2017/07/02(日) - 09:17
スペシャライズドが誇るオールラウンドレーシングバイク「Tarmac(ターマック)」がフルモデルチェンジ。第6世代となった常勝マシンの性能やテクノロジー、そして魅力を、詳細解説やインプレッションを通して紐解いていきたい。
Tarmacの誕生は2003年に遡る。カーボン/アルミハイブリッドフレームとしてデビューを果たし、およそ3年毎にモデルチェンジを繰り返しながら、常に時代の最先端を走るオールラウンドレーサーとして君臨し続けてきた。
Tarmacが重視してきたこと。それはオールラウンダーとして軽量性と剛性を高次元で組み合わせることだ。特に第4世代(SL4)までは剛性向上に焦点が当てられており、SL4では高剛性バイクの頂点たる名声を獲得。しかしここまで続いてきた軽量・高剛性こそ最高という風潮に対し、真っ先に疑問符を投げかけたのも、またTarmacであった。
スペシャライズドが克服を試みたのが、特にスモールフレームに顕著だった過剛性。車体を構成するチューブが短くなる小さいサイズでは、開発意図よりも硬い乗り味となり、軽量で絶対的パワーが低い小柄のライダーが高い剛性を持て余すことも稀ではなかった。
この着眼点に立ち、それまでの剛性至上主義に訣別を果たしたのが2014年にデビューした第5世代。フレームサイズごとに剛性を調整し乗り味を全てのサイズで均一にする「ライダーファーストエンジニアード」たるコンセプトのもとに開発が進められ、サイズごとに乗り味が異なるという課題の解決を試みた。そして、デビューイヤーとなる2014年にはヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)がツールを、アルベルト・コンタドール(スペイン)がブエルタを制覇したほか、一般ユーザーからもこれまで以上に広く受け入れられるなど成功を見た。
ツール・ド・フランスの前哨戦であるクリテリウム・デュ・ドーフィネにて初の実戦投入が行われ話題を呼んだ新型Tarmac。コンパクト化されたリアバック、ダウンチューブをはじめとするエアロ形状など、そのフォルムは多方面からブラッシュアップを突き詰めた末に生まれたもの。
本章では新型Tarmacのいかなる進化を遂げたのかを、軽量化、ハンドリング性能、エアロダイナミクス、剛性/振動吸収性という4つの観点から紐解いていこう。
グランツールで勝利を収めるため開発されたヒルクライムバイクのフレーム重量が700g台に入ることはもはや珍しくない。しかしグランツールで勝利を狙う上では扱いやすさ、エアロダイナミクス、剛性/振動吸収性の全てが高次元で融合されていることが必要不可欠であり、もちろんこれまでのTarmacも軽さを無視していたわけでは無いものの、フレーム重量は900g台前半と標準的な数値であった。
重量面を除けば当代最高峰であった前作の唯一のネックであったのが重量だ。スペシャライズドは今回のモデルチェンジにあたり、フレーム全体のシェイプアップに加え、Fact 12rという新しいカーボン工法、エンジニアリングカンパニーとの協業により実現した高精度な工作技術など、フレーム開発における様々な項目全てをバージョンアップ。
結果的に新型Tarmacは56cmサイズで733g、前作比で-200gというダイエットを果たし、一線級のクライミングバイクに並ぶ軽量性を手に入れ、登坂能力に更なる磨きをかけた。
更に、フレーム単体の軽量性に加えて、スペシャライズドは超軽量ペイント技術も確立し、このTarmacに落とし込んでいる。これはフレーム表面を予めザラザラとした状態に成形することでサーフェイサー(塗料の食いつきを向上させるための下地塗装)を不要にしたものであり、S-Worksロゴ用と仕上げ塗料のみを使用するため、フレーム重量プラス10gという圧倒的な軽量性を獲得している。
ビッグレースの勝負どころはヒルクライムであることは今も昔も変わりない事実だが、ダウンヒルで勝敗の行方が決着するレースも珍しくない。Tarmacは先代でもダウンヒル時の安定性とニュートラルなハンドリングにより好評価を得ていたが、新型ではRetulでフィッティングを受けた全世界約4万人のデータとプロ選手のフィードバックを反映した全く新しいライダーファーストエンジニアリングを投入している。
誰にでも乗りやすい新ジオメトリーになっている(この部分に関しては次ページで詳細解説を行う)と共に、思うがままのラインをトレースできるようフィッティング面から調整を試みた。
具体的にはフレームサイズによってヘッドチューブの下側ベアリング径を変更する手法を廃止し、1-1/2インチサイズに統一。組み合わせるフロントフォークも剛性を調整するべく前後、左右幅が異なる3種類が用意され、各フレームサイズに適したものが搭載される。同時にフレームもFEA解析(有限要素解析)の結果に基づき、約500枚のカーボンプライを使用したレイアップとチューブ形状を突き詰めることで剛性と乗り味のバランスを高めた。
更にケーブルルーティングにも剛性面からアプローチした。ねじれ方向の力に対して最小限のロスで留めるべく、ケーブルをフレーム内に導く穴をダウンチューブ上部に移動させた他、Di2ジャンクションはエアロロードに多く導入されているダウンチューブ内蔵ではなく、ハンドルエンドに位置させている。
軽さと剛性、扱いやすいハンドリングを高水準で実現した上に、エアロダイナミクスを加えることができれば、登りと下り、平坦と全てのシチュエーションで優位に立てる理想のオールラウンドレーサーとして君臨することができるはず。開発陣は自社風洞施設"Win-Tunnel"を持つ強みを活かし、オールラウンドバイクとしての剛性と軽量性を維持しつつ、エアロロードのVengeに迫る空力性能を実現するべく、半年もの長期間に渡りCFD解析と風洞実験を繰り返したという。
空力性能を最適化した上での大きな変化は、リアバックがコンパクトになったことだ。VengeやTTバイクのShivにも通じるエアロ要素であり、他にもホイールに沿ってカットオフされたシートチューブ、シートポスト/チューブとダウンチューブのDシェイプデザインなど、剛性/軽量性を犠牲にしない範疇内において様々な工夫がもたらされている。
中でも特筆すべきはフロントフォーク。ダイレクトマウントブレーキの採用は、ブレーキアーチ自体の張り出しを少なくするとともに、取り付け位置が低いためワンボルト式に比べてタイヤとダウンチューブ間の距離を詰めることができるという利点も生まれる。ここに着目した開発陣は更にヘッドアングルを立てることでその距離をより縮め、ドラッグの発生を抑えている。
ブレーキに関して言えば、ダイレクトマウント特有のネックを解消するために導入されたカーボンブレーキブースターもユニークだ。これはパリ〜ルーベでプロ選手のみに供給されたノーマルブレーキ仕様のRoubaixと同じシステムであり、ステーの開きを抑制し制動力の低下を防いだ。
軽量化とともにエアロ化も果たした新型Tarmacは、ライバルとなり得る他社のオールラウンドモデルに対し距離40kmの走行で45秒を短縮するというシミュレーション結果を叩き出したという。
シートポスト/チューブのDシェイプデザイン、コンパクトなリア三角の設計は、リアバックの快適性、振動吸収性にも恩恵をもたらしている。エンデュランスロードでもお馴染みのD型断面のチューブや、タイヤをカバーするような扁平形状となったBB付近のシートチューブ形状は、路面から衝撃を受けた際に後方にしなるため、腰への不快な振動を抑えてくれるのだ。
クリアランスに関しても30cタイヤを飲み込むほどの余裕を有しており、スタンダードを26cに設定することで快適性やグリップ性能の向上を果たした。近年はワイドタイヤの流行に加えて石畳が登場するロンド・ファン・フラーンデレンでもTarmacの使用率が上がっており、幅広タイヤへの対応はそれら状況を鑑みたものでもある。
軽量化や高剛性化、エアロ化などレースマシンとしての能力を引き上げつつ、快適性まで向上した新型Tarmac。次章では、これまでと多少異なるフレームサイズ選びへのアドバイスを含めてライダーファーストエンジニアードの詳細解説を、そして2人のショップ店長による徹底インプレッションをお届けしたい。
スペシャライズドが誇るオールラウンドレーサーTarmac
ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャと3大グランツールを総なめにし、世界選手権やオリンピック、ロンド・ファン・フラーンデレンなど、幾多ものビッグタイトルを手にしてきたスペシャライズドのオールラウンドレーサーが「Tarmac」。空力を突き詰めたVenge、エンデュランスモデルのRoubaixと並ぶスペシャライズド三本柱の中核を担う存在であり、プロアマ問わず常にレーサーからの支持を受けてやまぬ、言わずと知れたプロトン屈指の常勝モデルだ。Tarmacの誕生は2003年に遡る。カーボン/アルミハイブリッドフレームとしてデビューを果たし、およそ3年毎にモデルチェンジを繰り返しながら、常に時代の最先端を走るオールラウンドレーサーとして君臨し続けてきた。
Tarmacが重視してきたこと。それはオールラウンダーとして軽量性と剛性を高次元で組み合わせることだ。特に第4世代(SL4)までは剛性向上に焦点が当てられており、SL4では高剛性バイクの頂点たる名声を獲得。しかしここまで続いてきた軽量・高剛性こそ最高という風潮に対し、真っ先に疑問符を投げかけたのも、またTarmacであった。
スペシャライズドが克服を試みたのが、特にスモールフレームに顕著だった過剛性。車体を構成するチューブが短くなる小さいサイズでは、開発意図よりも硬い乗り味となり、軽量で絶対的パワーが低い小柄のライダーが高い剛性を持て余すことも稀ではなかった。
この着眼点に立ち、それまでの剛性至上主義に訣別を果たしたのが2014年にデビューした第5世代。フレームサイズごとに剛性を調整し乗り味を全てのサイズで均一にする「ライダーファーストエンジニアード」たるコンセプトのもとに開発が進められ、サイズごとに乗り味が異なるという課題の解決を試みた。そして、デビューイヤーとなる2014年にはヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)がツールを、アルベルト・コンタドール(スペイン)がブエルタを制覇したほか、一般ユーザーからもこれまで以上に広く受け入れられるなど成功を見た。
第6世代 THE ALL-NEW, RIDER-FIRST ENGINEERED TARMACがデビュー
前作登場より丸3年経過した2017年7月1日、第6世代目となるTarmacがデビューする。「MAKE THE BEST BIKE EVEN BETTER」というコンセプトを掲げ、より軽く、より扱いやすいハンドリングを身につけ、あらゆる場面での速さを追求し生まれたピュアレーサーだ。ツール・ド・フランスの前哨戦であるクリテリウム・デュ・ドーフィネにて初の実戦投入が行われ話題を呼んだ新型Tarmac。コンパクト化されたリアバック、ダウンチューブをはじめとするエアロ形状など、そのフォルムは多方面からブラッシュアップを突き詰めた末に生まれたもの。
本章では新型Tarmacのいかなる進化を遂げたのかを、軽量化、ハンドリング性能、エアロダイナミクス、剛性/振動吸収性という4つの観点から紐解いていこう。
前作比-200g、56cmサイズで733gを実現 登坂性能に磨きをかける
グランツールで勝利を収めるため開発されたヒルクライムバイクのフレーム重量が700g台に入ることはもはや珍しくない。しかしグランツールで勝利を狙う上では扱いやすさ、エアロダイナミクス、剛性/振動吸収性の全てが高次元で融合されていることが必要不可欠であり、もちろんこれまでのTarmacも軽さを無視していたわけでは無いものの、フレーム重量は900g台前半と標準的な数値であった。
重量面を除けば当代最高峰であった前作の唯一のネックであったのが重量だ。スペシャライズドは今回のモデルチェンジにあたり、フレーム全体のシェイプアップに加え、Fact 12rという新しいカーボン工法、エンジニアリングカンパニーとの協業により実現した高精度な工作技術など、フレーム開発における様々な項目全てをバージョンアップ。
結果的に新型Tarmacは56cmサイズで733g、前作比で-200gというダイエットを果たし、一線級のクライミングバイクに並ぶ軽量性を手に入れ、登坂能力に更なる磨きをかけた。
更に、フレーム単体の軽量性に加えて、スペシャライズドは超軽量ペイント技術も確立し、このTarmacに落とし込んでいる。これはフレーム表面を予めザラザラとした状態に成形することでサーフェイサー(塗料の食いつきを向上させるための下地塗装)を不要にしたものであり、S-Worksロゴ用と仕上げ塗料のみを使用するため、フレーム重量プラス10gという圧倒的な軽量性を獲得している。
ダウンヒルをより速く 思いのままに操れるハンドリングを実現
ビッグレースの勝負どころはヒルクライムであることは今も昔も変わりない事実だが、ダウンヒルで勝敗の行方が決着するレースも珍しくない。Tarmacは先代でもダウンヒル時の安定性とニュートラルなハンドリングにより好評価を得ていたが、新型ではRetulでフィッティングを受けた全世界約4万人のデータとプロ選手のフィードバックを反映した全く新しいライダーファーストエンジニアリングを投入している。
誰にでも乗りやすい新ジオメトリーになっている(この部分に関しては次ページで詳細解説を行う)と共に、思うがままのラインをトレースできるようフィッティング面から調整を試みた。
具体的にはフレームサイズによってヘッドチューブの下側ベアリング径を変更する手法を廃止し、1-1/2インチサイズに統一。組み合わせるフロントフォークも剛性を調整するべく前後、左右幅が異なる3種類が用意され、各フレームサイズに適したものが搭載される。同時にフレームもFEA解析(有限要素解析)の結果に基づき、約500枚のカーボンプライを使用したレイアップとチューブ形状を突き詰めることで剛性と乗り味のバランスを高めた。
更にケーブルルーティングにも剛性面からアプローチした。ねじれ方向の力に対して最小限のロスで留めるべく、ケーブルをフレーム内に導く穴をダウンチューブ上部に移動させた他、Di2ジャンクションはエアロロードに多く導入されているダウンチューブ内蔵ではなく、ハンドルエンドに位置させている。
エアロシェイプを取り入れた新型Tarmac
軽さと剛性、扱いやすいハンドリングを高水準で実現した上に、エアロダイナミクスを加えることができれば、登りと下り、平坦と全てのシチュエーションで優位に立てる理想のオールラウンドレーサーとして君臨することができるはず。開発陣は自社風洞施設"Win-Tunnel"を持つ強みを活かし、オールラウンドバイクとしての剛性と軽量性を維持しつつ、エアロロードのVengeに迫る空力性能を実現するべく、半年もの長期間に渡りCFD解析と風洞実験を繰り返したという。
空力性能を最適化した上での大きな変化は、リアバックがコンパクトになったことだ。VengeやTTバイクのShivにも通じるエアロ要素であり、他にもホイールに沿ってカットオフされたシートチューブ、シートポスト/チューブとダウンチューブのDシェイプデザインなど、剛性/軽量性を犠牲にしない範疇内において様々な工夫がもたらされている。
中でも特筆すべきはフロントフォーク。ダイレクトマウントブレーキの採用は、ブレーキアーチ自体の張り出しを少なくするとともに、取り付け位置が低いためワンボルト式に比べてタイヤとダウンチューブ間の距離を詰めることができるという利点も生まれる。ここに着目した開発陣は更にヘッドアングルを立てることでその距離をより縮め、ドラッグの発生を抑えている。
ブレーキに関して言えば、ダイレクトマウント特有のネックを解消するために導入されたカーボンブレーキブースターもユニークだ。これはパリ〜ルーベでプロ選手のみに供給されたノーマルブレーキ仕様のRoubaixと同じシステムであり、ステーの開きを抑制し制動力の低下を防いだ。
軽量化とともにエアロ化も果たした新型Tarmacは、ライバルとなり得る他社のオールラウンドモデルに対し距離40kmの走行で45秒を短縮するというシミュレーション結果を叩き出したという。
エアロシェイプがもたらした快適性
シートポスト/チューブのDシェイプデザイン、コンパクトなリア三角の設計は、リアバックの快適性、振動吸収性にも恩恵をもたらしている。エンデュランスロードでもお馴染みのD型断面のチューブや、タイヤをカバーするような扁平形状となったBB付近のシートチューブ形状は、路面から衝撃を受けた際に後方にしなるため、腰への不快な振動を抑えてくれるのだ。
クリアランスに関しても30cタイヤを飲み込むほどの余裕を有しており、スタンダードを26cに設定することで快適性やグリップ性能の向上を果たした。近年はワイドタイヤの流行に加えて石畳が登場するロンド・ファン・フラーンデレンでもTarmacの使用率が上がっており、幅広タイヤへの対応はそれら状況を鑑みたものでもある。
軽量化や高剛性化、エアロ化などレースマシンとしての能力を引き上げつつ、快適性まで向上した新型Tarmac。次章では、これまでと多少異なるフレームサイズ選びへのアドバイスを含めてライダーファーストエンジニアードの詳細解説を、そして2人のショップ店長による徹底インプレッションをお届けしたい。
提供:スペシャライズド・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部