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昨年末から話題を巻き起こしているスラム新型eTAPが遂にベールを脱ぐ。12速化とトップ10T化による新時代のギアリング、奇抜な形状のチェーン、新規格のBBを取り入れたRED、そしてeTAP化によってロードコンポとの互換性を持たせたMTB用EAGLE。CW編集部が参加したアメリカ、アリゾナ州でのグローバルキャンプの模様を通し、ロードコンポーネントの新たな章を切り開くREDを徹底的に紹介していきたい。

スラムの新時代コンポーネント、RED eTAP AXS、EAGLE AXSデビュー

プレゼンテーションを受けるロードバイク班のメンバープレゼンテーションを受けるロードバイク班のメンバー (c)SRAMプレゼン会場に用意された新型RED搭載の試乗車。全世界が注目するコンポーネントが姿を現したプレゼン会場に用意された新型RED搭載の試乗車。全世界が注目するコンポーネントが姿を現した (c)SRAM


ロサンゼルスから空路で1時間半。アリゾナ州南部の町ツーソンから30分も走ると、車窓には岩山にサボテンが立ち並ぶ、壮大な景観が見えてくる。絵に描いたような荒野の景観を楽しんでいるうちに、我々を載せたクルマはメディア発表会の舞台となるリゾートホテルに滑り込んだ。

本日2月6日の情報公開に2週間先駆けて開催された今回のグローバルプレスキャンプ。ロードフラッグシップREDの12速化、そしてMTBコンポーネントのeTAP化が発表されるとあって、北米を中心に多くのメディアを招聘するなど力の入れようも凄まじい。人目を避けるように設置されたテントの中で、AXS(アクセス)と名付けられた新型コンポーネントが姿を現した。

初披露されたRED eTAP AXS。革新をもたらす新時代のロードコンポーネントだ初披露されたRED eTAP AXS。革新をもたらす新時代のロードコンポーネントだ photo:So.Isobe
ツアー・ダウンアンダーでRED eTAP AXSの男子ワールドツアー初勝利を挙げたリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)ツアー・ダウンアンダーでRED eTAP AXSの男子ワールドツアー初勝利を挙げたリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード) photo:CorVos昨年の世界選手権でEAGLE AXSと共に7度目の世界選制覇を遂げたニノ・シューター(スイス)昨年の世界選手権でEAGLE AXSと共に7度目の世界選制覇を遂げたニノ・シューター(スイス) photo:UCI


昨年11月末のさいたまクリテリウムで目撃され、ロードシーズン幕開けを告げるツアー・ダウンアンダーからトレック・セガフレード、そしてカチューシャ・アルペシン、女子チームのCCC・リブが正式採用し、前シクロクロス世界王者のワウト・ファンアールト(ベルギー)が既に実戦投入を済ませている新型REDと、ニノ・シューター(スイス)のMTB世界選手権連覇を支えたEAGLE。

筆者はRED eTAP AXSについて学び体験するロード班の一員に加わり、プレゼンテーションとアリゾナの大地を舞台にグラベルも含む2日間のテストライド、そして開発者にインタビューする機会を得た。まずは新型REDの概要を説明していきたい。



12速化とトップ10Tが切り開く、新時代の「X-RANGE ギアリング」

2015年に初登場し、無線電動変速という新たな境地を切り開いた初代RED eTAP。第2世代となるRED eTAP AXSも前後ディレイラーにバッテリーを搭載(変速スイッチはボタン電池のCR2032)し、リアディレイラーが変速機能を司る点など基本的なシステムは先代を踏襲する。

RED eTAP AXSの注目すべき点は、そのギア構成に凝縮されていると言って過言ではない。

12速化とトップ10T、従来よりも小さなチェーンリングを組み合わせた「X-RANGE ギアリング」12速化とトップ10T、従来よりも小さなチェーンリングを組み合わせた「X-RANGE ギアリング」 (c)SRAM
「高速化するプロレース、多様化するホビーユーザーの走り方をカバーするギアがX-RANGE」「高速化するプロレース、多様化するホビーユーザーの走り方をカバーするギアがX-RANGE」 (c)SRAMカセットはXDよりも1.8mm広いXDRフリーボディの採用で12速化、そしてトップ10T化を果たした。写真は10-33カセットはXDよりも1.8mm広いXDRフリーボディの採用で12速化、そしてトップ10T化を果たした。写真は10-33 photo:So.Isobe


「今日、プロレースは高速化の一途を辿り、一方でアドベンチャーやグラベルライドなどホビーユーザーの楽しみ方は急速に多様化している。それなのにコンポーネントのギア構成は大昔から変わっておらず、そこに長らく疑問を抱いていた」とは、プレゼンテーションの冒頭で語られた言葉。そこで開発陣は12速化と、トップ10T化を可能とする「XDR」フリーボディ、そして従来よりもコンパクトなチェーンリングを組み合わせた「X-RANGE ギアリング」という全く新しい思想をRED eTAP AXSに取り入れた。

このX-RANGE ギアリングを構成するチェーンリングとカセットはそれぞれ3種類。チェーンリングは50/37、48/35、46/33で、カセットは10-26、10-28、10-33。もちろん全てのチェーンリングとカセットを掛け合わせることが可能だ。

50/37+10-26が従来プロレースで使われてきた53/39+11-25に相当し、48/35+10-28は一般ユーザー向けの52/36+11-28相当、そして46/33+10-33はロングライドやグラベル用の50/34+11-32を置き換える存在となる。

チェーンリングはダイレクトマウント化に伴いデザインを一新。2xの場合50/37、48/35、46/33の3種類が用意されるチェーンリングはダイレクトマウント化に伴いデザインを一新。2xの場合50/37、48/35、46/33の3種類が用意される photo:So.Isobe
TT/トライアスロン用のフロントシングルエアロチェーンリング。1x用リングは合計8種類用意されるTT/トライアスロン用のフロントシングルエアロチェーンリング。1x用リングは合計8種類用意される (c)SRAMシクロクロスバイクに取り付けられた38Tチェーンリングシクロクロスバイクに取り付けられた38Tチェーンリング photo:So.Isobe


細かなギア比やテクノロジーは次章で説明するが、今まで無いこの組み合わせによって、従来よりもワイドレンジをカバーしつつ、同時に12速化によってカセットのトップからミドル域に渡ってクロスレシオ化も達成。なお機械式変速は廃止され、電動シフト特化の完全新設計に切り替わったことでメカニカル的な進化も果たしているという。「12速化はもちろん大きなトピックだけど、それだけじゃない。トップレーサーからホビーユーザーまで、誰にとっても使いやすくなったことにも注目してほしいんだ」と開発者の一人は胸を張る。

ディスクブレーキ版に加えてこれまで同様リムブレーキもラインナップに残されており、リムブレーキユーザーには朗報だ。加えてTTやトライアスロン、グラベルロードに使われる1x(ワンバイ=フロントシングル)もREDグレードとして新たに(従来はForce以下グレードのみ)設定される。

"AXS(アクセス)"が意味するもの

スマートフォンのアプリを介してコンポーネントの各種設定が可能。これがAXS(アクセス)たる所以だスマートフォンのアプリを介してコンポーネントの各種設定が可能。これがAXS(アクセス)たる所以だ (c)SRAM
REDとEAGLEのどちらにも与えられた名称「AXS(読み方はアクセス)」は、Bluetooth接続したスマートフォンのアプリケーションを介してコンポーネントに「アクセス」するシステムを指すものだ。これによって好みのシフトモードや各ボタンの役割設定、バッテリー残量のチェック、エラー情報の表示、さらにはアップデートの実行など、ユーザーインターフェースという概念が与えられている。

スマートフォンとのペアリングはリアディレイラーのファンクションボタンを押すだけ。日本語版アプリも後日用意される予定。App Store(iPhone)もしくはGoogle Play(Android)からダウンロード可能だ。

シフトモード選択や各ボタンの役割設定、バッテリー残量のチェックなどがワイヤレスで操作可能シフトモード選択や各ボタンの役割設定、バッテリー残量のチェックなどがワイヤレスで操作可能 (c)SRAMシフトモードは2種類。新たにフロント変速を自動で行う「シーケンシャル」モードが追加されたシフトモードは2種類。新たにフロント変速を自動で行う「シーケンシャル」モードが追加された (c)SRAM最大4箇所設置可能な変速ボタン、BLIPSも継続。TT用も用意され、そのメリットは計り知れない最大4箇所設置可能な変速ボタン、BLIPSも継続。TT用も用意され、そのメリットは計り知れない (c)SRAM


RED eTAP AXSのシフトモードは3種類。ユーザーが任意に前後それぞれの操作を行う既存モードに加え、「シーケンシャル」、そして「コンペンセーティング」という2つの新機能を搭載している。

レーシングカー用トランスミッションと同じ名が与えられたシーケンシャルモードは、言うなればシマノDi2のシンクロナイズドシフトと同じく、リアシフト動作と連動して自動的にフロントディレイラーを動作させるもので、設定中であっても左右ボタン同時押しによる任意のフロント変速が可能。コンペンセーティングモードは日本語で「埋め補う」という意味の通り、フロントのシフト操作が行われた際にリアディレイラーを自動で操作し、ギア比の大きな変化を「埋め補って」くれるモードだ。

REDをメインに、EAGLEのリアディレイラーとカセットを投入したグラベルロード。互換性がもたらす広がりは大きいREDをメインに、EAGLEのリアディレイラーとカセットを投入したグラベルロード。互換性がもたらす広がりは大きい (c)SRAM
フロントシングルとロー50T。スラムが考える究極のファンバイクだフロントシングルとロー50T。スラムが考える究極のファンバイクだ (c)SRAMロードのシフトスイッチでロックショックスの新型ワイヤレス電動ドロッパーポスト「Reverb AXS」を操作可能にロードのシフトスイッチでロックショックスの新型ワイヤレス電動ドロッパーポスト「Reverb AXS」を操作可能に photo:So.Isobe


また、REDにはeTAP化を果たしたEAGLEとの互換性が与えられており、例えばREDにEAGLEのリアディレイラーと50Tカセットを組み込むことが可能に(この場合チェーンはEAGLE用を使用)。更にスラム傘下のロックショックスから同時登場するワイヤレス電動ドロッパーポスト「Reverb AXS」をロード用シフトボタンで操作できるなど、ロードバイクの枠を超えたセットアップも可能となった。もちろん最大4箇所増設可能なBLIPS(ブリップス)も引き継がれており、場合によってはEAGLEのシフトボタンも組み込める。それら組み合わせによって生まれる多様性は他社の追随を許さない。

なお、スラムの11速コンポーネントと互換性が持たされているのはディレイラーのバッテリーのみ。従来はフリーボディやチェーンといった駆動系パーツがシマノ互換だったが、それらも含め全てRED eTAP AXSは専用品で構成されるべく変化する。

発表と同時に一般発売開始 各ブランドからRED搭載完成車も続々リリース

デビューと同時に発売が開始されるRED eTAP AXS。手元に届くのも間も無くデビューと同時に発売が開始されるRED eTAP AXS。手元に届くのも間も無く (c)SRAM
驚くべきは、RED eTAP AXSはデビューと同時に一般発売も開始されることだ。「今までは発表から実売までのリーディングタイムが長く、これも改善点の一つとして捉えていた」とは、会場に同席した本国セールス担当者の談。

インターマックスから発売されるグループセット単体はもちろん、各バイクブランドからもRED eTAP AXSを搭載した完成車が本日より続々デビューする。夏から順次に発表される2020年モデルの完成車に正式採用するブランドも複数あり、新型REDに期待する声も非常に大きいという。REDのグループセット価格や、各ブランドのRED搭載完成車リストは以下の通り。完成車リストは今後数日のうちに続々更新される予定だ。
グループセット セット内容 税込価格
Red eTap AXS 1x Road シフター/リアディレイラー/バッテリー/バッテリーチャージャー 223,344円
Red eTap AXS 2x Road シフター/フロントディレイラー/リアディレイラー/バッテリー×2/バッテリーチャージャー 288,144円
Red eTap AXS 1x Aero BlipBox/650mm Blips×2/650mm Clics×2/リアディレイラー/バッテリー×1/バッテリーチャージャー 194,616円
Red eTap AXS 1x HRD(フラットマウント) HRDシフター&キャリパー/リアディレイラー/バッテリー×2/バッテリーチャージャー/センターラインXRローター×2(160mm 6ボルト) 295,272円
Red eTap AXS 2x HRD(フラットマウント) HRDシフター&キャリパー/フロントディレイラー/リアディレイラー/バッテリー×2/バッテリーチャージャー/センターラインXRローター×2(160mm 6ボルト) 359,964円
Red eTap AXS 2x HRD(ポストマウント) HRDシフター&キャリパー/フロントディレイラー/リアディレイラー/バッテリー×2/バッテリーチャージャー/センターラインXRローター×2(160mm 6ボルト) 359,964円
Red eTap AXS 1x HRD(ポストマウント) HRDシフター&キャリパー/リアディレイラー/バッテリー×2/バッテリーチャージャー/センターラインXRローター×2(160mm 6ボルト) 295,272円
3T
モデル名 歯数構成 価格
EXPLORO LTD RED eTap 2x12s 46/33T+10-28T 1,400,000円(税抜)
STRADA TEAM RED eTap 1x12s 46+10-33T 1,400,000円(税抜)
STRADA TEAM DUE RED eTap 2x12s 48/35+10-28T 1,400,000円(税抜)
スペシャライズド
モデル名 歯数構成 価格
S-WORKS VENGE DISC-SRAM ETAP 48/35T+10-33T 1,350,000円(税込)
S-WORKS TARMAC DISC-SRAM ETAP 48/35T+10-33T 1,134,000円(税込)
キャニオン
モデル名 歯数構成 価格
Aeroad CF SLX Disc 9.0 SL 50/37+10-28T 849,000円(税・送料別)
Ultimate CF SLX Disc 9.0 SL 48/35+10-28T 719,000円(税・送料別)
Endurace CF SLX Disc 9.0 SL 48/35+10-33T 719,000円(税・送料別)
トレック
プロジェクトワンでRED eTAP AXSを指定可能
次章では、X-RANGE ギアリングの詳細や、インパクト大のフラットトップチェーン、油圧ダンパーを取り入れたリアディレイラーなど、各項目のテクノロジーをより詳しく紹介していきたい。
text:So.Isobe 提供:インターマックス