2010/02/19(金) - 15:36
今日の編集会議はのんびりムード満開でスタートである。本格的なレースシーズンがまだ始まらない事もあり、我が編集部も業務に忙殺される状況には陥っていない平穏無事な今日この頃なのだ。
とは云え、メタボ会長の決済を要する案件は山盛りなのだが、当のメタボ会長ときたら編集会議そっちのけで、ローラー台で楽しげにペダリングを続けている。
ただ、そのローラー台が発する「ゴーゴー」という音が邪魔で、会議がまともに進まない。いつもの、のんびりサイクリングペースでダラダラと漕ぎ続けるメタボ会長。
よく見ればステムに雑誌を固定し、読みながらのペダリングである。業務中にも関わらず全く大した度胸である。こんな上司のもとで働かざるを得ない状況に置かれている自分たちがホトホト嫌になる。
「ローラー台って優れモノだな。寒くないのが1番イイ! これって本社に持って行ってもいいか?」
「もちろんダメです。私物ですから!」 相変わらずの傍若無人ぶりに私が冷たく即答する。
ひとしきり遊び終わると、今度は美味しそうにタバコをふかしながら、ネットショップ巡りを始める始末だ。覗きこんでみると、近頃話題のエアロ・アズールのサイトでジャージを物色している。一気に購入画面まで進み、注文完了までノンストップで画面を走らせるメタボ会長。
「誰も着てないジャージがいっぱいあって楽しいから、つい買っちゃうよな。俺、デザインにはコダワリあるから!」
実は先月から数えて既に4着目の注文だと云うのだから呆れるばかりである。
「会長、いまネットで頼んでたジャージは半袖でしたけど、大丈夫なんですか?」
「うん、寒い時期は乗らないって昨日決めたから問題ないよ。早く暖かくなんないかな~。」
そう呟くメタボ会長のテンションが妙に低い事に気が付いた私は、再び声を掛けてみる。
「会長、先程から背中あたりを気にされている様子ですが、怪我でもされましたか?」
そうすると珍しくショボくれた表情で元気なく答えてくる。
「いやぁ、実は昨日、多摩湖サイクリングロードを3周してきたんだけど、その直後から背中がやたら痛くて、みんなに内緒で病院行って来たんだよ。そしたら、軽い肉離れを起こしてますって言われちゃってさ」。
いつものふてぶてしい態度はすっかりと鳴りを潜めている。
そのメタボ会長の寂しげな表情に、「アナタの普段の生き様に対する当然の天罰だよ」と思わず言葉を発しそうになる。これで暫らくの間は大人しくしてるかと思うと、我々としては平穏無事に業務に取り組めるというもんである。
その後も寂しげな表情でメタボ会長が訴えかけてくる。
「これまでもゴルフで後背筋を何度か痛めた事があるんだけど、今回は場所は同じでも痛み方が違うので、先生とも色々話しあいながら原因を探した結果、自転車の振動って事になったんだよ。」
別に大した興味も感じない私達としては軽くスルーしたいのだが、メタボ会長の身の上話は止まらない。
「冬場に入ってから、やたらゴツゴツ感がキツくなってきたから、サドルは前の恰好悪いコンフォートサドルに換えてはいたんだけど、ペダルからの振動を受けたまま強い入力を続けた結果が、今回の後背筋の軽度の断裂に繋がったらしい。俺と同じ年代のオヤジ連中が同じ原因で来院する例が近年激増してるって言われちゃったよ。先生が言うには自転車ブームの裏返しなんだってさ。」
いつものメタボ会長ならでは傲慢なトーンはすっかり影を潜め、怯える少年の様な口調で彼のアピールは続く。
「ロードバイクの振動ってヤツは、俺たち中年オヤジライダーには想像以上の負担らしいんだよな。一般のオヤジ連中は膝や腰や首を痛めるパターンが多いらしいんだが、筋肉量が多い人間は背中や太もも裏の筋肉に深刻なダメージが出やすいらしいんだよ。」
その元気の無い姿に、流石の私も気の毒な気分になってくる。体の衰えが顕著に表れる年代で有ることは確かである。
ましてや、自転車に乗り始めて1年も経たないのだから、その緩みに弛んだ体が受けた衝撃や負担が小さくない事は容易に想像がつく。
最初は「ザマミロ」としか感じなかった私ではあるが、いやいや、流石にこれは同情に値する状況に直面しているんじゃないか、と、感じ始めたまさにその時、メタボ会長の口から驚きの言葉が発せられた。
「そうだ!俺に最も適していると思われるバイクやパーツを君たちに探してもらおう!これは業務命令ね。」
余りにも唐突な意見に呆気にとられることしかできない私達を尻目に、メタボ会長の身勝手な意見はドンドンとエスカレートしてゆく。
「振動を俺の身体に直に伝えず、かつ軽量で、かつ軽快な加速は犠牲にせず、かつカッコイイ事! いまのエヴァディオ・ヴィーナスちゃんと同等の軽快感と加速感はできるだけそのままでな!」
まさに今思いついたに違いない事を、さも思考を重ねた事であるかの様に我々に要求し始める。その顔には先程までの可哀想な表情は微塵も見受けられない。
我々に毒を吐く時のメタボ会長の表情は、真夏の太陽より明るく楽しげである。その輝く表情が我々編集部のヤル気を粉々に叩き壊し、どん底へと突き落としてくれる。
「万人受けする自転車じゃなくていい。俺みたいなオヤジ連中や可愛い女性ライダーが最も快適に、かつ最も爽快に、乗ること自体が楽しくて仕方なくなるような夢のバイクを目指しなさい! 」
「この案件は同年代のオヤジライダーや可愛い女性ライダーの為に、天から俺に課された宿題だから。」
あらら、いつの間にかメタボ会長の勝手なワガママが立派な案件にスリ変わっちゃってるよ。なんとまあ勝手な解釈をするもんだと感じながらも、勢い付いたメタボ会長の理不尽な注文は留まる所を知らない。こうなったら誰にも止められない事は、我々にとっては周知の事実である。
「そんな夢のような自転車があれば、みんな乗ってるよ!」 編集部全員が同じ感情を持ちつつも、勢い付いたメタボ会長に反論する気力など持ち合わせている訳はない。
言いだしたら聞かない彼の素性は十分過ぎるほど体感させられている私達に、反論する気力など有るはずもないのだ。この場を納めるには、彼の意見に従うフリをする以外に道は無い。
「判りました。取り組んでみます。ちなみにこの案件に対して本社からの予算援助はいか程でお考えですか?」
腹をくくった私の問いかけに対し
「ん?何言ってるんだい?予算は無いけど、君達には豊富な情報があるじゃないか!何のためにシクロワイアードやってるの?」 素っト呆けた表情で返答してくるメタボ会長。
「少なくともアンタの為にやってる訳ではない事だけは確かです!」
この言葉を吐かずに収めた私は自分を褒めてあげたい!体が痛んでる時くらい大人しくしていてくれればいいのだが、メタボ会長と云う人間は人を怒らせる事に関してだけはズバ抜けて秀でているようだ。
「じゃ、ヨロシク!会社に戻るわ。」
すっかり毒を吐き切ったメタボ会長は、晴れやかな表情と共にハイテンションで去って行った。
残された編集部のテンションはガッツリ低い。編集会議直後とはすっかり立場が入れ替わってしまったのだ。
次回ですか?
理不尽な宿題に取り組むしかありません。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
とは云え、メタボ会長の決済を要する案件は山盛りなのだが、当のメタボ会長ときたら編集会議そっちのけで、ローラー台で楽しげにペダリングを続けている。
ただ、そのローラー台が発する「ゴーゴー」という音が邪魔で、会議がまともに進まない。いつもの、のんびりサイクリングペースでダラダラと漕ぎ続けるメタボ会長。
よく見ればステムに雑誌を固定し、読みながらのペダリングである。業務中にも関わらず全く大した度胸である。こんな上司のもとで働かざるを得ない状況に置かれている自分たちがホトホト嫌になる。
「ローラー台って優れモノだな。寒くないのが1番イイ! これって本社に持って行ってもいいか?」
「もちろんダメです。私物ですから!」 相変わらずの傍若無人ぶりに私が冷たく即答する。
ひとしきり遊び終わると、今度は美味しそうにタバコをふかしながら、ネットショップ巡りを始める始末だ。覗きこんでみると、近頃話題のエアロ・アズールのサイトでジャージを物色している。一気に購入画面まで進み、注文完了までノンストップで画面を走らせるメタボ会長。
「誰も着てないジャージがいっぱいあって楽しいから、つい買っちゃうよな。俺、デザインにはコダワリあるから!」
実は先月から数えて既に4着目の注文だと云うのだから呆れるばかりである。
「会長、いまネットで頼んでたジャージは半袖でしたけど、大丈夫なんですか?」
「うん、寒い時期は乗らないって昨日決めたから問題ないよ。早く暖かくなんないかな~。」
そう呟くメタボ会長のテンションが妙に低い事に気が付いた私は、再び声を掛けてみる。
「会長、先程から背中あたりを気にされている様子ですが、怪我でもされましたか?」
そうすると珍しくショボくれた表情で元気なく答えてくる。
「いやぁ、実は昨日、多摩湖サイクリングロードを3周してきたんだけど、その直後から背中がやたら痛くて、みんなに内緒で病院行って来たんだよ。そしたら、軽い肉離れを起こしてますって言われちゃってさ」。
いつものふてぶてしい態度はすっかりと鳴りを潜めている。
そのメタボ会長の寂しげな表情に、「アナタの普段の生き様に対する当然の天罰だよ」と思わず言葉を発しそうになる。これで暫らくの間は大人しくしてるかと思うと、我々としては平穏無事に業務に取り組めるというもんである。
その後も寂しげな表情でメタボ会長が訴えかけてくる。
「これまでもゴルフで後背筋を何度か痛めた事があるんだけど、今回は場所は同じでも痛み方が違うので、先生とも色々話しあいながら原因を探した結果、自転車の振動って事になったんだよ。」
別に大した興味も感じない私達としては軽くスルーしたいのだが、メタボ会長の身の上話は止まらない。
「冬場に入ってから、やたらゴツゴツ感がキツくなってきたから、サドルは前の恰好悪いコンフォートサドルに換えてはいたんだけど、ペダルからの振動を受けたまま強い入力を続けた結果が、今回の後背筋の軽度の断裂に繋がったらしい。俺と同じ年代のオヤジ連中が同じ原因で来院する例が近年激増してるって言われちゃったよ。先生が言うには自転車ブームの裏返しなんだってさ。」
いつものメタボ会長ならでは傲慢なトーンはすっかり影を潜め、怯える少年の様な口調で彼のアピールは続く。
「ロードバイクの振動ってヤツは、俺たち中年オヤジライダーには想像以上の負担らしいんだよな。一般のオヤジ連中は膝や腰や首を痛めるパターンが多いらしいんだが、筋肉量が多い人間は背中や太もも裏の筋肉に深刻なダメージが出やすいらしいんだよ。」
その元気の無い姿に、流石の私も気の毒な気分になってくる。体の衰えが顕著に表れる年代で有ることは確かである。
ましてや、自転車に乗り始めて1年も経たないのだから、その緩みに弛んだ体が受けた衝撃や負担が小さくない事は容易に想像がつく。
最初は「ザマミロ」としか感じなかった私ではあるが、いやいや、流石にこれは同情に値する状況に直面しているんじゃないか、と、感じ始めたまさにその時、メタボ会長の口から驚きの言葉が発せられた。
「そうだ!俺に最も適していると思われるバイクやパーツを君たちに探してもらおう!これは業務命令ね。」
余りにも唐突な意見に呆気にとられることしかできない私達を尻目に、メタボ会長の身勝手な意見はドンドンとエスカレートしてゆく。
「振動を俺の身体に直に伝えず、かつ軽量で、かつ軽快な加速は犠牲にせず、かつカッコイイ事! いまのエヴァディオ・ヴィーナスちゃんと同等の軽快感と加速感はできるだけそのままでな!」
まさに今思いついたに違いない事を、さも思考を重ねた事であるかの様に我々に要求し始める。その顔には先程までの可哀想な表情は微塵も見受けられない。
我々に毒を吐く時のメタボ会長の表情は、真夏の太陽より明るく楽しげである。その輝く表情が我々編集部のヤル気を粉々に叩き壊し、どん底へと突き落としてくれる。
「万人受けする自転車じゃなくていい。俺みたいなオヤジ連中や可愛い女性ライダーが最も快適に、かつ最も爽快に、乗ること自体が楽しくて仕方なくなるような夢のバイクを目指しなさい! 」
「この案件は同年代のオヤジライダーや可愛い女性ライダーの為に、天から俺に課された宿題だから。」
あらら、いつの間にかメタボ会長の勝手なワガママが立派な案件にスリ変わっちゃってるよ。なんとまあ勝手な解釈をするもんだと感じながらも、勢い付いたメタボ会長の理不尽な注文は留まる所を知らない。こうなったら誰にも止められない事は、我々にとっては周知の事実である。
「そんな夢のような自転車があれば、みんな乗ってるよ!」 編集部全員が同じ感情を持ちつつも、勢い付いたメタボ会長に反論する気力など持ち合わせている訳はない。
言いだしたら聞かない彼の素性は十分過ぎるほど体感させられている私達に、反論する気力など有るはずもないのだ。この場を納めるには、彼の意見に従うフリをする以外に道は無い。
「判りました。取り組んでみます。ちなみにこの案件に対して本社からの予算援助はいか程でお考えですか?」
腹をくくった私の問いかけに対し
「ん?何言ってるんだい?予算は無いけど、君達には豊富な情報があるじゃないか!何のためにシクロワイアードやってるの?」 素っト呆けた表情で返答してくるメタボ会長。
「少なくともアンタの為にやってる訳ではない事だけは確かです!」
この言葉を吐かずに収めた私は自分を褒めてあげたい!体が痛んでる時くらい大人しくしていてくれればいいのだが、メタボ会長と云う人間は人を怒らせる事に関してだけはズバ抜けて秀でているようだ。
「じゃ、ヨロシク!会社に戻るわ。」
すっかり毒を吐き切ったメタボ会長は、晴れやかな表情と共にハイテンションで去って行った。
残された編集部のテンションはガッツリ低い。編集会議直後とはすっかり立場が入れ替わってしまったのだ。
次回ですか?
理不尽な宿題に取り組むしかありません。
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メタボ会長
身長 : 172cm
体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 9ヶ月目
当サイト運営法人の代表取締役。
高校3年まで野球に明け暮れ、大学時代にオートバイのロードレースに夢中になり、卒業後メーカー系チームに所属し全日本選手権に3年間出場。鳴かず飛ばずで所属チームを解雇された後、平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となるが、その勤務実態や社内での立場は謎に包まれている。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。
身長 : 172cm
体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 9ヶ月目
当サイト運営法人の代表取締役。
高校3年まで野球に明け暮れ、大学時代にオートバイのロードレースに夢中になり、卒業後メーカー系チームに所属し全日本選手権に3年間出場。鳴かず飛ばずで所属チームを解雇された後、平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となるが、その勤務実態や社内での立場は謎に包まれている。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。