2020/04/08(水) - 08:00
現代ロードバイクの礎を築いたジャイアントのフラッグシップロード「TCR」がフルモデルチェンジ。圧倒的な登り性能はそのままに、重量剛性比や空力強化を遂げ刷新された。1997年にデビューした初代TCRからの系譜を振り返りつつ、第9世代TCRの概要をお伝えしていく。
エアロモデルのPROPEL、エンデュランスモデルのDEFYを脇に従えるジャイアントのロードモデルの大黒柱、TCRの第9世代がベールを脱いだ。現代ロードバイクの手本となった初代を筆頭に、まずは歴代モデルと戦績を振り返りつつTCRを紐解いていきたい。
MTBフレームに着想を得たマイク・バロウズ(イギリス)が監修した初代TCRは、従来のロードバイクに比べ軽量かつ優れた剛性を実現するとともに、リア三角のコンパクト化も推し進めることで高い動力伝達と効率性を獲得。当時は他ブランドと比べてあまりにも優位だとして物議を醸すほどだったという。
しばらくの検討時間を経て最終的にUCIはこれを認可。スペインの強豪「チームONCE」によって1998年のツール・ド・フランスで実戦投入されると、ローラン・ジャラベールらの活躍によりコンパクトロードの優れた性能を証明してみせたのだ。
スローピングフレームの走りとなったTCRは、その後2002年にフルカーボンモデルが開発され、エリック・ツァベルなど強豪選手を擁した「Tモバイル」のツール・ド・フランス3年連続チーム総合優勝(2004~2006年)に貢献。2005年には軽量化と快適性向上のために、現行モデルにも通づるインテグレーテッドシートポスト(ISP)を初搭載した。
2008年登場の第5世代では「MEGADRIVE」「OVERDRIVE」「POWERCORE」といった現在のジャイアントバイクには欠かせないテクノロジーが導入され、TCR ADVANCED SLを駆ったマーク・カヴェンディッシュ(当時コロンビア・ハイロード)がその年のツール・ド・フランスでステージ4勝。翌年のジロ・デ・イタリアではデニス・メンショフ(当時ラボバンク)が個人総合優勝を飾るなど、多くのビッグレースで輝かしい戦績を残した。
2012年に登場した第6世代では超大径ステアリングコラム「OVERDRIVE 2」を投入し、フロント剛性とコントロール性の向上を果たすと、次なる第7世代では更なるシェイプアップを図り、重量剛性比と快適性の強化を実現。TCRをメインバイクにグランツールを戦ったサンウェブのトム・デュムランによる2017年ジロ・デ・イタリア総合優勝、同年のツール・ド・フランスでマイケル・マシューズがポイント賞+ワレン・バルギルが山岳賞を獲得したことも記憶に新しい。
そして、2016年にはTCR史上初となるディスクブレーキモデル(第8世代)が登場し、そこから4年を経た2020年、第9世代となる新型TCRがデビューを飾る。軽量化や剛性強化といった車体の性能向上はもちろんながら、本作はホイール、タイヤ、ハンドルバー、サドルなどの全要素が同時開発されていることが大きな特徴だ。
新型TCRは2019年8月序盤からチームへと供給されており、エースのグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー)は昨年のロード世界選手権で新型TCRのディスクブレーキ版を投入。今作は当初予定されていた東京オリンピックに合わせるべく、普段よりも入念なチームでの試用期間を経てデビューにこぎつけている。
TCRが代々掲げてきたコンセプト「TOTAL RACE BIKE」は今回のモデルチェンジでも変わらない。しかしその中において"ベスト・クライミングバイク"として開発された先代モデルに対し、今回は"トータル(完全なる)レースバイク"として開発したという微妙な変化がある。プロライダーのパワーを受け止める剛性、厳しい山岳ステージでアドバンテージとなる軽量性、数ワットのパワー削減に貢献する空力性能、意図する通りに操れるコントロール性。ホイールやハンドルなど含むトータル設計は、これら全てを兼ね備えるための開発努力だという。
まず特筆されるのは、歴代のTCRが重視してきた”重量剛性比”をさらに強化したことだろう。軽さと硬さが生み出す効率的な推進力を得るべく、新素材の投入と今まで以上に無駄のないカーボンレイアップを施すことで、素材量を削減しつつも剛性を高めるという相反する要素を兼ね備えた(詳細テクノロジーは次頁にて紹介)。
トップグレードのADVANCED SL DISCはフレーム単体が765g(Mサイズ/ペイント込み)、フォークが330g(コラム未カット)で、フォークや小物を含むフレームセット比較では先代から140gも軽量化している。と同時に剛性の強化も実現しており、スペシャライズドのS-WORKS TARMAC DISCや、トレックのEMONDA SLR DISCと比較して20%前後も高い重量剛性比”118”という数値を叩き出している。
加えて、新型TCRで注力されたのがエアロダイナミクスの強化だ。先代から大きな変更がないようにも見えるフレーム形状だが、全てのチューブをイチから設計し直しており、実走環境を模した風洞実験とCFD解析を経て重量や剛性はそのままに空力性能が最大化するようデザインされている。
具体的には従来ティアドロップ形状を採用していた箇所をカムテール形状に変更することで、今まで以上に広い範囲のヨー角においてエアロ性能を向上させている。ヘッドやフォーク、シートチューブ、シートポストの後端がカットされたデザインにアップデートされているのが見て分かるはず。200Wで40kmの距離を走行した際、先代に比べ34秒のタイム短縮を叶える空力性能を獲得した。
先代で秀逸だったハンドリング性能の維持も重要な要素の一つ。非常に細身なフロントフォークを採用しているにも関わらずねじれ剛性は約35%も増しており、ジャイアント独自のOVERDRIVE 2と相まってステアリングの安定感に寄与している。加えて、ディスクブレーキモデルはタイヤクリアランスが最大32mm幅まで対応。ワイドタイヤが路面をしっかりと捉え、思った通りのラインを描けるコントロール性を獲得している。
フレームと合わせて各種コンポーネントも新作をアセンブル。CADEX(カデックス)のテクノロジーを落とし込んだ42mmハイトの「SLR1 42」ホイール、ドロップ部分とバートップのエアロ性能を高めた「CONTACT SLR」ハンドルバー、快適性とパワー伝達性に優れた「FLEET」ショートノーズサドルを搭載し、トータルでの走行性能アップを図っている。
既存ラインアップと同様に、カーボングレード順にADVANCED SL、ADVANCED PRO、ADVANCEDという3モデルで展開。いずれもディスクブレーキ/リムブレーキ仕様の両タイプが用意されている。ADVANCED SLの最上級完成車フレームのみ超軽量ペイントが施されているほか、近年ジャイアントが力を注ぐカメレオンペイントなどにも注目だ。
詳細なテクノロジー解説&開発者インタビューは次頁にて行いたい。
軽量性、剛性、空力性を強化した第9世代TCRがデビュー
エアロモデルのPROPEL、エンデュランスモデルのDEFYを脇に従えるジャイアントのロードモデルの大黒柱、TCRの第9世代がベールを脱いだ。現代ロードバイクの手本となった初代を筆頭に、まずは歴代モデルと戦績を振り返りつつTCRを紐解いていきたい。
スローピングフレームを採用した”トータルコンパクトロード=TCR”
1997年に登場した初代から一貫してジャイアントのフラッグシップを担ってきたレーシングロードバイクの「TCR」。”トータルコンパクトロード”のモデル名を冠したTCRは、ホリゾンタルフレームが一般的だった当時には革新的なスローピングフレームを採用して注目を集めた。MTBフレームに着想を得たマイク・バロウズ(イギリス)が監修した初代TCRは、従来のロードバイクに比べ軽量かつ優れた剛性を実現するとともに、リア三角のコンパクト化も推し進めることで高い動力伝達と効率性を獲得。当時は他ブランドと比べてあまりにも優位だとして物議を醸すほどだったという。
しばらくの検討時間を経て最終的にUCIはこれを認可。スペインの強豪「チームONCE」によって1998年のツール・ド・フランスで実戦投入されると、ローラン・ジャラベールらの活躍によりコンパクトロードの優れた性能を証明してみせたのだ。
スローピングフレームの走りとなったTCRは、その後2002年にフルカーボンモデルが開発され、エリック・ツァベルなど強豪選手を擁した「Tモバイル」のツール・ド・フランス3年連続チーム総合優勝(2004~2006年)に貢献。2005年には軽量化と快適性向上のために、現行モデルにも通づるインテグレーテッドシートポスト(ISP)を初搭載した。
2008年登場の第5世代では「MEGADRIVE」「OVERDRIVE」「POWERCORE」といった現在のジャイアントバイクには欠かせないテクノロジーが導入され、TCR ADVANCED SLを駆ったマーク・カヴェンディッシュ(当時コロンビア・ハイロード)がその年のツール・ド・フランスでステージ4勝。翌年のジロ・デ・イタリアではデニス・メンショフ(当時ラボバンク)が個人総合優勝を飾るなど、多くのビッグレースで輝かしい戦績を残した。
2012年に登場した第6世代では超大径ステアリングコラム「OVERDRIVE 2」を投入し、フロント剛性とコントロール性の向上を果たすと、次なる第7世代では更なるシェイプアップを図り、重量剛性比と快適性の強化を実現。TCRをメインバイクにグランツールを戦ったサンウェブのトム・デュムランによる2017年ジロ・デ・イタリア総合優勝、同年のツール・ド・フランスでマイケル・マシューズがポイント賞+ワレン・バルギルが山岳賞を獲得したことも記憶に新しい。
そして、2016年にはTCR史上初となるディスクブレーキモデル(第8世代)が登場し、そこから4年を経た2020年、第9世代となる新型TCRがデビューを飾る。軽量化や剛性強化といった車体の性能向上はもちろんながら、本作はホイール、タイヤ、ハンドルバー、サドルなどの全要素が同時開発されていることが大きな特徴だ。
新型TCRは2019年8月序盤からチームへと供給されており、エースのグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー)は昨年のロード世界選手権で新型TCRのディスクブレーキ版を投入。今作は当初予定されていた東京オリンピックに合わせるべく、普段よりも入念なチームでの試用期間を経てデビューにこぎつけている。
トータルレースバイクとして磨きをかけた第9世代TCR
TCRが代々掲げてきたコンセプト「TOTAL RACE BIKE」は今回のモデルチェンジでも変わらない。しかしその中において"ベスト・クライミングバイク"として開発された先代モデルに対し、今回は"トータル(完全なる)レースバイク"として開発したという微妙な変化がある。プロライダーのパワーを受け止める剛性、厳しい山岳ステージでアドバンテージとなる軽量性、数ワットのパワー削減に貢献する空力性能、意図する通りに操れるコントロール性。ホイールやハンドルなど含むトータル設計は、これら全てを兼ね備えるための開発努力だという。
まず特筆されるのは、歴代のTCRが重視してきた”重量剛性比”をさらに強化したことだろう。軽さと硬さが生み出す効率的な推進力を得るべく、新素材の投入と今まで以上に無駄のないカーボンレイアップを施すことで、素材量を削減しつつも剛性を高めるという相反する要素を兼ね備えた(詳細テクノロジーは次頁にて紹介)。
トップグレードのADVANCED SL DISCはフレーム単体が765g(Mサイズ/ペイント込み)、フォークが330g(コラム未カット)で、フォークや小物を含むフレームセット比較では先代から140gも軽量化している。と同時に剛性の強化も実現しており、スペシャライズドのS-WORKS TARMAC DISCや、トレックのEMONDA SLR DISCと比較して20%前後も高い重量剛性比”118”という数値を叩き出している。
加えて、新型TCRで注力されたのがエアロダイナミクスの強化だ。先代から大きな変更がないようにも見えるフレーム形状だが、全てのチューブをイチから設計し直しており、実走環境を模した風洞実験とCFD解析を経て重量や剛性はそのままに空力性能が最大化するようデザインされている。
具体的には従来ティアドロップ形状を採用していた箇所をカムテール形状に変更することで、今まで以上に広い範囲のヨー角においてエアロ性能を向上させている。ヘッドやフォーク、シートチューブ、シートポストの後端がカットされたデザインにアップデートされているのが見て分かるはず。200Wで40kmの距離を走行した際、先代に比べ34秒のタイム短縮を叶える空力性能を獲得した。
先代で秀逸だったハンドリング性能の維持も重要な要素の一つ。非常に細身なフロントフォークを採用しているにも関わらずねじれ剛性は約35%も増しており、ジャイアント独自のOVERDRIVE 2と相まってステアリングの安定感に寄与している。加えて、ディスクブレーキモデルはタイヤクリアランスが最大32mm幅まで対応。ワイドタイヤが路面をしっかりと捉え、思った通りのラインを描けるコントロール性を獲得している。
フレームと合わせて各種コンポーネントも新作をアセンブル。CADEX(カデックス)のテクノロジーを落とし込んだ42mmハイトの「SLR1 42」ホイール、ドロップ部分とバートップのエアロ性能を高めた「CONTACT SLR」ハンドルバー、快適性とパワー伝達性に優れた「FLEET」ショートノーズサドルを搭載し、トータルでの走行性能アップを図っている。
既存ラインアップと同様に、カーボングレード順にADVANCED SL、ADVANCED PRO、ADVANCEDという3モデルで展開。いずれもディスクブレーキ/リムブレーキ仕様の両タイプが用意されている。ADVANCED SLの最上級完成車フレームのみ超軽量ペイントが施されているほか、近年ジャイアントが力を注ぐカメレオンペイントなどにも注目だ。
詳細なテクノロジー解説&開発者インタビューは次頁にて行いたい。
ジャイアント 新型TCRラインアップ
TCR ADVANCED SL
モデル | コンポーネント | 税抜価格 |
ADVANCED SL 0 DISC | SRAM RED eTap AXS | 1,200,000円 |
ADVANCED SL 1 DISC KOM | SHIMANO ULTEGRA Di2 | 740,000円 |
ADVANCED SL DISC FRAME SET | - | 360,000円 |
ADVANCED SL FRAME SET | - | 330,000円 |
TCR ADVANCED PRO
モデル | コンポーネント | 税抜価格 |
ADVANCED PRO 0 DISC | SHIMANO ULTEGRA Di2 | 620,000円 |
ADVANCED PRO 1 DISC | SHIMANO ULTEGRA | 450,000円 |
ADVANCED PRO TEAM DISC | SHIMANO ULTEGRA | 450,000円 |
ADVANCED PRO 1 | SHIMANO ULTEGRA | 400,000円 |
TCR ADVANCED
モデル | コンポーネント | 税抜価格 |
ADVANCED 2 DISC SE | SHIMANO 105 | 265,000円 |
ADVANCED 1 KOM | SHIMANO ULTEGRA | 260,000円 |
ADVANCED 2 KOM | SHIMANO 105 | 210,000円 |
提供:ジャイアント・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部