2024/12/03(火) - 18:30
プロチームの選手からのフィードバックと協力によりその性能に磨きをかけてきたFORMULA PROシリーズ。今回は第5世代からFORMULA PROをレースで使用し、プロトタイプをテストして製品化へとつなげたスパークル大分の住吉選手とキナンレーシングの孫崎選手へのインタビューを通して第6世代FORMULA PROの性能と特長、その選び方に迫る。
住吉:かつてMTB選手だったときにiRC製のMTBタイヤを愛用していましたが、ロードタイヤは2022年にスパークル大分に移籍してから使用してきました。iRCタイヤはグリップ力が高いという第一印象でした。スパークルはスプリンターチームなので、コーナーを攻め込んだときにグリップが抜けることは避けたい。パンクももちろんで、iRCのタイヤを使い始めて以来レース中のパンクの経験は一度もありません。
前作の第5世代の印象は「グリップ力に満足、転がり抵抗が軽くなればもっといいタイヤになるのに」というものでした。第6世代ではそれが実現したので非常に満足しています。第6世代はプロトタイプから使用していますが、製品版はしなやかさを感じます。手にした時のしなやかさと同時に漕ぎ出しの軽さも感じる。新型FORMULA PROは28Cをメインで運用していて、感覚的にはしっとり・しなやか。そして転がり抵抗が軽いことを感じていましたが、実際にそれがタイムにどう現れるかを知りたくて自分でタイヤテストを実施しました。
テストに使用したのは距離2.9kmの登りで所要時間は11分ほど。第5世代と第6世代のFORMULA PROを、それぞれ4・4.2・4.5気圧の3パターンの空気圧で比較テストしたところ、平均タイムで15秒から18秒向上、転がり抵抗が軽くなっていることが実証できました。ちなみにテストでは条件を同じにするために同じ気候、気温のときに実施し、ダンシングは無し、ケイデンス(ペダル回転数)と、パワーも4.2倍に揃えた状態で走行しています。
第6世代FORMULA PROは転がり抵抗が軽くなったにもかかわらず、下りコーナーでのグリップ力や耐パンク性は前世代と変わらないか向上している印象も得れたので、前世代よりもさらにバランスがとれたタイヤに仕上がっていると思います。
孫崎:僕は体重63kg前後で、空気圧4.3〜4.5barのセッティングです。これは第5世代から変わらない数値です。チームでは昨年まではクリンチャーのASPITEを使用していました。理由としては第5世代がグリップ重視な反面、転がりがやや重かった。対してリニューアルして間もないASPITEが「チューブレスに迫るクリンチャー」として完成度が非常に高く、転がり抵抗も低かったことが理由に挙げられます。しかしクリンチャーだとパンクした際の集団復帰やトラブル対応に手間取ることがあったため、またチューブレスに戻ったという経緯です。
第6世代FORMULA PROの転がりが軽くなったことは明らかに感じます。耐久性、耐摩耗性についても向上している印象です。第5世代はグリップ力が高かったぶん路面の砂を拾うような印象でした。それが路面の悪いツアー・オブ・ターキーで第6世代を使用した際には、まったくといっていいほどトレッドに砂が付着せず、そのぶん耐パンク性が向上することは間違いないと感じました。実際に砂を拾ってのパンクが無かった。そうした経験からも耐パンク性は上がっていると確信しています。
25Cと28Cの太さ選択については、最近のホイールによるリム幅の違いによっても左右します。内幅が23mmにワイド化したホイール、スタンダードな19mmのままのホイールなど、メーカーによっても違いがあり、その差もあって収まりのいい25Cを使うという選択があります。
自分の今の好みでは23mmのワイドリムに対して収まりのいい(外への張り出しがない)25Cタイヤを装着することで、空力(エアロ)性能の向上と、好みのタイヤサイドの剛性感が出ることで25Cを選ぶことが多くなっています。28Cだとダンシング時にサイドが少し潰れる感触があるんです。
でも海外のレースだと28Cを使うことが多いです。道路が荒れていたり穴が多かったりと、路面が日本ほど綺麗ではない。そんな場合はタイヤが太いほうが走り心地が良く、速い。インドネシアでのツール・ド・イジェンでは、それまで25Cを使用してきたライアン・カバニャがそのレースでは28Cを選びステージ優勝しました。彼によれば「25Cよりもタイヤが振動を吸収してくれるぶん転がりがいいと実感した」とのことでした。「それが勝利に結びついた」と。
――6月の雨の修善寺での全日本選手権ロード。パンクが非常に多いレースでしたが、両チームの状況はいかがでしたか?
住吉:スパークルは全メンバーが第6世代FORMULA PROを使用して、パンクはゼロでした。
孫崎:キナンはメンバーによって第5と第6世代を使う選手が混在した状態でしたが、いずれもパンクはゼロでした。
――孫崎さんの「第6世代はトレッドが砂を拾わなくなった」というコメントが印象的です。パンクの要因が減ることになりますね。
孫崎:そこで大きな差が出ると思います。トレッドに尖った砂が着くと、ゴムに刺さってどんどん深く進んでいき、それがパンクの原因になるんです。しかし砂の付着が少なくなったことはイコール、パンクが少なくなると思います。とくに雨が降ると路面に砂利が流れ込んでパンクが多くなります。雨のレースでパンクが多いのはそれが原因だと思います。レースでのパンクは摩耗やリム打ちより小石や異物が刺さってのパンクが多いですから。
――「リム幅によってタイヤの乗り味が違ってくる」と話していましたが、どのように変わりますか?
孫崎:チームではメインでフルクラムSPEED42ホイールを使用しています。フックレスではなく、リムにはミニフックが備わっています。リムの内幅は23mm。前作が内幅19mmで、比べると乗り味は全然変わりましたね。リム内幅が広いほうが転がりも良く、スピードやコーナリングの安定感が違ってきます。僕は断然ワイドリムが好みですね。
住吉:スパークルの使用ホイールは今、内幅21mmなんですが、間もなく23mmのものに変わります。どう変化するか楽しみです。
――自分でタイヤ交換やホイールへの組付けはしてみましたか? 嵌めやすさはどうでしたか?
住吉:今回は自分で交換してみました。簡単でしたね。フロアポンプでビードも簡単に上げることができました。
孫崎:嵌め込みはかなり簡単でしたね。普段は自分で交換せず星野メカニックに任せているのですが、星野メカも「 タイヤが柔らかくなったことを感じる。ビードが嵌めやすく、作業がしやすい。かなり良くなった」と星野メカも言っています。ただ自分たちのチームが使用しているフルクラムのホイールは、手押しフロアポンプではビードが上げにくかったのでエアチャンバーを使いました。iRCの瀬古さんが言っていたように、リムとの相性はあるようですね。
――TLRにはシーラントは何ml入れますか?
孫崎:推奨が30mlですので、そのまま30mlですね。それもメカニックに任せています。結局レースではパンクしたときにいかに早く集団に復帰するかが重要で、パンクしないに越したことはありません。レースでは重量面でTLRのS-Lightを選び、シーラントを入れることでパンクを減らし 実際に後でパンクしていたけど走り続けられたことが分かったというケースは多いです。シーラントを入れてもTLRは軽いので、レースはS−Light+シーラントに決めています。自己修復してくれるシーラントは少しの重量増はあっても助けてくれる存在です。
――世界トップレーサーが28や30Cタイヤを使うことが増えているようですが、今後のタイヤ太さのトレンドに関してはどう考えていますか?
孫崎:28C、30Cも試していきたいと思っています。世界的には30Cも、グラベルステージでは32Cも使われるようになってきたので、太い方に興味はありますね。
――フロント、リアの太さを変えるケースも見受けられるようですが?
孫崎:チームメイトの山本元喜さんが前:25C、後:28Cを好んでいますね。空力を考えて前輪に25Cを使う。28Cのグリップ感が好きで、後輪にトラクションに優れた28Cを選んでいるようです。
住吉:それと反対に、スプリンターの黒枝咲哉は前:28C、後:25Cで、前輪でコーナリンググリップを上げつつ、駆動輪である後輪を軽くして加速性を重視しているようです。そのあたりは何を狙うかや好みにもよりますよね。
孫崎:僕がトレーニングで走る埼玉の奥武蔵エリアは登り勾配がキツく、路面が荒れているところも多いので、そんな道では前後28Cは本当に走りやすいですね。前:30C、後:28Cもいいかもしれません。
レースでは国内は綺麗な路面が多くて、かつサーキットレースも多い。そうなると25Cにメリットがあるケースが多い。だから25Cを選んでいます。それが海外、とくにアジアのレースだと路面の悪さから28Cにメリットがあります。荒れた路面で軽く走れるのは28Cです。安心で優位性がある。
海外は28Cメイン運用になるんですが、国内では25Cのユーザーが多い現状も納得です。僕はもっさり感を感じてしまうし、とくにダンシング時のシャキシャキ感を重視するなら、まだまだ25Cにもメリットは大きいと感じています。
住吉:僕もまったく同じ意見なんです。日本のレースは路面が良くてスムーズで、25Cタイヤの方が有利と感じることが多い。
孫崎:ツアー・オブ・ターキーで標高差1,000mを一気に下るようなダウンヒルを経験しましたが、過酷な状況での28Cの安心感は頼もしいです。
住吉:僕は第5世代FORMULA PROを少し硬く感じていて、28Cにしたほうが空気圧を下げれるし、しなやかさが出るから好きでした。かつてコンチネンタルのタイヤを供給されたチームで走っていたときは、しなやかさや乗り心地を向上させるために28Cを選んでいました。FORMULA PRO第6世代は第5世代よりしなやかになって、25Cでもしなやかさが十分あるので、25Cも選択肢としてアリだと思います。
孫崎:僕は25Cと28Cの両方を試して、25Cが好みです。リム内幅23mmのフルクラムに28Cの組み合わせはダンシング時のタイヤサイドのたわみが気になって、タイヤがリムに乗っかっているように感じてしまうので、25Cが個人的ベストチョイスです。
いっぽうで28Cは快適な走行性が素晴らしい。段差を感じないほど快適で、 ロングライドなら28Cを選びますね。30Cはまだ試せてないけど、とても楽しみです。25Cと28Cは、平坦路なら転がりの差や速さの差は感じない。重量差も気にしないでいいと思います。
住吉:リムとのマッチング(適合性)という面では、今の新しいホイールは太いタイヤを推奨するようになってきていて、それに伴って25Cを選択することが少なくなっていく気はしています。そこはどう選ぶかですね。
孫崎:ホイールには種類、リム幅、リムのフックの形状など、かなり様々な選択肢があるので、色々なケースでの組み合わせを試してフィーリングを確認してみないとわからないですね。
――雨のときのグリップや、水はけ性能、接地感などはどうですか?
孫崎:タイヤの水はけ自体は気にしたことがないですが、第6世代のグリップ感の高さは第5世代と変わらない感じはあります。数値上は少し良くなっているようですが、差の体感は難しい。けど遜色が無いことは実感できます。第5世代から雨の日もグリップはまったく問題無いです。
住吉:第6世代はトレッドパターンもコンパウンドも変わりましたが、フィーリングの違いはあれど雨でもグリップが抜けるような感じはまったく無いですね。第5世代から性能が著しく向上しているというわけでもない。そもそも第5世代がグリップ力が非常に高かったので、そのままのグリップ力を保ちつつ、転がり抵抗は軽くなった感じです。
孫崎:キナンチームとしては第5世代の転がり抵抗を減らして欲しいとiRCに要望を出していました。だからといってグリップが落ちるのは困る。第6世代はグリップ力を維持したまま転がりが軽くなったので、すごく良くなったという印象です。
住吉:テストでデュアルコンパウンドのセンター部の幅が狭いプロトタイプに乗ったとき、正直転がり抵抗が軽くなったとは思えず、改めてセンター部のコンパウンドの幅を広げた製品版に近いタイヤに乗ったら明らかに転がりが軽く感じられて、データ数値上もそのとおりだったようです。同じコンパウンドでも配置パターンによって違いが出るのが面白かったです。
孫崎:グリップと転がり抵抗をバランスさせるのってすごく難しいと思うんです。転がりが軽いとグリップ力は低い、グリップが良いと転がりが悪くなるという「せめぎ合い」。それが顕著に出るのがTT用タイヤで、今回のFORMULA PROはそのバランスがとても良いと感じますね。第5世代でグリップが良いと感じていたので、それで転がりが軽くなったので「完成した」と言っていいと思います。
トルコでのツアー・オブ・ターキーの雨のステージで、選手の3分の1が滑って落車してレースキャンセルになった例があります。そんな路面でもキナンの選手のタイヤは滑っていない感じがあった。グリップ力は向上している印象です。
住吉:あと、手頃な値段がいいですね。今、他社のレース用タイヤって1万円代後半から2万円近くなってきている。普段から使いたいので、価格は安いほうがいい。
――交換時期はどれぐらいですか? 耐摩耗や耐久性についてはどうでしょうか?
住吉:僕らはレースタイヤとして使うので摩耗する前に交換します。今まで2,000km程度で交換していましたが、今回はそれ近く乗り込んでもトレッドの摩耗も少なく、第5世代より走行距離は伸ばせる印象です。前作はセンターに細かいヤスリ目パターンがあったので顕著に減りを感じてしまいましたが、スリックに近いセンタートレッドは減っても目立たないのもありますね。
孫崎:第5世代は減った場合にトレッド断面が台形になっていたのが、新型はそうならない印象があります。トレッド全面が均等に減る感じ。そしてトレッドに傷がつきにくく、切れにくい印象もある。そういう意味で耐パンク性、耐摩耗性が高くなっていると感じています。走行距離も伸びていると思います。それはチームメンバー全員が言っているので間違いないと思います。
――強化されたX-Guardモデルは使いますか?
孫崎:トレーニングからレースまでS-Lightで統一していますので使うことはないんですが、X-Guard使用のタイヤはサイドに補強が入っていることを感じられるくらい横方向の剛性が高く、強さを感じます。僕らのようなレース志向のユーザーには使いにくいけれど、タフさ、耐パンク性能は確実に高く、ブルベやポタリングなどの走りの人はいいでしょうね。タイヤの重量差も気にしないでいいほどです。トレーニングユースではもちろんメリットが大きいですね。
住吉:iRCのタイヤは特性の違う3タイプに加え、さらにケーシングにも種類があるから、選べるのがいいですね。走るコースや状況にあわせてタイヤを付け替えるようなことも考えられる。チョイスするのが楽しいですね。
ライダープロフィール
住吉 宏太(すみよし・こうた)スパークル大分レーシングチーム
1991年生まれ。熊本県出身。2014年〜2016年にチーム右京、2017年〜2021年に愛三工業レーシングチームを経て2022年よりスパークル大分レーシングチームに所属。2017年ツール・ド・台湾第1ステージ5位、ツアー・オブ・福州第5ステージ4位などアジアのレースが得意な小柄なオールラウンダー。
孫崎大樹(まごさき・だいき)キナンレーシングチーム
1996年生まれ。大阪府出身。ジュニア時代にツール・ド・ラビティビでステージ優勝。2022年JCL宿毛市ロードレース優勝、2023年東日本ロードクラシック優勝、2024年志布志クリテリウム2位、新城ロードレース2位。スプリント、上り、アタックとレース展開に沿った対応力とスピードを武器とした走りのパンチャー。なお来季は別チームへの移籍が決まっている。
1991年生まれ。熊本県出身。2014年〜2016年にチーム右京、2017年〜2021年に愛三工業レーシングチームを経て2022年よりスパークル大分レーシングチームに所属。2017年ツール・ド・台湾第1ステージ5位、ツアー・オブ・福州第5ステージ4位などアジアのレースが得意な小柄なオールラウンダー。
孫崎大樹(まごさき・だいき)キナンレーシングチーム
1996年生まれ。大阪府出身。ジュニア時代にツール・ド・ラビティビでステージ優勝。2022年JCL宿毛市ロードレース優勝、2023年東日本ロードクラシック優勝、2024年志布志クリテリウム2位、新城ロードレース2位。スプリント、上り、アタックとレース展開に沿った対応力とスピードを武器とした走りのパンチャー。なお来季は別チームへの移籍が決まっている。
住吉:かつてMTB選手だったときにiRC製のMTBタイヤを愛用していましたが、ロードタイヤは2022年にスパークル大分に移籍してから使用してきました。iRCタイヤはグリップ力が高いという第一印象でした。スパークルはスプリンターチームなので、コーナーを攻め込んだときにグリップが抜けることは避けたい。パンクももちろんで、iRCのタイヤを使い始めて以来レース中のパンクの経験は一度もありません。
前作の第5世代の印象は「グリップ力に満足、転がり抵抗が軽くなればもっといいタイヤになるのに」というものでした。第6世代ではそれが実現したので非常に満足しています。第6世代はプロトタイプから使用していますが、製品版はしなやかさを感じます。手にした時のしなやかさと同時に漕ぎ出しの軽さも感じる。新型FORMULA PROは28Cをメインで運用していて、感覚的にはしっとり・しなやか。そして転がり抵抗が軽いことを感じていましたが、実際にそれがタイムにどう現れるかを知りたくて自分でタイヤテストを実施しました。
テストに使用したのは距離2.9kmの登りで所要時間は11分ほど。第5世代と第6世代のFORMULA PROを、それぞれ4・4.2・4.5気圧の3パターンの空気圧で比較テストしたところ、平均タイムで15秒から18秒向上、転がり抵抗が軽くなっていることが実証できました。ちなみにテストでは条件を同じにするために同じ気候、気温のときに実施し、ダンシングは無し、ケイデンス(ペダル回転数)と、パワーも4.2倍に揃えた状態で走行しています。
第6世代FORMULA PROは転がり抵抗が軽くなったにもかかわらず、下りコーナーでのグリップ力や耐パンク性は前世代と変わらないか向上している印象も得れたので、前世代よりもさらにバランスがとれたタイヤに仕上がっていると思います。
孫崎:僕は体重63kg前後で、空気圧4.3〜4.5barのセッティングです。これは第5世代から変わらない数値です。チームでは昨年まではクリンチャーのASPITEを使用していました。理由としては第5世代がグリップ重視な反面、転がりがやや重かった。対してリニューアルして間もないASPITEが「チューブレスに迫るクリンチャー」として完成度が非常に高く、転がり抵抗も低かったことが理由に挙げられます。しかしクリンチャーだとパンクした際の集団復帰やトラブル対応に手間取ることがあったため、またチューブレスに戻ったという経緯です。
第6世代FORMULA PROの転がりが軽くなったことは明らかに感じます。耐久性、耐摩耗性についても向上している印象です。第5世代はグリップ力が高かったぶん路面の砂を拾うような印象でした。それが路面の悪いツアー・オブ・ターキーで第6世代を使用した際には、まったくといっていいほどトレッドに砂が付着せず、そのぶん耐パンク性が向上することは間違いないと感じました。実際に砂を拾ってのパンクが無かった。そうした経験からも耐パンク性は上がっていると確信しています。
25Cと28Cの太さ選択については、最近のホイールによるリム幅の違いによっても左右します。内幅が23mmにワイド化したホイール、スタンダードな19mmのままのホイールなど、メーカーによっても違いがあり、その差もあって収まりのいい25Cを使うという選択があります。
自分の今の好みでは23mmのワイドリムに対して収まりのいい(外への張り出しがない)25Cタイヤを装着することで、空力(エアロ)性能の向上と、好みのタイヤサイドの剛性感が出ることで25Cを選ぶことが多くなっています。28Cだとダンシング時にサイドが少し潰れる感触があるんです。
でも海外のレースだと28Cを使うことが多いです。道路が荒れていたり穴が多かったりと、路面が日本ほど綺麗ではない。そんな場合はタイヤが太いほうが走り心地が良く、速い。インドネシアでのツール・ド・イジェンでは、それまで25Cを使用してきたライアン・カバニャがそのレースでは28Cを選びステージ優勝しました。彼によれば「25Cよりもタイヤが振動を吸収してくれるぶん転がりがいいと実感した」とのことでした。「それが勝利に結びついた」と。
――6月の雨の修善寺での全日本選手権ロード。パンクが非常に多いレースでしたが、両チームの状況はいかがでしたか?
住吉:スパークルは全メンバーが第6世代FORMULA PROを使用して、パンクはゼロでした。
孫崎:キナンはメンバーによって第5と第6世代を使う選手が混在した状態でしたが、いずれもパンクはゼロでした。
――孫崎さんの「第6世代はトレッドが砂を拾わなくなった」というコメントが印象的です。パンクの要因が減ることになりますね。
孫崎:そこで大きな差が出ると思います。トレッドに尖った砂が着くと、ゴムに刺さってどんどん深く進んでいき、それがパンクの原因になるんです。しかし砂の付着が少なくなったことはイコール、パンクが少なくなると思います。とくに雨が降ると路面に砂利が流れ込んでパンクが多くなります。雨のレースでパンクが多いのはそれが原因だと思います。レースでのパンクは摩耗やリム打ちより小石や異物が刺さってのパンクが多いですから。
――「リム幅によってタイヤの乗り味が違ってくる」と話していましたが、どのように変わりますか?
孫崎:チームではメインでフルクラムSPEED42ホイールを使用しています。フックレスではなく、リムにはミニフックが備わっています。リムの内幅は23mm。前作が内幅19mmで、比べると乗り味は全然変わりましたね。リム内幅が広いほうが転がりも良く、スピードやコーナリングの安定感が違ってきます。僕は断然ワイドリムが好みですね。
住吉:スパークルの使用ホイールは今、内幅21mmなんですが、間もなく23mmのものに変わります。どう変化するか楽しみです。
――自分でタイヤ交換やホイールへの組付けはしてみましたか? 嵌めやすさはどうでしたか?
住吉:今回は自分で交換してみました。簡単でしたね。フロアポンプでビードも簡単に上げることができました。
孫崎:嵌め込みはかなり簡単でしたね。普段は自分で交換せず星野メカニックに任せているのですが、星野メカも「 タイヤが柔らかくなったことを感じる。ビードが嵌めやすく、作業がしやすい。かなり良くなった」と星野メカも言っています。ただ自分たちのチームが使用しているフルクラムのホイールは、手押しフロアポンプではビードが上げにくかったのでエアチャンバーを使いました。iRCの瀬古さんが言っていたように、リムとの相性はあるようですね。
――TLRにはシーラントは何ml入れますか?
孫崎:推奨が30mlですので、そのまま30mlですね。それもメカニックに任せています。結局レースではパンクしたときにいかに早く集団に復帰するかが重要で、パンクしないに越したことはありません。レースでは重量面でTLRのS-Lightを選び、シーラントを入れることでパンクを減らし 実際に後でパンクしていたけど走り続けられたことが分かったというケースは多いです。シーラントを入れてもTLRは軽いので、レースはS−Light+シーラントに決めています。自己修復してくれるシーラントは少しの重量増はあっても助けてくれる存在です。
――世界トップレーサーが28や30Cタイヤを使うことが増えているようですが、今後のタイヤ太さのトレンドに関してはどう考えていますか?
孫崎:28C、30Cも試していきたいと思っています。世界的には30Cも、グラベルステージでは32Cも使われるようになってきたので、太い方に興味はありますね。
――フロント、リアの太さを変えるケースも見受けられるようですが?
孫崎:チームメイトの山本元喜さんが前:25C、後:28Cを好んでいますね。空力を考えて前輪に25Cを使う。28Cのグリップ感が好きで、後輪にトラクションに優れた28Cを選んでいるようです。
住吉:それと反対に、スプリンターの黒枝咲哉は前:28C、後:25Cで、前輪でコーナリンググリップを上げつつ、駆動輪である後輪を軽くして加速性を重視しているようです。そのあたりは何を狙うかや好みにもよりますよね。
孫崎:僕がトレーニングで走る埼玉の奥武蔵エリアは登り勾配がキツく、路面が荒れているところも多いので、そんな道では前後28Cは本当に走りやすいですね。前:30C、後:28Cもいいかもしれません。
レースでは国内は綺麗な路面が多くて、かつサーキットレースも多い。そうなると25Cにメリットがあるケースが多い。だから25Cを選んでいます。それが海外、とくにアジアのレースだと路面の悪さから28Cにメリットがあります。荒れた路面で軽く走れるのは28Cです。安心で優位性がある。
海外は28Cメイン運用になるんですが、国内では25Cのユーザーが多い現状も納得です。僕はもっさり感を感じてしまうし、とくにダンシング時のシャキシャキ感を重視するなら、まだまだ25Cにもメリットは大きいと感じています。
住吉:僕もまったく同じ意見なんです。日本のレースは路面が良くてスムーズで、25Cタイヤの方が有利と感じることが多い。
孫崎:ツアー・オブ・ターキーで標高差1,000mを一気に下るようなダウンヒルを経験しましたが、過酷な状況での28Cの安心感は頼もしいです。
住吉:僕は第5世代FORMULA PROを少し硬く感じていて、28Cにしたほうが空気圧を下げれるし、しなやかさが出るから好きでした。かつてコンチネンタルのタイヤを供給されたチームで走っていたときは、しなやかさや乗り心地を向上させるために28Cを選んでいました。FORMULA PRO第6世代は第5世代よりしなやかになって、25Cでもしなやかさが十分あるので、25Cも選択肢としてアリだと思います。
孫崎:僕は25Cと28Cの両方を試して、25Cが好みです。リム内幅23mmのフルクラムに28Cの組み合わせはダンシング時のタイヤサイドのたわみが気になって、タイヤがリムに乗っかっているように感じてしまうので、25Cが個人的ベストチョイスです。
いっぽうで28Cは快適な走行性が素晴らしい。段差を感じないほど快適で、 ロングライドなら28Cを選びますね。30Cはまだ試せてないけど、とても楽しみです。25Cと28Cは、平坦路なら転がりの差や速さの差は感じない。重量差も気にしないでいいと思います。
住吉:リムとのマッチング(適合性)という面では、今の新しいホイールは太いタイヤを推奨するようになってきていて、それに伴って25Cを選択することが少なくなっていく気はしています。そこはどう選ぶかですね。
孫崎:ホイールには種類、リム幅、リムのフックの形状など、かなり様々な選択肢があるので、色々なケースでの組み合わせを試してフィーリングを確認してみないとわからないですね。
――雨のときのグリップや、水はけ性能、接地感などはどうですか?
孫崎:タイヤの水はけ自体は気にしたことがないですが、第6世代のグリップ感の高さは第5世代と変わらない感じはあります。数値上は少し良くなっているようですが、差の体感は難しい。けど遜色が無いことは実感できます。第5世代から雨の日もグリップはまったく問題無いです。
住吉:第6世代はトレッドパターンもコンパウンドも変わりましたが、フィーリングの違いはあれど雨でもグリップが抜けるような感じはまったく無いですね。第5世代から性能が著しく向上しているというわけでもない。そもそも第5世代がグリップ力が非常に高かったので、そのままのグリップ力を保ちつつ、転がり抵抗は軽くなった感じです。
孫崎:キナンチームとしては第5世代の転がり抵抗を減らして欲しいとiRCに要望を出していました。だからといってグリップが落ちるのは困る。第6世代はグリップ力を維持したまま転がりが軽くなったので、すごく良くなったという印象です。
住吉:テストでデュアルコンパウンドのセンター部の幅が狭いプロトタイプに乗ったとき、正直転がり抵抗が軽くなったとは思えず、改めてセンター部のコンパウンドの幅を広げた製品版に近いタイヤに乗ったら明らかに転がりが軽く感じられて、データ数値上もそのとおりだったようです。同じコンパウンドでも配置パターンによって違いが出るのが面白かったです。
孫崎:グリップと転がり抵抗をバランスさせるのってすごく難しいと思うんです。転がりが軽いとグリップ力は低い、グリップが良いと転がりが悪くなるという「せめぎ合い」。それが顕著に出るのがTT用タイヤで、今回のFORMULA PROはそのバランスがとても良いと感じますね。第5世代でグリップが良いと感じていたので、それで転がりが軽くなったので「完成した」と言っていいと思います。
トルコでのツアー・オブ・ターキーの雨のステージで、選手の3分の1が滑って落車してレースキャンセルになった例があります。そんな路面でもキナンの選手のタイヤは滑っていない感じがあった。グリップ力は向上している印象です。
住吉:あと、手頃な値段がいいですね。今、他社のレース用タイヤって1万円代後半から2万円近くなってきている。普段から使いたいので、価格は安いほうがいい。
――交換時期はどれぐらいですか? 耐摩耗や耐久性についてはどうでしょうか?
住吉:僕らはレースタイヤとして使うので摩耗する前に交換します。今まで2,000km程度で交換していましたが、今回はそれ近く乗り込んでもトレッドの摩耗も少なく、第5世代より走行距離は伸ばせる印象です。前作はセンターに細かいヤスリ目パターンがあったので顕著に減りを感じてしまいましたが、スリックに近いセンタートレッドは減っても目立たないのもありますね。
孫崎:第5世代は減った場合にトレッド断面が台形になっていたのが、新型はそうならない印象があります。トレッド全面が均等に減る感じ。そしてトレッドに傷がつきにくく、切れにくい印象もある。そういう意味で耐パンク性、耐摩耗性が高くなっていると感じています。走行距離も伸びていると思います。それはチームメンバー全員が言っているので間違いないと思います。
――強化されたX-Guardモデルは使いますか?
孫崎:トレーニングからレースまでS-Lightで統一していますので使うことはないんですが、X-Guard使用のタイヤはサイドに補強が入っていることを感じられるくらい横方向の剛性が高く、強さを感じます。僕らのようなレース志向のユーザーには使いにくいけれど、タフさ、耐パンク性能は確実に高く、ブルベやポタリングなどの走りの人はいいでしょうね。タイヤの重量差も気にしないでいいほどです。トレーニングユースではもちろんメリットが大きいですね。
住吉:iRCのタイヤは特性の違う3タイプに加え、さらにケーシングにも種類があるから、選べるのがいいですね。走るコースや状況にあわせてタイヤを付け替えるようなことも考えられる。チョイスするのが楽しいですね。
提供:iRCタイヤ、photo&text : Makoto AYANO