2015/06/05(金) - 20:29
スタイリッシュなデザインと高い機能性を兼ね備える、これまでにはないサイクルパーツで話題を集めるフ
ァブリック。創業者で工業デザイナーのニック・ラーセン氏にインタビューした。ブランドを立ち上げたいきさつやコンセプト、革新的なプロダクツを生み出すアイデアの源泉とは? 背景のイギリスの自転車事情についても訊いた。
― 数多ある自転車パーツの中から何故ファーストプロダクトとしてサドルを手がけたのでしょうか
チャージバイクスで完成車にアッセンブルするオリジナルのサドルをデザインした時のことです。とある工場にOEM生産を依頼したのですが、そもそも値段が高い上に、製造過程とコストが割に合っていないと感じました。そこで色々なメーカーのサドルを徹底的に研究し始めたのがファブリック誕生のきっかけになっています。
各社のサドルを分析する過程での最も大きな発見が、表皮の張りによってコンフォート性能がスポイルされていることでした。たまたま表皮を剥がして乗ってみたら、これが快適なこと!。 予算が限られていたため、高価な素材を使えない代わりに直接表皮にクッション材を縫い付けるという工法を思いついたんだ。
その工法を用いて製造したScoopは、軽くて快適ながら値段も手頃で、3年もしないうちにUKでも最も売れるサドルの1つになりました。そして、サドルについての産業的構造ついても知ることができました。実質的にイタリアの寡占状態であり、世の中のサドルはほぼ3つの工場で作られていたのです。
実は、サドルの基本的な構造は過去50年間に渡って大きく変わっていないといえます。そこで、我々は自転車業界の外にヒントを求め、着目したのが製法が似ている「家具」でした。ハイエンドのオフィスチェアなどに見ることができるのですが、家具のトレンドの1つとして、ステッチ部がどんどん少なくなっていることが挙げられます。ですからファブリックのサドルも極力縫い目を排しています。
そして、生産はこれまで自転車サドルを製造した経験がない工場にお願いしています。経験があるとどうしても「サドルはこうでなくちゃ」という常識に縛られてしまいますから。どんな商品でも、いったん固定概念を崩すことが、革新的な製品を生み出すための秘訣ですね。
ちなみに今後発売予定のケージレスボトルは、サイクリストではない女性の工業デザイナーに設計を任せてみました。ケージの機能をボトルに集約することで、軽くてスッキリとした見た目を実現しています。自転車に興味がない方にも、凄みをアピールできる商品ですね。
― ファブリックと言うブランド名とブランドロゴの由来について教えてください
ブランド名については「タッチ&フィール」を一言で表現できる言葉が欲しかったのです。
ブランドとして我々は「感触」を大切にしており、それを最も端的に表わしているのが「Fabric」という言葉でした。一般的には「生地」という意味で通っているかと思いますが、「構造」という意味を持つのも選定の理由です。
対照的にトライアングルのロゴについては、言葉以外のアイコンが欲しかっただけなので、ブランド名ほどのこだわりはありませんが、各辺をギザはさみで切り出した風にしています。
― 幼い頃からデザインに親しんできたとのことですが、親御さんがデザイナーだったりしたのでしょうか
デンマーク人である父方の祖父は大工さんでした。そして父は腕のある歯医者であった一方、才能豊かなミュージシャンでもありました。そんな二人の創造的な生き方が、私の今に少なからず繋がっていますね。妹はマークス&スペンサー(イギリスの大手スーパー。食料品から生活雑貨までがプライベートブランドであり、製品自体やパッケージのデザインに定評がある)で、主力デザイナーを任されています。
― ファブリックのものづくりにおいて心がけていることを教えて下さい
「ただ機能的なだけはなく、コストひいてはセールスと秤にかけること」ですね。初めて働いたパシュレーという自転車メーカーで、そういうことを勉強しました。現在の我社の社員はほとんどがデザイナー上がりですから、商売的な面は私が管理しなければなりません。
ただ、デザイナーに自由にアイデアを生み出してもらうことが、革新的な製品を生み出すうえでは重要です。ですから、設計指示書にも、特に制約は設けていません。いざ良いプロダクトが完成すれば、それをビジネスにのせるのが私の役目です。2年前までオフィスにいたのは私を含め2人だけでしたが、現在は人数も増え、ユニークなアイデアが活発に湧き出るようになりました。
イギリスの自転車業界は皆顔見知りという雰囲気があり、知り合いのプロライダーに声をかけると、喜んで引き受けてくれますし、ファブリックはチャージのファクトリーチームとも密接な関係を築いています。また、私達が所属するCycling Sports Groupの各ブランド(キャノンデールやGTなど)の契約ライダーにも協力してもらっており、やはり実戦やフィールドから得られるフィードバックなしに製品を仕上げることはできません。彼らプロに依頼するのは、色々なブランドのプロダクトの良し悪しを知っているからです。
どんなプロダクトを手がける際にも、まず競合製品をテストし尽くして、その分野で勝機があるのかを判断します。開発期間は比較的長く、Scoopで5年、Cellにも多くの時間を費やしました。これまでは私達もクレイモデルを使っていましたが、現在は3Dプリンターを使用しています。開発期間短縮に役立っているのはもちろんのこと、我々が所有している3Dプリンターは解像度が高く、思い描いた通りにすぐサンプルがつくれます。
― 近年、イギリスから自転車に関する新たなムーブメントが多く発信されていますが、何かそういった風潮があるのでしょうか?
確実にあると思います。イギリスの自転車業界にはモーメンタム(勢い)があります。昨今、何か新しいものを探そうとする人々はカリフォルニアやイタリアには目を向けません。単にパフォーマンス云々ではなく、ライフスタイルの一部としてのサイクリングに影響を及ぼすようなプロダクトや事象ほど注目を集めています。
その好例がウェアブランドのRapha(ラファ)です。ブランドが立ち上がったころは、値段が高すぎると批判があったけど、Raphaのおかげで新たな需要が生み出され、サイクリングがカッコイイものだという認識ができた。
自動車業界においてはF1が常に最新の技術を生み出し、そのテクノロジーを応用することで市販車の性能も向上している。そして、F1チームの多くがイギリスに本拠を構えています。それは自転車業界においても同じで、イギリスはトレンド発信力に長けていると思います。コンペティショナルなだけでは無く、パフォーマンスとライフスタイルの融合こそが今後のキーワードですね。
― 次はどんな製品で私達を驚かせてくれますか?
サドルと同じく身体が触れるパーツで、デザインと機能性の面で永らく変わっていないパーツがあります。各ブランドの設計者が怠けてるんじゃないか?ってくらいに変化がないもの。ヒントは、業界の外に目を向けてみることですね。それが大切。保証はできませんが、頑張ってみます。
ァブリック。創業者で工業デザイナーのニック・ラーセン氏にインタビューした。ブランドを立ち上げたいきさつやコンセプト、革新的なプロダクツを生み出すアイデアの源泉とは? 背景のイギリスの自転車事情についても訊いた。
「固定概念を崩すことが、革新的な製品を生み出すための秘訣」
― 数多ある自転車パーツの中から何故ファーストプロダクトとしてサドルを手がけたのでしょうか
チャージバイクスで完成車にアッセンブルするオリジナルのサドルをデザインした時のことです。とある工場にOEM生産を依頼したのですが、そもそも値段が高い上に、製造過程とコストが割に合っていないと感じました。そこで色々なメーカーのサドルを徹底的に研究し始めたのがファブリック誕生のきっかけになっています。
各社のサドルを分析する過程での最も大きな発見が、表皮の張りによってコンフォート性能がスポイルされていることでした。たまたま表皮を剥がして乗ってみたら、これが快適なこと!。 予算が限られていたため、高価な素材を使えない代わりに直接表皮にクッション材を縫い付けるという工法を思いついたんだ。
その工法を用いて製造したScoopは、軽くて快適ながら値段も手頃で、3年もしないうちにUKでも最も売れるサドルの1つになりました。そして、サドルについての産業的構造ついても知ることができました。実質的にイタリアの寡占状態であり、世の中のサドルはほぼ3つの工場で作られていたのです。
実は、サドルの基本的な構造は過去50年間に渡って大きく変わっていないといえます。そこで、我々は自転車業界の外にヒントを求め、着目したのが製法が似ている「家具」でした。ハイエンドのオフィスチェアなどに見ることができるのですが、家具のトレンドの1つとして、ステッチ部がどんどん少なくなっていることが挙げられます。ですからファブリックのサドルも極力縫い目を排しています。
そして、生産はこれまで自転車サドルを製造した経験がない工場にお願いしています。経験があるとどうしても「サドルはこうでなくちゃ」という常識に縛られてしまいますから。どんな商品でも、いったん固定概念を崩すことが、革新的な製品を生み出すための秘訣ですね。
ちなみに今後発売予定のケージレスボトルは、サイクリストではない女性の工業デザイナーに設計を任せてみました。ケージの機能をボトルに集約することで、軽くてスッキリとした見た目を実現しています。自転車に興味がない方にも、凄みをアピールできる商品ですね。
― ファブリックと言うブランド名とブランドロゴの由来について教えてください
ブランド名については「タッチ&フィール」を一言で表現できる言葉が欲しかったのです。
ブランドとして我々は「感触」を大切にしており、それを最も端的に表わしているのが「Fabric」という言葉でした。一般的には「生地」という意味で通っているかと思いますが、「構造」という意味を持つのも選定の理由です。
対照的にトライアングルのロゴについては、言葉以外のアイコンが欲しかっただけなので、ブランド名ほどのこだわりはありませんが、各辺をギザはさみで切り出した風にしています。
― 幼い頃からデザインに親しんできたとのことですが、親御さんがデザイナーだったりしたのでしょうか
デンマーク人である父方の祖父は大工さんでした。そして父は腕のある歯医者であった一方、才能豊かなミュージシャンでもありました。そんな二人の創造的な生き方が、私の今に少なからず繋がっていますね。妹はマークス&スペンサー(イギリスの大手スーパー。食料品から生活雑貨までがプライベートブランドであり、製品自体やパッケージのデザインに定評がある)で、主力デザイナーを任されています。
― ファブリックのものづくりにおいて心がけていることを教えて下さい
「ただ機能的なだけはなく、コストひいてはセールスと秤にかけること」ですね。初めて働いたパシュレーという自転車メーカーで、そういうことを勉強しました。現在の我社の社員はほとんどがデザイナー上がりですから、商売的な面は私が管理しなければなりません。
ただ、デザイナーに自由にアイデアを生み出してもらうことが、革新的な製品を生み出すうえでは重要です。ですから、設計指示書にも、特に制約は設けていません。いざ良いプロダクトが完成すれば、それをビジネスにのせるのが私の役目です。2年前までオフィスにいたのは私を含め2人だけでしたが、現在は人数も増え、ユニークなアイデアが活発に湧き出るようになりました。
「イギリスの自転車業界にはモーメンタム(勢い)がある」
― 製品テストはどうやって行っているのでしょうかイギリスの自転車業界は皆顔見知りという雰囲気があり、知り合いのプロライダーに声をかけると、喜んで引き受けてくれますし、ファブリックはチャージのファクトリーチームとも密接な関係を築いています。また、私達が所属するCycling Sports Groupの各ブランド(キャノンデールやGTなど)の契約ライダーにも協力してもらっており、やはり実戦やフィールドから得られるフィードバックなしに製品を仕上げることはできません。彼らプロに依頼するのは、色々なブランドのプロダクトの良し悪しを知っているからです。
どんなプロダクトを手がける際にも、まず競合製品をテストし尽くして、その分野で勝機があるのかを判断します。開発期間は比較的長く、Scoopで5年、Cellにも多くの時間を費やしました。これまでは私達もクレイモデルを使っていましたが、現在は3Dプリンターを使用しています。開発期間短縮に役立っているのはもちろんのこと、我々が所有している3Dプリンターは解像度が高く、思い描いた通りにすぐサンプルがつくれます。
― 近年、イギリスから自転車に関する新たなムーブメントが多く発信されていますが、何かそういった風潮があるのでしょうか?
確実にあると思います。イギリスの自転車業界にはモーメンタム(勢い)があります。昨今、何か新しいものを探そうとする人々はカリフォルニアやイタリアには目を向けません。単にパフォーマンス云々ではなく、ライフスタイルの一部としてのサイクリングに影響を及ぼすようなプロダクトや事象ほど注目を集めています。
その好例がウェアブランドのRapha(ラファ)です。ブランドが立ち上がったころは、値段が高すぎると批判があったけど、Raphaのおかげで新たな需要が生み出され、サイクリングがカッコイイものだという認識ができた。
自動車業界においてはF1が常に最新の技術を生み出し、そのテクノロジーを応用することで市販車の性能も向上している。そして、F1チームの多くがイギリスに本拠を構えています。それは自転車業界においても同じで、イギリスはトレンド発信力に長けていると思います。コンペティショナルなだけでは無く、パフォーマンスとライフスタイルの融合こそが今後のキーワードですね。
― 次はどんな製品で私達を驚かせてくれますか?
サドルと同じく身体が触れるパーツで、デザインと機能性の面で永らく変わっていないパーツがあります。各ブランドの設計者が怠けてるんじゃないか?ってくらいに変化がないもの。ヒントは、業界の外に目を向けてみることですね。それが大切。保証はできませんが、頑張ってみます。
提供:ファブリック・ジャパン 制作:シクロワイアード