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新型DOGMA F12特集第2章では、イタリア・トレヴィーゾのピナレロ本社で行ったインタビューの模様を紹介する。開発の陣頭指揮を採ったミケーレ・ボッテオン氏、そしてピナレロ代表のファウスト・ピナレロ氏に、F12のことを深く聞いた。

ミケーレ・ボッテオン氏(R&Dコーディネイター)

「ディスク版も、リムブレーキ版も本気で開発に取り組んだ」

DOGMA F12開発の陣頭指揮を採ったミケーレ・ボッテオン氏(R&Dコーディネイター)DOGMA F12開発の陣頭指揮を採ったミケーレ・ボッテオン氏(R&Dコーディネイター) photo:So.Isobe
― 今日は多忙の中ありがとうございます。まずはF12の基本コンセプトについて教えてもらえますか?

我々は平地でも山岳でも武器になるオールラウンドレーサーを作ることに終始してきましたし、このF12でもそれは一切変わりません。エアロに優れている8kgのバイクも、6.0kgで安定性の欠落したバイクにも我々は一切興味ないのです。

プロ選手はホイール交換上の問題があるためまだリムブレーキを選びますが、一般ユーザーにとってのディスクブレーキの波はもうここまで来ていますし、それが今DOGMA F12をデビューさせた理由。従来はリムブレーキバージョンを作ってからディスクバージョンを追加する手法でしたが、F12はディスクバージョンとリムブレーキバージョンを並行して作り上げました。もちろんディスク版とリム版で共通する部分も多いですが、どちらもピュアな、本当のDOGMAなのです。

「ディスク版もリム版も、どちらも本当のDOGMA」「ディスク版もリム版も、どちらも本当のDOGMA」 photo:So.Isobe
― ディスクブレーキ版に関して従来と最も変化の大きい部分は?

完全新設計となったフロントフォーク。有機的な曲線の組み合わせが美しい完全新設計となったフロントフォーク。有機的な曲線の組み合わせが美しい photo:Makoto.AYANO当然のことながらフロントフォークです。左側にキャリパーが搭載されているためブレーキング時には左フォークがたわむのですが、F10開発時よりも進んだFEM解析を導入することで、フォークの厚みやシェイプを完全に再設計し直しました。

そしてその上で、より進んだONDAフォークは剛性や快適性に貢献するだけでなく、ディスクブレーキが引き起こす様々な問題にも大きな解決作となっています。もちろん様々な形状をテストしましたが、現時点ではこの形状が最適解。同様の理由でチェーンステーもF10 DISKに比べて大きく変化しています。

― 「Think Asymmetric」ですね。

その通り。左右非対称はDOGMAのDNAですから。今ではどのブランドも採用していますが、我々の先駆者たるノウハウの集積量は非常に大きなものです。例えばリムブレーキバージョンにここまでの変化はなく、チェーンステーはストレート形状ですし、フォークはほぼ左右対称です。

また、リムブレーキバージョンはダイレクトマウントキャリパーに変更しましたが、多くのブランドはキャリパーの強力な制動力に対する対策ができておらず、フレームがたわむことで性能を活かしきれていません。我々は内部にブリッジ状のインサートを内装することでフレームとフォークの広がりを完璧に抑えたため、F10との比較でブレーキ性能は明確に向上しています。

フロントフォークは幾多もの形状が検討され、最終的に36通りの形状の中からベストが選ばれたというフロントフォークは幾多もの形状が検討され、最終的に36通りの形状の中からベストが選ばれたという (c)Pinarello
― エアロ化を推し進めたこともポイントですね。しかもケーブルやワイヤー類はフル内装化しているのに、使い勝手も研究されている。

40km/h走行時ではF10に比べて8ワットもセーブできます。悪くはないですよね(笑)。例えばサーヴェロのS5はモデルチェンジに伴って5.5ワットの空力向上を謳っていますが、こちらも決して見劣りしません。エアロロードとして比較した場合も第一線級だと自信を持って言うことができます。

ベアリングの大径化に伴いボリュームアップしたヘッドチューブ周り。ただし断面形状を工夫しているため空力に影響は無いというベアリングの大径化に伴いボリュームアップしたヘッドチューブ周り。ただし断面形状を工夫しているため空力に影響は無いという (c)Pinarello電動/機械式を問わずケーブル類のフル内装化を達成している電動/機械式を問わずケーブル類のフル内装化を達成している (c)PinarelloフォークはF10(緑)と比較して前後方向に伸ばすことでエアフローを最適化フォークはF10(緑)と比較して前後方向に伸ばすことでエアフローを最適化 (c)Pinarello


エアロロードだからと言ってユーザーの使い勝手や選択肢、そして整備性を無視するのは良くありません。チームスカイも大多数がTALON Ultraを使いますが、数人はノーマルハンドル&ステムを選ぶようですね。このあたりは選択肢を強制せずに良かったと感じています。

他ブランドではUCIレースの際に外す必要のある空力パーツを搭載しているエアロロードもありますが、DOGMAはチームイネオスが使うためのバイクですから、そんなコマーシャル的なことはしたくなかった。より空力性能を向上させるアイディアを組み込む予定もありましたが、UCIの了承が取れなかったため見送ったという経緯もあります。「100%プロ選手のため」がDOGMAの歴史ですからね。もしUCIが設計制約を緩和してくれたらもっと面白いバイクが作れるのに!と思いますが...。

― 見た目のボリュームアップを果たしているのにも関わらず、重量はそのままです。その理由は?

徹底的にカーボン積層を見直したから、です。加えてフル内装ルーティングによってケーブルストッパーを取り除き、リアエンドの締込み部分も、F10まではエンドの内側と外側両方で挟み込む補強用金属パーツを内蔵していましたが、F12は外側だけに薄いインサートを仕込むことで、強度はそのままに10gを減らしました。

「リアエンド締め込み部分を補強する金属パーツも軽量化し、10gを稼ぎました」「リアエンド締め込み部分を補強する金属パーツも軽量化し、10gを稼ぎました」 photo:So.Isobe
そのようなデータに残る部分だけではなく、音鳴りや擦れを防ぐためにリムブレーキバージョンのフレーム内部にはフォーム状の部品を仕込み、ディスクブレーキバージョンの場合はブレーキホースを留めるプラスチッククリップを用いることでライド中のストレスを極力減らすようにしています。

― F10以上に剛性強化するとなると、一般ライダーは乗りこなせないバイクになってしまうのでは?

BBとチェーンステーは対ねじれ剛性を大幅に強化。結果的に+10%の横剛性向上を叶えたBBとチェーンステーは対ねじれ剛性を大幅に強化。結果的に+10%の横剛性向上を叶えた (c)Pinarello基本的にはトップレースで勝つためのバイクですので、もちろんスキルの無い方が長距離を乗る上では別の選択肢があるでしょう。ただしシートステーを中心にシートチューブからシートポストの快適性は、数値的はF10と全く共通です。剛性強化とはBBとチェーンステーを中心にパワー伝達性能の強化を図るという意味です。

そして快適性という意味ではもう一つ、28cタイヤをスタンダードとして設計したことがF10からの変化。プロレースは25Cですが、世界的に一般ユーザーのスタンダードは28Cとなることが考えられます。選択肢を増やすという意味でもワイドクリアランスがもたらす意味は少なくありません。

― グラベルロードのGREVILにも似たフレームデザインが目新しく、鮮烈な印象を受けます。

本社に飾られていたグラベルロードのGREVIL。F12と共に今後のデザインスタンダードとなっていくという本社に飾られていたグラベルロードのGREVIL。F12と共に今後のデザインスタンダードとなっていくという photo:So.Isobe実はDOGMAとGREVILのデザイナーが共通なんです。彼が描いた美しいデザインスケッチを元に、F10よりもモダンで美しいバイクを作ろうという目標のもと、そのデザインがどのように機能するのかを検証するところから開発を始めました。

現在の業界的にはコンパクトなリアバックを備えた直線的なデザインが主流ですが、それだとピナレロらしい唯一無二の美しさは消え去ってしまう。ですからデザイン、重量、そして剛性のバランスを完璧に融合できる着地点を求めて解析や研究を行ったのです。ただしDOGMAはGREVILよりもエアロや重量に関してシビアに設計を行う必要がありますから、デザインとしてはGREVILの方がアグレッシブですね。

例えばフレームのカーブしたデザインは剛性を落とさないか心配でしたが、解析の結果、直線的なデザインと比べた際特に数値的な変化がないという答えに辿り着きました。それならばルックスを優先してデザインを残しました。エンジニアとしてデザインと機能性の着地点を探ることは非常に大変な作業ではありますが、F12に関してはとても良い出来だと自負しています。

― ということは、これがピナレロのモダンスタンダードになってくるということでしょうか?

まさしくその通りです。

― 選手たちの反応はどのようなものでしたか?

チームカラーのDOGMA F12に乗るクリストファー・フルーム(イギリス、チームイネオス)チームカラーのDOGMA F12に乗るクリストファー・フルーム(イギリス、チームイネオス) (c)www.elite-it.com
F10から引き続きステム上にスペーサーを積むことが可能だF10から引き続きステム上にスペーサーを積むことが可能だ (c)Pinarello非常に好印象でした。すでにF10の時点でダメ出しはほとんど無かったのですが、特にBB周辺の剛性強化はすぐに気づいてもらえましたし、ダウンヒルでの安定性も向上したという意見をもらいました。

また、ワイヤールーティングも可能な限りシンプルになるよう設計したため、メカニックからはこれまでと整備時間が変わらなくて良いと好印象でしたね。コラムスペーサーをステム上に積めるようにしているので、特に選手のポジションが変わりやすい時期、いちいちコラムカットをせずに済むのは助かるとのことです。これは一般ユーザーにも当てはまりますね。

F12はピナレロが自信を持って送り出すバイクです。選手はもちろん、世界中の皆さんが気に入ってくれたら嬉しいですね。

ミケーレ・ボッテオン氏プロフィール

R&D(開発)部門を指揮するコーディネーター。スキー業界のエンジニアとして20年間金属やカーボン素材に携わり、その経験を活かして2017年8月にピナレロへと新加入した。スキー業界在籍時から熱烈なピナレロファンで、同社が運営するクラブチーム「TEAM GF PINARELLO」のメンバーとしてアマチュアレースで競いあってきた、走れて頼れるエンジニア。


ファウスト・ピナレロ氏(ピナレロ代表)

「DOGMAがDOGMAであり続けることを重視した」

ファウスト・ピナレロ氏:「DOGMAがDOGMAであり続けることを重視した」ファウスト・ピナレロ氏:「DOGMAがDOGMAであり続けることを重視した」 photo:So.Isobe
― F12の発表おめでとうございます。それにしてもF8、F10、F12と非常に速い開発スピードには驚かされます。

2シーズンごとに新型DOGMAを発表してきましたが、それは我々が歩みを止めないことの証です。今はF12が開発チームの手を離れましたが、次なるバイクの開発はすでに始まっているのです。F12に乗った選手たちの話を聞き、世界中のピナレロファンの意見を聞き、さらなる性能を追い求めていく。ここ1年でもBOLIDE TRやGREVIL、DOGMA FS、F12、US市場向けのEバイクといくつもの主力製品をプロデュースしました。もちろんタフなことではありますが、それが我々の使命です。

― 代表として開発陣に指示したことは?

重要視したのは、DOGMAがDOGMAであり続けることです。エアロフォルム、ONDAフォーク、シーストテー。F12はBOLIDEをベースに特に空力性能を推し進めていますが、一台であらゆる場面に対応するというキャラクター、そしてルックスは脈々と受け継がれてきたDOGMAのDNAに一切背きません。

そして我々はイタリアンブランドとして、スタイリングにも重きを置いています。仮に性能が良くてもペイントも含めて美しくなければ、それはピナレロスタイルに反するものなのです。

― もちろんF12を試したと思いますが、ホビーライダーとしての感想は?

「ワオ!このバイクは自分には速すぎる!」と思いましたね(笑)。本当にそう思うほどの究極のハイパフォーマンスバイクです。先週はクリス(フルーム)とG(トーマス)と一緒にモンテカルロでプロモーション撮影を行い、6〜7kmの峠を上り下りしました。途中で彼ら二人に押されたりもしましたが(笑)、とにかくF12は登りも下りも速く、そして安定性が高い。その際はリムブレーキバージョンでしたが、ダイレクトマウントブレーキに対しての専用設計のおかげでブレーキの制動力が非常に高いんです。

彼らもF12の進化を感じて喜んでいましたし、自転車好きのいち個人として、楽しそうにF12を操る世界トップライダー二人と一緒にライドできたことは素晴らしい瞬間でした。「ああ、スタッフと一緒に頑張ってこのバイクを作った甲斐があったな」と思えましたね。でもそれは、相手がトップ選手だからそう思ったわけではありません。これからデリバリーされる、日本をはじめ世界中のピナレロファンの笑顔を早く見たいものです。

提供:ピナレロジャパン text:So.Isobe