2020/12/10(木) - 12:32
広大な北海道はサイクリストにとって憧れの地。その中でも雄大な自然と走りやすい環境、そしてもちろん美味しい山海の幸が揃い踏みするのがオホーツクエリア。今回は、その玄関口として、またベースとしてピッタリなオホーツク最大の都市・北見を全日本王者の入部選手と畑中選手とともにぐるり一周しました。
みなさん、北見ってどんなイメージですか?ハッカ?それともカーリング?ちなみに最近だと、ジャンプ+で連載中の人気コミック「道産子ギャルはなまらめんこい」という作品の舞台だったりも。昨年のツール・ド・北海道第2ステージのフィニッシュになったことを覚えているシクロワイアード読者もいるのでは?
とはいえ、網走や知床、阿寒湖や摩周湖といった有名観光地が周りにある分、どうしても影が薄くなってしまいがち。一方で、実は北海道の中でもいろんな「イチバン」を持っているのが、この北見という街。
その一つが、道内イチの広さ。なんと北見は東西で110kmもあり、これは東京から箱根までの距離に等しいのだとか。関西方面の人にわかりやすく伝えると、大阪の南北の距離を1.3倍にしたくらい。オホーツク海に面した常呂から大雪山へ至る石北峠まで、広大な市域にはダイナミックな地形が広がっている。
もちろん過去にシクロワイアードで紹介したもぐもぐライドのように、市街地にもたくさんの魅力的なスポットがあるのだけれど、その広大な土地を生かした「北見一周」的なルートもまた、最高に楽しいのだという。
北見をベースにサイクリングを 空港からの移動を改善する取組に着手
つまり、サイクリストにとっては魅力的な土地だということで、その潜在力を最大限に引き出すべく様々な取り組みが始まっている。まず着手したのが、玄関口となる女満別空港からのアクセスの改善だ。
女満別空港から北見の町までは約30㎞程。もちろんレンタカーを借りるのが一番ラクなのは確かだけれど、お金も掛かるし、意外に都心に住んでいる人は免許を持っていない人も多いこのご時世、車以外のアクセス手段があるのは重要だ。そして、飛行機で輪行するのであれば、出来るだけしっかりした輪行バッグを使いたいというのもサイクリストの性。分厚い輪行袋はプロテクション性能は高いけど、場所を取りがちで移動には不向きだ。
そんな悩みを解決すべく、北見市は2つの取り組みを準備中。一つは空港から北見へ向かうバスに輪行した自転車を載せられるようにするというもの。駅チカのホテルを予約してれば、そのまま輪行解除して袋を部屋に持ち込める。こちらは午後便で空港につき、翌日から北見を拠点にサイクリングを楽しむ、という人にピッタリだろう。
もう一つが、空港で輪行解除し、輪行バッグや荷物を当日便で宿に送るというもの。いわゆる手ぶら観光を可能にする当日配送サービスのサイクリスト版。海外遠征用の大きな輪行バッグでも対応してくれるということなので、海外からのインバウンドにもばっちり対応。こちらは朝便で到着し、そのまま女満別空港から走り出すというアクティブな方にオススメだ。
さて、今回は全日本王者の入部正太朗(NTTプロサイクリング)、元全日本王者の畑中勇介(チームUKYO)という2人のトップレーサーとその家族がモニターとして、実際に北見をぐるりとサイクリング。日本だけでなく、世界を股にかける選手らが北見のポテンシャルを探った。
全日本チャンプ一行が女満別空港へ到着 輪行後には身軽にライドへ
日曜の朝、9時前に到着する朝イチ便で女満別空港に到着した一行。シーコンやエリートなどの輪行ケースをゴロゴロと転がしながら空港を歩いてくる姿は海外遠征に臨むプロチームのそれだ。
女満別空港には輪行作業を行うための「サイクルステーション」が設置されている。三方を壁に囲まれたスペースとなっているため、風に部品や輪行袋などが飛ばされる心配も少なく、安心して作業できるのがうれしいところ。とはいえ、大きなケースが4台分となると少し手狭になってしまう。通常の輪行袋であれば4人でも問題ないだろう。
プロ選手らしい手際の良さで、奥さんの分まであっという間に自転車を組み上げる2人。その間に、女性陣は更衣室で着替えを済ませ準備万端。残念ながらコロナの影響で以前設置されていた男子更衣室がなくなってしまったので、男性陣はトイレで(笑)。
そして、今回の実証実験のために待機していたヤマト運輸のトラックに輪行バッグと荷物を預けたらいざ出発。実際にサービスが開始される際は、空港内の窓口に預ける形式になるはずだ。
今日は女子班と男子班に分かれ、それぞれ北見を目指すことに。女子班は女満別空港から美幌を経由し、北見を目指す。これまでレポートしてきた「もぐもぐライド」のように、スイーツスポットに立ち寄りながらのんびりライドを楽しむというプラン。
一方、男子班は女満別空港から北見を目指すのは変わらないものの、ぐるりと北見市を一周する(正確には3/4周くらいですが)、全長120㎞の「キタイチ」的なルートを走ることに。私はもちろん(?)男子班に帯同することになったのだが、11月の北海道は日が低く短い。16時半にはほぼ夕暮れとなるとのことだが、輪行作業やスタート前の諸々を済ませているとすでに10時を回っている。つまり、6時間ちょっとで120㎞を走らないといけないのだ……。そう、お昼ご飯や撮影時間を含めて、120㎞を6時間、である。
「まあまあ、30km/hくらいで巡航してれば大丈夫ですよ」と畑中さん。「オフですし、そんなに飛ばさないですから」と入部さん。うーん??それくらいのペースならなんとかなるか?と希望的観測の下、女満別空港を出発した。
空港を出発したら、さっそく北上していくことになる。網走湖の西側を通り、能取湖へと向かっていく。いつもは東岸を通っているだけに、なんだか裏道のよう。この日は南風が吹きつけており、この区間はかなりの追い風に。40km/hを越える快速ペースで、あっという間に能取湖の南端である卯原内へと到着。
「めっちゃ気持ちいいなー!」「追い風やし、めっちゃ流れる(ように走れる)から最高ですね!」とにこやかに談笑する畑中さんと入部さん。信号も無く、追い風基調とあって確かに最高なのだが、後ろを走る一般サイクリスト代表の私はすでに青息吐息である。追い風だとドラフティングの効果も薄いからキツイ……。背中の一眼レフをそこらへんに投げ捨てられるのなら、今すぐパージしたい。今回の撮れ高が少ないのは、実走取材の限界というものです(笑)。
さて、そんな取材裏話は置いておいて、全日本王者と元王者によるトレインは能取湖の西岸を北上していく。湖岸には廃線跡を利用したサイクリングロードもあるのだけれど、40km/hを優に超えるこのペースでは車道を使ったほうが安全だし快適。その分、湖岸は遠くなってしまうけれど、それでもところどころで静かに水を湛える能取湖の姿を望むことはできる。
ホタテ、シュークリーム、ヨモギ大福……立ち寄りスポット沢山のサロマ湖エリア
そのままの勢いで北へと突き進んでいくと、前方にはついにオホーツク海が登場。ここで最初の立ち寄りスポット、「常呂漁協直売所」へピットイン。「ここで奥さんへのお土産を買っとかないとコワイからなー」なんて真剣な顔でつぶやく畑中さん。私はといえば、お土産プレッシャーを掛けてくれた絹代さんに心の底から感謝しつつ、ほうほうの体で駆け込むのだった。
冬を目前にしたこの時期はサロマ湖の真骨頂である牡蠣と帆立の最盛期。おっきな帆立が1枚なんと70円、牡蠣は2kgで1200円と、なんかもうよく分からないレベルで安い(笑)。ちなみにノロウイルスが繁殖する下水の流入がほぼ無いため、サロマ湖の牡蠣は全て生食可能なのだとか。
お二人はずっしりと帆立の貝柱が詰まったパックをゲット。大体20粒くらい入って、お値段なんと900円。一つはその場で開けてそのまま頂くことに。「え、これすごくない?」「めっちゃコリコリするし、味が濃い」「これ本州で食べたら一粒いくらやろ」「寿司屋だったら500円皿コースだよね、俺もう2つ食べちゃった」なんて盛り上がる。「たんぱく源にもなるし、美味しいし、最高ですよ!」と入部さん。
そしてそのままの流れで常呂の「竹岡菓子舗」へ。こちら、昔から地元の人に絶賛されるシュークリームとエクレアが名物なのだとか。絶妙なバランスの生クリームとカスタードクリームが詰め込まれており、まさにほっぺの落ちる甘さ。既にここまでで800kcalほど消費しているので、罪悪感もゼロ(笑)。
常呂市街を少し走っていくと、平昌五輪で一躍その名を世界に知らしめたカーリングチーム「ロコ・ソラーレ」のホームである「アドヴィックス常呂」が見えてくる。記念にカーリングっぽいポーズで撮影し、一路サロマ湖畔を南下していった先、浜佐呂間の「部田菓子舗」へ再ピットイン。
ホタテ饅頭などが看板メニューの部田菓子舗さんだが、実は隠れ人気メニューとして名高いのが手作りのヨモギ餅。「すごい賞味期限短いね」「ということは、保存料とか一切使ってないってことですよ、絶対美味いですよ」と、またしても盛り上がる二人。自分もおひとついただくと、周りのお餅が本当に柔らかくて美味しい。良い素材を丁寧に作ったらこうなるんだろうな、というのが口内から直接伝わってくる逸品でございました。
留辺蘂へ向け、アゲインストの峠越え
さて、ここからは一路内陸へ向かって進んでいくことになる。方角が180度変わるということは、風向きも180度変わるということ。つまり向かい風、更に緩やかな登り基調の区間が40km以上にわたって続くことになる。今日の最高標高地点となる丸山峠の標高は約350m。海抜0mから350mまで、40㎞を使ってゆるゆると登っていく計算だ。
追い風はドラフティングが効かなくて辛かったが、向かい風は向かい風で単純に辛い。ただ、プロライダーの後ろは最高に走りやすく、自分の限界まで後ろに着けるので一人で走っていたら足も心も折れそうな向かい風区間でも35km/h以上を刻むトレインから、なんとか振り落とされずについていける。
途中、佐呂間の街で「かぼちゃん本舗」さんに立ち寄り、パンプキンパイをいただく。最近できたばかりのお店とのことで、これまで寄ってきた2つのお菓子屋さんとはまた違ったおしゃれな雰囲気だ。だんだん曇ってきたこともあり、急いでいただき再出発。
ピークとなる丸山峠は、純粋に登りとしてみるならそんなに大したプロフィールではないのだけれど、ここまで高速トレインで脚を消耗していた自分にとっては超級山岳にも等しい壁。使うならここしかない、とっておきの最終兵器を発動させる。
「すいません!写真撮りたいので、ゆっくり来てもらってもいいですか?」
留辺蘂にてホタテラーメンをいただき、北見駅へ ただ、何やら雲行きが……
……さて、何とか無事に丸山峠を越え、一気に留辺蘂の市街地まで下り切ったら「レストラン ef(エフ)」でお待ちかねのランチタイム。地元の皆さんから厚く支持されている洋食屋さんで、北見を中心にオホーツクの食材を生かしたメニューが盛りだくさん。
名物はオニオンフライがどーん!と乗った塩焼きそばなんですが、結構追い込んできたこともありもう少しさっぱりしたものを……ということで3人全員ホタテラーメンをいただきます!
大きなホタテ貝柱が2つ浮かんだホタテラーメンは、塩スープに帆立の出汁がしっかり溶け込んだ一杯。疲れた体に程よい塩分が染みわたっていくのを感じる、滋味あふれるラーメンでございました。
ここまで追い込んできたおかげもあって、お昼を食べ終わった時点でなんと14時半。残りは25km程度で、これまでのペースでいけば40分ほど。北見にはしっかり陽のあるうちに到着できそうだ。入部さんが奥さんに今どのあたりか電話してみたところ、女子チームはかなり予定を押している様子。「まあ、お店で時間使いますからね。予想通りっちゃ予想通りですね」と畑中さん。
「よし、それじゃ行きますか!」と最後の区間に向けて走り出すと、下り基調+追い風というボーナスステージに、思わず笑みがこぼれてしまう。「いやぁ、これは勝ちましたね。優勝ですよ!」と豪語する畑中さんを先頭に北見へ向けて高速巡航態勢に。しかし、これは完全なフラグ。正体不明の敵にありったけのミサイルを撃ち込んで「やったか!?」と言っているようなものであった……。
勝利(なんの?)を確信し、気持ちよく走り出した矢先、ポツリポツリと頬にあたるものが。「……雨降ってきてません?」と入部さんが口にするのもつかの間、パラパラと雨粒が落ちはじめ、路面も完全にウェットに。カメラが壊れてはたまらん、とサポートカーにカメラを預けるべくお二方を呼び止め、トレインに復帰したら「カメラだけ預けるんですね!車に乗れば良かったのに!」と畑中さんに笑われる。た、確かに……っ!
なぜ自分はこの雨の中二人についていくという選択をしたのか。冷静になって考えてみればそのまま車に乗ってしまうのが一番だったはず。しかし、やっぱりここまで来たんだから最後まで走り切りたい、しかも選手登録もしていない自分が全日本チャンプに引いてもらって走れるなんて、そうそう無い。と、今思い返すとそういう気持ちだったのだけど、その時は完全に「とりあえずカメラは守らねば」というので一杯だった(笑)
完全に水が溜まった道を水飛沫を跳ね上げつつ北見駅へ向かっていくこと30分。ドロドロになりながらゴールへ駆け込むころには、雨足はだいぶ弱まっていた。北見駅では朝、女満別空港で預けた荷物がお出迎え。しかと受け取ったら、お風呂と洗濯のため、ササッとホテルにチェックインし、宴会という名の第2ステージの準備を整えるのだった。
text&photo:Naoki.Yasuoka
みなさん、北見ってどんなイメージですか?ハッカ?それともカーリング?ちなみに最近だと、ジャンプ+で連載中の人気コミック「道産子ギャルはなまらめんこい」という作品の舞台だったりも。昨年のツール・ド・北海道第2ステージのフィニッシュになったことを覚えているシクロワイアード読者もいるのでは?
とはいえ、網走や知床、阿寒湖や摩周湖といった有名観光地が周りにある分、どうしても影が薄くなってしまいがち。一方で、実は北海道の中でもいろんな「イチバン」を持っているのが、この北見という街。
その一つが、道内イチの広さ。なんと北見は東西で110kmもあり、これは東京から箱根までの距離に等しいのだとか。関西方面の人にわかりやすく伝えると、大阪の南北の距離を1.3倍にしたくらい。オホーツク海に面した常呂から大雪山へ至る石北峠まで、広大な市域にはダイナミックな地形が広がっている。
もちろん過去にシクロワイアードで紹介したもぐもぐライドのように、市街地にもたくさんの魅力的なスポットがあるのだけれど、その広大な土地を生かした「北見一周」的なルートもまた、最高に楽しいのだという。
北見をベースにサイクリングを 空港からの移動を改善する取組に着手
つまり、サイクリストにとっては魅力的な土地だということで、その潜在力を最大限に引き出すべく様々な取り組みが始まっている。まず着手したのが、玄関口となる女満別空港からのアクセスの改善だ。
女満別空港から北見の町までは約30㎞程。もちろんレンタカーを借りるのが一番ラクなのは確かだけれど、お金も掛かるし、意外に都心に住んでいる人は免許を持っていない人も多いこのご時世、車以外のアクセス手段があるのは重要だ。そして、飛行機で輪行するのであれば、出来るだけしっかりした輪行バッグを使いたいというのもサイクリストの性。分厚い輪行袋はプロテクション性能は高いけど、場所を取りがちで移動には不向きだ。
そんな悩みを解決すべく、北見市は2つの取り組みを準備中。一つは空港から北見へ向かうバスに輪行した自転車を載せられるようにするというもの。駅チカのホテルを予約してれば、そのまま輪行解除して袋を部屋に持ち込める。こちらは午後便で空港につき、翌日から北見を拠点にサイクリングを楽しむ、という人にピッタリだろう。
もう一つが、空港で輪行解除し、輪行バッグや荷物を当日便で宿に送るというもの。いわゆる手ぶら観光を可能にする当日配送サービスのサイクリスト版。海外遠征用の大きな輪行バッグでも対応してくれるということなので、海外からのインバウンドにもばっちり対応。こちらは朝便で到着し、そのまま女満別空港から走り出すというアクティブな方にオススメだ。
さて、今回は全日本王者の入部正太朗(NTTプロサイクリング)、元全日本王者の畑中勇介(チームUKYO)という2人のトップレーサーとその家族がモニターとして、実際に北見をぐるりとサイクリング。日本だけでなく、世界を股にかける選手らが北見のポテンシャルを探った。
全日本チャンプ一行が女満別空港へ到着 輪行後には身軽にライドへ
日曜の朝、9時前に到着する朝イチ便で女満別空港に到着した一行。シーコンやエリートなどの輪行ケースをゴロゴロと転がしながら空港を歩いてくる姿は海外遠征に臨むプロチームのそれだ。
女満別空港には輪行作業を行うための「サイクルステーション」が設置されている。三方を壁に囲まれたスペースとなっているため、風に部品や輪行袋などが飛ばされる心配も少なく、安心して作業できるのがうれしいところ。とはいえ、大きなケースが4台分となると少し手狭になってしまう。通常の輪行袋であれば4人でも問題ないだろう。
プロ選手らしい手際の良さで、奥さんの分まであっという間に自転車を組み上げる2人。その間に、女性陣は更衣室で着替えを済ませ準備万端。残念ながらコロナの影響で以前設置されていた男子更衣室がなくなってしまったので、男性陣はトイレで(笑)。
そして、今回の実証実験のために待機していたヤマト運輸のトラックに輪行バッグと荷物を預けたらいざ出発。実際にサービスが開始される際は、空港内の窓口に預ける形式になるはずだ。
今日は女子班と男子班に分かれ、それぞれ北見を目指すことに。女子班は女満別空港から美幌を経由し、北見を目指す。これまでレポートしてきた「もぐもぐライド」のように、スイーツスポットに立ち寄りながらのんびりライドを楽しむというプラン。
一方、男子班は女満別空港から北見を目指すのは変わらないものの、ぐるりと北見市を一周する(正確には3/4周くらいですが)、全長120㎞の「キタイチ」的なルートを走ることに。私はもちろん(?)男子班に帯同することになったのだが、11月の北海道は日が低く短い。16時半にはほぼ夕暮れとなるとのことだが、輪行作業やスタート前の諸々を済ませているとすでに10時を回っている。つまり、6時間ちょっとで120㎞を走らないといけないのだ……。そう、お昼ご飯や撮影時間を含めて、120㎞を6時間、である。
「まあまあ、30km/hくらいで巡航してれば大丈夫ですよ」と畑中さん。「オフですし、そんなに飛ばさないですから」と入部さん。うーん??それくらいのペースならなんとかなるか?と希望的観測の下、女満別空港を出発した。
空港を出発したら、さっそく北上していくことになる。網走湖の西側を通り、能取湖へと向かっていく。いつもは東岸を通っているだけに、なんだか裏道のよう。この日は南風が吹きつけており、この区間はかなりの追い風に。40km/hを越える快速ペースで、あっという間に能取湖の南端である卯原内へと到着。
「めっちゃ気持ちいいなー!」「追い風やし、めっちゃ流れる(ように走れる)から最高ですね!」とにこやかに談笑する畑中さんと入部さん。信号も無く、追い風基調とあって確かに最高なのだが、後ろを走る一般サイクリスト代表の私はすでに青息吐息である。追い風だとドラフティングの効果も薄いからキツイ……。背中の一眼レフをそこらへんに投げ捨てられるのなら、今すぐパージしたい。今回の撮れ高が少ないのは、実走取材の限界というものです(笑)。
さて、そんな取材裏話は置いておいて、全日本王者と元王者によるトレインは能取湖の西岸を北上していく。湖岸には廃線跡を利用したサイクリングロードもあるのだけれど、40km/hを優に超えるこのペースでは車道を使ったほうが安全だし快適。その分、湖岸は遠くなってしまうけれど、それでもところどころで静かに水を湛える能取湖の姿を望むことはできる。
ホタテ、シュークリーム、ヨモギ大福……立ち寄りスポット沢山のサロマ湖エリア
そのままの勢いで北へと突き進んでいくと、前方にはついにオホーツク海が登場。ここで最初の立ち寄りスポット、「常呂漁協直売所」へピットイン。「ここで奥さんへのお土産を買っとかないとコワイからなー」なんて真剣な顔でつぶやく畑中さん。私はといえば、お土産プレッシャーを掛けてくれた絹代さんに心の底から感謝しつつ、ほうほうの体で駆け込むのだった。
冬を目前にしたこの時期はサロマ湖の真骨頂である牡蠣と帆立の最盛期。おっきな帆立が1枚なんと70円、牡蠣は2kgで1200円と、なんかもうよく分からないレベルで安い(笑)。ちなみにノロウイルスが繁殖する下水の流入がほぼ無いため、サロマ湖の牡蠣は全て生食可能なのだとか。
お二人はずっしりと帆立の貝柱が詰まったパックをゲット。大体20粒くらい入って、お値段なんと900円。一つはその場で開けてそのまま頂くことに。「え、これすごくない?」「めっちゃコリコリするし、味が濃い」「これ本州で食べたら一粒いくらやろ」「寿司屋だったら500円皿コースだよね、俺もう2つ食べちゃった」なんて盛り上がる。「たんぱく源にもなるし、美味しいし、最高ですよ!」と入部さん。
そしてそのままの流れで常呂の「竹岡菓子舗」へ。こちら、昔から地元の人に絶賛されるシュークリームとエクレアが名物なのだとか。絶妙なバランスの生クリームとカスタードクリームが詰め込まれており、まさにほっぺの落ちる甘さ。既にここまでで800kcalほど消費しているので、罪悪感もゼロ(笑)。
常呂市街を少し走っていくと、平昌五輪で一躍その名を世界に知らしめたカーリングチーム「ロコ・ソラーレ」のホームである「アドヴィックス常呂」が見えてくる。記念にカーリングっぽいポーズで撮影し、一路サロマ湖畔を南下していった先、浜佐呂間の「部田菓子舗」へ再ピットイン。
ホタテ饅頭などが看板メニューの部田菓子舗さんだが、実は隠れ人気メニューとして名高いのが手作りのヨモギ餅。「すごい賞味期限短いね」「ということは、保存料とか一切使ってないってことですよ、絶対美味いですよ」と、またしても盛り上がる二人。自分もおひとついただくと、周りのお餅が本当に柔らかくて美味しい。良い素材を丁寧に作ったらこうなるんだろうな、というのが口内から直接伝わってくる逸品でございました。
留辺蘂へ向け、アゲインストの峠越え
さて、ここからは一路内陸へ向かって進んでいくことになる。方角が180度変わるということは、風向きも180度変わるということ。つまり向かい風、更に緩やかな登り基調の区間が40km以上にわたって続くことになる。今日の最高標高地点となる丸山峠の標高は約350m。海抜0mから350mまで、40㎞を使ってゆるゆると登っていく計算だ。
追い風はドラフティングが効かなくて辛かったが、向かい風は向かい風で単純に辛い。ただ、プロライダーの後ろは最高に走りやすく、自分の限界まで後ろに着けるので一人で走っていたら足も心も折れそうな向かい風区間でも35km/h以上を刻むトレインから、なんとか振り落とされずについていける。
途中、佐呂間の街で「かぼちゃん本舗」さんに立ち寄り、パンプキンパイをいただく。最近できたばかりのお店とのことで、これまで寄ってきた2つのお菓子屋さんとはまた違ったおしゃれな雰囲気だ。だんだん曇ってきたこともあり、急いでいただき再出発。
ピークとなる丸山峠は、純粋に登りとしてみるならそんなに大したプロフィールではないのだけれど、ここまで高速トレインで脚を消耗していた自分にとっては超級山岳にも等しい壁。使うならここしかない、とっておきの最終兵器を発動させる。
「すいません!写真撮りたいので、ゆっくり来てもらってもいいですか?」
留辺蘂にてホタテラーメンをいただき、北見駅へ ただ、何やら雲行きが……
……さて、何とか無事に丸山峠を越え、一気に留辺蘂の市街地まで下り切ったら「レストラン ef(エフ)」でお待ちかねのランチタイム。地元の皆さんから厚く支持されている洋食屋さんで、北見を中心にオホーツクの食材を生かしたメニューが盛りだくさん。
名物はオニオンフライがどーん!と乗った塩焼きそばなんですが、結構追い込んできたこともありもう少しさっぱりしたものを……ということで3人全員ホタテラーメンをいただきます!
大きなホタテ貝柱が2つ浮かんだホタテラーメンは、塩スープに帆立の出汁がしっかり溶け込んだ一杯。疲れた体に程よい塩分が染みわたっていくのを感じる、滋味あふれるラーメンでございました。
ここまで追い込んできたおかげもあって、お昼を食べ終わった時点でなんと14時半。残りは25km程度で、これまでのペースでいけば40分ほど。北見にはしっかり陽のあるうちに到着できそうだ。入部さんが奥さんに今どのあたりか電話してみたところ、女子チームはかなり予定を押している様子。「まあ、お店で時間使いますからね。予想通りっちゃ予想通りですね」と畑中さん。
「よし、それじゃ行きますか!」と最後の区間に向けて走り出すと、下り基調+追い風というボーナスステージに、思わず笑みがこぼれてしまう。「いやぁ、これは勝ちましたね。優勝ですよ!」と豪語する畑中さんを先頭に北見へ向けて高速巡航態勢に。しかし、これは完全なフラグ。正体不明の敵にありったけのミサイルを撃ち込んで「やったか!?」と言っているようなものであった……。
勝利(なんの?)を確信し、気持ちよく走り出した矢先、ポツリポツリと頬にあたるものが。「……雨降ってきてません?」と入部さんが口にするのもつかの間、パラパラと雨粒が落ちはじめ、路面も完全にウェットに。カメラが壊れてはたまらん、とサポートカーにカメラを預けるべくお二方を呼び止め、トレインに復帰したら「カメラだけ預けるんですね!車に乗れば良かったのに!」と畑中さんに笑われる。た、確かに……っ!
なぜ自分はこの雨の中二人についていくという選択をしたのか。冷静になって考えてみればそのまま車に乗ってしまうのが一番だったはず。しかし、やっぱりここまで来たんだから最後まで走り切りたい、しかも選手登録もしていない自分が全日本チャンプに引いてもらって走れるなんて、そうそう無い。と、今思い返すとそういう気持ちだったのだけど、その時は完全に「とりあえずカメラは守らねば」というので一杯だった(笑)
完全に水が溜まった道を水飛沫を跳ね上げつつ北見駅へ向かっていくこと30分。ドロドロになりながらゴールへ駆け込むころには、雨足はだいぶ弱まっていた。北見駅では朝、女満別空港で預けた荷物がお出迎え。しかと受け取ったら、お風呂と洗濯のため、ササッとホテルにチェックインし、宴会という名の第2ステージの準備を整えるのだった。
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