2016/05/07(土) - 12:43
パリ~ルーベを何度も制した名エンデュランスロード「Roubaix」の末弟モデルに当たる「Roubaix SL4」をインプレッション。プライスダウンでより一層価値を高めた、20万円フルカーボン完成車の実力を問う。
過酷過ぎるパヴェを走破し、かつライバルを振り落とすためには、バイクにも振動吸収性と運動性能という相反する要素が高い次元で両立していることが求められる。そのためにサスペンションといった特殊な機材や専用設計のスペシャルバイクを投入するなど、各ブランドの開発競争の場でもあるのだ。
そんなパリ〜ルーベを制すために、2004年にスペシャライズドが投入したのが初代「Roubaix(ルーベ)」。振動吸収性を向上させるためにZerts(ゼルツ)と呼ばれるエストラマーをフロントフォークとシートステーに搭載し、リラックスしたポジションを導き出すジオメトリーなど、今や一般的となった「エンデュランスロード」の草分け的存在となったエポックメイキングなバイクだった。
Roubaixはモデルチェンジを経ながらブラッシュアップを続け、現在は第4世代がレースと市場に投入されている。その存在と価値は「北の地獄」での輝かしい実績をもって証明されており、2008年から2016年までの9年間にはパリ~ルーベで5勝を挙げ、過去5年連続で表彰台にサポートライダーを送り込んでみせた。ここまで突出した成績を残すバイクは他に存在しない。
アップライトかつロングホイールベースのジオメトリーや、フロントフォークとシートステーに搭載されたZertsなど、S-WORKS Roubaix SL4の基本設計を受け継いでいるRoubaix SL4。カーボン素材をスペシャライズドのボトムグレードであるFACT 8rとし、手の届きやすい価格に抑えていることが特徴だ。
また、S-WORKSではフレームサイズごとにヘッド下ベアリング径が変更されているが、Roubaix SL4では1-3/8インチに統一。S-WORKSでは圧入式(OSBB)となるBB規格もスレッド式にすることで、コストパフォーマンスと実用性をビギナーフレンドリーな設定としている。
もちろん、ヤグラ直下が「く」の字に折り曲げられ、そこにZertsが挿入された「コブルコブラー」シートピラーはS-WORKS同様に搭載し、クッション性の高いゲルをインサートした「Body Geometry Toupe Sport」サドル、スペシャライズドが誇るGRIPTONコンパウンドを配合した「Espoir Elite 26C」タイヤなど、パーツ面でも快適性を向上させる工夫が見て取れる。コンポーネントはブレーキをとチェーンを除き、シマノTIAGRAが組み合わせられている。
Roubaix SL4はTarmac Sport同様、今年の4月から大幅なプライスダウンが行われた。旧価格から約24,000円を値下げした205,200円という、最初の一台を求めるビギナーでも手が届きやすい価格に見直され、より一層コストパフォーマンスを高めている。それでは、インプレッションに移ろう。
「楽に長距離を走りたい方に。伸びやかな加速感も魅力」
Tarmac Sportと比較して、キャラクターの違いがとても明確に出ていと感じました。フレームにおいても、パーツ構成においても、しっかりと長距離を楽に乗りこなすための味付けがなされています。
単純な振動吸収性はもちろんなのですが、適度な柔らかさとアップライトなジオメトリーゆえの直進安定性がRoubaix SL4の特徴ですね。普段だったら腰を浮かせるような段差や路面でも、シートポストが大きく仕事をしてくれるので、どっかりと座ったまま突っ込んでも全く不安がありませんでした。
パリ~ルーベに使われる機材というと振動吸収性ばかり注目が集まるのですが、実際はパヴェ以外でもアタックは発生するし、スプリント力も求められる。つまりは総合的に優れた自転車でなければならないのです。
もちろんTarmac Sportと比較すれば反応性で落ちるのですが、その分ギュワッと「後からついてくる」。むしろ加速しているフィーリングはこちらの方が強いくらいに感じました。そして剛性が落とされている分、中~高速域では巡行がしやすいんですね。ペダリングの歪みを矯正してくれるために細かなスピードの上下が無く、疲れないことに気づかされました。
そしてヘッドチューブとホイールベースが長いことで、深く呼吸ができるリラックスしたポジションが取れることも大きい特徴ですね。ホイールベースの長さは直進安定性に繋がっていて、ちょっとした路面のギャップにもハンドルが取られることがありません。Tarmacのようなレースバイクだと気を使う必要がありますが、これならブルベの後半戦のような、集中力が切れている状況でも助けになってくれるでしょう。
ハンドリングに関しても野暮ったさはありませんし、ダンシングの振りにしたって悪くありませんね。Tarmac Sportよりはマイルドですが、それぞれ1グレード落ちるホイールとタイヤの組み合わせによる部分も大きいかもしれません。このタイヤはグラベルでの安心感は高いのですが、舗装路だと重たい。よほど荒れた林道に行くのでなければ、S-WORKS TURBOなどに交換してあげたいですね。
金額とスペックだけで比較してしまうと、Tarmac Sportに対してRoubaix SL4は少し見劣りしてしまうかもしれませんが、フォークやシートステーのゼルツ、コブルコブラーが搭載されたシートポストなど、フレーム側での工夫と考えれば適正だと感じます。
言うなれば、「全て自転車任せ」にできる自転車と言えるでしょうか。スキルを養うという意味では微妙かもしれない……と少し思ってしまうほど、何も考えなくともまっすぐ、凹凸をいなしながら走ってくれるバイクです。決してコストパフォーマンスも悪くありませんし、長距離を楽に乗りたい方にオススメですね。
「巡航時の直進安定性はS-WORKSに肉薄するレベルにある」
テストして改めて思うのは、やはり巡航性能に優れたバイクだということ。Zertzの振動吸収性能とアップライトなポジションになるジオメトリーなど、各所がプラスに働いているため、走行中の安定感はこの価格帯のバイクと比べても抜きん出ていると感じます。
Roubaix SL4のフィーリングを説明するなら、BBを中心にして縦方向にはしなやかに、横方向には硬いというイメージです。トルクを掛けてペダリングをすると、クロモリバイクに近いフレームが上下にウィップする挙動を感じます。この縦の動きによって、荒れた路面でも凹凸をいなし、高い巡行性能に繋げているのでしょう。舗装路での巡航性能で言えば、S-WORKSと比較した場合でも大きな差は感じませんでした。
ハンドリングやダンシングといった俊敏性はTarmacに譲りますが、その代わりにロードバイクに乗り慣れてないピュアビギナーにとってはベストな安定感がRoubaix SL4の持ち味です。Tarmacより長く設定されたホイールベースも効いているのでしょう。
Zertz単体の効果はなかなか感じにくい部分ではあるのですが、フレームはもちろん、ホイールやタイヤなど、トータルパッケージとしての振動吸収性はなかなかのもの。以前、最初の一台にRoubaixを選んだお客さんがバイクを乗り換える際、他モデルを試乗して改めてRoubaixの快適性の良さを感じてしまい、選択に困ったという例がありました。他ブランドのライバルモデルと比較しても、この部分は非常に突出していると思います。
Tarmacのような機敏な動きをしないため、長くキツいヒルクライムはやや苦手でしょうか。25km/h~30km/hほどの速度でゆっくり進みながら景色を楽しむロングライドが似合うバイクです。平坦な海沿いをどこまでも…といったシチュエーションが一番しっくりとくるように感じます。
もちろんホイールやタイヤ幅を変えることで軽快感を向上させることが可能ですし、新しいティアグラコンポーネントも以前と比較して飛躍的に性能が上がりました。走り方が定まっていないビギナーさんが選んだとしても、後々に困ってしまうようなことはありません。この性能で20万円フラットですから、とてもコストパフォーマンスは高いと言えますね。まず初めての一台の候補として選択肢に入れることをお勧めしたい、ロングライド派に価値あるバイクです。
なるしまフレンド神宮店(レコメンドショップページ)
なるしまフレンド HP
堀口昌義(GRACEE)
東京都荒川区東日暮里に店舗を構えるスペシャライズド専門店GRACEE(グレイシー)のストアマネージャー。自身は各世代のS-WORKS TarmacやS-WORKS Roubaix、Allezを乗り継ぎ、現在の愛車はAllez Sprint。「初心者の気持ちを汲み取り、一緒に楽しむ」をモットーとして、走行会やイベントを中心にお店に集まるお客さんとライドを楽しむ。
GRACEE HP
パリ~ルーベで勝つために生み出されたエンデュランスバイクRoubaix
数多くのファンと選手を惹きつけて止まないクラシックレース、パリ〜ルーべ。「北の地獄」とも「クラシックの女王」とも言われる所以は、無数に登場する荒れたパヴェ(石畳)と、それによって引き起これる落車や機材トラブル、それらを乗り越えてなお繰り返されるアタックの応酬に他ならない。過酷過ぎるパヴェを走破し、かつライバルを振り落とすためには、バイクにも振動吸収性と運動性能という相反する要素が高い次元で両立していることが求められる。そのためにサスペンションといった特殊な機材や専用設計のスペシャルバイクを投入するなど、各ブランドの開発競争の場でもあるのだ。
そんなパリ〜ルーベを制すために、2004年にスペシャライズドが投入したのが初代「Roubaix(ルーベ)」。振動吸収性を向上させるためにZerts(ゼルツ)と呼ばれるエストラマーをフロントフォークとシートステーに搭載し、リラックスしたポジションを導き出すジオメトリーなど、今や一般的となった「エンデュランスロード」の草分け的存在となったエポックメイキングなバイクだった。
Roubaixはモデルチェンジを経ながらブラッシュアップを続け、現在は第4世代がレースと市場に投入されている。その存在と価値は「北の地獄」での輝かしい実績をもって証明されており、2008年から2016年までの9年間にはパリ~ルーベで5勝を挙げ、過去5年連続で表彰台にサポートライダーを送り込んでみせた。ここまで突出した成績を残すバイクは他に存在しない。
優しい乗り味を持つエントリーグレード「Roubaix SL4」
そんなパリ~ルーベで圧倒的な存在感を放ち続ける最高峰グレード「S-WORKS」を筆頭に、現在スペシャライズドがラインナップするRoubaxのバリエーションは、4種類のフレームを使った7つの完成車パッケージ。今回インプレッションを行ったのは、計7種類のラインアップの中で最も買い求めやすい価格に設定されたモデル「Roubaix SL4」だ。アップライトかつロングホイールベースのジオメトリーや、フロントフォークとシートステーに搭載されたZertsなど、S-WORKS Roubaix SL4の基本設計を受け継いでいるRoubaix SL4。カーボン素材をスペシャライズドのボトムグレードであるFACT 8rとし、手の届きやすい価格に抑えていることが特徴だ。
また、S-WORKSではフレームサイズごとにヘッド下ベアリング径が変更されているが、Roubaix SL4では1-3/8インチに統一。S-WORKSでは圧入式(OSBB)となるBB規格もスレッド式にすることで、コストパフォーマンスと実用性をビギナーフレンドリーな設定としている。
もちろん、ヤグラ直下が「く」の字に折り曲げられ、そこにZertsが挿入された「コブルコブラー」シートピラーはS-WORKS同様に搭載し、クッション性の高いゲルをインサートした「Body Geometry Toupe Sport」サドル、スペシャライズドが誇るGRIPTONコンパウンドを配合した「Espoir Elite 26C」タイヤなど、パーツ面でも快適性を向上させる工夫が見て取れる。コンポーネントはブレーキをとチェーンを除き、シマノTIAGRAが組み合わせられている。
Roubaix SL4はTarmac Sport同様、今年の4月から大幅なプライスダウンが行われた。旧価格から約24,000円を値下げした205,200円という、最初の一台を求めるビギナーでも手が届きやすい価格に見直され、より一層コストパフォーマンスを高めている。それでは、インプレッションに移ろう。
インプレッション
「楽に長距離を走りたい方に。伸びやかな加速感も魅力」
小畑郁(なるしまフレンド)
Tarmac Sportと比較して、キャラクターの違いがとても明確に出ていと感じました。フレームにおいても、パーツ構成においても、しっかりと長距離を楽に乗りこなすための味付けがなされています。単純な振動吸収性はもちろんなのですが、適度な柔らかさとアップライトなジオメトリーゆえの直進安定性がRoubaix SL4の特徴ですね。普段だったら腰を浮かせるような段差や路面でも、シートポストが大きく仕事をしてくれるので、どっかりと座ったまま突っ込んでも全く不安がありませんでした。
パリ~ルーベに使われる機材というと振動吸収性ばかり注目が集まるのですが、実際はパヴェ以外でもアタックは発生するし、スプリント力も求められる。つまりは総合的に優れた自転車でなければならないのです。
もちろんTarmac Sportと比較すれば反応性で落ちるのですが、その分ギュワッと「後からついてくる」。むしろ加速しているフィーリングはこちらの方が強いくらいに感じました。そして剛性が落とされている分、中~高速域では巡行がしやすいんですね。ペダリングの歪みを矯正してくれるために細かなスピードの上下が無く、疲れないことに気づかされました。
そしてヘッドチューブとホイールベースが長いことで、深く呼吸ができるリラックスしたポジションが取れることも大きい特徴ですね。ホイールベースの長さは直進安定性に繋がっていて、ちょっとした路面のギャップにもハンドルが取られることがありません。Tarmacのようなレースバイクだと気を使う必要がありますが、これならブルベの後半戦のような、集中力が切れている状況でも助けになってくれるでしょう。
ハンドリングに関しても野暮ったさはありませんし、ダンシングの振りにしたって悪くありませんね。Tarmac Sportよりはマイルドですが、それぞれ1グレード落ちるホイールとタイヤの組み合わせによる部分も大きいかもしれません。このタイヤはグラベルでの安心感は高いのですが、舗装路だと重たい。よほど荒れた林道に行くのでなければ、S-WORKS TURBOなどに交換してあげたいですね。
金額とスペックだけで比較してしまうと、Tarmac Sportに対してRoubaix SL4は少し見劣りしてしまうかもしれませんが、フォークやシートステーのゼルツ、コブルコブラーが搭載されたシートポストなど、フレーム側での工夫と考えれば適正だと感じます。
言うなれば、「全て自転車任せ」にできる自転車と言えるでしょうか。スキルを養うという意味では微妙かもしれない……と少し思ってしまうほど、何も考えなくともまっすぐ、凹凸をいなしながら走ってくれるバイクです。決してコストパフォーマンスも悪くありませんし、長距離を楽に乗りたい方にオススメですね。
「巡航時の直進安定性はS-WORKSに肉薄するレベルにある」
堀口昌義(GRACEE)
テストして改めて思うのは、やはり巡航性能に優れたバイクだということ。Zertzの振動吸収性能とアップライトなポジションになるジオメトリーなど、各所がプラスに働いているため、走行中の安定感はこの価格帯のバイクと比べても抜きん出ていると感じます。Roubaix SL4のフィーリングを説明するなら、BBを中心にして縦方向にはしなやかに、横方向には硬いというイメージです。トルクを掛けてペダリングをすると、クロモリバイクに近いフレームが上下にウィップする挙動を感じます。この縦の動きによって、荒れた路面でも凹凸をいなし、高い巡行性能に繋げているのでしょう。舗装路での巡航性能で言えば、S-WORKSと比較した場合でも大きな差は感じませんでした。
ハンドリングやダンシングといった俊敏性はTarmacに譲りますが、その代わりにロードバイクに乗り慣れてないピュアビギナーにとってはベストな安定感がRoubaix SL4の持ち味です。Tarmacより長く設定されたホイールベースも効いているのでしょう。
Zertz単体の効果はなかなか感じにくい部分ではあるのですが、フレームはもちろん、ホイールやタイヤなど、トータルパッケージとしての振動吸収性はなかなかのもの。以前、最初の一台にRoubaixを選んだお客さんがバイクを乗り換える際、他モデルを試乗して改めてRoubaixの快適性の良さを感じてしまい、選択に困ったという例がありました。他ブランドのライバルモデルと比較しても、この部分は非常に突出していると思います。
Tarmacのような機敏な動きをしないため、長くキツいヒルクライムはやや苦手でしょうか。25km/h~30km/hほどの速度でゆっくり進みながら景色を楽しむロングライドが似合うバイクです。平坦な海沿いをどこまでも…といったシチュエーションが一番しっくりとくるように感じます。
もちろんホイールやタイヤ幅を変えることで軽快感を向上させることが可能ですし、新しいティアグラコンポーネントも以前と比較して飛躍的に性能が上がりました。走り方が定まっていないビギナーさんが選んだとしても、後々に困ってしまうようなことはありません。この性能で20万円フラットですから、とてもコストパフォーマンスは高いと言えますね。まず初めての一台の候補として選択肢に入れることをお勧めしたい、ロングライド派に価値あるバイクです。
Tarmac Sport スペック
フレーム | Specialized SL4 FACT 8r carbon, 1-1/8" to 1-3/8" head tube, compact race design, Zertz, internal rear brake cable, threaded BB |
フォーク | Specialized FACT carbon |
サイズ | 49,52,54,56,58 |
コンポーネント | Shimano Tiagra |
ホイール | AXIS 1.0 |
価格 | 205,200円 |
インプレライダー プロフィール
小畑郁(なるしまフレンド)
圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高いなるしまフレンド神宮店の技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。現在もなお、メカニックと競技者の双方の視点から自転車のディープで果てしない世界を探求中。なるしまフレンド神宮店(レコメンドショップページ)
なるしまフレンド HP
堀口昌義(GRACEE)
東京都荒川区東日暮里に店舗を構えるスペシャライズド専門店GRACEE(グレイシー)のストアマネージャー。自身は各世代のS-WORKS TarmacやS-WORKS Roubaix、Allezを乗り継ぎ、現在の愛車はAllez Sprint。「初心者の気持ちを汲み取り、一緒に楽しむ」をモットーとして、走行会やイベントを中心にお店に集まるお客さんとライドを楽しむ。GRACEE HP
提供:スペシャライズド・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部