィークを通じてずっと天気が安定せず、レース当日の予報も雨…。過酷なレース展開が予想された。

装備としては、バッグ類にエアロに優れたアピデュラのエアロシステムを導入、フレームバックに加えてトップチューブバックも使う。このトップチューブバックには緊急時すぐに必要になるCO2カートリッジやプラグを入れておき、ジェルも3個入れて、荒れた路面の時はここから使用した。

フレームバックには泥が詰まった際に使用するヘラ、電動ポンプ、レインジャケット、チェーンコネクトツール、予備チューブ1本、予備CO2カートリッジ1本を。サドルバックへはチューブ1本、ガス2本、小型ツール、タイヤブートを入れた。

ゼッケンナンバープレートを受け取った島田真琴、田村繁貴、永田隼也
チェックポイントに届けてもらうドロップバッグを預ける


今年も有料サービスの「クルー・フォー・ハイヤー」を申し込み、各エイドへ荷物を配置。今年はエイドが1カ所増えて3カ所になった。1カ所目が70km地点と絶妙な距離だったため、ドロップバッグは160km地点と256km地点の2カ所へ送ることにした。

EVOCのハイドレーションバッグに1.5Lの水を背負い、160km地点のエイドにももうひとつ同じハイドレーションバッグを送って、そこでバッグごと背負い変える作戦。雨だと思ってスペアのサングラスをここに送ったことも、後になって救われることに。最終エイドは残り70km地点なので、最低限のジェルだけを預けておいた。

レースでの補給戦略を話し合いながら準備を進める
プレシジョンのミネラルタブやハイカーボドリンク


今年のサプリメントや補給はプレシジョンが応援してくれることになった。ドリンクミックスと電解質タブレットが優秀で、グラベルレースのようなハンドルから手を離したくない状況や集団走行中でもドリンクでカーボを一定量摂れることは最高だった。

電解質タブはドリンクに電解質&ミネラル濃度を決めて調合できる優れもの。今回は750mボトル、1リットルボトル、背中に1.5リットルをベースに走り抜いた。1本のボトルにカーボ&電解質、もう1本はカーボのみ、背中は電解質のみ、と飲み分けた。

昨年より過酷だったコンディション 2度のパンクに泣く

エイジ200マイルのスタート。約1,250人が参加する激戦区だ photo:Makoto.AYANO

前日までの天気予報は朝から雨...。スタートの時間から雨予報となり、200マイルを濡れ続けながら走ると考えただけでも震える行程だった。前日にできる雨対策はスペアのサングラスをエイドへ預けたぐらいで、あとは晴天と大きく変わらないセットアップでレースへ挑んだ。

2年連続で200マイルに挑むプロMTBエンデューロレーサーの永田隼也 photo:Makoto.AYANO

2度目の200マイル挑戦の乗ルンジャー・田村繁貴(左)と初参戦の島田真琴
2年前は途中リタイアに終わった田淵君幸(TRYCLE)は2年ぶりの200マイル参戦


レース当日、朝は寒くもなく雨も降っていないベストコンディションだった。今年もスタートは前方で位置取りして、とにかく先頭集団に乗れるだけ乗って展開していく作戦だ。

スタートして1時間ぐらいは集団に乗って快調に進んでいく。とにかく頑張ってハイスピードの集団に食らいつく。

序盤は高速で進む大集団のなかで走る。どこまで乗っていけるかを自問自答していた photo:Makoto AYANO

連日の雨の影響で、ぬかるみや水たまりが出てきたあたりで集団内でも落車が発生。徐々に集団が分離していく。ここからが前方集団に追いつくために脚を使ってしまい、キツくなってくる。

一緒に走っていた島田さんが路面の溝に前輪を取られ、激しく落車した。しかし30分後には同じ集団に戻ってきて、流石は元プロロード選手だと思った。

やがて雨雲が分厚くなってきて、天気が急変。一気に大雨となり、視界が無くなるどころか呼吸もしづらいぐらいの豪雨になる。まだ100kmも走っていない段階で、このコンディションは笑うしかなかった。

そして集団で体力を温存したいにも、人の後方に入ると前走者の泥しぶきを浴び、視界はほぼゼロ。泥の付着したサングラス越しにかすかに見える前方の選手の挙動だけを頼りに走り進めた。

独走になってからも過酷で孤独な走りを強いられる photo:Makoto AYANO

最初のエイドを過ぎたあたりで雨が落ち着き、セカンドパックあたりに位置していたものの、ここまでで結構脚を使ってしまっており、ここでそのパックを見送り、次なるグループを待つことに。

そのあとペースが合う集団がなかなか現れなかったが、シマノアメリカの社員でもあるプロ選手と一緒の集団に乗ることができ、快調に走ることができた。

泥がタイヤにまとわりつき始める photo:Makoto AYANO

しかしそんな矢先、ローテーションする際にコース真中の砂利のたまり場を横切った瞬間に後輪がパンクする。

スローパンクではなく、親指ぐらいの大きさの尖った小石がタイヤトレッドに刺さっていた...。すぐに停まってプラグを2つ刺して修復を試みるも、まったく塞がらず。ここでCO2ボンベを1本消費。仕方なくチューブを入れることにしたが、タイヤ周りに付着した泥がひどく、小石や泥を嚙みこまないように綺麗に修理することにかなり時間を取られてしまった。

焦っていたこともあり、これだけの大きなタイヤの亀裂にも関わらず、タイヤブートを貼らずに修理してしまったことが後に大きな失速へつながる...。

誰も居ない大地を淡々と独走する...
巻き上げた泥でバイクはドロドロ、すべての動作に影響が出る


なんとか復活して走り出したものの、都合の良い集団は現れず、昨年と同様に独走時間の始まりだ。終わってみてリザルトを見返すと、パンクするまでは7位前後を走行していて、とても悔やまれた。

再び天気が大荒れになり、周りに何もない高原地帯で雷が落ちるなか走り続けることに。ここでは脚も復活してきて、独走の割には良い感じで踏めていた。

雨風のなかひたすら耐えるレース展開になり、気持ち的に厳しかったが、160km地点にある第2エイドに到着。ハイドレーションバッグごと背負い替えて、泥まみれのサングラスも交換した。雨の悪条件のなかではこういう細かい装備をフレッシュなものに交換できるだけでかなり快適になる。

コース上のあちこちが冠水していた ©️Lifetime

この後は独りでただ耐える時間が続く。天候は雨、雷、その後は晴れ間が出てくる展開に。トンネル橋の下ではバイク半分が沈むぐらいの冠水になっていて驚いた。

例年のごとく、この終盤の時間帯が精神的にも一番キツい。第3エイドまでは良い集団に乗ることができず、独りで黙々と100km走り、最終エイドへ。シマノアメリカのニックさんとも会うことができて、ここまでのレース展開を少し話した。この時、リアタイヤの裂け目を見たニックさんが「ホイールを交換していくか?」と言ってくれたのだが、「ここまで走ってこれたから大丈夫!」と断った。

カンザス大平原を淡々と走り続ける永田隼也

緑豊かな牧草地に雨が降り続く ©️Lifetime

少しでもストップ時間を減らして動き続けたかった。第3エイドは最小限のストップで、ジェルだけ補充してすぐに出た。しかし走り出して5kmも行かないうちに後輪がスローパンクしだす。さっきのニックさんの言葉が頭の中でぐるぐるしながら、5km戻ってホイール交換してもらうか本気で悩んだ。

残りはチューブ1本、ガス2本、バッテリーが1メモリ減った電動ポンプという状況。まずは電動ポンプで1気圧まで補充して、ごまかしながら進む。しかし3kmも走らないうちにリム打ちするまでに空気が抜けてくる...。

思いきってチューブを入れて直すかどうか悩み、第3エイドから20km進んだあたりでチューブを入れることに。もしここでミスしたら完走できない。こんなに緊張感のあるチューブ交換作業は初めてだった。

微妙なエア漏れが止まらず、落ち着いて修理にかかる

落ち着いてタイヤを外し、タイヤの内部をチェック。1回目のパンク修理をした際に泥がかなり内部に入っていたようで、これも原因だったのかもしれない。ウェスで綺麗にタイヤ内を綺麗にして、裂けたタイヤの内側からブートを貼る。しかしタイヤ内部も濡れていて、タイヤブートも雨でふやけており、接着部分の台紙が溶けて剥がせず、タイヤに挟み込むことしかできなった...。

なんとかCO2カートリッジ2本で修復できて、ひと安心。しかしかなり丁寧に作業したことで大幅なタイムロス。この時は順位よりも、再び走れるか・完走できるかの方が優先度が高かった。

永田隼也は2度のパンクを経ても走り続ける。エンポリアの街はもうすぐだ photo:Makoto.AYANO

無事に走りだしたが、少し走ると再びスローパンク。いよいよ完走が怪しくなってくる。定期的にとまって電動ポンプで空気を足しながら走る。バッテリーを使いすぎないよう、1気圧で耐え凌ぐ。ただでさえキツいラスト70kmが、向かい風とスローパンクで地獄だった。いつ心が折れてもおかしくない条件だったが、意地でも完走したいというメンタルが保てたのが良かった。

エア漏れによるスローパンクは収まらず、空気圧の下がったタイヤで走る続けることに photo:Makoto.AYANO

ひたすらに後輪に過重をかけないように慎重にペダリングし、なんとか走り切った。最後のアスファルトエリアではほぼ空気が無くなり、10人ぐらいの集団に抜かれたが、心を無にして完走だけを達成すべく走った。

エアが抜けて頼りない後輪のままラストの登りをダンシングでクリア

こんな状態でもなんとかフィニッシュすることができて、2度目の完走を果たすことができた。アンバウンドはレースであると同時に、順位だけでなく完走することも大きな意味を持つサバイバルなレースだと思う。昨年は完全ドライで快調なレースだったが、今年は地獄のようなコンディションで、同じ開催地のレースとは思えない豹変ぶりだった。これもまた魅力なのかもしれない。

完走できた安堵と同時に、タイムを見て悔しさも込み上げてきた。コースは違えど昨年と比べて10分遅れと、トラブルが無ければどれぐらいのタイムで走れていたのか....などと欲が出てきて悔しい気持ちになった。同時に、経験値の少ない自分はレースで答え合わせしていくしかないなかで、今年のトレーニング方法は間違っていなかったことは確認できた。

遅れてフィニッシュした田村繁貴を迎えて喜び合う photo:Makoto AYANO

リベンジ完走を果たし歓喜する田村繁貴
20周年の記念メダルはひときわ重くて立派だった



エンデュランス競技はまだまだ未知の連続で、レース、トレーニング、バイクセッティング、そのすべてが学びの連続だ。でも世界のトップシーンを実際に経験することで、自分に足りないものや進むべき方向がより明確になると思う。情報はどこでも手に入る時代だけど、本当に自分の力になるのは、現場で感じ、考え、積み重ねた経験だと思う。

結果を出すまでには時間がかかる競技だからこそ、焦らず積み上げて、近い将来この経験のすべてを結果につなげられたら、とてつもない達成感を得ることができると思う。

200マイルを走りきった3人の乗ルンジャー、島田真琴、永田隼也、田村繁貴 photo:Makoto AYANO

フィニッシュ地点では、200マイルに出場した乗ルンジャーの3人が時間差で顔を合わせることができた。お互いの完走を称え合い、喜びあうことができたのは最高の時間だった。島田さんはさすが元プロ選手らしい緻密な走りで素晴らしいタイム。田村さんは昨年のリタイヤの悔しさを払拭することに成功。その涙に、こちらも涙腺が緩んでしまった。

できればそこに福田さんが居てほしかったが、今回はやむを得ない事情での帰国なのでしょうがない。また来年ここで、あるいは別のレースで、一緒に喜びを分かち合えればと思う。

完走祝いにカンザスシティ名物BBQの名店にやってきた
節制を続けてアンバウンドに完走してのBBQは最高だった


タイヤ選択とチェーン潤滑が大きな差を生んだ

アンバウンド200マイルレースを完走した永田隼也と愛車のキャノンデール SuperX LAB71 photo:Makoto AYANO

タイヤは今回、フロントに50C、リアに45Cをチョイス。50Cの選択は正解で、とにかく走破性の高さと路面の細かいギャップを気にしなくて良かった。タイヤ下だけで凹凸をいなすイメージで、とにかく楽だ。距離が長くなればなるほどにこの恩恵は大きい。そして密集した集団走行で視界がゼロの時は路面を気にする余裕がなく、タイヤが何回か大きな石にヒットしたが、全く問題無かった。

今回は泥詰まりを懸念してフロントのみ50Cのチョイスとしたが、ドライ条件のレースなら前後に履いてみたいと思うほどに快適だった。今回は酷い泥だったが、タイヤ周りに詰まることはなかった。

オイルを追加で射しながら雨と泥のなかを走った駆動系は凄まじい状態に

チェーン潤滑にはワックスを使った。走れるだけワックスで走り、切れてきたらオイルを射す作戦だった。しかしワックスはやはり雨に弱く、想像より早く切れてしまった。ドライ条件では埃を寄せつけないのは快適なのだが、今回のような極悪コンディションとなるとやはりオイル。ワコーズのエクストリームを常備して、途中で注油しなが走っていたが、2回射しただけで最後まで快適に走りきれた。

やはりここまで過酷なコンディションになるとチェーンオイルが優位だ。これもノウハウ的に良い収穫になった。

200マイルをともに闘ったキャノンデール SuperX 走って分かったこと

SuperXはグラベルバイクとして最速の一台であり、乗ってすぐに現代の高速化したグラベルレースシーンのために作られたバイクであることが分かる。しかしヨーロッパのUCI系グラベルレースに全振りしているわけでなく、日本特有のトレイル系グラベルでの走破性が高いことにも驚く。マウンテンバイカー的な目線でも、不安なく下りをこなすことができて、上りはとにかく気持ちいいぐらいに登ってくれる。

過酷な条件で200マイルを走り終えたキャノンデール SuperX LAB71 photo:Makoto AYANO

これはジオメトリーから生み出されるもので、跨った瞬間にヘッドアングルに安心感を覚える。荒れた下りや、高速の砂利の下りでもとにかく安定感が凄い。

グラベルバイク特有の、フロント荷重で抜けそうな不安感が無い。バイク任せで走れる感じがとにかく気に入っている。速くて軽い=日本のグラベルには不向き、という概念を変えてくれるバイクだ。

グラベルでのSuperXはしなやかな走りが特徴的で、砂利の表面を浮いているかのような感覚で突き進んでくれる。細かい振動がこないのだ。これは長時間走り続けるうえで重要で、バイクにしっとり感があり、それでいて踏めば鋭く反応してくれる素晴らしいバイクだ。

アンバウンドのようなレースにはもちろん最高で、今年は悪天候とパンクに見舞われて長時間ストップを繰り返してしまったが、それでも昨年とタイムが大きく変わらなかったのはSuperXの高性能があってこそだったと思う。

SuperXはすべての人におすすめしたいキャラクターなのだが、まずは高速グラベルバイクを求めている人、ロードバイクにグラベルタイヤを付けただけのようなピーキーなバイクじゃなく、荒れ気味のグラベルもこなせるレースバイクを探している方には是非乗ってもらいたい。

そして一台でグラベル・シクロクロス・ロードライドの全てをこなしたい人に。実際、アンバウンド前の準備ではロードでの200kmライドをグラベルタイヤのまま何回か走ったが、快適で驚いた。ロードタイヤにしたらロードバイクとして普通に速いと思う。

しかしそんななかでもおすすめのセッティングは、やはりグラベルレースバイクとして仕立てることだ。自分のおすすめセットアップは1X(ワンバイ)仕様。ワイドタイヤのクリアランスも確保出来るし、軽量化もできる。タイヤはフロント50C・リア45Cが、このバイクの速さを引き立てて好感触だ。

200マイルを走って分かったこと 感じた1✕の可能性

過酷だったレースを物語る1✕駆動系。トラブルはなく、泥にも強かった photo:Makoto AYANO

昨年のアンバウンドでは2Xを熱く語ったが、今年は1Xでの参戦。導入の最初のきっかけはリアタイヤのクリアランスを確保したいところからだった。正直2Xが好きだし、今年も2Xを使いたかった。やはり2Xは脚を合わせやすいし、疲れてきた時に間にギア1枚あるか無いかは軽視できないイメージがあった。しかし近年海外のグラベルシーンは急速に1X化してきており、その理由も気になっていた。

当初はあまり良いイメージが無いままの1X導入だった。まず最初はフロント48T、リア9〜45Tのセットアップ。日本だと巡航速度を上げて乗るのは舗装路になるわけで、乗った時はイメージした通りで「なんだか脚に合わないな〜」というのが最初の印象だった。そして日本のグラベルでは直面する激坂登りではローギアが足りなかった。

最初は、脚が合わない・ギアが足りない、と日本の低速グラベルでは良いイメージが無くてどうするか悩んだ。そこでシマノの島田さんにも相談させてもらい、リアのスプロケを10〜51Tにしてみた。ここから一気に1Xへのネガティブが消えていく。

とくに江戸川のフラットグラベルのような、巡航速度を高く保った走りができる環境では全く印象が変わった。グラベルでは舗装路で走るときほどギア歯数の飛びが気にならない。きっと路面のトラクションが強くなく、トルクが分散するのもその理由だと思う。高速巡航に関しては全く不安が消えた。

あとは登りでギアが足りるか。去年のアンバウンドでも、普段であれば全く問題無い丘のような登りでも、後半の極限状態で走ってる時には辛かった。そんな登りへの不安もリア51Tスプロケを装着して走ったら消えた。そしてフロント48T✕リア51で、ビッグリングどうしの組み合わせで、なんだか「かかり」が良い。登りもパワフルで楽だった。こうなると使わない理由が見当たらない。

FDを無くせて、チェーンリングも1枚になり、軽量化できてトラブルリスクも軽減、そしてリアのドライブトレイン周りはMTB規格のものを使用できるとくれば、スタビライザーが強くて荒れた下りでもチェーンがガチャガチャと暴れることがないし、高速グラベルでの強振動状態でもスパスパと変速できる。脚を合わせてギアを替えなくていいのは本当に気持ちいい。

最初に持ったネガティブは今となっては全く無くなり、むしろ気に入っている。まだ1Xじゃない人はすぐにでも使って欲しい素晴らしいシステムだ。
text:Junya NAGATA photo : Makoto AYANO, Life Time 
提供:インターテック, 協力:シマノ