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スペシャライズドのエントリーバイク2大巨頭、Tarmac SportとRoubaix SL4

スペシャライズドのエントリーバイク2大巨頭、Tarmac SportとRoubaix SL4スペシャライズドのエントリーバイク2大巨頭、Tarmac SportとRoubaix SL4
4月よりプライスダウンが行われ、より一層ビギナーにも手が届きやすい価格となったスペシャライズドのエントリーカーボンバイクの2大巨頭「Tarmac Sport」と「Roubaix SL4」を乗り比べた。いずれも20万円+というビギナーでも手の届きやすい価格でありながら、その性能はエントリーバイクというイメージを払拭するものであった。まずはTarmac Sportのインプレッションからお届けしよう。

圧倒的な戦績を誇るスペシャライズドのオールラウンドレーサーTarmac

空気抵抗を徹底的に排除したエアロロード「Venge Vias」、パヴェのような荒れた路面を物ともせず進んでいくエンデュランスバイク「Roubaix」が用意される中、オールラウンダーとしてスペシャライズドのレーシングバイクの王道に君臨するのが「Tarmac」である。

ロンド・ファン・フラーンデレンを制したペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)ロンド・ファン・フラーンデレンを制したペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) photo:Makoto.AYANO
S-WORKS Tarmacを駆るアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)S-WORKS Tarmacを駆るアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) (c)CorVosツアー・オブ・オマーン2016の総合優勝に輝いたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)ツアー・オブ・オマーン2016の総合優勝に輝いたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Tim de Waele


2003年に登場したTarmacはモデルチェンジを経ながら、常に時代の最先端を行くレーシングバイクとしてプロチームと歩みを共にしてきた。過去はゲロルシュタイナーやチームCSCに始まり、現在はアスタナ、クイックステップ、ティンコフと、数あるUCIワールドツアーチーム内でも最強の呼び声高い3チームに愛されており、その活躍は周知の通りだろう。

2016年シーズンだけでも既にロンド・ファン・フラーンデレンや、ブエルタ・アル・パイスバスコで優勝を達成しており、昨年はブエルタ・ア・エスパーニャ、ジロ・デ・イタリアと2つのグランツアーで総合優勝、そして10月には世界選手権で勝利を挙げ、最も誉れ高いアルカンシエルをまた一枚獲得と、これほどまで多くの戦績を持つバイクは他に存在しない。

S-WORKSの系譜を受け継ぐエントリーカーボン「Tarmac Sport」

そんな華々しい戦績を持つTarmacのトップモデル「S-WORKS」を筆頭に、スペシャライズドでは脚力と価格に合わせて仕様を変えた、4種類のTarmacフレームを用意し、7つの完成車パッケージを販売している。その中において、216,000円と最も買い求めやすい価格に設定されているモデルが、今回テストを行った「Tarmac Sport」である。

スペシャライズド Tarmac Sportスペシャライズド Tarmac Sport
トップチューブから連続するように繋げられたシートステーもS-WORKSと同様の形状だ。シートクランプは一般的な仕様とされているトップチューブから連続するように繋げられたシートステーもS-WORKSと同様の形状だ。シートクランプは一般的な仕様とされている ヘッドチューブの下ワンは1-3/8インチのワンサイズ展開だヘッドチューブの下ワンは1-3/8インチのワンサイズ展開だ


S-WORKSから基本設計を踏襲し、瓜二つのフォルムを持つTarmac Sport。大きくは素材が変更されており、S-WORKSから2グレードダウンさせたFACT 9rカーボン使うことで高いコストパフォーマンスを向上。トップモデルと同じ金型を使うことでコストダウンを図るブランドも存在する一方で、Tarmac Sportではフロントフォークを筆頭に、シートクランプの仕様やリアエンド周りも若干の調整を加え、乗り味の最適化を図るなど一切の妥協が無い。尚S-WORKSではフレームサイズ毎に異径のヘッド下ベアリングが採用されているが、Tarmac Sportは1-3/8インチのワンサイズ展開だ。

採用されたコンポーネントはシマノ105をベースとしたミックス仕様。クランクには4アームとなったFSAの新型ゴッサマーを採用し、ホイールはDTスイスのAXIS2.0。タイヤはハイエンド製品であるS-WORKS Turboが装着されており、エントリーグレードでも手を抜かないスペシャライズドの姿勢が見て取れる。

Body Geometry Toupe Comp Gellというミドルグレードのサドルが採用されているBody Geometry Toupe Comp Gellというミドルグレードのサドルが採用されている STIレバーやディレイラーなど変速システムにはシマノ105が採用されており、安心して使用できるSTIレバーやディレイラーなど変速システムにはシマノ105が採用されており、安心して使用できる

Tarmac Sportに使用されるカーボンはミドルグレードのFACT 9rTarmac Sportに使用されるカーボンはミドルグレードのFACT 9r シマノ105のディレイラーとFSA Gossamerが組み合わされているシマノ105のディレイラーとFSA Gossamerが組み合わされている


Tarmac Sportは今年の4月から大幅なプライスダウンが行われ、250,000円から34,000円を引いた216,000円という、初めての一台を求める方にも手が届きやすい価格に見直され、より価値を高めている。早速インプレッションに移ろう。

インプレッション

「S-WORKSに迫る運動性能。国内トップレースで十分に武器になる」
小畑郁(なるしまフレンド)

正直言って、かなり驚いてしまいました。S-WORKS Tarmacは現行とSL4時代と乗っているのですが、それに迫る運動性能がありますね。

エントリーモデルだけに使われているカーボン素材はFACT 9r。S-WORKSから2グレードダウンしているのですが、これがなかなかどうして、調子が良いですね。S-WORKSのような硬さが無いのに、パワーが逃げてしまうようなダルさも無い。ウィップの塩梅もちょうど良くてダンシングが長く続けることができたりと、一言で言えば「乗りやすい」バイクなんです。

「S-WORKSに迫る運動性能。国内トップレースで十分に武器になる」 小畑郁(なるしまフレンド)「S-WORKSに迫る運動性能。国内トップレースで十分に武器になる」 小畑郁(なるしまフレンド)
ホイールも決して軽くないはずなのに、なぜか軽く走ってしまう。これはどうしてなんだろう?とずっと考えながらインプレをしていたのですが、理由はフレームの基本性能の高さ以外に見つかりません。非常に出来が良く、ホイールさえ交換してしまえばJPTなど国内最高峰レベルのレースでも使えてしまうのでは?と思ってしまいました。

「エントリーレベルのカーボンバイク」と聞くと、レーサーからすればネガティブなイメージしか浮かばないと思いますが、このTarmac Sportに関しては数年前のトップモデルとほぼ変わらないレベルにまで達しています。実際問題としてS-WORKSレベルの剛性が必要なライダーはほんの僅かのはずですし、Tarmac Sportのほうがより多くのホビーライダーに適していると感じます。

「一言で言えば『乗りやすい』バイク」小畑郁(なるしまフレンド)「一言で言えば『乗りやすい』バイク」小畑郁(なるしまフレンド) Tarmac Sportはレーサーの乗り味を感じさせながら、走りがとてもスムーズTarmac Sportはレーサーの乗り味を感じさせながら、走りがとてもスムーズ 特にBB周辺の硬さ・ウィップは絶妙で、トルクで踏んでもハイケイデンスで回しても、ググッとスピードにつなげてくれる。特に距離を重ねた時、S-WORKSなどハイエンドレーサーは剛性ゆえにペダリングが難しかったり、細かいトルクの上下で走りがギクシャクしたりするのですが、Tarmac Sportはレーサーの乗り味を感じさせながら、走りがとてもスムーズでした。

もちろん絶対的な反応性はS-WORKSに比べて落ちるのですが、この硬さであれば脚が削られにくいので、レース中に何回もアタックするような場面に向いているのかな、と。絶対的な剛性を選ぶか、総合的な楽さを選ぶかはライダーの好みですが、過酷な状況であれば、私はTarmac Sportを選ぶかもしれませんね。

そして基本的な性能がとてもニュートラルですから、どんなホイールを装着してもクセが出にくいようにも感じました。パーツアッセンブルにしても105ベースと安心ですが、ただ唯一、ブレーキキャリパーはシマノ製に交換してあげたいですね。レースに出ないのであればこのままで全く問題ありませんが、急勾配の下りなどでの安心感はより一層引きあがると思います。

今や105ベースのコンポーネントとカーボンフレームの組みあわせで20万円という完成車は珍しくないですが、このバイクの価値は走ってこそ分かります。デュラエースに換装してもフレームは全く見劣りしませんし、もし私がプロ選手だとして、このバイクが供給されても文句は言わないでしょうね(笑)。

加速性能も、振動吸収も、どんな面においても20万円という価格以上の価値があるバイクです。少し前でしたら安価なカーボンバイクよりもアルミバイクの方が走る、という事例も多くありましたが、Tarmac Sportであれば迷う必要はありません。

「S-WORKSより乗り心地が優るカーボンエントリーグレード」
堀口昌義(GRACEE)

とにかく走りの軽さが抜きん出ているバイクですね。S-WORKS Tarmacの思想が受け継がれ、非常に優れた剛性バランスがプラスに働いているのではないかな、と感じます。

どのようなシチュエーションでも不得意がありませんし、とても優秀なバイクです。登り、コーナリング、平地巡航などいかなる面においても優秀ですが、特筆すべきは登りの軽さ。ダンシングやシッティング、ペダリング、勾配の緩急を問わずススッと登り切ることができます。

現行のS-WORKS Tarmacと比較すれば絶対的な剛性は低いのですが、実際の走行性能においては価格ほど大きな差は感じません。それどころか、乗りやすさという面ではSportのほうがS-WORKSよりも優れていると確信できました。これは優れた剛性バランスに他ならないでしょう。

「S-WORKSより乗り心地が優るカーボンエントリーグレード」堀口昌義(GRACEE)「S-WORKSより乗り心地が優るカーボンエントリーグレード」堀口昌義(GRACEE)
テスト中に思い切りパワーを掛けてペダリングをしてみましたが、BB周りのよじれも無く、しっかりとパワーを受け止め推進力に変換してくれる味付けは、さすがレースで培われたTarmacシリーズですね。アマチュアライダーならば、このバイクを選んだとしても不満が出ることはありません。

ハンドリングに関しても、とても素直なフィーリングです。バイクの倒し込みとハンドルの切れ具合がとても自然で、ハイスピードでコーナーに進入しても不安感を感じません。巡航時の安定感こそ同時にテストしたRoubaixに譲りますが、機敏な運動性能と、走行時の気持ちよさ・爽快感は確実にTarmac Sportsが一枚上手です。20万円台のカーボンバイクのエントリーグレードながらS-WORKS Turboという、このグレードでは考えられない高性能のタイヤが装着されていることも良い影響を与えていますね。

このTarmac Sportは良い意味で「無味無臭」、つまりニュートラルな性格であることがポイントですね。ホイールなどを高剛性寄りに振ることでレーススペックになるでしょうし、乗り心地の良さを活かしてロングライド用にセッティングするのも面白そうです。オーナーの好みで様々な味付けが無理なく実現できるはずです。

エントリーカーボンロードながらS-WORKS Turboタイヤが採用されているエントリーカーボンロードながらS-WORKS Turboタイヤが採用されている
私は今までハイエンドであるS-WORKSグレードを乗り継いできましたが、今回のテストでTarmac Sportにも俄然興味が湧いてしまいました。ハイエンドバイクに乗り慣れた方でも、試乗だけしてみる価値は十分にあるはず。見過ごされがちなカテゴリーのバイクですが、実はこんなにも良いバイクがある、ということをアピールしたいですね。これからカーボンバイクを手に入れたい方にとっては、まず注目すべき一台です。

Tarmac Sport スペック

フレームSpecialized FACT 9r carbon, FACT construction, compact race design, 1-3/8" lower bearing, OSBB
フォークSpecialized FACT carbon, monocoque, OS race for 1-3/8" bearing
サイズ49,52,54,56,58
コンポーネントShimano 105
ホイールAXIS 2.0
価格216,000円


インプレライダー プロフィール

小畑郁小畑郁

小畑郁(なるしまフレンド)

圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高いなるしまフレンド神宮店の技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。現在もなお、メカニックと競技者の双方の視点から自転車のディープで果てしない世界を探求中。

なるしまフレンド神宮店(レコメンドショップページ)
なるしまフレンド HP

堀口昌義堀口昌義

堀口昌義(GRACEE)

東京都荒川区東日暮里に店舗を構えるスペシャライズド専門店GRACEE(グレイシー)のストアマネージャー。自身は各世代のS-WORKS TarmacやS-WORKS Roubaix、Allezを乗り継ぎ、現在の愛車はAllez Sprint。「初心者の気持ちを汲み取り、一緒に楽しむ」をモットーとして、走行会やイベントを中心にお店に集まるお客さんとライドを楽しむ。

GRACEE HP
提供:スペシャライズド・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部