2018/07/17(火) - 11:55
キャノンデール初のエアロロード「SYSTEMSIX」はなぜ生まれたのか、どのように作り上げたのか。細かいテクノロジーやエンジニアリングについての深いエピソードを、開発者インタビューを通してお届けしよう。
― これまでSUPERSIX EVO一本だったキャノンデールが、エアロロードをデビューさせた理由を教えて下さい。なぜこのタイミングだったのでしょうか?
エアロの分野を専門としR&Dデザインエンジニアとして開発に携わったネイサン・バリー氏 photo:Yuto.Murata
SYSTEMSIXのプロジェクトがスタートしたのは今から3年前。それまで社内には空力に関するリソースがありませんでしたが、私を含め専門のエンジニアが数名入社し、新型バイク開発のチームを結成しました。エアロダイナミクスを始め機械工学など各方面の専門家が集まったことで開発体制が整ったんです。
これまでのエアロロードは重かったり快適性が低かったりという問題が往々にしてありましたが、最新の技術によりそれらデメリットを解消したバイク開発が可能になってきました。各社が新型のエアロロードを登場させる中で、それらフィーリングを犠牲とせずエアロのメリットを享受できるバイクをユーザーが求める時代になってきた。キャノンデールとしてもいよいよエアロロードを開発する必要が出てきたのです。
エアロフレームにディープリムが迫力あるルックスを醸し出す photo:Brian Vernor
テストライドではロゴのない真っ黒な完成版のプロトタイプに乗るキャノンデールスタッフの姿も photo:Brian Vernor
ツール・ド・フランスよりグリーンとピンクに彩ったチームカラーのSYSTEMSIXを正式投入した photo:Makoto.AYANO
メインの目的はマーケットにおける「世界最速のロードバイク」。フレームやハンドル、ホイールのエアロダイナミクスを向上させることはもちろん、例えばホイールの駆動効率向上や回転抵抗の低減まで含めてスピードを追求し、トライ&エラーを繰り返しつつ改善を行いました。もちろんUCIの基準に則ったコンプリートシステムとして設計を施しています。
空力面に関しての目標は競合製品と比べて最も低い空気抵抗を実現すること。ただしエアロロードの開発はキャノンデールでは初めての試みだったため、何がベストなのか判別することが非常に難しかったことは事実です。そのため、解析から得られたデザインをテストし、そのフィードバックを元に形状を再構築する作業の繰り返しが本当に多くて苦労したものです。実際に形に起こしたモック原案も10回近く作り直し、風洞試験やCFD解析も納得いくまで繰り返し行いました。全てのパートを可能な限り突き詰めて研究した結果がSYSTEMSIXという形なのです。
速度の単位「ノット」に由来した名称を奢る専用エアロパーツ類”KNØT” (c)キャノンデール・ジャパン
高いエアロ性能とともにフィット感も重視して設計されたKNØTシステムバー (c)キャノンデール・ジャパン
UCIルールに則りながらエアロ効果を最大限発揮する64mmハイトに設定したKNØTホイール (c)キャノンデール・ジャパン
バイクの名称自体は2006年にリリースしたモデルと同じですが、その意味合いは当時から大幅に進化しました。まず、このバイクがキャノンデールが推し進めてきたシステムインテグレーション(※)を最大限高めたことから、”SYSTEM”のモデル名を採用したのです。もちろん初代もBB30やSiクランク、オリジナルステムなどシステムインテグレーションの考えを用いた設計ではありましたが、それを史上最高に突き詰めたのが今作です。
※システムインテグレーション(Si):フレーム、フォークとステム、ハンドル、ホイールなど主要コンポーネントを包括的にデザインし、その走りを洗練させるキャノンデール独自の設計思想
またキャノンデールが代々用いている”SIX”の名称は、カーボンファンバーの原料である炭素を表す原子番号「6」を示すものですが、加えて今回はフレーム、フォーク、シートポスト、ステム、ハンドルバー、ホイールと6つの要素を独自開発したこともモデル名に込めています。
「ディスクブレーキ専用に開発することでリムブレーキモデルを凌ぐ高い空力性能を獲得しました」
システムインテグレーションを推し進めた一つの答えが、今作で採用したエアロパーツ類の「KNØT」です。名前の由来は船舶や航空機の速度の単位として用いられるノット(knot)から来ており、エアロダイナミクスやスピードに特化したパーツ類として、そのコンセプトを上手く表せていると思います。
専用ハンドルは空気抵抗を少なくすることが第一の目的で、ケーブル内蔵のインテグレートシステムやハンドルバーのエアロ形状がそれを可能としています。一方でステム一体型でありながらハンドル角度を細かく調整も可能で、ドロップの形状も握りやすいものに。速さを追求しながらも快適性にもこだわりました。
また、ホイールはUCIルールで最大65mmハイトに制限されています。エアロを最大化しつつ、製造過程においてペイントや形状のわずかな誤差が生まれてもその値を超えないようにするため、KNØTホイールは64mmハイトにしています。フロントハブは空気抵抗を減らすように細めのオリジナル形状で作成、リアはDTスイスのハブを元に独自のカスタムを施しています。
― SUPERSIX EVOなど他モデルと共通のテクノロジーは?
独自のSAVEテクノロジーは用いずエアロを優先したフレーム設計に photo:Yuto.Murata
幅広のリムとワイドタイヤによってコンフォート性能を担保するなど、トータルパッケージで性能を高めている photo:Yuto.Murata
キャノンデール独自のカーボンテクノロジーであるバリステックカーボンは従来と変わらず、その上でマウンテンバイクの最新作F-Siと今作SYSTEMSIXにはカーボン繊維に変更を加えています。より高性能な走りを実現するために、ハイパフォーマンスカーボンである三菱のMR70などを新たに追加しカーボン構成をアップデートしました。もちろん、リムブレーキモデルとは異なるチュービングに最適化するためカーボンレイアップも工夫しています。
各モデルとも軽量性を大きな武器としてきたキャノンデールですが、今作において重量のプライオリティは高くなく軽量化を突き詰めることはしていません。それでも、ペイントやスモールパーツ込みでフレーム、フォーク合わせて1,500g前後と他メーカーの同系統バイクと遜色ありません。たとえ重量増となっても剛性を確保し、よりスピードを生み出す部分を重視したことで多くのシーンでSUPERSIX EVOよりも速い性能を出せているのです。
SUPERSIX EVOを基準にしたジオメトリーによって優れたステアリング性能を引き継ぐ photo:Brian Vernor
コンフォート性能はメインの開発テーマではなかったため、しなりを活かして快適性を強化する独自のSAVEシステムは今回使われていません。そのかわり、最大28mmまで対応させたワイドタイヤによってコンフォートの味付けを調整できていると考えます。
ジオメトリーはSUPERSIX EVOを基準としたもので、SYNAPSEのようにヘッドが長めということもありません。サイズ展開がEVOと異なるため厳密には同一ではありませんが、ヘッドアングルやフォークオフセットを同じにすることでステアリング性能を引き継いでいます。
他社に先駆けいち早くディスクブレーキ仕様のTTバイク「SUPER SLICE」を投入していたキャノンデール photo:Kei Tsuji
いえ、我々はそう考えていません。ディスクブレーキ専用に最適化させることで、従来にはないエアロデザインが可能になり、そのおかげでリムブレーキモデルよりはるかに高い空力性能を生み出すことができます。
ワイドなリム形状や、ケーブルの完全内装構造、フォーククラウン部分が一体化したSYSTEMSIX特有のchine(チャイン)の造形などはリムブレーキでは不可能なんです。ディスクブレーキを投入することでより設計自由度が上がり、さらなるエアロ効果をもたらすことができるのです。
― シーズン序盤からプロ選手が使用していましたが、その反応は?
現在開催中のツールでもSYSTEMSIXを駆るセップ・ヴァンマルク(ベルギー、EFエデュケーションファースト・ドラパック) (c)CorVos
選手たちに早く使ってもらいたかったのでシーズン早々から実戦投入しました。私が声を聞いた選手はみな、SUPERSIX EVOから乗り換えた時に”なんて速いバイクなんだ。気に入ったよ”と口を揃えて言ってくれましたね。もちろんツール・ド・フランスでも、ステージよってSISTEMSIXとSUPERSIX EVOを使い分けて乗ってもらえることでしょう。ディスクブレーキにもポジティブな選手が多く、考えは変わってきていると感じますね。
― SYSTEMSIXはレーサーのためのバイクでしょうか
いいえ、それは違います。全てのサイクリストが速く走りたいと思っているはずで、SYSTEMSIXが持つ速さは誰にでも体感できるメリットなんです。今回のテストライドでそれを感じてもらえたことでしょう。仲間とサイクリングを楽しんだりSTRAVAのセグメントで争ったりして、そのスピードを十分に味わってもらえれば嬉しいです。もちろんレース用途では大きな武器となるでしょうが、それ以前に速さに興味のある全てのライダーに乗ってもらいたいという想いです。
SISTEMSIXが持つエアロのメリットは全てのライダーが享受できるものと強調する (c)キャノンデール・ジャパン
SYSTEMSIX開発の中心人物、ネイサン・バリー氏に聞く
「開発期間は丸3年。全くの新しいトライだった」
今回スペインで開催されたプレス発表会でインタビューに応えてくれたのは、プレゼンテーションを行なったR&Dデザインエンジニア担当のネイサン・バリー氏だ。オーストラリアの大学でエアロの分野を専攻し、オリンピックチームとも連携した研究を行っていたという空力分野の専門家だ。3年前にキャノンデールに入社して以降、SYSTEMSIX開発の中心人物として指揮を取ってきた。― これまでSUPERSIX EVO一本だったキャノンデールが、エアロロードをデビューさせた理由を教えて下さい。なぜこのタイミングだったのでしょうか?
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SYSTEMSIXのプロジェクトがスタートしたのは今から3年前。それまで社内には空力に関するリソースがありませんでしたが、私を含め専門のエンジニアが数名入社し、新型バイク開発のチームを結成しました。エアロダイナミクスを始め機械工学など各方面の専門家が集まったことで開発体制が整ったんです。
これまでのエアロロードは重かったり快適性が低かったりという問題が往々にしてありましたが、最新の技術によりそれらデメリットを解消したバイク開発が可能になってきました。各社が新型のエアロロードを登場させる中で、それらフィーリングを犠牲とせずエアロのメリットを享受できるバイクをユーザーが求める時代になってきた。キャノンデールとしてもいよいよエアロロードを開発する必要が出てきたのです。
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メインの目的はマーケットにおける「世界最速のロードバイク」。フレームやハンドル、ホイールのエアロダイナミクスを向上させることはもちろん、例えばホイールの駆動効率向上や回転抵抗の低減まで含めてスピードを追求し、トライ&エラーを繰り返しつつ改善を行いました。もちろんUCIの基準に則ったコンプリートシステムとして設計を施しています。
空力面に関しての目標は競合製品と比べて最も低い空気抵抗を実現すること。ただしエアロロードの開発はキャノンデールでは初めての試みだったため、何がベストなのか判別することが非常に難しかったことは事実です。そのため、解析から得られたデザインをテストし、そのフィードバックを元に形状を再構築する作業の繰り返しが本当に多くて苦労したものです。実際に形に起こしたモック原案も10回近く作り直し、風洞試験やCFD解析も納得いくまで繰り返し行いました。全てのパートを可能な限り突き詰めて研究した結果がSYSTEMSIXという形なのです。
フレームだけでなくトータルパッケージで最速の性能を追求
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※システムインテグレーション(Si):フレーム、フォークとステム、ハンドル、ホイールなど主要コンポーネントを包括的にデザインし、その走りを洗練させるキャノンデール独自の設計思想
またキャノンデールが代々用いている”SIX”の名称は、カーボンファンバーの原料である炭素を表す原子番号「6」を示すものですが、加えて今回はフレーム、フォーク、シートポスト、ステム、ハンドルバー、ホイールと6つの要素を独自開発したこともモデル名に込めています。
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システムインテグレーションを推し進めた一つの答えが、今作で採用したエアロパーツ類の「KNØT」です。名前の由来は船舶や航空機の速度の単位として用いられるノット(knot)から来ており、エアロダイナミクスやスピードに特化したパーツ類として、そのコンセプトを上手く表せていると思います。
専用ハンドルは空気抵抗を少なくすることが第一の目的で、ケーブル内蔵のインテグレートシステムやハンドルバーのエアロ形状がそれを可能としています。一方でステム一体型でありながらハンドル角度を細かく調整も可能で、ドロップの形状も握りやすいものに。速さを追求しながらも快適性にもこだわりました。
また、ホイールはUCIルールで最大65mmハイトに制限されています。エアロを最大化しつつ、製造過程においてペイントや形状のわずかな誤差が生まれてもその値を超えないようにするため、KNØTホイールは64mmハイトにしています。フロントハブは空気抵抗を減らすように細めのオリジナル形状で作成、リアはDTスイスのハブを元に独自のカスタムを施しています。
― SUPERSIX EVOなど他モデルと共通のテクノロジーは?
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各モデルとも軽量性を大きな武器としてきたキャノンデールですが、今作において重量のプライオリティは高くなく軽量化を突き詰めることはしていません。それでも、ペイントやスモールパーツ込みでフレーム、フォーク合わせて1,500g前後と他メーカーの同系統バイクと遜色ありません。たとえ重量増となっても剛性を確保し、よりスピードを生み出す部分を重視したことで多くのシーンでSUPERSIX EVOよりも速い性能を出せているのです。
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ジオメトリーはSUPERSIX EVOを基準としたもので、SYNAPSEのようにヘッドが長めということもありません。サイズ展開がEVOと異なるため厳密には同一ではありませんが、ヘッドアングルやフォークオフセットを同じにすることでステアリング性能を引き継いでいます。
プロ、アマ問わず全てのライダーが得られる優れた空力性能
― 一般的にディスクブレーキはエアロを阻害すると言われますが、その点については?
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ワイドなリム形状や、ケーブルの完全内装構造、フォーククラウン部分が一体化したSYSTEMSIX特有のchine(チャイン)の造形などはリムブレーキでは不可能なんです。ディスクブレーキを投入することでより設計自由度が上がり、さらなるエアロ効果をもたらすことができるのです。
― シーズン序盤からプロ選手が使用していましたが、その反応は?
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選手たちに早く使ってもらいたかったのでシーズン早々から実戦投入しました。私が声を聞いた選手はみな、SUPERSIX EVOから乗り換えた時に”なんて速いバイクなんだ。気に入ったよ”と口を揃えて言ってくれましたね。もちろんツール・ド・フランスでも、ステージよってSISTEMSIXとSUPERSIX EVOを使い分けて乗ってもらえることでしょう。ディスクブレーキにもポジティブな選手が多く、考えは変わってきていると感じますね。
― SYSTEMSIXはレーサーのためのバイクでしょうか
いいえ、それは違います。全てのサイクリストが速く走りたいと思っているはずで、SYSTEMSIXが持つ速さは誰にでも体感できるメリットなんです。今回のテストライドでそれを感じてもらえたことでしょう。仲間とサイクリングを楽しんだりSTRAVAのセグメントで争ったりして、そのスピードを十分に味わってもらえれば嬉しいです。もちろんレース用途では大きな武器となるでしょうが、それ以前に速さに興味のある全てのライダーに乗ってもらいたいという想いです。
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提供:キャノンデール・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部