2018/07/24(火) - 12:54
いよいよ本章では、産まれ変わったMadone SLRのインプレッションをお伝えする。トレック本社で行われたメディアイベントで100kmを走り感じたこと、そしてMadoneを愛用する別府史之(トレック・セガフレード)に聞いた新型の走りを紹介する。
ウィスコンシン州、ウォータールーにあるトレック本社で行われたMadone SLRの先行メディア発表会。座学や本社見学に続く2日目には朝からバスで1時間ほど移動し、山中のコテージ(昨年Émonda SLRの発表会でも使われた場所)を拠点に100kmほどのテストライドを行うことになった。
今回試したのは54サイズのディスクブレーキモデルだ。当然油圧ディスクブレーキのR9170系デュラエースDi2がセットアップされ、ホイールはMadoneにふさわしい性能とルックスを誇るボントレガーのAeolus XXX 6。IsoSpeedの動きを感じたかったので、TPI値320と非常にしなやかなR4クリンチャータイヤ(25c)にはやや高め、前6.8/後7.0気圧を充填し、走りながら徐々に落とす方向で調整した。
ちなみに試乗バイクは全てディスクブレーキで揃えられ、前日のプレゼンではリムバージョンはほぼ無いものとして扱われていたことも記しておきたい。ツール・ド・フランス出場している選手たちがディスクロードで揃えていることも含め、トレックがディスクロードに慎重だったことも今は昔。そして、ディスクブレーキ用ホイールを自前で生み出す開発力、コンテンツ力がその流れを推し進めていることは間違いない。
この日は一昨年引退し、現在トレックのアンバサダーとしてパワフルに活動するイェンス・フォイクト氏が合流してきた。つい先日行われた200マイルを走るグラベルレースを完走したばかりだが、現役時代愛用していたMadoneの新型を試せるとあって、レジェンドはいつも以上にテンション高めだ。
そして既に名入りのスペシャルMadone SLRを用意されていたのが一人。どこかで見覚えのある顔だなと思っていたら、NASCARで7度シリーズ王者に輝いたジミー・ジョンソンその人だった。話を聞けばトレックからトレーニング用バイクのサポートを受けていて、この週末にデトロイトで開催されるレースの道中で参加してきたとのこと。脚の絞れ具合は(自転車の)エリートレーサーそのもので、「やっぱりレーサーだから速いバイクにはワクワクするよね。早く試したい」と興奮を隠しきれない様子。
私は渡米前に2週間ほど借り受けた先代Madone頭の中で思い浮かべながら、その違いを探しながら、世界各国のメディアやトレックのスタッフ、そしてゲストライダー含め、総勢30名ほどと共に走り出した。
全体的なMadone SLRの味付けは、良い意味で先代と変わっていない。強いダンシングに対してフォークからリアバックまで一体感あるウィップを伴って加速し、その上質な乗り味ゆえにアスファルト上の細かい凹凸を滑るように巡行する様は、まさにトレックらしくMadoneらしい、非常にリッチで、かつキレ味鋭い走りだ。
ディスクブレーキ化によってその「らしさ」は薄まるかと思いきや、全くそんなことは杞憂だった。フロントフォークの縦剛性はやたらと主張してくるようなものではなく、快適性を狙ったというハンドルバーもかなり良い仕事をしているから肩肘の疲れは感じにくい。
ディスクロードにありがちなダンシング時の左右の振りの差がほとんど払拭されているのは、昨年試したフレーム重量600g台のÉmonda SLR Discでさえあまり感じなかったのだから当然と言うべきだろうか。ライド中にロードプロダクト・ディレクターのジョーダン氏(前章でインタビューを紹介した人物)に聞いたが、嫌な左右差を感じにくいよう、主にフォークのカーボン積層をこだわったという。スポーキングを工夫しているAeolusホイールとの相乗効果もあるのだろう。
プレゼンテーションでは特にBB剛性がアピールされることは無かったが、先代Madoneよりも強度が増しているように感じた。ペダリングに対する反応がシャープさを増し、踏み込みに対してバイクが前に出ていく感はより強い。その分苦しくなった脚への当たりは若干強まったが、先述したようにトレックらしいフレームのしなりが消されてしまう程ではない。そもそもSLRグレードは世界トップクラスの舞台で勝つための機材なのだし、それでも競合モデルよりも脚当たりは優しい部類に入る。
すると面白いように乗り味が変化した。スライダーを最もハードになる位置にセットすると、BBの硬さと相まって、数年前に各社が剛性を追い求めていた頃のようなとにかくシャープな硬さとなり、最もソフトなセッティングでは完全にコンフォートバイクのような乗り心地に早変わり。個人的には路面の細かい凹凸をほとんど打ち消しつつ、それでいてサドルが動きすぎない「最もソフト寄りからチョイ戻し」のスライダー位置がベストだと感じた。何かをイジってベストを探す楽しみが備わっているのは趣味のアイテムとして正しいと思う。
IsoSpeedの効果はエンデュランスモデルのDomaneや、先代Madoneによって周知の通りだ。路面のヒビや穴、砂利などの上を通過しても驚くほど腰への衝撃が軽減され、縦方向の衝撃をいなしてくれる新型のハンドルとのマッチングもすこぶる調子が良かった。IsoSpeedダンパーの役割のほどは判断が難しいが、柔らかめにセットした際、一つの衝撃に対してボヨボヨとサドルが動き続けないのでそれなりに仕事をしているはず。IsoSpeed、ハンドル、R4タイヤというコンビネーションが生み出す極めて高級感ある乗り味は病みつきになってしまいそうだ。
それなら、もはやMadone SLRはコンフォートバイクではないのか。そう思う方も多いだろう。しかし個人的な見解はNoだ。なぜならペダリング時に感じるBB剛性はまさしくレーシングバイクのそれであり、身体を畳むような下りで自覚を上回るスピードを出す圧倒的な空力性能は、ただひたすら勝つためを考えて作り込まれたものだからだ。
IsoSpeedに由来する快適性は、石畳や空力性能を活かした高速ダウンヒル、コーナリングでの安定感、あるいはスプリント、そして集団走行中の路面状況が見えない不意の衝撃に対してこそ活きるものであり、もちろんロングライドでの効果も大きいが、そのメリットはレーサー、あるいはレーサーのようにメリハリのある走りを好む方でこそ最大化される。
唯一のデメリットとしては、今回の試乗車セットアップで7.405kg(未塗装、56サイズ)とライバル車種と比べて若干重たいことだ。しかし例えば47mmハイトのAeolus XXX 4ホイールを選べば100g以上軽量化が可能で、そうすれば殆どの登りをこなせてしまうだろうし、そもそもMadoneにはIsoSpeedが生み出す圧倒的な快適性というメリットがある。600g台を叶えたÉmonda SLR Discを考えれば、トレック開発陣にとっては超軽量Madoneを作ることも難しくはなかっただろう。しかしIsoSpeedによって快適性を高めることが結果として多くのライダーにとってプラスになるだろうし、そもそも登りで勝負したい方はÉmonda SLRを選択すれば良いのだ。そういう意味でトレックがロード3モデルを用意している意味は非常に大きい。
トップグレードがモデルチェンジし、セカンドグレードが先代と同じ形状でカーボングレードを下げたバリューモデルとして用意されるのは昨年のÉmondaと同じ流れだ。今ディスクブレーキのMadoneを求めるならOCLV700カーボンのトップモデルを購入するほか無いが、1年後にはOCLV600や500を使った普及モデルが登場するのだろう。今回試したMadone SLRの出来が素晴らしかっただけに、これからの展開に期待したいところだ。
筆者がプレゼンテーションで感じた感想は上記した通りだが、テストライドの距離は100km。バイクの性格を計り知るには十分な距離だが、トレーニングからレースまで常時Madone SLRを使うとなると話は違ってくるかもしれない。そこで帰国後、フランスに住む別府史之(トレック・セガフレード)に電話インタビューを敢行した。
Madoneでジャパンカップクリテリウム2連覇を成し遂げたワールドツアー選手は、Madone SLRをどう感じ、どう乗りこなしているのか。以下にそのインタビュー内容を紹介しよう。別府本人は発表2ヶ月前に新型を受け取って広告用の撮影をこなし、5月初頭のエシュボルン・フランクフルトで実戦投入を済ませていたという。
Madoneを選んでいるのは自分の走り方にぴったりだからです。エアロに特化して、平坦で攻撃的に攻めるバイクだから好きなんです。新型は見た目の変化は大きくないので何が変わったんだろうと思っていたんですが、乗り味はすごく変わりましたね。IsoSpeedの違いが大きく、先代よりもソフトで乗りやすくなりました。ダンシングでもスプリントでも長続きするんです。
―そのIsoSpeedの動きは?スライダーのセッティングは硬めですか?それとも柔らかめ?
IsoSpeedは先代よりも動きがスムーズになりましたね。パッと乗った感じは普通のバイクっぽいのに、大きな衝撃を受けた時に変な挙動無くすーっと衝撃をいなしてくれる。この部分は先代から大きく進歩した部分だと思います。
スライダーは一番ソフトな位置です。物は試しと柔らかくセッティングしたんですが、あれ?意外とこれでいけるな、って。ダブルシートチューブ形状だった先代は、コーナーを思いっきり攻めると少し外側に押し出される感じがありましたが、構造による変化なのか、それが無くなりました。地面をしっかり捉える感じが強くなったので安心して下りを攻め込めるようになったのが印象的でしたね。
―どのような場面でIsoSpeedは効果を発揮するのでしょう?
やっぱり荒れた道であって、極端な例で言えばパヴェ(石畳)ですよね。パヴェを硬いバイクで走ると跳ねすぎて失速してしまう。だからみんなタイヤを太くして空気圧を下げるんですが、新しいMadoneなら空気圧をそこまで落とすことなくスムーズに走れてしまうんです。だからパヴェ区間以外では空気圧が低い他選手よりも楽にスピードを出せるし、これはIsoSpeedがあるからこそのメリットですよ。それに先代ではフロント周りの硬さが目立っていたんですが、ハンドルの組み合わせで大幅に改善されているので疲れも少ないですね。
それと、ディスクブレーキのおかげで悪天候でも晴れている時とほぼ同じように減速ができる点もメリット。ディスクブレーキがプロレースで試用開始された時はまだコントロールが難しいイメージがあって目の敵にされていたんですが、今は変わりましたね。
以前「ディスクブレーキは嫌だな」と言ってた選手も不満は言わなくなりましたし、特に雨レースではディスクブレーキを使いたいという選手の方が多いんです。だから問題としてはニュートラルサポートと、ホイール交換の手間だけですね。そこが改善、統一されれば状況はより変わってくると思いますよ。ヨーロッパも、日本国内レースもね。
―従来H2フィットのMadoneを使っていましたが、新しいH1.5フィットはいかがですか?
そうですね。もともとチームの中でもH1を使う選手、H2を使う選手と別れていました。僕はもうポジションが固まっているので、スペーサーを積んで従来のH2と同じハンドル高にしているのですが、H1.5によってより多くの人にマッチすると思いますね。と言うのも、H1を使っているチームメイトもスペーサーを入れていたし、H2を使っているチームメイトも一番下にステム位置をセットしていたんです。だからもともとH1.5のニーズはあったわけですよね。
―既にMadone SLRでレースを走っていますが、どのような場面でメリットを感じますか?
レースやトレーニング、もしくは趣味としてのロングライドと場面を限らず使える幅が広いですよね。本格的な登りで勝負を掛けようと思うならÉmondaですが、ある程度スピードでこなせる登りならMadoneが速い。今までDomaneが役割を担っていたエンデュランス分野にも、エアロに優れるという特徴を持ったMadoneが入ってきたわけなので、より速く、より長く走れる印象が強いです。
やっぱり選手って、誰よりも速く走るために厳しいトレーニングを重ねてきているわけなので、マシンにはシビアですよね。だから最高レベルにあったMadoneが一皮むけてより洗練されたっていうのは、モチベーションにも繋がる部分です。自分も新型Madoneを受け取ってから走る距離が伸びましたし。家の周りってガタガタ道がすごく多いんですが、そこがスムーズに走れて疲れないからもっと遠くに行けるわけです。こういう部分って、趣味としてMadoneを選ぶ方にも大きいと思いますよ。
アップダウンに富むトレック本社周辺でのハイスピードライド
ウィスコンシン州、ウォータールーにあるトレック本社で行われたMadone SLRの先行メディア発表会。座学や本社見学に続く2日目には朝からバスで1時間ほど移動し、山中のコテージ(昨年Émonda SLRの発表会でも使われた場所)を拠点に100kmほどのテストライドを行うことになった。
今回試したのは54サイズのディスクブレーキモデルだ。当然油圧ディスクブレーキのR9170系デュラエースDi2がセットアップされ、ホイールはMadoneにふさわしい性能とルックスを誇るボントレガーのAeolus XXX 6。IsoSpeedの動きを感じたかったので、TPI値320と非常にしなやかなR4クリンチャータイヤ(25c)にはやや高め、前6.8/後7.0気圧を充填し、走りながら徐々に落とす方向で調整した。
ちなみに試乗バイクは全てディスクブレーキで揃えられ、前日のプレゼンではリムバージョンはほぼ無いものとして扱われていたことも記しておきたい。ツール・ド・フランス出場している選手たちがディスクロードで揃えていることも含め、トレックがディスクロードに慎重だったことも今は昔。そして、ディスクブレーキ用ホイールを自前で生み出す開発力、コンテンツ力がその流れを推し進めていることは間違いない。
この日は一昨年引退し、現在トレックのアンバサダーとしてパワフルに活動するイェンス・フォイクト氏が合流してきた。つい先日行われた200マイルを走るグラベルレースを完走したばかりだが、現役時代愛用していたMadoneの新型を試せるとあって、レジェンドはいつも以上にテンション高めだ。
そして既に名入りのスペシャルMadone SLRを用意されていたのが一人。どこかで見覚えのある顔だなと思っていたら、NASCARで7度シリーズ王者に輝いたジミー・ジョンソンその人だった。話を聞けばトレックからトレーニング用バイクのサポートを受けていて、この週末にデトロイトで開催されるレースの道中で参加してきたとのこと。脚の絞れ具合は(自転車の)エリートレーサーそのもので、「やっぱりレーサーだから速いバイクにはワクワクするよね。早く試したい」と興奮を隠しきれない様子。
私は渡米前に2週間ほど借り受けた先代Madone頭の中で思い浮かべながら、その違いを探しながら、世界各国のメディアやトレックのスタッフ、そしてゲストライダー含め、総勢30名ほどと共に走り出した。
ディスクブレーキ化でも維持された、Madoneらしい上質でキレ味鋭い走り
全体的なMadone SLRの味付けは、良い意味で先代と変わっていない。強いダンシングに対してフォークからリアバックまで一体感あるウィップを伴って加速し、その上質な乗り味ゆえにアスファルト上の細かい凹凸を滑るように巡行する様は、まさにトレックらしくMadoneらしい、非常にリッチで、かつキレ味鋭い走りだ。
ディスクブレーキ化によってその「らしさ」は薄まるかと思いきや、全くそんなことは杞憂だった。フロントフォークの縦剛性はやたらと主張してくるようなものではなく、快適性を狙ったというハンドルバーもかなり良い仕事をしているから肩肘の疲れは感じにくい。
ディスクロードにありがちなダンシング時の左右の振りの差がほとんど払拭されているのは、昨年試したフレーム重量600g台のÉmonda SLR Discでさえあまり感じなかったのだから当然と言うべきだろうか。ライド中にロードプロダクト・ディレクターのジョーダン氏(前章でインタビューを紹介した人物)に聞いたが、嫌な左右差を感じにくいよう、主にフォークのカーボン積層をこだわったという。スポーキングを工夫しているAeolusホイールとの相乗効果もあるのだろう。
プレゼンテーションでは特にBB剛性がアピールされることは無かったが、先代Madoneよりも強度が増しているように感じた。ペダリングに対する反応がシャープさを増し、踏み込みに対してバイクが前に出ていく感はより強い。その分苦しくなった脚への当たりは若干強まったが、先述したようにトレックらしいフレームのしなりが消されてしまう程ではない。そもそもSLRグレードは世界トップクラスの舞台で勝つための機材なのだし、それでも競合モデルよりも脚当たりは優しい部類に入る。
IsoSpeed調整で大きく変わる走り味 高速域でこそ活きる快適性
大きな構造改革が図られたIsoSpeedは、フレーム設計の基準となる56サイズから一つ下の54サイズでは、スライダーの初期状態の場合、あまり先代との柔軟性の差は感じなかった。ただそれではインプレの意味が無いので小休止中にジョーダン氏の手助けを得て、最初はスライダーの位置を最強(ハード)に、次に最弱(ソフト)にセットして乗り比べてみる。すると面白いように乗り味が変化した。スライダーを最もハードになる位置にセットすると、BBの硬さと相まって、数年前に各社が剛性を追い求めていた頃のようなとにかくシャープな硬さとなり、最もソフトなセッティングでは完全にコンフォートバイクのような乗り心地に早変わり。個人的には路面の細かい凹凸をほとんど打ち消しつつ、それでいてサドルが動きすぎない「最もソフト寄りからチョイ戻し」のスライダー位置がベストだと感じた。何かをイジってベストを探す楽しみが備わっているのは趣味のアイテムとして正しいと思う。
IsoSpeedの効果はエンデュランスモデルのDomaneや、先代Madoneによって周知の通りだ。路面のヒビや穴、砂利などの上を通過しても驚くほど腰への衝撃が軽減され、縦方向の衝撃をいなしてくれる新型のハンドルとのマッチングもすこぶる調子が良かった。IsoSpeedダンパーの役割のほどは判断が難しいが、柔らかめにセットした際、一つの衝撃に対してボヨボヨとサドルが動き続けないのでそれなりに仕事をしているはず。IsoSpeed、ハンドル、R4タイヤというコンビネーションが生み出す極めて高級感ある乗り味は病みつきになってしまいそうだ。
それなら、もはやMadone SLRはコンフォートバイクではないのか。そう思う方も多いだろう。しかし個人的な見解はNoだ。なぜならペダリング時に感じるBB剛性はまさしくレーシングバイクのそれであり、身体を畳むような下りで自覚を上回るスピードを出す圧倒的な空力性能は、ただひたすら勝つためを考えて作り込まれたものだからだ。
IsoSpeedに由来する快適性は、石畳や空力性能を活かした高速ダウンヒル、コーナリングでの安定感、あるいはスプリント、そして集団走行中の路面状況が見えない不意の衝撃に対してこそ活きるものであり、もちろんロングライドでの効果も大きいが、そのメリットはレーサー、あるいはレーサーのようにメリハリのある走りを好む方でこそ最大化される。
唯一のデメリットとしては、今回の試乗車セットアップで7.405kg(未塗装、56サイズ)とライバル車種と比べて若干重たいことだ。しかし例えば47mmハイトのAeolus XXX 4ホイールを選べば100g以上軽量化が可能で、そうすれば殆どの登りをこなせてしまうだろうし、そもそもMadoneにはIsoSpeedが生み出す圧倒的な快適性というメリットがある。600g台を叶えたÉmonda SLR Discを考えれば、トレック開発陣にとっては超軽量Madoneを作ることも難しくはなかっただろう。しかしIsoSpeedによって快適性を高めることが結果として多くのライダーにとってプラスになるだろうし、そもそも登りで勝負したい方はÉmonda SLRを選択すれば良いのだ。そういう意味でトレックがロード3モデルを用意している意味は非常に大きい。
トップグレードがモデルチェンジし、セカンドグレードが先代と同じ形状でカーボングレードを下げたバリューモデルとして用意されるのは昨年のÉmondaと同じ流れだ。今ディスクブレーキのMadoneを求めるならOCLV700カーボンのトップモデルを購入するほか無いが、1年後にはOCLV600や500を使った普及モデルが登場するのだろう。今回試したMadone SLRの出来が素晴らしかっただけに、これからの展開に期待したいところだ。
別府史之(トレック・セガフレード)が語る、世界最速バイク
筆者がプレゼンテーションで感じた感想は上記した通りだが、テストライドの距離は100km。バイクの性格を計り知るには十分な距離だが、トレーニングからレースまで常時Madone SLRを使うとなると話は違ってくるかもしれない。そこで帰国後、フランスに住む別府史之(トレック・セガフレード)に電話インタビューを敢行した。
Madoneでジャパンカップクリテリウム2連覇を成し遂げたワールドツアー選手は、Madone SLRをどう感じ、どう乗りこなしているのか。以下にそのインタビュー内容を紹介しよう。別府本人は発表2ヶ月前に新型を受け取って広告用の撮影をこなし、5月初頭のエシュボルン・フランクフルトで実戦投入を済ませていたという。
「IsoSpeedによって乗り味が変化。より下りで攻められる」
―今回はありがとうございます。別府さんにとってはディスカバリーチャンネル入りした時のバイクがMadoneですよね。レディオシャックと、オリカ・グリーンエッジを挟んで現チーム入りしてからもMadoneを常に使っていますが、その理由は?そして、Madone SLRの第一印象は?Madoneを選んでいるのは自分の走り方にぴったりだからです。エアロに特化して、平坦で攻撃的に攻めるバイクだから好きなんです。新型は見た目の変化は大きくないので何が変わったんだろうと思っていたんですが、乗り味はすごく変わりましたね。IsoSpeedの違いが大きく、先代よりもソフトで乗りやすくなりました。ダンシングでもスプリントでも長続きするんです。
―そのIsoSpeedの動きは?スライダーのセッティングは硬めですか?それとも柔らかめ?
IsoSpeedは先代よりも動きがスムーズになりましたね。パッと乗った感じは普通のバイクっぽいのに、大きな衝撃を受けた時に変な挙動無くすーっと衝撃をいなしてくれる。この部分は先代から大きく進歩した部分だと思います。
スライダーは一番ソフトな位置です。物は試しと柔らかくセッティングしたんですが、あれ?意外とこれでいけるな、って。ダブルシートチューブ形状だった先代は、コーナーを思いっきり攻めると少し外側に押し出される感じがありましたが、構造による変化なのか、それが無くなりました。地面をしっかり捉える感じが強くなったので安心して下りを攻め込めるようになったのが印象的でしたね。
―どのような場面でIsoSpeedは効果を発揮するのでしょう?
やっぱり荒れた道であって、極端な例で言えばパヴェ(石畳)ですよね。パヴェを硬いバイクで走ると跳ねすぎて失速してしまう。だからみんなタイヤを太くして空気圧を下げるんですが、新しいMadoneなら空気圧をそこまで落とすことなくスムーズに走れてしまうんです。だからパヴェ区間以外では空気圧が低い他選手よりも楽にスピードを出せるし、これはIsoSpeedがあるからこそのメリットですよ。それに先代ではフロント周りの硬さが目立っていたんですが、ハンドルの組み合わせで大幅に改善されているので疲れも少ないですね。
それと、ディスクブレーキのおかげで悪天候でも晴れている時とほぼ同じように減速ができる点もメリット。ディスクブレーキがプロレースで試用開始された時はまだコントロールが難しいイメージがあって目の敵にされていたんですが、今は変わりましたね。
以前「ディスクブレーキは嫌だな」と言ってた選手も不満は言わなくなりましたし、特に雨レースではディスクブレーキを使いたいという選手の方が多いんです。だから問題としてはニュートラルサポートと、ホイール交換の手間だけですね。そこが改善、統一されれば状況はより変わってくると思いますよ。ヨーロッパも、日本国内レースもね。
―従来H2フィットのMadoneを使っていましたが、新しいH1.5フィットはいかがですか?
そうですね。もともとチームの中でもH1を使う選手、H2を使う選手と別れていました。僕はもうポジションが固まっているので、スペーサーを積んで従来のH2と同じハンドル高にしているのですが、H1.5によってより多くの人にマッチすると思いますね。と言うのも、H1を使っているチームメイトもスペーサーを入れていたし、H2を使っているチームメイトも一番下にステム位置をセットしていたんです。だからもともとH1.5のニーズはあったわけですよね。
「新型Madoneを受け取ってから練習距離が伸びた」
―既にMadone SLRでレースを走っていますが、どのような場面でメリットを感じますか?
レースやトレーニング、もしくは趣味としてのロングライドと場面を限らず使える幅が広いですよね。本格的な登りで勝負を掛けようと思うならÉmondaですが、ある程度スピードでこなせる登りならMadoneが速い。今までDomaneが役割を担っていたエンデュランス分野にも、エアロに優れるという特徴を持ったMadoneが入ってきたわけなので、より速く、より長く走れる印象が強いです。
やっぱり選手って、誰よりも速く走るために厳しいトレーニングを重ねてきているわけなので、マシンにはシビアですよね。だから最高レベルにあったMadoneが一皮むけてより洗練されたっていうのは、モチベーションにも繋がる部分です。自分も新型Madoneを受け取ってから走る距離が伸びましたし。家の周りってガタガタ道がすごく多いんですが、そこがスムーズに走れて疲れないからもっと遠くに行けるわけです。こういう部分って、趣味としてMadoneを選ぶ方にも大きいと思いますよ。
提供:トレック・ジャパン、text&photo:So.Isobe