2018/10/11(木) - 13:59
新造フェリー「おれんじえひめ」の優雅な船旅で四国入り
石鎚山系を巡る絶景天空RIDEのコースマップを手にした私たちは、一路大阪へ。普通なら飛行機でポンジュース湧き出る松山空港へとひとっ飛び、というところだけれども、今回は少し違ったアプローチにて。
向かうは大阪の海の玄関口・南港フェリーターミナル。そう、今回はゆったり船旅を楽しみつつ四国入りを目指すのだ。南港と西条市の東予港を結ぶオレンジフェリーが、この8月に就航させた新造船「おれんじえひめ」へ乗船。
なんとこのフェリー、完全に全室個室という豪華仕様。フェリーといえば2等船室で雑魚寝、なんてイメージを払拭するこのおれんじえひめは、次世代型フェリーとして有名経済ドキュメンタリー番組「ガイアの夜明け」に取り上げられたほど注目を集める一隻だ。
そんな新造船は、実はサイクリストフレンドリーな船でもある。「デラックスシングル」の船室には、なんとそのまま自転車を持ち込めるようになっている。船室内にスタンドが用意され、愛車とともに部屋でくつろぐことができる。
南港フェリーターミナルに設えられたサイクルステーションには、ポンプやスタンドのほかに、ウェスやバケツが用意されており、乗り込む前にタイヤを拭いて、きれいな状態に。新しい乗り物らしい匂いに包まれた就航したばかりの船内へ。真新しいカーペットの上を自転車を押していくのは、ちょっとドキドキ背徳感。
22時発ということで、ちょっと遅めの夕食に。レストランでは宇和島鯛めしのほか、鯛出汁ラーメンや味のしみたおでんが楽しめる。ワインやビール、日本各地の銘酒など質の高いお酒も楽しめるのは、優雅な飲食の時間が楽しみのひとつである船旅をリッチにしてくれる。愛車と一緒に泊まれる客室は、ビジネスホテルのような居心地。ベッドも適度な硬さで、内海らしく揺れも無い。デスクも備え付けてあり、ワークスペースも広々としている。
さて、いつのまにやらぐっすり眠り、船内アナウンスで目が覚める。もう間もなく東予港へ到着だ。船室で走りだせるウェアに着替えれば、自転車を組み立てる必要もなくそのまま走り出せる。朝6時からのスタートなら一日をフルに使えるのが嬉しい。
■オレンジフェリー
東予-大阪 1等室(デラックスシングル)運賃:9,040円
※8月25日(土)〜12月5日(水)までの間は既存船の等級価格にて新造船を利用できるオープニングキャンペーン期間となる。
HP:https://www.orange-ferry.co.jp/
寒風山越え、絶景天空RIDEコースのスタート地点へ
東予港から湧水のまちである西条へ。市内各地に水が湧き出しており、鋼管で20mほど地下を掘ればたちまち水が自噴してくる。これはうちぬきと呼ばれ、住民にも親しまれている。西条駅の近くにも、清水が湧き出る泉が徒歩圏内にあり、清冽な水を身近に感じられる。
今回の旅の目的地は、そんな西条の豊かな水の源泉となる石鎚山の向こう側、ということで寒風山トンネルまで登っていく。クルマでの訪問であれば、石鎚山PA直結のいしづちハイウェイオアシスにデポすることも可能。加茂川の河原には「いもたき会場」の看板が。芋煮といえば東北だけれど、愛媛は結構東北や北海道と共通の風俗があって面白い。鶏のから揚げをセンザンキ(愛媛)とザンギ(北海道)と呼んだり。
寒風山トンネルはかなり長めで、明るいライトがあるといい。ながーいトンネルの途中に県境があり、トンネルを出るとそこは既に高知県という寸法だ。しばらく下ると、集合地点となる「道の駅木の香(このか)」へ。ここで今回のルートを案内してくれる地元ライダーさんたちと合流。案内を務めてくれるのは高知大学の教員でもあるインテリ派サイクリストの大崎優さん。マップの作成にも深く携わり、このコースを知り尽くしたベテランライダーだ。
早速林道へアプローチ 絶景目指して一路25kmのヒルクライムへチャレンジ
「今日は天気も良いので、UFOラインも期待できますね!」と力強い言葉を頂き、早速スタート。一旦来た道を戻り、寒風山トンネルの手前で右折し、瓶ヶ森線へ。西条方面からのアプローチであれば木の香まで下る必要はなく、そのままUFOラインへ向かうこともできる。うっそうとした「THE林道」といった風情の峠道。標高でいうと600mから1600m付近まで一気に駆け上がるのだから、いわゆる"超級山岳"にカテゴライズされる登り応えのあるヒルクライムコースだ。
25kmほど登り続けるということで、補給食や水などはしっかり準備していくが吉。途中にトイレなどはあるので水分を補給することはできるが、カロリーに関しては補給できるポイントは無い。ハンガーノックに陥らないよう、しっかりと朝食をとるほか、ジェルなどの行動食もポケットに忍ばせておいた方がいいだろう。
九十九折れを苦しくならない程度のペースで登っていく。最初の目印となるのは、旧道の寒風山隧道との分岐点にある登山口の駐車場。距離でいえば、ちょうど10kmほど走ったあたり。ペースにもよるが1時間弱ほどとなるだろう。ここにはトイレもあるので、いったん休憩するのも良い。
ここから、瓶ヶ森線のゲートを越えると、しばし下り基調に。しかし、油断は禁物だ。紅葉の時期には美しい光景を求めて、多くの自動車やバイクが行き交うというが、実のところかなり道幅は狭く、中にはすれ違いできずに立ち往生する車もいるのだとか。ブラインドコーナーも多く、出会い頭で衝突する危険性も高いのでくれぐれも速度の出し過ぎには気を付けて。登り区間でも、しっかり前を見て走ることを心がけよう。
ゲートを越えると、だんだんと周りの景色も変わってくる。少しづつ背の高い木の割合が減っていき、眺望が開けてくるところも。素掘りのトンネルが登場したりもするので、対向車へのアピールも兼ねてライトは点けておきたい。
先へ進むにつれて、向かう先の山の割合が少なくなり、青空が占める面積が増えてくる。マップの表紙を飾っていた、あの素晴らしい景色につながる道なのだという実感が膨らんでいき、自然とペダルを踏む脚にも活力が漲る。
開けた景色はまさに天空の路 疲れを吹き飛ばす絶景区間へ
右側にそびえる山肌から林が消えたころ、「そろそろですよ!」と大崎さん。コーナーを曲がり、先を見上げるとそこに広がっていたのは写真通りの光景だった。森林限界を超えた尾根筋を走るこの区間は、富士山や乗鞍など、数多の有名なヒルクライムスポットに勝るとも劣らない絶景ポイント。
「うわあ、凄い!」思わず感嘆の声が漏れてしまう。高山植物が生い茂る尾根を貫くような道路は、まさに天空の路。途中には登山道への入口もあり、少し歩けば瓶ヶ森の山頂へアプローチすることも出来るのだという。まるでツール・ド・フランスで見たヨーロッパアルプスのようなダイナミックなパノラマに、心が開放される。
今朝までは船に揺られていたのが嘘のよう。標高0mから1600mまで、文字通りシー・トゥ・サミットのダイナミックなライドだ。このビュースポットはサイクリストのみならず、ハイカーやオートバイのライダーにも人気で、入れ代わり立ち代わり多くの人々がやってくる。
名残惜しいが、そろそろお腹も減ってきた。ここからはしばらく爽快なダウンヒル区間だ。とはいえ、先述した通りスピードは抑えめで。ところどころには落石もあるので、余裕を持って下っていこう。
遅めのランチはご当地うどんで 面河渓谷へ爽快ダウンヒル
UFOラインを下っていくと、遠くに石鎚山の姿が見えるスポットも。撮影スポットにはサイクルラックも設けられており、至れり尽くせり。少し肌寒さを感じるくらいの標高で、真夏以外であればウインドブレーカーやアームウォーマーは必須。とはいえ、今夏の猛暑を考えればむしろ過ごしやすいような。
一度よさこい峠を越えると、ふたたび登り返す区間を挟み、石鎚山ヒルクライムのフィニッシュ地点でもある土小屋へ。ここにある岩黒レストハウスが、今日のランチポイントだ。1階がお土産屋さん、2階がレストランとなっており、休憩や補給にぴったりのスポットである。
ここの名物は、虹鱒の甘露煮が入った石鎚うどん。うどんが出来上がる間に、おでんを頂き小腹を満たすのは四国ならではの流儀。食べた串の分だけ料金を払うというルールだ。西日本らしいあっさりしたつゆのうどんに、甘辛く煮つけられた虹鱒がベストマッチ。ヒルクライムで消耗した身体にしっかりとエネルギーと塩分が染み込んでいく。
■岩黒レストハウス
愛媛県上浮穴郡久万高原町 若山21−1581
HP:https://ishizuchikanko.com/iwaguro_resthouse/
うどんだけでは少し物足りないという向きには、笹餅がおすすめ。一つ一つ笹にくるまれたお餅の中にはタップリとあんこが入っていて、腹持ちの良い補給になること間違いなしだ。
ここから先は2車線になり、路面もかなりきれいに。快適なダウンヒルを堪能しながら下っていく。途中の長尾根展望台からは日本の滝百選に入る名瀑、御来光の滝を遠望できる。
しばらく下るとT字路に。本来のコースは左なのだけど、ここは右折して面河渓(おもごけい)へ。国の名勝にも指定された面河渓は、仁淀川の源流の一つ。この上流には先ほどの御来光の滝が流れており、まさに石鎚山に育まれた景勝地。美しく切り立った谷底を、透き通った水が流れ落ちていく。橋から流れをのぞき込むと、渓流魚が泳いでいるのが何匹も見える透明度だ。
盛りだくさんな1日の疲れをいやす温泉へ
清らかな流れに心癒され、もう少し下るとおもごふるさとの駅に到着。石鎚山ヒルクライムのスタート地点でもあり、四国のヒルクライマーにとってはなじみ深いロケーションのはず。こちらは、事前に予約すれば駐車場を使えるとのことで、この天空ライドのスタート地点の一つとしても使いやすいはずだ。
さて、そろそろ日も傾く頃合いとなり、初日のライドもゴールが見えてきた。面河川沿いを下っていき、しばらくしたら県道12号へと右折。少しの登りの先に大きな岩峰「古岩屋(ふるいわや)」が見えてくる。川沿いから眺める奇岩の山々は水墨画を思い出させる幽玄さ。その麓に位置する国民宿舎「古岩屋荘」が今回のお宿だ。
お遍路さんにも人気の古岩屋荘は、疲労回復に効く温泉が魅力。なんと吉野朝時代からの歴史を持つ温泉で、さっぱりした泉質が入りやすい。広い岩風呂でのんびり体を温めて、食堂へ向かった私たちを迎えてくれたのは、ボリュームたっぷりの夕飯。山海の食材が机の上に所狭しと並べられる様子は、なんだか今日のライドを思い起こさせ、心も身体も満腹となったのだった。
■国民宿舎 古岩屋荘(ふるいわやそう)
レンタサイクル(クロスバイク)有り。サイクルオアシスに指定されている。
愛媛県上浮穴郡久万高原町直瀬乙1636
https://furuiwaya.com/
提供:石鎚山系連携事業協議会 制作:シクロワイアード編集部