2022/07/02(土) - 15:34
「コーナーを攻めるプロ選手こそ尖った断面形状が良いと思っていましたが、実はそれは違っていた。これは全てをやり直す必要があるぞ、と思い改めさせられました。」と、AGILESTの企画開発に携わった高橋諭氏は言う。開発陣、そして選手たちの言葉でAGILESTの開発ストーリーを追いかける。
青から紫へ。AGILESTはパナレーサーが2021年2月にコーポレートカラーを変え、そのイメージをガラリと変えて以降初めてリリースされた新プロダクトだ。その数年前からモデルチェンジを推し進めてきた開発陣にとって、それはたまたまだったとはいえ、妥協なきタイヤに仕上げるべくより一層奮い立ったという。
「RACE EVO4発表以降、すぐにいろいろなライバルメーカーが新作をリリースしました。その中でシェアも実際下降気味でしたし、バイクの進化や、ユーザーのライディングスタイルの多様化もありました。このままではマズい、という危機感があったんです」と、製品方針を主導した高橋氏は振り返る。
「ですからコンパウンドも、タイヤの形状も、内部の構造も全て一から見直し、AGILESTに落とし込みました。それがパッケージにも記載されている、"ロード再定義"なんです」。
2010年から同社のロードバイクタイヤの屋台骨を担ってきたRACE EVOシリーズから脱却し、およそ3年間の開発期間を経てデビューしたAGILEST。チームが新型タイヤに求めたこと、それを受けて開発陣が何を思い、どう動いたのか。宇都宮ブリッツェンの阿部嵩之と小野寺玲両選手、そしてパナレーサーの高橋諭・三上勇輝両氏を招いたトークセッションの模様を通して紐解いていきたい。
三上氏:私もテスターになって、ひたすら規定ワットでさまざまなテストコースを淡々と走り続けましたね。もうやりたくありませんが...(笑)。そもそもラウンド形状は、前作のEVO4 Cに採用していたんです。ブリッツェンにお邪魔した時、多くの選手がCを練習用タイヤにしていたので少し意外だったんですよ。オールコンタクトじゃないんだ、と。それを見て、ラウンド形状が次世代タイヤの候補になりました。
高橋氏:もちろんオールコンタクトトレッドシェイプも悪いわけじゃなくて、コーナリング時にあの尖った形状がすごく効くんです。ただし挙動変化も含めて全体を総じてみると、ラウンド形状の方が扱いやすいのは事実でした。そこでコンパウンドを改良してグリップ力を底上げし、コーナリング中もオールコンタクトに負けないグリップ力を確保することができた。ここがラウンド形状に最終的なゴーサインがかかった肝要だったんです。
こうして断面形状の採用が決まり、そこからは我々の弱点だった転がり抵抗値の低減を目指しました。これまでの主力だった「A」は、耐パンク性能を重要視した、どちらかと言えば「D」寄りの性格だったんです。ただしそれゆえに転がり性能は良くなかったので、耐パンクブレーカーの幅や厚みなど、それこそ何十本もサンプルを作り、様々な角度から検証を続けました。
CW:チーム側からのリクエストはどのようなものだったのでしょう?
阿部:いっぱい言いましたね(笑)。先ほども言いました(※Vol.2参照)が、ディスクブレーキバイクに乗り換えたことでブレーキングでの不安定感に気付きました。
小野寺:僕はウェット時のグリップ力と、登りでの走りの軽さが一番の希望でした。クリンチャータイヤは、扱いやすくて耐久性があることがとにかく大事だと思っていますから。
高橋氏:EVO4の時点でそれまでEVO3の弱点だった耐パンク性能は改善できていましたが、それも含めてアップデート。アジリストにEVO4のロゴを貼ったもの、ノーロゴのもの。チームには次々とプロトタイプを送り改善に努めました。
阿部:プロトモデルを送ってもらう中で徐々に完成度が上がっていくのも体感していました。空気圧を上げてもしなやかさが残るようになったことも、とても気に入りましたね。
高橋氏:それは心掛けた部分です。EVO4はケーシングの剛性感があるが故にが高いが故に乗り心地が硬く、空気圧を落として乗るユーザーが多いということもリサーチで分かりました。空気圧を上げてもしなやかかつグリップするように。
CW:開発における最難関部分はどこにあったのでしょうか?
高橋氏:バランス、ですね。例えば転がり抵抗値とグリップ、軽さと耐パンク性能など、タイヤは相反する要素の塊ですので、どこまで突き詰められるのかが本当に難しかった。「ここをいじればこうなるだろう」と思っても実際はそうならなかったりする部分も多いですし。最適なバランスは、理想に近づけば近づくほど難しくなるんです。
三上氏:我々としてはEvo4の全てを変えようとしたからこそ、それができたように思います。マイナーチェンジでは無理な範囲でした。コンパウンドも、耐パンクベルトも、そしてトレッド断面形状まで全て見直しましたから。当初はEvo5と呼んでいたんですが、開発を進めるにあたって「これは名前すら違くなるぞ」と。
高橋氏:改めてタイヤに対する意見を吸い上げると、本当にたくさんの要素があってタイヤ1種類だけでは収まらないんです。だから用途に合わせて複数種類をラインナップしているんです。
小野寺:ここまで同じシリーズで選択肢があるタイヤも他にはありませんし、ユーザー目線で見ればありがたいことですね。それに価格も大丈夫なの?と思えるほど安いですし。
高橋氏:そこは国内メーカーの強み。燃料費や原材料費も上がっていますが、流通コストが抑えられるので、企業努力に努めました。タイヤはあくまでも消耗品ですし、できる限り安い方がいい。入手性、つまり手に取りやすい価格であることも大事だと思います。
三上氏:チューブレスレディはホイールとの嵌め合わせ、そしてマウント性を良くすることを重要視していまして、努力しました。主要メーカーのホイールはほぼ全てテストしていますし、これもテスト中は我々の手や指の皮をどれだけ犠牲にしたことか(笑)。もっとホイールメーカーが厳密な共通スペックを決めてくれれば、将来的にシーラント不要の「本当の意味でのチューブレスタイヤ」が生まれるはずと信じています。
CW:なるほど。ありがとうございました。最後に開発者として、AGILESTに対する自信のほどを聞かせてください。
高橋氏:自信ですか?ありますよ(笑)。今ある技術と材料の全てを投入して作り上げた製品ですからね。全体を通してグリップ力は最高レベルですし、DUROは重量を犠牲にしてトレッドゴムの厚みを上げる以外にこれ以上耐パンク性能を上げる要素が思いつかない。各要素においての要求を満たす、最上級のタイヤができたかな、と思います。
「妥協を一切除いたタイヤを作るために」
青から紫へ。AGILESTはパナレーサーが2021年2月にコーポレートカラーを変え、そのイメージをガラリと変えて以降初めてリリースされた新プロダクトだ。その数年前からモデルチェンジを推し進めてきた開発陣にとって、それはたまたまだったとはいえ、妥協なきタイヤに仕上げるべくより一層奮い立ったという。
「RACE EVO4発表以降、すぐにいろいろなライバルメーカーが新作をリリースしました。その中でシェアも実際下降気味でしたし、バイクの進化や、ユーザーのライディングスタイルの多様化もありました。このままではマズい、という危機感があったんです」と、製品方針を主導した高橋氏は振り返る。
「ですからコンパウンドも、タイヤの形状も、内部の構造も全て一から見直し、AGILESTに落とし込みました。それがパッケージにも記載されている、"ロード再定義"なんです」。
2010年から同社のロードバイクタイヤの屋台骨を担ってきたRACE EVOシリーズから脱却し、およそ3年間の開発期間を経てデビューしたAGILEST。チームが新型タイヤに求めたこと、それを受けて開発陣が何を思い、どう動いたのか。宇都宮ブリッツェンの阿部嵩之と小野寺玲両選手、そしてパナレーサーの高橋諭・三上勇輝両氏を招いたトークセッションの模様を通して紐解いていきたい。
「RACE EVOと言えば尖った断面形状だったけれど...」
高橋氏:入社した当初からRACE EVOはオールコンタクトトレッドシェイプ(尖った断面形状)でしたし、プロこそ尖った形状が良いんだと思っていました。でもチームが求めるのはラウンド形状。あれれ、これはその前提から変えないといけないぞ、と。コーナーやグリップに関しては尖った形状の方が良い。でも、扱いやすさやコントロールの面で言えばラウンド形状。これを踏まえ、何をどうすれば性能が上がるのか、もしくは下がるのかという実走・機械試験を繰り返しました。三上氏:私もテスターになって、ひたすら規定ワットでさまざまなテストコースを淡々と走り続けましたね。もうやりたくありませんが...(笑)。そもそもラウンド形状は、前作のEVO4 Cに採用していたんです。ブリッツェンにお邪魔した時、多くの選手がCを練習用タイヤにしていたので少し意外だったんですよ。オールコンタクトじゃないんだ、と。それを見て、ラウンド形状が次世代タイヤの候補になりました。
高橋氏:もちろんオールコンタクトトレッドシェイプも悪いわけじゃなくて、コーナリング時にあの尖った形状がすごく効くんです。ただし挙動変化も含めて全体を総じてみると、ラウンド形状の方が扱いやすいのは事実でした。そこでコンパウンドを改良してグリップ力を底上げし、コーナリング中もオールコンタクトに負けないグリップ力を確保することができた。ここがラウンド形状に最終的なゴーサインがかかった肝要だったんです。
こうして断面形状の採用が決まり、そこからは我々の弱点だった転がり抵抗値の低減を目指しました。これまでの主力だった「A」は、耐パンク性能を重要視した、どちらかと言えば「D」寄りの性格だったんです。ただしそれゆえに転がり性能は良くなかったので、耐パンクブレーカーの幅や厚みなど、それこそ何十本もサンプルを作り、様々な角度から検証を続けました。
「プロトモデルを試すたびに完成度が上がっていた」
CW:チーム側からのリクエストはどのようなものだったのでしょう?
阿部:いっぱい言いましたね(笑)。先ほども言いました(※Vol.2参照)が、ディスクブレーキバイクに乗り換えたことでブレーキングでの不安定感に気付きました。
小野寺:僕はウェット時のグリップ力と、登りでの走りの軽さが一番の希望でした。クリンチャータイヤは、扱いやすくて耐久性があることがとにかく大事だと思っていますから。
高橋氏:EVO4の時点でそれまでEVO3の弱点だった耐パンク性能は改善できていましたが、それも含めてアップデート。アジリストにEVO4のロゴを貼ったもの、ノーロゴのもの。チームには次々とプロトタイプを送り改善に努めました。
阿部:プロトモデルを送ってもらう中で徐々に完成度が上がっていくのも体感していました。空気圧を上げてもしなやかさが残るようになったことも、とても気に入りましたね。
高橋氏:それは心掛けた部分です。EVO4はケーシングの剛性感があるが故にが高いが故に乗り心地が硬く、空気圧を落として乗るユーザーが多いということもリサーチで分かりました。空気圧を上げてもしなやかかつグリップするように。
「性能バランスを突き詰める難しさ」
CW:開発における最難関部分はどこにあったのでしょうか?
高橋氏:バランス、ですね。例えば転がり抵抗値とグリップ、軽さと耐パンク性能など、タイヤは相反する要素の塊ですので、どこまで突き詰められるのかが本当に難しかった。「ここをいじればこうなるだろう」と思っても実際はそうならなかったりする部分も多いですし。最適なバランスは、理想に近づけば近づくほど難しくなるんです。
三上氏:我々としてはEvo4の全てを変えようとしたからこそ、それができたように思います。マイナーチェンジでは無理な範囲でした。コンパウンドも、耐パンクベルトも、そしてトレッド断面形状まで全て見直しましたから。当初はEvo5と呼んでいたんですが、開発を進めるにあたって「これは名前すら違くなるぞ」と。
高橋氏:改めてタイヤに対する意見を吸い上げると、本当にたくさんの要素があってタイヤ1種類だけでは収まらないんです。だから用途に合わせて複数種類をラインナップしているんです。
小野寺:ここまで同じシリーズで選択肢があるタイヤも他にはありませんし、ユーザー目線で見ればありがたいことですね。それに価格も大丈夫なの?と思えるほど安いですし。
高橋氏:そこは国内メーカーの強み。燃料費や原材料費も上がっていますが、流通コストが抑えられるので、企業努力に努めました。タイヤはあくまでも消耗品ですし、できる限り安い方がいい。入手性、つまり手に取りやすい価格であることも大事だと思います。
「最上級のタイヤを作り出すことができた」
三上氏:チューブレスレディはホイールとの嵌め合わせ、そしてマウント性を良くすることを重要視していまして、努力しました。主要メーカーのホイールはほぼ全てテストしていますし、これもテスト中は我々の手や指の皮をどれだけ犠牲にしたことか(笑)。もっとホイールメーカーが厳密な共通スペックを決めてくれれば、将来的にシーラント不要の「本当の意味でのチューブレスタイヤ」が生まれるはずと信じています。
CW:なるほど。ありがとうございました。最後に開発者として、AGILESTに対する自信のほどを聞かせてください。
高橋氏:自信ですか?ありますよ(笑)。今ある技術と材料の全てを投入して作り上げた製品ですからね。全体を通してグリップ力は最高レベルですし、DUROは重量を犠牲にしてトレッドゴムの厚みを上げる以外にこれ以上耐パンク性能を上げる要素が思いつかない。各要素においての要求を満たす、最上級のタイヤができたかな、と思います。
提供:パナーレーサー/制作:シクロワイアード編集部