2016/01/07(木) - 12:16
究極のエアロダイナミクスを実現するために誕生したモンスターマシン
2011年にデビューしたスペシャライズド初となるエアロロード、Venge。UCIが定める3:1の縦横比を最大限に利用したエアロ形状のダウンチューブ、リアホイールにぴったりと寄り添う様なデザインのシートチューブを採用し、まだ「エアロロード」というカテゴリが芽吹き始めた当時の自転車界に、大きなインパクトを与えたのがVengeであった。
デビュー以来、カーボンレイアップやワイヤールーティングの変更などマイナーチェンジを受けつつも、その基本的な設計は5年間変わることが無かった。その間にVengeが積み上げてきた実績は目を見張るものがある。特に、マーク・カヴェンディッシュやペーター・サガンといったスプリンターや、トニ・マルティンをはじめとするスピードマン達による数多くの勝利を支えてきたのは他ならぬVengeである。
中には1年で廃版となるモデルもあるほどモデルチェンジのサイクルが早まってきた昨今のロードレーサー市場において、5年にわたりカタログに載り続け、輝かしい栄光を選手たちにもたらし続けてきたVengeは名車と呼ぶにふさわしい存在であっただろう。しかし、一方で各社から最先端の空力理論を駆使したバイクがリリースされ、エアロロードというカテゴリに占めるVengeの優位性は相対的に薄れつつあり、新モデルの登場を期待する声が高まっていた。
そのような中で、スペシャライズドは昨夏ついにVengeのフルモデルチェンジを発表。「史上最速のエアロロードバイクを製作すること」という極めてシンプルな命題を実現するべく、長い年月をかけて開発された「Venge ViAS」がヴェールを脱いだ。
異形。新しいVengeの発表の場に立ち会ったジャーナリスト達は、その姿を見た時に驚きのあまり思わず息を呑んだという。これまでのロードレーサーかくあるべき、という概念を木端微塵に打ち砕くその姿は、「一体化」「専用化」というトレンドを突き詰め至った一つの極致。空力性能を全てに優先させることで実現した理想の形である。
新型Vengeの開発にあたり、スペシャライズドは自社で所有する風洞実験施設"WIN-TUNNEL(ウィン・トンネル)を最大限に活用。そして、先代のVengeの開発時から強いパートナーシップを結ぶ、イギリスのスポーツカーメーカー・マクラーレンの協力を得ることで、全く新しいエアロロードの開発に成功したのだ。
新たに車名へ付け加えられた「ViAS」とは、Venge Integrated Aero Systemの略称。つまり、空力のための一体化した設計こそが、新モデルの本質である。そのアイコンともいえるのが、「ゼロドラッグブレーキ」と名付けられた前後ブレーキである。フォーク裏とシートチューブ後ろ側に取り付けられたブレーキは、完全にフレームの一部として溶け込んでおり、一見したところではノーブレーキかと見紛うほど。
空気抵抗の大きな原因となるワイヤー類への対策についても、Venge ViASは抜かりない。ブレーキブラケットから出てくるワイヤーはVENGE専用の「Aerofly ViASコクピット」と名付けられたハンドルおよびステムへと導かれ、そのままフォークコラムへ。そしてフレームへと内装されることとなり、BBからリアブレーキへと伸びる10センチほどを除けば、外部に一切ワイヤーが露出しない「フル内装」を実現している。
フレーム全体の形状についても大幅な見直しが図られており、ダウンチューブとシートチューブはドラッグを低減させるために、よりホイールへと近づけられている。シートステーとシートチューブの交点も下げられ、空力と快適性を同時に向上させているという。
Venge ViASの独創的なフォルムを構成するのは、TarmacやRoubaixと同じ「FACT 11r」製のカーボンフレーム。そして、新型Tarmacに次いで、「ライダー・ファースト・エンジニアード」が投入された2つ目のバイクでもある。つまり、サイズごとに膨大な時間を掛けた風洞実験や実走テストが行われ、どんな体型のライダーでも狙った乗り味、性能を提供しているということだ。
スペシャライズドの送り出した世界最速のモンスターバイク、Venge ViAS。独創的なルックスだけでも、見る人をワクワクさせてくれるこのスペシャルマシンが持つライドフィーリングはどのようなものなのか。気になるインプレッションをお届けしよう。
インプレッション
平坦路でライバルたちを寄せ付けないスピードキング
小川:高速域での安定性は特筆すべきものがあります。ビタッと安定していて、矢の様に突き進んでいくような、まさに最速のエアロロードというにふさわしい乗り味に仕上がっています。平地の巡航性能という一点において既存のロードバイクの範疇を飛び出したバイクですね。
井上:BBドロップが大きいのか、私も直進安定性の高さを強く感じました。また形状からは意外な印象を受けたのですが、リアバックの突き上げが前作よりも緩和されていて、身体へのダメージは抑えられていますね。一方フロント周りはかなりゴツゴツとした乗り味で、ちょっと手が痺れるくらい。専用品のハンドルとステムが硬いのか、フォークのブレーキ取り付け部が硬いのか。
小川:一つの得意な分野を徹底的に伸ばした結果として、デメリットも生まれているということでしょうね。踏みごたえもかなり硬質で、ある程度の脚力を乗り手に要求してくるバイクだと感じました。少なくとも30km/h以上、できれば40km/h以上のスピードで走り続けることができるのであれば、最高にフィットするバイクです。平坦路であればライバルたちに圧倒的な差をつけることが出来そうです。
井上:エアロロードにありがちな、剛性の偏りはあまり感じませんでした。少なくともフレームに関しては、かなり素直な踏み心地ですね。踏みだしの軽さでいえばTarmacに一歩譲りますが、淡々とペースを保つような踏み方ではVenge ViASに軍配があがるでしょう。フライホイール効果が強く働いているようなスピードの持続性を感じます。
小川:空力が働いているのか、ホイールのフライホイール効果か、いずれにせよ速度が落ちづらいですね。登りでも、シッティングでイーブンペースを保つ分には、非常に良く走ります。ただ、ダンシングでグイグイと登ろうとすると、弾かれるような硬さを感じました。
井上:ゼロ発進も試してみたんですが、まるでトラックレーサーのよう。フレームをこじり倒すように力をかけても全て受け止めて、前へ進んでくれるような加速感でした。ただ、それが高速巡航中からのさらなるアタックやスプリントに繋がるのかというと、少し分けて考える必要があるかもしれないですね。
BBハイトの低さがここでも影響しているのか、急な加速へは穏やかに反応するよう調整されています。高速を維持して走る、逃げたい選手にとっては強い味方となるでしょう。
小川:エアロ効果はもちろんのこと、直進安定性に優れ、一定ペースを刻んでいくのが得意なので、トライアスロンでの使用にも非常に適していると感じます。現在開発中というDHバーが加われば、登りもそれなりの割合で登場する日本のトライアスロンレースでは非常に人気が出そうですね。Shivよりも登りはやはり軽いですし、TTバイクに匹敵するだけのエアロ性能はあるわけですから。
井上:確かに、Shivととてもフィーリングが近いですね。「塊」に乗っているような感覚があって、特にそれが下りで顕著に出てきます。下り始めた瞬間から、重力に引きこまれるかのように一気にスピードが乗っていく。空力性能に優れていることはさることながら、フロント側に荷重が多く、引っ張られるような加速感が味わえます。
小川:直進安定性の高さも相まって、真っ直ぐな下りでこのバイクに勝てるロードレーサーは現時点では無いでしょうね。コーナリングも、倒れこむきっかけを作ってあげれば、自然と曲がっていきます。バイクがバンクから立ち上がろうとする力が強いので、その感覚には慣れが必要かもしれません。
井上:あとはやはりブレーキですね。絶対的なストッピングパワーは申し分ないのですが、コントロール性能やタッチングフィールは通常のキャリパーブレーキに比べると、水を空けられている感は否めません。ワイヤーの抵抗なのか、ブレーキ本体の問題なのか、握りこむのに力が必要で、長い下りだと腕が上がってしまいそうですね。
小川:そう、急ブレーキをかけてみてもちゃんと止まることができたので、制動力はあるんですよ。でも、フィーリングがよろしくない。具体的に言うと、リムのブレーキ面にパッドがコンタクトしているのかどうかが伝わってきづらいので、細かなコントロールが難しいんですよね。
井上:このブレーキは、かなり熟練したショップのメカニックの作業が必須だといえるでしょう。普通のユーザーが、ホームメカニックでメンテナンスするのは難しいと思います。きちんとした制動力を発揮させ、ストレスなく使用できるように調整できるショップに信頼して任せることができる環境が必要となるでしょう。
小川:専用ハンドル、ステムのサイズ合わせも非常にシビアですので、きちんとフィッティングを行うことが出来るショップにて購入することが望ましいですね。ブレーキの整備やサイズ出しなど、他の自転車よりもシビアな部分が多いので、ショップ選びも、このバイクにおいては大切な要素になると思います。
井上:車で例えるならば、このバイクは最先端の技術が投入されたフォーミュラカーですが、その性能を最大限に引き出すには、優れたピットクルーが必要だということですね。
提供:スペシャライズド・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部