2016/04/18(月) - 18:44
クロモリフレームにディスクブレーキ、そしてフレーム特性を活かしたユニークなパーツ構成。OnebyESU JFF#801 完成車は、辻浦圭一のプレイバイクとしてのこだわりを凝縮した完成車に仕上がっている。「シクロクロスバイクだけど、レースだけじゃない、操る喜びを感じて欲しい」という辻浦氏。開発にあたった東京サンエスの上司辰治さんとの対談で、その開発ストーリーを綴る。
とある日のロケに辻浦さんが持ち込んでくれたのが、一風変わった仕様にセットアップされたOnebyESU JFF#801 だ。レトロな帆布製のサドルバッグに、トークリップ付きのクイルペダル。ボトルには火に掛けることができるアルマイト製の水筒型ボトル。そしてホイール回りにはワンタッチ泥除け。「僕は趣味が自転車と渓流釣りなので、こんなスタイルで里山を分け入っていって、渓流をみつけて釣りに明け暮れたいですね」と笑う辻浦さん。一見ランドナーのようなそのルックスだが、またがってすぐにバニーホップを決めたほど俊敏さは失っていない。なお、このページ内で紹介するイメージカットは辻浦氏が勧める#801の乗りこなし方だ。
CW編集部:初フレームで登場した時にはレースバイクだと思っていたんですが、こうして完成車になると面白い構成ですね。バイクに込めたコンセプトや、開発の経緯を聞かせてください。
辻浦:もともと自分が欲しいバイクをイメージしていたとき、上司さんからコンタクトがあったんです。僕がレースをやめて、まだ闘病していた頃(※)です。「こういうバイクが欲しい」と空想していた時、東京サンエスでも新たなシクロクロスバイクを創りたいという企画が持ち上がっていたんです。
※辻浦さんは2012年に筋肉に力が入らなくなる「重症筋無力症」という難病を患い、闘病生活を送っていた。
CW:その辻浦さんが欲しいバイクとは?
辻浦:オランダやベルギーでシクロクロスレースを走り、ライドをしたことで、自分のなかで理想のCXバイクのイメージが出来上がっていたんです。
オランダの地元には「トゥールトクト」という、街のカフェなどが主催するツーリングイベントがあるんです。森のなかに設置したサイン看板の色などを頼りに走るんです。赤いサインなら右、青なら左、黄色は真っ直ぐというように、走りながらそれを判断して森のなかの分岐するトレールを走るんです。それも、かなりのスピードで。
そして週末はワールドカップなどUCIレースに出ます。目標はシクロクロス世界選手権でした。それらを全部走れるバイクのイメージは出来上がっていたんです。シクロクロスバイクとはこういうもんだ、という原型のようなイメージが。そこに上司さんから連絡があった。
上司:東京サンエスは辻浦さんにアドバイスを求めました。彼の最初のリクエストは、リアセンターを長く取りたい、そしてディスクブレーキを採用したいというものでした。
ディスクブレーキを採用したスチールフレームで開発はスタート。当社は東洋フレームと造ってきた「テスタッチ」や、パナソニックレディースの豊岡英子選手らのサポートで、フォークやハンドルなどのコクピットや、サドル、クランクなどのサプライヤーとして関わってきたことでの経験値がありました。しかしまだその当時、ディスクが一般化してない頃ですから、チャレンジでもありました。
辻浦:ディスクに関してはまだ否定的な人が多い時期でしたね。
上司:でも我々はディスクをいち早く取り入れて、フロントフォークのフラットマウント規格なども、おそらく世界で先駆けたメーカーなんです。
CW:辻浦さんはシクロクロス世界選U23でディスクブレーキを使用し、日本人歴代最高位の21位になったけれど、後になってディスク使用が規定違反と見なされて幻の記録になってしまいましたね。
上司:そう、少々時代を先走りすぎていました(笑)。
辻浦:僕も最初の頃はディスクに否定的だったんです。でも、自分のフィールドである奈良の里山で走るうちにディスクのポテンシャルを認めざるを得なくなった。カンティが劣るわけではないけれど、ディスクは制動力に余裕があって、急な下りや、突然のギャップなどに対応できる性能の懐の深さがある。安定もしています。だんだんと肯定的になっていきました。それでディスクを前提にフレームとフォークを設計しました。
CW:開発はどういうやりとりをしながらのものだったんですか?
辻浦:感覚的なことを言葉で伝えながら、欲しい性能を煮詰めていきました。
上司:何本もプロトのフレームを造りました。ミリ単位でジオメトリーを変えながら、フォークも2タイプから選び、かつオフセットも変化させながらインプレを重ねました。
当時、すでにショート&ナローQファクターのラ・クランクなどパーツもサンエスオリジナルのモノがありましたので、それらを組み合わせられたのもメリットです。その完成車をすぐ販売できる力は当社にありませんでしたが、バイク全体をトータルで考えながら開発を進めてきました。
CW:具体的にはどういったフレーム設計なのでしょう?
上司:トップチューブが短めで、取り回しのしやすさがあります。短く急に登る坂でも、後輪が空転せずに「クククッ」と登ってくれます。跳ねたりせず、滑らかに、ひたひたとスムースに走ります。したたかなフレームです(笑)。
試作を重ねた結果、自分たちでも思いもよらないほど良いモノに仕上がりました。数値を元に、感覚的にも煮詰めていくんですが、その組み合わせがバッチリはまったものがあったんです。それに乗った辻浦君の走りをそばで見ていただけでわかりました。「ひたひた具合」がとても良かった。まだ彼が病み上がりで、体力も脚力も無かった時です。
辻浦:僕も200m下って曲がっただけでそれがわかりました。「これだっ!」と。数値の裏付けと、感覚的なものが融合した瞬間でした。
上司:フレームはサイズごとに細部を変えているんです。例えばSサイズならリアセンターを少し詰めたり、BBハイトを変えたり、バック部の焼き入れ具合を調整したり、単にフレームを大小するだけでなく、乗り味を追求しています。「理想通りだ」という実感がありました。
そして、OnebyESUやDixnaのパーツはクランク長やギア比、Qファクター、フィッティングなどのオリジナリティパーツがあります。ホイールには性能に定評のあるモノを選び、ケーブル式よりタッチの良い油圧ディスクを採用しています。フレームから始まったものにそれらを組み合わせることで、トータルパッケージとして考えています。#801でジャンルにとらわれない色々な走り方にチャレンジして欲しい。
辻浦:バイクを扱うことの楽しさを追求するのが僕の乗り方です。乗っていけるかどうかの難しいセクションにトライしたり、低速でギャップ越えにチャレンジしたりと、それをあえてCXバイクでやるのが楽しい。脇道に逸れたり、知らない小路をどこまでも進んで行ったり、どこでも走れる・操る楽しさを追求しました。#801は、日本の里山からシクロクロスワールドカップまで走れるマルチなバイクです。
プロフィール
上司 辰治(かみつかさ たつじ)
東京サンエス株式会社west代表。奈良をベースにOnebyESU、Dixnaなど東京サンエスのオリジナルブランドのバイク、パーツやアクセサリーを設計・開発する企画人。パナソニックレディース、チームユーラシア、ボンシャンス、Ciervo奈良、東京ヴェントスなどチームサポートにも熱心で、チームとともに日本人のためのパーツのR&Dに取り組んでいる。辻浦 圭一 (つじうら けいいち)
卓越したバイクコントロールテクニックを持つ、2003〜2009年の9年連続のシクロクロス全日本チャンピオン。マウンテンバイクJシリーズでは6勝を挙げ、2008年にはシリーズチャンピオンも獲得。ツーリングやトレールライドも好きで、趣味は渓流釣り。釣竿をもって自転車で釣りに行くのが遊びのスタイルだった。「こんなCXバイクで里山を走り、渓流釣りに行きたい」 辻浦圭一
とある日のロケに辻浦さんが持ち込んでくれたのが、一風変わった仕様にセットアップされたOnebyESU JFF#801 だ。レトロな帆布製のサドルバッグに、トークリップ付きのクイルペダル。ボトルには火に掛けることができるアルマイト製の水筒型ボトル。そしてホイール回りにはワンタッチ泥除け。「僕は趣味が自転車と渓流釣りなので、こんなスタイルで里山を分け入っていって、渓流をみつけて釣りに明け暮れたいですね」と笑う辻浦さん。一見ランドナーのようなそのルックスだが、またがってすぐにバニーホップを決めたほど俊敏さは失っていない。なお、このページ内で紹介するイメージカットは辻浦氏が勧める#801の乗りこなし方だ。
CW編集部:初フレームで登場した時にはレースバイクだと思っていたんですが、こうして完成車になると面白い構成ですね。バイクに込めたコンセプトや、開発の経緯を聞かせてください。
辻浦:もともと自分が欲しいバイクをイメージしていたとき、上司さんからコンタクトがあったんです。僕がレースをやめて、まだ闘病していた頃(※)です。「こういうバイクが欲しい」と空想していた時、東京サンエスでも新たなシクロクロスバイクを創りたいという企画が持ち上がっていたんです。
※辻浦さんは2012年に筋肉に力が入らなくなる「重症筋無力症」という難病を患い、闘病生活を送っていた。
CW:その辻浦さんが欲しいバイクとは?
辻浦:オランダやベルギーでシクロクロスレースを走り、ライドをしたことで、自分のなかで理想のCXバイクのイメージが出来上がっていたんです。
オランダの地元には「トゥールトクト」という、街のカフェなどが主催するツーリングイベントがあるんです。森のなかに設置したサイン看板の色などを頼りに走るんです。赤いサインなら右、青なら左、黄色は真っ直ぐというように、走りながらそれを判断して森のなかの分岐するトレールを走るんです。それも、かなりのスピードで。
そして週末はワールドカップなどUCIレースに出ます。目標はシクロクロス世界選手権でした。それらを全部走れるバイクのイメージは出来上がっていたんです。シクロクロスバイクとはこういうもんだ、という原型のようなイメージが。そこに上司さんから連絡があった。
上司:東京サンエスは辻浦さんにアドバイスを求めました。彼の最初のリクエストは、リアセンターを長く取りたい、そしてディスクブレーキを採用したいというものでした。
ディスクブレーキを採用したスチールフレームで開発はスタート。当社は東洋フレームと造ってきた「テスタッチ」や、パナソニックレディースの豊岡英子選手らのサポートで、フォークやハンドルなどのコクピットや、サドル、クランクなどのサプライヤーとして関わってきたことでの経験値がありました。しかしまだその当時、ディスクが一般化してない頃ですから、チャレンジでもありました。
辻浦:ディスクに関してはまだ否定的な人が多い時期でしたね。
上司:でも我々はディスクをいち早く取り入れて、フロントフォークのフラットマウント規格なども、おそらく世界で先駆けたメーカーなんです。
CW:辻浦さんはシクロクロス世界選U23でディスクブレーキを使用し、日本人歴代最高位の21位になったけれど、後になってディスク使用が規定違反と見なされて幻の記録になってしまいましたね。
上司:そう、少々時代を先走りすぎていました(笑)。
辻浦:僕も最初の頃はディスクに否定的だったんです。でも、自分のフィールドである奈良の里山で走るうちにディスクのポテンシャルを認めざるを得なくなった。カンティが劣るわけではないけれど、ディスクは制動力に余裕があって、急な下りや、突然のギャップなどに対応できる性能の懐の深さがある。安定もしています。だんだんと肯定的になっていきました。それでディスクを前提にフレームとフォークを設計しました。
CW:開発はどういうやりとりをしながらのものだったんですか?
辻浦:感覚的なことを言葉で伝えながら、欲しい性能を煮詰めていきました。
上司:何本もプロトのフレームを造りました。ミリ単位でジオメトリーを変えながら、フォークも2タイプから選び、かつオフセットも変化させながらインプレを重ねました。
当時、すでにショート&ナローQファクターのラ・クランクなどパーツもサンエスオリジナルのモノがありましたので、それらを組み合わせられたのもメリットです。その完成車をすぐ販売できる力は当社にありませんでしたが、バイク全体をトータルで考えながら開発を進めてきました。
CW:具体的にはどういったフレーム設計なのでしょう?
上司:トップチューブが短めで、取り回しのしやすさがあります。短く急に登る坂でも、後輪が空転せずに「クククッ」と登ってくれます。跳ねたりせず、滑らかに、ひたひたとスムースに走ります。したたかなフレームです(笑)。
試作を重ねた結果、自分たちでも思いもよらないほど良いモノに仕上がりました。数値を元に、感覚的にも煮詰めていくんですが、その組み合わせがバッチリはまったものがあったんです。それに乗った辻浦君の走りをそばで見ていただけでわかりました。「ひたひた具合」がとても良かった。まだ彼が病み上がりで、体力も脚力も無かった時です。
辻浦:僕も200m下って曲がっただけでそれがわかりました。「これだっ!」と。数値の裏付けと、感覚的なものが融合した瞬間でした。
上司:フレームはサイズごとに細部を変えているんです。例えばSサイズならリアセンターを少し詰めたり、BBハイトを変えたり、バック部の焼き入れ具合を調整したり、単にフレームを大小するだけでなく、乗り味を追求しています。「理想通りだ」という実感がありました。
そして、OnebyESUやDixnaのパーツはクランク長やギア比、Qファクター、フィッティングなどのオリジナリティパーツがあります。ホイールには性能に定評のあるモノを選び、ケーブル式よりタッチの良い油圧ディスクを採用しています。フレームから始まったものにそれらを組み合わせることで、トータルパッケージとして考えています。#801でジャンルにとらわれない色々な走り方にチャレンジして欲しい。
辻浦:バイクを扱うことの楽しさを追求するのが僕の乗り方です。乗っていけるかどうかの難しいセクションにトライしたり、低速でギャップ越えにチャレンジしたりと、それをあえてCXバイクでやるのが楽しい。脇道に逸れたり、知らない小路をどこまでも進んで行ったり、どこでも走れる・操る楽しさを追求しました。#801は、日本の里山からシクロクロスワールドカップまで走れるマルチなバイクです。
提供/東京サンエス 取材・まとめ:綾野 真(シクロワイアード編集部)