2016/12/15(木) - 16:48
ブラドレー・ウィギンズやクリス・フルームらによって、チーム設立以来4度のマイヨジョーヌを獲得してきたチームスカイ。2013年から同チームをアパレルスポンサーとして支えてきたラファのサイモン・モットラムCEOが語る、スカイと歩んだ4年間。
来日したサイモン・モットラムCEOがチームスカイと過ごした4年について語った photo:Satoshi Fukuda
ー2013年よりチームスカイへスポンサードをはじめ、4年の契約期間を満了したことになりますが、まずはスカイをサポートすることに至ったいきさつを教えてください。
そう、スカイとスポンサーとして関わってきたのは2013年、ウィギンズがツールを勝った次の年からになる。でも、実際のところ、チーム結成時から打診はあったんだ。チームGMの(ディヴィッド)ブレイルスフォードや、チームのブランディングを担当しているフラン・ミラー(デイヴィッド・ミラーの姉)とは長い関係なんだ。
チームスカイを作り上げたキーマンであるデイブ・ブレイルスフォードGM (c)Makoto.AYANO
チームのロゴやオフィシャルサイトのデザインにラファとの類似性を感じる人もいたと思う。それは、ブレイスルフォードとは2009年頃から、ずっとチームのブランディングについてのミーティングを続けていたし、デザイナーを紹介したりもしていたからなんだ。自然な流れで、スポンサードの話も出たんだけれど、当時の会社は年商15億程度でとてもプロツアーチームをサポートするだけの余裕が無かった。2013年まで、契約を結ぶことが無かったのは資金的な問題が大きいね。
ーそこから4年間、スカイと歩んできた中で得たものは。
チームが得たものもあれば、私たちが得たものもあるけれど、大きく言えばお互いが周りから誤解されていた部分、あるいは知られていなかった姿を表現することが出来た4年間だったと思っているよ。
スカイに供給を始めた2013年頃、ラファというブランドに対するイメージは「クラシック」や「レトロ」といったキーワードと一緒に語られることが多かった。実際、メリノウールを使用した製品が多かったし化学繊維をメインに使ったプロダクトは少なかったから、そういった印象で語られる事は仕方なかった。でも、レーシーでハイテクなウエアを作っているという自信もあった。
一方、チームスカイはチームスカイで、とても強いチームだけど、効率至上主義でシステマチック、勝利のためには手段を選ばず、選手の個性なんて二の次のサイボーグ軍団、みたいに思っているレースファンも多かっただろう。でも実際の選手たちは、個性豊かで自転車を愛してやまないナイスガイ達なんだ。
「チームとラファがパートナーシップを組んだことはとても面白いマッチングだった」と語るサイモン・モットラムCEO photo:Satoshi Fukuda
チームとラファがパートナーシップを組んだことはとても面白いマッチングだった。この4年間で、ラファはトップレースで活躍するテクニカルブランドとしての側面がより強く認知されてきたし、スカイはブランディングやマーケティング、そしてイベントを開催することでファンとの接点が増え、選手たちの人間味がみんなに伝わってきたと思う。
4年前は、ラファというブランドのファン達とチームスカイを応援するファン達は、あまり重なり合う事は無かったはず。でも今は多くのチームスカイファンはラファを着ているし、ラファのファン達がフルームを応援している。これはとっても革新的なことだよ。
ー確かに日本でもこの4年間でラファのファンはとても増えたと感じます。数年前は知る人ぞ知るエンスーなブランドだったと思いますが、今は多くのライダー、そしてロードレースファンたちが愛用しています。イベントやレース会場でラファを見ない日はありません。なにかラファとしての特別な取り組みはありましたか。
ジャパンカップ2016にて、スカイカラーのウエアで応援する photo:Yuya.Yamamoto
Rapha Team Sky Supporter T-Shirt (c)Rapha.cc
ジャパンカップ終了後も気さくにファンと交流する選手たち photo:Rapha Japan
ファンとの距離を縮めるという意味においてプロチーム、とくにワールドチームはもっと柔軟になっても良いと感じている。例えば、去年の7月にトム・シンプソンの世界選手権優勝50周年を記念するジャージを発表したんだ。シンプソンはイギリスのロードレースファンにとっては大切な選手で、モン・ヴァントゥでの劇的な最期はとてもドラマチックだった。そのジャージをツアーオブブリテンでチームウィギンズが着て走ってくれた。もちろんUCIのルールに定められた罰金を払ってね(笑)
派手なプロモーションを仕掛けるのでなくて、特別な選手を記念するために、特別な事をするような企画をスカイともやっていきたかった。そういう意味において、この4年間でスカイとやりたかった事が100%出来たわけではないんだ。正直、半分くらいの達成率だったとも思える。
トム・シンプソンの世界選手権制覇50年を記念するスペシャルジャージを着るブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームウィギンズ) photo:Kei Tsuji
逆にウィギンズはこういった企画に積極的で、声を掛ければ「良いね!やろうよ!」とどんどん進んでいく。しかも「こんなブランドは他にはない、だからこそラファとタッグを組んでいるんだ」といろんなところで発信してくれる。契約金以外の価値をしっかりと理解し認識してくれる選手だから、今でも関係が続いているんだ。
ーやはりウィギンズは特別な存在ですか。
サイモンCEOが「特別な存在」だと語るブラドレー・ウィギンズ photo:CorVos
チームスカイでのラストレースとなった昨年のパリ~ルーベを走るブラドレー・ウィギンズ photo:Tim de Waeleそうだね、プロトン全てを見渡しても彼の様な選手は見当たらない。ウィギンズはとても正直で自分をストレートに表現してくれるんだ。彼が発信するものは、みんなが期待するような「ツール優勝者」ではなくて、一人のパーソナリティとしての彼自身なんだ。その人間味がとてもリアルで、ユニークなんだ。しかも、速くて成績を残すというんだから、本当に特別な存在だよ。
といっても、彼だけが特別に面白い人格を持っている、というわけでもないんだ。プロトンを走る選手たちというのは、皆それぞれが特別なストーリーを持っている。ひとりひとりと打ち解け、彼らが考えていること、感じた事を聞くと、どの選手もとびきりユニークな人間なんだ。でも、そういった面を見せる事は滅多にない。レースで結果を残せばいい、というスタンスの選手が多いんだ。
プロトンの皆がサングラスを掛けて、どこを見ているかもわからない。そんな時代に、自分の感情、本音を見せてくれるのはウィギンスだけ。
ー少し前に来日する予定があったのですが、急きょキャンセルになってしまいました。また日本に来てくれるといいのですが。
サイクルモードはちょっとタイミングが悪かったね。来年に向けてウィギンズとは色々な話をしているんだけど、日本に来てくれる可能性はあると思う。ウィギンズとコラボレートして、子供たちをターゲットにしたプロジェクトを進めているんだ。競技やレースを抜きにして、純粋に子供たちに自転車を好きになってもらうためのプロジェクトなんだけど、全世界的に展開していく予定だから、ぜひ日本でもやりたいね。
ー現在のスカイのエースであるフルームはどういった選手ですか
ツール・ド・フランス2016最終ステージ チームメイトと喜びをわかちあうクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto.AYANO
ツール・ド・フランス2016第12ステージ 壊れたバイクをもって走るフルーム 勝利への渇望が垣間見えた瞬間だ photo:TDWsport/Kei Tsuji先に言った事に重なるのだけど、今の自転車レース界、ワールドチームがやらなければいけないのに、出来ない事の象徴のような存在がフルームだと思っている。これは誤解しないでほしいんだけど、決して彼を貶しているのではない。フルーム自身はとってもナイスガイなんだ。
誰よりもストイックで、負けず嫌い。自転車競技に対して最も真摯に取り組んでいる選手で、ライバル達に勝つためには努力を厭わない。そんな強烈な個性を持った選手なんだけれど、なかなか彼のそういった面というのは見えてこない。メディアもあまりそういった側面を取り上げることは無いし、本人も発信しない。
とても人間的な魅力に溢れている選手なんだけど、彼のそういった面を普通のファンが知る機会というのはほとんど無い。そういった素顔を知ることが出来れば、フルームのファンはもっと増えるだろうし、彼にインスパイアされた人が、何か素晴らしいアクションを起こすかもしれない。きっと素晴らしい事が起きると思うけれど、現状ではそうはなっていない。
ーそう聞くと、とても勿体ない事だと思います。
プロトンというのは、沢山のフルームの集合体なんだ。とてもユニークな人々が集まっているのだけれど、その本当の姿が出ることが無い。彼らの持つストーリーに光をあてて、ファン達に伝えていきたい。チームスカイを通して、ワールドチームに関わった4年間で、そう強く感じたよ。
interview:Naoki.YASUOKA

ー2013年よりチームスカイへスポンサードをはじめ、4年の契約期間を満了したことになりますが、まずはスカイをサポートすることに至ったいきさつを教えてください。
そう、スカイとスポンサーとして関わってきたのは2013年、ウィギンズがツールを勝った次の年からになる。でも、実際のところ、チーム結成時から打診はあったんだ。チームGMの(ディヴィッド)ブレイルスフォードや、チームのブランディングを担当しているフラン・ミラー(デイヴィッド・ミラーの姉)とは長い関係なんだ。

チームのロゴやオフィシャルサイトのデザインにラファとの類似性を感じる人もいたと思う。それは、ブレイスルフォードとは2009年頃から、ずっとチームのブランディングについてのミーティングを続けていたし、デザイナーを紹介したりもしていたからなんだ。自然な流れで、スポンサードの話も出たんだけれど、当時の会社は年商15億程度でとてもプロツアーチームをサポートするだけの余裕が無かった。2013年まで、契約を結ぶことが無かったのは資金的な問題が大きいね。
ーそこから4年間、スカイと歩んできた中で得たものは。
チームが得たものもあれば、私たちが得たものもあるけれど、大きく言えばお互いが周りから誤解されていた部分、あるいは知られていなかった姿を表現することが出来た4年間だったと思っているよ。
スカイに供給を始めた2013年頃、ラファというブランドに対するイメージは「クラシック」や「レトロ」といったキーワードと一緒に語られることが多かった。実際、メリノウールを使用した製品が多かったし化学繊維をメインに使ったプロダクトは少なかったから、そういった印象で語られる事は仕方なかった。でも、レーシーでハイテクなウエアを作っているという自信もあった。
一方、チームスカイはチームスカイで、とても強いチームだけど、効率至上主義でシステマチック、勝利のためには手段を選ばず、選手の個性なんて二の次のサイボーグ軍団、みたいに思っているレースファンも多かっただろう。でも実際の選手たちは、個性豊かで自転車を愛してやまないナイスガイ達なんだ。

チームとラファがパートナーシップを組んだことはとても面白いマッチングだった。この4年間で、ラファはトップレースで活躍するテクニカルブランドとしての側面がより強く認知されてきたし、スカイはブランディングやマーケティング、そしてイベントを開催することでファンとの接点が増え、選手たちの人間味がみんなに伝わってきたと思う。
4年前は、ラファというブランドのファン達とチームスカイを応援するファン達は、あまり重なり合う事は無かったはず。でも今は多くのチームスカイファンはラファを着ているし、ラファのファン達がフルームを応援している。これはとっても革新的なことだよ。
ー確かに日本でもこの4年間でラファのファンはとても増えたと感じます。数年前は知る人ぞ知るエンスーなブランドだったと思いますが、今は多くのライダー、そしてロードレースファンたちが愛用しています。イベントやレース会場でラファを見ない日はありません。なにかラファとしての特別な取り組みはありましたか。



ファンとの距離を縮めるという意味においてプロチーム、とくにワールドチームはもっと柔軟になっても良いと感じている。例えば、去年の7月にトム・シンプソンの世界選手権優勝50周年を記念するジャージを発表したんだ。シンプソンはイギリスのロードレースファンにとっては大切な選手で、モン・ヴァントゥでの劇的な最期はとてもドラマチックだった。そのジャージをツアーオブブリテンでチームウィギンズが着て走ってくれた。もちろんUCIのルールに定められた罰金を払ってね(笑)
派手なプロモーションを仕掛けるのでなくて、特別な選手を記念するために、特別な事をするような企画をスカイともやっていきたかった。そういう意味において、この4年間でスカイとやりたかった事が100%出来たわけではないんだ。正直、半分くらいの達成率だったとも思える。

逆にウィギンズはこういった企画に積極的で、声を掛ければ「良いね!やろうよ!」とどんどん進んでいく。しかも「こんなブランドは他にはない、だからこそラファとタッグを組んでいるんだ」といろんなところで発信してくれる。契約金以外の価値をしっかりと理解し認識してくれる選手だから、今でも関係が続いているんだ。
ーやはりウィギンズは特別な存在ですか。


といっても、彼だけが特別に面白い人格を持っている、というわけでもないんだ。プロトンを走る選手たちというのは、皆それぞれが特別なストーリーを持っている。ひとりひとりと打ち解け、彼らが考えていること、感じた事を聞くと、どの選手もとびきりユニークな人間なんだ。でも、そういった面を見せる事は滅多にない。レースで結果を残せばいい、というスタンスの選手が多いんだ。
プロトンの皆がサングラスを掛けて、どこを見ているかもわからない。そんな時代に、自分の感情、本音を見せてくれるのはウィギンスだけ。
ー少し前に来日する予定があったのですが、急きょキャンセルになってしまいました。また日本に来てくれるといいのですが。
サイクルモードはちょっとタイミングが悪かったね。来年に向けてウィギンズとは色々な話をしているんだけど、日本に来てくれる可能性はあると思う。ウィギンズとコラボレートして、子供たちをターゲットにしたプロジェクトを進めているんだ。競技やレースを抜きにして、純粋に子供たちに自転車を好きになってもらうためのプロジェクトなんだけど、全世界的に展開していく予定だから、ぜひ日本でもやりたいね。
ー現在のスカイのエースであるフルームはどういった選手ですか


誰よりもストイックで、負けず嫌い。自転車競技に対して最も真摯に取り組んでいる選手で、ライバル達に勝つためには努力を厭わない。そんな強烈な個性を持った選手なんだけれど、なかなか彼のそういった面というのは見えてこない。メディアもあまりそういった側面を取り上げることは無いし、本人も発信しない。
とても人間的な魅力に溢れている選手なんだけど、彼のそういった面を普通のファンが知る機会というのはほとんど無い。そういった素顔を知ることが出来れば、フルームのファンはもっと増えるだろうし、彼にインスパイアされた人が、何か素晴らしいアクションを起こすかもしれない。きっと素晴らしい事が起きると思うけれど、現状ではそうはなっていない。
ーそう聞くと、とても勿体ない事だと思います。
プロトンというのは、沢山のフルームの集合体なんだ。とてもユニークな人々が集まっているのだけれど、その本当の姿が出ることが無い。彼らの持つストーリーに光をあてて、ファン達に伝えていきたい。チームスカイを通して、ワールドチームに関わった4年間で、そう強く感じたよ。
interview:Naoki.YASUOKA
リンク
Amazon.co.jp
Bradley Wiggins: My Hour (English Edition)
Vintage Digital
Inside Team Sky (English Edition)
Simon & Schuster UK