「ヤマケン」の愛称で知られるトレラン界の第一人者、山本健一さんがアンバウンドグラベルに初挑戦。自転車レース初参加にして最長距離350マイル=580kmのXLクラスに出場し、24時間55分の好タイムで完走した。山本さん自身の手記でレースを振り返る、熱き走りの記録だ。

山本健一(プロマウンテンアスリート) photo:Sho Fujimaki
1979年生まれ。モーグルスキーを経てトレイルランニングを始め、山岳耐久レースのハセツネCUPでは2008年に当時の日本記録で優勝を果たす。2009年のUTMB=ウルトラトレイル・デュ・モンブランで8位に。100マイルレースを主戦場とし、2012年にグランレイド・デ・ピレネーで優勝、国外のメジャーレースにおける日本人初優勝を達成。2019年3月に高校教員の職を辞しプロマウンテンアスリートに転向。クロスカントリースキーの指導者・選手としても活動する。フルマークス所属。
※UTMB=ウルトラトレイル・デュ・モンブラン:ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランを取り巻く山岳地帯を走るトレイルランニングの世界大会
200マイルクラスには3万ドルの賞金も用意され、プロ選手も多数参加します。しかし私が出場するXLクラスは距離350マイル=約580km!
しかしXLクラスには賞金などはなく、200マイルとは雰囲気が違ってのんびりとしています。私には200マイルのハイスピード集団のなかを走る自信は全くありませんでしたので、200名ちょっとしか参加しないXLクラスでのんびり安全に走れればいいかなと思い、迷わずXLにエントリーしたわけです。そして長距離が得意なトレイルランナーの私としても、このクラスを選ばない理由がありません。総勢208人がエントリー、うち日本人は3人です。3人もの参加は過去に例がないとのこと。
アンバウンド・グラベルに参加した理由についても触れておきましょう。昨年4月頃、私にグラベルを紹介してくれた方から、このイベントを知りました。過去の記事や動画をみると、そこには泥だらけでいい顔してペダルを回している人たちがいました。「俺もこんな風になりたい!」ただそれだけでした。
ロードバイクには2013年から、グラベルバイクには3年前の2022年夏から乗っています。レースに出ることはしないけど、自転車はランに比べて移動距離が長くて旅的な楽しさを感じていたので、クロストレーニングに取り入れていたんです。おまけに自転車は膝にも優しい。山梨のグラベルは山の中に入っていくので、トレイルランニングにも似ている部分もあります。登りはハァハァ、下りはひゃっほー! という感じですね。

宿に着き、バイクの梱包を解いて組み立てていく photo:Sho Fujimaki
長旅でしたが無事にオヘア空港でバイクを受け取り、レンタカーを借りて、23時過ぎにシカゴ郊外のスーパー8ホテルにチェックイン。時差ボケか、朝までに1時間くらいしか寝れなくて、ちょっと焦りました。頭の中で、メカトラブルの心配がぐるぐる巡って。やっぱり初めてなので緊張していたのだと思います。

同じXLクラスを走るラクラン・モートンとエンポリアの街で出会った photo:Sho Fujimaki
途中、カンザスシティで食材を買い出しして、午後4時半頃にAirbnbで予約したトピカのフランクさん宅に到着しました。ここで予定外の事実が! 一棟貸しかと思いきや、家主のフランクさんの自宅の二部屋を借りれる、ということだったんです。
共同生活。しかもフランクさんには魚アレルギーがあり、臭いもダメということで魚は禁止です。アナフィラキシーショックになってしまうようでした。せっかく美味しそうなサーモンを買ってきたのに「Please don't kill me」と言われてしまいました…。お魚はとりあえず冷蔵庫の奥深くにしまいました。
持参した米を炊いて、レトルトカレー、サバ缶詰、サラダ、通生さんの特製玉ねぎチキンスープなどで夕食をいただき、すぐにバイクを組み立て、昨日の睡眠不足を解消するために早めに寝ました。バイクがどこも壊れていなさそうで本当に良かった。この日はさすがによく眠れ、8時間は寝ました。

無数のジェルを並べて組み立てるエネルギー摂取計画 photo:Sho Fujimaki

XLクラスのゼッケンを受け取った photo:Sho Fujimaki 
ハイドレーションにストロー付きフラスクをありったけ詰め込んだ photo:Sho Fujimaki
100マイルごとにガソリンスタンドのショップに寄る計算で補給計画を立て、100マイルを時速20㎞平均で動くためのカロリーを算出。時間にして8時間。その強度なら感覚的に1時間に160kcalでいけそう。
最初の1時間半くらいはスタート前に摂取した貯金があるので、以降に摂取するカロリーは6時間半で単純に計算すると総計1280kcal。これは全く攻めていなくて、安心の食糧計画です。

主エネルギーとした蜂蜜ベースの「飲んDECO」 photo:Sho Fujimaki
蜂蜜ベースのリキッド「ハニーアクション・飲んDECO」がワンパック275kcal。一つのフラスクに原液を2パック入れ、それをガソリンスタンドで買う水で薄めて使います。つまりフラスク一つが550kcal。これが2つなので1,100kcalをジェルから摂る計画です。

ルートや補給ポイントによってタイムスケジュールを組み立てていく photo:Sho Fujimaki
残りは非常食として200kcalのグミを2つ、さらに非常用として600kcalのアンサー600の粉を携帯します。合計で2,100kcal。これでたいていのことがあってもショップにはたどり着けるだろうと考えました。こうやって考えながら準備をする時間が大好きです。

日か傾いてから少しのコース試走へ photo:Sho Fujimaki
順調に準備を終え、少しだけコースを下見しに行きます。昨日までの雨の影響でコースは水たまりが多く、全体的に濡れています。泥で車が瞬く間に白くなります。こんな中を走れたらかなり泥ドロになれるだろうな....とワクワク考えていました。

泥対策としてのブラシとスティックを確保。使わないことを祈るのみ photo:Sho Fujimaki
フランクさん宅に戻り、昼ご飯を食べて、会場となるエンポリアへ。距離は90㎞ほどですが、道がまっすぐなので1時間で着きます。ライオンセンターで受付をすませ、エキスポ会場へ見学に行きます。あらゆるブースで泥を落とす木のヘラを配っています。これが噂の…。泥対策として携帯ブラシと携帯チェーンオイルを購入しました。

バイクはコナ LIBRE CR コンポはメカニカルのシマノGRX 12S仕様だ photo:Sho Fujimaki

エンポリア唯一の劇場 グラナダシアターでのライダーズミーティング photo:Sho Fujimaki
帰宅途中に夕陽をバックに撮影して、トピカへ戻り、ご飯をつくり、ビーガンカレーと缶詰、高野豆腐などをいただき、22:30頃就寝しました。ワクワクドキドキしすぎてます。楽しみと不安、なんともいえない緊張感です。

頼りにしているPOCのヘルメット photo:Sho Fujimaki 
トップチューブに水を基準にした補給計画を記した photo:Sho Fujimaki
朝は齋藤監督特製のフレンチトースト。トレランでは毎回レースの翌日に作ってくれるのですが、今回は当日をリクエストしました。最高においしかった。カメラクルーメディアの説明会のため11:00にフランク邸を出発。13:30まではレンタカーの中でダラダラと過ごします。ホンダ・オデッセイは広くて快適でした。
眼を閉じて休んだり、通生さんに作ってもらったおにぎりを食べたり、足のマッサージをしてもらったり...。
スタート3時間前と30分前にベスパプロを摂取。1時間前にアンサー600を摂取。おにぎりを4個食べ、出走直前に1000kcalは入れることができました。

XLに出場する3人の日本人選手。山本健一、三宗広歩、福田暢彦(左から) photo:Sho Fujimaki
スタートラインでは約210名ほどのライダーが談笑しています。私も一緒に参加する日本人選手や他のカテゴリーで応援に来てくれている選手たちと話をしてリラックスできました。いい雰囲気です。準備は万全。あとは楽しむだけ。
選手の多くはハイドレーション付きバックパックを背負っていて、どこかトレランの大会みたい。そんな姿を見たからか、一気に緊張感がほぐれ、気持ちがさらに楽になりました。

金曜の15:00、XLのグループとともにスタートしていく山本健一 photo:Sho Fujimaki
カウントダウンののち、ゆっくりとスタート。街の中はアスファルトを進みます。スタートしてすぐに初出場だというフィリピン人の選手と仲良くなります。この旅も面白くなりそうだ。36時間の制限時間の中でどんな友達ができるか楽しみです。
集団は速いスピードで進みます。平地では軽く35㎞/hくらいで進んでいきます。ひとりでライドする時では考えられない速度。空気の流れがすごいんですね。200マイルクラスは1,500人の集団だから、もっとすごいんだろうな。

グループ内で走る山本健一。ドラフティングが効き、スピードが上がる photo:Sho Fujimaki

隊列で進むXLの選手たち。真っすぐ伸びるグラベルを行く photo:Sho Fujimaki
道はまっすぐ行っては90度カーブして、またまっすぐ。視界のずっと先まで続くグラベル。ローリングヒルはなだらかなジェットコースター。そして時々ガレたテクニカルセクションと土の沼地のような泥地帯が登場する。個人的にはこういうアクセントが最高に楽しかったです。

グラベル区間を走る山本健一。まだまだ元気だ photo:Sho Fujimaki
地元の山梨グラベルは基本ガレていて、そちらで練習していたのでガレ場はあまり苦になりませんでした。難しかったのは、泥が固まって出来上がった深いサイズの轍(わだち)。これで2回ほど転倒しました。ペダルが下になった時に地面にあたってしまい、逆サイドにはじかれてその壁を乗り越えられずにそのまま倒れる。同じ状況で2回コケました。
幸いにもスピードが出ていませんでしたので擦り傷くらいで済んだので良かった。でもその後は轍恐怖症になり、かなり慎重になってしまいました。対処法を見つけなければ!

ときどきぬかるみや泥の轍が現れる photo:Sho Fujimaki
最初の100㎞ほどは様子を見ようと思い、真ん中くらいの集団で走りました。なにしろ自転車はレースどころかイベント初参加なので、集団走の恐怖や、色々と分らないことが多かった。この時集団で一緒だった選手たちは、下りと平地はめちゃくちゃ速いのですが、登りはとてもゆっくりで、自分はもっと前に行きたい感じでした。そうはいっても100㎞くらいまでは様子をみようと思い、ゆっくり着いていきます。
夕暮れ前にコロラド在住のベン(ベンジャミン)と仲良くなります。彼もウルトラトレイルランナーで、100マイルレースにも積極的に参加しています。お互いのやっていることや、家族、仕事のことなどを話し、楽しいひと時です。私が過去に走ったレースの話をすると喜んで聞いてくれて、一瞬で意気投合。この時間が最高に好きです。

日没から時間が経ち、夜が更けてきた photo:Sho Fujimaki

ヘッドライトの灯を頼りにナイトラン。渡渉もでてきた photo:Sho Fujimaki
何かのタイミングで点灯ではなく点滅モードになってしまい、前がよく見えない。説明書も読んでいなかったため対処方法がわからず、とりあえずライディングにも集中したかったので、諦めて「壊れた」と判断しました。ヘッドランプを予備で持っていたので不安はありませんでしたが、次のガソリンスタンドまでコレで行くしかない、と1時間弱ほどは速度を落として走りました。

夜のガソリンスタンドに到着。併設のショップで補給を買い足す photo:Sho Fujimaki
21:40頃に予定していた173㎞地点のショップに到着。計画では22:30到着だったので小一時間まいてます。明るい場所でヘルメットにヘッドランプを装着。取り付けにバンドなどを使わなくてはならないので明るい場所で取り付けたかったし、ちょっと時間がかかるのです。

ガソリンスタンドのショップで買物。美味しい弁当などは置いてない photo:Sho Fujimaki
そしてお買い物です。水3Lとアップルパイ(300kcal)、プロテインバー2本(400kcal)を購入。第三者からサポートを受けることはできないけど、コース上のショップで買い物することはOKです。約25分ほどのピットインでした。

座り込んでの補給作業。束の間の休息だ photo:Sho Fujimaki
メットにランプを装着する時間が余分にかかったので身体も冷え切り、出発するときはアームカバーをつけてもとても寒かった。レインウエアを着ようか迷いましたが、ちょっと我慢。次のガソリンスタンドは320㎞地点です。
ここからはナイトセクション。日本では糸魚川と磐田でロングライドをしていたので夜中に自転車で走る感覚は体験していました。しかし夜のオフロードは走ったことはなく、ワクワクでした。気温はぐっと下がり、汗もかかなくなり、摂る水分も若干減りました。道は相変わらず最高に気持ち良いクオリティです。そしてたまにドロんこ祭り。泥は体と車体に蓄積され、いい感じにカッコイイです(笑)。
ヘッドライト一つでは遠くが見えにくく、安全をとって少しペースダウン。何人かと集団で走ります。途中、私も集団を引きます。気持ち良かった。
深夜1時頃、前のほうで4、5人くらいの人たちが止まっています。なんだろう?と思い、私もそこで停まります。見るとひとりのパンク修理にみんなで手を貸していました。ライトで照らしたり、空気入れを支えてあげたり、と。
私は特にやることがなさそうだったので、励ましの声かけと、ビデオ撮影しました(笑)。アンバウンド・グラベルのルールとして、外部からのサポートは一切禁止だが、選手同士のサポートはOKという風に明記されています。そしてトラブルから復帰すると、みんな全力でペダルを踏むのです。
私はここまでライト以外はノートラブルです。心配していたタイヤも問題ありません。空気圧は1.8Bar。いい感じの乗り心地です。しいて言えばチェーンが少しキュルキュルいっています。あと、筋肉が若干痙攣しそうな感じがあったので、ベスパの摂取間隔を3時間から2時間に変更しました。その後は痙攣の前兆もなくなり、安心してペダリングできました。

フラスクに入れたジェルを水で薄める。基本はリキッドで走る photo:Sho Fujimaki
5月31日に日が変わり、320㎞地点。まだ暗い4:30頃、予定より3時間ほど早く2つ目のガソリンスタンドに到着。夜だったためか水もまだ残り、食料もまだある。よって水を500mlだけ買い、新たなフラスクのジェルを薄めて出発。次の区間は120㎞ほどなので十分だと計算しました。
ここまで13時間経っているけど、余裕はあります。さすがに朝は寒すぎて、軽量レインウエアを着用して暖かくなるまで進みます。
夜が明けて朝を迎える。気持ち良さはそのまま!

道端で寝ているライダーも photo:Sho Fujimaki
午前7時頃に太陽も出てきて暖かくなり始めました。ベンと久しぶりに会います。彼は落車したようで少し疲れていました。しばらく夜の出来事などを話しながら一緒に走ります。私はそれほど眠くなりませんでしたが、ベンは眠そうです。

友人になったベンと2人で走り続けた photo:Sho Fujimaki
「カフェインある?」とベンに聞かれたので、非常用に持っていたタブレットを渡しました。その後、藤巻君がカメラを構えていて、二人の最高のショットを納めてくれました。いい記念になります。

友人になったベンと一緒に走る。ウルトラディスタンスの楽しみだ photo:Sho Fujimaki
相変わらずのご機嫌なグラベルにペースもいい感じです。全く飽きることなくルンルンでペダルを回しています。後半の心拍数はランより高い感じですね。ランは後半になると足が痛くなってきているので、私の場合、心拍数は100前後まで落ちますが、今回はまだまだ130~140くらいの感覚でした。そう考えるとすごく良いトレーニングをしているようです。この頃、チェーンからは大きなきしみ音が....。チェーンが油を欲している。

443㎞地点、店が途絶えるエリアに大会主催者が用意してくれていた唯一のエイド photo:Sho Fujimaki
443㎞地点。ここは大会が用意してくれている唯一のエイドです。水、ジュース、パスタ、スープ、グミ、ジェルなどが置かれています。ここでピット・インして、音鳴りしている泥だらけのチェーンを水で洗ってあげました。

音鳴りするチェーンを水洗いして注油する photo:Sho Fujimaki
水を補給してグミを2袋もらい、出発前に注油して最後の130㎞に向けて出発!ベンもちょうど到着しました。「またあとで!」とあいさつ。ここからの区間はまた気持ち良い景色最高のグラベルです。
「なんでこんなに気持ちいいの?!」ってずっと思いながら走りました。間違いなく日本にはこれほどのスケールのルートはないはず。「世界中でここだけかも」なんて思いながら貴重な時間を過ごしました。そしてチェーンがすこぶる具合がいい。もっと早く注油すればよかったなぁ。

廃墟はあれど、買い物ができるショップが途絶えるエリア photo:Sho Fujimaki
しばらくすると渡渉(川渡り)が何度も出てきます。最初は加減しながらでしたが、様子がわかってくると全速力で突っ込みます。結構深いところもあるのでむしろ全速力でないと止まります。でもここで一つ誤算が!なんと、水がきれいなため、足についた泥が落ちてしまいました。バイクも徐々にきれいになっていきます。これは困ります。泥だらけでゴールするという目標なんですから。それでも川は渡らなければならないし、複雑な気持ちで渡渉します。

何度も繰り返して丘を越え、地平線の先へと進んでいく photo:Sho Fujimaki
いつしかあっという間に残り50㎞を切って、他のカテゴリーのライダーと合流します。若干スピードが違う選手もいて、下りでの車線変更もあり、結構危険です。特に轍がある場所はかなり要注意です。またチェーンが鳴き始めます。渡渉を繰り返したせいでしょう。でももう止まらずにゴールまで行きたかったので、聞こえないふりをしてペダルを回しまくります。
手のひらが痺れています。指の力も無くなってきていて、特にフロント変速が大変になってきています。アクションカメラもつけていましたが、最初の頃は回転させて自撮りもしていましたが、もう回転させるだけの力がありません。なので前しか撮れませんでした。泥もまた現れてきました。うれしかったですね(笑)。

永遠に続くようなグラベルは気持ち良すぎる。思わず「気持ちいい~!」と叫ぶ photo:Sho Fujimaki
ラスト20㎞はほぼフラット。ここでも30㎞/hアベレージくらいで回します。普段では考えられません。西風が強く、走る向きによっては苦しみましたが、どちらかというと最後は東向きに進むロケーションだったので、気持ち良く走れた区間が多かったような気がします。日差しも強くなりジリジリと焦げていきました。本当に最後の最後まで気持ち良い砂利のルートです。
エンポリアの街に出て、いよいよフィナーレへ。最後の坂の上ではホットドッグを配布しています。ありがたくいただき、ポケットに突っ込んで最後のホームストレートへ。とても楽しかったし、うれしかったのですが、「あ~、帰ってきちゃったか~」っていう感じでしたね。この感覚はトレランの100マイルレースと同じです。

想定していたより6時間も早く、24時間55分53秒でフィニッシュ photo:Sho Fujimaki
ゴールではにぎやかにMCがしゃべっています。通生さんと翔君が待ってくれていました。握手をして、私のはじめての自転車レースはいい思い出ばかりで幕を閉じました。ビギナーズラックというヤツでしょうか?
走行距離579.7km、タイムは24時間55分53秒。総合28位、男子24位。

フィニッシュしてからは、なんともいえない充足感に満たされた photo:Sho Fujimaki
想定していたより6時間も早くフィニッシュできました。初出場で28位と善戦できたのは、これまでのウルトラレース経験のおかげでしょうか。サポーター、サプライヤーの皆さんへの感謝が沸いてきます。
とにかく喉がとても乾いていて、水やらソーダやらをガブガブ飲みます。地元の子供たちが自転車を洗ってくれます。そして参加賞についている12ドルのチケットでタコスを買い、他にはチーズポテト。3人のジャンクフード祭りが始まりました! とってもおいしかったです。

フィニッシュしたらタコスとチーズポテトでジャンクフード祭りへ photo:Sho Fujimaki
ベンも26時間弱でゴールして祝福。メールアドレスを交換、また会うことを約束してお別れしました。
「コロラドに来ればいつでも泊めてあげる」とのことなので、いつか必ず行きます。ロングレースの楽しみのひとつに、たった24時間でこんなにも深い関係になれるっていうのがありますね。今回もいい旅でした。
トピカのフランク邸に戻り、洗濯や身の回りを片付けて、話をして、寝ました。トレランの100マイルレースより関節のダメージは少ないです。膝も足首も痛くない。コースはローリングヒルの連続でしたが、トレランより登る時間がはるかに短く、気持ちのゆとりはありました。心地よい疲労感とグラベルを走る気持ち良さ。これは病みつきになります!
翌日の6月1日の朝は表彰式へ見学に行きます。劇場のグラナダシアターで行われる自転車のイベントのセレモニー。200マイルのチャンピオンには賞金、XLのチャンピオンは盾が授与され、エイジ別の表彰も細かくされていました。他の日本人の方にここで会えるかな、と思いましたが、誰もいなくて、私たちもエンポリアを後にしました。さようなら、また来るよ。
帰路のアイオワ州デモインにアパートを借りて、食べれなかった魚を通生さんに焼いてもらいました。熟成されていて最高においしかったです。翌日はイリノイのスターヴド・ロック州立公園のよい感じのキャニオンの中でランの撮影をしたりしながらシカゴに戻り、念願のシカゴピザをいただきました。
レースを終えて3週間が経っても小指と薬指はしびれたままでした。ハンドルを必死で握りすぎたか?
初のグラベルレースは未知の領域でしたが、最高の世界を見ることができました。ここまで支えてくださった皆様に感謝いたします。ありがとうございました。(山本健一)
山本健一(やまもと けんいち・プロマウンテンアスリート)

1979年生まれ。モーグルスキーを経てトレイルランニングを始め、山岳耐久レースのハセツネCUPでは2008年に当時の日本記録で優勝を果たす。2009年のUTMB=ウルトラトレイル・デュ・モンブランで8位に。100マイルレースを主戦場とし、2012年にグランレイド・デ・ピレネーで優勝、国外のメジャーレースにおける日本人初優勝を達成。2019年3月に高校教員の職を辞しプロマウンテンアスリートに転向。クロスカントリースキーの指導者・選手としても活動する。フルマークス所属。
アンバウンド出場の動機は「泥まみれになりたい」
アンバウンド・グラベルは世界最高峰のグラベルイベントだと耳にしていました。そもそもグラベル発祥の地がこのカンザス州という話も聞きました。世界中から抽選で選ばれた、およそ5,000人の競技者がカンザスの小さな街エンポリアに集まります。イメージとしてはトレイルランのUTMB(※)みたいな感じです。※UTMB=ウルトラトレイル・デュ・モンブラン:ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランを取り巻く山岳地帯を走るトレイルランニングの世界大会
200マイルクラスには3万ドルの賞金も用意され、プロ選手も多数参加します。しかし私が出場するXLクラスは距離350マイル=約580km!
しかしXLクラスには賞金などはなく、200マイルとは雰囲気が違ってのんびりとしています。私には200マイルのハイスピード集団のなかを走る自信は全くありませんでしたので、200名ちょっとしか参加しないXLクラスでのんびり安全に走れればいいかなと思い、迷わずXLにエントリーしたわけです。そして長距離が得意なトレイルランナーの私としても、このクラスを選ばない理由がありません。総勢208人がエントリー、うち日本人は3人です。3人もの参加は過去に例がないとのこと。
アンバウンド・グラベルに参加した理由についても触れておきましょう。昨年4月頃、私にグラベルを紹介してくれた方から、このイベントを知りました。過去の記事や動画をみると、そこには泥だらけでいい顔してペダルを回している人たちがいました。「俺もこんな風になりたい!」ただそれだけでした。
ロードバイクには2013年から、グラベルバイクには3年前の2022年夏から乗っています。レースに出ることはしないけど、自転車はランに比べて移動距離が長くて旅的な楽しさを感じていたので、クロストレーニングに取り入れていたんです。おまけに自転車は膝にも優しい。山梨のグラベルは山の中に入っていくので、トレイルランニングにも似ている部分もあります。登りはハァハァ、下りはひゃっほー! という感じですね。

レース直前まで忙しいスケジュール
5月27日移動日(東京~台北~シカゴ)
エバー航空で台北経由でシカゴ・オヘア空港に入りました。エバーは23㎏の荷物を二つまで無料で預けられるので助かりました。自転車は大きいので事前に登録が必要でした。長旅でしたが無事にオヘア空港でバイクを受け取り、レンタカーを借りて、23時過ぎにシカゴ郊外のスーパー8ホテルにチェックイン。時差ボケか、朝までに1時間くらいしか寝れなくて、ちょっと焦りました。頭の中で、メカトラブルの心配がぐるぐる巡って。やっぱり初めてなので緊張していたのだと思います。
5月28日移動日(シカゴ~トピカ)
ここから約800㎞離れたトピカの街を目指します。今回同行のチームは、監督であるベスパ齋藤通生さん、カメラマン藤巻翔さん。2012年ピレネーの100マイルレースで優勝した時に一緒にいた遠征メンバーです。3人で協力しながら、疲れを溜めないように運転します。
途中、カンザスシティで食材を買い出しして、午後4時半頃にAirbnbで予約したトピカのフランクさん宅に到着しました。ここで予定外の事実が! 一棟貸しかと思いきや、家主のフランクさんの自宅の二部屋を借りれる、ということだったんです。
共同生活。しかもフランクさんには魚アレルギーがあり、臭いもダメということで魚は禁止です。アナフィラキシーショックになってしまうようでした。せっかく美味しそうなサーモンを買ってきたのに「Please don't kill me」と言われてしまいました…。お魚はとりあえず冷蔵庫の奥深くにしまいました。
持参した米を炊いて、レトルトカレー、サバ缶詰、サラダ、通生さんの特製玉ねぎチキンスープなどで夕食をいただき、すぐにバイクを組み立て、昨日の睡眠不足を解消するために早めに寝ました。バイクがどこも壊れていなさそうで本当に良かった。この日はさすがによく眠れ、8時間は寝ました。

カロリー計算は計画的に
朝から全力で準備開始です。翌日午後3時がレーススタートなので時間がありません。レースは外部からのサポートは禁止なので、基本的にジェルをたくさん持っていきます。ハンドルから手を放すのは嫌なので、ストロー付きソフトフラスクにジェルをそのまま入れて飲む作戦。家にあるだけのフラスクを持っていき、100マイルごとに仕分けました。若干重いかな?と思ったけど、普段は20㎏を背負って歩いているので、このくらいの重量はあまり関係ない感じでした。それよりもストローをザックの中に収めるのが大変でした。

100マイルごとにガソリンスタンドのショップに寄る計算で補給計画を立て、100マイルを時速20㎞平均で動くためのカロリーを算出。時間にして8時間。その強度なら感覚的に1時間に160kcalでいけそう。
最初の1時間半くらいはスタート前に摂取した貯金があるので、以降に摂取するカロリーは6時間半で単純に計算すると総計1280kcal。これは全く攻めていなくて、安心の食糧計画です。

蜂蜜ベースのリキッド「ハニーアクション・飲んDECO」がワンパック275kcal。一つのフラスクに原液を2パック入れ、それをガソリンスタンドで買う水で薄めて使います。つまりフラスク一つが550kcal。これが2つなので1,100kcalをジェルから摂る計画です。

残りは非常食として200kcalのグミを2つ、さらに非常用として600kcalのアンサー600の粉を携帯します。合計で2,100kcal。これでたいていのことがあってもショップにはたどり着けるだろうと考えました。こうやって考えながら準備をする時間が大好きです。

順調に準備を終え、少しだけコースを下見しに行きます。昨日までの雨の影響でコースは水たまりが多く、全体的に濡れています。泥で車が瞬く間に白くなります。こんな中を走れたらかなり泥ドロになれるだろうな....とワクワク考えていました。

フランクさん宅に戻り、昼ご飯を食べて、会場となるエンポリアへ。距離は90㎞ほどですが、道がまっすぐなので1時間で着きます。ライオンセンターで受付をすませ、エキスポ会場へ見学に行きます。あらゆるブースで泥を落とす木のヘラを配っています。これが噂の…。泥対策として携帯ブラシと携帯チェーンオイルを購入しました。

ライダーズミーティングとエキスポに参加
18:30からはXLライダーズミーティングです。英語の内容はあまりわかりませんでしたが、隣に座っていた同じXLに出場する福田暢彦さんに聞いたり、翻訳アプリを見せてもらったりして確認しました。
帰宅途中に夕陽をバックに撮影して、トピカへ戻り、ご飯をつくり、ビーガンカレーと缶詰、高野豆腐などをいただき、22:30頃就寝しました。ワクワクドキドキしすぎてます。楽しみと不安、なんともいえない緊張感です。
580kmの長旅へのカウントダウン
夜中の2:30頃に、なぜかしっかり目が覚めてしまった。一時間ほどしても眠れない。これはマズいと思い、羊の数を数えながら無理矢理に目をつむっていると、いつの間にか眠りに落ちて、8:30頃まで眠れることができました。やっぱり基本の睡眠は大事です。結構遅くまで眠れることができて、目覚めはすっきりしていました。

朝は齋藤監督特製のフレンチトースト。トレランでは毎回レースの翌日に作ってくれるのですが、今回は当日をリクエストしました。最高においしかった。カメラクルーメディアの説明会のため11:00にフランク邸を出発。13:30まではレンタカーの中でダラダラと過ごします。ホンダ・オデッセイは広くて快適でした。
眼を閉じて休んだり、通生さんに作ってもらったおにぎりを食べたり、足のマッサージをしてもらったり...。
スタート3時間前と30分前にベスパプロを摂取。1時間前にアンサー600を摂取。おにぎりを4個食べ、出走直前に1000kcalは入れることができました。

スタートラインでは約210名ほどのライダーが談笑しています。私も一緒に参加する日本人選手や他のカテゴリーで応援に来てくれている選手たちと話をしてリラックスできました。いい雰囲気です。準備は万全。あとは楽しむだけ。
選手の多くはハイドレーション付きバックパックを背負っていて、どこかトレランの大会みたい。そんな姿を見たからか、一気に緊張感がほぐれ、気持ちがさらに楽になりました。
5月30日、昼3時レーススタート

カウントダウンののち、ゆっくりとスタート。街の中はアスファルトを進みます。スタートしてすぐに初出場だというフィリピン人の選手と仲良くなります。この旅も面白くなりそうだ。36時間の制限時間の中でどんな友達ができるか楽しみです。
集団は速いスピードで進みます。平地では軽く35㎞/hくらいで進んでいきます。ひとりでライドする時では考えられない速度。空気の流れがすごいんですね。200マイルクラスは1,500人の集団だから、もっとすごいんだろうな。

グラベルを走る気持ち良さを全身で感じて
2、3㎞走ると、いよいよ待ちに待った砂利道へ。気持ちいい~! 永遠に続くようなグラベルは気持ち良すぎる。この先570㎞、この気持ち良さが、と考えただけでヨダレが...。今思い返してもニヤニヤしてしまいます。
道はまっすぐ行っては90度カーブして、またまっすぐ。視界のずっと先まで続くグラベル。ローリングヒルはなだらかなジェットコースター。そして時々ガレたテクニカルセクションと土の沼地のような泥地帯が登場する。個人的にはこういうアクセントが最高に楽しかったです。

地元の山梨グラベルは基本ガレていて、そちらで練習していたのでガレ場はあまり苦になりませんでした。難しかったのは、泥が固まって出来上がった深いサイズの轍(わだち)。これで2回ほど転倒しました。ペダルが下になった時に地面にあたってしまい、逆サイドにはじかれてその壁を乗り越えられずにそのまま倒れる。同じ状況で2回コケました。
幸いにもスピードが出ていませんでしたので擦り傷くらいで済んだので良かった。でもその後は轍恐怖症になり、かなり慎重になってしまいました。対処法を見つけなければ!

最初の100㎞ほどは様子を見ようと思い、真ん中くらいの集団で走りました。なにしろ自転車はレースどころかイベント初参加なので、集団走の恐怖や、色々と分らないことが多かった。この時集団で一緒だった選手たちは、下りと平地はめちゃくちゃ速いのですが、登りはとてもゆっくりで、自分はもっと前に行きたい感じでした。そうはいっても100㎞くらいまでは様子をみようと思い、ゆっくり着いていきます。
夕暮れ前にコロラド在住のベン(ベンジャミン)と仲良くなります。彼もウルトラトレイルランナーで、100マイルレースにも積極的に参加しています。お互いのやっていることや、家族、仕事のことなどを話し、楽しいひと時です。私が過去に走ったレースの話をすると喜んで聞いてくれて、一瞬で意気投合。この時間が最高に好きです。

トラブルを抱えてのナイトライド
午後8時半を過ぎると暗くなりはじめ、ライトを点灯。最大1500ルーメンの明るいライトを装備していたのですが、実は使うのは今回が初めて。直前で購入してテストしている時間がなかったのです...。この時点で失敗です。最も重要なギアのひとつなのに、テストができていなかった。
何かのタイミングで点灯ではなく点滅モードになってしまい、前がよく見えない。説明書も読んでいなかったため対処方法がわからず、とりあえずライディングにも集中したかったので、諦めて「壊れた」と判断しました。ヘッドランプを予備で持っていたので不安はありませんでしたが、次のガソリンスタンドまでコレで行くしかない、と1時間弱ほどは速度を落として走りました。

21:40頃に予定していた173㎞地点のショップに到着。計画では22:30到着だったので小一時間まいてます。明るい場所でヘルメットにヘッドランプを装着。取り付けにバンドなどを使わなくてはならないので明るい場所で取り付けたかったし、ちょっと時間がかかるのです。
ガソリンスタンドでの買い物と、初めてのダートナイトラン

そしてお買い物です。水3Lとアップルパイ(300kcal)、プロテインバー2本(400kcal)を購入。第三者からサポートを受けることはできないけど、コース上のショップで買い物することはOKです。約25分ほどのピットインでした。

メットにランプを装着する時間が余分にかかったので身体も冷え切り、出発するときはアームカバーをつけてもとても寒かった。レインウエアを着ようか迷いましたが、ちょっと我慢。次のガソリンスタンドは320㎞地点です。
ここからはナイトセクション。日本では糸魚川と磐田でロングライドをしていたので夜中に自転車で走る感覚は体験していました。しかし夜のオフロードは走ったことはなく、ワクワクでした。気温はぐっと下がり、汗もかかなくなり、摂る水分も若干減りました。道は相変わらず最高に気持ち良いクオリティです。そしてたまにドロんこ祭り。泥は体と車体に蓄積され、いい感じにカッコイイです(笑)。
ヘッドライト一つでは遠くが見えにくく、安全をとって少しペースダウン。何人かと集団で走ります。途中、私も集団を引きます。気持ち良かった。
夜のライドでだんだんとハイに
ぐちゃぐちゃの泥区間が何度が現れます。転んでいる選手もいます。私は押して歩いたので転ばずにパス。なぜなら事前に「泥はタイヤにすぐ付着するので怪しかったら迷わず降りて歩け」とアドバイスをもらっていたのです。深夜1時頃、前のほうで4、5人くらいの人たちが止まっています。なんだろう?と思い、私もそこで停まります。見るとひとりのパンク修理にみんなで手を貸していました。ライトで照らしたり、空気入れを支えてあげたり、と。
私は特にやることがなさそうだったので、励ましの声かけと、ビデオ撮影しました(笑)。アンバウンド・グラベルのルールとして、外部からのサポートは一切禁止だが、選手同士のサポートはOKという風に明記されています。そしてトラブルから復帰すると、みんな全力でペダルを踏むのです。
私はここまでライト以外はノートラブルです。心配していたタイヤも問題ありません。空気圧は1.8Bar。いい感じの乗り心地です。しいて言えばチェーンが少しキュルキュルいっています。あと、筋肉が若干痙攣しそうな感じがあったので、ベスパの摂取間隔を3時間から2時間に変更しました。その後は痙攣の前兆もなくなり、安心してペダリングできました。

5月31日に日が変わり、320㎞地点。まだ暗い4:30頃、予定より3時間ほど早く2つ目のガソリンスタンドに到着。夜だったためか水もまだ残り、食料もまだある。よって水を500mlだけ買い、新たなフラスクのジェルを薄めて出発。次の区間は120㎞ほどなので十分だと計算しました。
ここまで13時間経っているけど、余裕はあります。さすがに朝は寒すぎて、軽量レインウエアを着用して暖かくなるまで進みます。
夜が明けて朝を迎える。気持ち良さはそのまま!

午前7時頃に太陽も出てきて暖かくなり始めました。ベンと久しぶりに会います。彼は落車したようで少し疲れていました。しばらく夜の出来事などを話しながら一緒に走ります。私はそれほど眠くなりませんでしたが、ベンは眠そうです。

「カフェインある?」とベンに聞かれたので、非常用に持っていたタブレットを渡しました。その後、藤巻君がカメラを構えていて、二人の最高のショットを納めてくれました。いい記念になります。

相変わらずのご機嫌なグラベルにペースもいい感じです。全く飽きることなくルンルンでペダルを回しています。後半の心拍数はランより高い感じですね。ランは後半になると足が痛くなってきているので、私の場合、心拍数は100前後まで落ちますが、今回はまだまだ130~140くらいの感覚でした。そう考えるとすごく良いトレーニングをしているようです。この頃、チェーンからは大きなきしみ音が....。チェーンが油を欲している。

443㎞地点。ここは大会が用意してくれている唯一のエイドです。水、ジュース、パスタ、スープ、グミ、ジェルなどが置かれています。ここでピット・インして、音鳴りしている泥だらけのチェーンを水で洗ってあげました。

水を補給してグミを2袋もらい、出発前に注油して最後の130㎞に向けて出発!ベンもちょうど到着しました。「またあとで!」とあいさつ。ここからの区間はまた気持ち良い景色最高のグラベルです。
「なんでこんなに気持ちいいの?!」ってずっと思いながら走りました。間違いなく日本にはこれほどのスケールのルートはないはず。「世界中でここだけかも」なんて思いながら貴重な時間を過ごしました。そしてチェーンがすこぶる具合がいい。もっと早く注油すればよかったなぁ。

しばらくすると渡渉(川渡り)が何度も出てきます。最初は加減しながらでしたが、様子がわかってくると全速力で突っ込みます。結構深いところもあるのでむしろ全速力でないと止まります。でもここで一つ誤算が!なんと、水がきれいなため、足についた泥が落ちてしまいました。バイクも徐々にきれいになっていきます。これは困ります。泥だらけでゴールするという目標なんですから。それでも川は渡らなければならないし、複雑な気持ちで渡渉します。

いつしかあっという間に残り50㎞を切って、他のカテゴリーのライダーと合流します。若干スピードが違う選手もいて、下りでの車線変更もあり、結構危険です。特に轍がある場所はかなり要注意です。またチェーンが鳴き始めます。渡渉を繰り返したせいでしょう。でももう止まらずにゴールまで行きたかったので、聞こえないふりをしてペダルを回しまくります。
手のひらが痺れています。指の力も無くなってきていて、特にフロント変速が大変になってきています。アクションカメラもつけていましたが、最初の頃は回転させて自撮りもしていましたが、もう回転させるだけの力がありません。なので前しか撮れませんでした。泥もまた現れてきました。うれしかったですね(笑)。
フィナーレへ

ラスト20㎞はほぼフラット。ここでも30㎞/hアベレージくらいで回します。普段では考えられません。西風が強く、走る向きによっては苦しみましたが、どちらかというと最後は東向きに進むロケーションだったので、気持ち良く走れた区間が多かったような気がします。日差しも強くなりジリジリと焦げていきました。本当に最後の最後まで気持ち良い砂利のルートです。
エンポリアの街に出て、いよいよフィナーレへ。最後の坂の上ではホットドッグを配布しています。ありがたくいただき、ポケットに突っ込んで最後のホームストレートへ。とても楽しかったし、うれしかったのですが、「あ~、帰ってきちゃったか~」っていう感じでしたね。この感覚はトレランの100マイルレースと同じです。

ゴールではにぎやかにMCがしゃべっています。通生さんと翔君が待ってくれていました。握手をして、私のはじめての自転車レースはいい思い出ばかりで幕を閉じました。ビギナーズラックというヤツでしょうか?
走行距離579.7km、タイムは24時間55分53秒。総合28位、男子24位。

想定していたより6時間も早くフィニッシュできました。初出場で28位と善戦できたのは、これまでのウルトラレース経験のおかげでしょうか。サポーター、サプライヤーの皆さんへの感謝が沸いてきます。
とにかく喉がとても乾いていて、水やらソーダやらをガブガブ飲みます。地元の子供たちが自転車を洗ってくれます。そして参加賞についている12ドルのチケットでタコスを買い、他にはチーズポテト。3人のジャンクフード祭りが始まりました! とってもおいしかったです。

ベンも26時間弱でゴールして祝福。メールアドレスを交換、また会うことを約束してお別れしました。
「コロラドに来ればいつでも泊めてあげる」とのことなので、いつか必ず行きます。ロングレースの楽しみのひとつに、たった24時間でこんなにも深い関係になれるっていうのがありますね。今回もいい旅でした。
走り終えての疲労感もまた格別
両太ももに筋肉痛が出て、腰は痛くて伸ばすのが大変でした。手はしびれて、指に力が入りません。これも最高のお土産ですね。トピカのフランク邸に戻り、洗濯や身の回りを片付けて、話をして、寝ました。トレランの100マイルレースより関節のダメージは少ないです。膝も足首も痛くない。コースはローリングヒルの連続でしたが、トレランより登る時間がはるかに短く、気持ちのゆとりはありました。心地よい疲労感とグラベルを走る気持ち良さ。これは病みつきになります!
翌日の6月1日の朝は表彰式へ見学に行きます。劇場のグラナダシアターで行われる自転車のイベントのセレモニー。200マイルのチャンピオンには賞金、XLのチャンピオンは盾が授与され、エイジ別の表彰も細かくされていました。他の日本人の方にここで会えるかな、と思いましたが、誰もいなくて、私たちもエンポリアを後にしました。さようなら、また来るよ。
帰路のアイオワ州デモインにアパートを借りて、食べれなかった魚を通生さんに焼いてもらいました。熟成されていて最高においしかったです。翌日はイリノイのスターヴド・ロック州立公園のよい感じのキャニオンの中でランの撮影をしたりしながらシカゴに戻り、念願のシカゴピザをいただきました。
レースを終えて3週間が経っても小指と薬指はしびれたままでした。ハンドルを必死で握りすぎたか?
初のグラベルレースは未知の領域でしたが、最高の世界を見ることができました。ここまで支えてくださった皆様に感謝いたします。ありがとうございました。(山本健一)
Information
山本健一さんのスポンサーである、POC日本総代理店のフルマークスが、オンラインストアにおいて8/6から31までSALEを開催する。
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text:山本健一、写真:藤巻翔