2017/08/16(水) - 09:03
サイクリスト目線に立った多くの便利なアイテムを開発してきた東京サンエス。その中でも高い人気を誇る輪行袋”キャリー”の企画を発案した土屋朋子さんが、秋田は田沢湖で主催する女性のためのグループライド”3W田沢湖”のレポートが届きました。
創業から90年。東京サンエスは日本を代表する老舗の自転車卸会社であり、自転車ブランドのメーカでもある。昔から日本のサイクリストのために、より快適な自転車ライドに向けた商品を作り続けている。最近では日本人の体格に合わせたバイクフレームやハンドル、レバーなど”ジェイフィット”シリーズに力を入れている。それと同時に、小柄な人向けフレームのテスタッチ・ミニヨンや女性用のウエア・テリーの取り扱いや、オリジナルブランド・ロコゴワなどの商品に注力しているのも大きな特徴だ。
女性向けに企画されたグランジの輪行袋”キャリー”も人気だ。前後輪を外して横にバイクフレームを収納するキャリーは、簡単で持ちやすいトートバッグ型になっている。キャリーは15年ほど前、ひとりの女性が東京サンエスに持ってきた企画だった。その女性は土屋朋子さん。ツール・ド・フランスとの出逢いをきっかけに、日本のスポーツバイクの育成に尽力してきた。「ツール・ド・北海道」や「3day race 熊野」など、現在人気のレースの発起人の一人でもある。現在は秋田県の田沢湖を拠点に、女性にロードバイクに乗る楽しみを発信する”3W田沢湖”の活動を続けている。
そんな土屋さんのアイデアから始まったキャリーは、使いやすさから男女問わず絶大な人気を誇る。よりコンパクトなモデル・キャリーライト、サドル下に取り付けられるキャリーキャリーと種類も増えてきた。この夏発売予定の”オーキャリー”は大きなフレームにも対応した、キャリー4番目のモデルだ。輪行袋の老舗オーストリッチとのコラボモデルとなっている。土屋さんのアイデアを生かしながら、ユーザーの要望をフィードバックすることで進化し続けている。今回は、この日本の女性サイクリストの祖とも言える土屋さんに会いに、田沢湖に行ってきた。
田沢湖は東京から新幹線で約3時間弱。始発の6時32分発の秋田新幹線こまちに乗れば、9時20分には到着だ。早朝の東京駅は人もまばらで、輪行作業もゆっくりとできる。いつもの都会の喧騒とは違い、非日常の旅の始まりにはふさわしい。朝食用の駅弁を手に入れ、秋田新幹線こまちに乗り込む。
こまちはミニ新幹線とも呼ばれ、東海道新幹線などから比べると車両のサイズが小さい。中央の通路をはさみ、左右ともに2人掛けの座席が広がる。つまり最後尾のサイクリスト定番のスペースも小さめだ。キャリーならピッタリのサイズだが、左右に一台ずつが精一杯なので、大人数で乗るときには分散乗車するのがいいだろう。秋田新幹線や東北新幹線のはやて・はやぶさは全席指定で自由席がないのも注意したい点だ。
盛岡駅で東北新幹線と切り離された秋田新幹線こまちは、終点の秋田に向かって在来線の路線に入る。そのため新幹線とは思えないのんびりとしたスピードになり、時にはすれ違いのため停車したりもする。緑深い森の中をすり抜け、ガラス張りの現代的な田沢湖駅に到着だ。
土屋さんに出迎えられつつ、まずは土屋さんの田沢湖での活動拠点である”ホテル森の風田沢湖”へ向かう。こちらのホテルの奥に3W田沢湖の、言うならば”部室”があるのだ。到着してみるとカラフルなテリーのウエアに身を包んだ女性サイクリストたちが、それぞれ自転車の準備をしていた。”一緒に走りたい”と集まってくれたテリー好きの女性たちなのだという。「自立した女性サイクリストを育てたい」という土屋さんの思いそのままに、どの女性も自分で愛車のロードバイクをクルマから降ろし、組み立てている。
田沢湖は湖畔の道がフラットで、一周約22kmと初心者でも快適なコースだ。湖畔にアクセスする手前のゆるい勾配を越えると、真っ青な田沢湖が目の前に広がる。実は田沢湖は日本で最も水深の深い湖なのだ。その深さはなんと423m! そのため湖面は明るい翠色から藍色まで、場所や角度によって様々な景色を楽しませてくれる。
湖畔では湖水浴もさかんで、地元の人たちからも人気のスポットになっている。標高はわずか250mほどだが湖水が冷たいためか空気は涼しく、湖畔の道は木陰になっている場所も多くて快適なライドだ。
反時計回りでまずは御座石神社を目指す。ここは湖畔に東屋があり、道を挟んで土産物店もあるので休憩にはもってこいのポイントだ。華やかなテリーのウエアは、田沢湖のブルーや森の緑に映え、元気いっぱいだ。今回集まってくれた土屋さんの教え子の女性サイクリストは、千賀子さん、直美さん、恵子さん、淳子さん、さおりさんの5人。みなさん秋田市にお住まいのところ、1時間半ほどの道のりをクルマでわざわざ駆けつけてくれたのだ。
「ロードバイクに乗りたい」と土屋さんを訪ねてくる女性たちは、最初は東京や関東が中心だったが今では地元秋田が増えてきた。過去には82歳の女性からの申し込みもあったそうだ。そういう土屋さんも、今年で79歳。けれど長年のキャリアはごまかせない。アマンダ製のロードバイクに乗る姿は、美しくも力強い。
田沢湖で一番の観光スポット・辰子像前でみんなのロードバイクを並べて記念撮影し、郷土料理のみそたんぽが美味しいと評判の”たつこ茶屋”に向かう。たつこ茶屋のきりたんぽは、大ぶりのきりたんぽに味噌だれをつけたもの。食べ応えたっぷりのボリュームだが、一緒に焼かれていた美味しそうなイワナの炭火焼も捨てがたく、全員が両方を完食。みんなでワイワイ盛り上がりながら時間はあっという間に過ぎていった。たつこ茶屋の隣にはこの夏オープンしたての「田沢湖クニマス未来館」もある。
湖畔沿いには田畑が広がるエリアや、昔ながらの民家が軒を連ねるエリアも楽しめる。交通量が少ないのもサイクリストにはありがたい。湖畔をぐるっと走りつつ、一周回って”湖畔の杜レストラン・オラエ”でまたしても休憩。地元野菜が満載のピザを食べつつ、ガールズトークは尽きない。こういった休憩ポイントが多いのも田沢湖の魅力の一つだろう。
3W田沢湖のあるホテルに戻る途中には”山のはちみつ屋”にも立ち寄って、はちみつソフトクリームも堪能。さっぱりとした甘さのソフトクリームはやっぱり別腹の美味しさ!土屋さんの海外ツーリングの話や、当時は女性用のサドルがなくて苦労した話などで盛り上がる。自分でおしりから型をとって女性の骨盤でも痛くないサドルの模型を作ったりもしたそう。これは現在サンエスで発売されているグランジのFEMサドルの基礎になった。土屋さんのたゆまぬ努力が実を結んでいるのだ。
この日の夜は、秋田の古民家をリフォームして住んでいる土屋さんの家にお世話になることに。”ビッキ倶楽部”と称して、地元の活性化活動にも力を入れている。以前はこの古民家のお部屋で、クラッシックコンサートを開いたりと、パワフルに活動している。「ちょっと試してみなさいよ」と土屋さんの手ほどきを受けながら、薪割りに挑戦。なかなかこれが難しい! 「田沢湖は寒いし、一年の半分近くは雪に埋もれて自転車には乗れないの。だからこそ春が来て自転車に乗れることが、すっごく嬉しいし素晴らしく感じるのよ」と笑う顔は晴れやかだ。
2日目からは二人旅。田沢湖を半周して、辰子像のすぐそばから県道60号線で角館を目指す。約30kmの道のりだけど、下り基調なのでのんびりとした道行きだ。途中の産直市場”むらっこ物産館”で郷土菓子のおやきと、なると餅で小休止。何もかもが新鮮に見えるのも、旅の醍醐味だ。
田沢湖から下って秋田内陸鉄道にぶつかると、広大な田園地帯となる。米どころ秋田を実感する。民家を囲む屋敷林に田んぼの真ん中に祀られたお社など、見るもの全てが刺激的だ。でもほんのちょっとしか下っていないのに、角館に入ったらとたんに暑い。
とある集落の町角で、秋田名物の”ババヘラアイス”を発見! おばちゃんがヘラで器用にアイスをバラの形に盛ってくれる、ご当地アイス。アイスというよりシャーベットのようなさっぱりとした味で、夏の暑さの中でも食べやすい。
”みちのくの小京都”と呼ばれる角館では、新緑の美しい武家屋敷通りをポタリング。枝垂桜が多く、春の桜の季節にまた来たい、と心から思う。嘉永6年創業という安藤醸造元でお土産の味噌を購入。座敷蔵もある明治時代の建物がそのままお店になっているので、必見だ。のんびり角館の街を観光したら、あとは角館駅から輪行して秋田新幹線に飛び乗れば、3時間後には東京の日常世界へ戻ってしまう。
自然溢れる田沢湖と、豊かな田園、そして文化溢れる角館と、味わい深い風情がギュッと詰まった今回のコース。純粋で彩り滋味豊かな秋田の女性サイクリストのパワーを感じられるライドとなった。今後もサンエス・ウィメンズ・ライドとして、各地のパワフルなサイクリングウーマンを訪ねる旅をしていきたい、と思える印象深い2日間だった。
text&photo:Yuka.Kani
創業から90年。東京サンエスは日本を代表する老舗の自転車卸会社であり、自転車ブランドのメーカでもある。昔から日本のサイクリストのために、より快適な自転車ライドに向けた商品を作り続けている。最近では日本人の体格に合わせたバイクフレームやハンドル、レバーなど”ジェイフィット”シリーズに力を入れている。それと同時に、小柄な人向けフレームのテスタッチ・ミニヨンや女性用のウエア・テリーの取り扱いや、オリジナルブランド・ロコゴワなどの商品に注力しているのも大きな特徴だ。
女性向けに企画されたグランジの輪行袋”キャリー”も人気だ。前後輪を外して横にバイクフレームを収納するキャリーは、簡単で持ちやすいトートバッグ型になっている。キャリーは15年ほど前、ひとりの女性が東京サンエスに持ってきた企画だった。その女性は土屋朋子さん。ツール・ド・フランスとの出逢いをきっかけに、日本のスポーツバイクの育成に尽力してきた。「ツール・ド・北海道」や「3day race 熊野」など、現在人気のレースの発起人の一人でもある。現在は秋田県の田沢湖を拠点に、女性にロードバイクに乗る楽しみを発信する”3W田沢湖”の活動を続けている。
そんな土屋さんのアイデアから始まったキャリーは、使いやすさから男女問わず絶大な人気を誇る。よりコンパクトなモデル・キャリーライト、サドル下に取り付けられるキャリーキャリーと種類も増えてきた。この夏発売予定の”オーキャリー”は大きなフレームにも対応した、キャリー4番目のモデルだ。輪行袋の老舗オーストリッチとのコラボモデルとなっている。土屋さんのアイデアを生かしながら、ユーザーの要望をフィードバックすることで進化し続けている。今回は、この日本の女性サイクリストの祖とも言える土屋さんに会いに、田沢湖に行ってきた。
田沢湖は東京から新幹線で約3時間弱。始発の6時32分発の秋田新幹線こまちに乗れば、9時20分には到着だ。早朝の東京駅は人もまばらで、輪行作業もゆっくりとできる。いつもの都会の喧騒とは違い、非日常の旅の始まりにはふさわしい。朝食用の駅弁を手に入れ、秋田新幹線こまちに乗り込む。
こまちはミニ新幹線とも呼ばれ、東海道新幹線などから比べると車両のサイズが小さい。中央の通路をはさみ、左右ともに2人掛けの座席が広がる。つまり最後尾のサイクリスト定番のスペースも小さめだ。キャリーならピッタリのサイズだが、左右に一台ずつが精一杯なので、大人数で乗るときには分散乗車するのがいいだろう。秋田新幹線や東北新幹線のはやて・はやぶさは全席指定で自由席がないのも注意したい点だ。
盛岡駅で東北新幹線と切り離された秋田新幹線こまちは、終点の秋田に向かって在来線の路線に入る。そのため新幹線とは思えないのんびりとしたスピードになり、時にはすれ違いのため停車したりもする。緑深い森の中をすり抜け、ガラス張りの現代的な田沢湖駅に到着だ。
土屋さんに出迎えられつつ、まずは土屋さんの田沢湖での活動拠点である”ホテル森の風田沢湖”へ向かう。こちらのホテルの奥に3W田沢湖の、言うならば”部室”があるのだ。到着してみるとカラフルなテリーのウエアに身を包んだ女性サイクリストたちが、それぞれ自転車の準備をしていた。”一緒に走りたい”と集まってくれたテリー好きの女性たちなのだという。「自立した女性サイクリストを育てたい」という土屋さんの思いそのままに、どの女性も自分で愛車のロードバイクをクルマから降ろし、組み立てている。
田沢湖は湖畔の道がフラットで、一周約22kmと初心者でも快適なコースだ。湖畔にアクセスする手前のゆるい勾配を越えると、真っ青な田沢湖が目の前に広がる。実は田沢湖は日本で最も水深の深い湖なのだ。その深さはなんと423m! そのため湖面は明るい翠色から藍色まで、場所や角度によって様々な景色を楽しませてくれる。
湖畔では湖水浴もさかんで、地元の人たちからも人気のスポットになっている。標高はわずか250mほどだが湖水が冷たいためか空気は涼しく、湖畔の道は木陰になっている場所も多くて快適なライドだ。
反時計回りでまずは御座石神社を目指す。ここは湖畔に東屋があり、道を挟んで土産物店もあるので休憩にはもってこいのポイントだ。華やかなテリーのウエアは、田沢湖のブルーや森の緑に映え、元気いっぱいだ。今回集まってくれた土屋さんの教え子の女性サイクリストは、千賀子さん、直美さん、恵子さん、淳子さん、さおりさんの5人。みなさん秋田市にお住まいのところ、1時間半ほどの道のりをクルマでわざわざ駆けつけてくれたのだ。
「ロードバイクに乗りたい」と土屋さんを訪ねてくる女性たちは、最初は東京や関東が中心だったが今では地元秋田が増えてきた。過去には82歳の女性からの申し込みもあったそうだ。そういう土屋さんも、今年で79歳。けれど長年のキャリアはごまかせない。アマンダ製のロードバイクに乗る姿は、美しくも力強い。
田沢湖で一番の観光スポット・辰子像前でみんなのロードバイクを並べて記念撮影し、郷土料理のみそたんぽが美味しいと評判の”たつこ茶屋”に向かう。たつこ茶屋のきりたんぽは、大ぶりのきりたんぽに味噌だれをつけたもの。食べ応えたっぷりのボリュームだが、一緒に焼かれていた美味しそうなイワナの炭火焼も捨てがたく、全員が両方を完食。みんなでワイワイ盛り上がりながら時間はあっという間に過ぎていった。たつこ茶屋の隣にはこの夏オープンしたての「田沢湖クニマス未来館」もある。
湖畔沿いには田畑が広がるエリアや、昔ながらの民家が軒を連ねるエリアも楽しめる。交通量が少ないのもサイクリストにはありがたい。湖畔をぐるっと走りつつ、一周回って”湖畔の杜レストラン・オラエ”でまたしても休憩。地元野菜が満載のピザを食べつつ、ガールズトークは尽きない。こういった休憩ポイントが多いのも田沢湖の魅力の一つだろう。
3W田沢湖のあるホテルに戻る途中には”山のはちみつ屋”にも立ち寄って、はちみつソフトクリームも堪能。さっぱりとした甘さのソフトクリームはやっぱり別腹の美味しさ!土屋さんの海外ツーリングの話や、当時は女性用のサドルがなくて苦労した話などで盛り上がる。自分でおしりから型をとって女性の骨盤でも痛くないサドルの模型を作ったりもしたそう。これは現在サンエスで発売されているグランジのFEMサドルの基礎になった。土屋さんのたゆまぬ努力が実を結んでいるのだ。
この日の夜は、秋田の古民家をリフォームして住んでいる土屋さんの家にお世話になることに。”ビッキ倶楽部”と称して、地元の活性化活動にも力を入れている。以前はこの古民家のお部屋で、クラッシックコンサートを開いたりと、パワフルに活動している。「ちょっと試してみなさいよ」と土屋さんの手ほどきを受けながら、薪割りに挑戦。なかなかこれが難しい! 「田沢湖は寒いし、一年の半分近くは雪に埋もれて自転車には乗れないの。だからこそ春が来て自転車に乗れることが、すっごく嬉しいし素晴らしく感じるのよ」と笑う顔は晴れやかだ。
2日目からは二人旅。田沢湖を半周して、辰子像のすぐそばから県道60号線で角館を目指す。約30kmの道のりだけど、下り基調なのでのんびりとした道行きだ。途中の産直市場”むらっこ物産館”で郷土菓子のおやきと、なると餅で小休止。何もかもが新鮮に見えるのも、旅の醍醐味だ。
田沢湖から下って秋田内陸鉄道にぶつかると、広大な田園地帯となる。米どころ秋田を実感する。民家を囲む屋敷林に田んぼの真ん中に祀られたお社など、見るもの全てが刺激的だ。でもほんのちょっとしか下っていないのに、角館に入ったらとたんに暑い。
とある集落の町角で、秋田名物の”ババヘラアイス”を発見! おばちゃんがヘラで器用にアイスをバラの形に盛ってくれる、ご当地アイス。アイスというよりシャーベットのようなさっぱりとした味で、夏の暑さの中でも食べやすい。
”みちのくの小京都”と呼ばれる角館では、新緑の美しい武家屋敷通りをポタリング。枝垂桜が多く、春の桜の季節にまた来たい、と心から思う。嘉永6年創業という安藤醸造元でお土産の味噌を購入。座敷蔵もある明治時代の建物がそのままお店になっているので、必見だ。のんびり角館の街を観光したら、あとは角館駅から輪行して秋田新幹線に飛び乗れば、3時間後には東京の日常世界へ戻ってしまう。
自然溢れる田沢湖と、豊かな田園、そして文化溢れる角館と、味わい深い風情がギュッと詰まった今回のコース。純粋で彩り滋味豊かな秋田の女性サイクリストのパワーを感じられるライドとなった。今後もサンエス・ウィメンズ・ライドとして、各地のパワフルなサイクリングウーマンを訪ねる旅をしていきたい、と思える印象深い2日間だった。
text&photo:Yuka.Kani
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