2019/09/10(火) - 13:13
シマノの新型オフロードコンポーネント DEORE XTとSLXをフィーチャー。スペインで開催された発表会&テストライドの様子を通して、2つのMTBコンポのディテールに迫る。
すでに発表されているとおり、シマノのMTB系上位コンポーネントであるDEORE XT/SLXがそれぞれモデルチェンジし、最新のXTR(M9100系)と同じ世代のスペックが搭載されることとなった。今回のDEORE XT/SLXのハッシュタグ付テーマは #Make Your Mark(=爪痕を残せ)。2つのコンポーネントはエントリーユーザーからトレイルを愛するコアなライダーまで、オフロードへ向かうマウンテンバイカー全ての期待に応えるだろう。
シマノがDEORE XTとSLXの発表会場として選んだのは、スペインで大々的に開催された、シーオッター・ヨーロッパであった。その開催地ジローナは、地中海にほど近い温暖な気候に加え、街の中心部を抜けるとすぐにライドに好適な丘陵地帯が広がることから、近年はサイクリストが集まる街として知られる。その地にアメリカから〝シーオッター〟が持ち込まれたのが3年前。ジローナの中心街からほど近い都市公園をメーン会場に、UCIレース/オリエンテーリング形式のオンロードツーリング/グラベルレース/試乗/メーカーブース展示などが行われ、3日間で5万人ものサイクリストが訪れるという一大イベントが誕生したのだ。シマノにとって、新型DEORE XTとSLXの世界的な試乗会を開催するのにこのシーオッター・ヨーロッパは時期としても規模としても最適だったと言える。
特集の序章となる本編では、まずXTとSLXについて現物を確認してわかった全貌とカタログスペック以上の細部を紹介・解説していこう。
フルモデルチェンジにより新たな規格で誕生したMTBコンポーネントDEORE XT(M8100シリーズ)とSLX(M7100シリーズ)は、ロードバイクで言うところのULTEGRAとシマノ105に相当する。大きなトピックはトランスミッションの変革だ。リアの変速が現在の主流である12スピードになったこと、そしてスプロケットのトップ歯数が10Tになったことだ。いずれもXTRで先行させていたスペックを採用することになる。
またブレーキに関しては、XTRのエンデューロ用レバー(BL-M9120)の基本設計を踏襲している。ブレーキレバーとシフターを一体化させる〝IスペックEV〟の取り付けインターフェイスもM9100系XTRと共通となっており、角度で約60度、左右方向で約14mmという広い調整範囲もそのまま採用されている。このように、上位3グレードの基本設計を共通化させることで互換性をもつ、MTBコンポーネントにおけるシマノの万全なるリア12スピード体制が構築されたことになる。
DEORE XTは〝レーシング〟の要素を抑えて〝トレイルライド〟に重きを置いているのが特徴だ。高価な軽量素材がXTRほどふんだんに使われることはなく、質実剛健な素材と構造。またクランクのQファクターなどもXTRよりも広めに取られ、チェーンステーとのクリアランスや、悪路での乗車バランスの取りやすさが優先される。
そのDEORE XTをコスト面でより抑えたのがSLXだ。ライディングに大きな影響を及ぼさないであろう細かな調整機構は簡素化されるが、一般的なレベルでの使用感においては変わらない性能を実現している。
スプロケットの歯数構成はXTR(CS-M9100)と同じだ。10~51Tのワイドレシオと、10~45Tのクロスレシオから選択可能。フロントシングルで使用するのならワイドレシオの組み合わせが想定されており、軽量化と左シフターを用いないシンプルなコクピット周りが実現できる。
フロントギヤに変速を用いるダブル仕様では、クロスレシオのスプロケットが想定されている。マラソン系の長距離ライドで、常に「欲しいギヤ比」を手にすることが可能となり、肉体的な疲労軽減が目指せるからだ。
歯数構成や取り付け方法こそXTRと同一だが、しかしその構成素材は異なる。DEORE XT(CS-M8100)では、ロー側2枚がアルミ製、それ以外の9枚がスチール製の歯先。これがSLX(CS-M7100)になると、ロー1枚のみがアルミ製だ。ちなみにXTRではトップ側から順に、ステンレス(4枚)/チタン(5枚)/アルミ(3枚)という贅沢な仕様になっている。
Rディレーラーは51Tワイドレシオに対応するフロントシングル用(RD-M8100/RD-M7100)と、ロー45Tスプロケットに対応する同ダブル用(RD-M8120/RD-M7120)の2種類が各グレードで用意される。ゲージの長さはキャパシティの大きなSGSに限られることになる。XTRがエンデューロ系レーサーが求める『フロントシングル×45T』という組み合わせを想定して、小振りな〝GS仕様〟をラインナップしているのとは対照的だ。
大型化された13Tプーリーや、チェーン暴れを防ぐスタビライザー機構、横への張り出しが抑えられたシャドーRD+などはXTRに引き続いて採用され、シフターとの互換性も保たれる。一方で、スタビライザーのON/OFFレバーや各種調整ボルト類の素材、プーリーの軸部分の構造(ベアリングの有無等)にはグレードで差が設けられ、それらは価格へと反映されることになる。
対するSLXは、トップ側へは1段ずつ/ロー側へは3段となる。SLXでは内部のカム(歯車)構造が簡略化されたことで、マルチ変速は限定的となった。SL-M8100-IRレバーのシフティングは、RD-M8100-SGSと組み合わせることで前モデル(SL-M8000-IR)比で-35%操作力が軽減されている。加えて、固定位置の調整範囲やレバー形状の見直しにより、レバーへのアクセスを20%向上させている。
1本のレバーで操作する〝モノレバー〟がXTRに引き続き採用されている。レバーのモノ化によるメリットは、直感的な操作がしやすいという他にも、コクピット左側の簡素化に役立つということも見逃せない。サスペンションのロックアウトや、ドロッパーポストなど、左手で〝リモートレバー〟を操作するケースが増え、ここ数年は急激に左グリップ付近が煩雑になっているからだ。
なお、リア用シフター同様、IスペックEV仕様においては、レバーへのアクセスが20%向上(SL-M8000-IL比)し、素早いシフトチェンジが可能となっている。
そしてクランクのチェーンラインも、48.8mm/51.8mmの両方に対応できるように工夫されている。たとえばDEORE XTの場合、前作(M8000系)ではケーブルを引く方向やガイドプレートのスイング方法、チェーンラインの違いにより、実に12種ものフロントディレーラーが存在していたが、それがフレーム側のマウント方式の違いによる3バリエーションになったのである。
フロントシングルユーザーの増加は、チェーンリング交換の頻度を高めることになっている。つまり、脚力やコースの登坂斜度、ルートで想定される巡航速度によって、チェーンリングの歯数を変える必要性が出てきたとも言える。
クランクの軸付近に設けられたロックナットによるセンターロック方式は、素早いチェーンリング交換にもはや不可欠な仕様となるが、DEORE XT/SLXでももちろん採用される。
ただし、XTRがスパイダー部分までアルミ合金による一体成型で軽量化を求めているのに対して、DEORE XT/SLXのシングル用チェーンリングは、ともにアルミスパイダーにスチール製の歯先が組み合わされる。重量面では多少犠牲になるが、耐摩耗性は大きく向上されることとなった。
リアの多段化に伴い、チェーンはより薄い12スピード専用品だ。基本的なデザインはXTR(CN-M9100)と共通で、チェーンを繋ぐ専用クイックリンクは、XTRと同一のSM-CN910-12を使用する。チェーンリングおよびスプロケットの歯先形状と合わせて設計することで、歯先とのスムーズな作動と、両者のエンゲージメント(嵌合性)強化がもたらされている。
DEORE XT/SLXのブレーキレバーの形状は、XTRのトレイルバージョン(BL-M9120)をベースとしている。つまり、レバーのイニシアル位置を調整するためのダイヤルが外観上の特徴になっているのと同時に、〝サーボウエーブ機構〟を搭載することで、ブレーキパッドの素早いコンタクトと、強い制動力が両立されている。
DEORE XTでは、レバーのフリーストローク(いわゆる〝遊び量〟)を調整できるのに対して、SLXでは省かれている。また、XTRに設定されているXCレーシング仕様(BL-M9100)のような軽量に徹したバージョンは両者とも存在せず、1種類のレバーに集約されている。ともにIスペックEVに対応しており、グレードを超えてIスペックEV仕様のシフターを一体化させることが可能となっている。
ブレーキレバーが1種類なのに対して、キャリパーはXC用2ピストン(BR-M8100/BR-7100)と、トレイル/エンデューロ用4ピストン(BR-M8120/BR-M7120)の2種類が用意される。このうち、2ピストンは先代(BR-M8000など)から設計が引き継がれているため、ブレーキパッドも流用可能。ただし、新型XTR(BR-M9100)は、キャリパーを小型化するためにロードバイク系のパッドが組み合わされるため、XTRとDEORE XT/SLXの間でパッドの互換性はない。
一方の4ピストン仕様は、XTRのエンデューロ用(BR-M9120)のコンストラクションがそのまま用いられる。BR-M8000に対して制動力は約10%強化されており、タイヤの接地面積が増える傾向にある昨今のバイクに最適化されている。もちろんパッドはXTRと共通だが、BR-M8020やBR-M640(ZEE)のフィン無し4ピストン用パッドも流用可能となっている。
前後のハブは全て〝Eスルー〟と呼ばれるスルーアクスルタイプ。フロントは15×100mm幅/110mm幅の2種類、リアは12×142mm/148mm/157mmの3種類がラインナップされる。リアのフリーボディは、すべてマイクロスプラインのみ。10Tトップのスプロケットには不可欠なスペックだ。
そしてDEORE XTにおいては、XTRに続いてストレートプル用のフランジが用意される。スポークをストレートプル化することにより、スポーク折れのリスクが低減するだけでなく、ホイールの剛性・強度ともに向上させやすいため、中堅以上のグレードでは標準化されつつある。
DEORE XTホイールセットでは、コンベンショナルなJベンドスポーク仕様のWH-M8120に加え、より高い組み上げ剛性が期待できるストレートプルスポーク仕様のWH-M8100も用意。さらに、リム幅は2種類(内幅30mm(WH-M8120)/同24mm(WH-M8100))、ホイール径も2種類(29インチ/27.5インチ)という、多彩なバリエーション。
SLXグレードに該当するWH-MT620は、Jベンドスポーク/30mm幅リムに限られるものの、ホイール径は29インチと27.5インチの2種類。DEORE XT/SLXともに、O.L.D.はフロント110mm/リア148mmで、リムはチューブレス対応となっている。
次頁ではスペインでのトレイル実走インプレッションをお届けする。
すでに発表されているとおり、シマノのMTB系上位コンポーネントであるDEORE XT/SLXがそれぞれモデルチェンジし、最新のXTR(M9100系)と同じ世代のスペックが搭載されることとなった。今回のDEORE XT/SLXのハッシュタグ付テーマは #Make Your Mark(=爪痕を残せ)。2つのコンポーネントはエントリーユーザーからトレイルを愛するコアなライダーまで、オフロードへ向かうマウンテンバイカー全ての期待に応えるだろう。
シマノがDEORE XTとSLXの発表会場として選んだのは、スペインで大々的に開催された、シーオッター・ヨーロッパであった。その開催地ジローナは、地中海にほど近い温暖な気候に加え、街の中心部を抜けるとすぐにライドに好適な丘陵地帯が広がることから、近年はサイクリストが集まる街として知られる。その地にアメリカから〝シーオッター〟が持ち込まれたのが3年前。ジローナの中心街からほど近い都市公園をメーン会場に、UCIレース/オリエンテーリング形式のオンロードツーリング/グラベルレース/試乗/メーカーブース展示などが行われ、3日間で5万人ものサイクリストが訪れるという一大イベントが誕生したのだ。シマノにとって、新型DEORE XTとSLXの世界的な試乗会を開催するのにこのシーオッター・ヨーロッパは時期としても規模としても最適だったと言える。
特集の序章となる本編では、まずXTとSLXについて現物を確認してわかった全貌とカタログスペック以上の細部を紹介・解説していこう。
リア12スピード化を達成したDEORE XTとSLXが同時発表
フルモデルチェンジにより新たな規格で誕生したMTBコンポーネントDEORE XT(M8100シリーズ)とSLX(M7100シリーズ)は、ロードバイクで言うところのULTEGRAとシマノ105に相当する。大きなトピックはトランスミッションの変革だ。リアの変速が現在の主流である12スピードになったこと、そしてスプロケットのトップ歯数が10Tになったことだ。いずれもXTRで先行させていたスペックを採用することになる。
またブレーキに関しては、XTRのエンデューロ用レバー(BL-M9120)の基本設計を踏襲している。ブレーキレバーとシフターを一体化させる〝IスペックEV〟の取り付けインターフェイスもM9100系XTRと共通となっており、角度で約60度、左右方向で約14mmという広い調整範囲もそのまま採用されている。このように、上位3グレードの基本設計を共通化させることで互換性をもつ、MTBコンポーネントにおけるシマノの万全なるリア12スピード体制が構築されたことになる。
グレードの目的が明確な、XTR/DEORE XT/SLXのディテール差違
ここでMTBコンポ上位3グレードの違いや共通点を精査してみたいと思う。最上位に位置するXTRには、レーシングコンポとしてレーサーが求める仕様が惜しみなく注ぎ込まれている。使用される素材にしても、アルミ/カーボン/チタン/マグネシウムといった軽量なマテリアルを、適材適所で配置することで性能を追求している。DEORE XTは〝レーシング〟の要素を抑えて〝トレイルライド〟に重きを置いているのが特徴だ。高価な軽量素材がXTRほどふんだんに使われることはなく、質実剛健な素材と構造。またクランクのQファクターなどもXTRよりも広めに取られ、チェーンステーとのクリアランスや、悪路での乗車バランスの取りやすさが優先される。
そのDEORE XTをコスト面でより抑えたのがSLXだ。ライディングに大きな影響を及ぼさないであろう細かな調整機構は簡素化されるが、一般的なレベルでの使用感においては変わらない性能を実現している。
ワイドレシオとクロスレシオ。2種の歯数構成を踏襲したスプロケット
スプロケットの歯数構成はXTR(CS-M9100)と同じだ。10~51Tのワイドレシオと、10~45Tのクロスレシオから選択可能。フロントシングルで使用するのならワイドレシオの組み合わせが想定されており、軽量化と左シフターを用いないシンプルなコクピット周りが実現できる。
フロントギヤに変速を用いるダブル仕様では、クロスレシオのスプロケットが想定されている。マラソン系の長距離ライドで、常に「欲しいギヤ比」を手にすることが可能となり、肉体的な疲労軽減が目指せるからだ。
歯数構成や取り付け方法こそXTRと同一だが、しかしその構成素材は異なる。DEORE XT(CS-M8100)では、ロー側2枚がアルミ製、それ以外の9枚がスチール製の歯先。これがSLX(CS-M7100)になると、ロー1枚のみがアルミ製だ。ちなみにXTRではトップ側から順に、ステンレス(4枚)/チタン(5枚)/アルミ(3枚)という贅沢な仕様になっている。
12スピード用の〝SGS〟仕様に絞ったリアディレーラー
Rディレーラーは51Tワイドレシオに対応するフロントシングル用(RD-M8100/RD-M7100)と、ロー45Tスプロケットに対応する同ダブル用(RD-M8120/RD-M7120)の2種類が各グレードで用意される。ゲージの長さはキャパシティの大きなSGSに限られることになる。XTRがエンデューロ系レーサーが求める『フロントシングル×45T』という組み合わせを想定して、小振りな〝GS仕様〟をラインナップしているのとは対照的だ。
大型化された13Tプーリーや、チェーン暴れを防ぐスタビライザー機構、横への張り出しが抑えられたシャドーRD+などはXTRに引き続いて採用され、シフターとの互換性も保たれる。一方で、スタビライザーのON/OFFレバーや各種調整ボルト類の素材、プーリーの軸部分の構造(ベアリングの有無等)にはグレードで差が設けられ、それらは価格へと反映されることになる。
12スピード専用化されたシフトレバー
リアディレーラーをコントロールするシフターは、コンベンショナルなバンド式(SL-M8100-R/SL-M7100-R)と、ブレーキレバーと一体化可能なIスペックEV仕様(SL-M8100-IR/SL-M7100-IR)の2種類。ともに12スピード専用となる。マルチリリースのように一気に変速できる段数は、DEORE XTではトップ側へ2段/ロー側へ4段。これはXTRと同等の仕様である。対するSLXは、トップ側へは1段ずつ/ロー側へは3段となる。SLXでは内部のカム(歯車)構造が簡略化されたことで、マルチ変速は限定的となった。SL-M8100-IRレバーのシフティングは、RD-M8100-SGSと組み合わせることで前モデル(SL-M8000-IR)比で-35%操作力が軽減されている。加えて、固定位置の調整範囲やレバー形状の見直しにより、レバーへのアクセスを20%向上させている。
レバーアクセスを向上させたフロント変速用モノレバー
フロントディレーラーをコントロールする左レバーもまた、バンド式(SL-M8100-l/SL-M7100-L)と、ブレーキレバーと一体化可能なIスペックEV仕様(SL-M8100-IL/SL-M7100-IL)が用意される。1本のレバーで操作する〝モノレバー〟がXTRに引き続き採用されている。レバーのモノ化によるメリットは、直感的な操作がしやすいという他にも、コクピット左側の簡素化に役立つということも見逃せない。サスペンションのロックアウトや、ドロッパーポストなど、左手で〝リモートレバー〟を操作するケースが増え、ここ数年は急激に左グリップ付近が煩雑になっているからだ。
なお、リア用シフター同様、IスペックEV仕様においては、レバーへのアクセスが20%向上(SL-M8000-IL比)し、素早いシフトチェンジが可能となっている。
サイドスイングに集約されるフロントディレーラー
シマノが作り出す変速技術の高さを最も良く表しているのが、フロントディレーラーの存在だろう。そもそもチェーンやチェーンリング歯先へのストレスが大きいエリアにも関わらず、それをいとも簡単に変速させてしまうのである。とはいえ、昨今はフロントをシングルで組むユーザーも増えたこともあり、フロントディレーラーはサイドスイング式に集約されることとなった。そしてクランクのチェーンラインも、48.8mm/51.8mmの両方に対応できるように工夫されている。たとえばDEORE XTの場合、前作(M8000系)ではケーブルを引く方向やガイドプレートのスイング方法、チェーンラインの違いにより、実に12種ものフロントディレーラーが存在していたが、それがフレーム側のマウント方式の違いによる3バリエーションになったのである。
センターロック式で簡単にチェーンリング交換可能になったクランクセット
フロントシングルユーザーの増加は、チェーンリング交換の頻度を高めることになっている。つまり、脚力やコースの登坂斜度、ルートで想定される巡航速度によって、チェーンリングの歯数を変える必要性が出てきたとも言える。
クランクの軸付近に設けられたロックナットによるセンターロック方式は、素早いチェーンリング交換にもはや不可欠な仕様となるが、DEORE XT/SLXでももちろん採用される。
ただし、XTRがスパイダー部分までアルミ合金による一体成型で軽量化を求めているのに対して、DEORE XT/SLXのシングル用チェーンリングは、ともにアルミスパイダーにスチール製の歯先が組み合わされる。重量面では多少犠牲になるが、耐摩耗性は大きく向上されることとなった。
チェーン外れを防ぐ12スピード専用チェーン
リアの多段化に伴い、チェーンはより薄い12スピード専用品だ。基本的なデザインはXTR(CN-M9100)と共通で、チェーンを繋ぐ専用クイックリンクは、XTRと同一のSM-CN910-12を使用する。チェーンリングおよびスプロケットの歯先形状と合わせて設計することで、歯先とのスムーズな作動と、両者のエンゲージメント(嵌合性)強化がもたらされている。
IスペックEVに対応するブレーキレバー
DEORE XT/SLXのブレーキレバーの形状は、XTRのトレイルバージョン(BL-M9120)をベースとしている。つまり、レバーのイニシアル位置を調整するためのダイヤルが外観上の特徴になっているのと同時に、〝サーボウエーブ機構〟を搭載することで、ブレーキパッドの素早いコンタクトと、強い制動力が両立されている。
DEORE XTでは、レバーのフリーストローク(いわゆる〝遊び量〟)を調整できるのに対して、SLXでは省かれている。また、XTRに設定されているXCレーシング仕様(BL-M9100)のような軽量に徹したバージョンは両者とも存在せず、1種類のレバーに集約されている。ともにIスペックEVに対応しており、グレードを超えてIスペックEV仕様のシフターを一体化させることが可能となっている。
求める制動力に対応した2種類のブレーキキャリパーを用意
ブレーキレバーが1種類なのに対して、キャリパーはXC用2ピストン(BR-M8100/BR-7100)と、トレイル/エンデューロ用4ピストン(BR-M8120/BR-M7120)の2種類が用意される。このうち、2ピストンは先代(BR-M8000など)から設計が引き継がれているため、ブレーキパッドも流用可能。ただし、新型XTR(BR-M9100)は、キャリパーを小型化するためにロードバイク系のパッドが組み合わされるため、XTRとDEORE XT/SLXの間でパッドの互換性はない。
一方の4ピストン仕様は、XTRのエンデューロ用(BR-M9120)のコンストラクションがそのまま用いられる。BR-M8000に対して制動力は約10%強化されており、タイヤの接地面積が増える傾向にある昨今のバイクに最適化されている。もちろんパッドはXTRと共通だが、BR-M8020やBR-M640(ZEE)のフィン無し4ピストン用パッドも流用可能となっている。
フリーハブはマイクロスプライン化され、新型スプロケット専用に
前後のハブは全て〝Eスルー〟と呼ばれるスルーアクスルタイプ。フロントは15×100mm幅/110mm幅の2種類、リアは12×142mm/148mm/157mmの3種類がラインナップされる。リアのフリーボディは、すべてマイクロスプラインのみ。10Tトップのスプロケットには不可欠なスペックだ。
そしてDEORE XTにおいては、XTRに続いてストレートプル用のフランジが用意される。スポークをストレートプル化することにより、スポーク折れのリスクが低減するだけでなく、ホイールの剛性・強度ともに向上させやすいため、中堅以上のグレードでは標準化されつつある。
DEORE XTグレードでシマノ純正の新規格完組ホイールが用意される
XTRがM9100へとアップデートされて以降、マイクロスプライン仕様の新規格ホイールセットが待たれていた。それがDEORE XTグレードで実現することになる。DEORE XTホイールセットでは、コンベンショナルなJベンドスポーク仕様のWH-M8120に加え、より高い組み上げ剛性が期待できるストレートプルスポーク仕様のWH-M8100も用意。さらに、リム幅は2種類(内幅30mm(WH-M8120)/同24mm(WH-M8100))、ホイール径も2種類(29インチ/27.5インチ)という、多彩なバリエーション。
SLXグレードに該当するWH-MT620は、Jベンドスポーク/30mm幅リムに限られるものの、ホイール径は29インチと27.5インチの2種類。DEORE XT/SLXともに、O.L.D.はフロント110mm/リア148mmで、リムはチューブレス対応となっている。
次頁ではスペインでのトレイル実走インプレッションをお届けする。
取材・文:鏑木裕 写真:綾野真 構成:シクロワイアード編集部 提供:シマノ