2018/09/17(月) - 12:11
宮澤崇史さんが今夏、エタップ・デュ・ツールに参戦。その手記を寄稿してくれた。元プロ選手が楽しんできたアマチュア最高峰の市民レースとは。フランスのライフスタイルやグルメ、文化さえも伝えてくれるレポートだ。
アマチュア最高峰の市民レース、エタップ・デュ・ツール photo:Takashi Miyazawa
7月、ツール・ド・フランスのワンステージを走るアマチュアレース「エタップ・デュ・ツール」に参加した。 僕自身、どれだけ包括的にこのイベントを楽しめるかを確かめるのが目的だった。また、今年のエタップのコースとなるツール・ド・フランスの第10ステージがどういう展開になるかを予想しながら走るという、元プロ選手目線での楽しみもあった。
この旅を楽しむために心がけたことは、決してエタップだけに集中した日程を組まないこと。何せツール・ド・フランスという自転車レースは、百年以上前からフランス各地方の観光プロモーションの役目も担ってきた歴史がある。それだけに、ツールの舞台はどこを切り取っても壮大で美しい光景ばかりだ。だったら旅そのものを楽しまなくては意味がない。今回のスタート地点の舞台となるアヌシーもまた、とびきり美しい街。しっかりアヌシーを遊び、食べ、この土地を知り尽くす旅にすると決めた。
アヌシー湖畔をドライブ 。エメラルドの湖面が美しい photo:Takashi Miyazawa
アヌシーで水上スポーツを楽しまない手はない photo:Takashi Miyazawa
高級避暑地として名高いアヌシーは、かつてサヴォワ公国の首都として栄えた街。アルプスの清らかな水が注ぎ込むアヌシー湖は、ヨーロッパ一の高い透明度を誇る。アルプスというと日本ではせいぜいハイジのイメージしかないけれど、アヌシーは「アルプスのヴェネチア」と呼ばれるほど美しい、宝石のような町だ。
湖畔には高級ホテルや壮麗な別荘が立ち並び、豪華クルーザーが行き来する中をSUPやウェイクボード、カヤックなどの水上スポーツも盛んで、とても華やか。ハイキング、トレッキング、本格的な登山の拠点でもあり、街全体にスポーツ文化が根づいている。もちろん自転車のメッカでもあり、湖畔や市内はサイクリングロードがしっかり整備されている。歴史を感じさせる石畳の小道と運河が入り組んだ旧市街では、自転車は移動手段としても最適だ。
ウェイクボードに初挑戦! photo:Takashi Miyazawa
ただ湖を眺めて過ごす。こういう時間こそが旅には大切だ photo:Takashi Miyazawa
自転車が絵になる旧市街の風景 photo:Takashi Miyazawa
エタップ間近ということもあって、町はサイクリストで溢れ返っていた。いとも気軽に自転車を停め、運河沿いの眺めの良いレストランで食事をする。「Bonne course!(良いレースを!)」とあちこちで声がする。町中がエタップとその後のツールという二大イベントを楽しみ、盛り上げてくれている。
サイクリングロードは快適に整備されていた photo:Takashi Miyazawa
町の風景にサイクリストの姿が溶け込む photo:Takashi Miyazawa
狭い道でも駐輪禁止にしない懐の広さがヨーロッパにはある photo:Takashi Miyazawa
エタップのヴィラージュ。二日前から大賑わい photo:Takashi Miyazawa
観戦用の椅子がリクライニングチェアなところがフランスらしい photo:Takashi Miyazawa
こんなゲームコーナーも photo:Takashi Miyazawa
会場内のラファ・サイクル・クラブではコーヒーをご馳走になり、ライドに誘われ、最後にはマッサージまで! photo:Takashi Miyazawa
一通り散策して観光を終えると、お待ちかねのテロワールを味わいに繰り出す。「テロワール」という言葉はワイン好きの人なら必ず知っているけど、フランス語でその土地に根ざすもの、土壌や気候や伝統技術を含めたその土地の個性を意味する言葉。つまり、その土地の特産品ということ。サヴォア地方の特産品は、なんといってもチーズ!この土地でしか作れない本物のチーズを、この土地で存分に味わいたい。
これぞテロワール!その地のものを、その地でいただく photo:Takashi Miyazawa
MOFの称号を持つピエール・ゲイ氏の店 photo:Takashi Miyazawa
チーズには当然、ワインも欠かせない。観光局で親切にしてくれたおばちゃんが「私が個人的に好きな店なんだけど、絶対おすすめ!」と教えてくれたワイン屋さんにまず直行。店の主人らしき男性が先客と熱く語り合っている。大好きなワインだけを集めて、他の人にもお薦めしたくて仕方ないといった店主の語り口。人の心が感じられない大量の商品が並ぶスーパーより、小さくても一つ一つの商品をを愛おしむ店主のいる店の方が、僕は好きだ。
ワイン屋の親父さんと photo:Takashi Miyazawa
担当してくれた店員のアドリアンもサイクリスト photo:Takashi Miyazawa
先客が去り、店主氏が僕に向かってくる。「明日エタップに参加するんですが、まず今晩の一本を、そして明日レース後の祝杯用にシャンパーニュが欲しいのですが」
地元の人気パティシエ、クリストフ・アレシャヴァラが作る絶品アイスクリーム photo:Takashi Miyazawa店主氏は「ブラーヴォ!あのコースを走るんですか?凄いですね!」と叫んで一気に笑顔に。選んでくれたのは、僕も好きな自然派のドラピエ。奮発してミレジメをお買い上げ。
次は、店主にお勧めされたチーズ屋さんに向かう。店の前に来ると、「M.O.F. ピエール・ゲイ」と書かれた看板が目につく。「M.O.F.」とはフランス国家最優秀職人章のことで、フランス文化の最も優れた継承者に相応しい高度の技術をもつ職人に授与される称号のこと。もう期待しかない。
店内に足を踏み入れた瞬間、心地良い空気が鼻腔をくすぐり、胸いっぱい吸い込む。良い菌が漂っているのがわかる。店員さんは皆フレンドリーで、応対してくれた男子は自転車乗りだった。僕がかつてプロ選手だったと言うとたちまち顔を輝かせ、握手と写真を求められ、あまりの熱い反応に少し照れてしまった。フランスでは自転車選手がリスペクトされていることを実感する。
いろんなチーズを味見させてくれた中で、アルプスの標高2000m以上にしか生えないGénépiというハーブをまぶしたボーフォールと、藁をまぶしたボーフォール、生クリームを中心に忍ばせたフロマージュブラン「フォンテーヌブロー」(美味すぎて悶絶)、アヌシーの修道院で作られた希少なバターをお買い上げ。
地元のクラフトビール「NO BOW」の横には、往年の自転車選手達がビールのトラックに群がる写真が飾られていた。自転車文化と食文化が深く結びついているのがフランスらしい photo:Takashi Miyazawa
【お店の情報】
Fromagerie Gay
47, rue Carnot 74000 Annecy
https://goo.gl/4rcjpY
Patisserie du Lac par Christophe Arechavala
8 rue du Lac, 74000, Annecy
Le Cave Rue Du Paquier
Passage Des Echoppes, 74000, Annecy
http://www.barlacave.fr
つづく。
photo&text : 宮澤崇史/Takashi Miyazawa
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7月、ツール・ド・フランスのワンステージを走るアマチュアレース「エタップ・デュ・ツール」に参加した。 僕自身、どれだけ包括的にこのイベントを楽しめるかを確かめるのが目的だった。また、今年のエタップのコースとなるツール・ド・フランスの第10ステージがどういう展開になるかを予想しながら走るという、元プロ選手目線での楽しみもあった。
この旅を楽しむために心がけたことは、決してエタップだけに集中した日程を組まないこと。何せツール・ド・フランスという自転車レースは、百年以上前からフランス各地方の観光プロモーションの役目も担ってきた歴史がある。それだけに、ツールの舞台はどこを切り取っても壮大で美しい光景ばかりだ。だったら旅そのものを楽しまなくては意味がない。今回のスタート地点の舞台となるアヌシーもまた、とびきり美しい街。しっかりアヌシーを遊び、食べ、この土地を知り尽くす旅にすると決めた。
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高級避暑地として名高いアヌシーは、かつてサヴォワ公国の首都として栄えた街。アルプスの清らかな水が注ぎ込むアヌシー湖は、ヨーロッパ一の高い透明度を誇る。アルプスというと日本ではせいぜいハイジのイメージしかないけれど、アヌシーは「アルプスのヴェネチア」と呼ばれるほど美しい、宝石のような町だ。
湖畔には高級ホテルや壮麗な別荘が立ち並び、豪華クルーザーが行き来する中をSUPやウェイクボード、カヤックなどの水上スポーツも盛んで、とても華やか。ハイキング、トレッキング、本格的な登山の拠点でもあり、街全体にスポーツ文化が根づいている。もちろん自転車のメッカでもあり、湖畔や市内はサイクリングロードがしっかり整備されている。歴史を感じさせる石畳の小道と運河が入り組んだ旧市街では、自転車は移動手段としても最適だ。
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エタップ間近ということもあって、町はサイクリストで溢れ返っていた。いとも気軽に自転車を停め、運河沿いの眺めの良いレストランで食事をする。「Bonne course!(良いレースを!)」とあちこちで声がする。町中がエタップとその後のツールという二大イベントを楽しみ、盛り上げてくれている。
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一通り散策して観光を終えると、お待ちかねのテロワールを味わいに繰り出す。「テロワール」という言葉はワイン好きの人なら必ず知っているけど、フランス語でその土地に根ざすもの、土壌や気候や伝統技術を含めたその土地の個性を意味する言葉。つまり、その土地の特産品ということ。サヴォア地方の特産品は、なんといってもチーズ!この土地でしか作れない本物のチーズを、この土地で存分に味わいたい。
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次は、店主にお勧めされたチーズ屋さんに向かう。店の前に来ると、「M.O.F. ピエール・ゲイ」と書かれた看板が目につく。「M.O.F.」とはフランス国家最優秀職人章のことで、フランス文化の最も優れた継承者に相応しい高度の技術をもつ職人に授与される称号のこと。もう期待しかない。
店内に足を踏み入れた瞬間、心地良い空気が鼻腔をくすぐり、胸いっぱい吸い込む。良い菌が漂っているのがわかる。店員さんは皆フレンドリーで、応対してくれた男子は自転車乗りだった。僕がかつてプロ選手だったと言うとたちまち顔を輝かせ、握手と写真を求められ、あまりの熱い反応に少し照れてしまった。フランスでは自転車選手がリスペクトされていることを実感する。
いろんなチーズを味見させてくれた中で、アルプスの標高2000m以上にしか生えないGénépiというハーブをまぶしたボーフォールと、藁をまぶしたボーフォール、生クリームを中心に忍ばせたフロマージュブラン「フォンテーヌブロー」(美味すぎて悶絶)、アヌシーの修道院で作られた希少なバターをお買い上げ。
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【お店の情報】
Fromagerie Gay
47, rue Carnot 74000 Annecy
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Patisserie du Lac par Christophe Arechavala
8 rue du Lac, 74000, Annecy
Le Cave Rue Du Paquier
Passage Des Echoppes, 74000, Annecy
http://www.barlacave.fr
つづく。
photo&text : 宮澤崇史/Takashi Miyazawa
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