2019/02/28(木) - 16:09
プレゼンテーションでは2日間をかけ、ロードバイクで、そしてグラベルバイクでRED eTAP AXSをテストする機会に恵まれた。歯数構成、チェーンマネジメント、そしてブレーキとシフトの操作感。全てが新しく生まれ変わったRED eTAP AXSは、期待を一切裏切ることのない、魅力溢れるロードコンポーネントだった。
プレゼンテーションの舞台となったアリゾナ州のツーソンは、ロサンゼルスから空路でおよそ1時間半の場所にある。州都のフェニックスよりもメキシコ国境のほうが近く、その距離およそ50km。そのため地名や食事など、この地はラテン文化が色濃く映り込む。
発表会会場となった郊外のリゾートホテル周辺は、見渡す限り砂に覆われた岩山が続き、アニメに登場しそうな巨大サボテンが立ち並ぶ。厳冬期を迎えているスラムの本社があるシカゴに代わり、1月だというのに半袖で過ごせるツーソンでテストライドが行われた。
トレックやスコット、あるいはパーリーなど、スラムとパートナーシップを組む多数の試乗車が用意された中、筆者に充てがわれたのはスペシャライズドのS-WORKS TARMAC DISCだった。爽やかなグリーン/ブルー迷彩を纏う車体にはもちろんRED eTAP AXSが組み込まれ、ホイールは45mmハイトのリム高を持つジップの303 NSWクリンチャー。ハンドルやステム、ボトルケージ、果てはタイヤまでジップ製品で揃えられた戦闘的なルックスに、正直かなり心が揺さぶられる。
複雑なデザインで構成されるチェーンリングや、スラムのお家芸とも言える削り出しのカセット、そして抜群の存在感を放つフラットトップチェーン。実際に目の当たりにするRED eTAP AXSは写真で見るよりもずっと美しく緻密で、工業製品としての完成度の高さが見た目から伝わってくるようだ。久しぶりに、ワクワクする製品に出会ってしまったと感じた。
試乗車のギア構成を記しておくと、チェーンリングが中間の48/35Tで、カセットは10-11-12-13-14-15-17-19-21-24-28-33という歯数構成を持つ10-33。これはチェーンリングを52/36Tで計算すると、カセットはトップ10.8-ロー33.9に相当する、最も多くのユーザーにフィットする設定だ。これだけのワイドレシオでなお1T刻みがトップ側5段も確保されているのは非常に興味深い。
今回テストライドを共にしたのは、アメリカやイギリスなど英語圏のメディアを中心に、スラムの首脳陣を加えた20名ほど。シクロクロスを専門に扱うメディアが招かれていたことも、グラベルユースを踏まえた新型REDの発表会らしさを感じる。野辺山シクロクロス以来2ヶ月ぶりに再会したエミリー・カチョレック(スクィッドスクァッドはスラムのサポートチームだ)らと共に、はやる心を抑えながらペダルを踏み込んだ。
まずはRED eTAP AXSの目玉であるX-RANGE ギアリングや変速性能の違いに注目…と構えていたのだが、意外や意外、真っ先に進化を感じたのはチェーンの駆動抵抗の少なさだった。
従来のチェーン(先代REDもシマノも)の駆動音が「ジー」だとしたら、新型REDのフラットトップチェーンは「ツー」だろうか(陳腐な表現で申し訳ない)。今まで考えたこともなかったけれど、従来のどんなチェーンでもペダリング中にチェーン1コマ1コマの存在感があったんだな、と感じるくらいに、新型REDのチェーンは駆動面でも"フラット"だ。発表会ではチェーンピンの大径化程度しか触れられなかったことだが、単純に、あ、これは凄いな、と思えるほど差は大きい。
そんな軽やかな駆動も効いているのだろう。新型REDは肝心の変速性能も大きく向上していた。12速化に伴うスプロケット&チェーンの薄型化やクロスレシオ、そしてディレイラーモーターやシフトボタンとの通信速度の改良など様々な要因が絡んでいるのだが、フロント・リア問わずチェーンラインがツルリと移動し、決められた位置にスッと決まる。
絶対的な変速スピードは1段ずつの動き、あるいは多段変速でもデュラエースに軍配が上がるものの、その差はごく僅かであり、先代REDと比較すれば特にフロント側のスピードに磨きが掛かったことは、シリアスレーサーを中心として多くのユーザーに歓迎されるべき点。高級な機械式時計のようにカシッと変速する新型REDと、力強く変速するデュラエースとの味付けの差が面白い。
だからと言って、新型REDの変速が弱いということもない。テストライド2日目は46/33+10-33Tを搭載したグラベルバイクを駆り、キャタピラ跡が刻み込まれた洗濯板のようなフラットロードを高速集団走行したのだが、バイクが激しく揺さぶられるそんな状況で、あえてスプリントしながらの変速操作を行っても(当たり前かもしれないが)問題なく対応してくれる。
これはチェーンリングの歯数差が小さくなっていることに加え、リアディレラーに組み込まれた油圧ダンパーの働きが大きいのだろう。
実際にリアディレイラーを手で動作させると分かるのだが、例えば機械式のクラッチと強力なスプリングテンションでチェーン暴れを抑えるFORCE 1と比較すると、スプリングテンションは明らかに低く、チェーンを引っ張ることで生まれる抵抗は少ない。それでいて油圧ダンパーの機能によって衝撃に対する動きがマイルドになるため、上記のような悪条件下でも操作性の悪化は感じなかった。隣を走るバイクのリアディレイラーの動きを見ると、衝撃に対して突っ張るのではなく、無理なくいなしている感じ。
新型REDをグラベルやシクロクロス用として選ぶユーザーは少数派だろうが、例えば不意の衝撃からチェーンステーの傷つきを最小限に抑えてくれるなど、オンロードユースでもメリットは少なくない。
加えて、普段FORCE 1で11-36カセットを使用している筆者にとって、特にロー側にシフトダウンする際の無理やり感がほぼ無くなったことに驚かされた。eTAPでロー側33Tの新型REDと機械式変速でロー側36TのFORCE 1の比較だけに平等ではないが、変速感はスプロケットのミドル域とほぼ同じ。ライド前こそ、いくらフロントチェーンリングが小さくなったとはいえ10-33カセットのロー側の28T→33Tという5段飛びを疑問に感じていたが、これならばトップ側のクロスレシオ化が単純なメリットとして浮き上がる。ワイドレンジのメリットは言わずもがな、緩い勾配変化に対するクロスレシオの有効性は改めて大きな発見となった。
ただ1点注意したいのが、リアディレイラー組み付け時の位置決めを確実に行ってほしい、ということ。XDRフリーボディは1.85mmワイド化されているが、スプロケットやチェーンが薄型化されているため調整は当然シビアとなる。調整が僅かに狂っていたテストバイクのチェーンが内側に落ちるシーンを見かけたこともリマインドとして書き記しておきたい。
ディスクブレーキのタッチも若干様変わりしている。特に構造的変化は謳われなかったものの、制動力の立ち上がりがクリアかつトルクフルになり、先代に感じていた効き始めの曖昧さが薄くなった。ブレーキレバーを操作した瞬間一直線に制動力が立ち上がる(ように感じる)デュラエースとは異なり、もう少し二次曲線的な効き方をする。
これは完全に好みの問題だが、個人的にはデュラエースよりも操作感に深みがある新型REDのブレーキタッチが好みで、先代REDで最も好きになれなかった安っぽくプラスチッキーなシフトボタンのフィーリングが、「コクッ」と上質なものに変化したことも食指を動かされたポイント。クルマのシフトやドアの動作しかり、高級家電の動作しかり、高級な趣味のアイテムに必要な要素がRED eTAP AXSには与えられている。
テスト当初こそ特殊な歯数構成に対する慣れが必要だったが、2日間オンオフ問わず乗り倒してみても、不満なんて当然感じることはなく、スラムらしい革新的なアイディアを多数投入しながらも、従来を上回る性能と、上質な操作感を融合させたことに感銘を受けるばかり。シマノ互換を捨て、これまでのロードコンポーネントとは全くの別物に仕上げられたRED eTAP AXSだが、そこには短期間のうちに一大コンポーネントブランドに成長した、スラムのアイデンティティが多数詰め込まれている。
ロードコンポーネントの新たな水平線を開拓する、RED eTAP AXS。ワクワクを裏切らない。そんな魅惑溢れるアイテムが登場した。
次章では、プレゼンテーションでの開発陣に対するインタビューを紹介する。開発陣しか語れない開発秘話や、細部の数値とは。乞うご期待。
オンオフ取り混ぜた、2日間のテストライド
プレゼンテーションの舞台となったアリゾナ州のツーソンは、ロサンゼルスから空路でおよそ1時間半の場所にある。州都のフェニックスよりもメキシコ国境のほうが近く、その距離およそ50km。そのため地名や食事など、この地はラテン文化が色濃く映り込む。
発表会会場となった郊外のリゾートホテル周辺は、見渡す限り砂に覆われた岩山が続き、アニメに登場しそうな巨大サボテンが立ち並ぶ。厳冬期を迎えているスラムの本社があるシカゴに代わり、1月だというのに半袖で過ごせるツーソンでテストライドが行われた。
トレックやスコット、あるいはパーリーなど、スラムとパートナーシップを組む多数の試乗車が用意された中、筆者に充てがわれたのはスペシャライズドのS-WORKS TARMAC DISCだった。爽やかなグリーン/ブルー迷彩を纏う車体にはもちろんRED eTAP AXSが組み込まれ、ホイールは45mmハイトのリム高を持つジップの303 NSWクリンチャー。ハンドルやステム、ボトルケージ、果てはタイヤまでジップ製品で揃えられた戦闘的なルックスに、正直かなり心が揺さぶられる。
複雑なデザインで構成されるチェーンリングや、スラムのお家芸とも言える削り出しのカセット、そして抜群の存在感を放つフラットトップチェーン。実際に目の当たりにするRED eTAP AXSは写真で見るよりもずっと美しく緻密で、工業製品としての完成度の高さが見た目から伝わってくるようだ。久しぶりに、ワクワクする製品に出会ってしまったと感じた。
試乗車のギア構成を記しておくと、チェーンリングが中間の48/35Tで、カセットは10-11-12-13-14-15-17-19-21-24-28-33という歯数構成を持つ10-33。これはチェーンリングを52/36Tで計算すると、カセットはトップ10.8-ロー33.9に相当する、最も多くのユーザーにフィットする設定だ。これだけのワイドレシオでなお1T刻みがトップ側5段も確保されているのは非常に興味深い。
今回テストライドを共にしたのは、アメリカやイギリスなど英語圏のメディアを中心に、スラムの首脳陣を加えた20名ほど。シクロクロスを専門に扱うメディアが招かれていたことも、グラベルユースを踏まえた新型REDの発表会らしさを感じる。野辺山シクロクロス以来2ヶ月ぶりに再会したエミリー・カチョレック(スクィッドスクァッドはスラムのサポートチームだ)らと共に、はやる心を抑えながらペダルを踏み込んだ。
低フリクションで、軽く滑らかな操作感に驚く
まずはRED eTAP AXSの目玉であるX-RANGE ギアリングや変速性能の違いに注目…と構えていたのだが、意外や意外、真っ先に進化を感じたのはチェーンの駆動抵抗の少なさだった。
従来のチェーン(先代REDもシマノも)の駆動音が「ジー」だとしたら、新型REDのフラットトップチェーンは「ツー」だろうか(陳腐な表現で申し訳ない)。今まで考えたこともなかったけれど、従来のどんなチェーンでもペダリング中にチェーン1コマ1コマの存在感があったんだな、と感じるくらいに、新型REDのチェーンは駆動面でも"フラット"だ。発表会ではチェーンピンの大径化程度しか触れられなかったことだが、単純に、あ、これは凄いな、と思えるほど差は大きい。
そんな軽やかな駆動も効いているのだろう。新型REDは肝心の変速性能も大きく向上していた。12速化に伴うスプロケット&チェーンの薄型化やクロスレシオ、そしてディレイラーモーターやシフトボタンとの通信速度の改良など様々な要因が絡んでいるのだが、フロント・リア問わずチェーンラインがツルリと移動し、決められた位置にスッと決まる。
絶対的な変速スピードは1段ずつの動き、あるいは多段変速でもデュラエースに軍配が上がるものの、その差はごく僅かであり、先代REDと比較すれば特にフロント側のスピードに磨きが掛かったことは、シリアスレーサーを中心として多くのユーザーに歓迎されるべき点。高級な機械式時計のようにカシッと変速する新型REDと、力強く変速するデュラエースとの味付けの差が面白い。
だからと言って、新型REDの変速が弱いということもない。テストライド2日目は46/33+10-33Tを搭載したグラベルバイクを駆り、キャタピラ跡が刻み込まれた洗濯板のようなフラットロードを高速集団走行したのだが、バイクが激しく揺さぶられるそんな状況で、あえてスプリントしながらの変速操作を行っても(当たり前かもしれないが)問題なく対応してくれる。
これはチェーンリングの歯数差が小さくなっていることに加え、リアディレラーに組み込まれた油圧ダンパーの働きが大きいのだろう。
実際にリアディレイラーを手で動作させると分かるのだが、例えば機械式のクラッチと強力なスプリングテンションでチェーン暴れを抑えるFORCE 1と比較すると、スプリングテンションは明らかに低く、チェーンを引っ張ることで生まれる抵抗は少ない。それでいて油圧ダンパーの機能によって衝撃に対する動きがマイルドになるため、上記のような悪条件下でも操作性の悪化は感じなかった。隣を走るバイクのリアディレイラーの動きを見ると、衝撃に対して突っ張るのではなく、無理なくいなしている感じ。
新型REDをグラベルやシクロクロス用として選ぶユーザーは少数派だろうが、例えば不意の衝撃からチェーンステーの傷つきを最小限に抑えてくれるなど、オンロードユースでもメリットは少なくない。
加えて、普段FORCE 1で11-36カセットを使用している筆者にとって、特にロー側にシフトダウンする際の無理やり感がほぼ無くなったことに驚かされた。eTAPでロー側33Tの新型REDと機械式変速でロー側36TのFORCE 1の比較だけに平等ではないが、変速感はスプロケットのミドル域とほぼ同じ。ライド前こそ、いくらフロントチェーンリングが小さくなったとはいえ10-33カセットのロー側の28T→33Tという5段飛びを疑問に感じていたが、これならばトップ側のクロスレシオ化が単純なメリットとして浮き上がる。ワイドレンジのメリットは言わずもがな、緩い勾配変化に対するクロスレシオの有効性は改めて大きな発見となった。
ただ1点注意したいのが、リアディレイラー組み付け時の位置決めを確実に行ってほしい、ということ。XDRフリーボディは1.85mmワイド化されているが、スプロケットやチェーンが薄型化されているため調整は当然シビアとなる。調整が僅かに狂っていたテストバイクのチェーンが内側に落ちるシーンを見かけたこともリマインドとして書き記しておきたい。
ディスクブレーキのタッチも若干様変わりしている。特に構造的変化は謳われなかったものの、制動力の立ち上がりがクリアかつトルクフルになり、先代に感じていた効き始めの曖昧さが薄くなった。ブレーキレバーを操作した瞬間一直線に制動力が立ち上がる(ように感じる)デュラエースとは異なり、もう少し二次曲線的な効き方をする。
これは完全に好みの問題だが、個人的にはデュラエースよりも操作感に深みがある新型REDのブレーキタッチが好みで、先代REDで最も好きになれなかった安っぽくプラスチッキーなシフトボタンのフィーリングが、「コクッ」と上質なものに変化したことも食指を動かされたポイント。クルマのシフトやドアの動作しかり、高級家電の動作しかり、高級な趣味のアイテムに必要な要素がRED eTAP AXSには与えられている。
テスト当初こそ特殊な歯数構成に対する慣れが必要だったが、2日間オンオフ問わず乗り倒してみても、不満なんて当然感じることはなく、スラムらしい革新的なアイディアを多数投入しながらも、従来を上回る性能と、上質な操作感を融合させたことに感銘を受けるばかり。シマノ互換を捨て、これまでのロードコンポーネントとは全くの別物に仕上げられたRED eTAP AXSだが、そこには短期間のうちに一大コンポーネントブランドに成長した、スラムのアイデンティティが多数詰め込まれている。
ロードコンポーネントの新たな水平線を開拓する、RED eTAP AXS。ワクワクを裏切らない。そんな魅惑溢れるアイテムが登場した。
次章では、プレゼンテーションでの開発陣に対するインタビューを紹介する。開発陣しか語れない開発秘話や、細部の数値とは。乞うご期待。
text:So.Isobe 提供:インターマックス