2015/06/05(金) - 20:29
伝統に囚われない新進気鋭の工業デザイナー ニック・ラーセン氏
ダイソン、リーボック、ポール・スミスなどハイセンスかつ機能的なプロダクトを世界に発信しているイギリス。それらの流れを汲むイノベーティブな新興パーツブランド「Fabric」を3回に渡って特集する。第1章では、ブランドの生い立ちと創業者であり工業デザイナーのニック・ラーセン氏に焦点をあてる。昨年のツール・ド・フランスのグランデパールやロンドンオリンピックの大成功からも分かる様に、近年急激に自転車熱が高まっているイギリス。そんな紳士の国に誕生したのが「Fabric(ファブリック)」だ。キャノンデールやGTなどを傘下に収めるサイクリング・スポーツ・グループの新ブランドである。
創業者は幼い頃よりものづくりに親しんできたという工業デザイナーのニック・ラーセン(Nick Larsen)氏。名前からも察することができるように、ノルウェー人の血を引く。そんな氏が自転車と出会ったのはマウンテンバイクがイギリスに輸入され初めて間もないころで、同時にBMXも楽しんでいたという。
ここまでは普通の少年と何ら変わりないが、ラーセン少年はなんと15歳の頃から自転車パーツのデザインを始める。そして、開発した完全防水のサドルバッグで、イギリスにおける若手デザイナーの登竜門である「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を獲得し、当時開発した技術により特許も取得する。そして、そのまま工業デザインを学び続け、大学にも進学。クラスメイトが大手メーカーに就職するなか、「サラリーが半分でも、好きなことを続けたい」と、自転車業界に従事する。
ラーセン氏は大学3年生だった1995年から2001年までの6年間、1926年創業の老舗ブランド「Pashley(パシュレー)Cycles」に在籍し、若者向けのバイクのデザインを担当し、修行を積む。その後2004年に、自ら「Charge Bikes(チャージバイクス)」を創業。2006年にはピストバイクをベースとしたアーバンクルーザー「Plug」を大ヒットさせ、アメリカの大手ブランドと販売台数で肩を並べる。
Fabric(ファブリック)誕生
そんなラーセン氏がチャージバイクスで心がけていたことの1つが「可能な限り低コストで機能性の高いプロダクトを」ということ。これを受け継ぎ、誕生したパーツブランドがファブリックだ。創業は1年前と歴史は浅いものの、その準備段階で製品開発に3年の期間を費やしたという。現在は3人の工業デザイナーを含む7人体制で、画期的なサイクルパーツの開発に日夜勤しんでいる。創業のきっかけは、ラーセン氏がチャージバイクス時代にブランドオリジナルのサドルを設計したときのこと。「とある工場にOEM生産を依頼したのですが、値段が高いうえに製造過程とコストが割に合っていないと感じたのです」とはラーセン氏。
このことをきっかけに、工業デザイナーの見地からあらゆるブランドのサドルを徹底的に研究。そうして生み出された、快適かつ軽量でスタイリッシュながらもリーズナブルなチャージのサドルは、7万5千個ものセールスをマーク。発売からわずか3年でUK売上No.1のサドルブランドになった。
そして、ラーセン氏はサドルをメインプロダクトにファブリックを設立。ブランドを通じてのユニークな特徴は、家具やランニングシューズ、航空機など、自転車以外の工業分野のテクノロジーや生産方法を積極的に取り入れていることにある。3Dプリントのパイオニアであり大手旅客機メーカーとしてしられるエアバス・グループとのコラボレーションがその最たる例だ。
スタイリッシュなデザインと高い機能性を兼ね備える ファブリックのプロダクトラインアップ
快適で、軽くて、リーズナブルで、プロも愛用 スッキリとした見た目が特徴の「Scoop」
そんなファブリックから登場した初のプロダクトが「Scoop」というサドルだ。既にイギリスなどではチャージバイクスの製品としてリリースされており、発売開始から2年間で様々な雑誌やレビューサイトで高い評価を得てきたという。アメリカCX界のレジェンドことティム・ジョンソン(キャノンデールp/bシクロクロスワールド.com)も「パーフェクトなサドル」と太鼓判を押すほどだ。
その特徴はレール、ベース、衝撃吸収フォームにカバーを貼り付けたトップの3点だけという構成部品数の少なさにある。これをステープラー(ホッチキス)やボルト、縫製を用いることなく貼り合わせることで、これまでのサドルよりもシンプルなルックスと軽量化を実現しつつ、大幅な製造コストの削減に成功。クロモリレール採用モデルは256gで8,500円(税抜)と、これまでイタリアブランドが多くのシェアを獲得してきたサドル界の勢力図を大きく変えそうなプロダクツに仕上がっている。
加えて、優れた快適性もScoopの大きな特徴の1つだ。ベースをしなやかなナイロン製とし、フォームには低密度で柔らかく、軽いポリウレタンを採用。レールには微妙なカーブを持たせることで積極的にしなりを生み出し、衝撃吸収性を追求している。加えて平面的な「Flat」、Rの大きな「Radius」、その中間にあたる「Shallow」と、横方向の丸みが異なる3種類の座面形状が用意され、それぞれに最適なライディングポジションに合わせて、しなる位置を変更しているというこだわりようだ。なお3種類共通で座面寸法は282×142mm。カラーバリエーションも豊富で、ロードからシクロクロス、MTB、クロスバイクなど様々なジャンルのバイクにマッチする。
フルカーボンサドルを身近に 3Dプリンターを駆使し生み出される「ALM ULTIMATE」
ファブリックのハイエンドに位置付けられるサドルがフルカーボン製の「ALM ULTIMATE」。目指したのはレース志向でないサイクリストが日常使用できるだけの快適性だ。航空機産業のエアバス社に加え、自転車パーツを作った経験のないアジアのとあるカーボンパーツ工場とのコラボレーションにより、企画段階では中空チタンレールをカーボンベースに貼り付ける構造としていたところを設計変更。計画当初よりも快適性が増したにも関わらず20g軽量化と国内定価で45,000円(税抜)というカーボンサドルとしては比較的リーズナブルな価格を実現したという開発エピソードをもつ。
その特徴は、旧式の自動車に採用されていたリーフスプリングにアイデアを得た「長い」レール構造にある。これにより変形量を高め、宇宙船などと同グレードのカーボンを採用したベースのしなりや効果的なパッティングと合わせて、100マイル以上のロングライドにも対応するだけの高い快適性を実現した。
なお、このレールはエアバス社のAdditve Layer Manufacturingという3Dプリンターを用いた工法によって製造されており、それがそのまま製品名の「ALM」になっている。また、レールとベースはただボンドによって接合するだけではなく、引っ掛ける構造とすることで強度を高めているという。座面寸法は長さ282mm×最大幅142mmで、重量は140gだ。
超近未来的なルックス スニーカーの衝撃吸収技術を取り入れた「Cell」
「Cell(セル)」は大手スポーツブランド「ナイキ」の人気スニーカー「AirMax」に取入れられているエアスプリング技術を採用したコンフォートサドルだ。その特徴は、頂点を切り落とした六角錐がセル状に並んだエアフィルムシェルとエアを、表皮とべースで挟み込む独自構造にある。これにより、体重をサドル全体で均等に支え、快適性を高めている。何よりもサドルには快適性を求めるサイクリストや骨盤幅の広いライダーにマッチするという。
また、ショック吸収機構を隠すこと無く、あえて表皮をクリアとしたポップなルックスも大きな特徴の1つだ。カスタムパーツとして、ファンライド系のMTBやクロスバイク、シングルスピード、小径車とあらゆるジャンルのバイクのドレスアップにピッタリだろう。座面寸法は長さ282mm×最大幅155mmで、重量は140gだ。
中央を貫くチャネルで高い快適性を実現 レーシングモデル「LINE」
「Line(ライン)」はデリケートゾーンへの圧力を緩和し、通気性を高める溝が特徴的なサドルだ。快適性向上のために座面に穴を設けた従来の構造よりも軽量に仕上げることが可能だという。ベースとなったのはベーシックモデルのScoop。幅は134mmとラインアップ中で最も狭く、コンペティション用途に適している。
シンプルながら理に叶ったサドルフィッティングシステム「SOMATOTYPE」
上記の4つのサドルの中から最適なモデルを提案してくれるのがファブリック独自の「SOMATOTYPE(ソマトタイプ)」というフィッティングシステムだ。食習慣、健康状態、トレーニング頻度などに左右されにくい骨格に着目した診断方法で、手首の外周長と身長から最適なサドルを導きだしてくれる。SOMATOTYPEはファブリックのホームページから利用することが可能だ。
サドル以外にも続々と新パーツが登場
サドル以外にもユニークかつ実用性高いアイデアパーツが登場している。その中でもラーセン氏が特に自信をみせるのが「ケージレスウォーターボトル」だ。フレームに取り付けるための構造をボトル自体に一体化することで、見た目をスッキリさせると共に大幅な軽量化を達成したエポックメイキングな製品であり、市販化が待たれるところだ。これ以外にも作業性に優れるラチェットつきの携帯工具、3Dプリンター製タイヤレバー、バーテープ、グリップなどスタイリッシュかつ機能的なプロダクトが目白押し。それらの詳細は今後明らかにされる予定だ。
提供:ファブリック・ジャパン 制作:シクロワイアード