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ロードバイクの常識をまるごと上書きするようなフロント周り。ファクターの開発陣は、トラックバイクの世界に手を伸ばした大胆な発想を、新型ONEに落とし込んだ。ツール・ド・フランスで世を驚かせたあのエアロロード、ファクターのONEの第3世代がついに正式デビューする。

ファクター ONE。世界を驚かせた新型エアロバイクが正式デビュー

ドーフィネ第5ステージ、スプリントで勝利したジェイク・スチュワート(イギリス、イスラエル・プレミアテック)が駆っていた異形のバイクに世界は注目した photo:CorVos

2025年のドーフィネ第5ステージ、世界は震撼した。エースであるアッカーマンを落車で失ったに関わらず勝利を掴んだジェイク・スチュワートの圧倒的なスプリントだけではない。彼が駆った異形のエアロロードにも、世界中のサイクリストの視線が注がれた。

過去のどのバイクブランドのカタログを見渡しても、同じようなシルエットのロードバイクは存在しないだろう。コンピューターによる解析技術が発達し、既存のルールの中での最適解を求めるレーシングバイクは収斂進化のフェーズに入ったと嘯いたのは誰だったか。そんな、ある種の諦観を含んだ言説をあっさり覆すこの一台に刻まれたのは、ファクターのロゴだった。

ファクター ONE

ONE。それはF1や航空宇宙開発を担うイギリスの技術者集団、Bf1システムズを起源とするバイクブランドが、この新型バイクに与えたモデル名だ。ファクターの歴史に詳しい方であれば、このモデル名が同社のピュアエアロマシンに受け継がれてきたものであることもご存じだろう。

ファクターの処女作である「FACTOR THE 001」はエアロヒンジフォークやダブルダウンチューブなど、唯一無二の設計を与えられ、2009年当時「最も先進的なロードバイク」として絶賛された。このコンセプトは、ブランド初の量産バイクとなったVisViresを経て、2015年には初のUCIリーガルバイクとして「ONE」を発表。

2009年に発表された処女作「001」独創的な機構を多数盛り込み、大きな注目を集めた (c)www.factorbikes.com
初代ファクター ONE ブランド初のUCI公認バイクとして、独創的な機構はそのままにプロレースの最前線を戦うバイクへと昇華された


先代のファクター ONE ディスクブレーキ化を果たし、現代でも通用するエアロロードとなった (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

イギリスのプロコンチネンタルチーム、ONE Pro Cyclingへの供給、そしてワールドツアーではAG2Rへのサポートを通し、トップレベルのレースシーンにおいて、多くの栄光を掴み取ってきた。

多くのブランドがトラックバイクやTTバイクでしか採用してこなかったエアロヒンジ、モノコックカーボンフレーム時代では類を見ない双胴ダウンチューブなど、いかにもコンセプトモデル然としたデザインをUCIルールの範囲内へ落としこみ、プロレースシーンで卓越したパフォーマンスを発揮する。先代のファクター ONEが歩んできた道は、他のどのバイクの足跡も存在しない。まさに孤高のエアロロードだった。

まるで最新のトラックバイクのような極薄のフロントセクション

そして10年の月日が経ち、新たに生み出されたONEもまた同じ道を歩んでいる。かつてないワイドスタンスのフロントフォークとリアステー、カミソリのような鋭さを感じさせるヘッド周り、明らかに既存のジオメトリから逸脱したフロントセクション。

これは、トラックバイクの世界でロータス/ホープが先鞭をつけ、ファクターもHANZOにおいて実現したエアロダイナミクスの理想形。しかし、このコンセプトをよりルールの厳しいロードレーサーに持ち込もうと、持ち込めるとは誰も想像だにしなかった。

だが、ファクターはまたしてもそれを成し遂げたのだ。

全ては史上最速のロードバイクのために

史上最速のロードバイク。ファクター ONEが掲げるミッションはシンプルだ

ここ数年、レーシングバイクを取り巻く環境はピュアエアロロードに冷たかった。エアロで軽く、登りも平坦も一台でこなせるバイクこそが正解とされ、各社のフラッグシップモデルはその方向に舵を切っている。

ファクター自身も例外ではない。OSTROをデビューさせてからというもの、超軽量モデルの02は影を潜め、ピュアエアロモデルたるONEはひっそりとカタログ落ち。しかし、一方でサーヴェロ S5やコルナゴ Y1RSといったスーパーエアロバイクを投入するブランドもあり、振り返ってみれば25シーズンは彼らの存在感が一際大きかったのも事実だ。

京都での展示会でのインタビュー時、「開発ノウハウが進んだこれからはスーパーエアロモデルが復権する」と語ったギティス氏 photo:So Isobe

この現状は、「開発ノウハウが進んだこれからはスーパーエアロモデルが復権する」という、ファクターCEOであるロブ・ギティス氏の予言通りでもある。そして、「FACTOR THE 001」をルーツとするファクターのエアロモデルにかける情熱の灯は途絶えていなかった。

新型ONEが目標としたのは唯一つ。それはUCI規定を満たした史上最速のロードバイクであること。

そのためにファクターが重要視したのは大きく2つ。一つはもちろん言うまでもなく、エアロダイナミクスだ。では残る半分は何か。それはジオメトリだと、ファクターは語っている。

最新のライドポジションに最適化するエアロジオメトリ

ハンドルバーマウントをステアリング軸から分離する構造を採用することで、ステアリングの安定性を高めた

何故、ジオメトリが開発のウェイトの半分を占める重要事項なのか。それは、先鋭化するレーサーのライドポジションが理由だ。

UCIが規制を加えたナローハンドル、ショート化によって前へと出されたサドル、そしてショートクランク。これらのセッティングは、パワーは出やすく、かつコンパクトでエアロな姿勢を取れることで近年主流となっているが、一方でライダーを前輪側へと押し出すポジションでもあり、落車のリスクを高めているという批判も上がっている。

ONEはこの問題に対応するため、最新のライドポジションを前提としたジオメトリを開発している。一見過激に見える設計だが、BBに対するサドル、そしてハンドルの位置関係としては、OSTRO VAMとほぼ共通のポジションを取ることが出来るようになっている。

OSTRO VAMとONEのジオメトリ比較。特異なシルエットだがポジションは違和感のない設計となっている (c)Factor Bikes

そして、ハンドルバーマウントをステアリング軸から分離することで、ハンドリングに悪影響を与える極端なロングステムを用いることなく、長めのリーチを実現することに成功した。一体型ハンドルバーは1~5のサイズが用意され、従来のステム換算でサイズ1が110mmとなり、10mm刻みで150mmまで用意される。

更に、全てのフレームサイズでフロントホイールとつま先の干渉を避ける設計とされながらも、トレイル量を調整することで一貫したハンドリングを実現。前後の荷重バランスを改善する設計によって、現代のレーサーが求める強い前傾姿勢と、安定性とコントロール性を両立させている。

一体型ハンドルバーは1~5のサイズ展開となる。従来のステム換算でサイズ1が110mmとなり、10mm刻みで150mmまで用意される (c)Factor Bikes

そして、ショートクランク化とワイドタイヤ化による高重心化に対応すべく、新型ONEはハンガー下がりを5mm増加させている。ショートクランクを採用した際、一般的なライダーは短縮したクランク長さの2倍、サドル高を上げることが多いため、5mmBB位置を下げることによってクランクを2.5mm短縮したライダーの重心を同じ位置に留める効果を発揮する。これにより、ハイスピードな下りでも安定した挙動となるはずだ。

高速となればなるほど、わずかなミスが落車に繋がる可能性が高まる。史上最速を実現する以上、安定したライドフィールは必須項目となる。当たり前ではあるが、それだけファクターにとって「史上最速」が現実的な目標であることの証左でもあると言えよう。

革新的なエアロ設計 最新のUCIルールが可能とした先進のデザイン

新型ONE最大の特徴となるフロントセクション

新型ONEの最もアイコニックな部分がフロントセクションであることに異論がある人はいないだろう。ロードバイクだと信じがたいフロント周りの設計は、最新のUCIルールに完全準拠した中で完結している。

新たに変更されたUCIルールでは、従来のフォークボックスという寸法制約を撤廃し、デザインの自由度が大幅に増した。その自由度を活かすべくファクターが開発したのが、エアロヒンジのバヨネットフォークと「チン」フェアリングシステムだ。

類を見ないワイドスタンスフォークは非常に肉薄で、UCI規定上限の比率となっている

このデザインが目的としたのは、フロントタイヤとフォーククラウンのエリアから気流が剥離する際に生じる「スピルオーバー」ドラッグを管理すること。このために、ファクターはフレーム単体モデルとライダーが乗車した状態の両方で徹底的なCFD解析を実施したという。

この解析時には、フォークレッグの幅や、チンフェアリングのダクトの有無、バートップの形状、ブレーキマウント角度(5°か20°か)、ボトルケージの取付位置といった要素を全て比較検証したという。その結果、ワイドフォークレッグとダクト付きチンフェアリング構造が最小の抗力と最も安定した横風性能を発揮すると判明。更にカナダの風洞実験施設において磨き上げられることで、圧倒的な空力性能を実現した。

ハンドルバーの形状もいくつもの候補から導き出されている
ブレーキマウント角も最高のエアロ性能の為に検証された要素の一つだ


ダウンチューブはBBへ向かうにつれボリュームを増す

そして、これらの先進的な設計を圧倒的なスピードで製造へと落とし込めるのが、自社生産工程を持つファクターの強み。試作と改良のサイクルを最短で回しつづけ、現実世界における最高性能を検証できるファクターだからこそ、このオリジナリティに満ちたバイクは形となった。

OSTRO VAMより8%高速化
あらゆる風向きでアドバンテージをもたらす究極のエアロマシン

入念な風洞実験が行われ、徹底的に空力性能を検証されている (c)Factor Bikes

こうして生み出された新型ONEのエアロ性能はどれほどの域に至っているのか。ファクターは、既に世界最高レベルの空力性能を誇るOSTRO VAMと比較して、8%以上のドラッグ低減を実現したと胸を張る。

また、ライバル社との比較では、2024モデルのサーヴェロ S5に対し15%、スペシャライズド Tarmac SL8に対し22%のアドバンテージがあるとし、特に5°を越えるヨー角の風を受けた際にONEが大きな優位性を発揮するという。

ONEはOSTRO VAMと比較して、全ての風向きにおいて8%以上のドラッグ低減を実現 (c)Factor Bikes

これはONEの驚異的な前方投影面積の少なさによる低ヨー角域での空力性能だけでなく、フェアリングからヘッドチューブ、フォークからダウンチューブといったような各セクション間の移行部において気流が剥離しないように、精密に設計されているから。渦状の乱流の発生を制御することは、大きなドラッグの原因となるライダーの腕や脚の影響を最小限に抑えることに繋がる。

この性能を証明したのが、冒頭に触れたジェイク・スチュワートだ。ドーフィネ第5ステージでは、高速のリードアウトトレインから先んじて抜け出し、そのままの勢いでスプリント勝利。ONEの高速性能を実証する結果を残した。

「信じられない、50km/hを越えると本当に飛び出すようだ」と、ジェイク・スチュワートはONEについて表現している。特に横風の影響を受けやすい区間では、バイクがスピード維持をアシストしてくれるような感覚があるとも。

その速さにテストライダーたちは皆舌を巻いた (c)Factor Bikes

チームのエーススプリンターであるパスカル・アッカーマンも「バイクが僕を支援してくれるような感覚なんだ。単に空気を切り裂くだけじゃない。引っ張られるように進むんだよ」と、口を揃える。また、フロント剛性とバランスの取れた重量配分からなる安定感も抜群で、ステアリング操作なしにフルスプリントが可能だと絶賛。

プロトンきってのスピードマンを驚かせるパフォーマンスを発揮する新型ONE。ファクターがこれまで積み重ねてきたノウハウ、技術、開発時間、そしてワールドツアーからのフィードバック、それら全ての結晶が、この一台だ。

ファクター ONE

ファクターは言う。ONEはファクターがこれまでに製造した中で最速のUCI公認バイクであり、これ以上速ければ、違法となる、と。

ファクター ONE スペック

ファクター ONE(Silverstone) (c)Factor Bikes
ファクター ONE(Nimbus Grey) (c)Factor Bikes
ファクター ONE(Onyx Black) (c)Factor Bikes



ファクター ONE(Blush ) (c)Factor Bikes

使用素材ハイモジュラスカーボン
フレーム重量900g
フォーク重量540g
フレームサイズ47、52、54、56、58
ハンドルバーステムサイズ1、2、3、4、5(ハイライズは1~3のみ)
シートポストオフセット 0mm / 30mm
ボトムブラケットセラミックスピード T47a BB
カラーOnyx Black、Nimbus Grey、Silverstone、Blush
タイヤクリアランス最大31mm 28mmタイヤ/23mm内幅リム推奨
対応クランク長165~170mm
価格(税込)フレームセット1,155,000円
フレームセット+
ブラックインク 62 ホイール
1,562,000円
シマノ Dura-Ace完成車2,090,000円
シマノ Ultegra完成車1,815,000円
スラム RED eTap AXS完成車
(パワーメーター付き)
2,145,000円
スラム Force eTap AXS完成車
(パワーメーター付き)
1,848,000円
カンパニョーロ
SUPER RECORD完成車
2,200,000円
シマノ完成車注文の場合、上記価格に+75,000円(税別)でセラミックスピードのOVERSIZED PULLEY WHEELにアップチャージ可能
提供:トライスポーツ、text&photo:Naoki Yasuoka