2022/10/11(火) - 17:43
オンロードを満喫した翌日は、信越で盛り上がるグラベルへ
この夏の終わりに参加したグラベルの聖地である斑尾を舞台に開催された信越グラベルライド。後日、共に走ったシクロワイアード編集部のヤスオカさんから送ってもらった当日の写真を見てちょっと驚いた。自分で言うのも何だが、写っている写真のすべてが楽しさで溢れているではないか。これまで十数年、数々のイベントの実走レポートをしてきたが、これほど終始はじけていたことはないのではないだろうか。それほど信越グラベルライドは楽しい1日だった。
ちなみに、信越グラベルライド前日には、サイクルツアーサポートバスを利用したおよそ100kmの信越山岳ロングライドを満喫した。
サイクルツアーサポートバスは、信越エリアのアクティビティ全般をサポートする信越自然郷アクティビティセンターが新たに企画したプライベートサポートバス。これが普段のサイクリングを驚くほどラグジュアリーに充実したものにしてくれる。渋峠の国道最高地点の石碑の前でビールを飲むことだってできる。こちらの詳細レポートはVol.1をチェック!
さて、話をグラベルライドに戻そう。皆さんご存知のように、近年注目度が上がり続けているグラベルライド。まだまだファンこそ少ないが、現場で感じる熱量は今後ますます大きなムーブメントになることは間違いない。
メディアのポジションにいると、自ずとグラベルを走る機会も増え、昨年は斑尾高原に誕生した「グラベルバイクパーク斑尾」を走ったり、北の大地で開催された「ニセコグラベル」にも参加してきた。とはいえまだまだグラベル経験は若葉マーク付き。
そして、今回、ふたたび北信州は斑尾の地へ。斑尾といえば、日本のグラベルの聖地的な存在だ。標高1000mの高原エリアに張り巡らされた無数のトレイル。グラベルライドに適した自然環境が広がっている。2019年にはインターナショナルなグラベルイベント「グラインデューロ」の舞台になると、翌年には初心者からコアライダーまで楽しめるグラベルパーク「Giro Gravel Bike Park Madarao」が造成された。今回、そんな日本のグラベルムーブメント発祥の地で開催された信越グラベルライド(https://shinetsu-gravel.jp)に参加してきた。
グラベルの聖地を走るイベントに参加!
朝7時すぎ、会場は一面の濃霧に包まれ、夏とは思えない幻想的な雰囲気。グラベルバイクパークの拠点となるサンデッキに集まり出す参加者たちが、十人十色なグラベルバイクと共に意気揚々と受付を済ましていく。玄人感のあるグラベルバイクで参加する者もいれば、マウンテンバイクで参加する人も。
またe-BIKEでの参加者も多く、参加者の走力や楽しみのスタンスの幅の広さを感じる。ちなみに、僕らはeグラベルを信越自然郷アクティビティセンターでレンタルして気軽に参加。グラベルにキツさではなく爽快感や楽しさを求めるなら、eグラベルは断然オススメだ。とくに初心者は、体力をセーブできるので、グラベルライド独特の路面状況に応じたライン選びなど状況判断に集中できるメリットが大きい。
今回のコースは全長64km。グラベルイベントとしてはミドルディスタンスで獲得標高差は1000mと少々だ。参加者たちで助け合いながら楽しむグループライド形式が取られ、途中に休憩スポットは指定されているものの、それ以外の補給やメカトラ、地図読み含めて参加者一人ひとりの自己能力に任せられている。
もちろんルートについては事前にオフィシャルからGPXデータが案内され、自身のサイクルコンピューターにダウンロードしておくことが推奨される。
スタート前ブリーフィングがやや延びたため、スタート時刻を参加者に相談しつつ10分遅らせることに。こんなアットホームで緩い感じも好きになれる。
しかもスタートが切られても、スタート地点からなかなか出発せず、しばし談笑する姿も。ほとんどの参加者にとってタイムを争うようなレースではない。僕らも1日じっくりと時間をかけてイベントを楽しみ尽くそうではないか。
スタート地点の斑尾高原スキー場は新潟と長野のまさに県境。ざっと全体の高低図を見ると、スタート地点で標高1000mあり、コース高低図はV字型。野尻湖を経由しながら、黒姫高原、飯綱町、飯山市という日本らしい山岳地帯を駆け抜ける。スタート地点からおよそ50km地点までは下り基調で、終盤に7km近い上り坂が待っているコースレイアウトだ。まぁ、山林の場合、終盤手前まで下り基調と言ってもGPSルート高低図には出てこない小刻みなアップダウンはあるので、走りごたえは……十分なはず。
さて、一寸先も見えないような濃霧に包まれていたのは、本当にスタート地点だけだったようだ。早くも木々の隙間からキラキラとした朝陽が差し込み、絶好のイベント日和。ちょっと暑くなりそうな予感もするが、グラベルライドの魅力のひとつがマイナスイオンたっぷりの森林浴を楽しめること。今回のコースも直射日光を避けながら走れる区間が多そうだ。
スタートから数キロはスキー場内および斑尾高原ふるさとの森のなかの快適なトレイルライド。登山者と自転車がトレイルで共存できるように、通常はガイドツアーのみトレイルが解放されている。今回のイベントは許可を得てコースとして利用、一般観光客とのパブリックエリアには常設の案内標識も多く、ルートを迷うこともない。久々のトレイル走行の感覚を呼び覚ましながら、夜露で湿った落ち葉を踏みしめながら下っていく。
そんな感じで、迷うことはないだろうなんて余裕で構えていたら、いきなりサイクルコンピューターのルート逸脱アラートが鳴り響く。慌てて引き返して、仕切り直し! 斑川の溜まり池をかすめながらダブルトラックのグラベルへズンズンと突入していく。「こんな茂みに道があるの!?」というような場所にルートが設定されているから刺激的で面白い。
砂利道というより、草木が繁茂しすぎて轍が隠れ気味なディープトレイル。その続きにある田舎でよく見かけるクルマ1台分の舗装路を下っていると、右矢印の看板がさりげなく立っているのが目に飛び込んできた。
そして、ふたたびシングルトラックが始まる。倒木の下をくぐったり、神社の前をかすめて、山の奥へ進めていったかと思えば、忽然と現れた山の中の空き地に放り出されてみたり。シーンが変化に富んでいて飽きがこない。
そうこうしているうちに、野尻湖が近づいてきた。美しい小径を颯爽と下り、一気に湖畔沿いへ。湖面まで距離1mもないキワキワに通る湖畔周回道路を走れば、森の中のグラベルライドとは真逆の世界を楽しめる。
まだ斑尾高原から走り出して距離20kmほどなので、次を急ぎたいところだったが、何やらひとけの多いパン屋があるではないか。イベントのエイドステーションでも立ち寄りスポットでもないが、小腹も空いてきたのでみんなで焼きたてパン休憩を挟んだ。こんな感じで、ルートは決められていてもどこかフリーな余白があるところが好きだ。
中盤はオンロード区間が多めで、里山田園風景を楽しみながら距離を稼いでいく。およそ30km地点で今回のイベントのエイドステーションになっている農産物直売所「にのくらマルシェ」へ。
隣接する野菜ジェラート店「チェントット ジェラート」で地産の新鮮野菜で作った自家製ジェラートを購入。お店はイベント1ヶ月前のこの夏にオープンしたての黒姫高原エリアの注目カフェ。雲ひとつない夏日、アイスコーヒーとジェラートでリフレッシュ。
この頃になると砂利にタイヤのグリップが取られる独特の感覚にも、焦らずリカバリーできる余裕と慣れが生まれ、ダブルトラックを並走しながら会話も楽しむ余裕も。下りもスピードを維持してアグレッシブに攻めていく。と、次の瞬間、おっとっと……。
ヒヤッとすることは大体そんな時に起きるもの。深めの轍にタイヤが取られて、うまく抜け出せたかと思ったらコーナーの茂みにオーバーラン。そんなスリルも味わいながら、イベントもいよいよ終盤へ。
今回のコースは終盤にまぁまぁ長めの上り坂が待ち受けている。上りに入る直前にランチエイドに指定されている「いいづなコネクトEAST」に立ち寄り、ハンバーガーで腹ごしらえ。
飯綱町に誕生した廃校活用施設のグラウンドでしばしのランチ休憩タイムだ。パテに挟まれたお肉は鹿肉100%。地元の飯綱町が打ち出すジビエバーガーにかぶりつきエネルギーチャージ。
「いいづなコネクト」からは、いよいよ終盤のヒルクライムセクション。オンロードながら、急峻な山肌の集落の中を一気に駆け上がっていけばいくほど、「これはEバイクじゃなきゃ大変だ」と思うのであった。
平均10%以上あるような急坂もものともせずスイスイ駆け上がっていくeバイクに助けられ、余裕で会話しながら信越の山道を堪能。人力でヒイヒイ言いながら頑張っているグラベルライダーを横目に、モーター音を響かせながら次々にパスしていく。
「うわ〜、マジかぁ」と苦しみの中で発せられるかすれ声に、ちょっと申し訳ない気持ちになりながらも、「お先〜、頑張って!」と返しながら一気に駆け上がる。急坂セクションを終えたら最後のトレイル区間を抜けて、朝スタートした会場の斑尾高原グラベルパークへ。
長かったような短かったような信越グラベルイベントを無事に64km走破。途中でルートミスしたり、参加者同士で交流したことも、すべてよきイベントの思い出になる。グラベルを走れば、高原ロングライドだけでは通過してしまって気づかないような世界にも出会えた。
すべてが主催者によってしつらえられたイベントではなく、遊び方を参加者に委ねている部分もある信越グラベルイベント。グラベルの聖地で開催されるグラベルデビューにおすすめのイベントと言えそうだ。
主催者と参加者。垣根を越えて作り上げる信越グラベルイベント
充実のライドを終えて、今回のイベントの仕掛け人のひとりである信越自然郷の田中淳さんにお話を伺った。「イベントを作る側と参加者、つまりローカルとゲストが隔てなく一緒に楽しめるイベントをめざしています。主催者がお金をかけて全て用意したイベントに参加するのではなく、自身の体験を通してグラベルの遊び方を知ってもらえたらと思っています。
すべてのコースの曲がり角に案内看板が立っているわけではなく、サポートも最小限ですが、そんな余白をゲストの皆さんが体験することで、自分自身で遊び方を学んでいけるとよいと感じています。最近はグラベルが人気で自転車メーカーも営業に積極的ですが、遊び方がわからずモヤモヤしている人も多い現状があります。今回のようなイベントを通じて遊び方のヒントを見つけてもらうと、地元でも自分で道を見つけてみようと思うようになり、この道は楽しいかもしれない、など自ら遊べるようになっていくでしょう。
信越グラベルライドは過去2回実施しましたが、今回はダート率を高めることに拘らず、グラベルロードで楽しめる可能性をコンセプトにオンロードを多めに取り入れてルートを作りました。オンロードもストレスなく走れたり、カフェに立ち寄って休憩したりと、グラベルの可能性を体験できたのではないでしょうか。こうした体験から信越に魅力を持ってもらい、またふらっと遊びに来てもらえたら嬉しく思っています」
田中さんはじめローカルサイドも一緒に楽しむ信越グラベルイベントは、今後も年に3回ほど実施していく予定だ。グラベルの聖地である斑尾をベースにしたイベントだけでなく、飯山の里山エリアを拠点にしたり、信越の中で場所を変えながらの開催も考えているそう。信越エリアの魅力を体験しながら気軽に参加できるグラベルイベントとして注目したい。
そして、信越のグラベルの背景には、この素晴らしいトレイルやフィールドを自転車で楽しめるようにという思いを持った、田中さんのようなローカルライダーを中心とした活動がある。欧米のようにオフィシャルで走れるトレイルが少ない日本のフィールドで、トレイル整備や登山者との共存、自然環境の保護といった課題解決に取り組んでいる。その一環として開催されているのが、この「信越グラベル」というグループライドなのだ。
この環境を残していくためには、ライダーそれぞれがルールを守って走ることが大切だ。登山やトレッキングを楽しむ歩行者を優先するのはもちろん、私有地や登山道には入らないこと、林道でも交通ルールを守って走ること、トレイルでも出来るだけ自然環境にダメージを与えないような走り方を心がけること。そして、トラブルを想定し、しっかりと帰ってくることが出来るように命を守る装備や計画をもってライドに臨むこと。そういったひとりひとりの心がけが、トレイルの未来に繋がっていく。
グラベルの聖地で開催されるイベントと聞くと、ちょっと敷居の高さを感じてしまうが、今回の信越グラベルライドイベントは、とてもアットホームで初心者ウェルカムなコース設定でもあった。しっかり1日かけて走れる満足度の高いコースボリュームがありながら、グラベル率が高すぎずオンロードセクションで休むことができるためグラベル初心者でも安心できた。
また、タイヤを取られやすくコントロールを失いやすい大粒の砂利区間は少なく、粒子の細かい砂利コンディションがほとんど。グラベル区間以外のダートロードはトレイルという感じで、むしろグラベル経験が浅くても楽しめたはずだ。
今回はイベントに参加したが、グラベルは当然プライベートでもフリーライドできるため、初日に利用したサイクルツアーサポートバス(プライベートサポートバス)を利用したグラベルライドも魅力的だ。仲間たちを集めて週末2日間サイクルツアーサポートバスを予約して、今回のように初日はロードサイクリング、2日目はグラベルライドというプランは最高ではないか。
グラベルバイクがなくても、今回の僕らのように信越自然郷アクティビティセンターでe-グラベルやe-MTBをレンタルしたらよい。年に1回くらいそんなスペシャルなプライベートイベントを実現したいものだ。今後、このようなイベントを企画したら興味を持ってくれる人もいるのではないだろうか。ちょっと企画を考えてみようと思う。
text:日向涼子、橋本謙司 photo:橋本謙司、安岡直輝 提供:信州いいやま観光局