2021/01/04(月) - 17:48
AERO PROJECT SPEED SUIT特集後編では、日本で唯一ウェアを着る上野みなみ(シエルブルー鹿屋)のインプレッションと空力データを紹介。明確となった、従来スキンスーツとの差は如何に?
「スーツを受け取り、初めてトレーニングで使った時はものすごい注目度だったんです。その場にいたみんなが『うわ〜!何これすごい!』って。ラテックスだから目立ちますし、いかにも速そうじゃないですか。これで恥ずかしい走りはできませんね」。
と、目を輝かせるのは、今現在(12月10日)日本でただ一人チャンピオンシステムのAERO PROJECT SPEED SUITを着用する上野みなみ(シエルブルー鹿屋)。今年夏にチャンピオンシステム・ジャパンが運営するカフェ「Cross Coffee」で計測を行い、同社棈木代表から直々にスピードスーツを受け取り、トレーニングを重ね、11月の全日本選手権で実戦初投入をみた。
上野が所属するシエルブルー鹿屋は、2015年に鹿児島県鹿屋市に誕生した日本初のトラック中長距離専門プロチームだ。山本(旧姓:塚越)さくらと共に立ち上げメンバーとして加入し、UCIワールドカップでメダルを獲得するなど、上野はチームを、そして日本代表チームの屋台骨を担ってきた。
鹿屋体育大学から同大学院を経て、シエルブルー鹿屋と、チャンピオンシステムのウェアと共にキャリアを重ねてきた上野。その一方で日本ナショナルチームの一員として海外遠征を重ねたことで、自ずからナショナルチームをサポートする他メーカーのウェアとの比較もしていたという。同社製品に対する印象は、「パッドもウェア自体も、品質が良いのに耐久性が高くて着崩れないこと」だと話す。
筆者は、今年夏にCross Coffeeで行われた計測と、その1ヶ月後に山梨県の境川自転車競技場で行われた初テストの現場に動向し、その後シエルブルー鹿屋での空力テストを踏まえてオンラインインタビューを行った。確かな違いが実証されたテスト数値と共に、彼女のインプレッションや使用感を紹介していきたい。
1991年5月18日生まれ、青森県八戸市出身。高校入学後に自転車競技に取り組んでから頭角を現し、2009年にはジュニア世界選手権ポイントレースで日本人女子選手初のメダル(銅)を獲得。八戸工業高校〜鹿屋体育大学〜同大学院とキャリアを重ねつつ、日本ナショナルチーム経験も多数。2015年のトラック世界選手権ポイントレースでは2位を獲得し、日本人女子選手としてオリンピックと世界選手権の自転車競技全種目を通じて初のメダルを射止めた。現在は立ち上げに深く携わったシエルブルー鹿屋に所属する。
8月末にAERO PROJECT SPEED SUITを受け取って袖を通した際、思わず「あれっ、これサイズ合ってますか...?」と不安げな表情を見せた上野。聞けば従来使用していたAPEXサマースキンスーツよりも相当タイトで、手伝いがないとキチンと着用することさえままらなかった。しかしチャンピオンシステム本社によればこれが正解で、何度か着用するうちに馴染みが出てくるのだという。
4バリエーション展開のAERO PROJECT SPEED SUITのうち、上野が選んだのは前面にラテックスなしのエアロ素材を使うSpeed 2(OCT31BV2)だ。その理由は、時に20km以上にも渡って続く夏場の長距離種目において通気性を考慮したから。新規投入されたラテックス素材も着心地に配慮こそすれ、通気透湿性では通常素材に一つ劣る。あくまで実戦を踏まえたチョイスだ。
「とにかくタイトフィットなので、ちょっと歩くのも背中が丸まってしまうくらい。でも不思議なのが、バイクに跨るとスッと身体に馴染むこと。速く走るために作られているんだな、と感じましたね」と、境川のバンクでウェアの感触を確かめた上野は言う。「これまで着ていたスキンスーツも優秀だったのであまり体感的なスピードの違いはありません。それでも身体の動きをサポートしてくれるような感じもありますし、バタつく場所なんてありません。良いですね。とても」。
境川でのテストを終え、上野はチームと共にAERO PROJECT SPEED SUITの比較テストを行った。中長距離種目で使うことを前提に、1周250mのバンクを従来のスキンスーツとAERO PROJECT SPEED SUITでそれぞれ6周(共にDHポジション)x2セットずつ走り、その平均数値を記録。そこから個人追い抜きとフライングラップ(トラックを3.5周し、最後の1周のタイムを競う種目)を走った想定のパワー差を算出したという。テストデータは以下の通りだ。
AERO PROJECT SPEED SUITの速さを検証する
「スーツを受け取り、初めてトレーニングで使った時はものすごい注目度だったんです。その場にいたみんなが『うわ〜!何これすごい!』って。ラテックスだから目立ちますし、いかにも速そうじゃないですか。これで恥ずかしい走りはできませんね」。
と、目を輝かせるのは、今現在(12月10日)日本でただ一人チャンピオンシステムのAERO PROJECT SPEED SUITを着用する上野みなみ(シエルブルー鹿屋)。今年夏にチャンピオンシステム・ジャパンが運営するカフェ「Cross Coffee」で計測を行い、同社棈木代表から直々にスピードスーツを受け取り、トレーニングを重ね、11月の全日本選手権で実戦初投入をみた。
上野が所属するシエルブルー鹿屋は、2015年に鹿児島県鹿屋市に誕生した日本初のトラック中長距離専門プロチームだ。山本(旧姓:塚越)さくらと共に立ち上げメンバーとして加入し、UCIワールドカップでメダルを獲得するなど、上野はチームを、そして日本代表チームの屋台骨を担ってきた。
鹿屋体育大学から同大学院を経て、シエルブルー鹿屋と、チャンピオンシステムのウェアと共にキャリアを重ねてきた上野。その一方で日本ナショナルチームの一員として海外遠征を重ねたことで、自ずからナショナルチームをサポートする他メーカーのウェアとの比較もしていたという。同社製品に対する印象は、「パッドもウェア自体も、品質が良いのに耐久性が高くて着崩れないこと」だと話す。
筆者は、今年夏にCross Coffeeで行われた計測と、その1ヶ月後に山梨県の境川自転車競技場で行われた初テストの現場に動向し、その後シエルブルー鹿屋での空力テストを踏まえてオンラインインタビューを行った。確かな違いが実証されたテスト数値と共に、彼女のインプレッションや使用感を紹介していきたい。
上野みなみ(シエルブルー鹿屋)プロフィール
1991年5月18日生まれ、青森県八戸市出身。高校入学後に自転車競技に取り組んでから頭角を現し、2009年にはジュニア世界選手権ポイントレースで日本人女子選手初のメダル(銅)を獲得。八戸工業高校〜鹿屋体育大学〜同大学院とキャリアを重ねつつ、日本ナショナルチーム経験も多数。2015年のトラック世界選手権ポイントレースでは2位を獲得し、日本人女子選手としてオリンピックと世界選手権の自転車競技全種目を通じて初のメダルを射止めた。現在は立ち上げに深く携わったシエルブルー鹿屋に所属する。
8月末にAERO PROJECT SPEED SUITを受け取って袖を通した際、思わず「あれっ、これサイズ合ってますか...?」と不安げな表情を見せた上野。聞けば従来使用していたAPEXサマースキンスーツよりも相当タイトで、手伝いがないとキチンと着用することさえままらなかった。しかしチャンピオンシステム本社によればこれが正解で、何度か着用するうちに馴染みが出てくるのだという。
4バリエーション展開のAERO PROJECT SPEED SUITのうち、上野が選んだのは前面にラテックスなしのエアロ素材を使うSpeed 2(OCT31BV2)だ。その理由は、時に20km以上にも渡って続く夏場の長距離種目において通気性を考慮したから。新規投入されたラテックス素材も着心地に配慮こそすれ、通気透湿性では通常素材に一つ劣る。あくまで実戦を踏まえたチョイスだ。
「とにかくタイトフィットなので、ちょっと歩くのも背中が丸まってしまうくらい。でも不思議なのが、バイクに跨るとスッと身体に馴染むこと。速く走るために作られているんだな、と感じましたね」と、境川のバンクでウェアの感触を確かめた上野は言う。「これまで着ていたスキンスーツも優秀だったのであまり体感的なスピードの違いはありません。それでも身体の動きをサポートしてくれるような感じもありますし、バタつく場所なんてありません。良いですね。とても」。
境川でのテストを終え、上野はチームと共にAERO PROJECT SPEED SUITの比較テストを行った。中長距離種目で使うことを前提に、1周250mのバンクを従来のスキンスーツとAERO PROJECT SPEED SUITでそれぞれ6周(共にDHポジション)x2セットずつ走り、その平均数値を記録。そこから個人追い抜きとフライングラップ(トラックを3.5周し、最後の1周のタイムを競う種目)を走った想定のパワー差を算出したという。テストデータは以下の通りだ。
新旧スキンスーツのテストデータ
スピード | パワー(ワット) | CdA値 | 2本の平均CdA値 | |
---|---|---|---|---|
1本目(従来スーツ) | 45.28km/h | 225.4ワット | 0.18414 | - |
2本目(従来スーツ) | 43.76km/h | 201.7ワット | 0.18220 | 0.18317 |
3本目(新型スーツ) | 45.41km/h | 224.4ワット | 0.18297 | - |
4本目(新型スーツ) | 45.45km/h | 221.9ワット | 0.18106 | 0.18202 |
従来スピードスーツとの比較におけるAERO PROJECT SPEED SUITの差
個人追い抜き想定 | -2ワット(18.00) |
フライングラップ想定 | -3ワット(15.00) |
前章で紹介した張欣教授の言葉にもあった通り、トップ選手がしのぎを削る世界では僅か数ワットの差が勝負を、そしてメダルの色を分けることに繋がる。上記データもパワーがバラつかないよう抑えめで走ったものだと言い、スピード域が高くなればなるほど効果が増すという結果も非常に興味深い。
「全力走ではないにも関わらず差が現れたことは収穫でした。機材アドバンテージは苦しい場面で大きな助けになりますから。チームスプリントやケイリンのような短距離種目や、下りが含まれる個人タイムトライアルなど、高速レースだったらもっと差が広がるはず」と上野は言う。
「現時点(インタビューは11月)で何度も練習とレースで使いましたが、最初よりもスーツの馴染みが出て着ましね。超タイトフィットだということに変わりはありませんが、縫い目がほつれたり、生地が薄くなっている部分もなく耐久性も高そうです。もちろん高価ですが、トップアスリートや、トラック競技にも参加する競輪選手にはピッタリかと思います。本当にみんなの注目度は凄いんですよ。選手だけではなく、各チームやスタッフも含めて。だから恥ずかしい走りはできませんね」。
「すべての自転車選手は空力を無視できませんが、特にトラック競技、さらに短距離種目は身体の動きが大きくウェアのフィッティングには特に気を使います。ずっとDHポジションを続けられるチームパシュートなら前もラテックス生地のスピードスーツ(Speed 4)が良いと思いますが、私は着心地も含めて(Speed 2)を使用しています。
香港チームは開発にも大きく関わってきましたし、ルイス(チャンピオンシステム代表)の言う”世界最速のウェア”という言葉は実際に着用して納得できるものでした。中国ナショナルチームにもロゴなしのスピードスーツが渡されているようですが、本音を言えばあまり他国には着てほしくないですね(笑)。」
「チャンピオンシステムから新しいスピードスーツが手渡されると聞いてとてもエキサイティングでした。私は着心地を重視したいので前が一般生地のスーツ(Speed 1)をチョイス。タイトフィットなのに嫌な締め付けがなく、乗車中も動きを妨げるような突っ張り感もありません。
背中のラテックス生地は正直に言うとそこまで通気性は高くありませんが、逆に冬がオンシーズンのトラック競技では、会場によってはレースとレースの合間に身体を冷やさないというメリットも感じました。もし複数を選べるのであれば、そういう目線で選ぶのもありかもしれません」。
AERO PROJECT SPEED SUITの実力をレポートする特集記事は以上の通り。1着に込められた開発陣の思いが伝われば幸いだ。
チャンピオンシステム・ジャパンの公式ウェブサイトには掲載されていないが、プロ選手の為だけに開発するのではなく、一般ユーザーがオーダーできることを前提に開発することがチャンピオンシステムのポリシー。棈木代表によれば、興味のある方は、チャンピオンシステムへ電話またはメールにて問い合わせてほしいとのこと。スピードスーツは4モデル全て1着21万5千円(税抜き)で、1着からオーダーが可能。納期は最大4週間だ。
チャンピオンシステム・ジャパン
営業時間:AM9:00 ~ PM18:00 (土・日・祝祭日を除く)
電話番号:042-401-6326
メール:info@champ-sys.jp
「全力走ではないにも関わらず差が現れたことは収穫でした。機材アドバンテージは苦しい場面で大きな助けになりますから。チームスプリントやケイリンのような短距離種目や、下りが含まれる個人タイムトライアルなど、高速レースだったらもっと差が広がるはず」と上野は言う。
「現時点(インタビューは11月)で何度も練習とレースで使いましたが、最初よりもスーツの馴染みが出て着ましね。超タイトフィットだということに変わりはありませんが、縫い目がほつれたり、生地が薄くなっている部分もなく耐久性も高そうです。もちろん高価ですが、トップアスリートや、トラック競技にも参加する競輪選手にはピッタリかと思います。本当にみんなの注目度は凄いんですよ。選手だけではなく、各チームやスタッフも含めて。だから恥ずかしい走りはできませんね」。
世界のトップ選手に聞くAERO PROJECT SPEED SUIT
筆者はチャンピオンシステムと香港科技大学内を訪れたタイミングで開催された2019年末のUCIトラックワールドカップ(梶原悠未が女子オムニアムで優勝したレースだ)の現場に赴き、AERO PROJECT SPEED SUITを着用してレースを走った李慧詩(リー・ワイジー)とナターシャ・ハンセン(ニュージーランド)に、レース前後の時間を縫って話を聞くことができた。リー・ワイジー(香港):「コンマ1秒を争うスプリンターには必要不可欠」
「すべての自転車選手は空力を無視できませんが、特にトラック競技、さらに短距離種目は身体の動きが大きくウェアのフィッティングには特に気を使います。ずっとDHポジションを続けられるチームパシュートなら前もラテックス生地のスピードスーツ(Speed 4)が良いと思いますが、私は着心地も含めて(Speed 2)を使用しています。
香港チームは開発にも大きく関わってきましたし、ルイス(チャンピオンシステム代表)の言う”世界最速のウェア”という言葉は実際に着用して納得できるものでした。中国ナショナルチームにもロゴなしのスピードスーツが渡されているようですが、本音を言えばあまり他国には着てほしくないですね(笑)。」
ナターシャ・ハンセン(ニュージーランド):「速さはもちろん着心地も◎」
「チャンピオンシステムから新しいスピードスーツが手渡されると聞いてとてもエキサイティングでした。私は着心地を重視したいので前が一般生地のスーツ(Speed 1)をチョイス。タイトフィットなのに嫌な締め付けがなく、乗車中も動きを妨げるような突っ張り感もありません。
背中のラテックス生地は正直に言うとそこまで通気性は高くありませんが、逆に冬がオンシーズンのトラック競技では、会場によってはレースとレースの合間に身体を冷やさないというメリットも感じました。もし複数を選べるのであれば、そういう目線で選ぶのもありかもしれません」。
チャンピオンシステム・ジャパンの棈木亮二代表
「このスピードスーツは香港本社の威信をかけて完成にこぎつけたウェア。今現在チャンピオンシステム以外にラテックス素材のUCI認可を取ったメーカーはありませんし、それは我々の技術力をアピールする部分と言えます。本社側は「どこにも負けない」と自負していますし、アメリカナショナルチームなど、様々な国やチームから連絡が来ているそうです。
正直言えば、このスピードスーツは量販というよりも、我々の持つ技術の証明であり、技術革新を促すために取り組んだアイテムです。メーカーとして常に世界で戦い、そしてトップを目指すというモットーを体現するもの。1着20万円オーバーという破格ではありますが、そこには我々の熱意が込められています」。
正直言えば、このスピードスーツは量販というよりも、我々の持つ技術の証明であり、技術革新を促すために取り組んだアイテムです。メーカーとして常に世界で戦い、そしてトップを目指すというモットーを体現するもの。1着20万円オーバーという破格ではありますが、そこには我々の熱意が込められています」。
AERO PROJECT SPEED SUITの実力をレポートする特集記事は以上の通り。1着に込められた開発陣の思いが伝われば幸いだ。
チャンピオンシステム・ジャパンの公式ウェブサイトには掲載されていないが、プロ選手の為だけに開発するのではなく、一般ユーザーがオーダーできることを前提に開発することがチャンピオンシステムのポリシー。棈木代表によれば、興味のある方は、チャンピオンシステムへ電話またはメールにて問い合わせてほしいとのこと。スピードスーツは4モデル全て1着21万5千円(税抜き)で、1着からオーダーが可能。納期は最大4週間だ。
チャンピオンシステム・ジャパン
営業時間:AM9:00 ~ PM18:00 (土・日・祝祭日を除く)
電話番号:042-401-6326
メール:info@champ-sys.jp
提供:チャンピオンシステム、text&photo:So Isobe