2021/07/26(月) - 11:09
オリンピックの影響を受けて1週早く開幕したツール・ド・フランス のプロトンはシャンゼリゼに凱旋した。選手たちは次なる目標に向けてそれぞれの歩みを進めている。特集の第3弾ではPROやレイザー、シューズといった機材に注目したい。
現在プロ選手の機材で重視されているのがエアロダイナミクスだ。フレームブランドはあの手この手を使い、少しでも空気抵抗削減を目指し日々開発に没頭している。その結果、ロードレーサーでエアロダイナミクスを得ようとする場合、ブレーキやシフトケーブルを露出させないことが一つの答えとなっている。
そのトレンドを後押ししているのが、電動変速/油圧ディスクブレーキのコンポーネンツだ。ワイヤーで動かす機械式ではセッティング次第でワイヤーの摺動抵抗を受けるため、安易にフル内装を目指してしまうと操作感がリニアではなくなる。そこで電動変速や摺動抵抗、ケーブルルーティングに制限がない油圧ディスクブレーキが用いられるのだ。
フル内装を目指した結果としてフレームブランドはヘッドセットの設計まで自分たちで行い、専用ステムやハンドルを用意する。一方で、PROの機材を使うシマノグローバルサポートチームの中には、専用品ではなくPROのハンドルとステムを工夫して使用する選手もいる。
ボーラ・ハンスグローエは使い方が各選手それぞれで面白い。ダニエル・オスはVIBEスプリントステムを愛用し続ける選手で、パトリック・コンラッドやウィルコ・ケルデルマンはSTEALTH EVO(ハンドル・ステム一体型)を使用している。彼らが使用する自転車も専用ステムに合わせてコラムスペーサーが開発されているが、選手たちはPROの製品に合わせたスペーサーを使っている。
同じフレームを使用するドゥクーニンク・クイックステップはステムを専用品に統一しながら、ハンドルの選択は自由に行われているようだ。ジュリアン・アラフィリップはエアロ形状ではない通常のVIBEを使っており、カスパー・アスグリーンやダヴィデ・バレッリーニ、ティム・デクレルクらもPROのVIBEエアロシリーズを愛用しているようだ。
バイク側の要請も大いに影響しているが、この2チームはステム下にケーブルを這わせ、ヘッドパーツから内装化を果たし、空気抵抗を削減している。
グルパマFDJもメインバイクのモデルチェンジに伴い専用品化が進んでいるが、ヴァランタン・マデュアスのみ旧型の自転車を使うステージもあり、そのバイクにはPROのステム・ハンドル・シートポストが装着されていた。ステムはVIBEだが、通常ラインアップにはない135mmというプロ仕様だ。
PROのサドルはチームDSMで採用されており、エーススプリンターであるケース・ボルはショートノーズのSTEALTHを使い、ヨリス・ニューエンハウスはTARNIXを使用しているようだ。スプリントとその前のリードアウトでのポジション取りを重要視するボルがショートノーズを使うのは、低い前傾姿勢かつ前乗りでペダリングすることで、パワーをかけやすくするため。サドルひとつとってもプロ選手がどのような走りを実現しようとしているのかを想像することができる。
昨年から多くの選手が新型RC9を使っていたユンボ・ヴィスマは引き続き多くの選手が新型を着用している。特に今年はエースとした参戦したプリモシュ・ログリッチも新型の着用者としてツールに挑んでいた。昨年から着用していたワウト・ファンアールトはもちろん新型だが、オリジナルペイントを施した特別仕様のRC9を愛用していた。
他にもファンアールトとは若手の頃からシクロクロスで競い合ってきたマチュー・ファンデルプールを筆頭とするアルペシン・フェニックスや、チームDSMは多くの選手が新型RC9を選んでいるようだ。
「マージナルゲイン」としてレースで勝つための小さな積み重ねを重視するイネオス・グレナディアーズ、そしてバイクエクスチェンジはシューズに関しては選手の好みで選んでいるようだ。各社のシューズが入り乱れる中、ヨナタン・カストロビエホやマイケル・マシューズは新型RC9をチョイス。
シューズに関わらず主要選手がどのクリートを使っているのか、写真で判断がつく限りまとめてみた。選手の足元は好みが色濃く反映されているため、注目してみると面白いだろう。
シマノ傘下のブランドであるレイザーにも注目してみたい。今シーズンはユンボ・ヴィスマのみが着用したが、その存在感の強さはいまだ健在。選手たちが使うのはもちろんGENESISとBULLET 2.0、そしてTT用のVOLANTEだ。
各ヘルメットに大きな変更点はないが、今までBULLET 2.0のみに記載されていた選手名がGENESISにも記されている。小さな変化であり、小さなレタリングであるもののヘルメットで選手を見分けられるのはオーディエンスとしても有り難い限りだ。
また、今年は様々なデザインのヘルメットが用意されている。ベルギーチャンピオンのファンアールトは国旗カラーに塗り分けられたものを標準で着用しており、チーム総合首位の時は全員が真っ黄色(通常は黒と白の差し色が入る)のヘルメットを着用していた。そして、新人賞ジャージを着用していたヴィンゲゴーのために急遽白色のヘルメットも供給され、途中からマイヨブランに合わせたGENESISを使用した。
昨年のツールで発表されたタイムトライアル用VOLANTEは今年は2度も登場する機会を得た。レイザーはベルギーの自転車産業が集まるフランダースバイクバレーにある風洞実験施設でヘルメットの空力開発を行っており、VOLANTEももちろんそこで生み出されたモデル。
VOLANTEはWASP AIRよりもショートテールで、VICTORよりもシャープな後端部に設計されていることが特徴。顔が前方に向いている時はテールが背中と連なるようなデザインで、顔が若干下を向いていてもテールが前方投影面積を増加させない絶妙な長さとなっている。
数年前から比較するとTT世界王者になったこともあるトニ・マルティン、現欧州王者のシュテファン・キュングらは、顔の目の前に手を置き、拝むようなポジションに変更されている。タイムトライアルのポジション研究が進んだこともVOLANTEの形状設計に影響を与えていそうだ。
ツール・ド・フランスはついに第3週を迎えた。総合の有力どころが軒並みノックアウトされていき、気がつけば1強状態に。それでも総合2位以下はタイム差が小さく有力選手がひしめき合っており、第3週も総合順位への意欲は消されることなく、総合・山岳賞・ポイント賞・ステージ優勝、それぞれの思惑が交錯し、プロトンはシャンゼリゼへ向けて歩みを進めた。
休息日明けから3日間連続でピレネーの山岳地帯を駆け巡る日々がやってくる。第16ステージは2級、1級、2級、4級を越えてからフィニッシュのサン=ゴーダンスへと向かう設定で、ピュアなクライマーよりはパンチャー向けな1日。最初の2級山岳を越えたところで、3名が抜け出し、それを追走する形で生まれた11名のグループが生まれ、この日のステージ争いは前方にいる選手たちに委ねられた。
続く1級山岳に差し掛かると追走集団からパトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)が単独で飛び出し、先頭の3名にジョイン。追走集団は先頭との差を詰めきれず、レースは進んでいく。その後の2級山岳でコンラッドは再びアタックを繰り出し単独でフィニッシュへと突き進み始めた。後続もコンラッドを捉えるべく、アタックが繰り返されるが、ついにコンラッドに追いつくことはなかった。
36kmを一人で走りきり、ステージ優勝を手にしたコンラッド。今大会で逃げきり優勝が決まっている第7ステージ、第14ステージでエスケープしていたが勝利に至るまでいかず、第16ステージが3度目の正直だった。
翌第17ステージは後半60kmに詰め込まれた2つの1級山岳をクリアし、超級山岳サンラリ=スラン/ポルテ峠の山頂にフィニッシュする難関山岳コース。レースはピュアクライマー達のもので、序盤に逃げた選手達は最終の超級山岳で4分先行するものの、各チームのエース達で構成されるメイン集団に飲み込まれた。
ステージ争いと総合争いが交錯するエース達の勝負となった先頭は、総合3位のヴィンゲゴーと総合4位のリチャル・カラパスが強さを見せた。勝利こそ得られなかったものの、新人賞対象選手でもあるヴィンゲゴーがここにきてエース級の力を持つことを証明している。
ツール・ド・フランス 2021年大会の山岳決戦は第18ステージで締めくくられる。序盤に4級山岳が2つあるが、本番は超級トゥールマレー峠、超級リュズ・アルディダン峠が待ち構えている後半だ。序盤はアラフィリップが逃げにブリッジを成功させる動きや、トゥールマレー峠でメイン集団からダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)らが飛び出すなど活発にレースが運ばれていった。
ゴデュは最後のリュズ・アルディダン峠の途中まで逃げ続けるもイネオス・グレナディアーズらの牽引によってペースアップしたメイン集団に飲み込まれる。このアグレッシブな走りが評価されゴデュは敢闘賞を獲得。非常に困難な戦いを強いられた山岳決戦は終了し、次世代の成長を目の当たりにした結果に終わった。早くも来年の山岳が楽しみだ。
第19ステージはマーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)のエディ・メルクス超えの数少ないチャンスである平坦ステージ。スタート地点にはメルクス氏も訪れ、カヴェンディッシュの記録更新への期待が膨らんだが、レースはそうは行かなかった。
カテゴリー山岳が一つもない平坦ステージながら、メイン集団は先頭6名、追走14名の先行を追いきれず許してしまう結果に。スプリンターチームであるドゥクーニンク・クイックステップはダヴィデ・バッレリーニ、アルペシン・フェニックスはシルヴァン・ディリエを逃げに送り込んでおり、彼らも追走の意欲を示さず、カヴェンディッシュの大記録への挑戦は最終日のシャンゼリゼに持ち越された。
第20ステージに用意されたのは今大会2度目の個人タイムトライアル。起伏のない平野で好走を見せたのはカスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)だ。欧州王者であるシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)をもってしてもタイムを上回ることができない好タイムをアスグリーンは叩き出した。
このタイムを上回るペースで中間計測を通過し、さらにペースをあげたワウト・ファンアールトがトップに躍り出る。第3週の数日間はTTに照準を合わせたというファンアールトのタイムは、総合上位にいるオールラウンダーたちでも超えることができず、今大会2勝目を果たした。
そして、プロトンはシャンゼリゼへ凱旋する。3週間の過酷なレースの最終日で世界中が固唾を飲んで見守ったのは、カヴェンディッシュによるツールのステージ通算35勝目が達成されるかどうか。シャンゼリゼの周回コースを高速で駆け抜けるマイヨヴェールの姿を誰もが目を離さなかった。
フラムルージュはドゥクーニンク・クイックステップのトレインが先頭で駆け抜けたものの歯車が噛み合わなかった。マイク・テウニッセン(ユンボ・ヴィスマ)のリードアウトからファンアールトが発射。その番手につけるカヴェンディッシュとジャスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス)を寄せ付けること無く、ファンアールトは最終ステージを制した。
カヴェンディッシュは大偉業達成ならず。しかし、昨シーズン終盤に契約がないと引退を匂わせ、ドゥクーニンク・クイックステップと契約するもののツールへの参戦も急遽決まったベテランの活躍を誰が予期しただろうか。世界王者と強力なリードアウトマンを揃えるウルフパック、そして稀代のベテランスプリンターの意地を今大会で見た。
そして、今大会で注目すべきはファンアールトだろう。プリモシュ・ログリッチの総合優勝を目指したユンボ・ヴィスマとしての目標達成は叶わなかったが、難関山岳ステージと個人タイムトライアル、集団スプリントステージを一つの大会で制するという快挙を成し遂げた。
総合と新人賞2位を獲得したヨナス・ヴィンゲゴーも忘れられない存在だ。彼もまたログリッチのアシストとしてツールに臨んだ一人で、途中から総合表彰台を目指すという役割を与えられ、それを見事に達成した。ステージ優勝に届くことは無かったものの、強力な登坂能力を持つことは世界中のロードレースファンが知ることとなった。ヴィンゲゴーを筆頭に若手が躍動した今大会。次世代の選手の活躍が期待される。
プロ選手の要望に応えるPRO製品
現在プロ選手の機材で重視されているのがエアロダイナミクスだ。フレームブランドはあの手この手を使い、少しでも空気抵抗削減を目指し日々開発に没頭している。その結果、ロードレーサーでエアロダイナミクスを得ようとする場合、ブレーキやシフトケーブルを露出させないことが一つの答えとなっている。
そのトレンドを後押ししているのが、電動変速/油圧ディスクブレーキのコンポーネンツだ。ワイヤーで動かす機械式ではセッティング次第でワイヤーの摺動抵抗を受けるため、安易にフル内装を目指してしまうと操作感がリニアではなくなる。そこで電動変速や摺動抵抗、ケーブルルーティングに制限がない油圧ディスクブレーキが用いられるのだ。
フル内装を目指した結果としてフレームブランドはヘッドセットの設計まで自分たちで行い、専用ステムやハンドルを用意する。一方で、PROの機材を使うシマノグローバルサポートチームの中には、専用品ではなくPROのハンドルとステムを工夫して使用する選手もいる。
ボーラ・ハンスグローエは使い方が各選手それぞれで面白い。ダニエル・オスはVIBEスプリントステムを愛用し続ける選手で、パトリック・コンラッドやウィルコ・ケルデルマンはSTEALTH EVO(ハンドル・ステム一体型)を使用している。彼らが使用する自転車も専用ステムに合わせてコラムスペーサーが開発されているが、選手たちはPROの製品に合わせたスペーサーを使っている。
同じフレームを使用するドゥクーニンク・クイックステップはステムを専用品に統一しながら、ハンドルの選択は自由に行われているようだ。ジュリアン・アラフィリップはエアロ形状ではない通常のVIBEを使っており、カスパー・アスグリーンやダヴィデ・バレッリーニ、ティム・デクレルクらもPROのVIBEエアロシリーズを愛用しているようだ。
バイク側の要請も大いに影響しているが、この2チームはステム下にケーブルを這わせ、ヘッドパーツから内装化を果たし、空気抵抗を削減している。
グルパマFDJもメインバイクのモデルチェンジに伴い専用品化が進んでいるが、ヴァランタン・マデュアスのみ旧型の自転車を使うステージもあり、そのバイクにはPROのステム・ハンドル・シートポストが装着されていた。ステムはVIBEだが、通常ラインアップにはない135mmというプロ仕様だ。
PROのサドルはチームDSMで採用されており、エーススプリンターであるケース・ボルはショートノーズのSTEALTHを使い、ヨリス・ニューエンハウスはTARNIXを使用しているようだ。スプリントとその前のリードアウトでのポジション取りを重要視するボルがショートノーズを使うのは、低い前傾姿勢かつ前乗りでペダリングすることで、パワーをかけやすくするため。サドルひとつとってもプロ選手がどのような走りを実現しようとしているのかを想像することができる。
愛用選手が増えているシマノのフラッグシップシューズ S-PHYRE RC9
ツール・ド・フランスで使用する選手が急上昇しているシマノ製品といえば、フラッグシップシューズであるS-PHYRE RC9(RC902)。昨年のツールでは発表のタイミングも相まって限られた選手のみがテスト使用するのに留まっていたが、今年はグローバルサポートか否かにかかわらず、多くの選手が新型を着用しているシーンが見られた。昨年から多くの選手が新型RC9を使っていたユンボ・ヴィスマは引き続き多くの選手が新型を着用している。特に今年はエースとした参戦したプリモシュ・ログリッチも新型の着用者としてツールに挑んでいた。昨年から着用していたワウト・ファンアールトはもちろん新型だが、オリジナルペイントを施した特別仕様のRC9を愛用していた。
他にもファンアールトとは若手の頃からシクロクロスで競い合ってきたマチュー・ファンデルプールを筆頭とするアルペシン・フェニックスや、チームDSMは多くの選手が新型RC9を選んでいるようだ。
「マージナルゲイン」としてレースで勝つための小さな積み重ねを重視するイネオス・グレナディアーズ、そしてバイクエクスチェンジはシューズに関しては選手の好みで選んでいるようだ。各社のシューズが入り乱れる中、ヨナタン・カストロビエホやマイケル・マシューズは新型RC9をチョイス。
シューズに関わらず主要選手がどのクリートを使っているのか、写真で判断がつく限りまとめてみた。選手の足元は好みが色濃く反映されているため、注目してみると面白いだろう。
黄色(6°) | クス、クライスヴァイク、トーマス |
青色(2°) | ログリッチ、ファンアールト、アラフィリップ、ポート、ファンデルプール |
赤色(固定) | ヴィンゲゴー 、マルティン、サイモン・イェーツ、マシューズ、カヴェンディッシュ |
ユンボ・ヴィスマの選手たちを守るヘルメットのレイザー
シマノ傘下のブランドであるレイザーにも注目してみたい。今シーズンはユンボ・ヴィスマのみが着用したが、その存在感の強さはいまだ健在。選手たちが使うのはもちろんGENESISとBULLET 2.0、そしてTT用のVOLANTEだ。
各ヘルメットに大きな変更点はないが、今までBULLET 2.0のみに記載されていた選手名がGENESISにも記されている。小さな変化であり、小さなレタリングであるもののヘルメットで選手を見分けられるのはオーディエンスとしても有り難い限りだ。
また、今年は様々なデザインのヘルメットが用意されている。ベルギーチャンピオンのファンアールトは国旗カラーに塗り分けられたものを標準で着用しており、チーム総合首位の時は全員が真っ黄色(通常は黒と白の差し色が入る)のヘルメットを着用していた。そして、新人賞ジャージを着用していたヴィンゲゴーのために急遽白色のヘルメットも供給され、途中からマイヨブランに合わせたGENESISを使用した。
昨年のツールで発表されたタイムトライアル用VOLANTEは今年は2度も登場する機会を得た。レイザーはベルギーの自転車産業が集まるフランダースバイクバレーにある風洞実験施設でヘルメットの空力開発を行っており、VOLANTEももちろんそこで生み出されたモデル。
VOLANTEはWASP AIRよりもショートテールで、VICTORよりもシャープな後端部に設計されていることが特徴。顔が前方に向いている時はテールが背中と連なるようなデザインで、顔が若干下を向いていてもテールが前方投影面積を増加させない絶妙な長さとなっている。
数年前から比較するとTT世界王者になったこともあるトニ・マルティン、現欧州王者のシュテファン・キュングらは、顔の目の前に手を置き、拝むようなポジションに変更されている。タイムトライアルのポジション研究が進んだこともVOLANTEの形状設計に影響を与えていそうだ。
カヴェンディッシュの偉業達成と次世代の強さが光る第3週
ツール・ド・フランスはついに第3週を迎えた。総合の有力どころが軒並みノックアウトされていき、気がつけば1強状態に。それでも総合2位以下はタイム差が小さく有力選手がひしめき合っており、第3週も総合順位への意欲は消されることなく、総合・山岳賞・ポイント賞・ステージ優勝、それぞれの思惑が交錯し、プロトンはシャンゼリゼへ向けて歩みを進めた。
休息日明けから3日間連続でピレネーの山岳地帯を駆け巡る日々がやってくる。第16ステージは2級、1級、2級、4級を越えてからフィニッシュのサン=ゴーダンスへと向かう設定で、ピュアなクライマーよりはパンチャー向けな1日。最初の2級山岳を越えたところで、3名が抜け出し、それを追走する形で生まれた11名のグループが生まれ、この日のステージ争いは前方にいる選手たちに委ねられた。
続く1級山岳に差し掛かると追走集団からパトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)が単独で飛び出し、先頭の3名にジョイン。追走集団は先頭との差を詰めきれず、レースは進んでいく。その後の2級山岳でコンラッドは再びアタックを繰り出し単独でフィニッシュへと突き進み始めた。後続もコンラッドを捉えるべく、アタックが繰り返されるが、ついにコンラッドに追いつくことはなかった。
36kmを一人で走りきり、ステージ優勝を手にしたコンラッド。今大会で逃げきり優勝が決まっている第7ステージ、第14ステージでエスケープしていたが勝利に至るまでいかず、第16ステージが3度目の正直だった。
翌第17ステージは後半60kmに詰め込まれた2つの1級山岳をクリアし、超級山岳サンラリ=スラン/ポルテ峠の山頂にフィニッシュする難関山岳コース。レースはピュアクライマー達のもので、序盤に逃げた選手達は最終の超級山岳で4分先行するものの、各チームのエース達で構成されるメイン集団に飲み込まれた。
ステージ争いと総合争いが交錯するエース達の勝負となった先頭は、総合3位のヴィンゲゴーと総合4位のリチャル・カラパスが強さを見せた。勝利こそ得られなかったものの、新人賞対象選手でもあるヴィンゲゴーがここにきてエース級の力を持つことを証明している。
ツール・ド・フランス 2021年大会の山岳決戦は第18ステージで締めくくられる。序盤に4級山岳が2つあるが、本番は超級トゥールマレー峠、超級リュズ・アルディダン峠が待ち構えている後半だ。序盤はアラフィリップが逃げにブリッジを成功させる動きや、トゥールマレー峠でメイン集団からダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)らが飛び出すなど活発にレースが運ばれていった。
ゴデュは最後のリュズ・アルディダン峠の途中まで逃げ続けるもイネオス・グレナディアーズらの牽引によってペースアップしたメイン集団に飲み込まれる。このアグレッシブな走りが評価されゴデュは敢闘賞を獲得。非常に困難な戦いを強いられた山岳決戦は終了し、次世代の成長を目の当たりにした結果に終わった。早くも来年の山岳が楽しみだ。
第19ステージはマーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)のエディ・メルクス超えの数少ないチャンスである平坦ステージ。スタート地点にはメルクス氏も訪れ、カヴェンディッシュの記録更新への期待が膨らんだが、レースはそうは行かなかった。
カテゴリー山岳が一つもない平坦ステージながら、メイン集団は先頭6名、追走14名の先行を追いきれず許してしまう結果に。スプリンターチームであるドゥクーニンク・クイックステップはダヴィデ・バッレリーニ、アルペシン・フェニックスはシルヴァン・ディリエを逃げに送り込んでおり、彼らも追走の意欲を示さず、カヴェンディッシュの大記録への挑戦は最終日のシャンゼリゼに持ち越された。
第20ステージに用意されたのは今大会2度目の個人タイムトライアル。起伏のない平野で好走を見せたのはカスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)だ。欧州王者であるシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)をもってしてもタイムを上回ることができない好タイムをアスグリーンは叩き出した。
このタイムを上回るペースで中間計測を通過し、さらにペースをあげたワウト・ファンアールトがトップに躍り出る。第3週の数日間はTTに照準を合わせたというファンアールトのタイムは、総合上位にいるオールラウンダーたちでも超えることができず、今大会2勝目を果たした。
そして、プロトンはシャンゼリゼへ凱旋する。3週間の過酷なレースの最終日で世界中が固唾を飲んで見守ったのは、カヴェンディッシュによるツールのステージ通算35勝目が達成されるかどうか。シャンゼリゼの周回コースを高速で駆け抜けるマイヨヴェールの姿を誰もが目を離さなかった。
フラムルージュはドゥクーニンク・クイックステップのトレインが先頭で駆け抜けたものの歯車が噛み合わなかった。マイク・テウニッセン(ユンボ・ヴィスマ)のリードアウトからファンアールトが発射。その番手につけるカヴェンディッシュとジャスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス)を寄せ付けること無く、ファンアールトは最終ステージを制した。
カヴェンディッシュは大偉業達成ならず。しかし、昨シーズン終盤に契約がないと引退を匂わせ、ドゥクーニンク・クイックステップと契約するもののツールへの参戦も急遽決まったベテランの活躍を誰が予期しただろうか。世界王者と強力なリードアウトマンを揃えるウルフパック、そして稀代のベテランスプリンターの意地を今大会で見た。
そして、今大会で注目すべきはファンアールトだろう。プリモシュ・ログリッチの総合優勝を目指したユンボ・ヴィスマとしての目標達成は叶わなかったが、難関山岳ステージと個人タイムトライアル、集団スプリントステージを一つの大会で制するという快挙を成し遂げた。
総合と新人賞2位を獲得したヨナス・ヴィンゲゴーも忘れられない存在だ。彼もまたログリッチのアシストとしてツールに臨んだ一人で、途中から総合表彰台を目指すという役割を与えられ、それを見事に達成した。ステージ優勝に届くことは無かったものの、強力な登坂能力を持つことは世界中のロードレースファンが知ることとなった。ヴィンゲゴーを筆頭に若手が躍動した今大会。次世代の選手の活躍が期待される。
ステージ:13勝
第1ステージ | ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
第2ステージ | マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) |
第3ステージ | ティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス) |
第4、6、10、13ステージ | マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
第11、20、21ステージ | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) |
第12ステージ | ニルス・ポリッツ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) |
第15ステージ | セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) |
第16ステージ | パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) |
マイヨジョーヌ:7日間
第1ステージ/1日 | ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
第2~7ステージ/6日間 | マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) |
マイヨヴェール:21日間
第1~3ステージ/3日間 | ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
第4~21ステージ/18日間 | マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
マイヨアポア:11日間
第1、3~6ステージ/5日間 | イーデ・スヘリンフ(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) |
第2ステージ/1日 | マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) |
第9ステージ/5日間 | ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック) |
敢闘賞:5回
第1ステージ | イーデ・スヘリンフ(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) |
第12ステージ | ニルス・ポリッツ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) |
第15ステージ | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) |
第16ステージ | パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) |
第18ステージ | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) |
提供:シマノセールス 制作:シクロワイアード編集部