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今年で20周年を迎えたグラベルレースの最高峰イベント、アンバウンド・グラベルがアメリカ・カンザス州を舞台に5月29/30日に開催された。豪雨、雷、雹、泥という史上最悪のコンディションに見舞われた過酷なレースに過去最大の約5,000人が挑戦。20人の日本人選手たちの模様についてもレポートします。

カンザス州エンポリアを拠点にグラベルへと走り出すUnbound Gravel ©️Lifetime

アンバウンド・グラベル(Unbound Gravel )はアメリカのイベント会社ライフタイム(LIFE TIME)社が主催。2006年に始まった大会は年々人気が加熱し、今年は総参加者数で約5,000人を集めて開催された。初開催から20周年を迎える記念大会に、日本人も21人が参加した。

レースの参加カテゴリーは日をまたいで350マイル(573km)を走るXL、「オリジナル」と呼ばれる200マイル(333km)、100マイル(170km)、そして入門向けの50マイル(79km)、25マイル(40km)が用意される(今年の実測距離。1マイルは1.6km)。

開幕前のシェイクアウトライドから気分は盛り上がっていく ©️Lifetime

20周年を迎えたアンバウンド・グラベル。参加者数はついに過去最大の約5,000人以上に。しかし抽選による定員があるためエントリー希望者数はその数倍に上るという。欧米各国で開催されるグラベルレースがアンバウンド・グラベルの出場権を得るための予選となり、出場するためにはそれらで好成績を挙げなければらない。ただし大会主催者は多くの国から参加者を迎えたい意向があり、参加者の国籍は52ヵ国に及び、日本人については今年も条件無しに参加することができた。

ライダーを歓迎するグラナダシアターのイルミネーション ©️Lifetime

昨年から引き続きシマノが冠スポンサーをつとめる。グラベルライドの普及を目指し、すべてのサイクリストを支援するシマノが掲げるスローガンは「UNITED IN GRAVEL(グラベルで一つになろう)」だ。

シェイクアウトライドでタイヤ空気圧チェックと友人づくり ©️Lifetime
世界各国からライダーが集まる多様性がアンバウンドの魅力だ ©️Lifetime


今年の日本人参加者は21人。XLクラスに山本健一、福本晃祐、福田暢彦の3人。200マイルに阿部嵩之(ヴェロリアン松山)、永田隼也・島田真琴・田村繁貴(乗ルンジャー)、田淵君幸(TRYCLE)、井上浩貴・近藤貴大(パナレーサー)、有馬亮輔の8人。100マイルに木戸幸太、稲垣郁雄、森大地(TRYCLE)、秋吉健(パナレーサー)、加藤一司・神谷理紗・多田光平(スペシャライズド福島)、西野まこと、綾野真(シクロワイアード)ら9人。50マイルにパナレーサー社長の大和竜一が参加した。 

南ルートは緑に溢れているのが魅力だ ©️Lifetime

アメリカ中西部の穀倉地帯として知られるカンザス州の大草原地帯「グレートプレーンズ」。そのど真ん中に位置するカンザス州の田舎町エンポリアは、大会期間中5,000人のグラベルライダーとその家族たちを迎え、年間通してもっとも賑わいを見せる。トップライダーから一般参加者たちが「シェイクアウトライド」と呼ばれる試走を一緒に走り、レースまでの日をともに過ごす。

尖った石が牙を剥くフリントヒルズ ©️Lifetime

この地域一帯には緑の大平原が見渡す限り広がり、農道などの生活道であるグラベル=未舗装路を使ってルートが設定される。そのルートを特徴づけるのが「フリントヒルズ」と呼ばれる瓦礫の多い路面だ。

フリントヒルズの名前の由来となっている燧石(ひうちいし)は、先住民が矢尻や槍に用いた尖った石。砂利状のグラベルは容赦なくタイヤを痛め、パンクを誘発する。そしてこのカンザス州はオズの魔法使いの主人公ドロシーの故郷であり、物語に出てくるとおり雷と竜巻で有名な土地。

日暮と共に雷雨が近づきつつあった ©️Lifetime

レースウィークの参加者たちの話題は常に天気のこと。週間予報は雨がちで、開幕2日前には一日中雨が降り続いた。晴れれば一気に路面が乾くが、雨だと泥になるやっかいな地質なのだ。

悪天候で過酷を極めたXL 史上最低の完走率のなか山本健一が2年連続完走


昨年のXL覇者ロブ・ブリットン(右)とレジェンドのテッド・キング ©️Lifetime

金曜の午後3時には他クラスに先がけて最長クラスのXLがスタート。日跨ぎで350マイル(=560km)を走るウルトラディスタンスレースには過去最大人数となる234人が参加(昨年は180人)し、年々盛り上がりを見せる。

グループを組んで走るXLの上位集団 ©️Lifetime

日本人では昨年24時間55分53秒で完走し、総合28位の好成績をマークしたプロトレイルランナーの山本健一と、その友人の歯科医・福本晃祐が出走。なお昨年完走して2度目の挑戦となるはずだった福田暢彦は事情により前日に帰国・DNSとなった。

夜が更けるなか走り続けるXLのライダー ©️Lifetime

爽やかな晴天のなか走り出したXLだが、その夜にはカンザス一帯を広く雷雨が襲った。参加者たちはライトを点けて走る雨のナイトライド、そして多くの区間で粘着質の”ピーナツバター泥”との闘いを強いられることに。

オズの魔法使いが居るような雷雨がカンザスを襲う ©️Lifetime

XLを最速でフィニッシュしたロビン・ゲムペーレ(スイス)。32インチバイクを駆った ©️Lifetime

350マイルを最速でフィニッシュしたのはウルトラディスタンスのプロサイクリスト、ロビン・ゲムペーレ(スイス)。2位に1時間近い差をつけたゲムペーレの駆ったバイクは話題のスコット製32インチホイール採用プロトタイプバイクで、「間違いなくこの32erホイールが効いたよ」とは勝利のコメント。タイムは21時間20分、平均時速は26.89km/hと、ドライだった昨年より大幅に遅いスピードだったことが過酷さを物語る。

山本健一は28時間45分43秒、総合19位でフィニッシュ photo:Makoto.AYANO

2度目の夜を迎える参加者も多いなか、山本健一は日暮前に28時間45分43秒、総合19位でフィニッシュ。泥に苦しみ、期待されたトップ10入りの目標は叶わなかった。

「午前2時の雷雨でピーナッツバター泥があちらこちらで出来上がり、4時間ほどで断続的に10kmほどを押したり担いだりしました。草のない区間、泥沼歩きの自転車担ぎは初めてで、また経験値上がりました」と笑う山本は、8月にスペインで開催される800kmレース、badlands(バッドランズ)に挑戦すると言う。

530km地点まで走ったところでリタイアした福本晃祐

山本の友人で初出場となる福本晃祐は、泥に苦しみ、530km地点まで走ったところでタイムアウトまで残り3時間。その時点でトラブルを抱えていたこと、雷雨が酷すぎたことでリタイアを選択することに。

「あと30km....残念ですが良い経験になりました。またドライコンディションでチャレンジしたいです」と福本。しかし過酷なアンバウンドを心から楽しめたと言う。

なお悪天候により過酷を極めたXLクラスは237人出走で完走はわずか61人。完走率は26%という史上最低のものとなった。ちなみに非公式の最終走者のタイムは46時間49分だった。

雨、雷、強風、雹、泥.....史上最悪とも言える過酷なレースに


アンバウンド・グラベルのメインルートは2年ごとに北と南のコースを入れ替えて開催されており、今年は3年ぶりに南周りルートが採用された。南のグラベルは北のそれより「アップダウンに富み、泥になる危険が潜んでいる」と評される。牛が群れる緑豊かな牧草地が広がるのも特徴的だ。

ピーナツバターマッドと形容される泥は簡単に落とせるものではない

前回に南ルートを走った2023年は、粘りつくように重いピーナツバター泥が選手たちを襲い、すべての選手が泥が詰まって動かなくなったバイクを担いでの13kmにもおよぶ押し歩きを強いられたのは忘れられない苦い思い出だ。

そしてその心配は的中する。スタート前には「午後にかけて雨、そして時々雷雨になる」との予報がでていたが、早々に雨が降り出したのだ。

泥とぬかるみが深く、”マッドマラソン”と言える状況に photo:Makoto AYANO

雨は徐々に激しさを増し、落雷と強風を伴ってライダーたちに容赦なく降り注ぐ。時折降り止む気配を見せるものの、コース序盤から湿った路面が牙を剥き始める。名物のピーナツバター泥の出現だ。

粘度の高い泥がフレームとタイヤにびっしりと積もり、それまで回っていたホイールが突如止まる。そうなると持参したスティック等で掻き出さなければ泥は除去できず、コース上のあちこちで立ち往生する選手たちが続出する。

水たまりでバイクを洗って泥を落とす photo:Makoto AYANO

粘度が高い泥は水をかけて緩めなければ取り除けず、多くの選手たちが乗ることを諦めてバイクを担いで歩き出す。

200マイルエリート男子はマッズ・ヴュルツ・シュミットが初優勝


スタートを待つエリート男子。ライフタイムグランプリシリーズのランキングによる ©️Lifetime

過酷なコンディションとなったのはエリート男子でも同じ。今年も多くの元プロロード選手がグラベルに転向し、アンバウンドに挑戦した。なかでも話題はツール・ド・フランスのスター、ロマン・バルデ(フランス)の初参戦だ。

注目のロマン・バルデ(フランス)は100マイル地点でリタイア ©️Lifetime
もはや川渡りのような状況だ ©️Lifetime


家族連れでアメリカにやってきたバルデ。金曜のキッズクリテリウムでは息子のアンガス君(6歳)が優勝したが、バルデ自身にはアンバウンドは優しくなかった。泥と悪天候の過酷さに負けたバルデは100マイル地点でリタイアを強いられる。

雨が降り出し、徐々に路面の泥を呼ぶようになる ©️Lifetime

トップ争いは抜きん出た力を見せるマッズ・ヴルツ・シュミット(デンマーク)とキーガン・スウェンソン(アメリカ)のスペシャライズド・オフロードチーム2人がリードし、レース半ばで追走グループに約10分という大差をつける逃げ体制に入った。

緑の草原が広がるカンザス大平原を走る ©️Lifetime

先頭を行く2人だがマッズ・ヴュルツ・シュミット(デンマーク)の強さが際立つ ©️Lifetime

ヨーロッパチャンピオンの証、白にブルーのストライプが入るジャージを着たグラベル欧州選手権覇者シュミットと、前年のライフタイムグランプリのシリーズチャンピオンとなったスウェンソンの2人のランデブー。しかし尖ったフリント石がシュミットのリアタイヤを深く切り裂いた。

パンク修理に手こずるシュミット、それを手伝うスウェンソンだったが、エア漏れを止めることができない。そこでなんと王者スウェンソンがシュミットに対して自身のリアホイールを差し出すことに。

パンクしたシュミットに自身のホイールを差し出したスウェンソン

同じスペシャライズドのチームメイトとはいえ、勝てる可能性が高いシュミットにグラベル王者スウェンソンが自己犠牲を申し出たことに衝撃が走った。エースのためにアシストが犠牲となるのはロードレースでよく見る光景だが、そのシーンがまさかグラベルレースで見られるとは。

膝上まで浸かる川になったトンネルを渡る ©️Lifetime

確かにこの日もっとも強かったのはシュミット。ホイール交換を終えて再出走すると、それまでと同じペースを一人で保って独走体制を固める。一方のスウェンソンはTPUチューブを入れてのパンク修理の際にスプロケットを路上に落下させてしまい、一度は走り出したものの内部のスプリングを路面に残したまま「掛からない」フリーホイール状態で再びストップ。さらに修理に時間がかかるスウェンソンを追走グループがパスしていった。

距離を重ねるともはや選手たちの判別は不可能に ©️Lifetime

前年覇者キャメロン・ジョーンズ(アメリカ)は32インチホイール採用のスコットのプロトタイプバイクで走った ©️Lifetime

この追走集団には前年覇者キャメロン・ジョーンズ(アメリカ)も居た。ジョーンズもまたスコットの32インチのプロトタイプバイクを駆ることで話題を呼んだが、この日のシュミットの強さは別格だった。

トビアス・コンスタッド(デンマーク)とマシュー・ビアーズ(南アフリカ)がトップ2人を追う ©️Lifetime

後続に約5分の大差をもって逃げ切ったシュミット。9時間4分51秒のタイムは昨年の史上最速タイムに約27分及ばなかったものの、超過酷なコンディションを考慮すれば驚異的なタイムと言える。なぜなら天候次第でエリート男子のタイムでも2、3時間は違ってくるのが通例だからだ。

誰も寄せ付けない強さで圧勝したマッズ・ヴュルツ・シュミット(デンマーク、スペシャライズド) ©️Lifetime

アメリカ人が勝利を重ねてきたアンバウンドで、2022年に優勝したイヴァール・スリックに次ぐヨーロッパの選手の勝利。2位にはマシュー・ビアーズ(南アフリカ)が単独で入り、スペシャライズドオフロードチームのワン・ツー・フィニッシュとなる。

前週のスペインでのTraka360に続く勝利で、これまでの出たレースすべてに勝利を重ねるシュミットは、まさに今「地球上でもっとも強いグラベルレーサー」となった。
シュミットは言う。「今日は本当に調子が良かった。でもキーガンが居なかったらこの勝利は成し遂げられなかった。彼こそがチャンピオンだ」。

圧倒的な独走勝利を見せたマッズ・ヴュルツ・シュミット(デンマーク、スペシャライズド) ©️Lifetime

スウェンソンからホイールを受け取ったことについて訊かれると、「彼は『君には僕のホイールが必要だ』と言ったんだ。なぜなら僕の方が強いことが明快だった。僕とキーガンでは僕が勝つチャンスが大きかったんだ。だから彼は犠牲になってくれた。彼はシリーズ総合成績とすべてを僕に捧げてくれたんだ」。

男子200マイル表彰 優勝はマッズ・ヴュルツ・シュミット(デンマーク、スペシャライズド) ©️Lifetime

24分遅れでフィニッシュし、5位に終わったスウェンソンは言う。「僕たちのどちらかが勝たなければならなかったけれど、僕は100%の状態じゃなかった。僕のホイールで彼が勝てるならそれでいい」と、チームワークを強調した。スウェンソンは昨年末の骨折から3月に復帰して以来、本来の強さには達していなかったのだ。

絞り込まれたエリート女子の精鋭集団 ©️Lifetime

浸水したトンネルを渡る2024年覇者キャメロン・シフ(ドイツ) ©️Lifetime

エリート女子は後半150マイル地点までに5人のグループに絞られる。そのままの体制でエンポリア市街へと戻ってきたが、最後の登りを経てのスプリントでソフィア・ゴメス・ビジャファニェ(アルゼンチン)が強力に先行、トップフィニッシュした。

2度目の女子エリートを制したソフィア・ゴメス・ビジャファニェ(スペシャライズド) ©️Lifetime

そこに続いたのはゲーリケ・シュルールス(オランダ)で、男子に続き女子エリートにおいてもスペシャライズド・オフロードチームのワン・ツー勝利という結果に。

女子エリートもスペシャライズドのワン・ツーフィニッシュ ©️Lifetime

個と個の闘いに帰する性質が強いグラベルレースにおいて、ロードレース型のチームプレイが機能したレースとして記憶に残るエリート男女レースになった。

女子200マイル表彰 優勝はソフィア・ゴメス・ビジャファニェ(アルゼンチン、スペシャライズド) ©️Lifetime

200・100・50マイルの各エイジグループに参加した日本人選手たち


一般ライダーによるアンバウンドグラベルも、事実上の「非公式のエイジグループのグラベル世界選手権」と呼ぶにふさわしいレースだ。200マイルクラスは欧米の予選を勝ちいて出場権を得た約1,250人が参加する激戦区だ。

阿部嵩之(ヴェロリアン松山)は11時間7分3秒フィニッシュで総合16位、年代別(M35-39)で4位 photo:Makoto.AYANO

昨年は「日本のプロロード選手」としてエリートクラスで初参戦した「アベタカ」こと阿部嵩之(ヴェロリアン松山)だったが、今年は昨年のタイムをもってエイジクラスでの参戦となった(主催者の審査は厳しいようだ)。結果は11時間7分3秒フィニッシュで総合16位、年代別(M35-39)で4位という好成績を残した。出発直前からSNSとYoutubeチャンネル「アベタカ・グラベンチャー」もスタートし、40歳となりますますグラベルに熱のこもった活動を展開するアベタカのこれからに期待だ。

残り15kmへ向かう永田隼也。最終的には2度のパンクを経て12時間55分でフィニッシュ photo:Makoto.AYANO

プロMTBエンデューロレーサーの永田隼也とその仲間たちによるライドユニット「乗ルンジャー」は今年も参戦。永田はレース中2回のパンクに見舞われる。プラグを試すも十分修復できず、その後同じ裂け目から再びパンク。スローパンクを抱えたまま最後の70kmを走ることに。それでも昨年から10分遅れに留める12時間55分でフィニッシュ。

永田「雨、雷、強風、泥、そして晴れと目まぐるしく変わるコンディション。今まで経験したことのない環境のなかで走り、改めてアンバウンドの壮大さと難しさを感じました。なんでこんなに過酷で辛い競技が楽しく思えるのかは自分でもまだよく分からないけど、その中に魅力がある!」。

昨年は落車リタイアだった田村繁貴は13時間38分で完走 photo:Makoto.AYANO

昨年は80km地点のクラッシュに巻き込まれて肩を負傷し、リタイアを強いられた田村繁貴は13時間38分で完走。日没前フィニッシャーの称号「Race the SUN」を手にし、感激のあまり涙を流した。

田村「今年は炎天下からサンダーストームまで天気が目まぐるしく変化して、路面もドライ〜マディ〜コースが川になる状態と、あらゆるコンディションを走り抜けた13時間でした」。

12時間17分の好タイムで94位(1,250人中)だった島田真琴 photo:Makoto.AYANO

シマノセールス勤務の島田真琴は1月から5,500kmを乗り込んでこの日に備えたと言う甲斐あって12時間17分の好タイムで94位(1,250人中)。

島田「目標だった12時間は超えたが、かなりいいペースで走れた。スタートには成功して集団の先頭にいたが、泥セクションで激しく転倒してしまった。先頭に追いついたが80km地点からは独走に。初参加としては良い走りだったと思う」。周到な準備と計算づくの走りはさすが。ヨーロッパでロードレーサーとして活動した経験が活かせた。

2年前は途中リタイアに終わった田淵君幸(TRYCLE)は13時間14分、245位で完走 photo:Makoto.AYANO

2年前は途中リタイアに終わった田淵君幸(TRYCLE)は13時間14分、245位で完走。田淵「泥、雷雨、担いで腰まで水に浸かるトンネル。今年はかなりバライティに富んだタフなコースだった。グラベルライダーである以上一度は走っておきたかった大舞台。なんとか生きて完走できました!」。

日が暮れるなか走り続けるパナレーサーの井上浩貴と近藤貴大ペア

グラベル初心者ながら果敢に200マイルに挑戦したパナレーサー社員の井上浩貴と近藤貴大のペアは19時間をかけて深夜にフィニッシュ、無事生還を果たした。ちなみに井上は話題の新製品グラベルキングZXのタイヤ開発リーダーだ。

井上浩貴と近藤貴大のペアは19時間18分で深夜のフィニッシュ

アメリカ在住の有馬亮輔は2度目の参戦。しかし第2チェックポイントから再出発する際に間違えて他クラスのルートに進んでしまい、のちに気づいて戻ることになったがロスタイムが大きすぎ、完走を諦めリタイアすることに。

100マイルのルートには泥で乗れない区間が長く続いた

クラス最大人数の1,600人が参加した人気の100マイルクラスは、泥の影響を大きく受けるルートを走る過酷なレースに。刻一刻と天候が変わり、途中激しい雷雨に見舞われる。名物「Dヒル」ではピーナツバター泥が襲い、田んぼのようなぬかるみを数キロに渡ってバイクを担いで歩くセクションも続き、試練のレースとなった。

泥の深い道を避け路肩を歩き続ける選手たち photo:Makoto AYANO

それでもトップは5時間04分の脅威的なタイムでフィニッシュ。日本人は初参加の森大地が6時間11分の好タイムで総合96位。M30-39では10位と、表彰台まであと一歩の成績。

森「跳ねあげた泥でサングラスが汚れて路面が見えなくなり、サイコンが汚れて距離が見えなくなり、早く終わることだけを願いながら走ってました」。

同じく初参加の木戸幸太が7時間33分の好走。「グラベルレースは初めてだったのですが、雨、泥、雷と、グラベルの醍醐味を一度に味わうことが出来たのが大きな経験でした。特にピーナッツバター泥は凄まじく、川で自転車を2回洗いました。日本で経験できないこと。カンザスに来た甲斐があったというものです」。

木戸幸太はアンバウンド初参加で7時間33分の好走
ピーナツバター泥が積もってもはやどうすることもできない....
「泥の過酷さに驚いたがそれも楽しめた」と稲垣郁雄


稲垣郁雄は9時間32分でフィニッシュ。「走りやすい砂利や粘土質の難路、稀に日本の林道のような路面があったりと、グラベルの表情がコロコロ変わっていくのが面白く、走っていて飽きませんでした。粘土ドロドロ区間でバイクのあらゆる所に詰まりすぎてリタイア寸前の絶望感を味わったのも良い経験。ただ走るという以上にいろんな過酷さを感じることができて、ゴールした瞬間はとても気持ちが良かった」と言う。木戸と稲垣は「いつか200マイルにもチャレンジしてみたい」と話す。

スペシャライズド福島の加藤一司・神谷理紗・多田光平さんの3人は最後まで一緒に走った

スペシャライズド福島の加藤一司・神谷理紗・多田光平さんの3人は、普段からグラベルイベントを一緒に走る仲間で、初参加の3人揃って最後まで一緒に走った。

神谷「これだよ、これ!まさに、私はこんなレースを求めていた!スタートからゴールまで最高の10時間。海外レースは少しハードルが高く感じるかもしれません。でも勇気を出して一歩踏み出せば、世界が広がり、人生を変えるような経験になる。そんなことを実感しました」。

多田「個人的には最高に楽しかったです。ピーナッツバターもドライのグラベルも両方堪能できて、コスパが良かったと思っています。ぜひまた行きたい」。

スペシャライズド福島の3人は揃って完走してこの笑顔

加藤「押しても進まない。乗っても転ぶ。何度も気持ちが折れそうになりながら、それでも3人で声を掛け合い、前へ進み続けました。過酷な環境だったはずなのに、不思議と3人とも笑顔だった。苦しさ以上に、仲間と同じ景色を見ながら進んでいる時間そのものが特別だったのかもしれません。アンバウンドは単なるレースではなくセルフディスカバリーの旅でもある。だからこそ参加者同士の絆は自然と深まり、今回は3人で走れたことが大きな支えになった。順位やタイムだけでは語れない人との繋がりや、自分自身を再確認できる“冒険のような体験”でした」。

パナレーサーの秋吉健さんはアンバウンドから学んだことを国内イベントに活かしてくれるだろう

日本国内で様々なグラベルイベントを裏から支えてきたパナレーサーの秋吉健さんも初参加。「この特別な体験を日本でも再現したい。そんな想いで運営・参加者・エキスポ出展それぞれの視点からアンテナを張って過ごした数日間。現場にはヒントだらけ。帰国後、少しずつ形にしていきます。レースは過去の“しんどい”を全部詰め込んだ内容だったらしく、ある意味めちゃくちゃ贅沢(笑)で、とにかく面白かった。これを日本でやりたい!」と、多大なるインスピレーションを受けた様子だ。

5度目の100マイルを7時間40分でフィニッシュした綾野真(シクロワイアード) photo:Makoto AYANO

そして筆者・綾野真(シクロワイアード)は5度目の100マイルを7時間40分でフィニッシュ。豪雨と雷に打たれ、泥にまみれた今回は過去5年でもっとも過酷だった。バイクにとっても過酷で、スリック系タイヤを使っても泥が詰まって何度もスタック。洗車ができる水溜りを求めてバイクを担いだ。昨年より長くかかった77分が、泥との格闘に要した時間だ。

なお100マイルのリザルトにはシングルスピードで9時間58分で走り切った西野まことさん(富山)の名前がある。そして最高齢93歳で挑戦を続けてきたフレッド・シュミットさんは自身最後の100マイルレースに挑み、今回のリタイアを最後に引退することを決めた。

井上浩貴と近藤貴大ペアは200マイルを19時間かけて深夜にフィニッシュ、生還した

初心者に優しい25マイルと50マイルも用意されるが、50マイルには今年もパナレーサーの大和竜一社長が参戦。泥コンディションに苦労したが、まだ未発表の新型タイヤのテストもこなしたという。UCI Gravel World Seriesの冠スポンサーにも就任したパナレーサーは渡米したスタッフ全員でアンバウンドを楽しみ、体験から得たノウハウを製品づくりと次の機会に活かそうという気概を感じた。

悪名高い2015年、そして2023年と、今までも悪天候と泥にまみれた年はある。しかし今年はカンザス名物の豪雨、落雷、強風、泥、膝上まで泥水に浸かる渡渉、押し担ぎ等、すべての悪条件が揃った過酷な試練の連続だった。

アンバウンド・グラベルは単なるレースではなく、大自然との闘い。改めてその厳しさを突きつけられた1日だった。途中で諦めた人も含め、すべての挑戦者に賞賛を。

2026 Life Time UNBOUND Gravel 主要リザルト
XL 350マイル
男子優勝 ロビン・ゲムペーレ(スイス) 21:20:05
女子優勝 スヴェニャ・ベッツ (ドイツ) 27:11
200マイルエリート男子
1位 マッズ・ヴュルツ・シュミット(デンマーク、スペシャライズド) 9:14:51
2位 マシュー・ビアーズ(南アフリカ、スペシャライズド) 9:19:54
3位 トビアス・コンスタッド(デンマーク、PAS Racing) 9:24:43
4位 ブレンダン・ジョンストン(オーストラリア、ジャイアント) 9:36:46
5位 キーガン・スウェンソン(アメリカ、スペシャライズド) 9:39:19
200マイルエリート女子
1位 ソフィア・ゴメス・ビジャファニェ(アルゼンチン、スペシャライズド) 10:31:37
2位 ゲーリケ・シュルールス(オランダ、スペシャライズド) 10:31:38
3位 セシリー・デッカー(アメリカ、PAS Racing) 10:31:38
4位 パイージュ・オンウェレー(アメリカ、トレック・ドリフトレス) 10:31:38
5位 ローザ・クローザー (ドイツ、キャニオン・スラム・ゾンダクリプト) 10:31:39
text&photo:Makoto AYANO
photo : Life Time