2017/06/14(水) - 09:03
日本中のヒルクライマーから人気を集めるMt.富士ヒルクライム。ついに参加者数1万名の大台を突破する唯一無二のヒルクライムレースとなった、第14回大会の様子をお届けしましょう。
日本を代表する名峰、富士山。世界遺産にも登録され、国際的にも日本の象徴として知られる存在だ。そんな富士山を登る車道の内、山梨県側に位置するスバルラインを全面規制して行われる自転車レースが富士ヒルクライムだ。現在のヒルクライムレースブームの火付け役とも言える存在で、遂に今年で14年目を迎えることとなった老舗イベントである。
昨年段階で、8,500人と国内のサイクルイベントとしては屈指の参加人数を誇っていた富士ヒルクライムだが、今年はついに1万人の大台に。国内のワンデイレースイベントとして、押しも押されぬ最大規模の大会として開催されることとなった。会場となる富士北麓公園には、日本全国から、そして海を越えた台湾からもサイクリストが集まった。
今年は、会場となる富士北麓公園の陸上競技場がフランス代表の合宿地となるための整備工事を行っており、昨年までの会場レイアウトが大幅に変更されることに。大会受付やステージなどは、北麓公園の大駐車場へと場所を移すこととなった。受付日となる大会前日の目玉である「サイクルエキスポ」も新レイアウトに。
新しいレイアウトでは、バイクやパーツブランドがぎゅっと集まり、より密度の高い空間で、心行くまで新型バイクやパーツの展示や販売、試乗などを楽しむことが出来るように。ステージでは豪華ゲスト陣によるトークショーや、コース攻略講座といった様々なイベントも行われ、明日のレースに向けて会場のボルテージはどんどん上がっていく。雨の心配も少ない天気予報で、絶好のヒルクライム日和となりそうだという期待を胸に、参加者たちはいったんそれぞれの宿へと戻っていく。
明くる朝、まだ空も白み始める前の午前4時に各駐車場がオープンする。駐車場オープンと同時になだれ込んでくる気合の入った参加者も多く、真っ暗な中でいそいそと準備を始める。下山用の荷物を大会前日に受け取った袋へと入れ、いざ富士北麓公園へ。
太陽が昇り、明るくなってくる5時頃には北麓公園へ次から次へとサイクリストたちが集まってくる。1万人という規模の増加と、会場レイアウトの変更によって荷物預けが混雑する一幕もあり、スタート時刻が10分繰り下げられることに。ゲストライダーの日向涼子さんや片山右京さん、今中大介さんらの挨拶が終われば、いよいよ「主催者選抜」クラスがスタート。
改めて説明しておくと、主催者選抜クラスとは2014年から始まったクラスで、全参加者の中から富士ヒルクライムの過去の戦績や他の主要市民レースなどの成績によって、主催者が選抜した選手のみが出走できるカテゴリーだ。他大会で一般的な自己申告制によるチャンピオンクラスなどとは異なり、一定の脚力を持ったレーサーのみが走ることが許される。
今年は、昨年の優勝者であり富士ヒルクライムのコースレコードを持つ「山の神」こと森本誠さん、昨年2位に入った兼松大和さんらをはじめ、他のヒルクライムやロードレースで実績を残してきたまさにエリートホビーライダー46名がスタートラインに集まった。
7時10分にスタートした主催者選抜クラスに続いては女子クラスがスタート。600人以上の女性サイクリストが集まるレースは、日本中探してもここだけだろう。その後、5分間隔で男子クラスが事前に申告した予想タイム順にスタートを切っていく。ちなみに最終組のスタートまで1時間45分かかる為、先頭がフィニッシュしているころ、スタート地点では続々と選手たちがスタートしている計算になる。まさに、5合目までが自転車乗りで埋め尽くされる一日となるのだ。
さて、スバルラインは全長24kmで標高差1,255m、平均斜度は5.2%、最大でも7.8%とかなり緩やかなコースプロファイル。計測が始まるのは料金所手前の胎内交差点からを左折した先となっており、そこまでは各スタートブロックごとに先導車が付き、ニュートラル走行となる。
料金所を過ぎ、しばらく行くと富士ヒルクライム名物となったチアリーダー&地元の方の応援が。セクシーなチアリーダーたちと、富士山の被り物と水玉ウェアを身にまとった地元の方々の応援で、少し疲れ始めてきた脚にもう一度元気を充填して登っていく。
コース上にはフィニッシュのほかに10.5km地点の樹海台駐車場と、17.2km地点の大沢駐車場の2つの関門が設けられているが、制限時間にはかなりの余裕があるので、パンクなどのトラブルが無い限りは完走することができるはずだ。給水所も兼ねているので、水が足りなくなった人は補給してもらえるのも嬉しいポイント。25kmとかなり距離が長く、人によっては2時間以上も走り続けることになるため、補給食も持っていくと良いだろう。
コースも終盤となってきたころに現れる4合目の大沢駐車場では、和太鼓による応援がそろそろ脚も限界に近付いてきた参加者たちの背中を押してくれる。ここまでくれば、5合目まではもう一息だ。19km地点に置かれた「ここからもがけ!」の看板から始まる1kmの山岳スプリット区間、そしてその先の奥庭山荘の直登をこなせばほぼ登り切ったも同然。
森林限界を越えて視界が広がるとともに一気に斜度が緩くなる。ここまで雲の中に姿を隠していた富士山もその姿を現し、ここまで苦しめられてきた風も追い風に。空気が薄いのか、例年速度に乗せやすい平坦区間だが、今年は強烈な追い風のおかげで、よりハイスピードな区間になっていた。
平坦区間に現れるのはいくつかのスノーシェッド。3つほどのそれをくぐり抜けると、最後に現れるのが、ゴール前の直登区間だ。平坦区間で踏み切った脚をだましだまし登っていくのもいいし、この最後の坂に備えて足を溜めておくのもいいだろう。とにかくこの坂をもがき切ればフィニッシュだ。
今年は強風の影響もあり、フィニッシュゲートは設営されなかったものの、フィニッシュエリアの賑わいは昨年以上。普段は登山客で賑わう五合目だが、この日ばかりは地面が見えないほどのサイクリスト達で埋め尽くされる。
下山用の防寒具を詰め込んだバッグを受け取った後は、五合目名物の「富士山メロンパン」の行列に並ぶ人や、食堂で昼食とする人、富士山をバックに記念撮影をする人など、それぞれの方法で登り切った達成感を噛みしめたら、後は下山するだけだ。
下山グループには、先導車と一般参加者から公募した「下山パトロール隊」が各グループについて安全に注意しながら下っていく。下山誘導は、ずっとブレーキを握ってないといけないようなノロノロとした速度ではなく、ある程度のスピードで下っていくため、非力な女性や初心者でもブレーキを握りっぱなしで握力がなくなるということもない。途中、登ってくる参加者と下る参加者の混淆を防ぐためにカラーコーンが設置されている箇所もあるが、中央線よりにも下山パトロール隊が配置されており、注意を促してくれる。
そして、無事にメイン会場まで下り終えた参加者たちを待っているのは、富士吉田の名物「吉田うどん」。コシの強い独特の麺が特徴の吉田うどん、参加者の中には「このうどんのために来てます!」という人がいるくらいの人気メニューでもあるのだ。
参加者は1杯目は無料で振舞われる。まだ足りない!という人には2杯目以降も300円でいただくこと出来るようになっており、下山で冷えた身体にはとても嬉しい一品だ。
一方、メインステージでは表彰式が行われ、各部門の入賞者にチャンピオンジャージや地元産のフルーツなど多くの副賞が贈られた。今年の選抜クラスを制したのは兼松大和選手。昨年に森本選手が実現したコースレコード58分31秒を大幅に上回る58分2秒という記録を叩き出した。ついに、前人未到の57分台が見える好結果に大会MCの絹代さんも興奮を隠せない様子での表彰式に。
「とにかく、去年の雪辱を晴らしたかったんです!スプリントであっさり負けてしまった去年の反省を活かした練習を積んできたので、報われました」と兼松さん。展開については、「今年は逃げ切れるような雰囲気ではなかったので、脚の削り合いになりそうだなと。3合目からの向かい風区間では、脚を溜めてゴール勝負に備えていました。奥庭の登りで森本さんがアタックして、50mほど離れたんです。もともと、森本さんは絶対にどこかでアタックを仕掛けると思っていたので、対応もシミュレートしていました。
もし、複数の逃げになりそうならすかさずチェックに入る。単独なら集団で回しながら追いかけるというように決めていた。なので、平坦区間に入ってすぐ『絶対に追いつくから回すぞ!』と声を掛けてローテーション。ラストのトンネルでもう一度発破をかけたら『もう無理!』と田中さんが言うので、そこからは単独で森本さんにブリッジをかけました。森本さんが一人で逃げてきた区間を3人で回してきたのだから、絶対に自分のほうが有利なはずだと確信して、先行してスプリント。森本さんが右側の下山用レーンでフィニッシュするハプニングもありましたが、勝てて良かったです」と過去最速のレースを振り返った。
1万人を超える参加者数と、58分2秒というフィニッシュタイム。14回開催にして、過去の記録を大幅に塗り替えることとなったMt.富士ヒルクライムは、これからも日本を代表するヒルクライムイベントとして、大きな存在感を持つ大会であり続けるだろう。
text&photo:Naoki.YASUOKA
日本を代表する名峰、富士山。世界遺産にも登録され、国際的にも日本の象徴として知られる存在だ。そんな富士山を登る車道の内、山梨県側に位置するスバルラインを全面規制して行われる自転車レースが富士ヒルクライムだ。現在のヒルクライムレースブームの火付け役とも言える存在で、遂に今年で14年目を迎えることとなった老舗イベントである。
昨年段階で、8,500人と国内のサイクルイベントとしては屈指の参加人数を誇っていた富士ヒルクライムだが、今年はついに1万人の大台に。国内のワンデイレースイベントとして、押しも押されぬ最大規模の大会として開催されることとなった。会場となる富士北麓公園には、日本全国から、そして海を越えた台湾からもサイクリストが集まった。
今年は、会場となる富士北麓公園の陸上競技場がフランス代表の合宿地となるための整備工事を行っており、昨年までの会場レイアウトが大幅に変更されることに。大会受付やステージなどは、北麓公園の大駐車場へと場所を移すこととなった。受付日となる大会前日の目玉である「サイクルエキスポ」も新レイアウトに。
新しいレイアウトでは、バイクやパーツブランドがぎゅっと集まり、より密度の高い空間で、心行くまで新型バイクやパーツの展示や販売、試乗などを楽しむことが出来るように。ステージでは豪華ゲスト陣によるトークショーや、コース攻略講座といった様々なイベントも行われ、明日のレースに向けて会場のボルテージはどんどん上がっていく。雨の心配も少ない天気予報で、絶好のヒルクライム日和となりそうだという期待を胸に、参加者たちはいったんそれぞれの宿へと戻っていく。
明くる朝、まだ空も白み始める前の午前4時に各駐車場がオープンする。駐車場オープンと同時になだれ込んでくる気合の入った参加者も多く、真っ暗な中でいそいそと準備を始める。下山用の荷物を大会前日に受け取った袋へと入れ、いざ富士北麓公園へ。
太陽が昇り、明るくなってくる5時頃には北麓公園へ次から次へとサイクリストたちが集まってくる。1万人という規模の増加と、会場レイアウトの変更によって荷物預けが混雑する一幕もあり、スタート時刻が10分繰り下げられることに。ゲストライダーの日向涼子さんや片山右京さん、今中大介さんらの挨拶が終われば、いよいよ「主催者選抜」クラスがスタート。
改めて説明しておくと、主催者選抜クラスとは2014年から始まったクラスで、全参加者の中から富士ヒルクライムの過去の戦績や他の主要市民レースなどの成績によって、主催者が選抜した選手のみが出走できるカテゴリーだ。他大会で一般的な自己申告制によるチャンピオンクラスなどとは異なり、一定の脚力を持ったレーサーのみが走ることが許される。
今年は、昨年の優勝者であり富士ヒルクライムのコースレコードを持つ「山の神」こと森本誠さん、昨年2位に入った兼松大和さんらをはじめ、他のヒルクライムやロードレースで実績を残してきたまさにエリートホビーライダー46名がスタートラインに集まった。
7時10分にスタートした主催者選抜クラスに続いては女子クラスがスタート。600人以上の女性サイクリストが集まるレースは、日本中探してもここだけだろう。その後、5分間隔で男子クラスが事前に申告した予想タイム順にスタートを切っていく。ちなみに最終組のスタートまで1時間45分かかる為、先頭がフィニッシュしているころ、スタート地点では続々と選手たちがスタートしている計算になる。まさに、5合目までが自転車乗りで埋め尽くされる一日となるのだ。
さて、スバルラインは全長24kmで標高差1,255m、平均斜度は5.2%、最大でも7.8%とかなり緩やかなコースプロファイル。計測が始まるのは料金所手前の胎内交差点からを左折した先となっており、そこまでは各スタートブロックごとに先導車が付き、ニュートラル走行となる。
料金所を過ぎ、しばらく行くと富士ヒルクライム名物となったチアリーダー&地元の方の応援が。セクシーなチアリーダーたちと、富士山の被り物と水玉ウェアを身にまとった地元の方々の応援で、少し疲れ始めてきた脚にもう一度元気を充填して登っていく。
コース上にはフィニッシュのほかに10.5km地点の樹海台駐車場と、17.2km地点の大沢駐車場の2つの関門が設けられているが、制限時間にはかなりの余裕があるので、パンクなどのトラブルが無い限りは完走することができるはずだ。給水所も兼ねているので、水が足りなくなった人は補給してもらえるのも嬉しいポイント。25kmとかなり距離が長く、人によっては2時間以上も走り続けることになるため、補給食も持っていくと良いだろう。
コースも終盤となってきたころに現れる4合目の大沢駐車場では、和太鼓による応援がそろそろ脚も限界に近付いてきた参加者たちの背中を押してくれる。ここまでくれば、5合目まではもう一息だ。19km地点に置かれた「ここからもがけ!」の看板から始まる1kmの山岳スプリット区間、そしてその先の奥庭山荘の直登をこなせばほぼ登り切ったも同然。
森林限界を越えて視界が広がるとともに一気に斜度が緩くなる。ここまで雲の中に姿を隠していた富士山もその姿を現し、ここまで苦しめられてきた風も追い風に。空気が薄いのか、例年速度に乗せやすい平坦区間だが、今年は強烈な追い風のおかげで、よりハイスピードな区間になっていた。
平坦区間に現れるのはいくつかのスノーシェッド。3つほどのそれをくぐり抜けると、最後に現れるのが、ゴール前の直登区間だ。平坦区間で踏み切った脚をだましだまし登っていくのもいいし、この最後の坂に備えて足を溜めておくのもいいだろう。とにかくこの坂をもがき切ればフィニッシュだ。
今年は強風の影響もあり、フィニッシュゲートは設営されなかったものの、フィニッシュエリアの賑わいは昨年以上。普段は登山客で賑わう五合目だが、この日ばかりは地面が見えないほどのサイクリスト達で埋め尽くされる。
下山用の防寒具を詰め込んだバッグを受け取った後は、五合目名物の「富士山メロンパン」の行列に並ぶ人や、食堂で昼食とする人、富士山をバックに記念撮影をする人など、それぞれの方法で登り切った達成感を噛みしめたら、後は下山するだけだ。
下山グループには、先導車と一般参加者から公募した「下山パトロール隊」が各グループについて安全に注意しながら下っていく。下山誘導は、ずっとブレーキを握ってないといけないようなノロノロとした速度ではなく、ある程度のスピードで下っていくため、非力な女性や初心者でもブレーキを握りっぱなしで握力がなくなるということもない。途中、登ってくる参加者と下る参加者の混淆を防ぐためにカラーコーンが設置されている箇所もあるが、中央線よりにも下山パトロール隊が配置されており、注意を促してくれる。
そして、無事にメイン会場まで下り終えた参加者たちを待っているのは、富士吉田の名物「吉田うどん」。コシの強い独特の麺が特徴の吉田うどん、参加者の中には「このうどんのために来てます!」という人がいるくらいの人気メニューでもあるのだ。
参加者は1杯目は無料で振舞われる。まだ足りない!という人には2杯目以降も300円でいただくこと出来るようになっており、下山で冷えた身体にはとても嬉しい一品だ。
一方、メインステージでは表彰式が行われ、各部門の入賞者にチャンピオンジャージや地元産のフルーツなど多くの副賞が贈られた。今年の選抜クラスを制したのは兼松大和選手。昨年に森本選手が実現したコースレコード58分31秒を大幅に上回る58分2秒という記録を叩き出した。ついに、前人未到の57分台が見える好結果に大会MCの絹代さんも興奮を隠せない様子での表彰式に。
「とにかく、去年の雪辱を晴らしたかったんです!スプリントであっさり負けてしまった去年の反省を活かした練習を積んできたので、報われました」と兼松さん。展開については、「今年は逃げ切れるような雰囲気ではなかったので、脚の削り合いになりそうだなと。3合目からの向かい風区間では、脚を溜めてゴール勝負に備えていました。奥庭の登りで森本さんがアタックして、50mほど離れたんです。もともと、森本さんは絶対にどこかでアタックを仕掛けると思っていたので、対応もシミュレートしていました。
もし、複数の逃げになりそうならすかさずチェックに入る。単独なら集団で回しながら追いかけるというように決めていた。なので、平坦区間に入ってすぐ『絶対に追いつくから回すぞ!』と声を掛けてローテーション。ラストのトンネルでもう一度発破をかけたら『もう無理!』と田中さんが言うので、そこからは単独で森本さんにブリッジをかけました。森本さんが一人で逃げてきた区間を3人で回してきたのだから、絶対に自分のほうが有利なはずだと確信して、先行してスプリント。森本さんが右側の下山用レーンでフィニッシュするハプニングもありましたが、勝てて良かったです」と過去最速のレースを振り返った。
1万人を超える参加者数と、58分2秒というフィニッシュタイム。14回開催にして、過去の記録を大幅に塗り替えることとなったMt.富士ヒルクライムは、これからも日本を代表するヒルクライムイベントとして、大きな存在感を持つ大会であり続けるだろう。
text&photo:Naoki.YASUOKA
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