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レースからツーリングまで1台でこなせるマルチユースバイク

MTBの始祖としてあまりにも有名なゲイリー・フィッシャー氏であるが、彼がもともとロードバイク乗りであったことはあまり知られていない。そんなフィッシャー氏が満を持して発表したフルカーボンロードバイク"CRONUS ULTIMATE"。その特徴は、いったいどのようなものなのだろうか?

元々ロード選手だったフィッシャー氏

デスライド2000を走るゲイリー。タフな山岳レースでぶっちぎりの優勝デスライド2000を走るゲイリー。タフな山岳レースでぶっちぎりの優勝 MTBの礎となる「クランカー号」を完成させたゲイリー・フィッシャー氏は、多くのバイク乗りから「MTBの神様」として尊敬を集めている。

しかし、フィッシャー氏はもともと、ロードバイク乗りとして全米にその名を轟かせていた。10代の頃、フィッシャー氏はアメリカ西海岸でも屈指のロード選手として活躍し、ナショナルチームに選出されるほどの選手だったのだ。

そのキャリアには、驚くべき理由でピリオドが打たれた。当時、アメリカのロード競技には「長髪禁止」という決まりがあり、長髪をなびかせてレースを走っていたフィッシャー氏は、あるレースで長髪を理由に出走を拒否されてしまったのだ。これを機に、フィッシャー氏はロードレースの世界に二度と帰ってこなかった。

その後、フィッシャー氏は何者にも縛られない遊びのカタチを追求し、ついにはMTBというまったく新しいジャンルのバイクを完成させたのであった。あの時、理不尽なルールによりフィッシャー氏がロードレースの出走を拒否されていなければ、MTBはこの世に生まれていなかったのかもしれないのだ。歴史というのは、何とも皮肉なものである。

そんなフィッシャー氏であるが、ロードバイクに対する思いがなくなったワケではなかった。MTBのトレーニングの一貫としてもロードバイクに乗り続けていたし、最近のロードバイクがどんなユーザーに対しても向いているモノではないという不満も持っていた。

そこでついに、フィッシャー氏自らがプロデュースして、ゲイリーフィッシャーが考える最も理想的なロードバイクを開発・完成させたのである。それが、今回ここに紹介する"CRONUS ULTIMATE(クロノス アルティメット)"だ。

ゲイリーフィッシャー CRONUS ULTIMATEゲイリーフィッシャー CRONUS ULTIMATE Photo: Makoto Ayano

究極のハンドリング性能を実現するFCCとは

ゲイリーフィッシャー CRONUS ULTIMATEの特徴は数多い。中でも、最大の特徴は「FCC(フィッシャー・コントロール・コラム)」と名付けられたハンドリングにあるだろう。フィッシャー氏が目指したのは、ロードレースで勝てるコントロール性と、ロングライドで疲れを知らない快適性の両立だ。

そこでフィッシャー氏が注目したのは、ヘッド周りやフォーク、ホイールの横剛性である。これらの横剛性を上げることによってコーナリング時の限界値を高め、圧倒的なコントロール性を実現したのだ。

下側に1.5インチと大径にしたE2ヘッドチューブ下側に1.5インチと大径にしたE2ヘッドチューブ Photo: Makoto Ayano ワイドスタンスフォークも特徴の一つワイドスタンスフォークも特徴の一つ Photo: Makoto Ayano 横から見たFCCハブ。フォークエンド付近にはフェンダー取り付け台座も横から見たFCCハブ。フォークエンド付近にはフェンダー取り付け台座も Photo: Makoto Ayano

ヘッドチューブには、下側のベアリングを1.5インチの大径にした「E2ヘッドチューブ」を採用する。これに組み合わされるフォークは、ブレードの左右の開きを大きくして、横剛性を増した「ワイドスタンスフォーク」だ。

ホイールには専用設計のラージフランジ「FCCハブ」を採用。ワイドスタンスフォークとも相まって、スポークのトラス量を広げ、ここでも驚くべき横剛性を確保した。さらに、ハブのエンドキャップは通常の19mmに対して25mmに拡大されており、これも剛性アップに貢献している。

以上の改良点により、CRONUS ULTIMATEは強固なフロント剛性を獲得。それによりライダーの思い通りのラインが描けるハンドリング性能を実現しているのだ。さらに、フレームサイズに応じて3種類のフォークオフセットを用意し、ヘッド角を変えることなくトレイル量が最適化されている。

ゲイリーはマウンテンバイク同様、ロードバイクのハンドリングにも目を向けた。
そしてハンドリングに関わる部品(タイヤ、リム、スポーク、バブ、フォーク、ヘッドチューブ)のデザインを見直した結果、高剛性で狙い通りの安定したハンドリングを誇るフロントエンドが完成した。


Photo: (c)TREK JAPAN 左:従来のハブとフォーク/右:フィッシャーコントロールコラム(FCC)左:従来のハブとフォーク/右:フィッシャーコントロールコラム(FCC) Photo: (c)TREK JAPAN

先進の機能を満載した超軽量フレーム

CRONUS ULTIMATEのフレーム単体重量は、わずか900gしかない。しかし乗った時の剛性感は、プロユースのレーシングバイクに優るとも劣らない。それは良質なカーボン素材の選択と、考え抜かれたチューブ形状によるものだ。

まずはボトムブラケットにオーバーサイズタイプの「BB90」を採用する。このBB90により、大径のダウンチューブと非対称設計のシートチューブ、そして同じく非対称設計で角型断面のチェーンステーをつなぎ、ペダリングロスの少ない高い剛性感を実現しているのだ。

一方、シートステーは細身の設計となっており、さらに絶妙なベンド(曲げカーブ)を与えることにより、乗り心地を向上させている。ヘッドからダウンチューブ、チェーンステーで剛性を稼ぎ、シートステーで振動吸収を受け持つという、近年主流になりつつある設計コンセプトだ。

BB90の採用により、極太のダウンチューブが可能になったBB90の採用により、極太のダウンチューブが可能になった Photo: Makoto Ayano 微妙にベンドしたシートステー微妙にベンドしたシートステー Photo: Makoto Ayano リヤエンドから見上げるとベンドしているのがよくわかるリヤエンドから見上げるとベンドしているのがよくわかる Photo: Makoto Ayano

また、シートステーにある程度の柔軟性を持たせることは、路面追従性のアップにもつながり、荒れた路面でもタイヤがしっかりと食いつくので、結局、ラクでなおかつ速く走ることができるのである。この辺の設計の妙は、さすがに様々な革新的な新機構を生み出してきたゲイリー・フィッシャーのバイクといったところだ。

フェンダー装着可能という余裕

タイヤとのクリアランスが十分に確保されているタイヤとのクリアランスが十分に確保されている Photo: Makoto Ayano そしてもうひとつの大きな特徴は、フェンダーがスマートに装着できる点である。エンドなどフレーム各部にフェンダーを取り付けるための台座が、<目立たないスタイリッシュな形状で>装備されており、これに適合するボントレガー製のフェンダーがわずか3分で装着できるのである。これは「雨の日にも快適に走りたい」というライダーにとって、まさに福音とも言えるモノだろう。

タイヤのクリアランスにも細心の注意が払われており、700×25Cサイズのタイヤまで装着可能だ。これは太めのタイヤでロングライドや日常的なトレーニングをこなしたい人には嬉しいスペックだろう。

「自分が欲しいロードバイクをカタチにしたらこうなった」とフィッシャー氏が語る通り、まさに「走る人の、走る人による、走る人のためのバイク」がここにある。

フロントエンド付近にフェンダー取り付け台座があるフロントエンド付近にフェンダー取り付け台座がある Photo: Makoto Ayano リヤエンドにもフェンダー取り付け台座を装備リヤエンドにもフェンダー取り付け台座を装備 Photo: Makoto Ayano

フェンダーの取り付け例(フロント)

今回使用したボントレガー製のフェンダー今回使用したボントレガー製のフェンダー Photo: Makoto Ayano 1.まずはフォークの後ろ側にある台座にフェンダーを固定1.まずはフォークの後ろ側にある台座にフェンダーを固定 Photo: Makoto Ayano
2. 次にフォークの先にある左右の台座に固定する2. 次にフォークの先にある左右の台座に固定する Photo: Makoto Ayano 3. 最後にタイヤに当たらないようフェンダーの位置を調整して…3. 最後にタイヤに当たらないようフェンダーの位置を調整して… Photo: Makoto Ayano
4. 取り付け完了! 「これで雨の日でも泥はねを気にせず走れるよ」とフィッシャー氏4. 取り付け完了! 「これで雨の日でも泥はねを気にせず走れるよ」とフィッシャー氏 Photo: Makoto Ayano




Photo: Makoto Ayano

ゲイリーフィッシャー CRONUS ULTIMATE



■SPEC
フレーム フィッシャーカーボン、サイズスペシフィックレイアップ、E2インテグレーテッドヘッドセット、BB90インテグレーテッドボトムブラケット、左右非対称チューブ、ヒドゥンフェンダーマウント
フォーク ボントレガー CARBON FCC
ホイール ボントレガー RACE X LITE FCC、25mmエンドキャップ、アウトボードJ-ベンドスポーク
タイヤ ボントレガー RACE X LITE AC
コンポーネント スラム RED
サイズ 50、52、54、56、58、61cm
カラー カーボンブラックスモーク
価格 780,000円(税込)


ゲイリーのロードバイク遍歴

ロードレースを走るゲイリー。グレッグレモンらともやりあったロードレースを走るゲイリー。グレッグレモンらともやりあった 1974年頃、ゲイリーはビーチクルーザーに寄せ集めの部品を取り付けたつぎはぎだらけのバイクに乗って力リフォルニア州マリン・カウンティのMt.Tam(マウントタム)周辺を走リ回っていた。広いギア比とヘビーテユーティブレーキは、MTBの原型だった。

この遊びに対し、ゲイリーが称した言葉「クランキング」が、ゲイリーをマウンテンバイクの父へと導いた。

マウンテンバイクの誕生に貢献した革新家は、以降、今までバイク業界に衝撃を与え続けている。そして公の場での彼のファッションも同様に業界に衝撃を与え続ける。そんなゲイリーの、ロードバイク遍歴にスポットを当てて紹介しよう。

チームタマルパイアスのメンバーと。後列左から4番目がゲイリーチームタマルパイアスのメンバーと。後列左から4番目がゲイリー もともとロードバイカー、そしてシクロクロスレーサーとして活躍したゲイリー。彼が毛嫌いして言う「ブル・シット(クソったれ)な"長髪事件"」が起こるまで、ゲイリーはアメリカを代表する選手だった。

ツール・ド・フランス2度の覇者グレッグ・レモンとやりあい、オリンピック代表をかけて戦った。幻のモスクワ五輪ボイコット事件がなければ、五輪代表選手の肩書きを持っていたのかもしれないほどの実力者だった。

当時、アメリカのロード競技には「長髪禁止」という決まりがあって、長髪をなびかせてレースを走っていたフィッシャー氏は、あるレースで長髪を理由に出走を拒否されてしまったのだ。

1977年 ダブルセンチュリーに挑戦したゲイリー・フィッシャー(右)。207マイルを9時間18分で走った。左はタンデムで参加したジョー・ブリーズ(MTBの生みの親のひとり)1977年 ダブルセンチュリーに挑戦したゲイリー・フィッシャー(右)。207マイルを9時間18分で走った。左はタンデムで参加したジョー・ブリーズ(MTBの生みの親のひとり) 「今髪を切るか? それとも出走せずに家に帰るか?」、そうオーガナイザーに凄まれたフィッシャー氏は、何のためらいもなく後者を選び、レース会場を後にしたのである。それ以降、フィッシャー氏はロードレースの世界に二度と帰ってこなかった……。

ロードレース選手としてのキャリアは長髪事件によって幕を引くことになったが、持ち前のバイク開発への好奇心は留まることを知らなかった。仲間とつくったヴェロクラブ「タマルパイアス」で、自転車遊びに明け暮れた。MTBを創り出す一方、ロードやシクロクロスなど、あらゆる自転車遊びに熱中した。

そして方向は冒険ライドへと向かう。ダブルセンチュリー(320km)の記録を打ち立て、カリフォルニア・アルプスの峠を1日に5つ越える山岳レース"デス・ライド"(129マイル=209km)では圧倒的な勝利を収めている。レースを離れても、ロードバイクを使った冒険と挑戦ライドへの世界を広げて行ったのだ。


次のページではゲイリー・フィッシャー氏本人へのインタビューから、CRONUS ULTIMATEに搭載されたFCCの革新性に迫ります。

提供:トレックジャパン 企画/制作:シクロワイアード