2023/07/15(土) - 15:46
CW編集部・綾野が昨年に続きUnbound Gravel100マイルの部に出場した体験記をお届けします。春に発表されたフルサスペンション搭載グラベルバイク、ジャイアントREVOLT Xをチョイスして臨んだが、今年は泥と急変する天候が過酷さを増し、容易なレースではなかった。チューンナップの試行錯誤を含めたノウハウ満載で綴ります。
昨年に続き2度めの出場。昨年も100マイル(160km)クラスに出たが、今年も100マイルを選んだ。実走に加えて他のクラスの撮影と取材もしたいからという理由がいちばんだが、心の中では200マイルにしたかったという思いはあった。実際、出場を検討する仲間たちには「体力に自信があるなら200マイルに出るべき。そのほうが完全燃焼できるし、100マイルが楽だったと後で後悔することが無い」とアドバイスしていた。
実際、昨年は100マイル走った後に少し物足りなさというか、余力が残っているのを感じていた。しかし、結論から言えば「今年は100にしておいて良かった」と、後で思い知ることになる...。
じつは出場までの道のりは困難に満ちたものだった。3月にライド中の落車で肋骨を6本折る怪我を負い、完治に5週間を要した。体力は落ち、不調に陥った。完全復帰のために5月は仕事を完全に休んでリハビリ期間として、起死回生の九州一周ツーリングを行い1,300kmを走り込んだ。おかげで体力を元に戻せた状態で渡米することができた。完走に不安を抱くこと無くレース日を迎えることができた。
この日のための今年の新たな相棒、ジャイアントREVOLT-Xはケガのせいでライド回数は少なかったものの、日本のグラベルで濃く乗り込んだことで完全に理解した状態で連れてくることができた。カンザス特有のフラットダートが続くようなグラベルは日本に無いので試せなかったが、昨年の走りから想像してセッティングを煮詰めた。
いろいろ試行錯誤した結果、完成車から換えたのは結局タイヤのみ。完成車で50Cの太さを標準としていたタイヤを細身の前:42C、後:38Cに交換した。このセッティングの詰めとタイヤ選択についてはこの日の走りをレポートした上で後述するが、このチョイスはタイヤに関するアドバイスをもらったピーター・ステティナ選手から「ベストな選択」とお墨付きを頂いた。
昨年の経験があるため無駄なものをなるべく省き、装備は最小限にした。それでも複数回のパンクに備えて絶対にリペアできる用意は必要。今回は有料のCrue for Hire(45$)を申し込んだので64.5マイル地点のチェックポイントで補給食やドリンクを受け取ることができるため、それもスタート時に持つ補給食の量を減らすことができた。そしてレース当日朝には雨の予報があったため、サドルバッグを一眼レフカメラ(EOS-Kiss)がそのまま収容できる中型のものにした。
100マイルクラスのスタートは朝7時。6時にスタートする200マイルクラスを見送ってから1時間後になる。スタートラインには約1,500人が並ぶため、陣取りは早めが吉。昨年のタイムが8時間16分だったので、8時間目標のプラカードのところに並ぶ。7時間区分もあるが、そこは速い人たちの場所。そして最前列にはシカゴ在住のプログラベルレーサー、竹下佳映(Lauf)さんが並んでいた。
今回100マイルクラスには日本人選手が11人も居るのでにぎやかだ。皆、昨年の記事を熟読して申し込んでくれたようで、仲間が増えるのは本当に嬉しいものだ。大会は国際化を目指しているので、アメリカ人なら数倍もあるLottelyの抽選倍率だが、日本人が今までに申し込んで落選した人の話は聞いたことがない。つまり今の時点では日本人は誰でも申込みさえすれば出ることができる。
スタートラインにつき待っていると、隣のアメリカ人が「ウ〜ララ...」と変な唸り声をあげる。なんと先にスタートした200マイルプロクラスの選手たちが皆12マイル地点でバイクを降りて歩いている動画が公式SNSにアップされていたのだ。悪名高い「ピーナツバター」と呼ばれる泥だ。
この泥区間は毎年どこかに現れ、困難を呼ぶ。しかし今年の泥は特別に酷かった。100マイルクラスも序盤は200マイルクラスと同じコースを辿るため、避けて通ることはできない。それがわかってスタートしたが、その酷さは予想を遥かに上回ったものであることは後で判ることになる。
7時の時報にあわせてスタートを切る。前に陣取り、前へ前へとポジションを上げる。ロードレースのように集団内の空気抵抗の少ない位置につけ、落車の危険がないように神経を尖らせながら進んだ。舗装路はほどなくして終わり、フラットダートへと侵入。ここからも密集した集団の中で接触しないようにハイスピードを保つ。脚は良く回り、20〜30番手につけて進み続ける。集団前方はプロやベテランが多く占めるので変な挙動をする人もおらず、安心して走ることができた。
ふと気づくと集団はずいぶん小さくなり、先頭集団は50人ほどだろうか(昨年は集団に300人以上いた気がする)...。後で判ったのはスタートしてすぐに街中の踏切で列車の通過待ちのため集団が分断し、後続は15分近く足止めされたとのことだった。
12マイル地点きっかりに「困難」は始まった。先頭を走っていた選手が急に勢いをなくし、立ち止まる。勢いがついたまま滑って転んでいる選手も。すぐさま泥だと感知して、脇の草地に逃げて事なきを得た....と言いたいところだが、草地でもタイヤを転がすだけで即座に泥がまとわりついてくる。バイクを降りて押せばシューズに泥が付着し、歩みを妨害する。泥は草と混ざり合ってホイールに絡みつき、回転を止める。
ほとんどすべての選手が歩き出すなか、乗って行ける選手はわずかだがいる。自分もそのうちの一人だった。日本で泥のシクロクロスの心得があったため、走行ラインをうまく選べていたこと、バイクのタイヤクリアランスが非常に大きく、泥の影響が少なかったことで、かなり乗れたほうだと思う。実際、後でリザルトのラップタイムをみると、この区間はクラス8位で通過できていた。
同じ先頭集団にいた竹下さんもかなり苦戦していたようで、バイクを押して歩いていた。「やる気がすぽっと抜け落ちた」と苦笑い。それでもティファニー・クロムウェル(キャニオン・スラム)らとともに女子プロクラスの先頭争いを繰り広げていたが...。
泥区間の苦行は気が遠くなりそうだった。それは皆も同じだったはず。泥が付着して体感で3倍ぐらいの重さになったバイクを担ぎ、泥が付着してゴジラの足のように肥大化したシューズを交互に運び、少しづつでも前へと進む。この行為は腰痛を抱える自分にはかなり負荷が大きかった。結局この泥区間は13kmほど続いた(気が遠くなっていたので、正確には覚えていない)。ディレイラー破損やエンド折れなどでここで早くもレースを諦めた選手も少なくなかったようだ。
泥区間を抜けて、下りを利用して泥がタイヤから落ちていくことに喜びを感じる。しかしすべての泥は落ちきらず、芝と絡まってチェーンホイールの裏側にまで回り込んでペダルの回転を妨げるのには参った。もし水溜まりや小川があれば洗って泥を落としたかったが、基本的にはドライで、それらは見つけられなかった。
泥区間を抜けるとグレートプレーンズの草原が広がっていた。いや、それまでも広がっていたのだろうが、泥との格闘で目に入っていなかったんだろう。見渡す限り眩しいほどに輝く緑の海がどこまでも広がっていて美しい。昨年は同じルートだったが曇天と霧で視界が開けず、素晴らしい眺めにはお目にかかれなかった。しかし待望の草原を走ることができた時、本当にもう一度カンザスに走りに来ることができて良かったと思えた。こんな体験、ほかじゃできない。生きていて良かった、グラベルを趣味として良かった。大袈裟じゃなく、そう実感できた。
不調を感じだしたのは泥を抜けて快走し始めてから。まだ60kmほどなのに左脚が激しく攣ってしまった。一度強く痙攣したのをきっかけに、急な坂を登るごとに両脚が攣るようになる。そのたびに脚を止めてしまうように...。
ここまでの負荷が高すぎたのか、それとも電解質不足か。昨夜は緊張も興奮もなかったが、寝付けなかったことも原因だったと思う。治りかけた時差ボケの波がちょうど来て、崩れたバイオリズムの揺り戻しにタイミング悪く当たった感じ。走るまでは調子の良ささえ感じていたのに、結局この日は足攣りを10回以上繰り返してしまうことに。
日が照りつけるようになり、ドライな路面は昨年よりも硬さを増していた。概ねはフラットダートだが、ところどころひどくガレていて、パンクしないように気を配りながら走ることに。緩いアップダウンは繰り返し、下りはかなりのスピードが出る。サスペンションがありがたいのはもちろん、ドロッパーポストでサドルを下げて下ることができるので、ダウンヒルは誰よりも速かったと思うほど。足攣りを繰り返さないように登りは慎重に行くが、変な踏み方になるととたんにピキッと痙攣がくる。
足攣りのおかげでスピードが鈍り、抜かれることのほうが多くなった。多分先頭に居たのに、後方から長島純郎さん(Roppongi Express)がいいスピードで抜いていき、日本人最高順位は諦めることに。それどころか脚の痛みに完走の危機さえ感じ始めていた。
最初のウォーターポイント、テキサコヒルは65.5km地点。ここでもらえるのは水のみ。ボランティアが水に湿らせた冷たいバンダナを配ってくれ、それで顔や頭を拭いてリフレッシュ。泥がこびりついたバイクの状況が悪く、水洗いしたくてもそれは許してもらえなかった。枝をみつけて泥を落とすが、固まった泥が駆動系を痛めてバイクは傷だらけ。カーボンクランクはガビガビに削れて悲惨な状態になっていた。
それでもこのウォーターポイントに早めに到着したのは幸いだった。タンクが割れて水が流失し、遅く到着した人のなかには給水を受けられなかった人も居たという。次のCPまでは約40kmもある。もし日の照りつける晴天なら無給水では無理な距離。朝の低めの気温と距離を考えて用意した750mlボトル2本は計算通りきっちり飲み干したが、不慮の事態にも備えて十分な水分や食料を持参することが必要ということか...。
距離的には折返し地点を過ぎ、後方から勢いよく追い上げてきたのは中曽祐一と竹村舞葉(Team SHIDO)さんペア。普段から良くシクロクロスレースでご一緒する2人だが、どうやら2人揃って走っているようで、中曽さんがほぼ前を引き、竹村さんがドラフティングしてハイスピードを保っている。息の合う仲良しカップルの列車に私もしばし便乗させてもらい、距離を稼ぐことに。結果的には竹村さんが女子年代別4位を獲得したので、2人はうまい走りだった。
登りで脚を攣らせて2人から遅れ、次に追い上げてきた日本人は森廣真奈さん。まだグラベルは数度しか走ったことがないという初心者女性のはずが、走力はかなりのもの。何より楽しそうに走っている。なんでも楽しめるこういう人はグラベルで結局速いのだ。
しばし並んで走っていたが、ガレた岩場で前を行く森廣さんが抜重に失敗、段差にヒットしてリアタイヤをパンクさせてしまう。「グラベルでの初のパンク」と聞いて助けなければとは思ったが、プラグ系のパンク修理キットを持っており、修理のコツも十分理解していると判断できたので手伝うことはせずに先に行かせてもらった(冷たくてすみません)。結局森廣さんは後半に追いついてきて、そのまま先に行かれてしまったのだが。
100マイル唯一のチェックポイント、マディソンのCP1は64.5マイル(103km)地点。補給食に用意していた5本のジェルとエナジーバーはすべて食べつくし、これも計算通りだった。ここではCrew For Fire(つまり有料サポート)を頼んであった。テント前に走り込むと、中学生ぐらいのスタッフシャツを着た子供がキンキンに冷えたコーラを渡してくれた。その美味しさを形容する言葉が見当たらないほどだった。
リストバンドを見せるとボランティアスタッフがすぐに受け取った2本のボトルにドリンクを入れてくれ、ジェルやバーを好きなだけ選ばせてくれる。リフレッシュして生き返った気持ちになるも、脚は容赦なく攣ってしまう。CPに応援に来てくれたIRCタイヤの山田さんと豊川さんに手伝ってもらうが、ヨレヨレになって再出発するしかなかった。
照りつける日差しは厳しくなり、後半もアップダウンの連続。そして脚は登りごとに攣ってしまい、だましだましの走りになる。ときどき後方からいいスピードの数人のグループ列車が来てはそれに便乗させてもらい、他力本願で距離を稼ぐ。そしてちぎれては独走を繰り返す。
だんだんと行き先に黒い雲が立ちのぼり始め、「これは雨に降られるな」と察する。カンザス特有のサンダーストームの襲来だ。
予想通り、残り20kmを切って雨が降ってきた。すばやくバイクを降りて胸のカメラをサドルバッグに収納し、レインギアを羽織る。みるみる間に滝のような激しい雨が打ちつけるように降り始めた。さっきまでの暑さに熱中症を心配していたというのに、今度は雨に凍え、低体温症に陥る心配をする羽目に。これがカンザスの気候だ。装備は極力軽くしたくても、最後に身を護ってくれるレインジャケットは必ず携帯したほうがいい。これは去年も感じたことだ。
脚はすっかり売り切れ、寒さに震え、エンポリアへと帰ってきた。独りカッコ良くポーズを決めてフィニッシュするつもりで大通りのストレートをフィニッシュラインに向かって走っていたら、後方から追い上げてきた2人と一緒にスプリントすることに。反応したがダメ押しで脚が攣り、2人に両側から抜かれてがっかりのフィニッシュ。
距離165km、タイムは昨年より2分遅い8時間18分22秒、1409人中の298位、年代別M50-59の54位だった。苦しんだ割に昨年とタイムがほとんど変わらなかったのは、脚はあったのに繰り返しの足攣りで遅れたこと、泥区間が厳しかったから、などなど。まぁあまり考えても単純比較はできないものだと思った。トップ選手でも昨年比ではまったく違うタイムだったようだから。
ともかく今年も100マイルを完走できた。昨年の完走後に感じた「200マイルにしても良かったかも」という感想はとんだ思い上がりだったようだ。困難を乗り越えての2度めのフィニッシュは昨年以上に感慨深く、新しい喜びを感じさせてくれた。フィニッシュラインでお互いを讃えあう日本人の仲間たちが多く居たのも嬉しかった。
最新グラベルジオメトリを採用したAdvancedグレードフレームに40mmトラベルのFOX 32 FLOATフロントサスペンションと25mmトラベルサスペンションドロッパーシートポスト、スラム FORCE eTap AXS無線コンポーネントを搭載し、ホイールはジャイアントCXR X1 Carbonをスペック。荒れた地形でも高いコントロール性とトラクションを発揮するREVOLTシリーズの最上級モデル。
→製品詳細ページ(ジャイアントHP)
ここからは今回のレースの相棒としたバイク、ジャイアントREVOLT Xについて綴ろう。2月に購入し、日本のグラベルライドで乗り込んだファーストインプレッションも参照しつつ読み進めて欲しい。基本的な印象や乗り心地はそのインプレ記事に書き込んだとおりだが、それはあくまで日本独特の林道やグラベルでのライドを前提としたもの。改めてその印象をざっくりまとめると、日本の急峻でガレたフィールドには完成車スペックの状態でほぼ最適・完璧なパッケージという評価だった。
しかしそれがアンバウンド・グラベルのような(日本には稀な)フラットダートで、かつ時速35km/h以上の集団走行といったハイスピード走行を伴うようなレース用途だとどうなるかは、バイクの印象もかなり違ったものになるだろうと予想はしていた。日本でそれを試せる機会は無いし、アンバウンドのコースは平坦基調とはいえ獲得標高は約1,300mになるからアップダウンは多く繰り返す感じだ。
それでも昨年のレースを走った感想からREVOLT-Xをレースバイクとして選び、かつレースに向くようにカスタマイズしていくのは面白いと思っていた。先のインプレ記事にも書いたように、サスペンションからドロッパーポスト、スーパーローギアレシオまで「全部載せ」のグラベルバイクだから、アンバウンドに向けてはある程度のパーツ交換を伴う「引き算」のセッティングになるだろうと考えていた。
まず交換したのはタイヤだった。デフォルトで装着されていたマキシス Rambler 700x50Cは、筆おろしライドに出かけた御荷鉾林道(群馬)のガレたグラベル区間では最高な乗り心地と走破性を感じたものの、実測で650gの重量があった。極太で快適ではあるものの、まずこの重量が高速走行時のネックになると感じ、細身の軽いタイヤに交換することに。
昨年の実感からチョイスしたタイヤはIRCのBOKEN DOUBLE CROSS。前42C(530g)、後ろ38C(465g)をセットし、前-120g、後ろ-195gの軽量化を図った。太さを前後で変えたのは漕ぎを軽くして高速走行に対応することを狙った選択で、このあたりのタイヤチョイスについてはIRCタイヤの協力を得てピーター・ステティナ選手にアドバイスをもらったので、追い記事で詳しく紹介することにする。
渡米するまでに試行錯誤した結論から言えば、他に交換したパーツは無く、タイヤ以外ほぼ完成車の状態でレースに臨むことになった。
実際のところ交換を検討していたパーツはおもに3つある。まずハンドルは広さが気になってカーボン製のCADEX ARハンドル(380mm)を用意していたのだが、乗り込むうちに実測430mm(フレア下部480mm)の広さが下りの安定感を増してくれること、アルミ製なのに上部はDシェイプとなっていて振動吸収性も適度にあることから交換はしなかった。
「交換しても良かったかな」とは思った。少しエアロ効果を増してタイム的に速く走れたかもしれない。速く走るならカーボンにして軽く(-140g)、幅を狭くして、かつTTバーを取り付ける選択もあったが、そこまで煮詰められなかったのもある。レースを走った後になってみれば足攣りで速く走ることができなかったので、意味がなかったことにはなる。
クロモリレール採用のジャイアント製サドル「APPROACH SL」も軽量化のためにカーボンサドルへの交換(-100g)を検討したが、サドル後部の「UNICLIPシステム」によりテールライトと泥除けの両方をワンタッチかつスマートに取り付けられ、かつレールの形状が併せて使いたいオルトリーブ製の防水サドルバッグのアタッチメントとの相性が良かったため、あえて純正サドルのままいくことにした。パーツが確実にフィックス(固定)されることは軽量化より重要だ。
オルトリーブのサドルバッグは当日の天候にあわせて3種から選び、積載量を変化させる予定だった(そして当日朝になって雨の予報だったため、一眼レフカメラをちょうど収容できる大きさのサドルバッグ2/1.6Lを選んだ)。
リアの10〜52T超ワイドスプロケットはXPLRの10〜44Tに交換することも検討したが、52TのEAGLEカセットは巨大な割に重量は軽いこと、かつMTBとロードコンポのミックスによる「マレット仕様」はプロレーサーも多く使う組み合わせであって、昨年インタビューしたイアン・ボズウェル(2021優勝者)が「EAGLEがいいんだよ」とも話していたので、とくに小さなスプロケにするまでじゃないと思い直した(ただしボズウェルはフロントに50Tをセットする)。
結果的には登りで足攣り状態頻発で、もしローに軽い52Tギアがなかったらと思うとぞっとする。大雑把な結論として、グラベルライドでは軽量化などのためにシビアに無駄を削りすぎるとそれが仇になることがあるというのは普段からも感じていること。極端な例としてペダリング重視でロードシューズ&ペダルを使うプロ選手がいるが、今年はそれが原因で泥区間を抜けられず完走できなかった選手が少なくなかったのだ。
結果的にはタイヤ交換以外ほとんど完成車状態で臨み、完走したアンバウンド・グラベル100マイル。ここからは走ってわかったバイクの「実走インプレ」を綴ろう。
まずREVOLT-Xのもっとも特徴的スペックになっているフロントサスペンションが搭載されていることについて。現在のところテレスコピック方式のグラベル用FサスはFOXとROCKSHOXがリリースしており、REVOLT-XにはFOX 32 TC Gravel Forkが搭載されている。
グラベルバイク用のFサスの方式としては他に、サス機構内蔵ステムやリーフサス、コラム組み込み型サスなど各種あるが、いずれもサスとしては一長一短。このグラベル用にスリム化を図ったテレスコピック型サスフォークは待望の製品と言える。
フラットダートが大半のコースではあるものの、今年はとくにドライでガレているラフな箇所が少なくないことが気になった。Fサスのストローク40mmは有効で、当然そうした箇所はラクだった。負担の少なさ、痺れや腕上がりのなさは100マイル走って本当に実感できた。前輪に42Cの太めタイヤをチョイスしたことも正解だった。後輪は軽さを重視して38Cにしたことも。
そしてドロッパーポストの存在。MTBから来たパーツだけにまだグラベルでドロッパーを使う人は稀で、今大会では数人しか使用した人は居なかったはず。しかし有利なのは下りだった。グラベルのダウンヒルでは重心が下がることで不安感を無くしてくれて、速く下れる。コースには時速55kmを超えるような長いダウンヒルも数ヵ所あり、そんなときも安心して速さを増せるのは脚に余裕ができることに加えて空気抵抗が少なくなるからで、Fサスの効果も相まって他の誰よりも速かったと思うほどだった。ノーマル形状のカーボンポストと比べると200gほど重量はかさむので、不要とする人には不要というのも正解。
超軽量とはいえカタログ重量で1226gあるFサスと、200gほど重量増になるドロッパーポストの両方を備えることの重量面のデメリットを登りで感じてしまうのは事実。実測で9.7kgの車重はやはり重い。しかしいざ走り始めると気にならなくなるというのも実感としてある。実際、停まった状態でREVOLT-Xを持ち上げると重さを顕著に感じるし、スムーズ路面の軽快感の無さはインプレッションを「第一印象」とすれば、この重量がどうしても足かせになると感じる。
しかし走り出してみればFサスとドロッパーによって得られる走破性の高さにより、とくに荒れたグラベルほど快適で印象が好転する。レーサーとして速く走ることを考えれば選択肢は変わってくるだろうが、自分のレベルではかなり狙ったポイントに近い感じだった。
「Fサス搭載に最適設計されたフレーム」とは、逆に言えばFサス搭載を前提としないフレームでは長いレッグをもつサスフォークに交換するとジオメトリーが変わってしまうことを意味する。つまりサスは後付けするものではなく、搭載を前提としたフレーム設計であることが必要とされる。それでこそ最適性能が引き出せ、スムーズな挙動が得られる。乗車感、作動感、操舵感などにいっさい違和感無く疲労度を軽減してくれることに満足だった。
サスのストローク量40mmのうち35mmはスムースグラベルでも使うほど。ちなみに自身の体重にあわせてサグ(沈み込む量)を調整し、作動量を最適化している。サスの動きやバイクの挙動イメージは日本のグラベルライドで撮ったものではあるが次の動画を参照して欲しい。
ではアンバウンド・グラベルはサス無しバイクで走れないかといえば、そんなことはないコース。ただしサスがあったことで振動で腕があがったり腰が痛くなったりの負荷は大幅に軽減されて、身体が楽だったのは確か。それが速いか・遅いかについてはライダーのレベルによって考えるべきで、より速く走ろうと思ったら身体で振動を吸収する柔軟性とテクニック、そして少しの痛みを我慢することも必要だろう。
ほかにフレームの特徴として、リアエンド部に搭載されたFLIP CHIPによってホイールベースを可変させることができ、それによりショートホイールベースならクイック感を、ロングなら安定感のある乗り味に変えられる点がある。今回リアに38Cの細身タイヤをセットしたためショートホイールベースに詰めることはできたが、あえてロングホイールベースのままで行くことにした。それは泥詰まりを考えてのことで、この狙いは見事的中。悪夢のようなD-Hillでの泥詰まりに悩まされはしたが、それでも他の人よりは格段に泥詰まりは少なく、この区間を8位で抜けられた。それは狙い通りだったが、Fサスのフォークレッグをつなぐブリッヂ部のみがやや狭く、泥が詰まった。レース前にこの箇所やホイールに面した側にシリコンやオイルスプレーでコーティングしておけば泥離れはさらに良かったと思う。
そして当初予定していたダウンチューブ下のストレージ(ツール缶)はウェット予想のため取り外したのは正解だった。それが付いていたらもっと泥に苦労したことだろう。もしドライで晴天予想なら、ボトルをもう1本取り付けるように考えて用意していた。なお背中にはキャメルバック CHASE BIKE VEST 4を背負い、最大1.5Lの水分を携帯できるようにしていた(背中が重くなるのを嫌って満タンにはしなかった)。
他にチューンナップとしてCADEXホイールへの交換も考慮にあった。これはジャイアント・ジャパンからの貸し出し申し出があり、魅力的な話だった(-160g!)のだが、もともと完成車にセットされているジャイアントオリジナルのCXR X1 Hookless カーボンホイールがセット重量1,430gと十分に超軽量で、リム内幅も25mmのワイド設計で最新だったこと、その性能に何の不満もなく、むしろチューブレスタイヤの取り付けや相性の良さ、回転性能の良さに感心したため、あえて軽さを求めた飛び道具を借りるより、普段からセッティングを煮詰めて長く使い込んだマイホイールのまま渡米するメリットをとった。結果、タイヤの空気圧設定なども完全に馴れた状態でレースに臨めたのは良かった。もしタイムや表彰台を狙えるようならCADEXホイールを選んだだろうが。
以上のように色々なチューンナップを検討していたが、結果的にはタイヤ交換以外はほぼ完成車の状態でアンバウンド・グラベルに臨むことができ、やや保守的だったけどそのチョイスで正解だったと思うことができた。
そして購入以降サスのセッティングや調整、整備に信頼できるメカニックとして腕を振るってくれたジャイアントストア国立の福島店長に感謝したい。特筆すべきは乗り出し前にそれまで駆ったマイバイクを持ち込んだところ、そのバイクと同一ポジションになるようミリ単位で測定し、各部のポイントを設定してくれたことがスムーズな乗り出しにつながった。とくにサスペンションとサス機能つきドロッパーを装備したバイクにおいてはサグ出しや沈み込み、作動量を考慮したセッティングが必要になり、かつオイル交換などのメンテンナンスも欠かせないため、メカの技術や定期メンテナンスがその後の走りを左右することになる。
結論として、REVOLT Xは今までにないパッケージだけにグラベルバイクの可能性を新たに拓く一台だと感じた。Fサスやドロッパー、ビッグギア搭載による走破性の高さは市場にあるバイクのなかで最大のものになるが、それらを前提とした専用設計だからこその完成度の高さが魅力だ。この記事ではそれをレースという限られた、かつ過酷なイベントという究極の条件下で最適に走れるようカスタマイズするというチャレンジだった。迷った部分も正直に記したため、それらが読者の皆さんの参考になることを願っています。
昨年に続き2度めの出場。昨年も100マイル(160km)クラスに出たが、今年も100マイルを選んだ。実走に加えて他のクラスの撮影と取材もしたいからという理由がいちばんだが、心の中では200マイルにしたかったという思いはあった。実際、出場を検討する仲間たちには「体力に自信があるなら200マイルに出るべき。そのほうが完全燃焼できるし、100マイルが楽だったと後で後悔することが無い」とアドバイスしていた。
実際、昨年は100マイル走った後に少し物足りなさというか、余力が残っているのを感じていた。しかし、結論から言えば「今年は100にしておいて良かった」と、後で思い知ることになる...。
じつは出場までの道のりは困難に満ちたものだった。3月にライド中の落車で肋骨を6本折る怪我を負い、完治に5週間を要した。体力は落ち、不調に陥った。完全復帰のために5月は仕事を完全に休んでリハビリ期間として、起死回生の九州一周ツーリングを行い1,300kmを走り込んだ。おかげで体力を元に戻せた状態で渡米することができた。完走に不安を抱くこと無くレース日を迎えることができた。
この日のための今年の新たな相棒、ジャイアントREVOLT-Xはケガのせいでライド回数は少なかったものの、日本のグラベルで濃く乗り込んだことで完全に理解した状態で連れてくることができた。カンザス特有のフラットダートが続くようなグラベルは日本に無いので試せなかったが、昨年の走りから想像してセッティングを煮詰めた。
いろいろ試行錯誤した結果、完成車から換えたのは結局タイヤのみ。完成車で50Cの太さを標準としていたタイヤを細身の前:42C、後:38Cに交換した。このセッティングの詰めとタイヤ選択についてはこの日の走りをレポートした上で後述するが、このチョイスはタイヤに関するアドバイスをもらったピーター・ステティナ選手から「ベストな選択」とお墨付きを頂いた。
昨年の経験があるため無駄なものをなるべく省き、装備は最小限にした。それでも複数回のパンクに備えて絶対にリペアできる用意は必要。今回は有料のCrue for Hire(45$)を申し込んだので64.5マイル地点のチェックポイントで補給食やドリンクを受け取ることができるため、それもスタート時に持つ補給食の量を減らすことができた。そしてレース当日朝には雨の予報があったため、サドルバッグを一眼レフカメラ(EOS-Kiss)がそのまま収容できる中型のものにした。
100マイルクラスのスタートは朝7時。6時にスタートする200マイルクラスを見送ってから1時間後になる。スタートラインには約1,500人が並ぶため、陣取りは早めが吉。昨年のタイムが8時間16分だったので、8時間目標のプラカードのところに並ぶ。7時間区分もあるが、そこは速い人たちの場所。そして最前列にはシカゴ在住のプログラベルレーサー、竹下佳映(Lauf)さんが並んでいた。
今回100マイルクラスには日本人選手が11人も居るのでにぎやかだ。皆、昨年の記事を熟読して申し込んでくれたようで、仲間が増えるのは本当に嬉しいものだ。大会は国際化を目指しているので、アメリカ人なら数倍もあるLottelyの抽選倍率だが、日本人が今までに申し込んで落選した人の話は聞いたことがない。つまり今の時点では日本人は誰でも申込みさえすれば出ることができる。
スタートラインにつき待っていると、隣のアメリカ人が「ウ〜ララ...」と変な唸り声をあげる。なんと先にスタートした200マイルプロクラスの選手たちが皆12マイル地点でバイクを降りて歩いている動画が公式SNSにアップされていたのだ。悪名高い「ピーナツバター」と呼ばれる泥だ。
この泥区間は毎年どこかに現れ、困難を呼ぶ。しかし今年の泥は特別に酷かった。100マイルクラスも序盤は200マイルクラスと同じコースを辿るため、避けて通ることはできない。それがわかってスタートしたが、その酷さは予想を遥かに上回ったものであることは後で判ることになる。
7時の時報にあわせてスタートを切る。前に陣取り、前へ前へとポジションを上げる。ロードレースのように集団内の空気抵抗の少ない位置につけ、落車の危険がないように神経を尖らせながら進んだ。舗装路はほどなくして終わり、フラットダートへと侵入。ここからも密集した集団の中で接触しないようにハイスピードを保つ。脚は良く回り、20〜30番手につけて進み続ける。集団前方はプロやベテランが多く占めるので変な挙動をする人もおらず、安心して走ることができた。
ふと気づくと集団はずいぶん小さくなり、先頭集団は50人ほどだろうか(昨年は集団に300人以上いた気がする)...。後で判ったのはスタートしてすぐに街中の踏切で列車の通過待ちのため集団が分断し、後続は15分近く足止めされたとのことだった。
12マイル地点きっかりに「困難」は始まった。先頭を走っていた選手が急に勢いをなくし、立ち止まる。勢いがついたまま滑って転んでいる選手も。すぐさま泥だと感知して、脇の草地に逃げて事なきを得た....と言いたいところだが、草地でもタイヤを転がすだけで即座に泥がまとわりついてくる。バイクを降りて押せばシューズに泥が付着し、歩みを妨害する。泥は草と混ざり合ってホイールに絡みつき、回転を止める。
ほとんどすべての選手が歩き出すなか、乗って行ける選手はわずかだがいる。自分もそのうちの一人だった。日本で泥のシクロクロスの心得があったため、走行ラインをうまく選べていたこと、バイクのタイヤクリアランスが非常に大きく、泥の影響が少なかったことで、かなり乗れたほうだと思う。実際、後でリザルトのラップタイムをみると、この区間はクラス8位で通過できていた。
同じ先頭集団にいた竹下さんもかなり苦戦していたようで、バイクを押して歩いていた。「やる気がすぽっと抜け落ちた」と苦笑い。それでもティファニー・クロムウェル(キャニオン・スラム)らとともに女子プロクラスの先頭争いを繰り広げていたが...。
泥区間の苦行は気が遠くなりそうだった。それは皆も同じだったはず。泥が付着して体感で3倍ぐらいの重さになったバイクを担ぎ、泥が付着してゴジラの足のように肥大化したシューズを交互に運び、少しづつでも前へと進む。この行為は腰痛を抱える自分にはかなり負荷が大きかった。結局この泥区間は13kmほど続いた(気が遠くなっていたので、正確には覚えていない)。ディレイラー破損やエンド折れなどでここで早くもレースを諦めた選手も少なくなかったようだ。
泥区間を抜けて、下りを利用して泥がタイヤから落ちていくことに喜びを感じる。しかしすべての泥は落ちきらず、芝と絡まってチェーンホイールの裏側にまで回り込んでペダルの回転を妨げるのには参った。もし水溜まりや小川があれば洗って泥を落としたかったが、基本的にはドライで、それらは見つけられなかった。
泥区間を抜けるとグレートプレーンズの草原が広がっていた。いや、それまでも広がっていたのだろうが、泥との格闘で目に入っていなかったんだろう。見渡す限り眩しいほどに輝く緑の海がどこまでも広がっていて美しい。昨年は同じルートだったが曇天と霧で視界が開けず、素晴らしい眺めにはお目にかかれなかった。しかし待望の草原を走ることができた時、本当にもう一度カンザスに走りに来ることができて良かったと思えた。こんな体験、ほかじゃできない。生きていて良かった、グラベルを趣味として良かった。大袈裟じゃなく、そう実感できた。
不調を感じだしたのは泥を抜けて快走し始めてから。まだ60kmほどなのに左脚が激しく攣ってしまった。一度強く痙攣したのをきっかけに、急な坂を登るごとに両脚が攣るようになる。そのたびに脚を止めてしまうように...。
ここまでの負荷が高すぎたのか、それとも電解質不足か。昨夜は緊張も興奮もなかったが、寝付けなかったことも原因だったと思う。治りかけた時差ボケの波がちょうど来て、崩れたバイオリズムの揺り戻しにタイミング悪く当たった感じ。走るまでは調子の良ささえ感じていたのに、結局この日は足攣りを10回以上繰り返してしまうことに。
日が照りつけるようになり、ドライな路面は昨年よりも硬さを増していた。概ねはフラットダートだが、ところどころひどくガレていて、パンクしないように気を配りながら走ることに。緩いアップダウンは繰り返し、下りはかなりのスピードが出る。サスペンションがありがたいのはもちろん、ドロッパーポストでサドルを下げて下ることができるので、ダウンヒルは誰よりも速かったと思うほど。足攣りを繰り返さないように登りは慎重に行くが、変な踏み方になるととたんにピキッと痙攣がくる。
足攣りのおかげでスピードが鈍り、抜かれることのほうが多くなった。多分先頭に居たのに、後方から長島純郎さん(Roppongi Express)がいいスピードで抜いていき、日本人最高順位は諦めることに。それどころか脚の痛みに完走の危機さえ感じ始めていた。
最初のウォーターポイント、テキサコヒルは65.5km地点。ここでもらえるのは水のみ。ボランティアが水に湿らせた冷たいバンダナを配ってくれ、それで顔や頭を拭いてリフレッシュ。泥がこびりついたバイクの状況が悪く、水洗いしたくてもそれは許してもらえなかった。枝をみつけて泥を落とすが、固まった泥が駆動系を痛めてバイクは傷だらけ。カーボンクランクはガビガビに削れて悲惨な状態になっていた。
それでもこのウォーターポイントに早めに到着したのは幸いだった。タンクが割れて水が流失し、遅く到着した人のなかには給水を受けられなかった人も居たという。次のCPまでは約40kmもある。もし日の照りつける晴天なら無給水では無理な距離。朝の低めの気温と距離を考えて用意した750mlボトル2本は計算通りきっちり飲み干したが、不慮の事態にも備えて十分な水分や食料を持参することが必要ということか...。
距離的には折返し地点を過ぎ、後方から勢いよく追い上げてきたのは中曽祐一と竹村舞葉(Team SHIDO)さんペア。普段から良くシクロクロスレースでご一緒する2人だが、どうやら2人揃って走っているようで、中曽さんがほぼ前を引き、竹村さんがドラフティングしてハイスピードを保っている。息の合う仲良しカップルの列車に私もしばし便乗させてもらい、距離を稼ぐことに。結果的には竹村さんが女子年代別4位を獲得したので、2人はうまい走りだった。
登りで脚を攣らせて2人から遅れ、次に追い上げてきた日本人は森廣真奈さん。まだグラベルは数度しか走ったことがないという初心者女性のはずが、走力はかなりのもの。何より楽しそうに走っている。なんでも楽しめるこういう人はグラベルで結局速いのだ。
しばし並んで走っていたが、ガレた岩場で前を行く森廣さんが抜重に失敗、段差にヒットしてリアタイヤをパンクさせてしまう。「グラベルでの初のパンク」と聞いて助けなければとは思ったが、プラグ系のパンク修理キットを持っており、修理のコツも十分理解していると判断できたので手伝うことはせずに先に行かせてもらった(冷たくてすみません)。結局森廣さんは後半に追いついてきて、そのまま先に行かれてしまったのだが。
100マイル唯一のチェックポイント、マディソンのCP1は64.5マイル(103km)地点。補給食に用意していた5本のジェルとエナジーバーはすべて食べつくし、これも計算通りだった。ここではCrew For Fire(つまり有料サポート)を頼んであった。テント前に走り込むと、中学生ぐらいのスタッフシャツを着た子供がキンキンに冷えたコーラを渡してくれた。その美味しさを形容する言葉が見当たらないほどだった。
リストバンドを見せるとボランティアスタッフがすぐに受け取った2本のボトルにドリンクを入れてくれ、ジェルやバーを好きなだけ選ばせてくれる。リフレッシュして生き返った気持ちになるも、脚は容赦なく攣ってしまう。CPに応援に来てくれたIRCタイヤの山田さんと豊川さんに手伝ってもらうが、ヨレヨレになって再出発するしかなかった。
照りつける日差しは厳しくなり、後半もアップダウンの連続。そして脚は登りごとに攣ってしまい、だましだましの走りになる。ときどき後方からいいスピードの数人のグループ列車が来てはそれに便乗させてもらい、他力本願で距離を稼ぐ。そしてちぎれては独走を繰り返す。
だんだんと行き先に黒い雲が立ちのぼり始め、「これは雨に降られるな」と察する。カンザス特有のサンダーストームの襲来だ。
予想通り、残り20kmを切って雨が降ってきた。すばやくバイクを降りて胸のカメラをサドルバッグに収納し、レインギアを羽織る。みるみる間に滝のような激しい雨が打ちつけるように降り始めた。さっきまでの暑さに熱中症を心配していたというのに、今度は雨に凍え、低体温症に陥る心配をする羽目に。これがカンザスの気候だ。装備は極力軽くしたくても、最後に身を護ってくれるレインジャケットは必ず携帯したほうがいい。これは去年も感じたことだ。
脚はすっかり売り切れ、寒さに震え、エンポリアへと帰ってきた。独りカッコ良くポーズを決めてフィニッシュするつもりで大通りのストレートをフィニッシュラインに向かって走っていたら、後方から追い上げてきた2人と一緒にスプリントすることに。反応したがダメ押しで脚が攣り、2人に両側から抜かれてがっかりのフィニッシュ。
距離165km、タイムは昨年より2分遅い8時間18分22秒、1409人中の298位、年代別M50-59の54位だった。苦しんだ割に昨年とタイムがほとんど変わらなかったのは、脚はあったのに繰り返しの足攣りで遅れたこと、泥区間が厳しかったから、などなど。まぁあまり考えても単純比較はできないものだと思った。トップ選手でも昨年比ではまったく違うタイムだったようだから。
ともかく今年も100マイルを完走できた。昨年の完走後に感じた「200マイルにしても良かったかも」という感想はとんだ思い上がりだったようだ。困難を乗り越えての2度めのフィニッシュは昨年以上に感慨深く、新しい喜びを感じさせてくれた。フィニッシュラインでお互いを讃えあう日本人の仲間たちが多く居たのも嬉しかった。
グラベル100マイルレースに向けてのチューンナップとは
ジャイアントREVOLT X ADVANCED PRO 0
最新グラベルジオメトリを採用したAdvancedグレードフレームに40mmトラベルのFOX 32 FLOATフロントサスペンションと25mmトラベルサスペンションドロッパーシートポスト、スラム FORCE eTap AXS無線コンポーネントを搭載し、ホイールはジャイアントCXR X1 Carbonをスペック。荒れた地形でも高いコントロール性とトラクションを発揮するREVOLTシリーズの最上級モデル。
→製品詳細ページ(ジャイアントHP)
ここからは今回のレースの相棒としたバイク、ジャイアントREVOLT Xについて綴ろう。2月に購入し、日本のグラベルライドで乗り込んだファーストインプレッションも参照しつつ読み進めて欲しい。基本的な印象や乗り心地はそのインプレ記事に書き込んだとおりだが、それはあくまで日本独特の林道やグラベルでのライドを前提としたもの。改めてその印象をざっくりまとめると、日本の急峻でガレたフィールドには完成車スペックの状態でほぼ最適・完璧なパッケージという評価だった。
しかしそれがアンバウンド・グラベルのような(日本には稀な)フラットダートで、かつ時速35km/h以上の集団走行といったハイスピード走行を伴うようなレース用途だとどうなるかは、バイクの印象もかなり違ったものになるだろうと予想はしていた。日本でそれを試せる機会は無いし、アンバウンドのコースは平坦基調とはいえ獲得標高は約1,300mになるからアップダウンは多く繰り返す感じだ。
それでも昨年のレースを走った感想からREVOLT-Xをレースバイクとして選び、かつレースに向くようにカスタマイズしていくのは面白いと思っていた。先のインプレ記事にも書いたように、サスペンションからドロッパーポスト、スーパーローギアレシオまで「全部載せ」のグラベルバイクだから、アンバウンドに向けてはある程度のパーツ交換を伴う「引き算」のセッティングになるだろうと考えていた。
まず交換したのはタイヤだった。デフォルトで装着されていたマキシス Rambler 700x50Cは、筆おろしライドに出かけた御荷鉾林道(群馬)のガレたグラベル区間では最高な乗り心地と走破性を感じたものの、実測で650gの重量があった。極太で快適ではあるものの、まずこの重量が高速走行時のネックになると感じ、細身の軽いタイヤに交換することに。
昨年の実感からチョイスしたタイヤはIRCのBOKEN DOUBLE CROSS。前42C(530g)、後ろ38C(465g)をセットし、前-120g、後ろ-195gの軽量化を図った。太さを前後で変えたのは漕ぎを軽くして高速走行に対応することを狙った選択で、このあたりのタイヤチョイスについてはIRCタイヤの協力を得てピーター・ステティナ選手にアドバイスをもらったので、追い記事で詳しく紹介することにする。
渡米するまでに試行錯誤した結論から言えば、他に交換したパーツは無く、タイヤ以外ほぼ完成車の状態でレースに臨むことになった。
実際のところ交換を検討していたパーツはおもに3つある。まずハンドルは広さが気になってカーボン製のCADEX ARハンドル(380mm)を用意していたのだが、乗り込むうちに実測430mm(フレア下部480mm)の広さが下りの安定感を増してくれること、アルミ製なのに上部はDシェイプとなっていて振動吸収性も適度にあることから交換はしなかった。
「交換しても良かったかな」とは思った。少しエアロ効果を増してタイム的に速く走れたかもしれない。速く走るならカーボンにして軽く(-140g)、幅を狭くして、かつTTバーを取り付ける選択もあったが、そこまで煮詰められなかったのもある。レースを走った後になってみれば足攣りで速く走ることができなかったので、意味がなかったことにはなる。
クロモリレール採用のジャイアント製サドル「APPROACH SL」も軽量化のためにカーボンサドルへの交換(-100g)を検討したが、サドル後部の「UNICLIPシステム」によりテールライトと泥除けの両方をワンタッチかつスマートに取り付けられ、かつレールの形状が併せて使いたいオルトリーブ製の防水サドルバッグのアタッチメントとの相性が良かったため、あえて純正サドルのままいくことにした。パーツが確実にフィックス(固定)されることは軽量化より重要だ。
オルトリーブのサドルバッグは当日の天候にあわせて3種から選び、積載量を変化させる予定だった(そして当日朝になって雨の予報だったため、一眼レフカメラをちょうど収容できる大きさのサドルバッグ2/1.6Lを選んだ)。
リアの10〜52T超ワイドスプロケットはXPLRの10〜44Tに交換することも検討したが、52TのEAGLEカセットは巨大な割に重量は軽いこと、かつMTBとロードコンポのミックスによる「マレット仕様」はプロレーサーも多く使う組み合わせであって、昨年インタビューしたイアン・ボズウェル(2021優勝者)が「EAGLEがいいんだよ」とも話していたので、とくに小さなスプロケにするまでじゃないと思い直した(ただしボズウェルはフロントに50Tをセットする)。
結果的には登りで足攣り状態頻発で、もしローに軽い52Tギアがなかったらと思うとぞっとする。大雑把な結論として、グラベルライドでは軽量化などのためにシビアに無駄を削りすぎるとそれが仇になることがあるというのは普段からも感じていること。極端な例としてペダリング重視でロードシューズ&ペダルを使うプロ選手がいるが、今年はそれが原因で泥区間を抜けられず完走できなかった選手が少なくなかったのだ。
結果的にはタイヤ交換以外ほとんど完成車状態で臨み、完走したアンバウンド・グラベル100マイル。ここからは走ってわかったバイクの「実走インプレ」を綴ろう。
まずREVOLT-Xのもっとも特徴的スペックになっているフロントサスペンションが搭載されていることについて。現在のところテレスコピック方式のグラベル用FサスはFOXとROCKSHOXがリリースしており、REVOLT-XにはFOX 32 TC Gravel Forkが搭載されている。
グラベルバイク用のFサスの方式としては他に、サス機構内蔵ステムやリーフサス、コラム組み込み型サスなど各種あるが、いずれもサスとしては一長一短。このグラベル用にスリム化を図ったテレスコピック型サスフォークは待望の製品と言える。
フラットダートが大半のコースではあるものの、今年はとくにドライでガレているラフな箇所が少なくないことが気になった。Fサスのストローク40mmは有効で、当然そうした箇所はラクだった。負担の少なさ、痺れや腕上がりのなさは100マイル走って本当に実感できた。前輪に42Cの太めタイヤをチョイスしたことも正解だった。後輪は軽さを重視して38Cにしたことも。
そしてドロッパーポストの存在。MTBから来たパーツだけにまだグラベルでドロッパーを使う人は稀で、今大会では数人しか使用した人は居なかったはず。しかし有利なのは下りだった。グラベルのダウンヒルでは重心が下がることで不安感を無くしてくれて、速く下れる。コースには時速55kmを超えるような長いダウンヒルも数ヵ所あり、そんなときも安心して速さを増せるのは脚に余裕ができることに加えて空気抵抗が少なくなるからで、Fサスの効果も相まって他の誰よりも速かったと思うほどだった。ノーマル形状のカーボンポストと比べると200gほど重量はかさむので、不要とする人には不要というのも正解。
超軽量とはいえカタログ重量で1226gあるFサスと、200gほど重量増になるドロッパーポストの両方を備えることの重量面のデメリットを登りで感じてしまうのは事実。実測で9.7kgの車重はやはり重い。しかしいざ走り始めると気にならなくなるというのも実感としてある。実際、停まった状態でREVOLT-Xを持ち上げると重さを顕著に感じるし、スムーズ路面の軽快感の無さはインプレッションを「第一印象」とすれば、この重量がどうしても足かせになると感じる。
しかし走り出してみればFサスとドロッパーによって得られる走破性の高さにより、とくに荒れたグラベルほど快適で印象が好転する。レーサーとして速く走ることを考えれば選択肢は変わってくるだろうが、自分のレベルではかなり狙ったポイントに近い感じだった。
「Fサス搭載に最適設計されたフレーム」とは、逆に言えばFサス搭載を前提としないフレームでは長いレッグをもつサスフォークに交換するとジオメトリーが変わってしまうことを意味する。つまりサスは後付けするものではなく、搭載を前提としたフレーム設計であることが必要とされる。それでこそ最適性能が引き出せ、スムーズな挙動が得られる。乗車感、作動感、操舵感などにいっさい違和感無く疲労度を軽減してくれることに満足だった。
サスのストローク量40mmのうち35mmはスムースグラベルでも使うほど。ちなみに自身の体重にあわせてサグ(沈み込む量)を調整し、作動量を最適化している。サスの動きやバイクの挙動イメージは日本のグラベルライドで撮ったものではあるが次の動画を参照して欲しい。
ではアンバウンド・グラベルはサス無しバイクで走れないかといえば、そんなことはないコース。ただしサスがあったことで振動で腕があがったり腰が痛くなったりの負荷は大幅に軽減されて、身体が楽だったのは確か。それが速いか・遅いかについてはライダーのレベルによって考えるべきで、より速く走ろうと思ったら身体で振動を吸収する柔軟性とテクニック、そして少しの痛みを我慢することも必要だろう。
ほかにフレームの特徴として、リアエンド部に搭載されたFLIP CHIPによってホイールベースを可変させることができ、それによりショートホイールベースならクイック感を、ロングなら安定感のある乗り味に変えられる点がある。今回リアに38Cの細身タイヤをセットしたためショートホイールベースに詰めることはできたが、あえてロングホイールベースのままで行くことにした。それは泥詰まりを考えてのことで、この狙いは見事的中。悪夢のようなD-Hillでの泥詰まりに悩まされはしたが、それでも他の人よりは格段に泥詰まりは少なく、この区間を8位で抜けられた。それは狙い通りだったが、Fサスのフォークレッグをつなぐブリッヂ部のみがやや狭く、泥が詰まった。レース前にこの箇所やホイールに面した側にシリコンやオイルスプレーでコーティングしておけば泥離れはさらに良かったと思う。
そして当初予定していたダウンチューブ下のストレージ(ツール缶)はウェット予想のため取り外したのは正解だった。それが付いていたらもっと泥に苦労したことだろう。もしドライで晴天予想なら、ボトルをもう1本取り付けるように考えて用意していた。なお背中にはキャメルバック CHASE BIKE VEST 4を背負い、最大1.5Lの水分を携帯できるようにしていた(背中が重くなるのを嫌って満タンにはしなかった)。
他にチューンナップとしてCADEXホイールへの交換も考慮にあった。これはジャイアント・ジャパンからの貸し出し申し出があり、魅力的な話だった(-160g!)のだが、もともと完成車にセットされているジャイアントオリジナルのCXR X1 Hookless カーボンホイールがセット重量1,430gと十分に超軽量で、リム内幅も25mmのワイド設計で最新だったこと、その性能に何の不満もなく、むしろチューブレスタイヤの取り付けや相性の良さ、回転性能の良さに感心したため、あえて軽さを求めた飛び道具を借りるより、普段からセッティングを煮詰めて長く使い込んだマイホイールのまま渡米するメリットをとった。結果、タイヤの空気圧設定なども完全に馴れた状態でレースに臨めたのは良かった。もしタイムや表彰台を狙えるようならCADEXホイールを選んだだろうが。
以上のように色々なチューンナップを検討していたが、結果的にはタイヤ交換以外はほぼ完成車の状態でアンバウンド・グラベルに臨むことができ、やや保守的だったけどそのチョイスで正解だったと思うことができた。
そして購入以降サスのセッティングや調整、整備に信頼できるメカニックとして腕を振るってくれたジャイアントストア国立の福島店長に感謝したい。特筆すべきは乗り出し前にそれまで駆ったマイバイクを持ち込んだところ、そのバイクと同一ポジションになるようミリ単位で測定し、各部のポイントを設定してくれたことがスムーズな乗り出しにつながった。とくにサスペンションとサス機能つきドロッパーを装備したバイクにおいてはサグ出しや沈み込み、作動量を考慮したセッティングが必要になり、かつオイル交換などのメンテンナンスも欠かせないため、メカの技術や定期メンテナンスがその後の走りを左右することになる。
結論として、REVOLT Xは今までにないパッケージだけにグラベルバイクの可能性を新たに拓く一台だと感じた。Fサスやドロッパー、ビッグギア搭載による走破性の高さは市場にあるバイクのなかで最大のものになるが、それらを前提とした専用設計だからこその完成度の高さが魅力だ。この記事ではそれをレースという限られた、かつ過酷なイベントという究極の条件下で最適に走れるようカスタマイズするというチャレンジだった。迷った部分も正直に記したため、それらが読者の皆さんの参考になることを願っています。
text&photo:綾野 真(シクロワイアード編集部),photo:Snowy Mountain Photography, Aaron Davis