2022/12/12(月) - 18:29
リジッドバイクのペダリング効率はそのままに、サスペンションによる衝撃吸収を兼ね備えた画期的なフルサスグラベルバイクがスペシャライズドDiverge STRだ。新たなハイエンド・ファンモデルとして登場した意欲作の走りは一体どのようなものなのか。すでにグラベルロードを所有している方、そしてこれからグラベルロード購入を考えている方であれば、誰もが注目すべきその走りを徹底的に掘り下げた。
テストライダーを依頼したのは、特にオフロードライドのノウハウに定評のある三上和志さん(サイクルハウスMIKAMI)と、アメリカのアンバウンド・グラベルを筆頭に海外レースに参戦し、イタリア開催の世界選手権男子45-49歳カテゴリー6位という成績を残した高岡亮寛さん(RoppongiExpress)という、グラベルの第一人者とも言える2人だ。
MTBをルーツに持ち、楽しみつつ速さを求める三上さんと、言わずと知れた"ロードレーサー"でありピュアなスピードを求める高岡さん。偶然にも2人はS-WORKS CRUXを愛車にするという共通点があったが、三上さんはフロントシングルでドロッパーポスト仕様(取材後に取り付けたとのこと)、高岡さんはフロントダブルで固定シートポスト+ロードペダル仕様と完全に異なるセッティングだったことが面白い。
今回テストを行ったのは、広大なグラベルシーンが広がる埼玉県の河川敷。硬く締まった目の細かい砂利道や、拳大の石が転がるエリア、パンプトラックのような凹凸やアップダウンなど、ほぼ日本の"どこにでもある"シーンだ。ぜひ、ご自分のライドエリアだったらどうなるのか、どんな走りをするのか、をイメージしながら読み進めて欲しい。
高岡亮寛さん(Roppongi Express)
言わずと知れた最強ホビーレーサー。自身のバイクショップRX BIKEとクラブチームRoppongi Expressを主宰する。ロードレース活動と並行して近年はオフロードにも積極的に取り組み、今年はアンバウンド・グラベルやグラベル世界選手権に出場するなど、今国内で最も海外グラベルレースに燃えている1人。(RX BIKEホームページ)
三上和志さん(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBをはじめシクロクロス、グラベルなど特にオフロードに関してハード・ソフトともに造詣が深い。平坦路から山まで周囲に広がるグラベルフィールドでのファンライドやツーリングも頻繁に行う。(サイクルハウスMIKAMI ホームページ)
CW:今日はよろしくお願いします。お二人とも、泥々になるまで楽しみながら走っていただきましたが、気になる走りはいかがでしたか?
高岡:いやあ、面白いバイクですね!(笑)。シートポストの動きも期待通りですごくいい。シッティングでガタガタ道を走った時の衝撃吸収はびっくりするレベルだし、一方サドルから腰を浮かせてダッシュした時はリジッド。その二面性がすごく面白いですね。
三上:そうそう。正直サス付きのハンドリングは重いんじゃないかな...と思っていました。そんなことはなくて、サスの動きも手伝って、荒れたところにどんどん突っ込んで行きたくなる。真っ直ぐ走るんじゃなくて、グネグネ曲がって飛んだり跳ねたり遊びたくなる、そんなバイクでした。
高岡:本当ですね。持った時の重さはCRUXと比べてどうしてもあるんだけど、走り出してしまえばすごい激坂じゃない限り気にならない。レースはCRUX、遊びならDiverge STRと、キャラクター設定がすごく明確になりました。
例えば木の根っこを越えるときだったり、激坂を登っている時ってサドルに座ってませんよね。そういう時はリジットバイクの動きをするからパワーが逃げないんです。フルサスMTBのように「リアサス付きだからあのギャップもいける!」とか、そういうことは全くないのは、むしろびっくりしました。
三上:このリアサスは激しい凸凹にチャレンジするためのものじゃなくて、衝撃を逃して体力を温存するためのものだったんです。不意な路面からの突き上げに対して機能するから、結果安全に走れる。僕は路面がルーズな時にドロッパーポストを2,3cm下げてペダリングする場合があるんですが、これならその必要がない。一番ペダリング効率がいい"いつものポジション"でずっと走れますから。
CW:具体的にリアサスはどんな動きをするのでしょうか?
三上:確かにフルサスバイク然とした部分もあるんだけど、それと同時にリジッドバイクでもある。ダンシングした時はサスが全く動かずハードテールで、人間の重さが加わった時に路面が荒れていると仕事をする。乗り心地がすごくいいからフルサスMTBのつもりで飛んだらリジットだった、みたいな(笑)。あくまで下側からの突き上げをいなすのではなく、ライダーが揺さぶられないための機能なんですよね。「フルサスバイクだから反応性悪いよね」と思ったら大間違いなわけです。初めて乗る感覚なんですが、これは面白いですね。
CW:三上さんはどのようなリアサスセッティングでテストを行いましたか?
三上:僕は体重72kgですが、フレームポストを体重にあったものに変えて、さらに90°回転させてリバウンドを絞りました。いくつか試したんですが、その中でオイルダンパーがしっかり仕事しているのが実感できました。体重とフレームポストと、オイルダンパーの3要素のバランスをしっかりと取る必要がありますが、そうすれば連続するギャップでも、その人の体重に合わせたしなりで戻ってくれる。硬い方がペダリングロスが少ないんだろうとか、安易な考えでセッティングを出してしまうと完全にちぐはぐになってしまいますから。
高岡:CRUXはタイヤを入れ替えることでロードもグラベルもシクロクロスも範疇に収めるレーサーですが、Diverge STRは本当にグラベルを楽しむための専用バイクだな、と感じましたね。
高岡:海外のグラベルレースってどれも距離が100マイルとか長くて、すごく走りごたえがあるんです。例えばアンバウンド・グラベルはほとんどハードパックの路面ですが、拳大の石で埋まった区間もあるし、とにかく舗装の割合が低く、朝から晩まで走るから天候も変わるし、とにかく身体にキツい。
レーサーが本気でタイムや成績を狙うならCRUXですが、初めてのグラベルレースだったり、挑戦・完走を目的にするならDiverge STRを100%お勧めします。それは大なり小なり日本でグラベルにチャレンジする人にとっても同じことが言えますよね。従来のDivergeでもかなり快適性は高いけれど、STRになって余計に長所が伸びたな、と。
三上:本当にそう思いますよね。今回タイヤの空気圧も色々変えてみたんですが、結果的にサスがついてるからといってリジッドバイクよりも高くしない方がいいと感じます。リジッドでベストな空気圧設定にした時、ちょうどこのサスも含めてバイク全体がすごくいい感じになるんです。
例えば、パッと見分かるような大きなギャップは身体を合わせてクリアできるけど、もっと細かく連続する凹凸には、このリアサスが最高にいい仕事をしてくれますよね。不意にドカン!なギャップに対してもしっかり仕事をしてくれる。
高岡:そういう場面って、ずっとグラベルを走っていると絶対出てくるというか、基本そればっかりじゃないですか。アンバウンドも世界選手権もず〜っとそうだったし。集中力をずっと高いレベルで保つのは無理だから、そういう場面ですごく助けになると思う。失速どころか落車の危険も減らせると思うし、安全かつ速いシステムなんだな、と思います。
CW:高岡さんがグラベルイベント、あるいはレースに出る場合のバイク選びはどのようになりますか?
高岡:例えば、グラベル世界選手権のようなピュアレースだったらCRUXに乗って、衝撃は全部身体でいなす方が速い。でもイベント完走を目指したり、タフなコンディションになればなるほどDiverge STRを選びますね。
三上:CRUXに比べたらDiverge STRは出だしが重いしハンドリングもゆったりだけど、一方でシビアさが全然無くて、すっごく楽しいバイク。ロード的な乗り方が多い人にはCRUXをお勧めするけれど、ディバージュの、しかもSTRは"楽しさ"を追い求める人向け。
もし可能ならCRUXとDiverge STRを2台持ちするのが最高かな。しかもCRUXにはサブのロードホイールを用意しておいて、Diverge STRにはドロッパーポストを用意しておいて、みたいな...。
高岡:そうかもしれません(笑)。似てるようで全く違う2台だから、棲み分けがありますよね。
三上:そうしたらMTBもロードもシクロクロスバイクも要らなくなっちゃって、その2台だけでいいかもしれない。関東平野に住んでいても、少し郊外なら河川敷のグラベルってたくさんあるし、そういう道を繋いで山の方に走りに行って帰ってくる...みたいな走り方だったらDiverge STRはすごくマッチする。
CW:高岡さんがレース参戦にDivergeを選んだ理由の一つがフューチャーショックだったとお聞きしましたが...?
そうなんです。やっぱりガタガタ道を走る時のサスによる疲労軽減は無視できないと思ったから。できる限り最後まで体力を残すのはマストですし、ロックアウトできるのも良いなと思ったんですね。Diverge STRはフューチャーショックはそのまま、リアにもついた正統進化版じゃないですか。もうこれは手に入れるしかないな...と思っています(笑)。
あと、僕が気に入っているのがSWATストレージなんです。このクリーンな見た目でレース出れるのってすごくいいし、サドルバッグとかと違って落とす心配もありませんから。容量も大きいし、必要なものが全部入っちゃう。
CW:三上さんがマイバイクとしてDiverge STRを選ぶなら、タイヤやギア比など、どんなセッティングにしますか?
三上:サスペンションがあるので、快適性を上げるために太いタイヤを履かせる必要はありませんよね。だから40C程度でいいと思うし、MTB的にシングルトラックを走りたいならデフォルトの10-50Tカセットで。僕が乗るならドロッパーポストはマストです。高岡さんはどうですか?
高岡:僕だったらドロッパーは要らないかなあ...。そんなにテクニカルな場所を攻めないので...(笑)。
三上:いやいや、奥武蔵エリアにお呼びしますんで、ぜひその時はドロッパー入れて来て下さい(笑)。特にこの完成車の場合はスラムのeTapだから、ロックショックスの無線ドロッパーポストが使える。僕なんか何かきっかけがあれば飛びたくなっちゃうから、ドロッパーはマストなんですよね。
あと、カンパニョーロのEKARで組むのもイイかなあ。フロントシングル専用だけど、なだらかな下りでちゃんと適正ギアで踏みたいので13速。ギアは多ければ多いほどいいですからね(笑)。あと、激坂登りで遊ぶならショートノーズサドルではなく、クラシックな長いフォルムのサドルがいいかな。せっかくだからどこでも足をつかずに乗っていけるバイクにしてあげたい。
高岡:僕はスラムの1xで、ギア比1.0よりもっと軽いギアをつけて、ファンバイクに全振りする方がいいかなと思いますよ。押して歩くような場所には行かないのでCRUXにはロードペダルを付けてますが、Diverge STRはオフロードペダル一択ですね。
とにかくDiverge STRは新基軸で、今までにない革新的なバイクです。資料を読んだだけじゃ分からない気づきがたくさんありました。とてもいい機会になりましたね。
今回のロケに同行してもらい、テストライダーお二人と、我々取材陣にDiverge STRの説明とセッティングを施してくれたのがスペシャライズド・ジャパンの下松仁さんだ。デマンドプランナーといった重役を歴任し、現在はSpecialized Universityインストラクターとして頻繁にモーガンヒルの本社の技術者たちとコミュニケーションを取る下松さんに、改めてDiverge STRの魅力をアピールしてもらった。
下松氏:このバイクの開発主導を行ったのがクリス・ダルージオです。ALLEZ SPRINTの「ダルージオ・スマートウェルド」を開発したエンジニアですが、彼がグラベルのガレ場を腰を浮かせて下っている時に、これをバイクの構造として落とし込めれば良いのでは、と思いついたことがSTR開発のスタートラインでした。
最初の頃のプロトタイプはBBごとフレームから切り離し、ダウンチューブにダンパーを入れた構造でした。でも、それではBBがスイングするためエネルギーロスが激しく断念。次にはエキセントリックBBが回転してダンパーを押す構造が現れましたが、ダウンチューブへのダンパー内蔵が現実的ではなく断念。そこで、そもそものアイディアの原泉である「サドルを浮かす」という発想に辿り着いた、と聞いています。
初めてこのバイクに乗ったときは、ブレーキでダイブすることも無いし、私自身感動しました。乗ってみるとシステム自体の存在感もないし、それでいて確実に仕事をしてくれる。スプリントのようにビッグパワーで踏んでも動きには関係ありません。
今までのリジッドフレームとの劇的な差は、体重によって乗り心地を変えることができるようになったこと。フルサスバイクでは当たり前だったことが、ロードタイプのオフロードバイクで可能となりました。9本のフレームポストを用意することで50〜120kgまで対応することも大きいですね。
STRは52サイズで100kgの人でも、58サイズで50kgの人でも同じような乗り味が叶えられる。49サイズだけシートチューブ長の制約で付属品しか合わないのですが、これはすごく画期的なものだと言えます。
スペシャライズド本社はびっくりするくらいグラベルロードに力を入れています。それはビジネスとして大きくなっていることも当然ですが、ロードと違ってバイク設計ルールもないし、MTBのようにまだ完全に確立されたジャンルでもないから、面白いアイディアをどんどん入れる余地がある。だから開発スタッフ自身が楽しみながら、自由に開発できるわけです。
スペシャライズドはMTBテクノロジーもあるし、ロードは言わずもがな。そんな風潮から出てきたモノですから、リアルに楽しいファンバイクに仕上げられているわけです。読者の方々も、ぜひ機会があれば実物を見て乗って頂ければと思います。
テストライダーを依頼したのは、特にオフロードライドのノウハウに定評のある三上和志さん(サイクルハウスMIKAMI)と、アメリカのアンバウンド・グラベルを筆頭に海外レースに参戦し、イタリア開催の世界選手権男子45-49歳カテゴリー6位という成績を残した高岡亮寛さん(RoppongiExpress)という、グラベルの第一人者とも言える2人だ。
MTBをルーツに持ち、楽しみつつ速さを求める三上さんと、言わずと知れた"ロードレーサー"でありピュアなスピードを求める高岡さん。偶然にも2人はS-WORKS CRUXを愛車にするという共通点があったが、三上さんはフロントシングルでドロッパーポスト仕様(取材後に取り付けたとのこと)、高岡さんはフロントダブルで固定シートポスト+ロードペダル仕様と完全に異なるセッティングだったことが面白い。
今回テストを行ったのは、広大なグラベルシーンが広がる埼玉県の河川敷。硬く締まった目の細かい砂利道や、拳大の石が転がるエリア、パンプトラックのような凹凸やアップダウンなど、ほぼ日本の"どこにでもある"シーンだ。ぜひ、ご自分のライドエリアだったらどうなるのか、どんな走りをするのか、をイメージしながら読み進めて欲しい。
インプレッションライダー プロフィール
高岡亮寛さん(Roppongi Express)
言わずと知れた最強ホビーレーサー。自身のバイクショップRX BIKEとクラブチームRoppongi Expressを主宰する。ロードレース活動と並行して近年はオフロードにも積極的に取り組み、今年はアンバウンド・グラベルやグラベル世界選手権に出場するなど、今国内で最も海外グラベルレースに燃えている1人。(RX BIKEホームページ)
三上和志さん(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBをはじめシクロクロス、グラベルなど特にオフロードに関してハード・ソフトともに造詣が深い。平坦路から山まで周囲に広がるグラベルフィールドでのファンライドやツーリングも頻繁に行う。(サイクルハウスMIKAMI ホームページ)
Diverge STRをインプレッション
CW:今日はよろしくお願いします。お二人とも、泥々になるまで楽しみながら走っていただきましたが、気になる走りはいかがでしたか?
高岡:いやあ、面白いバイクですね!(笑)。シートポストの動きも期待通りですごくいい。シッティングでガタガタ道を走った時の衝撃吸収はびっくりするレベルだし、一方サドルから腰を浮かせてダッシュした時はリジッド。その二面性がすごく面白いですね。
三上:そうそう。正直サス付きのハンドリングは重いんじゃないかな...と思っていました。そんなことはなくて、サスの動きも手伝って、荒れたところにどんどん突っ込んで行きたくなる。真っ直ぐ走るんじゃなくて、グネグネ曲がって飛んだり跳ねたり遊びたくなる、そんなバイクでした。
高岡:本当ですね。持った時の重さはCRUXと比べてどうしてもあるんだけど、走り出してしまえばすごい激坂じゃない限り気にならない。レースはCRUX、遊びならDiverge STRと、キャラクター設定がすごく明確になりました。
例えば木の根っこを越えるときだったり、激坂を登っている時ってサドルに座ってませんよね。そういう時はリジットバイクの動きをするからパワーが逃げないんです。フルサスMTBのように「リアサス付きだからあのギャップもいける!」とか、そういうことは全くないのは、むしろびっくりしました。
三上:このリアサスは激しい凸凹にチャレンジするためのものじゃなくて、衝撃を逃して体力を温存するためのものだったんです。不意な路面からの突き上げに対して機能するから、結果安全に走れる。僕は路面がルーズな時にドロッパーポストを2,3cm下げてペダリングする場合があるんですが、これならその必要がない。一番ペダリング効率がいい"いつものポジション"でずっと走れますから。
CW:具体的にリアサスはどんな動きをするのでしょうか?
三上:確かにフルサスバイク然とした部分もあるんだけど、それと同時にリジッドバイクでもある。ダンシングした時はサスが全く動かずハードテールで、人間の重さが加わった時に路面が荒れていると仕事をする。乗り心地がすごくいいからフルサスMTBのつもりで飛んだらリジットだった、みたいな(笑)。あくまで下側からの突き上げをいなすのではなく、ライダーが揺さぶられないための機能なんですよね。「フルサスバイクだから反応性悪いよね」と思ったら大間違いなわけです。初めて乗る感覚なんですが、これは面白いですね。
CW:三上さんはどのようなリアサスセッティングでテストを行いましたか?
三上:僕は体重72kgですが、フレームポストを体重にあったものに変えて、さらに90°回転させてリバウンドを絞りました。いくつか試したんですが、その中でオイルダンパーがしっかり仕事しているのが実感できました。体重とフレームポストと、オイルダンパーの3要素のバランスをしっかりと取る必要がありますが、そうすれば連続するギャップでも、その人の体重に合わせたしなりで戻ってくれる。硬い方がペダリングロスが少ないんだろうとか、安易な考えでセッティングを出してしまうと完全にちぐはぐになってしまいますから。
高岡:CRUXはタイヤを入れ替えることでロードもグラベルもシクロクロスも範疇に収めるレーサーですが、Diverge STRは本当にグラベルを楽しむための専用バイクだな、と感じましたね。
高岡:海外のグラベルレースってどれも距離が100マイルとか長くて、すごく走りごたえがあるんです。例えばアンバウンド・グラベルはほとんどハードパックの路面ですが、拳大の石で埋まった区間もあるし、とにかく舗装の割合が低く、朝から晩まで走るから天候も変わるし、とにかく身体にキツい。
レーサーが本気でタイムや成績を狙うならCRUXですが、初めてのグラベルレースだったり、挑戦・完走を目的にするならDiverge STRを100%お勧めします。それは大なり小なり日本でグラベルにチャレンジする人にとっても同じことが言えますよね。従来のDivergeでもかなり快適性は高いけれど、STRになって余計に長所が伸びたな、と。
三上:本当にそう思いますよね。今回タイヤの空気圧も色々変えてみたんですが、結果的にサスがついてるからといってリジッドバイクよりも高くしない方がいいと感じます。リジッドでベストな空気圧設定にした時、ちょうどこのサスも含めてバイク全体がすごくいい感じになるんです。
例えば、パッと見分かるような大きなギャップは身体を合わせてクリアできるけど、もっと細かく連続する凹凸には、このリアサスが最高にいい仕事をしてくれますよね。不意にドカン!なギャップに対してもしっかり仕事をしてくれる。
高岡:そういう場面って、ずっとグラベルを走っていると絶対出てくるというか、基本そればっかりじゃないですか。アンバウンドも世界選手権もず〜っとそうだったし。集中力をずっと高いレベルで保つのは無理だから、そういう場面ですごく助けになると思う。失速どころか落車の危険も減らせると思うし、安全かつ速いシステムなんだな、と思います。
CW:高岡さんがグラベルイベント、あるいはレースに出る場合のバイク選びはどのようになりますか?
高岡:例えば、グラベル世界選手権のようなピュアレースだったらCRUXに乗って、衝撃は全部身体でいなす方が速い。でもイベント完走を目指したり、タフなコンディションになればなるほどDiverge STRを選びますね。
三上:CRUXに比べたらDiverge STRは出だしが重いしハンドリングもゆったりだけど、一方でシビアさが全然無くて、すっごく楽しいバイク。ロード的な乗り方が多い人にはCRUXをお勧めするけれど、ディバージュの、しかもSTRは"楽しさ"を追い求める人向け。
もし可能ならCRUXとDiverge STRを2台持ちするのが最高かな。しかもCRUXにはサブのロードホイールを用意しておいて、Diverge STRにはドロッパーポストを用意しておいて、みたいな...。
高岡:そうかもしれません(笑)。似てるようで全く違う2台だから、棲み分けがありますよね。
三上:そうしたらMTBもロードもシクロクロスバイクも要らなくなっちゃって、その2台だけでいいかもしれない。関東平野に住んでいても、少し郊外なら河川敷のグラベルってたくさんあるし、そういう道を繋いで山の方に走りに行って帰ってくる...みたいな走り方だったらDiverge STRはすごくマッチする。
CW:高岡さんがレース参戦にDivergeを選んだ理由の一つがフューチャーショックだったとお聞きしましたが...?
そうなんです。やっぱりガタガタ道を走る時のサスによる疲労軽減は無視できないと思ったから。できる限り最後まで体力を残すのはマストですし、ロックアウトできるのも良いなと思ったんですね。Diverge STRはフューチャーショックはそのまま、リアにもついた正統進化版じゃないですか。もうこれは手に入れるしかないな...と思っています(笑)。
あと、僕が気に入っているのがSWATストレージなんです。このクリーンな見た目でレース出れるのってすごくいいし、サドルバッグとかと違って落とす心配もありませんから。容量も大きいし、必要なものが全部入っちゃう。
CW:三上さんがマイバイクとしてDiverge STRを選ぶなら、タイヤやギア比など、どんなセッティングにしますか?
三上:サスペンションがあるので、快適性を上げるために太いタイヤを履かせる必要はありませんよね。だから40C程度でいいと思うし、MTB的にシングルトラックを走りたいならデフォルトの10-50Tカセットで。僕が乗るならドロッパーポストはマストです。高岡さんはどうですか?
高岡:僕だったらドロッパーは要らないかなあ...。そんなにテクニカルな場所を攻めないので...(笑)。
三上:いやいや、奥武蔵エリアにお呼びしますんで、ぜひその時はドロッパー入れて来て下さい(笑)。特にこの完成車の場合はスラムのeTapだから、ロックショックスの無線ドロッパーポストが使える。僕なんか何かきっかけがあれば飛びたくなっちゃうから、ドロッパーはマストなんですよね。
あと、カンパニョーロのEKARで組むのもイイかなあ。フロントシングル専用だけど、なだらかな下りでちゃんと適正ギアで踏みたいので13速。ギアは多ければ多いほどいいですからね(笑)。あと、激坂登りで遊ぶならショートノーズサドルではなく、クラシックな長いフォルムのサドルがいいかな。せっかくだからどこでも足をつかずに乗っていけるバイクにしてあげたい。
高岡:僕はスラムの1xで、ギア比1.0よりもっと軽いギアをつけて、ファンバイクに全振りする方がいいかなと思いますよ。押して歩くような場所には行かないのでCRUXにはロードペダルを付けてますが、Diverge STRはオフロードペダル一択ですね。
とにかくDiverge STRは新基軸で、今までにない革新的なバイクです。資料を読んだだけじゃ分からない気づきがたくさんありました。とてもいい機会になりましたね。
スペシャライズド・ジャパン 下松氏が語るDiverge STR
今回のロケに同行してもらい、テストライダーお二人と、我々取材陣にDiverge STRの説明とセッティングを施してくれたのがスペシャライズド・ジャパンの下松仁さんだ。デマンドプランナーといった重役を歴任し、現在はSpecialized Universityインストラクターとして頻繁にモーガンヒルの本社の技術者たちとコミュニケーションを取る下松さんに、改めてDiverge STRの魅力をアピールしてもらった。
下松氏:このバイクの開発主導を行ったのがクリス・ダルージオです。ALLEZ SPRINTの「ダルージオ・スマートウェルド」を開発したエンジニアですが、彼がグラベルのガレ場を腰を浮かせて下っている時に、これをバイクの構造として落とし込めれば良いのでは、と思いついたことがSTR開発のスタートラインでした。
最初の頃のプロトタイプはBBごとフレームから切り離し、ダウンチューブにダンパーを入れた構造でした。でも、それではBBがスイングするためエネルギーロスが激しく断念。次にはエキセントリックBBが回転してダンパーを押す構造が現れましたが、ダウンチューブへのダンパー内蔵が現実的ではなく断念。そこで、そもそものアイディアの原泉である「サドルを浮かす」という発想に辿り着いた、と聞いています。
初めてこのバイクに乗ったときは、ブレーキでダイブすることも無いし、私自身感動しました。乗ってみるとシステム自体の存在感もないし、それでいて確実に仕事をしてくれる。スプリントのようにビッグパワーで踏んでも動きには関係ありません。
今までのリジッドフレームとの劇的な差は、体重によって乗り心地を変えることができるようになったこと。フルサスバイクでは当たり前だったことが、ロードタイプのオフロードバイクで可能となりました。9本のフレームポストを用意することで50〜120kgまで対応することも大きいですね。
STRは52サイズで100kgの人でも、58サイズで50kgの人でも同じような乗り味が叶えられる。49サイズだけシートチューブ長の制約で付属品しか合わないのですが、これはすごく画期的なものだと言えます。
スペシャライズド本社はびっくりするくらいグラベルロードに力を入れています。それはビジネスとして大きくなっていることも当然ですが、ロードと違ってバイク設計ルールもないし、MTBのようにまだ完全に確立されたジャンルでもないから、面白いアイディアをどんどん入れる余地がある。だから開発スタッフ自身が楽しみながら、自由に開発できるわけです。
スペシャライズドはMTBテクノロジーもあるし、ロードは言わずもがな。そんな風潮から出てきたモノですから、リアルに楽しいファンバイクに仕上げられているわけです。読者の方々も、ぜひ機会があれば実物を見て乗って頂ければと思います。
text&photo:So Isobe 提供:スペシャライズド・ジャパン