2015/10/21(水) - 12:05
ドグマ F8 チームスカイの躍進を支えるイタリアンレーサー
ピナレロラインナップの頂点を極める存在、ドグマ。言わずと知れた血統書付きフラッグシップレーサーの当代を張るのは、2014年のツール・ド・フランスに合わせてデビューを果たした「F8」。イギリスの名門自動車ブランド、ジャガーとのコラボレーションによるエアロフォルムを引っさげた、技術の粋を集めたスーパーマシンである。
ドグマが初めて世にデビューしたのは2002年のことだった。世界初のマグネシウム合金製フレームとして独特な形状を持つONDAシステムを掲げデビューし、大口径BBシステムの採用や軽量化などの進化を経て、2009年にはフルカーボンフレームへと素材を変更、世界初の左右非対称ロードバイクである「DOGMA 60.1」が登場した。そして2011年には 「DOGMA 2」、2012年には「DOGMA 65.1 Think 2」と確実にブラッシュアップを続けてきた。
それまでピナレロのレーシングフレームと言えば、うねるように湾曲したONDAフロントフォークとシートステーが最大の特徴であり、その基本形は2007年にデビューした「プリンスカーボン」から7年間もの間変化する事が無かった。しかし披露されたF8は纏ったのは、ピナレロの「定型」を打ち破るアグレッシブなエアロフォルム。その変化に驚いたファンも少なくなかったことだろう。
翼断面の後端を切り落としたかのようなFlatBack形状を纏う各チューブとフロントフォーク、グッと落ち着いたF8 ONDAシステムなど、大いなる変貌を遂げた新型DOGMA。前後ブレーキキャリパーやボトルが生む空気抵抗を最小限に留めるようなフレーム形状や、内蔵式シートポストクランプなど非常に緻密なエアロダイナミクス設計が目につく。
たおやかな曲線を描くONDAフォーク&シートステーは、数々の栄冠を獲得しているTTバイク・BOLIDEを踏襲したものだ。特にフロントフォークはホイールとのクリアランスを大きくとったことで、横剛性の強化はもちろん、従来のONDA 2フォークとの比較では54%の空気抵抗削減と10%の軽量化を成功させている。
純然たるオールラウンドレーサーの血筋を引くDOGMAだけに、エアロだけではなく軽量化と剛性強化を推し進めることはもちろん、トップレーサーから好評価だったハンドリングやジオメトリーを受け継ぐよう開発がなされたという。
コンパクトなリア三角は最近のトレンドに乗ったものであり、ピナレロのお家芸であるアシンメトリカル(左右非対称)デザインは16%増と、一見して分かるほど顕著なものになった。こうした形状変更に加え、素材に東レの最新カーボンファイバー「T1100G」を採用したことも大きな話題だ。
DOGMA F8の開発にあたってはCFD解析と風洞実験を繰り返し、風洞ではより現実世界に近い状態を再現するべくマネキンを乗車させてテスト。その結果DOGMA 65.1 Think 2と比較して重量を9.1%、ねじれを28.1%削減(53サイズでのテスト)。また横風に対する風洞実験においては平均で26.1%減と言う実験結果を叩き出している。BBはピナレロのトップモデルが頑に守ってきたイタリアン式だ。
機械式/電動コンポーネントに両対応する「Think 2」システムはDOGMA F8にも引き継がれており、エアロシェイプの「Air8」シートポストはシマノの内蔵式バッテリー用にデザインされたもの。フロント変速が必要無い場合のタイムトライアル使用を考慮し、フロントディレイラー台座を取り外し可能としている点もユニークだ。実際にDOGMA F8を目の当たりにすると、隅々まで妥協無く緻密な設計が行われていることに驚かされる。
そして2016年モデルとして、F8にディスクブレーキを搭載したモデルが登場している。ディスクブレーキと言うとロングライド用バイクを思い浮かべるかもしれないが、DOGMA F8 DISKはトップカテゴリーレースでの使用を前提に開発されたピュアレーシングマシン。既にチームスカイによって実戦デビューを飾っており、これから段階的に解禁となるプロレースシーンでは徐々に活躍の幅が広がっていくのだろう。
DOGMA F8 DISKは基本的にノーマルモデルを踏襲しているが、ブレーキに合わせ各部のモディファイが施されている。特にフォークやリアバックの強化は顕著であり、見比べればすぐにその差を認識できるほどだ。
クリス・フルームのツール・ド・フランス総合優勝、エリア・ヴィヴィアーニのスプリント、そしてクラシックレースでの活躍。それらチームスカイの活躍のほとんどを支えてきたのがDOGMA F8だ。2016年シーズンも常勝軍団の勝ち星に貢献し続けることは間違いないだろう。
インプレッション
軽やかさ際立つF8、重厚で安定感に優れるF8 DISK
鈴木:従来ピナレロのハイエンドモデルには踏み応えのある硬さを感じていたのですが、F8は動きに身軽さがプラスされ、更にスムーズな走り心地になっていることに驚かされました。軽量ながらハンドリングも乗り味も含め全てがスムーズ。全ての性能が高いレベルでまとまっているな、と感じました。三宅:走りは軽いのに不安定感が一切無いことにも驚きました。例えば乗り心地と剛性といった相反する要素がぶつかりあっていないんですね。バランスも高く現代版ロードレーサーとしての完成形と言い切ってしまって構わないはずです。最近はバランス力を高めたバイクが多いのですが、その中でもひと際目立つ存在と言えるのではないでしょうか。
鈴木:一方でF8 DISKは昔ながらのピナレロらしい、トルクフルな走りを感じました。剛脚の持ち主こそが性能を引き出す事ができそうですし、ずっとプロチームとの関わりを密にしているブランドですから、あくまでプロ向けであることが乗って分かります。また海外グランフォンドのような険しい道程をハイペースで走るようなスタイルにも良いかもしれませんね。
三宅:F8 DISKはF8の軽やかさを残しつつも重厚な雰囲気ですね。ディスクブレーキに対応するための強化が走りに表れています。これによって安定感が更に際立っており、荒れた路面やグラベルを通過した際にもフラつきません。若干重量があるためダンシングの振りは少々遅いですが、逆に高速コーナーではビシッと安定してくれます。ディスクブレーキ=ツーリングモデルと思いがちですが、中身はレーサー以外の何者でもありませんでした。
2車種を乗り比べると、F8のほうが軽く伸びもありますから、モガきあうレースやスプリントに向いている印象です。対してF8 DISKは安定感が際立ちますから、長距離レース/ツーリングや、多少荒れた路面のあるレースにこそベストでしょう。
鈴木:先代ドグマと比較して、F8は登りでの軽やかさが特に際立っていますね。私はダンシングを多用するタイプですので、長い登りではとても武器になりそうです。とにかく踏んだ時の伸びには素晴しいものがあります。ウィップ感は感じるわけではないのに不思議ですね(笑)
三宅:確かに先代は常にパワーを掛け続けないと加速によどむような印象を持っていたのですが、F8ではその部分がすっかり解消されています。踏んでも回しても軽やかで、後ろから押し出されているような雰囲気すら覚えました。とにかくネガを感じませんから、ピナレロの開発力の大きさには感服するばかりです。
快適性に関して言うと、F8 DISKに軍配が上がりると思います。元々どちらもレーシングモデルとしての快適性は十二分に満たしていますが、ノーマルモデルは車重が軽い分突き上げてくる。ですがF8 DISKは直進安定も相まって、どっしりと凹凸をいなすように感じました。
鈴木:どちらもレーシングバイクであることは間違いない事実です。でもノーマルモデルには軽やかな登り性能がありますから、スピードを出して乗り切る山岳長距離ライドのようなツーリング用途にも最適でしょう。対して安定感を求めるのであればF8 DISK。かなり2車種の乗り味は異なりますから、できることなら試乗を踏まえてから選んで欲しいですね。
三宅:値段こそ高価ですが、いずれもそれに見合った価値は十分に存在します。F8 DISKに関してはパーツがまだ不十分であったりと若干ハードルは高いのですが、非常にエポックメイキングで面白い一台ではないでしょうか。今までの高級ロードバイクに感じがちだった危うさが全くありません。だから初心者の方でも、乗りようによっては世界最高峰の性能を体感できます。ラグジュアリーな用途としてもマッチするでしょう。
提供:カワシマサイクルサプライ 編集:シクロワイアード アパレル&ヘルメット協力:rh+