本社取材で紐解くフェルト渾身の新型エアロロード、NEXAR(ネクサー)の総力特集後編。今回は、ヘッドエンジニアに訊ねたNEXARの開発ストーリーと、バルセロナでのファーストインプレッションの模様をお伝えします。エアロロードの枠を遥かに飛び越えた軽い走りに驚くテストライドとなった。

ヘッドエンジニアを務めるギエム・クゾー氏。NEXARについて聞き、共にライドすることができた photo:So Isobe
「各社のエアロロードを見てください。コラムスペーサーを山のように積まず、設計者の意図通りに乗れるライダーがどれだけいるか。ポガチャルのようなフォームで走れるのは1%以下でしょう。全員が強靭な身体を持つプロ選手ではないのです」と言うのはNEXARの開発を統括したギエム・ロペス氏だ。彼の言葉は、現代のレースバイクが陥っている矛盾への指摘から始まった。
その解答が大胆なジオメトリーの刷新だ。バルセロナの隣街に住み、時間が空けばライドに出て新しいアイディアを考えているという彼の口からは、最適解を求めたストーリーが淀みなく溢れ出す。
「コラムを山のように積んだバイクは美しくないし、空力も剛性も損なわれる。なら、最初からヘッドを伸ばした方が合理的です。最初からヘッドチューブを伸ばせばポジションも楽になり、空力も向上し、ヘッド剛性も高まる。これこそが現実的な速さです。NEXARは、全ての人が速く走れて、それでいて長く愛されるシンプルな自転車でなくてはならなかった。S5やY1Rsのようなヒンジフォークや特殊なコクピットもありません」。

フェルト経営陣の一人であるフロリアン・ブルゲ氏 photo:So Isobe 
マーケティングを担うセルジ・ムニョス氏。新世代フェルトのビジュアルを一身に背負う photo:So Isobe

「全ての人が速く走れて、長く愛されるシンプルな自転車でなくてはならなかった」 photo:So Isobe
「結果的に、サイクリングニュースの風洞実験において現状最もエアロなファクターONEから4%ダウンという結果に収まることができた。これは非常に満足すべき結果だと思いますし、フレーム800gという軽さを踏まえれば非常に競争力は高い。また、ARと比較してフレーム内の幾つかの部分では、過剰とも言えた剛性値を少し落とし、トータルバランスを考慮しています」。
フェルト本社でNEXARに触れた第一印象は、とにかく鋭利で速そうなデザインだな、ということだった。昨今リリースされているのエアロロードバイクのほとんどが、ワイドスタンスのフロントフォークや、マッシブで太いダウンチューブなど横方向にも広いデザインが現代エアロロードにおけるスタンダードであるのに対し、NEXARはヘッドチューブやダウンチューブ、シートチューブ〜シートポストに至るまで限りなく「横に薄く前後に長い」。極めて「板っぽい」造形やリアタイヤに沿わせたシートチューブは、初代ARやトラックバイク「TK」にも似通っていて、フェルト本来のアイデンティティを感じさせるものだ。

ロペス氏が駆るのは少し小さい56サイズ photo:FELT
2008年にデビューするや否や、当時デーヴィッド・ミラーを筆頭にTTスペシャリストを揃えたスリップストリームチームのメインバイクとなった初代ARは、フェルトのエアロモデルが最も輝いていた時代(続いてサポートしたアルゴスはFRがメインバイクだった)。コラムスペーサーを入れてないにも関わらず「近くて高い」ポジションに少なくない違和感を抱きつつ、用意された54サイズのNEXAR(FRDのデュラエース完成車)に乗ってバルセロナ郊外のルートに繰り出した。
ルート案内をしてくれたのは開発を主導したロペス氏。一対一で彼が作ったバイクに乗るという贅沢な時間。まずペダルを踏んだ瞬間に伝わってきたのは、とてもエアロロードに乗っているとは思えないほどの軽快感だった。

筆者と54サイズのNEXAR。デュラエース完成車でフルセット6.8kg+α(コンピュータ無し) photo:FELT 
見た目からは想像できないほど走りは鋭く、軽快。ヒルクライムマシンを完全に喰っている photo:FELT
一般的に「エアロロード」と聞いて想像するのはどのような乗り味だろうか。それはきっと、ほとばしるパワーで突き進むように走るヨーロッパ選手の期待に応え、ときに一般ユーザーを苦しめることにも繋がりかねない高剛性や、中〜高速域で伸びる反面踏み出しの重さ、まっすぐ突き進むようなハンドリング、といったところだろう。高性能化や軽量モデルとの融合が進むにつれ、エアロロードが普遍的に抱えてきたそれら課題は改善されつつあるが、軽量モデルと比べれば、まだ多くのエアロモデルがそういった性格寄りであることは間違いない事実だ。
しかし、NEXARの乗り味はそれらとは全く別で、恐ろしいほど軽快だ。ハンドルからもペダルからも車体の剛性は伝わってくるものの、一切「タメ」を作らず、ペダルを踏みこんだ瞬間にカキンと加速する。ゼロ発進から中速、高速域まで、スピードを上げようとする意識に対しての反応がもの凄く早い。デュラエース完成車に装備されるヴィジョンのMetron 45 RSホイールもプラスに働いているものの、それ以上にフレーム側の走りの軽さが光っている。
フロント周りの物理的な軽さと剛性、そして高いハンドル位置ゆえに車体を振るフィーリングが軽く、登坂でのダンシングが小気味良い。今回はバルセロナ近郊のショートライドに留まったため、本格的な峠テストは日本に試乗車が届くタイミングまでお預けとなったものの、少し走った10%ほどの勾配でもキビキビ登ることが良く分かった。

身長176cmの筆者には54サイズがベストフィット。ショートリーチゆえにサイズ選びは慎重に photo:FELT
ボトムブラケット周辺はガッチリと硬く、大パワー・低ケイデンスでしならせるように走るより、ケイデンスを上げながら、綺麗な円を描くペダリングを意識すると好印象。エアロロードらしく、勢いをつけたまま登り返す場面も得意で、もちろん平坦や下りではパワーをかけているイメージ以上にスピードが乗っていく。低速コーナーからの加速を繰り返す日本のクリテリウムでも武器になりそうだ。
その軽快感の源にあるのが、他社のエアロロードとは大きく異なるジオメトリーだろう。全サイズ共通の408mmチェーンステーはどう考えてもクイック感に貢献しているし、物理的にハンドル位置が高いことで車体の振りも軽い(もちろんフロント周りの剛性も貢献している)。54サイズでスタック長558mm、ヘッドチューブ長140mmという「高さ」にレーサーの多くが眉をひそめるかもしれないが、そのメリットは快適性だけではない。もちろん最初はエンデュランスロードに乗っているような気分になったし、ここ最近数々乗る機会に恵まれている他社の最新モデルと比較してもハンドル位置は目を見張るほど高い。しかし、疲れている時、気持ちが切れかかっている時でも身体に優しいのは断然このジオメトリーだ。

フェルト本社から2時間少々ライド。本格的な峠テストは国内に試乗車が届いたのちに実施予定です photo:FELT 乗り心地に関しては、正直硬さは否めない。フレックスが高そうなシートチューブも実はそれなりに硬く、フロントからもリアからも路面の凹凸を伝えてくるので良く言えばロードインフォメーションが素直で、悪く言えば快適ではない。ただしテストバイクはクリンチャー仕様の28mmタイヤ(コンチネンタル GRAND PRIX 5000S TR)だったため、32cまで飲み込むクリアランスを活かしてよりワイドなチューブレス仕様に組み換えればだいぶ印象は違ってくるだろう。
54サイズで90mm(スウィープ形状ゆえにブラケット位置はもう少し遠くなる)というショートステムを前提とするジオメトリーをゆえにダウンヒルのピーキーさを懸念する海外メディアもあるものの、いくつかのコーナーを攻めてみてもそこまで悪いようには思えなかった。確かにホイールベースが短く安定性重視という雰囲気は感じないし、本格的なダウンヒルでは印象が異なるかもしれないが、タイヤのアップデートで印象は変えられるはず。そもそも90mmステムは日本人が慣れ親しんできた長さであるため、我々にとってはそこまで大きな問題とは思えない。

ガーミン・トランジションズ時代にデーヴィッド・ミラーが駆ったTTバイク。フェルトの名声向上に貢献した時代だ photo:So Isobe 
ガーミン・チポレが2008年ツール・ド・フランスで駆ったフェルトAR このときがARのデビューとなった (c)Makoto.AYANO

2020年にデビューした先代AR photo:So.Isobe
正直言って、NEXARの走りは「軽さを身に付けたエアロロード」ではなく「エアロを身につけた軽量ヒルクライムマシン」だ。持って軽く、乗っても軽い。ヒルクライム性能に限ってみても軽量モデルのFRを完全に喰っている。FRの出る幕が本当になくなってしまうのではないかと心配してしまうほどだ。
今回はFRDを短時間乗るだけに留まったが、ここまで素性が良ければスタンダードグレードの走りにも期待できる。一般ユーザーのためを思うジオメトリーも、プロチームを抱えていないからこそできる技。たった1日の取材だったものの、首脳陣と直接会話することで、新生フェルトの気合いと技術力を十分に感じることができたのだった。
大多数のライダーにフィットする、現実的なエアロロード

「各社のエアロロードを見てください。コラムスペーサーを山のように積まず、設計者の意図通りに乗れるライダーがどれだけいるか。ポガチャルのようなフォームで走れるのは1%以下でしょう。全員が強靭な身体を持つプロ選手ではないのです」と言うのはNEXARの開発を統括したギエム・ロペス氏だ。彼の言葉は、現代のレースバイクが陥っている矛盾への指摘から始まった。
その解答が大胆なジオメトリーの刷新だ。バルセロナの隣街に住み、時間が空けばライドに出て新しいアイディアを考えているという彼の口からは、最適解を求めたストーリーが淀みなく溢れ出す。
「コラムを山のように積んだバイクは美しくないし、空力も剛性も損なわれる。なら、最初からヘッドを伸ばした方が合理的です。最初からヘッドチューブを伸ばせばポジションも楽になり、空力も向上し、ヘッド剛性も高まる。これこそが現実的な速さです。NEXARは、全ての人が速く走れて、それでいて長く愛されるシンプルな自転車でなくてはならなかった。S5やY1Rsのようなヒンジフォークや特殊なコクピットもありません」。



「結果的に、サイクリングニュースの風洞実験において現状最もエアロなファクターONEから4%ダウンという結果に収まることができた。これは非常に満足すべき結果だと思いますし、フレーム800gという軽さを踏まえれば非常に競争力は高い。また、ARと比較してフレーム内の幾つかの部分では、過剰とも言えた剛性値を少し落とし、トータルバランスを考慮しています」。
フェルト本社でNEXARに触れた第一印象は、とにかく鋭利で速そうなデザインだな、ということだった。昨今リリースされているのエアロロードバイクのほとんどが、ワイドスタンスのフロントフォークや、マッシブで太いダウンチューブなど横方向にも広いデザインが現代エアロロードにおけるスタンダードであるのに対し、NEXARはヘッドチューブやダウンチューブ、シートチューブ〜シートポストに至るまで限りなく「横に薄く前後に長い」。極めて「板っぽい」造形やリアタイヤに沿わせたシートチューブは、初代ARやトラックバイク「TK」にも似通っていて、フェルト本来のアイデンティティを感じさせるものだ。

2008年にデビューするや否や、当時デーヴィッド・ミラーを筆頭にTTスペシャリストを揃えたスリップストリームチームのメインバイクとなった初代ARは、フェルトのエアロモデルが最も輝いていた時代(続いてサポートしたアルゴスはFRがメインバイクだった)。コラムスペーサーを入れてないにも関わらず「近くて高い」ポジションに少なくない違和感を抱きつつ、用意された54サイズのNEXAR(FRDのデュラエース完成車)に乗ってバルセロナ郊外のルートに繰り出した。
ルート案内をしてくれたのは開発を主導したロペス氏。一対一で彼が作ったバイクに乗るという贅沢な時間。まずペダルを踏んだ瞬間に伝わってきたのは、とてもエアロロードに乗っているとは思えないほどの軽快感だった。
エアロロードの概念を超えた軽快感


一般的に「エアロロード」と聞いて想像するのはどのような乗り味だろうか。それはきっと、ほとばしるパワーで突き進むように走るヨーロッパ選手の期待に応え、ときに一般ユーザーを苦しめることにも繋がりかねない高剛性や、中〜高速域で伸びる反面踏み出しの重さ、まっすぐ突き進むようなハンドリング、といったところだろう。高性能化や軽量モデルとの融合が進むにつれ、エアロロードが普遍的に抱えてきたそれら課題は改善されつつあるが、軽量モデルと比べれば、まだ多くのエアロモデルがそういった性格寄りであることは間違いない事実だ。
しかし、NEXARの乗り味はそれらとは全く別で、恐ろしいほど軽快だ。ハンドルからもペダルからも車体の剛性は伝わってくるものの、一切「タメ」を作らず、ペダルを踏みこんだ瞬間にカキンと加速する。ゼロ発進から中速、高速域まで、スピードを上げようとする意識に対しての反応がもの凄く早い。デュラエース完成車に装備されるヴィジョンのMetron 45 RSホイールもプラスに働いているものの、それ以上にフレーム側の走りの軽さが光っている。
フロント周りの物理的な軽さと剛性、そして高いハンドル位置ゆえに車体を振るフィーリングが軽く、登坂でのダンシングが小気味良い。今回はバルセロナ近郊のショートライドに留まったため、本格的な峠テストは日本に試乗車が届くタイミングまでお預けとなったものの、少し走った10%ほどの勾配でもキビキビ登ることが良く分かった。

ボトムブラケット周辺はガッチリと硬く、大パワー・低ケイデンスでしならせるように走るより、ケイデンスを上げながら、綺麗な円を描くペダリングを意識すると好印象。エアロロードらしく、勢いをつけたまま登り返す場面も得意で、もちろん平坦や下りではパワーをかけているイメージ以上にスピードが乗っていく。低速コーナーからの加速を繰り返す日本のクリテリウムでも武器になりそうだ。
その軽快感の源にあるのが、他社のエアロロードとは大きく異なるジオメトリーだろう。全サイズ共通の408mmチェーンステーはどう考えてもクイック感に貢献しているし、物理的にハンドル位置が高いことで車体の振りも軽い(もちろんフロント周りの剛性も貢献している)。54サイズでスタック長558mm、ヘッドチューブ長140mmという「高さ」にレーサーの多くが眉をひそめるかもしれないが、そのメリットは快適性だけではない。もちろん最初はエンデュランスロードに乗っているような気分になったし、ここ最近数々乗る機会に恵まれている他社の最新モデルと比較してもハンドル位置は目を見張るほど高い。しかし、疲れている時、気持ちが切れかかっている時でも身体に優しいのは断然このジオメトリーだ。

54サイズで90mm(スウィープ形状ゆえにブラケット位置はもう少し遠くなる)というショートステムを前提とするジオメトリーをゆえにダウンヒルのピーキーさを懸念する海外メディアもあるものの、いくつかのコーナーを攻めてみてもそこまで悪いようには思えなかった。確かにホイールベースが短く安定性重視という雰囲気は感じないし、本格的なダウンヒルでは印象が異なるかもしれないが、タイヤのアップデートで印象は変えられるはず。そもそも90mmステムは日本人が慣れ親しんできた長さであるため、我々にとってはそこまで大きな問題とは思えない。



正直言って、NEXARの走りは「軽さを身に付けたエアロロード」ではなく「エアロを身につけた軽量ヒルクライムマシン」だ。持って軽く、乗っても軽い。ヒルクライム性能に限ってみても軽量モデルのFRを完全に喰っている。FRの出る幕が本当になくなってしまうのではないかと心配してしまうほどだ。
今回はFRDを短時間乗るだけに留まったが、ここまで素性が良ければスタンダードグレードの走りにも期待できる。一般ユーザーのためを思うジオメトリーも、プロチームを抱えていないからこそできる技。たった1日の取材だったものの、首脳陣と直接会話することで、新生フェルトの気合いと技術力を十分に感じることができたのだった。
フェルト本社内フォトギャラリー
提供:ライトウェイプロダクツジャパン | text&photo:So Isobe