グラベルレースの最高峰イベント、アンバウンド・グラベルがアメリカ・カンザスを舞台に5月31日に開催された。フリントヒルズと呼ばれる地域のグラベルロードを走る過酷なレースに史上最多の約5,000人が挑戦。昨年に続いて採用された北ルートで、ほとんどすべてのクラスで史上最速記録を更新。日本からも20人が参戦したレースの魅力をお伝えする。

カンザス州の小さな街エンポリアが5,000人のグラベルライダーを迎える photo:Makoto AYANO
アンバウンド・グラベル(Unbound Gravel )はアメリカのイベント会社ライフタイム(LIFE TIME)社が主催。2006年に始まった大会は年々人気が加熱し、総参加者数で約5,000人を集めて開催された。参加カテゴリーは100・200マイル、日をまたいで350マイルを走るXL、そして入門向けの25・50マイル、ジュニアの各クラスが用意される(1マイルは1.6km)。

レース前日までには試走会「シェイクアウトライド」で足慣らし photo:Makoto AYANO
今年からシマノが冠スポンサーをつとめる。グラベルライドの普及を目指し、すべてのサイクリストを支援するシマノが掲げるスローガンは「UNITED IN GRAVEL(グラベルで連帯しよう)」だ。

グラナダシアターのグラベルライダーを迎える電光掲示板は名物だ photo:Makoto AYANO

トム・デュムランがアンバウンドグラベルにやってきた photo:Makoto AYANO 
ユーチューバーのけんたさんと土谷基成さんは100マイルに出場する photo:Makoto AYANO
参加者数は過去最大の約5,000人。しかし抽選による定員があるためエントリー数はその数倍に上るという。アメリカやヨーロッパ各国で開催されるグラベルレースやイベントがアンバウンド・グラベルの出場権を得るための予選となり、出場するためにはそれらの予選を経なければならない。例年なら日本人参加者はエントリーしさえすれば出場権が得られたが、今年は落選する選手が数名いた模様だ。
カンザスの田舎町エンポリアは5,000人のグラベルライダーたちを迎え、普段にないにぎわいを見せる。トップライダーから一般参加者たちがシェイクアウトライドと呼ばれるコース試走を走り、レースまでの日をともに過ごす。

5,000人のグラベルライダーたちを迎えたエンポリアの街 photo:Makoto AYANO
アンバウンドグラベルは年間で全7レースで行われるグラベル&マウンテンバイクのオフロードレースによって構成されるLife Time Grand Prixシリーズの第2戦でもある。男女エリートともに1位から10位までが賞金対象となり、優勝賞金$5,000、賞金総額$30,000のレースとなる。

エキスポも膨大な規模で開催されメーカー&ブランドブースが活況だ photo:Makoto AYANO
「非公式のグラベル世界選手権」と呼ばれるアンバウンド・グラベルは、紛れもなくグラベルイベントの頂点であり、エリート、エイジグルーパー(年代別一般参加者)にとってそのレースでのリザルトの価値は、未だにUCIグラベル世界選手権のステイタスを上回る。グラベルの人気がロードを上回るアメリカでは、すでに国内最大のサイクルイベントにまで成長した。

Gravel Hall of Fame=グラベル殿堂入りしたレジェンドや功労者たち photo:Makoto AYANO

初グラベルレースにアンバウンド100マイルを選んだという北岡只楽さんとテリー・リーさん(cycleclub3UP) photo:Makoto AYANO 
XL出走を控えた40歳のロバート・ブリットン(右)。この後優勝することになる
「オリジナル」と呼ばれる200マイル(=320km)のエリートカテゴリーには、UCIワールドツアーチーム所属のプロロード選手や、マウンテンバイク、シクロクロス、そしてグラベルレースを専業にするプロ選手が多く参加し、ハイレベルなレースが展開。そのレベルは毎年向上し続けている。

昨年の200マイル覇者ラクラン・モートン(オーストラリア、EFエデュケーション・イージーポスト)がXLにエントリー photo:Makoto AYANO

背中のポケットに泥の掻き出しスティックをすぐ取り出せるように photo:Makoto AYANO 
軽量リアラックに補給食など装備満載のバッグを取り付けるスタイル

コンポはシマノGRX Di2、カセットにデュラエースをチョイスする2✕仕様だ photo:Makoto AYANO
実際、モートンは「200マイルレースには昨年すでに勝った。ならば今年XLに出るのは自然なことだ」と言い、新たな目標に向かうことこそがチャレンジの根源であると強調。その困難を克服することに意味があると。

XLに出場する日本人3人。山本健一、三宗広歩、福田暢彦 photo:Makoto AYANO
他レースに先駆けての金曜出発で、2日がかりの580kmレースに挑むことになるXL。今年は日本から3人が参加。プロトレイルランナーとして活躍する山本健一をはじめ、福田暢彦(チームSHIDO)と三宗広歩(TEAM TAMAGAWA)がエントリー。日本から3人の参加はもちろん過去最多だ。

XLの先頭集団はラクラン・モートン(オーストラリア、EFエデュケーション・イージーポスト)が牽引 photo:Lifetime
トップ選手たちによる先頭争いは、もはや当然のようにラクラン・モートンが先陣を切って先行。平均32km/hという過去に例を見ないハイスピードで独走を開始する。
モートンのリードは最終盤338マイルまで続き、誰もがその優勝を信じて疑わなかった。しかしモートンは最終盤に大失速、代わりにトップでエンポリアのフィニッシュに戻ってきたのはロバート・ブリットン(アメリカ、ファクターグラベルチーム)だった。

XLを制したロバート・ブリットン(カナダ)。タイムは17:49:51 photo:Dan Hughes/Lifetime
359マイル=574kmを17時間49分51秒で駆け抜けたベテラン、ロブ・ブリットン。昨年までの最速記録を2時間15分45秒も短縮する歴代最速タイムをマーク。夜通し走っての平均時速はじつに32.4km/hという驚異的なものだった。

最終盤に失速したクラン・モートン(アメリカ)は2位に photo:Dan Hughes/Lifetime
ブリットンは1984年生まれの41歳。2010〜2021年までロードプロとしてチームビッセルやラリーサイクリングに所属し走った経験を持ち、2015年と2018年にはツアー・オブ・ヒラ(UCIアメリカツアー)に総合優勝している。2022年にグラベルに転向して3年目の大勝利だ。

XL女子1位のヘザー・ジャクソン(アメリカ)は21時間切りで総合でも8位 photo:Dan Hughes/Lifetime
ブリットンは言う。「ジェルで27〜28個、カーボドリンク粉末で800gぶんの炭水化物、1,000mg近いカフェインは、もうたくさん(笑)。快適さを求めたTTバーにFサス仕様のファクターのグラベルバイクに45Cタイヤで走った。何も奇をてらったものは無く、知り尽くしたもので固めたセットアップ。変わった作戦も無かったし、ただ途中で投げ出さなかっただけ。数年前には自分がXLを走るなんて想像できなかった。でもやり遂げた。これからも進化を続けるよ」。

XLを24時間55分53秒で完走したプロトレイルランナーの山本健一 photo:Makoto AYANO
日本の3人はプロトレイルランナーの山本健一が24時間55分53秒で完走。総合28位、男子で24位の好リザルトで、平均時速は23.17km/h。昨年の負傷で膝を手術し、リハビリのために始めたグラベルライドで、初めてのレースがアンバウンドのXLという豪快な挑戦は、山本にとって充実したものだったようだ。
「ゴールでの久しぶりのこの感覚、好きなことを全力でやれたことに満たされました!ありがとう以外、何も言うことありません。スタートしてからどんどん減っていく距離、終わってほしくないと思ってしまうほど貴重な時間と環境と仲間。走り出した直後からそんな思いが頭をぐるぐる。制限時間は36時間しかない。どのようにこの限られた時間を楽しもうか!?ゴールしたくない。でも全力で走りたい」。

グラベル初レースでXL350マイルを28位で完走した山本健一 photo:Makoto AYANO
「そもそもXLは行動時間や装備がトレランの100マイルレースに似ています。ほどよく締まった気持ち良すぎる林道、突如現れるドロドロの水溜まり地帯、全速力で突っ込むとずぶ濡れになれる渡渉、泥で固まったテクニカルな轍(2回転倒)、飽きることないこのカンザスのコースは信じられないくらいの贅沢品です!」と山本。

固形物が喉を通らなくなったとXLをリタイヤした三宗広歩(TEAM TAMAGAWA) photo:Lifetime
シングルスピードなど変わった種目が好きで、トラクロクロス世界チャンピオンの称号をもつ三宗広歩は、序盤から飛ばしたが途中で固形物が喉を通らなくなり、大ブレーキ。ジェル等も使い果たしたことで走り続けることができずリタイヤを喫した。

福田暢彦は熱中症になったが32時間でフィニッシュにたどり着いた photo:Lifetime
福田暢彦は450kmを走った路上で熱中症になり、リタイアを検討するも、仮眠を重ねて再出発し、最終的に32時間でフィニッシュにたどり着いた。福田のレース詳細は追って別レポートにてお伝えする。

カンザス大平原にどこまでも伸びるグラベルがレースコースだ photo:Makoto AYANO
アメリカ中西部の穀倉地帯として知られるカンザス州の大草原地帯「グレートプレーンズ」。レースの舞台となるエンポリア周辺フリントヒルズ一帯には、牛の保護区となっている緑の大平原が見渡す限り広がり、生活道であるグラベル=未舗装路をつなぐコースが設定される。
この大会は2年ごとに北と南のコースを入れ替えて開催されており、今年は昨年に引き続き北周りルートが採用された。北のグラベルは南のそれより「パンチーでチャンキー(強烈で、深くガレている)」と評される。

ジュニアのグラベルライダーたちをUNITED IN GRAVELブースが迎える photo:Dan Hughes/Lifetime
フリントヒルズの名前の由来となっている燧石(ひうちいし)は、先住民が矢尻や槍に用いた尖った石。砂利状のグラベルは容赦なくタイヤを痛め、パンクを誘発する。北ルートのグラベルではフリントストーンがより鋭くなると言われるのだ。

WE LOVE YOU GRAVEL RIDERS photo:Makoto AYANO
カンザスの天候は気まぐれ。ミッドウェスト地方は火曜まで雨がちで、アンバウンド名物の悪名高き「ピーナッツバターマッド=泥地獄」の心配が浮上していた。2年前の2023年のレースでは、粘りつくように重い泥が選手たちを襲い、すべての選手が泥が詰まって動かなくなったバイクを担いでの13kmにもおよぶ押し歩きを強いられたのは忘れられない苦い思い出だ。
木曜昼過ぎまで雨が降ったが、その後天候は回復し、レースまでの1.5日で路面状況も急速に変化、土曜にはドライコンディションに。選手やメカニックたちはタイヤ交換や泥対策の機材の選択に頭を悩ませ続けた。

優勝候補のキーガン・スヴェンソン(左/アメリカ、サンタクルズ) photo:Makoto AYANO 
ティム・ディクレルク(ベルギー、リドル・トレック)も参戦 photo:Makoto AYANO
世界トップ選手が集う200マイルレースは今年も活況だ。エリート男子の著名なニューフェイスとしては、プロロード選手から転向したトーマス・デヘント(ベルギー)や現役選手のティム・ディクレルク(ベルギー、リドル・トレック)らも参戦。

初のグラベルレースに挑む阿部嵩之(ヴェロリアン松山) photo:Makoto AYANO
日本からはプロロードマンの阿部嵩之(ヴェロリアン松山)がパナレーサーのサポートを受けてエントリー。主催者もグラベルレースでの実績が無い阿部に対し、屈強のプロ選手が集う男子エリートでの出走を認め、グラベルレース初挑戦の阿部をリスペクトを持って迎えた。

6時50分 夜明け前に200マイル男子エリートがスタートしていく photo:Makoto AYANO
エリート男子のレースは早くに動いた。序盤で絞られた先頭グループから、わずか50マイル地点から抜け出したキャメロン・ジョーンズ(アメリカ、スコット・シマノ)とシモン・ペロー(スイス、チューダー)の2名が先行し、リードを広げはじめる。しかしフィニッシュまではまだ270kmを残していた。

固く締まったフラットグラベルを行くエリート男子のメイン集団 photo:Dan Hughes/Lifetime
2人はうまく協調し、第1チェックポイントでは1分半の差をつけて逃げを確立。その後も順調に差を広げ、一時は追走グループとの差は8分にまで広がった。

序盤はフラットなハイスピードグラベルが続く photo:Dan Hughes/Lifetime
MTB-XCとグラベルのレーサーである24歳のキャメロン・ジョーンズと、先の3月のツアー・オブ・タイランド第1ステージで新城幸也と逃げて区間優勝をさらったシモン・ペロー。ペローは中国のコンチネンタルチームのLi Ning Starに所属する32歳のロードのベテラン選手だが、グラベルではチューダー・プロサイクリングで走るロード&グラベルの二刀流プロアスリートだ。

早くから逃げ体制を築いたキャメロン・ジョーンズ(ニュージーランド)とシモン・ペロー(スイス) photo:Dan Hughes/Lifetime
2人が8分差で逃げる140マイル地点では、優勝候補のキーガン・スヴェンソン(アメリカ)が落車し、追走グループは勢いを失くす。逃げ切り体制を固めた2人はエンポリアの街まで完全に協力し合って走った。

無数に繰り返すアップダウンをこなすエリート男子の先頭グループ photo:Dan Hughes/Lifetime
ラスト2kmの最後の坂・ハイランドヒルでジョーンズがアタックすると、ペローは反応できず。ジョーンズは最終的にペローに42秒の大差をつけてフィニッシュした。エリート男子では久々となる独走勝利だった。

200マイル男子エリートを制したキャメロン・ジョーンズ(ニュージーランド、スコット・シマノ) photo:Dan Hughes/Lifetime
「安全策を講じたほうが良かったかもしれないとも思ったが、ただ攻めるだけだった。チャンスを感じていたんだ。ここまでのトレーニングはうまくいったし、脚の調子はすごく良かった。レースをリードするのはすごく楽しかった」と、思い切った独走劇を振り返った。
キャメロン・ジョーンズの記録8時間37分09秒は「もうこれ以上は速く走れないだろう」とさえ言われた昨年のタイムをさらに34分28秒も更新する、驚異的な過去最速タイム。平均時速はなんと37.81km/h!

200マイル覇者キャメロン・ジョーンズ(アメリカ、スコット・シマノ)の優勝バイクはGRXとDURA ACEミックスの2✕仕様だ photo:Scott
ペローはまだ出場経験の少ないグラベルレースで、しかもアンバウンドでいきなりの2位獲得。
「数ヶ月前からこのレースのことだけを考えて過ごした。ネットで情報を漁り、スパイシーな動画を観てきた。テクニカルパートナーたちと速くて快適なバイクセットアップを追求し、補給戦略も練ってきた。勝利のためにはすべてがうまくいく必要がある。でも小さなミスがあった。最後にジェルを落とし、ラスト20kmの僕は空っぽだったんだ。最後に自分の切り札を繰り出せず、残念。良かったことは、この経験を活かして来年またチャレンジできること」とペローは来年のリベンジに意欲を燃やす。

阿部嵩之(ヴェロリアン松山)は終始安定した走りで10時間57分の素晴らしいタイムで完走 photo:Makoto AYANO
日本人としては2023・2024年の2度エリートに出場した小森亮平(現愛三工業レーシング監督)に続く2人目のエリート参戦となった「アベタカ」こと阿部嵩之(ヴェロリアン松山)。5月上旬のツール・ド・熊野で落車して、脚を負傷してからの2週間は自転車に乗ってのトレーニングができず、不安を抱えたままのグラベルレース初参戦となったが、終始安定した走りで10時間57分の素晴らしいタイムで完走した。
補給食をしっかり摂る戦術で走りエネルギー切れは防げたものの、長時間の運動と振動でレース後に嘔吐したという阿部。怪我が無く良い調整ができれば1時間近くは短縮できるだろうという実感をもったという。準備不足の今回は相当に苦しんだが「来年も出場したい」とのことだ。なお平均速度は29.8km/h、TSSスコアは494、消費エネルギー8019kJ、平均パワー204Wというデータだった(Peaks Coaching調べ)。

陽がのぼるなか女子エリートがスタート photo:Makoto AYANO
年々レベルが上がる女子エリート。男子との混走でレース結果が左右されることを懸念した主催者が課した今年の新ルールは、カテゴリーの違うクラスの選手が牽引に加わることの禁止。いわばラビット的な選手によるリードアウトを避けるための処置だ。

スタートすぐのグラベルに突入する女子エリート photo:Dan Hughes/Lifetime
中盤、抜け出しに成功したのはカロリーナ・ミゴン(ポーランド)とセシリー・デッカー(アメリカ)のPASレーシングのコンビに、2021年覇者ローレン・デ・クレシェンツォ(アメリカ)を加えた3人。フィニッシュまで50マイルを残して後続に対し7分34差までリードを拡大する。

200マイル女子エリートの3人が後続を大きく離して逃げる photo:Dan Hughes/Lifetime

ガレたグラベルの丘が続くリトル・エジプトを行く女子エリートの先頭集団 photo:Dan Hughes/Lifetime
そして残り40マイルでカロリーナ・ミゴンが独走に持ち込むと、そこからの2時間で18分差にまでリードを拡大した。ここまでのグラベルレース、トラカ360kと前週のグラベル・ロコスで優勝しているミゴンは、そのまま誰も寄せ付けない走りでフィニッシュまで大差を持って逃げ切った。

ラスト40マイルで独走に持ち込んだカロリーナ・ミゴン(ポーランド) photo:Dan Hughes/Lifetime
2位はミゴンのチームメイトのセシリー・デッカーが喜ぶ余裕もなく入り、PASのワン・ツーフィニッシュ達成。3位以降は4人のグループによる争いになり、昨年覇者のローザ・クローザー(ドイツ)がコースミスによって一旦ストップして戻るハプニングの後、スプリント合戦に。渾身のスプリントで昨年覇者ソフィア・ゴメス・ビジャファニェ(アルゼンチン)が制した。

荒れたグラベルでパンクトラブルに見舞われる photo:Dan Hughes/Lifetime

フィニッシュに向かう女子エリート3位争いの追走集団 photo:Makoto AYANO
「18分! チームメイトとは7分の差と知っていたけど、後続はそんなにも後ろ。馬鹿げていると思ったけど、40マイルを残してアタックした」と勝利したミゴン。ポーランドの新星は今、グラベル女王の座を欲しいままにする。ミゴンのタイム 10時間03分54秒は、これもまた過去タイムを約38分更新する女性の史上最速記録となった。

200マイル女子エリートを制したカロリーナ・ミゴン(ポーランド、PASレーシング) photo:Dan Hughes/Lifetime
なおジロ・デ・イタリア2017覇者&ツール・ド・フランス2018総合2位のトム・デュムラン(オランダ)は、楽しむスタンスでアンバウンドへ参加。しかしレース3日前のグラベル試走中に落車し、脚を負傷。大事をとってDNSを選択した。しかしその数日間は「シェイクアウトライド」に参加してファンたちと交流し、楽しめた模様だ。

スタートを待つ約900人の200マイルエイジグルーパーたち photo:Makoto AYANO

200マイルのスタートに並ぶプロMTBエンデューロレーサーの永田隼也(左)と田村繁貴 
4回めの200マイルに挑む青山雄一 photo:Makoto AYANO
一般ライダーによるアンバウンドグラベルも、事実上の「非公式のエイジグループのグラベル世界選手権」と呼ぶにふさわしいハイレベルの戦いだ。「オリジナル」と呼ばれる200マイルクラスは欧米の予選を勝ちいて出場権を得た約900人が参加する激戦区。日本からはプロMTBエンデューロレーサーの永田隼也と、田村繁貴、青山雄一、久保信人、松橋拓也、パナレーサー社員の森脇陽一と神野悠作の計7人が参戦した。

プロMTBライダーの永田隼也は12:41:26の好タイムで完走 photo:Makoto AYANO

初挑戦で200マイルに完走した久保信人。13時間18分でRace the Sunの称号を獲得 photo:Lifetime 
200マイルを12時間49分で完走した松橋拓也「暑さに苦しんだが目標の日没前フィニッシュを達成出来て満足」 photo:Lifetime

パナレーサー社員の森脇陽一と神野悠作は200マイルを18時間48分でフィニッシュ photo:panaracer
アンバウンド・グラベルでは、どのクラスも参加者たちは大会公式サイト上で発表・掲載されるルートデータを自身のGPSサイクルコンピュータにダウンロードし、セルフナビゲートしながら走ることになる。レースの基本ルールは「自己責任のセルフサポート」をベースとしている。基本的なレース規則は2022年の特集記事にまとめてあるので参照してほしい。
200マイルレースは例年通り大集団によるハイスピードレースとなり、落車が頻発した。田村繁貴が90km地点のダウンヒル中のクラッシュに巻き込まれて転倒、肩を負傷しリタイヤしたが、他の6人は完走。うち4人がアンバウンド初参加での完走、そして青山雄一は4度目、松橋拓也は2度目の200マイル完走だ。なお永田と松橋と久保の3人は日没の20時45分前にフィニッシュする「RACE THE SUN」の栄誉ある称号を獲得している。

石川光祐さんは初出場で100マイル完走。「刻一刻と変わる路面状況、風向き、そして一期一会の出会い。必ずまた参加したい」 photo:Lifetime 
CW編集部の綾野真も6時間23分の過去最高タイムで4度目の100マイル完走 photo:Lifetime
約1500人が出場する最多参加者数クラスの100マイル(実測108マイル=172km)。日本からは昨年に続いての出場となるユーチューバーの「けんたさん」が出場、他に土谷基成、石川光祐、北岡只楽、アメリカ在住の有馬亮輔、そして4度目の出場になるCW編集部の綾野真の合計7人が参戦し、7人全員が完走した。ちなみに綾野のタイムでも昨年より30分近く更新し、いかに今年のコンディションが良かったかを裏付ける。

100マイルを完走した北岡只楽さん「初のグラベルレースは楽しくて一生忘れられない思い出になった」 photo:Makoto AYANO
北岡只楽さん(cycleclub3UP)は「楽しくて一生の思い出になった」と、アメリカで体験する自身初のグラベルレースを楽しんだ様子だ。

今年も50マイルを楽しんだパナレーサーの大和竜一社長 photo:Aalon Davis
ファミリー層やビギナーでも参加しやすい50マイル(約89km)には、今年もパナレーサーの大和竜一社長と、昨年までIRCタイヤに勤務し、グラベルイベントでのタイヤサポートやグラベルライド講習会開催の経験をもつ豊川沙弓さんが参加。ともに楽しみながら完走した。なお25マイルの44%、50マイルの40%が女性エントラントで、その女性参加者の伸び率の高さが話題になった。

50マイルを完走した豊川沙弓さん。「泥の区間やアップダウン、バリエーションに富んだ50を楽しめました」 photo:Lifetime
子どもから誰でもが参加できるアンバウンドグラベル。今年も最高齢は昨年も100マイルレースを完走している92歳のフレデリック・シュミットさん(アメリカ)で、今回はなんと200マイルに挑戦。しかしシュミットさんは40マイルを走った後、体調不良でDNFになった。

パラ部門の選手は片脚で200マイルをフィニッシュ photo:Makoto AYANO 
92歳のフレデリック・シュミットさんは今年200マイルに挑んだがリタイヤに終わった photo:Aalon Davis
好天・好コンディションによりほとんどすべてのクラスで新記録ラッシュとなったアンバウンド・グラベル2025。しかしレース2日後にはカンザス一帯を名物の大雨が襲い、一週間前と同じく洪水警報が発令。レースコースは広く浸水、完全に水没した箇所もあり、改めて大自然の脅威を感じさせた。もしタイミングが2日ズレていたら、困難な状況が待っていたはずだ。

完走するも思うようなリザルトではなかった 
アンバウンド完走は誰にとっても格別だ

表情が厳しかったレースを物語る 
女性参加者の増加率の高さが話題になった photo:Dan Hughes/Lifetime
なお永田隼也とその仲間たちによるライドユニット「ノルンジャー」3人のレース参戦レポートを特集続編で紹介する予定だ。

アンバウンド・グラベル(Unbound Gravel )はアメリカのイベント会社ライフタイム(LIFE TIME)社が主催。2006年に始まった大会は年々人気が加熱し、総参加者数で約5,000人を集めて開催された。参加カテゴリーは100・200マイル、日をまたいで350マイルを走るXL、そして入門向けの25・50マイル、ジュニアの各クラスが用意される(1マイルは1.6km)。

今年からシマノが冠スポンサーをつとめる。グラベルライドの普及を目指し、すべてのサイクリストを支援するシマノが掲げるスローガンは「UNITED IN GRAVEL(グラベルで連帯しよう)」だ。



参加者数は過去最大の約5,000人。しかし抽選による定員があるためエントリー数はその数倍に上るという。アメリカやヨーロッパ各国で開催されるグラベルレースやイベントがアンバウンド・グラベルの出場権を得るための予選となり、出場するためにはそれらの予選を経なければならない。例年なら日本人参加者はエントリーしさえすれば出場権が得られたが、今年は落選する選手が数名いた模様だ。
カンザスの田舎町エンポリアは5,000人のグラベルライダーたちを迎え、普段にないにぎわいを見せる。トップライダーから一般参加者たちがシェイクアウトライドと呼ばれるコース試走を走り、レースまでの日をともに過ごす。

アンバウンドグラベルは年間で全7レースで行われるグラベル&マウンテンバイクのオフロードレースによって構成されるLife Time Grand Prixシリーズの第2戦でもある。男女エリートともに1位から10位までが賞金対象となり、優勝賞金$5,000、賞金総額$30,000のレースとなる。

「非公式のグラベル世界選手権」と呼ばれるアンバウンド・グラベルは、紛れもなくグラベルイベントの頂点であり、エリート、エイジグルーパー(年代別一般参加者)にとってそのレースでのリザルトの価値は、未だにUCIグラベル世界選手権のステイタスを上回る。グラベルの人気がロードを上回るアメリカでは、すでに国内最大のサイクルイベントにまで成長した。



「オリジナル」と呼ばれる200マイル(=320km)のエリートカテゴリーには、UCIワールドツアーチーム所属のプロロード選手や、マウンテンバイク、シクロクロス、そしてグラベルレースを専業にするプロ選手が多く参加し、ハイレベルなレースが展開。そのレベルは毎年向上し続けている。
よりレース的な価値を高めたXL ブリットンがモートンを下しウルトラエンデュランスの覇者に
今年の話題は約360マイル(580km)を走るウルトラエンデュランスレース「XLクラス」のプレミアム度向上だ。昨年の200マイル覇者ラクラン・モートン(オーストラリア、EFエデュケーション・イージーポスト)が今大会ではXLにエントリーしたのをはじめ、レジェンドのテッド・キングやローレンス・テンダム(オランダ)など、昨年まで200マイルでしのぎを削ったトップ選手たちが「200では物足りない」とばかりにXLへ鞍替えしたのだ。



実際、モートンは「200マイルレースには昨年すでに勝った。ならば今年XLに出るのは自然なことだ」と言い、新たな目標に向かうことこそがチャレンジの根源であると強調。その困難を克服することに意味があると。

他レースに先駆けての金曜出発で、2日がかりの580kmレースに挑むことになるXL。今年は日本から3人が参加。プロトレイルランナーとして活躍する山本健一をはじめ、福田暢彦(チームSHIDO)と三宗広歩(TEAM TAMAGAWA)がエントリー。日本から3人の参加はもちろん過去最多だ。

トップ選手たちによる先頭争いは、もはや当然のようにラクラン・モートンが先陣を切って先行。平均32km/hという過去に例を見ないハイスピードで独走を開始する。
モートンのリードは最終盤338マイルまで続き、誰もがその優勝を信じて疑わなかった。しかしモートンは最終盤に大失速、代わりにトップでエンポリアのフィニッシュに戻ってきたのはロバート・ブリットン(アメリカ、ファクターグラベルチーム)だった。

359マイル=574kmを17時間49分51秒で駆け抜けたベテラン、ロブ・ブリットン。昨年までの最速記録を2時間15分45秒も短縮する歴代最速タイムをマーク。夜通し走っての平均時速はじつに32.4km/hという驚異的なものだった。

ブリットンは1984年生まれの41歳。2010〜2021年までロードプロとしてチームビッセルやラリーサイクリングに所属し走った経験を持ち、2015年と2018年にはツアー・オブ・ヒラ(UCIアメリカツアー)に総合優勝している。2022年にグラベルに転向して3年目の大勝利だ。

ブリットンは言う。「ジェルで27〜28個、カーボドリンク粉末で800gぶんの炭水化物、1,000mg近いカフェインは、もうたくさん(笑)。快適さを求めたTTバーにFサス仕様のファクターのグラベルバイクに45Cタイヤで走った。何も奇をてらったものは無く、知り尽くしたもので固めたセットアップ。変わった作戦も無かったし、ただ途中で投げ出さなかっただけ。数年前には自分がXLを走るなんて想像できなかった。でもやり遂げた。これからも進化を続けるよ」。

日本の3人はプロトレイルランナーの山本健一が24時間55分53秒で完走。総合28位、男子で24位の好リザルトで、平均時速は23.17km/h。昨年の負傷で膝を手術し、リハビリのために始めたグラベルライドで、初めてのレースがアンバウンドのXLという豪快な挑戦は、山本にとって充実したものだったようだ。
「ゴールでの久しぶりのこの感覚、好きなことを全力でやれたことに満たされました!ありがとう以外、何も言うことありません。スタートしてからどんどん減っていく距離、終わってほしくないと思ってしまうほど貴重な時間と環境と仲間。走り出した直後からそんな思いが頭をぐるぐる。制限時間は36時間しかない。どのようにこの限られた時間を楽しもうか!?ゴールしたくない。でも全力で走りたい」。

「そもそもXLは行動時間や装備がトレランの100マイルレースに似ています。ほどよく締まった気持ち良すぎる林道、突如現れるドロドロの水溜まり地帯、全速力で突っ込むとずぶ濡れになれる渡渉、泥で固まったテクニカルな轍(2回転倒)、飽きることないこのカンザスのコースは信じられないくらいの贅沢品です!」と山本。

シングルスピードなど変わった種目が好きで、トラクロクロス世界チャンピオンの称号をもつ三宗広歩は、序盤から飛ばしたが途中で固形物が喉を通らなくなり、大ブレーキ。ジェル等も使い果たしたことで走り続けることができずリタイヤを喫した。

福田暢彦は450kmを走った路上で熱中症になり、リタイアを検討するも、仮眠を重ねて再出発し、最終的に32時間でフィニッシュにたどり着いた。福田のレース詳細は追って別レポートにてお伝えする。
200&100マイルも新記録ラッシュに 男女エリートは大幅なタイム更新

アメリカ中西部の穀倉地帯として知られるカンザス州の大草原地帯「グレートプレーンズ」。レースの舞台となるエンポリア周辺フリントヒルズ一帯には、牛の保護区となっている緑の大平原が見渡す限り広がり、生活道であるグラベル=未舗装路をつなぐコースが設定される。
この大会は2年ごとに北と南のコースを入れ替えて開催されており、今年は昨年に引き続き北周りルートが採用された。北のグラベルは南のそれより「パンチーでチャンキー(強烈で、深くガレている)」と評される。

フリントヒルズの名前の由来となっている燧石(ひうちいし)は、先住民が矢尻や槍に用いた尖った石。砂利状のグラベルは容赦なくタイヤを痛め、パンクを誘発する。北ルートのグラベルではフリントストーンがより鋭くなると言われるのだ。

カンザスの天候は気まぐれ。ミッドウェスト地方は火曜まで雨がちで、アンバウンド名物の悪名高き「ピーナッツバターマッド=泥地獄」の心配が浮上していた。2年前の2023年のレースでは、粘りつくように重い泥が選手たちを襲い、すべての選手が泥が詰まって動かなくなったバイクを担いでの13kmにもおよぶ押し歩きを強いられたのは忘れられない苦い思い出だ。
木曜昼過ぎまで雨が降ったが、その後天候は回復し、レースまでの1.5日で路面状況も急速に変化、土曜にはドライコンディションに。選手やメカニックたちはタイヤ交換や泥対策の機材の選択に頭を悩ませ続けた。
200マイルエリート男子はジョーンズが初優勝 阿部嵩之も好走


世界トップ選手が集う200マイルレースは今年も活況だ。エリート男子の著名なニューフェイスとしては、プロロード選手から転向したトーマス・デヘント(ベルギー)や現役選手のティム・ディクレルク(ベルギー、リドル・トレック)らも参戦。

日本からはプロロードマンの阿部嵩之(ヴェロリアン松山)がパナレーサーのサポートを受けてエントリー。主催者もグラベルレースでの実績が無い阿部に対し、屈強のプロ選手が集う男子エリートでの出走を認め、グラベルレース初挑戦の阿部をリスペクトを持って迎えた。

エリート男子のレースは早くに動いた。序盤で絞られた先頭グループから、わずか50マイル地点から抜け出したキャメロン・ジョーンズ(アメリカ、スコット・シマノ)とシモン・ペロー(スイス、チューダー)の2名が先行し、リードを広げはじめる。しかしフィニッシュまではまだ270kmを残していた。

2人はうまく協調し、第1チェックポイントでは1分半の差をつけて逃げを確立。その後も順調に差を広げ、一時は追走グループとの差は8分にまで広がった。

MTB-XCとグラベルのレーサーである24歳のキャメロン・ジョーンズと、先の3月のツアー・オブ・タイランド第1ステージで新城幸也と逃げて区間優勝をさらったシモン・ペロー。ペローは中国のコンチネンタルチームのLi Ning Starに所属する32歳のロードのベテラン選手だが、グラベルではチューダー・プロサイクリングで走るロード&グラベルの二刀流プロアスリートだ。

2人が8分差で逃げる140マイル地点では、優勝候補のキーガン・スヴェンソン(アメリカ)が落車し、追走グループは勢いを失くす。逃げ切り体制を固めた2人はエンポリアの街まで完全に協力し合って走った。

ラスト2kmの最後の坂・ハイランドヒルでジョーンズがアタックすると、ペローは反応できず。ジョーンズは最終的にペローに42秒の大差をつけてフィニッシュした。エリート男子では久々となる独走勝利だった。

「安全策を講じたほうが良かったかもしれないとも思ったが、ただ攻めるだけだった。チャンスを感じていたんだ。ここまでのトレーニングはうまくいったし、脚の調子はすごく良かった。レースをリードするのはすごく楽しかった」と、思い切った独走劇を振り返った。
キャメロン・ジョーンズの記録8時間37分09秒は「もうこれ以上は速く走れないだろう」とさえ言われた昨年のタイムをさらに34分28秒も更新する、驚異的な過去最速タイム。平均時速はなんと37.81km/h!

ペローはまだ出場経験の少ないグラベルレースで、しかもアンバウンドでいきなりの2位獲得。
「数ヶ月前からこのレースのことだけを考えて過ごした。ネットで情報を漁り、スパイシーな動画を観てきた。テクニカルパートナーたちと速くて快適なバイクセットアップを追求し、補給戦略も練ってきた。勝利のためにはすべてがうまくいく必要がある。でも小さなミスがあった。最後にジェルを落とし、ラスト20kmの僕は空っぽだったんだ。最後に自分の切り札を繰り出せず、残念。良かったことは、この経験を活かして来年またチャレンジできること」とペローは来年のリベンジに意欲を燃やす。

日本人としては2023・2024年の2度エリートに出場した小森亮平(現愛三工業レーシング監督)に続く2人目のエリート参戦となった「アベタカ」こと阿部嵩之(ヴェロリアン松山)。5月上旬のツール・ド・熊野で落車して、脚を負傷してからの2週間は自転車に乗ってのトレーニングができず、不安を抱えたままのグラベルレース初参戦となったが、終始安定した走りで10時間57分の素晴らしいタイムで完走した。
補給食をしっかり摂る戦術で走りエネルギー切れは防げたものの、長時間の運動と振動でレース後に嘔吐したという阿部。怪我が無く良い調整ができれば1時間近くは短縮できるだろうという実感をもったという。準備不足の今回は相当に苦しんだが「来年も出場したい」とのことだ。なお平均速度は29.8km/h、TSSスコアは494、消費エネルギー8019kJ、平均パワー204Wというデータだった(Peaks Coaching調べ)。
女子エリートはカロリーナ・ミゴンが8分差で独走勝利 PASワン・ツー勝利

年々レベルが上がる女子エリート。男子との混走でレース結果が左右されることを懸念した主催者が課した今年の新ルールは、カテゴリーの違うクラスの選手が牽引に加わることの禁止。いわばラビット的な選手によるリードアウトを避けるための処置だ。

中盤、抜け出しに成功したのはカロリーナ・ミゴン(ポーランド)とセシリー・デッカー(アメリカ)のPASレーシングのコンビに、2021年覇者ローレン・デ・クレシェンツォ(アメリカ)を加えた3人。フィニッシュまで50マイルを残して後続に対し7分34差までリードを拡大する。


そして残り40マイルでカロリーナ・ミゴンが独走に持ち込むと、そこからの2時間で18分差にまでリードを拡大した。ここまでのグラベルレース、トラカ360kと前週のグラベル・ロコスで優勝しているミゴンは、そのまま誰も寄せ付けない走りでフィニッシュまで大差を持って逃げ切った。

2位はミゴンのチームメイトのセシリー・デッカーが喜ぶ余裕もなく入り、PASのワン・ツーフィニッシュ達成。3位以降は4人のグループによる争いになり、昨年覇者のローザ・クローザー(ドイツ)がコースミスによって一旦ストップして戻るハプニングの後、スプリント合戦に。渾身のスプリントで昨年覇者ソフィア・ゴメス・ビジャファニェ(アルゼンチン)が制した。


「18分! チームメイトとは7分の差と知っていたけど、後続はそんなにも後ろ。馬鹿げていると思ったけど、40マイルを残してアタックした」と勝利したミゴン。ポーランドの新星は今、グラベル女王の座を欲しいままにする。ミゴンのタイム 10時間03分54秒は、これもまた過去タイムを約38分更新する女性の史上最速記録となった。

なおジロ・デ・イタリア2017覇者&ツール・ド・フランス2018総合2位のトム・デュムラン(オランダ)は、楽しむスタンスでアンバウンドへ参加。しかしレース3日前のグラベル試走中に落車し、脚を負傷。大事をとってDNSを選択した。しかしその数日間は「シェイクアウトライド」に参加してファンたちと交流し、楽しめた模様だ。
200・100・50マイルの各エイジグループに日本人15人が参加



一般ライダーによるアンバウンドグラベルも、事実上の「非公式のエイジグループのグラベル世界選手権」と呼ぶにふさわしいハイレベルの戦いだ。「オリジナル」と呼ばれる200マイルクラスは欧米の予選を勝ちいて出場権を得た約900人が参加する激戦区。日本からはプロMTBエンデューロレーサーの永田隼也と、田村繁貴、青山雄一、久保信人、松橋拓也、パナレーサー社員の森脇陽一と神野悠作の計7人が参戦した。




アンバウンド・グラベルでは、どのクラスも参加者たちは大会公式サイト上で発表・掲載されるルートデータを自身のGPSサイクルコンピュータにダウンロードし、セルフナビゲートしながら走ることになる。レースの基本ルールは「自己責任のセルフサポート」をベースとしている。基本的なレース規則は2022年の特集記事にまとめてあるので参照してほしい。
200マイルレースは例年通り大集団によるハイスピードレースとなり、落車が頻発した。田村繁貴が90km地点のダウンヒル中のクラッシュに巻き込まれて転倒、肩を負傷しリタイヤしたが、他の6人は完走。うち4人がアンバウンド初参加での完走、そして青山雄一は4度目、松橋拓也は2度目の200マイル完走だ。なお永田と松橋と久保の3人は日没の20時45分前にフィニッシュする「RACE THE SUN」の栄誉ある称号を獲得している。


約1500人が出場する最多参加者数クラスの100マイル(実測108マイル=172km)。日本からは昨年に続いての出場となるユーチューバーの「けんたさん」が出場、他に土谷基成、石川光祐、北岡只楽、アメリカ在住の有馬亮輔、そして4度目の出場になるCW編集部の綾野真の合計7人が参戦し、7人全員が完走した。ちなみに綾野のタイムでも昨年より30分近く更新し、いかに今年のコンディションが良かったかを裏付ける。

北岡只楽さん(cycleclub3UP)は「楽しくて一生の思い出になった」と、アメリカで体験する自身初のグラベルレースを楽しんだ様子だ。

ファミリー層やビギナーでも参加しやすい50マイル(約89km)には、今年もパナレーサーの大和竜一社長と、昨年までIRCタイヤに勤務し、グラベルイベントでのタイヤサポートやグラベルライド講習会開催の経験をもつ豊川沙弓さんが参加。ともに楽しみながら完走した。なお25マイルの44%、50マイルの40%が女性エントラントで、その女性参加者の伸び率の高さが話題になった。

子どもから誰でもが参加できるアンバウンドグラベル。今年も最高齢は昨年も100マイルレースを完走している92歳のフレデリック・シュミットさん(アメリカ)で、今回はなんと200マイルに挑戦。しかしシュミットさんは40マイルを走った後、体調不良でDNFになった。


好天・好コンディションによりほとんどすべてのクラスで新記録ラッシュとなったアンバウンド・グラベル2025。しかしレース2日後にはカンザス一帯を名物の大雨が襲い、一週間前と同じく洪水警報が発令。レースコースは広く浸水、完全に水没した箇所もあり、改めて大自然の脅威を感じさせた。もしタイミングが2日ズレていたら、困難な状況が待っていたはずだ。




なお永田隼也とその仲間たちによるライドユニット「ノルンジャー」3人のレース参戦レポートを特集続編で紹介する予定だ。
2025 Life Time UNBOUND Gravel 主要リザルト
XL 350マイル | ||
1位 | ロバート・ブリットン(カナダ) | 17:49:51 |
2位 | ラクラン・モートン(アメリカ) | 17:55:35 |
3位 | ロビン・ジェムペールレ(スイス) | 19:01:01 |
28位 | 山本健一 | 24:55:53 |
200マイルエリート男子 | ||
1位 | キャメロン・ジョーンズ(ニュージーランド) | 8:37:09 |
2位 | シモン・ペロー(スイス) | 8:37:51 |
3位 | トールビョーン・アンドレ・レード(ノルウェー) | 8:42:31 |
69位 | 阿部嵩之(ヴェロリアン松山) | 11:01:38 |
200マイルエリート女子 | ||
1位 | カロリーナ・ミゴン(ポーランド) | 10:03:54 |
2位 | セシリー・デッカー(アメリカ) | 10:12:29 |
3位 | ソフィアゴメス・ビジャファニェ(アルゼンチン) | 10:22:24 |
200マイル | ||
1位 | テイラー・ドーソン | 10:03:46 |
2位 | マッティア・ソリナス | 10:05:10 |
3位 | ベン・ヘルケン | 10:05:11 |
100マイル | ||
1位 | ヘイデン・クリスチャン | 4:40:12 |
2位 | イサーク・アルレド | 4:40:13 |
3位 | ヨナス・ウードルフ | 4:47:02 |
text&photo:Makoto AYANO
photo : Dan Hughes/Life Time,Makoto AYANO
photo : Dan Hughes/Life Time,Makoto AYANO