2018/07/19(木) - 15:46
BMC2019モデル発表会は単なる製品プレゼンテーションだけでなく、スイス政府観光局とタイアップしての4日間のスイスサイクリング体験がついてきた。e-Bikeやオールロードなど様々な新型バイクでスイスアルプスを越えたアルパインチャレンジの様子を旅行記風に紹介しよう。
スイスの鉄道やバスなど公共交通機関は国じゅうのあらゆる場所を網羅し、山村であっても行けないところは無いと言われるほど。しかも時間に正確で、高度に洗練されている。まずは空港の地下階の駅のホームへ。e-bikeを押したまま、空港の到着ロビーから直結しているエスカレーターに乗ってアクセスできる。
すぐにチューリヒ中央駅行きのメトロがホームに到着。自転車が載せられる車両には扉の近くに「自転車マーク」が示されており、それを目印に乗客の後に続いて乗り込む。電車内の扉の脇に3台分のバイクラックが用意されており、前輪をフックに掛けて仮固定するだけ。勝手が分からなくても親切なスイスの人たちがあれこれ教えてくれた。
鉄道にバイクが載せられる前提になっている国は欧州に多いが、スイスは国じゅうでOK。観光局の担当者によれば、「都市部の混んでいる時間帯のみ乗客の邪魔にならないように気をつけて」とのこと。Alpenchallenge AMPの重量14kgという、e-bikeとしては画期的に軽い車重が列車への(持ち上げを含む)持ち込みを著しく楽にする。
中央駅からチューリヒ市街中心部までは数分。バイクレーンもしっかりついているため、初めて走るのに恐怖感無くアクセスできる。湖畔にもバイクレーンが明示され、芝生で寝転がって日光浴している市民の脇をのんびり走る。時間はたっぷりあるのでこちらも写真を撮ったりベンチに座っておしゃべりしたりと、豊かな時間を過ごせた。
ホテルまでの50kmは平坦路。電動モードは「ECO、TRAIL、BOOST」の3つがあるが、ECOで十分。時々軽い上りに差し掛かればTRAILモードで加速して勢いをつけて乗り切る。e-bikeに乗るのは初めてじゃないけれど、50kmの距離は初めて。まったく楽チンというわけじゃないけど、ストップ&ゴーの加速の際が楽なので、ラクラク巡航できる。
距離50kmだけだと余裕がありすぎるので、ルートを外れて住宅街の上りへ。急坂を100mほど登ったが、BOOSTモードを使いこなせばどんな坂も登れる。必要なときだけ適切なモードに切り替えてプッシュしてもらうという、e-bikeを乗りこなすコツが掴めた。時速25km/hまでのアシストと規制されているとおりの性能で、25km/hを越えるとアシスト力は抜けてしまう。
この日は湖畔のサイクルショップ「AR Cycling」でBMC新製品発表会のプレゼンに出席。このサイクルショップは故・アンディ・リース氏がオーナーで、その店舗のお洒落ぶりと先進性に驚く。飾ってあるワインはリース氏のワイナリー産とのこと。氏は高級ホテルチェーンも経営しており、この夜はそのホテルのひとつに宿泊した。
峠の標高は1962m。標高600mのマイリンゲンから19kmで約1400mのアップ。下った先のグリンデルワルトまでは30km。用意されたe-bike「Alpenchallenge AMP Sport」はスポーツ向けにチューンされたアーバンスポーツモデル。フレームはチューリヒ湖へのツーリングで使用したモデル「AMP City」と共通だが、パーツやタイヤはよりスポーツ走行性能に対応したもの。2時間オーバーのヒルクライムは、e-bikeにとってバッテリー維持性能もキーポイント。バイクにとっても厳しいヒルクライムだ。
峠への勾配は5%ほどと、なだらかなため一定ペースで登りやすい勾配だ。時折きつくなるところではECOより力強さを感じるTRAILモードに切り替え、加速。補給食を食べたり、写真を撮ったりして小ストップをするごとに、仲間たちに追いつくのにBOOSTモードで強めのアシストを入れ、最低限の力でグループに復帰することができた。
e-bikeのアシスト傾向を知らないうちは「上りだって電動アシストの威力でラクラク」と安易に考えてしまいがちだが、そうではない。時速25km/hまでのアシストがあるe-Bikeでのヒルクライムは適度なアシストがあるものの、依然としてスポーツ。脚にもくる。電動アシストは「上りでつらいとき、並走する仲間が背中を押してくれる」感じに似ている。まったく楽というわけではない。頑張ることができずに気持ちが下がってくるとスピードが低下していくのも普通のライドと同じだ。電池の残量を見ながらECOモード、TRAILモード、BOOSTモードを切り替えて進むけれど、自分もしっかりペダルを漕がないと進まない。
途中で小雨も降り出し、レインジャケットを着込んで登る。透湿性に優れたゴアテックス・シェイクドライのレインギアがありがたいと思えるほど汗も多くかく。それでもさすがにつらいときにアシストしてくれるおかげで心が折れることはない。気持ちに余裕を保ったまま走り続けることができるのは素晴らしい。
峠が近づくにつれ、眼前にそびえ立つヴェッターホルンの迫力に圧倒される。スタートが遅かったため17時頃にグロッセシャイデックへ到着。夕暮れ前にはグリンデルワルトへ着くことができる計算だ。谷の境からベルナーオーバーラントを見渡す絶景を楽しむ。時間や天候の心配をしつつも、脚の心配が不要になるので気持ちの余裕がありがたかった。残り10kmのダウンヒルはつづら折れを楽しみながら。
Alpenchallenge AMPはバッテリーがシートチューブ上にあり、重量物の重心がバイクの中央・低めに位置するよう設計されているのがスポーティさの秘訣だ。脚に隠れるため、ルックス上もe-bikeであることを感じさせない。そしてフルカーボンフレームによる車体重量の軽量さが、つまりはパワーウェイトレシオの向上につながり、軽快な加速感とスポーティさになっている。心配したバッテリー残量は峠の頂上でも60%あり、十分なものだと実感できた。これなら一日中のバイクトレッキングに、長い日数のツーリングにも使えそうだ。MTTマイクロサスペンションは、舗装の継ぎ目など細かな凹凸も効果的に除去してくれる。
「アーバンスポーツモデルで難関山岳コースに挑戦してもらったのは、e-bikeの性能の限界の高さを感じてもらうため。そしてハイエンドのe-bikeならではの走りの愉しさや走行性能の高さなど、BMCならではのアプローチを感じて欲しかったから」と開発者は嬉しそうに笑った。この日、サポートリーダーは重いスペアバッテリーをデイパックに忍ばせて登ってくれたが、それを使うことはなかった。
スイスに居ると、e-bikeのシェアはもはやバイク全体の半数を超えていると思えるほど良く見かける。
年配者や女性も多く、スポーティに乗りこなしているのだ。通勤や買い物など生活に取り入れている姿も本当に多い。e-bike先進国スイスの、もっとも進んだe-bikeがAlpenchallenge AMPなのだ。アルプスを眺めながら、e-bikeが可能にしてくれるサイクリングの無限の可能性を感じた。
※Alpenchallenge AMPシリーズは、現在のところ日本での販売は未定となっています。
Alpenchallenge AMPシリーズ詳細ページ(英語)
アルパインチャレンジ4日目のメニューは「目指せヨーロッパ最高地点」。1,034 mのグリンデルワルトから2,061 mのクライネ・シャイデック(Kleine Scheidegg)へのバイククライミング。そこから登山電車に乗り換えて、スイスいちの観光名所であるユングフラウヨッホ(3,454m)を目指すというプラン。バイクライドでのクライネ・シャイデックまでの約1,000mのヒルクライム区間はアプト式登山電車がよじ登るルートの脇道で、平均勾配10%を越える激坂のためe-bike班が多数派だったが、モノ好きたち(?)のオールロードバイク班にジョインすることにする。
用意されたBMCの新型バイク「Roadmachine X」は、グラベルライドに主眼をおいたオールロード。軽量アルミフレームに1✕11仕様で、フロントシングルにリア42Tのビッグスプロケット、700✕34Cのグラベルタイヤを装備する。TCC Endurance technologyにより快適性とロングライドを可能にするジオメトリーと味付けで、かつ走りの良さを追求したという。かつ、このテのグラベルロードにありがちな過重量な車体でなく、シクロクロスのレースバイクにもなりそうな軽量な身の上だ。
※Roadmachine Xは日本で数量限定販売を予定しています。取扱い店はBMC日本総代理店(株)フタバ商店までお問い合わせ下さい。
→Roadmachine X詳細ページ(英語)
クライネ・シャイデックまでの標高差約1,000mを電動アシスト無しで登らなければならないのは、e-bikeでほぼ同じ標高差の峠を登った翌日にはプレッシャーだ。しかもフィニッシュには登山電車の発車時刻というタイムリミットも有る。
朝6時出発でつづら折れの急勾配にタックル。データ上では距離10kmで1,027mアップ、つまり平均勾配が10%を超えている! しかも最後の数キロに20%近いグラベルの急勾配区間もあり、ハンドルにしがみつきながらなんとか登る。途中、ラスト2kmで1時間半あとにスタートしたe-bikeグループに抜かれたのは悔しかったが、達成感で言えば何倍も大きい。Roadmachine Xの走りの良さはBMCのロード系レースバイクに通じるものだったし、1✕11の42Tスプロケットは十二分に「登れるギア比」だった。
ライドのフィニッシュ地点クライネ・シャイデックのガレージにバイクを預け、ヨーロッパいち標高が高い鉄道駅、標高3,454mのユングフラウヨッホ駅へは有名な登山電車に乗って向かう。アイガー内部にトンネルを掘ってユングフラウ山頂近くまで登山電車のレールを敷くという壮大さだ。
標高3,571mの複合施設「Top of Europe」はエンターテインメントに満ちていた。ユングフラウ鉄道全線開通100周年記念事業のひとつ、「アルパイン・センセーション」が、映像とサウンドで鉄道建設の苦難とユングフラウ地方の歴史と魅力を紹介してくれる。全面が氷の宮殿「アイスパレス」、そしてスフィンクス展望台からはアレッチ氷河が眺められ、実際に氷雪の世界に脚を踏み入れることができる(本当なら一流の登山家のみが到達できる場所だ!)。じつは今から30年前、ワタクシこと欧州自転車旅行の途上にあった20歳の若者は、この登山列車の運賃の高さにひるみ「いつかまた来る日もあるだろう」と先送りしてきたが、その当時の夢が叶った。バイクシューズで行けるユングフラウヨッホは想像以上に素晴らしかった。
ヨーロッパ最高地点の氷雪を歩いた後は、アイガー、メンヒ、ユングフラウのオーバーランド三山に囲まれた極上トレイルのダウンヒルだ。登ってきた方向とは逆の方向へと下る。あちこちに落ちているCow Shit(牛のフン)を避けつつ、スイッチバックの激下りを経てラウターブルネン経由でインターラーケンへ向かう。Roadmachine Xの高いダウンヒル性能を確かめられた。
1✕11のビッグスプロケット、34Cグラベルタイヤ、軽量アルミフレームのRoadmachine Xは予想以上に走破性が高かった。ロックセクションはMTBに譲るが、トレッキングルートの整備されたスイスではむしろ活躍する場面が多いだろう。そしてTCC Endurance technologyによるアルミながら柔軟性に優れたライドフィールと、一日中のロングライドを可能にするスポーティなジオメトリー。Roadmachine Xは、フィールドを選ばずに終日遊び尽くすためのバイクだ。
この日、e-bike班が駆ったAlpenchallenge AMP Crossは、XT Di2とWTB Nano 40mmタイヤなどでオフロード走破性能を高めたモデルだった。MTBに近いプロフィールをもち、オフロードの上り・下りともにこなしてしまう。車重も軽いため、タイヤのプロフィール以上に走破性が高い印象だ。通勤などのデイリーユースからトレッキングまでこなせる守備範囲の高さが魅力だ。
スイスアルプスを巡る4日間、400kmの旅。獲得標高は合計4,000m以上。皆でハイタッチを交わしてチャレンジングな4日間の旅は終了。BMCとスイス観光局が仕掛けた壮大な新車発表・試乗会だった。
スイスは自転車天国。旅する先で出会うサイクリストの姿が多いのも驚きだった。主な観光地にはバイクホテルが充実してあり、サイクリスト向けの情報の充実したオンラインのサイクリングマップ「スイスモビリティ」も非常に便利だ。スイスにはサイクリストを歓迎する体制が整っている。
最新Eバイク Alpenchallenge AMPでチューリヒ湖の平坦路をクルーズ
このイベントの集合地点となったのはチューリヒ国際空港。まずそこでスタッフに手渡されたのは新型のフルカーボン製e-bike「Alpenchallenge AMP City」だった。シマノStepsをフレームに完全インテグレーションするよう組み込まれたそのバイクで、「50km先の今夜宿泊するホテルまで行ってください」というのがファーストオーダー。しかも空港からは列車で市内の中央駅まで行くというタスクつき。スイスの鉄道やバスなど公共交通機関は国じゅうのあらゆる場所を網羅し、山村であっても行けないところは無いと言われるほど。しかも時間に正確で、高度に洗練されている。まずは空港の地下階の駅のホームへ。e-bikeを押したまま、空港の到着ロビーから直結しているエスカレーターに乗ってアクセスできる。
すぐにチューリヒ中央駅行きのメトロがホームに到着。自転車が載せられる車両には扉の近くに「自転車マーク」が示されており、それを目印に乗客の後に続いて乗り込む。電車内の扉の脇に3台分のバイクラックが用意されており、前輪をフックに掛けて仮固定するだけ。勝手が分からなくても親切なスイスの人たちがあれこれ教えてくれた。
鉄道にバイクが載せられる前提になっている国は欧州に多いが、スイスは国じゅうでOK。観光局の担当者によれば、「都市部の混んでいる時間帯のみ乗客の邪魔にならないように気をつけて」とのこと。Alpenchallenge AMPの重量14kgという、e-bikeとしては画期的に軽い車重が列車への(持ち上げを含む)持ち込みを著しく楽にする。
BMC Alpenchallenge AMP City
SPEC
フルカーボンフレーム |
MTTマイクロサスペンション |
専用ICSステム&ハンドル |
搭載モーター:シマノSteps E-8000 250W、出力70Nm |
アシスト:25km/h制限 |
シマノMetrea |
ブルックス・カンビウムC17サドル |
DT SWISS AMP 1800 Spline db 25ホイール |
ヴィットリア Revolution Tech 35mmタイヤ |
前後フェンダー装備 |
重量:約14kg〜(サイズにより異なる) |
中央駅からチューリヒ市街中心部までは数分。バイクレーンもしっかりついているため、初めて走るのに恐怖感無くアクセスできる。湖畔にもバイクレーンが明示され、芝生で寝転がって日光浴している市民の脇をのんびり走る。時間はたっぷりあるのでこちらも写真を撮ったりベンチに座っておしゃべりしたりと、豊かな時間を過ごせた。
ホテルまでの50kmは平坦路。電動モードは「ECO、TRAIL、BOOST」の3つがあるが、ECOで十分。時々軽い上りに差し掛かればTRAILモードで加速して勢いをつけて乗り切る。e-bikeに乗るのは初めてじゃないけれど、50kmの距離は初めて。まったく楽チンというわけじゃないけど、ストップ&ゴーの加速の際が楽なので、ラクラク巡航できる。
距離50kmだけだと余裕がありすぎるので、ルートを外れて住宅街の上りへ。急坂を100mほど登ったが、BOOSTモードを使いこなせばどんな坂も登れる。必要なときだけ適切なモードに切り替えてプッシュしてもらうという、e-bikeを乗りこなすコツが掴めた。時速25km/hまでのアシストと規制されているとおりの性能で、25km/hを越えるとアシスト力は抜けてしまう。
この日は湖畔のサイクルショップ「AR Cycling」でBMC新製品発表会のプレゼンに出席。このサイクルショップは故・アンディ・リース氏がオーナーで、その店舗のお洒落ぶりと先進性に驚く。飾ってあるワインはリース氏のワイナリー産とのこと。氏は高級ホテルチェーンも経営しており、この夜はそのホテルのひとつに宿泊した。
「クルマでは行けない峠」グロッセシャイデックへのe-bikeヒルクライム
2日目に用意されていたのは、ユングフラウ三山を眺める標高1,962 mのGrosse Scheidegg(グロッセ・シャイデック)へのe-bikeヒルクライム。ベルナーオーバーラントの代表的な山々を一望できることでトレッカーに有名な峠だが、このグロッセシャイデックへの道は普段クルマの通行が規制がされており、郵便局のクルマやバス以外では行けないことで、スイスを走るサイクリストにも非常に人気が高い。峠の標高は1962m。標高600mのマイリンゲンから19kmで約1400mのアップ。下った先のグリンデルワルトまでは30km。用意されたe-bike「Alpenchallenge AMP Sport」はスポーツ向けにチューンされたアーバンスポーツモデル。フレームはチューリヒ湖へのツーリングで使用したモデル「AMP City」と共通だが、パーツやタイヤはよりスポーツ走行性能に対応したもの。2時間オーバーのヒルクライムは、e-bikeにとってバッテリー維持性能もキーポイント。バイクにとっても厳しいヒルクライムだ。
Alpenchallenge AMP Sport
SPEC
フルカーボンフレーム |
MTTマイクロサスペンション |
専用ICSステム&ハンドル |
搭載モーター:シマノSteps E-8000 250W、出力70Nm |
アシスト:25km/h制限 |
シマノUltegraRXリアディレイラー |
フィジークAntaresサドル |
DT Swiss AMP1600 Splineホイール |
ヴィットリア コルサコントロールタイヤ |
重量:約14kg〜(サイズにより異なる) |
峠への勾配は5%ほどと、なだらかなため一定ペースで登りやすい勾配だ。時折きつくなるところではECOより力強さを感じるTRAILモードに切り替え、加速。補給食を食べたり、写真を撮ったりして小ストップをするごとに、仲間たちに追いつくのにBOOSTモードで強めのアシストを入れ、最低限の力でグループに復帰することができた。
e-bikeのアシスト傾向を知らないうちは「上りだって電動アシストの威力でラクラク」と安易に考えてしまいがちだが、そうではない。時速25km/hまでのアシストがあるe-Bikeでのヒルクライムは適度なアシストがあるものの、依然としてスポーツ。脚にもくる。電動アシストは「上りでつらいとき、並走する仲間が背中を押してくれる」感じに似ている。まったく楽というわけではない。頑張ることができずに気持ちが下がってくるとスピードが低下していくのも普通のライドと同じだ。電池の残量を見ながらECOモード、TRAILモード、BOOSTモードを切り替えて進むけれど、自分もしっかりペダルを漕がないと進まない。
途中で小雨も降り出し、レインジャケットを着込んで登る。透湿性に優れたゴアテックス・シェイクドライのレインギアがありがたいと思えるほど汗も多くかく。それでもさすがにつらいときにアシストしてくれるおかげで心が折れることはない。気持ちに余裕を保ったまま走り続けることができるのは素晴らしい。
峠が近づくにつれ、眼前にそびえ立つヴェッターホルンの迫力に圧倒される。スタートが遅かったため17時頃にグロッセシャイデックへ到着。夕暮れ前にはグリンデルワルトへ着くことができる計算だ。谷の境からベルナーオーバーラントを見渡す絶景を楽しむ。時間や天候の心配をしつつも、脚の心配が不要になるので気持ちの余裕がありがたかった。残り10kmのダウンヒルはつづら折れを楽しみながら。
Alpenchallenge AMPはバッテリーがシートチューブ上にあり、重量物の重心がバイクの中央・低めに位置するよう設計されているのがスポーティさの秘訣だ。脚に隠れるため、ルックス上もe-bikeであることを感じさせない。そしてフルカーボンフレームによる車体重量の軽量さが、つまりはパワーウェイトレシオの向上につながり、軽快な加速感とスポーティさになっている。心配したバッテリー残量は峠の頂上でも60%あり、十分なものだと実感できた。これなら一日中のバイクトレッキングに、長い日数のツーリングにも使えそうだ。MTTマイクロサスペンションは、舗装の継ぎ目など細かな凹凸も効果的に除去してくれる。
「アーバンスポーツモデルで難関山岳コースに挑戦してもらったのは、e-bikeの性能の限界の高さを感じてもらうため。そしてハイエンドのe-bikeならではの走りの愉しさや走行性能の高さなど、BMCならではのアプローチを感じて欲しかったから」と開発者は嬉しそうに笑った。この日、サポートリーダーは重いスペアバッテリーをデイパックに忍ばせて登ってくれたが、それを使うことはなかった。
スイスに居ると、e-bikeのシェアはもはやバイク全体の半数を超えていると思えるほど良く見かける。
年配者や女性も多く、スポーティに乗りこなしているのだ。通勤や買い物など生活に取り入れている姿も本当に多い。e-bike先進国スイスの、もっとも進んだe-bikeがAlpenchallenge AMPなのだ。アルプスを眺めながら、e-bikeが可能にしてくれるサイクリングの無限の可能性を感じた。
※Alpenchallenge AMPシリーズは、現在のところ日本での販売は未定となっています。
Alpenchallenge AMPシリーズ詳細ページ(英語)
オールロードと登山電車で目指した「Top of Europe」ユングフラウヨッホ
アルパインチャレンジ4日目のメニューは「目指せヨーロッパ最高地点」。1,034 mのグリンデルワルトから2,061 mのクライネ・シャイデック(Kleine Scheidegg)へのバイククライミング。そこから登山電車に乗り換えて、スイスいちの観光名所であるユングフラウヨッホ(3,454m)を目指すというプラン。バイクライドでのクライネ・シャイデックまでの約1,000mのヒルクライム区間はアプト式登山電車がよじ登るルートの脇道で、平均勾配10%を越える激坂のためe-bike班が多数派だったが、モノ好きたち(?)のオールロードバイク班にジョインすることにする。
用意されたBMCの新型バイク「Roadmachine X」は、グラベルライドに主眼をおいたオールロード。軽量アルミフレームに1✕11仕様で、フロントシングルにリア42Tのビッグスプロケット、700✕34Cのグラベルタイヤを装備する。TCC Endurance technologyにより快適性とロングライドを可能にするジオメトリーと味付けで、かつ走りの良さを追求したという。かつ、このテのグラベルロードにありがちな過重量な車体でなく、シクロクロスのレースバイクにもなりそうな軽量な身の上だ。
Roadmachine X
SPEC
トリプルバテッドアロイフレーム |
プレミアムカーボンフォーク |
フラットマウント&12mmスルーアクスル |
ラック&フェンダーマウント |
ケーブル内蔵システム |
スラムRival 1✕11コンポ(40T✕11-42T) |
マヴィックAllroad Disc UST |
WTB Exposure 700x34c Road TCSタイヤ |
※Roadmachine Xは日本で数量限定販売を予定しています。取扱い店はBMC日本総代理店(株)フタバ商店までお問い合わせ下さい。
→Roadmachine X詳細ページ(英語)
クライネ・シャイデックまでの標高差約1,000mを電動アシスト無しで登らなければならないのは、e-bikeでほぼ同じ標高差の峠を登った翌日にはプレッシャーだ。しかもフィニッシュには登山電車の発車時刻というタイムリミットも有る。
朝6時出発でつづら折れの急勾配にタックル。データ上では距離10kmで1,027mアップ、つまり平均勾配が10%を超えている! しかも最後の数キロに20%近いグラベルの急勾配区間もあり、ハンドルにしがみつきながらなんとか登る。途中、ラスト2kmで1時間半あとにスタートしたe-bikeグループに抜かれたのは悔しかったが、達成感で言えば何倍も大きい。Roadmachine Xの走りの良さはBMCのロード系レースバイクに通じるものだったし、1✕11の42Tスプロケットは十二分に「登れるギア比」だった。
ライドのフィニッシュ地点クライネ・シャイデックのガレージにバイクを預け、ヨーロッパいち標高が高い鉄道駅、標高3,454mのユングフラウヨッホ駅へは有名な登山電車に乗って向かう。アイガー内部にトンネルを掘ってユングフラウ山頂近くまで登山電車のレールを敷くという壮大さだ。
標高3,571mの複合施設「Top of Europe」はエンターテインメントに満ちていた。ユングフラウ鉄道全線開通100周年記念事業のひとつ、「アルパイン・センセーション」が、映像とサウンドで鉄道建設の苦難とユングフラウ地方の歴史と魅力を紹介してくれる。全面が氷の宮殿「アイスパレス」、そしてスフィンクス展望台からはアレッチ氷河が眺められ、実際に氷雪の世界に脚を踏み入れることができる(本当なら一流の登山家のみが到達できる場所だ!)。じつは今から30年前、ワタクシこと欧州自転車旅行の途上にあった20歳の若者は、この登山列車の運賃の高さにひるみ「いつかまた来る日もあるだろう」と先送りしてきたが、その当時の夢が叶った。バイクシューズで行けるユングフラウヨッホは想像以上に素晴らしかった。
ヨーロッパ最高地点の氷雪を歩いた後は、アイガー、メンヒ、ユングフラウのオーバーランド三山に囲まれた極上トレイルのダウンヒルだ。登ってきた方向とは逆の方向へと下る。あちこちに落ちているCow Shit(牛のフン)を避けつつ、スイッチバックの激下りを経てラウターブルネン経由でインターラーケンへ向かう。Roadmachine Xの高いダウンヒル性能を確かめられた。
1✕11のビッグスプロケット、34Cグラベルタイヤ、軽量アルミフレームのRoadmachine Xは予想以上に走破性が高かった。ロックセクションはMTBに譲るが、トレッキングルートの整備されたスイスではむしろ活躍する場面が多いだろう。そしてTCC Endurance technologyによるアルミながら柔軟性に優れたライドフィールと、一日中のロングライドを可能にするスポーティなジオメトリー。Roadmachine Xは、フィールドを選ばずに終日遊び尽くすためのバイクだ。
この日、e-bike班が駆ったAlpenchallenge AMP Crossは、XT Di2とWTB Nano 40mmタイヤなどでオフロード走破性能を高めたモデルだった。MTBに近いプロフィールをもち、オフロードの上り・下りともにこなしてしまう。車重も軽いため、タイヤのプロフィール以上に走破性が高い印象だ。通勤などのデイリーユースからトレッキングまでこなせる守備範囲の高さが魅力だ。
スイスアルプスを巡る4日間、400kmの旅。獲得標高は合計4,000m以上。皆でハイタッチを交わしてチャレンジングな4日間の旅は終了。BMCとスイス観光局が仕掛けた壮大な新車発表・試乗会だった。
スイスは自転車天国。旅する先で出会うサイクリストの姿が多いのも驚きだった。主な観光地にはバイクホテルが充実してあり、サイクリスト向けの情報の充実したオンラインのサイクリングマップ「スイスモビリティ」も非常に便利だ。スイスにはサイクリストを歓迎する体制が整っている。