日本列島が猛暑に見舞われる中、1300kmを走るブルベ「さんいん1300」に、三船雅彦さんらを含む14人が挑戦した。長距離を走り認定を受けるブルベのなかでもいちばんの厳しさだ。イベント仕掛け人の石丸英明さんがレポートする。

1300km完走を認定する超ロングサイクリング

試走も含めて今回で4回目の「さんいん1300」は、文字通り山陰を駆け抜ける真夏のロングライドブルベです。
「ブルベ」とは「認定」と言う意味のフランス語ですが、自転車遊びでは規定の距離を規定の速度で走ると完走認定されるファストランの総称として使われています。
距離・速度の規定、コース設定や運営方法には様々な種類があり、最も有名なものはPBPルールとも言われるBRMでしょう。

さんいん1300ルートマップさんいん1300ルートマップ

「さんいん1300」は、1300kmを110時間で走ることが規定であり、目安です。開催1年目は試走会レベルで、2年目もフルコース参加がたった1名という、巷の話題にものぼらない泡沫企画でしたが、3年目にフルコース完走者が3名となり、その内の一人がその筋では名の知れたサイクリストだったので、一部マニアの間に知られる企画となりました。その結果、4年目の今回はフルコース参加が10名を超え、14名での開催になりました。

PC4に現れた竹村さんPC4に現れた竹村さん photo:Hideaki.Ishimaruくりらじの取材を受ける三船さんくりらじの取材を受ける三船さん photo:Hideaki.Ishimaru
スタート直後に連続パンクした藤中さんスタート直後に連続パンクした藤中さん photo:Hideaki.Ishimaru中国山地ルートを選択した落合さん中国山地ルートを選択した落合さん photo:Hideaki.Ishimaru


ライダーたちを襲った台風と湿舌

沖縄付近で突然発生した台風4号が日本海を進み、12日未明のスタート時間帯を直撃。
最高齢参加記録を思いっ切り引き上げた静岡の大上さんからは「台風の来る前に繰上げスタートする」との電話があり、予定通り午前4時に京都をスタートした八王子の池田さんからは「豪雨によって足止めをくった」と報告するメールがあった。そして記録の更新を狙う三船さんからは「山陰回りのコースを山陽回りにする」とのメールがありました。

その他の人も、自宅待機で雨雲の過ぎるのを待ったり、雨の中、完全装備で走ったりと、先の思いやられる始まりだったようです。

キャンセルが1名、途中出走が2名、残りの11名のコース取りの傾向は、山陰往復が3名、山陽~山陰が7名、そして1名が無謀な中国山地~山陰というルート。往路は任意のルート設定が可能なのも、このさんいん1300の特徴です。

さてそれも折り返しのPC4下関駅に、時間はバラバラですが一旦集合することになります。スタート前にファックスで送られてきた予定では、13日夜から14日朝にかけての到着となっており、予想では三船雅彦さんが午後4時過ぎにトップで到着するはずと思い現地へ移動していると、申込事務局からの連絡で、大上さんが3時半ごろ到着したとのこと。さらに尾道から途中出走の湯川さんから、下関駅周辺は花火大会で大渋滞との情報があり、市街地直前の関門橋付近に車を駐車して自転車に乗り換え、セブンイレブン下関市竹崎店に17時過ぎにやっと到着。

そこにはリカンベントの竹村さんが待っており、三船さんと途中並走していたとのこと。しかし1時間以上遅れの18時半ごろにやっと現れ、台風の残した湿舌の中、乾き切らないウエアとの摩擦で股ズレが発生し、極端なペースダウンを悔やんでいました。
それでも、仮眠場所を提供してくれるインターネットラジオの「くりらじ」のスタッフと焼肉屋に向かう姿には、明日からの復活を予感させるものがありました。

その後、藤中さん、堀さん、河崎さんと、ほぼ1時間置きに現れ、13日中の到着は7人となりました。

事情によりハーフコース参加の吉岡さん事情によりハーフコース参加の吉岡さん photo:Hideaki.Ishimaru輪行を有効活用する湯川さん輪行を有効活用する湯川さん photo:Hideaki.Ishimaru
ペースの違いが参加者の出会いを生むペースの違いが参加者の出会いを生む photo:Hideaki.Ishimaru長距離向きリカンベントは視認性要注意長距離向きリカンベントは視認性要注意 photo:Hideaki.Ishimaru


翌14日、4時過ぎに最初に連絡があったのは山陰ルートで雨の影響を受けた郷さんで、江津付近でリタイアするとのこと。それから明るくなって6時前後に大上夫妻とハーフ参加の吉岡さんが現れ、7時直前に中国山地ルートを選択し、暗闇と補給ポイント極少の恐怖を味わった落合さんが到着。なんと寝ずにここまで来たとのことで、どこかで仮眠をすると言いながら、エネルギー補給にガッツリと集中していました。

そしてラストとなった豪雨で足止めの池田さんから半日遅れとの連絡があり、彼を待たずにPC6松江(仮眠可)へ取材をしながら向かうことに。


スタートフリー~コントロールクリア ブルベのルールとは?

ここで「さんいん1300」の出走ルールをおさらいしておきましょう。
まずスタートはフルコースだと京都府か大阪府の任意地点。もちろんそれより東側もOK。さらに、3/4コースやハーフコース、クオーターコースでの参加もあり、場所、時間ともフリーです。

但し、スタートや通過確認をするために、駅の切符やコンビ二のレシートを入手する「レシート・ゲット」がタスクとしてあります。

その通過確認の場所またはエリアをPC(コントロールポイント)と言い、スタートをPCO、フィニッシュをPC8として約150km毎に9箇所に設定。その中で復路のPC6松江には仮眠用にビジネスホテルを用意し、またPC8のフィニッシュ地点をそこで伝えるようにして、必ず立ち寄るようにしています。そのためコントロールクリアとはPC6通過のことを指します。

フィニッシュにも制限時間が設けてありますが、基本的にスタッフは居ないので、マイペースで完走を目指して下さい。尚、交歓会があるので、もしそれへの出席を優先するなら、鉄道ワープ(輪行)もありです。もちろん積極的に鉄道ワープを使っても構いません。さんいん1300は期間内の自転車旅を認定するものですから。


猛暑にアップダウンが参加者を苦しめる

「下関に到着した」と14時過ぎに池田さんから連絡を受けたころ、国道191号線の山口と島根の県境付近で吉岡さんと河崎さんに追いつく。そして益田駅で輪行準備中の湯川さんにコンタクトし、直前に目撃したと言う大上さんを追いかけるが見つからず、江津市黒松付近でリカンベントの竹村さんと漆黒の弾丸・三船さんを目撃し、さらに大田駅付近で堀さんと遭遇する。そして17時を過ぎたころ、出雲市街地直前で先頭を走る藤中さんにやっと追いつく。自転車は速い!


そして松江PCの「ビジネスホテル・ルート9」まで無料高速を使って先回りし、地元スタッフの吉野さんと合流し、ライダーの到着を待つ。

江津でリタイアした郷さんは輪行してルート9に現れ、体力は回復していたようで、そのまま後半を走っているとのこと。そして、益田から輪行の湯川さんが現れ、彼らを除いたトップグループは、藤中、堀、三船、竹村の4名が20時から22時にかけて到着。そのトップグループが仮眠から覚め、出て行くのと入れ替わりに、河崎さんと大上さんが未明に到着。

さらに夜が明けて、吉岡、落合、大上夫妻が到着。特に大上夫妻の到着を、出立しようとした大上父が待っているのは中々のドラマでした。

松江からフィニッシュの亀岡まではラスト約300km。前半の鳥取県内の国道9号線は海岸沿いの平坦コースだが、日陰が無く、松江PCを15日未明から午前にかけて出発したライダー達は、真夏の日差しをまともに受けることに。

実施時期に問題があると言えばそれまでだが、参加案内でも重ねて注意しているように暑さ対策は必須の課題です。水分補給、体温発散グッズなど、対応策は講じたものの、やはり休憩が一番のよう!


さんいん1300の完走証明書さんいん1300の完走証明書 photo:Hideaki.Ishimaru休憩、コース取り、仮眠で調整して完走を目指す

そしてPC7の鳥取市を過ぎ、後半の兵庫県に入ると峠の連続する山岳コースとなる。そのため、アップダウンを避けるための別ルートを選択するライダーもいる。ひとつは178号線で豊岡を回るコース、もうひとつは482号線で神鍋高原を回るコースです。

その暑さとアップダウンに耐えて明るさの残るPC8に最初に現れたのは、1300kmにチューブラーで挑んで、敢えて神鍋高原を回った藤中さんでした。その30分後に三船さんが現れ、続いて郷さんが到着。そしてマイペースで走った堀さんが21時過ぎに、さらに後半ペースアップしてトップグループに食い込んで来た落合さんが23時前に到着。

アップダウンを苦手とするリカンベントの竹村さんは豊岡を回るコースを選択。また彼にはルート上の観光地巡りも目的にあったようで、架け替えの終わった余部鉄橋にも立ち寄ったとか。そのため日にちが変わってからのフィニッシュとなり、粘りの納豆走法の河崎さんと一緒に現れたのが印象的でした。

そこまでがラスト300kmを一気に走った組で、その後は仮眠がもう一回プラスされるのだが、ここにもペース配分があった。早朝フィニッシュを狙って早めに短時間の仮眠を取るか、残りを100km以内にして、しっかり寝て、余裕を持って午前中のフィニッシュとするのか、途中で不要になった荷物を自宅に送りながら軽量化をする作戦同様、ロングライドには戦略や目標があった方が楽しめるようだ。

交歓会に集ったのは11名。既に来年のチャレンジの話になった。来年は四国もエリアに入れて、緩い走行ルールの中にちょっとハードなPBPシミュレーションも加えて実施をするか、と考えている。

さんいん1300リザルトさんいん1300リザルト photo:Hideaki.Ishimaru



photo&text:石丸英明(和風自転車人認定之会)