「北の地獄」を制するべく誕生した生粋のエンデュランスレーサー

S-Works Roubaix SL4 Disc Di2S-Works Roubaix SL4 Disc Di2
パリ~ルーベ。数多あるクラシックレースの中でも、最も格式のあるレースとして君臨する「クラシックの女王」。あるいはそんな雅号よりも、「北の地獄」という異名のほうがその実態を正確に伝えているだろうか。250kmを超えるコースに27つのパヴェが選手たちを待ち受けるパリ~ルーベ。風雨によって荒々しさを増した石畳が落車やメカトラブルを引き起こし、この日に合わせて調整を続けてきた強者たちを一瞬のうちに敗北者として引きずりおろす地獄を制するために、挑戦者たちは多くの試行錯誤を重ねてきた。

シクロクロスバイクを投入する者もいれば、サスペンションフォークを導入する者もいた。しかし、それらはパヴェの上では武器となっても、レースの大部分を占める他の平坦区間やゴールスプリントにおいて明白なビハインドとなる。これ以上ないほどに荒れた路面からのダメージをカットしつつ、パワーロスの無い反応性にも優れるという、相反する二つの要素を兼ね備えたバイクこそが、勝利のために必要なピースであった。

Zertsがインサートされたシートステーはほっそりとした造りZertsがインサートされたシートステーはほっそりとした造り 高い振動吸収性を発揮するコブルコブラーシートピラー高い振動吸収性を発揮するコブルコブラーシートピラー スルーアクスルディスクブレーキ仕様となるフロントフォークスルーアクスルディスクブレーキ仕様となるフロントフォーク

2004年に誕生したRoubaixは、その名が示すようにパリ~ルーベを制するために開発されたスペシャライズドのエンデュランスモデルである。デビュー以来10年が経過するなかで、Roubaixは5度「北の地獄」を制覇している。2008年、2009年のトム・ボーネンによる連覇、2010年のファビアン・カンチェラーラによる逃げ切り勝利、2012年、ボーネンの大会史上タイとなる4度目の勝利を支え、2014年にはニキ・テルプストラの独走をアシストし、ベロドロームを先頭で通過してきた。

その輝かしい戦歴にもうひとつ付け加えると、昨年のツール・ド・フランスのパヴェステージでライバルたちを突き放し、総合優勝への第一歩としたヴィンチェンツォ・ニーバリが駆っていたのも、S-Works Roubaix SL4である。

Roubaixをエンデュランスレーサーたらしめているのは、スペシャライズドが独自に開発した振動吸収エラストマー「Zerts(ゼルツ)」だといっても過言ではないだろう。フロントフォーク、シートステー、そしてシートピラーにZertsを配置することによって、ライダーの疲労の原因となる振動を大幅にカットする事に成功している。

クリップするような形へと改められたZertsクリップするような形へと改められたZerts フロントフォークのZertsインサートもクリップ方式に変更されているフロントフォークのZertsインサートもクリップ方式に変更されている

ボリュームがたっぷりと与えられたBB周辺ボリュームがたっぷりと与えられたBB周辺 リアは142mmスルーアクスル仕様。ケーブルはリアエンドから排出されるリアは142mmスルーアクスル仕様。ケーブルはリアエンドから排出される

SL4では、エラストマーの取り付け方法を一新。これまではフレームに設けられた窪みに嵌めこんでいたZertsだが、SL4では左右からクリップの様に挟みこむようになっている。この変更により、フォークおよびシートステーがより直線的な構造で設計できるようになり、前作と同レベルの快適性を確保しつつ、剛性を向上させることに成功しているという。

また、Roubaix SL4と同時にデビューしたシートピラー「コブルコブラー」は、奇抜な外見に確かな性能を有する逸品だ。ヤグラ直下が「く」の字に折れ曲げられ、そこにZertsが挿入されたこのピラーによって、SL4の快適性は飛躍的に向上。前作と比べて約2倍の垂直方向への柔軟性を獲得したという。

Zertsによる優れた振動吸収性を更に活かすのは、直進安定性を重視したジオメトリーだ。長めのホイールベースによって、ふらつきづらく安定感のある走行性能を獲得しているのだ。ハンドルが取られやすいパヴェでの攻防を助けてくれるその特性は、一般ライダーにとってもメリットとなるはずだ。

ロヴァールのCLX40のディスクモデルのフロントハブは左右で組み方が異なり、ハイローフランジの独自製品を採用するロヴァールのCLX40のディスクモデルのフロントハブは左右で組み方が異なり、ハイローフランジの独自製品を採用する
ブレーキ台座はポストマウント、リアブレーキローターは140mmブレーキ台座はポストマウント、リアブレーキローターは140mm
ディスクブレーキ仕様ながら、ブレーキブリッジは残されているディスクブレーキ仕様ながら、ブレーキブリッジは残されている

また、雨が降ると泥まみれになってしまうことも多いパリ~ルーベ。来シーズンより、本格的にプロトンへと導入が決定し、特に悪天候でその威力を発揮することが期待されているディスクブレーキモデルが、今年からRoubaixのラインアップにも加わった。強大なストッピングパワーを最大限に活かすべく、前後ともスルーアクスルを採用する。また、ローター径をフロント160mm、リア140mmとすることで前後の制動力のバランスを調整するなど、各社が発表したディスクロードの中でも良く考えられた構成となっていることがRoubaix SL4 Discのアドバンテージである。

悪路を走破するために与えられたこれらのエンデュランス性能を勝利へと繋げるのが、Tarmacに匹敵する剛性と動的性能だ。新型Tarmacにも採用されたフレームサイズごとにヘッドベアリング径を変更するという手法を「サイズ・スペシフィック・フォーク」として採用しており、体格差のあるライダーごとに最適なライドフィールを提供するように設計されている。

使用されるカーボン素材も、Tarmacと共通のもの。スペシャライズド最高峰であるFACT11rを使用することで、大柄な選手が多いクラシックライダーの踏力を受け止めるだけの剛性を与えられている。オーバーサイズBBと合わせて、最高レベルの反応性と駆動効率を実現している。パリ~ルーベを最速で駆け抜けるために誕生したRoubaixシリーズ。エンデュランスバイクというカテゴリを生み出したと言える名車の最新モデルは、果たしてどれだけの実力を秘めているのだろうか。

インプレッション

まったりとした安楽バイクにあらず。反応性と快適性を融合させた快速レーサー

「S-Works Roubaix SL4 Discはキャリパー仕様に比べるとまるで別物のような剛性感へと変貌を遂げた」井上寿(ストラーダバイシクルズ)「S-Works Roubaix SL4 Discはキャリパー仕様に比べるとまるで別物のような剛性感へと変貌を遂げた」井上寿(ストラーダバイシクルズ)
小川:意外に思われるかもしれませんが、かなりレーシーで剛性が非常に高いバイクでした。エンデュランスバイクと聞いてイメージするような、脚に優しくまったりとした乗り味を想像していると、かなり驚きを感じる一台だと思います。

井上:ノーマルのRoubaixに比べるとまるで別物のように感じるほど、このディスクモデルは剛性が強化されていると感じました。他のブランドのディスクロードでも同じような現象があるのですが、ブレーキングパワーを受け止めるためにフォーク先端のレイアップを強化した結果、キャリパー仕様に比べると高い剛性感を持つことになったのだと思います。加えてスルーアクスル化しているので、ノーマルモデルとのフィーリングの差は大きいと容易に想像できます。

「数あるエンデュランスバイクの先駆けとなっただけはあり、振動吸収性はトップレベルにある」「数あるエンデュランスバイクの先駆けとなっただけはあり、振動吸収性はトップレベルにある」 「テクニックが無くても、Roubaixはカバーしてくれる安定感のあるバイクなんです」「テクニックが無くても、Roubaixはカバーしてくれる安定感のあるバイクなんです」 悪路でもバイクが暴れず、高い安心感を与えてくれる悪路でもバイクが暴れず、高い安心感を与えてくれる 小川:体感的な硬さでいうと、Tarmacよりも硬く感じるほどです。特に足回りが強化されているので、路面に対しての追従性は少し低くなっているように感じました。しかし、直進安定性が高いためライド中に景色を見たり、次のルートを考えたりといった余裕も生まれてくるので、そう言った意味ではツーリングなどにも良いかもしれないですね。

井上:Tarmacがどんな場面でもトラクションが抜けずに前に進んだのに対して、Roubaix Discはグラベル上でダンシングするとホイルスピンしそうになる時がありました。ですが小川さんが言われるように、直進安定性はRoubaixのほうが優れています。荒れた路面でもバイクが暴れないので、安心感は非常に高い。

小川:安心感という面で言えばRoubaixに軍配が上がります。テクニックがある人にとっては、Tarmacを操り乗りこなす喜びを感じることができると思いますが、Roubaixであればバイクがカバーしてくれるので、初心者でも「ロングライドを走り切ったぞ!」とか、「グラベルを乗り切ったぞ!」というような達成感を味わうことが出来ると思います。

井上:振動吸収性という面でも、Roubaixらしい突き上げのいなし方は健在です。特にコブルコブラーの存在は大きく感じますね。長距離を走った後の疲労感をかなり抑えてくれると思います。

小川:冒頭で『硬くレーシーな乗り味』と言いましたが、これはあくまでノーマルのRoubaixと比べてどうかということで、Roubaix本来の特徴である快適性が失われているわけでは無いんです。高い快適性を持ったまま、よりレーシーな踏み味を得たというイメージですね。

井上:そもそもの生い立ちがパリ~ルーベで勝つために開発されたということを考えると、納得できる方向性だと思います。実際に私もパリ~ルーベの市民レースの方を走ったことがあるのですが、パヴェでは変速レバーを押せないくらい縦に揺らされる。パヴェを抜けた後はしばらく手の平の感覚が無くなるくらいです。

そんな激しい衝撃から選手たちを守るために開発されたRoubaixですから、やはり振動吸収性はトップレベル。特に、Zertsは大きな衝撃に対して効果的に働いているように感じますね。他社のエンデュランス系バイクと比較しても、Roubaixは独特の乗り心地があります。

小川:ディスクブレーキに関しても、このバイクがの本来の用途たる過酷なレースの現場においても有用でしょうし、ホビーライダーたちにとっても、「どこまでも、どんなところへも」というバイクのキャラクターと合致していて、とてもよいシナジーを生み出していると感じました。

「登りでも、高めの剛性を活かしてキビキビと走ってくれる」小川了士(ZING² FUKUOKA-IWAI 店長)「登りでも、高めの剛性を活かしてキビキビと走ってくれる」小川了士(ZING² FUKUOKA-IWAI 店長)
井上:やはり、ロングライドを走っていれば雨も降れば、下りもある。そんなときに、軽量なカーボンホイールを使っているにも関わらず、安心してブレーキをかけることが出来るというのはメリットでしかありません。今はまだ、ディスクロードという存在自体が過渡期である故に、発展の余地もあるとは思いますが、現時点のディスクロードの中ではレースバイクとして確かな性能を持っている一台でしょう。

「スルーアクスル化によって、反応性が向上し、ダンシングがしやすくなった。」「スルーアクスル化によって、反応性が向上し、ダンシングがしやすくなった。」 小川:登りでも、高めの剛性を活かしてキビキビと走ってくれます。ウィップ感があるのですが、返りは速めなのでダンシングしても気持ちいい。一方で許容量も広く、ガチャ踏みしても進んでくれるバイクでもあります。

井上:スルーアクスルの影響か、反応性は如実に上がりましたね。前輪に加重が移動しがちなダンシングでもヨレなくなるので、バイクを振りやすくなっていると感じました。ハンドリングもノーマルモデルに比べるとシャープになった印象です。

小川:下りでは非常に安定感があります。切れ味という面ではTarmacが優っていますが、裏を返せばそれだけピーキーであるということ。Roubaixであれば、下りへの怖さは少し和らぐのではないでしょうか。

井上:ホイールが良いというのもありますね。しっかりとした剛性を確保しているので、コーナーリングでもブレーキングでもしっかりと支えてくれつつ、走りの軽さもあるという。バランスに優れたホイールで、Roubaixの性能を100%引き出していると感じます。

小川:40mmハイトのホイールなのに、横風にもとても強い。アルミスポークのローハイトホイールのほうがハンドルを取られてしまうと感じるほどに風の抜けが良いというのも、目立たないですが大きな美点だと思います。フレームとホイール、そしてハンドルやシートピラーといったパーツまで含めてをバイク全体をトータルで設計できるスペシャライズドの強みが存分に活かされたバイクですね。
提供:スペシャライズド・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部