2022/08/30(火) - 12:00
話題沸騰のトレック新型Madoneについて、US本社と繋ぎ開発ヘッドにインタビューを行った。興味深いIsoFlowの発案と具現化、選手たちの反応、そして、現在のロードトレンドにおけるMadoneの立ち位置。1時間に及んだ、濃いトークを要約してお伝えしたい。
「我々開発チームはプロチームからのフィードバックに常に耳を傾けている。僕たちには男女2つのチームがあって、1年を通して彼ら彼女たちと対話を続けているんだ。Emonda、Domane、そしてMadoneに対してどんな改善が欲しいのかをね」。トレック本社と繋いだオンラインインタビューで、ロード部門のディレクターを務めるジョーダン・ロージン氏はそう話を切り出した。
「皆が先代Madoneの乗り味が好きで、とても優れた空力性能を有していた。しかしより多くのレースで使ってもらうには重量がやや重かった。だからこそ、このプロジェクトの大きな目標は軽量化に定まったんだ」とも。
筆者がロージン氏にインタビューを行うのは、2019年にイタリアで行われたDomane発表会に続く合計3回目。誰もが驚いたシートチューブ形状「IsoFlow」のこと、新UCI規定がバイク設計に及ぼしたこと、トレック・セガフレードとの関係性、現在のロードバイクトレンドに対するトレックの考えなど、こちらの質問に対して真摯に答えてくれた。
―プロ選手たちからのリクエストはどのようなものだったのでしょう?
速いという高評価を前提として、彼らはまず軽量化を第一にしつつ、快適性も重要だと主張したんだ。彼らは快適性を求めるテクノロジーに厚い信頼を寄せてくれているし、実際IsoSpeedについては重量増を打ち消す快適性がある、と彼らは言ってくれていた。
彼らは石畳のあるステージでもレースができるほど快適性の高いバイクを求めていたけれど、同時に軽量化も望んでいた。Madoneの本質的なアドバンテージを保ったまま、快適性と可能な限りの軽量化をする。それは非常に大きなチャレンジだったよ。
―IsoFlowを筆頭に、とても特徴的なフォルムですが、これは機能とデザインと、どちらを優先したものなのでしょうか?
デザイナーとエンジニアチームの両方から生まれた形ということができる。また今回のMadoneが興味深いのは、全体的な形とIsoFlowのベースがインダストリアルデザインチームから現れた点にある。ジョン・ラッセル(トレックのシニアインダストリアルデザイナー)がもっと効率の良くダイナミックな構造を求めた結果なんだ。その形がエンジニア部門に持ち込まれた。
それが実際にエアロダイナミクスと構造としての効率性をもたらし、更に快適性も与えてくれたんだ。つまりデザインチームとエンジニアチームが1つに統合した結果と言うことができる。インダストリアルデザインによってコンセプトが形作られ、エンジニア部門がMadoneをCFDやFEMAにかけることでさらに洗練させ、あらゆるメリットを見出すことができた。
ーMadoneはトレックワールド・ジャパンでも披露されたコンセプトバイクにも通ずるルックスだと感じました。あの時の未来が今やってきたような印象を受けました。
興味深いことに、あのコンセプトバイクもジョン・ラッセルがデザインを担当しているんだ。だから両方の共通点を見出したのかもしれないね(笑)。
―今回のMadoneを完成させるにあたって、どれだけの期間が費やされたのでしょうか?
IsoFlowなどのコンセプトが定まってから製品としてローンチするまでに、途中プロトタイプのフレーム製造などを含めておおよそ3年かかっている。現行の形になる前のバージョンに修正を加え、コンピュータ上だけではなく、軽さと走りの良さの妥当性を確かめたんだ。ユニークな形であるからこそ、このコンセプト(形)の妥当性を確かめる必要があったんだ。
―カーボン素材そのものの見直しは行っているのでしょうか?
OCLV800カーボンを使っている点は先代と同じ。ただしラミネート(積層)は1世代前のEmondaからアップデートしたものだ。以前のMadoneをローンチした際にOCLV700から800への変更で軽量化することができた。今回は素材というよりも、フレーム形状を最優先にし、細かいレイアップで走行感の向上に努めたんだ。
―UCIによる規定の緩和は新しいフレームデザインに影響を与えたのでしょうか
もちろんその規則変更は反映されているよ。IsoFlowがこのような形になった1つの理由として、シートチューブに形状変更を加えることができたからだ。それ以外の部分はUCI規則に沿ってエアロダイナミクスを最大化させる観点で設計されている。
例えば、ボトムブラケットはエアロダイナミクスの観点からデザインされ、非常に大きくなった。UCIはフレームのクロスセクション(接合部)のカバー範囲規則を緩めたが、これまで我々が作ったバイクでは手つかずだった。だが、そこに「シェルフ」を作り、ドリンクボトルで空間を埋める方法を思いついた。そうすることでかなりの空力性能を得ることができたんだ。それによって横剛性とねじれ剛性に優れ、ペダリング効率が向上するというメリットにも繋がった。
―コクピットもかなり特徴的なフォルムですが、これもUCI規則緩和の影響があるのでしょうか?
この部分に関してはUCI規則はあまり関係ないんだ。ジオメトリーの大部分は人間工学や改定前の規則に則って開発されている。レースにおけるポジショントレンドをもとに、ハンドル幅やブレーキレバーを内側に倒したスタイルをCFDと風洞実験で試しているんだ。特に腕を締めた「ナローポジション」の実験結果は重視されているよ。
―バイクにライダーが乗った状態でCFDと風洞実験を行ったことについてプレゼンテーションで強調されていました。ライダーとバイクの一体化はこの先広がっていくのでしょうか?
間違いなく広がっていくし、我々としては標準的に設計に落とし込みたいと思っている。その理由は今回の実験で得られた多大な成果にある。それはエアロダイナミクス的に適切とされるポジションを定義することができたということ。ライダーのポジショニングが空力性能に多大な影響を与えるというもの自体にはそれほどの驚きはないだろう?しかし、今回は人間工学的な観点をバイクの開発に取り入れたんだ。
バイクを空力的に最適化させ、ライダーに良いポジションを取らせることで、全体的にバイクを速く進ませることが可能になる。それは速さを最優先にするMadoneで既に取り入れていることであり、このプロセスは次プロジェクトにも引き継がれていくものだと思っている。
実際に現行UCI規則の中で作られるバイクとしては、これがプロトン最速なんだ。少なくとも競合他社(のバイク)を測定した結果ではね。だからこそまだまだ(エアロダイナミクスの開発による)余地はあると思うし、それはライダーのポジショニングについても同様のことがいえる。でも、最速のバイクを作ることだけではなく、ライダーのニーズに耳を傾け、理解することに重きを置いて開発したいんだ。
―あなたは常にエアロロードバイクには一定の快適性が必要だと話してきました。IsoSpeedを取り入れた当時のことついて、今現在どう思っているか、教えてください。
当時MadoneにIsoSpeedを取り入れた理由は、1日中レースができる快適性をもたせるため。IsoSpeed無しだったら乗り心地が悪くなり、プロもアマチュアレーサーも乗りたがらなかっただろう。今考えても自然な解決策だった。
調整機構付きのIsoSpeedをリリースしてみてわかったことは、多くのライダーが調整機能を使わなかったということ。彼らにとって調整機能はそれほど大きなメリットではなく、多くがそのままにしてしまっていた。我々は当時、ライダーによって調整できることは、斬新かつ多大なメリットあることだと思っていたのだけれど(笑)。
そこでIsoFlowというコンセプトを考案し、軽量化しつつ十分な快適性を維持できるようにした。だからこそ(IsoFlowに至るまでの)過程で、2度(MadoneにIsoSpeedを取り入れたという)の反復は、快適性の技術のアップデートに必要なプロセスだったという確信がある。
今回はただ、その快適性の技術が進化し、同じ課題に対して新たな解決策を見出しただけ。それが偶然にも軽量化に繋がり、それはMadoneを開発する上でのもう1つの主たるモチベーションとなった。以前のMadoneにIsoSpeedを搭載したことを後悔しているわけではない。より良い解決策を見つけただけなんだ。
―新しいMadoneはパリ〜ルーベのファーストチョイスとなり得ますか?
おもしろい質問だね。昨年のルーベは多くの選手は未発表の新しいDomaneを選択した。しかし、石畳区間が登場した今年のツール第5ステージでは、ほとんどの選手がMadoneを選択したんだ。それについて選手やメカニックが石畳でのMadoneの走りの良さに驚いていたんだ。
ツールの石畳ステージとパリ〜ルーベの違いは石畳区間の距離。パリ〜ルーベは約2倍長い距離がある。一方でツールではあのステージだけと、それら2つは別の側面がある。しかしチームはその両方のレースで新しいMadoneを試すつもりだと思う。おそらくこの夏の終わりか、秋に、ベストな解決策を探すテストを行うだろう。
しかし僕らは選手たちが来年のパリ〜ルーベでDomaneを選んだとしても驚かない。なぜなら、特に女子チームはここ2年、Domaneで良い成績を残しているからね。石畳のため開発されたDomaneを、彼女たちはライバルに対して大きなアドバンテージだと思っている。
男子と女子チームはそれぞれMadoneとEmonda、Domaneに違うサイズのタイヤと空気圧でテストライドが可能な状況にある。特に女子チームはルーベで2年しか走っていないこともあって、経験という面では乏しかった。また彼女たちは身体が小さく、70〜80kgの男子と比べてると全然違うんだ。だから男子と同じ選択のプロセスを経て、最適な方を選ぶことになるだろう。これは一般ライダーにとっても有益な情報になると思う。
―自転車界の流れとして、例えばスペシャライズドのTarmacのように、軽量バイクとエアロロードの統合がなされています。トレックとしてこの流れをどう見ていますか?
そうだね。僕たちはMadoneとEmonda、双方の需要をライダーから掬い取っている。それをテクノロジーと実現の可能性を考慮しながら開発を進めるんだ。特に超軽量バイクとエアロダイナミクスに優れたバイクについては、必ず妥協点が必要とされる。
Madoneより速く、Emondaより軽いバイクなんて誰にも作ることはできない。少なくともエンジニアリングの観点からは不可能なんだ。だからといって将来的にそれが不可能というわけではない。我々は常に改善点を探し、進化させようと努力している。
将来的に超軽量バイクと超エアロロードの2つが十分に差別化されるのか、あるいはこの2つが統合してしまうのか。少なくとも現時点で、まだ僕たちは2つのバイクの開発が良い選択だと思っている。
Emondaの存在が選手に選択肢を与えられるし、一方でマッズ(ピーダスン)のような例もある。彼はバイクのスピードが向上するのならば多少の重量増ならば厭わない。そんな彼にはやはり(Emondaよりも)Madoneが最良の選択になるんだ。また、いま現在において技術面から言うと、MadoneとEmondaの2つは違ったライド体験を与えてくれるんだ。
スペシャライズドの(Tarmac)SL7はEmondaよりも重く、Madoneほど速くはない。もちろんSL7は良いバイクであるし、それは疑いようはない。だが、MadoneとEmondaの2つを分けることで、2つの目標に沿った最適化ができる。
実際に、僕らはカルフォルニアに新Madoneを持ち込み、4名のテストライダーに旧MadoneとEmondaと3モデルを乗り比べてもらった。その感触はとても良く、新Madoneは山岳ですら素晴らしい走りをしてくれた。登りであっても全員が新Madoneを選んだけれど、その理由はバイクの反応性の良さと、フレームの質の良さを感じ取ってくれたから。それは長い登りであっても同じだったんだ。平坦でもスピードにおいてその感覚の違いが明らかとなった。他2モデルと新Madoneの差は、軽さだけではなかったんだ。
―あなたも実際に新型Madoneを乗っていると思いますが、個人的なインプレッションをお伺いしたいです。
乗り心地もとてもスムーズで、僕自身何度も乗ってみてお気に入りのバイクになったよ。水曜日には本社スタッフで一緒に乗る「ランチライド(※編集部注:先頭グループはエリートアマチュアレベルの練習会)」があるんだけど、もう手放せないね(笑)。ありとあらゆる場所で、実際にメリットを感じている。
最初の数漕ぎでフレームの剛性や反応性などを感じ取れるし、30km/hに達する前にこのバイクがとても速いということが分かる。40〜45km/hに達すれば、あるいは下りで70〜80km/hまで出した時や、向かい風の時には空力性能を体感できる。とても不思議な感覚に陥るんだ。
トレック・ジャパンによる日本導入第一号の組み立て動画
―ありがとうございました。最後に、発売を待ち侘びている、あるいは既に納車を待ち侘びている日本のユーザーや、トレックファン、あるいは将来のトレックファンに向けてメッセージをお願いします。
新しいMadoneを日本に紹介できることにワクワクしている。既にかなりの時間をこのMadoneに乗っているけれど、このバイクに跨ったときに得られるのは純粋なスピード。乗ればいつでも「ただ速く走りたい」という気持ちにさせられる。この体験を(日本の)ライダーと共有し、同じファーストインプレッションを得ることに興奮を隠せない。
素晴らしいデザイナーが手掛けてくれたこのバイクは、我々にとってフルパッケージ(速さと見た目など全てを兼ね揃えた)のバイクだ。そんなバイクを世に送り出すことができ、そしてより多くのライダーがこれに乗り、自らで試すことができる。その事実に僕は本当にワクワクしているよ。
プロダクトディレクターに聞く新型Madone
「最優先は軽量化。しかし快適性も担保しなければならなかった」
「我々開発チームはプロチームからのフィードバックに常に耳を傾けている。僕たちには男女2つのチームがあって、1年を通して彼ら彼女たちと対話を続けているんだ。Emonda、Domane、そしてMadoneに対してどんな改善が欲しいのかをね」。トレック本社と繋いだオンラインインタビューで、ロード部門のディレクターを務めるジョーダン・ロージン氏はそう話を切り出した。
「皆が先代Madoneの乗り味が好きで、とても優れた空力性能を有していた。しかしより多くのレースで使ってもらうには重量がやや重かった。だからこそ、このプロジェクトの大きな目標は軽量化に定まったんだ」とも。
筆者がロージン氏にインタビューを行うのは、2019年にイタリアで行われたDomane発表会に続く合計3回目。誰もが驚いたシートチューブ形状「IsoFlow」のこと、新UCI規定がバイク設計に及ぼしたこと、トレック・セガフレードとの関係性、現在のロードバイクトレンドに対するトレックの考えなど、こちらの質問に対して真摯に答えてくれた。
ジョーダン・ロージン氏プロフィール
トレック本社でロードバイクとプロジェクトワンのディレクターを務める、本社スタッフ最速の男。大学時代にはエンジニアリングデザインを専攻し、2008年にトレック加入。2015年まではプロチームとの橋渡し役である「テクニカルディレクター」を務め、レーススタッフとして駆り出されたE3ハーレルベーケでは目の前でパンクしたファビアン・カンチェラーラのホイール交換中に他選手に突っ込まれ、顔面骨折で救急車搬送された逸話を持つ。
―プロ選手たちからのリクエストはどのようなものだったのでしょう?
速いという高評価を前提として、彼らはまず軽量化を第一にしつつ、快適性も重要だと主張したんだ。彼らは快適性を求めるテクノロジーに厚い信頼を寄せてくれているし、実際IsoSpeedについては重量増を打ち消す快適性がある、と彼らは言ってくれていた。
彼らは石畳のあるステージでもレースができるほど快適性の高いバイクを求めていたけれど、同時に軽量化も望んでいた。Madoneの本質的なアドバンテージを保ったまま、快適性と可能な限りの軽量化をする。それは非常に大きなチャレンジだったよ。
―IsoFlowを筆頭に、とても特徴的なフォルムですが、これは機能とデザインと、どちらを優先したものなのでしょうか?
デザイナーとエンジニアチームの両方から生まれた形ということができる。また今回のMadoneが興味深いのは、全体的な形とIsoFlowのベースがインダストリアルデザインチームから現れた点にある。ジョン・ラッセル(トレックのシニアインダストリアルデザイナー)がもっと効率の良くダイナミックな構造を求めた結果なんだ。その形がエンジニア部門に持ち込まれた。
それが実際にエアロダイナミクスと構造としての効率性をもたらし、更に快適性も与えてくれたんだ。つまりデザインチームとエンジニアチームが1つに統合した結果と言うことができる。インダストリアルデザインによってコンセプトが形作られ、エンジニア部門がMadoneをCFDやFEMAにかけることでさらに洗練させ、あらゆるメリットを見出すことができた。
ーMadoneはトレックワールド・ジャパンでも披露されたコンセプトバイクにも通ずるルックスだと感じました。あの時の未来が今やってきたような印象を受けました。
興味深いことに、あのコンセプトバイクもジョン・ラッセルがデザインを担当しているんだ。だから両方の共通点を見出したのかもしれないね(笑)。
―今回のMadoneを完成させるにあたって、どれだけの期間が費やされたのでしょうか?
IsoFlowなどのコンセプトが定まってから製品としてローンチするまでに、途中プロトタイプのフレーム製造などを含めておおよそ3年かかっている。現行の形になる前のバージョンに修正を加え、コンピュータ上だけではなく、軽さと走りの良さの妥当性を確かめたんだ。ユニークな形であるからこそ、このコンセプト(形)の妥当性を確かめる必要があったんだ。
―カーボン素材そのものの見直しは行っているのでしょうか?
OCLV800カーボンを使っている点は先代と同じ。ただしラミネート(積層)は1世代前のEmondaからアップデートしたものだ。以前のMadoneをローンチした際にOCLV700から800への変更で軽量化することができた。今回は素材というよりも、フレーム形状を最優先にし、細かいレイアップで走行感の向上に努めたんだ。
―UCIによる規定の緩和は新しいフレームデザインに影響を与えたのでしょうか
もちろんその規則変更は反映されているよ。IsoFlowがこのような形になった1つの理由として、シートチューブに形状変更を加えることができたからだ。それ以外の部分はUCI規則に沿ってエアロダイナミクスを最大化させる観点で設計されている。
例えば、ボトムブラケットはエアロダイナミクスの観点からデザインされ、非常に大きくなった。UCIはフレームのクロスセクション(接合部)のカバー範囲規則を緩めたが、これまで我々が作ったバイクでは手つかずだった。だが、そこに「シェルフ」を作り、ドリンクボトルで空間を埋める方法を思いついた。そうすることでかなりの空力性能を得ることができたんだ。それによって横剛性とねじれ剛性に優れ、ペダリング効率が向上するというメリットにも繋がった。
―コクピットもかなり特徴的なフォルムですが、これもUCI規則緩和の影響があるのでしょうか?
この部分に関してはUCI規則はあまり関係ないんだ。ジオメトリーの大部分は人間工学や改定前の規則に則って開発されている。レースにおけるポジショントレンドをもとに、ハンドル幅やブレーキレバーを内側に倒したスタイルをCFDと風洞実験で試しているんだ。特に腕を締めた「ナローポジション」の実験結果は重視されているよ。
―バイクにライダーが乗った状態でCFDと風洞実験を行ったことについてプレゼンテーションで強調されていました。ライダーとバイクの一体化はこの先広がっていくのでしょうか?
間違いなく広がっていくし、我々としては標準的に設計に落とし込みたいと思っている。その理由は今回の実験で得られた多大な成果にある。それはエアロダイナミクス的に適切とされるポジションを定義することができたということ。ライダーのポジショニングが空力性能に多大な影響を与えるというもの自体にはそれほどの驚きはないだろう?しかし、今回は人間工学的な観点をバイクの開発に取り入れたんだ。
バイクを空力的に最適化させ、ライダーに良いポジションを取らせることで、全体的にバイクを速く進ませることが可能になる。それは速さを最優先にするMadoneで既に取り入れていることであり、このプロセスは次プロジェクトにも引き継がれていくものだと思っている。
実際に現行UCI規則の中で作られるバイクとしては、これがプロトン最速なんだ。少なくとも競合他社(のバイク)を測定した結果ではね。だからこそまだまだ(エアロダイナミクスの開発による)余地はあると思うし、それはライダーのポジショニングについても同様のことがいえる。でも、最速のバイクを作ることだけではなく、ライダーのニーズに耳を傾け、理解することに重きを置いて開発したいんだ。
―あなたは常にエアロロードバイクには一定の快適性が必要だと話してきました。IsoSpeedを取り入れた当時のことついて、今現在どう思っているか、教えてください。
当時MadoneにIsoSpeedを取り入れた理由は、1日中レースができる快適性をもたせるため。IsoSpeed無しだったら乗り心地が悪くなり、プロもアマチュアレーサーも乗りたがらなかっただろう。今考えても自然な解決策だった。
調整機構付きのIsoSpeedをリリースしてみてわかったことは、多くのライダーが調整機能を使わなかったということ。彼らにとって調整機能はそれほど大きなメリットではなく、多くがそのままにしてしまっていた。我々は当時、ライダーによって調整できることは、斬新かつ多大なメリットあることだと思っていたのだけれど(笑)。
そこでIsoFlowというコンセプトを考案し、軽量化しつつ十分な快適性を維持できるようにした。だからこそ(IsoFlowに至るまでの)過程で、2度(MadoneにIsoSpeedを取り入れたという)の反復は、快適性の技術のアップデートに必要なプロセスだったという確信がある。
今回はただ、その快適性の技術が進化し、同じ課題に対して新たな解決策を見出しただけ。それが偶然にも軽量化に繋がり、それはMadoneを開発する上でのもう1つの主たるモチベーションとなった。以前のMadoneにIsoSpeedを搭載したことを後悔しているわけではない。より良い解決策を見つけただけなんだ。
―新しいMadoneはパリ〜ルーベのファーストチョイスとなり得ますか?
おもしろい質問だね。昨年のルーベは多くの選手は未発表の新しいDomaneを選択した。しかし、石畳区間が登場した今年のツール第5ステージでは、ほとんどの選手がMadoneを選択したんだ。それについて選手やメカニックが石畳でのMadoneの走りの良さに驚いていたんだ。
ツールの石畳ステージとパリ〜ルーベの違いは石畳区間の距離。パリ〜ルーベは約2倍長い距離がある。一方でツールではあのステージだけと、それら2つは別の側面がある。しかしチームはその両方のレースで新しいMadoneを試すつもりだと思う。おそらくこの夏の終わりか、秋に、ベストな解決策を探すテストを行うだろう。
しかし僕らは選手たちが来年のパリ〜ルーベでDomaneを選んだとしても驚かない。なぜなら、特に女子チームはここ2年、Domaneで良い成績を残しているからね。石畳のため開発されたDomaneを、彼女たちはライバルに対して大きなアドバンテージだと思っている。
男子と女子チームはそれぞれMadoneとEmonda、Domaneに違うサイズのタイヤと空気圧でテストライドが可能な状況にある。特に女子チームはルーベで2年しか走っていないこともあって、経験という面では乏しかった。また彼女たちは身体が小さく、70〜80kgの男子と比べてると全然違うんだ。だから男子と同じ選択のプロセスを経て、最適な方を選ぶことになるだろう。これは一般ライダーにとっても有益な情報になると思う。
―自転車界の流れとして、例えばスペシャライズドのTarmacのように、軽量バイクとエアロロードの統合がなされています。トレックとしてこの流れをどう見ていますか?
そうだね。僕たちはMadoneとEmonda、双方の需要をライダーから掬い取っている。それをテクノロジーと実現の可能性を考慮しながら開発を進めるんだ。特に超軽量バイクとエアロダイナミクスに優れたバイクについては、必ず妥協点が必要とされる。
Madoneより速く、Emondaより軽いバイクなんて誰にも作ることはできない。少なくともエンジニアリングの観点からは不可能なんだ。だからといって将来的にそれが不可能というわけではない。我々は常に改善点を探し、進化させようと努力している。
将来的に超軽量バイクと超エアロロードの2つが十分に差別化されるのか、あるいはこの2つが統合してしまうのか。少なくとも現時点で、まだ僕たちは2つのバイクの開発が良い選択だと思っている。
Emondaの存在が選手に選択肢を与えられるし、一方でマッズ(ピーダスン)のような例もある。彼はバイクのスピードが向上するのならば多少の重量増ならば厭わない。そんな彼にはやはり(Emondaよりも)Madoneが最良の選択になるんだ。また、いま現在において技術面から言うと、MadoneとEmondaの2つは違ったライド体験を与えてくれるんだ。
スペシャライズドの(Tarmac)SL7はEmondaよりも重く、Madoneほど速くはない。もちろんSL7は良いバイクであるし、それは疑いようはない。だが、MadoneとEmondaの2つを分けることで、2つの目標に沿った最適化ができる。
実際に、僕らはカルフォルニアに新Madoneを持ち込み、4名のテストライダーに旧MadoneとEmondaと3モデルを乗り比べてもらった。その感触はとても良く、新Madoneは山岳ですら素晴らしい走りをしてくれた。登りであっても全員が新Madoneを選んだけれど、その理由はバイクの反応性の良さと、フレームの質の良さを感じ取ってくれたから。それは長い登りであっても同じだったんだ。平坦でもスピードにおいてその感覚の違いが明らかとなった。他2モデルと新Madoneの差は、軽さだけではなかったんだ。
―あなたも実際に新型Madoneを乗っていると思いますが、個人的なインプレッションをお伺いしたいです。
乗り心地もとてもスムーズで、僕自身何度も乗ってみてお気に入りのバイクになったよ。水曜日には本社スタッフで一緒に乗る「ランチライド(※編集部注:先頭グループはエリートアマチュアレベルの練習会)」があるんだけど、もう手放せないね(笑)。ありとあらゆる場所で、実際にメリットを感じている。
最初の数漕ぎでフレームの剛性や反応性などを感じ取れるし、30km/hに達する前にこのバイクがとても速いということが分かる。40〜45km/hに達すれば、あるいは下りで70〜80km/hまで出した時や、向かい風の時には空力性能を体感できる。とても不思議な感覚に陥るんだ。
トレック・ジャパンによる日本導入第一号の組み立て動画
―ありがとうございました。最後に、発売を待ち侘びている、あるいは既に納車を待ち侘びている日本のユーザーや、トレックファン、あるいは将来のトレックファンに向けてメッセージをお願いします。
新しいMadoneを日本に紹介できることにワクワクしている。既にかなりの時間をこのMadoneに乗っているけれど、このバイクに跨ったときに得られるのは純粋なスピード。乗ればいつでも「ただ速く走りたい」という気持ちにさせられる。この体験を(日本の)ライダーと共有し、同じファーストインプレッションを得ることに興奮を隠せない。
素晴らしいデザイナーが手掛けてくれたこのバイクは、我々にとってフルパッケージ(速さと見た目など全てを兼ね揃えた)のバイクだ。そんなバイクを世に送り出すことができ、そしてより多くのライダーがこれに乗り、自らで試すことができる。その事実に僕は本当にワクワクしているよ。
interview:So Isobe / 提供:トレック・ジャパン