2016/05/17(火) - 08:58
100周年を迎えたロンド・ファン・フラーンデレン。その前日に行われた市民レース「RVVシクロ」に日本から参加した宇賀神善之さんは、ついに最大の難所コッペンベルグへと向かう。プロ選手さえ歩いてしまうという悪名高きパヴェの激坂を、果たして攻略できるのか?
2つ目のエイドを出ると次はいよいよコッペンベルグだ。距離は500mと短いが、最大勾配が22%。ロンドで一番きついセクターだろう。そしてこのエイドから227km、130km、71kmコースのすべてのライダーが合流し、混雑が始まる。エイドでは大きなモニターが設置されライブビューをやっている。なにかと見るとコッペンベルグの今の状態が映し出されていた。写っている映像はただただバイクを押し上げている人々だ。
もう混み始めている。「渋滞を避けたい人は左の道からエスケープできます」と但し書きがあったが、避けることはしない。ここでもがき苦しむために、ただそれだけのためにやってきたと言っていい。
去年は登りきれず悔しい思いで帰国したのだが、今年はそれなりに準備した。カラダのほうはどうにもならないので(笑)、バイクを新調した。フレームはTOYOのCX-S。スチール製のシクロクロスフレームで、振動だろうが泥詰だろうがどんな場面にも対応してくれるだろう。
それにロー32Tのカセットと32Cのタイヤ。しびれた指にはDi2のシフトボタンが助けてくれるはず。もちろん50×34Tのコンパクトクランク。組んでくれた宇都宮のスポークスサイクルガレージの廣瀬店長に「アルテグラ46×34で出来ませんか?」と頼んだが、メーカー設定外でおすすめしないと却下されたのは内緒だ。
そういうわけで今年は自信があった。渋滞に巻き込まれなければ登りきれる。エイドを出てコッペンベルグまではまっすぐで平坦な農道をゆく。平和な時間だ。おしゃべりも弾む。そしてこの先を直角に左に曲がると突然石畳、そして最大勾配22%の激坂が現れた。
私が考えたここの攻略法は、まず一番右端の樋になっている部分にライン取りする。繰り返すが凹凸が少なくて走りやすいからだ。そして登りがややキツくなるあたりで道の左側にスイッチする。理由はあっさり諦めて下車する人が多くブロックされてしまうのと、まっすぐ行けても切り通しのようになっているコッペンベルグの右側ぎりぎりは、土がこぼれて石畳の目地には泥が詰まっている。一度泥を踏んでしまうとズルっとタイヤが滑って前輪が浮き、ゲームオーバーだ。
問題は走行のルールとして右が遅い人、左が早い人となっているため早い人の邪魔になってはいけないことと、渋滞していたらそもそも左に行きにくいということだ。
そんなことを思いながら石畳に突入すると、綾野さんはスーッとかっとんで行った。さすがである。粘ったつもりだが、あっさり渋滞にはまりトボトボバイクを押し上げる。押し上げるといってもビンディングシューズだ。ただ普通に歩いても歩けない急坂。1歩進んでは半歩ずり下がりを繰り返し這うように登ってゆく。
途中で撮影中の綾野さんと合流。「一瞬でも乗れればかっこ良く撮ってあげます」とおっしゃって下さった。これはなんとしても欲しい写真だということで、坂の途中からリトライ。ところがバイクにまたがっただけでなにも出来ない。ずり下がらないようにするのが精一杯で、石一つ分も前に進まなかった。面目ないが、それほどの坂なのだ。私もコッペンベルグの光景を撮影しようと見下ろすと、長い行列がずっと続いている。皆が息を切らし、這い上がってくる様はまるで刑罰のようだ。ふと「PRISONERS OF THE ROAD(路上の囚人)」の言葉を思い出した。
ようやく歩ききって舗装に入る。いやいや凄い坂だった。だがココから先、緩い下りが気持ちよい。漕がないで進むのも自転車の楽しみだ。
漕がないで進む下りが楽しいと書いたばかりだが、この先には恐ろしいだけの下りがあった。大抵は坂を登りきると舗装に入るのだが、そこはそのまま石畳を下り出すセクターだ。
コッペンベルグの次はSTEENBEEKDRIESだったと思うが、やっとの思いで登りきると、そのまま激坂下りへ。ここでの注意点はスピードのコントロールと舵取り。下るというより奈落の底に落ちて行くといった感じだ。似た感覚だとラフティングの激流下りだろうか。とにかくどの方向に落ちて行くのかも分からない。そして落とし物。激しすぎる振動で脱落したボトルがあちこちに落ちているので踏みつけたら大変だ。
ひたすら振動に耐え、足下に目を剥く。それにしてもいろんなものが落ちている。ボトルとライトが多かったが、サイコンも落ちている。ひやりとしたのはガーミンが吹っ飛んで来た時だ。「あっガーミン510!もったいないー」と思った瞬間、人影が視界に飛び込んで来た。路面しか見ていなかったので不意をつかれる格好になった。落とし主が急制動したのだ。わっ!ぶつかる!危ない! あわや大落車のところなんとかかわした。ブレーキをかける手も握力の限界だ。
と、今度はインナー✕ローのままだったことに気づく。クランクが空回りする。チェーンの踊る音が凄い。ところがシフトボタンが無い。いくら探っても無い。振動で飛んで行ってしまったのかと思った。ブレーキレバーはあるのにボタンだけ取れることがあるのだろうか? だが目で見ると付いている。振動で手指の痺れが限界を超え、すっかり麻痺してしまっているのだ。頭では指に指令をだしていても、指が実行してくれない。まるで凍傷のように何の感覚もない。とにかくブラケットにしがみつくように気力でブレーキだけは引き続け、セクターが終わるのを待つしか無かった。
セクター間をつなぐ国道もあなどってはならない。ひたすら真っすぐの道、2〜3%の勾配を延々登り、そして下る。ここはクルマも走っているので注意が必要だ。これが地味に足を削る。また年間降雨日が300日を超えるというこのフランドルでは天気予報があてにならない。今日は晴れて暖かい一日との予報だったが、空を雲が覆い太陽を遮る。寒い。エイドで休憩しすぎるとあっという間に体温を奪われる。風もある。走るしか無いのだ。
3つ目のエイドを出た私たちに残されたセクターは4つ。そのラスト2つはかの有名なオウデクワレモントとパテルベルグ。本番のレースではそれぞれ3回、2回と通過するので観戦ポイントとしても有名な場所だ。オウデクワレモントは2000mと、距離は長いが勾配がさほどでもないためとても走りやすい。いよいよ終盤になって石畳に慣れて来たようだ。
ただ足下を見、振動に耐えながらひと踏みひと踏み進む。勾配がさほどでもないと言っても、最大11.6%ある。ところが何度も20%近い坂を超えると、4〜5%程度の坂が平坦に見えてくる。勾配感覚もすっかり麻痺してしまっているようだ(笑)。
クワレモント出口でオリビエさんを待つ。ところがいくら待っても来ない。私より脚がある方なので、もしかして先行してしまったかと綾野さんとパテルベルグに向かう。いよいよ最後の決戦の場といわれる坂だ。パテルベルグは絶対決めてやろうと思っていた。最大勾配は20%を超えるが距離は400mと短めだ。歯を食いしばり我慢すれば超えられるハズ。
綾野さんが先行した。撮影のためだ。私はゆっくり取りかかる。渋滞に巻きこまれないように十分車間を空ける。だが空けた所でそんなに意味は無く、上から人が落ちて来て隙間もなにも無くなっていく。途中撮影している綾野さんを発見、あそこまで乗っていければ良い写真を撮ってもらえるだろう。
コッペンで失敗したので今度こそと意気込んだが、さあここぞというところで目の前の人がよろけ落車。私も脚をついてしまった。簡単には行かせてくれぬ。残念だがしかたがない。
もうひとつはホテルに帰りつくとまたFBメッセンジャー。今度は途中ではぐれてしまったオリビエさんからだった。ゼッケンナンバーから私のフルネームを調べてFBで連絡をくださったのだ。お互いコルトレイクに投宿していたので、その夜はお疲れ会をすることに。ベルギービールとフラマン料理に舌鼓を打ち、辛く楽しかった一日を振り返り、またの再会を約束した。
翌日はプロのロンド・ファン・フラーンデレン観戦へ
そして、翌日はロンド本戦を観戦だ。本物のヨーロッパプロトンが目の前に現れる。思っただけでゾクゾクする。そして今回友人のミッシェルの計らいでオーデクワレモントのコース沿いにあるVIPエリアで観戦できることになった。VIPエリアには大型テレビモニターがあちこちに設置されどこに居てもレース状況を見る事が出来る。皆、テラスでシャンパンやワイン、オードブルをつまみ、パーティを楽しんでいる。ミュージシャンのミニコンサートなども行われ何とも贅沢な空間だ。
1周目のクワレモントの時間が近づいてくると、みんなテラスに出始めた。鉄柵にもたれ最前列のスタンドにいても次々と飲み物や軽食が回ってくる。もちろん屋外にも大きなテレビモニターがあるのでレースをチェックすることができる。夢のような観戦環境だ。
ヘリが近づいてくると皆から歓声があがる。プロトンがその真下にいるという目印だからだ。関係車両が猛スピードで走り去る。モトがすっ飛んで行く。レーサーの通過も楽しみだが、現場で働く日本人を見るのも楽しみだ。マコトアヤノとユズルスナダ。この2人も目撃したい。ドキドキする。
クワレモントの坂下からざわめきが上がってくる「カッモーーーン!」皆が叫びだす。
来た。来た。遂に来た。
トップスポート、ランプレ、AG2R,ら6名の逃げグループが駆け抜ける。ワンティの選手が一人それを追う。その数分後、道幅いっぱいに広がったプロトンが現れた。観客の興奮と歓声が凄い。
なんだ、なんだろう、このパワー。フォースと言っていいかもしれない。風と音を全身に感じる。細い石畳道を抜けるプロトンはとてつもない大蛇か巨大な龍だ。まるで一つの生命体となり虎視眈々とそして爪を研ぎながら逃げとの時間を計る。雷を身にまとい火花を散らしながら。
集団が通りすぎると、会場には一流ホテルのケータリングランチが並べられている。舌鼓を打ちながら頂いていると、日本人が珍しいのだろう。多くの人に声をかけられた。お年を召した品の良い紳士が近づいてくると思ったら、なんと伝説のロードレーサー、ジモンディさんだ。「あれっ?君昨日の新聞に出てたよね。ウツノミヤからようこそ。」と歓迎されたり。こちらの人の多くはウツノミヤという地名を知っている。私のホームタウン。嬉しくてしかたなかった。
テラスに出ると今度は女子のレースが通過する。クワレモントは男子エリートが3回通過。その合間に女エリートが一回通過する。女子だって迫力満点だ。アミシュテッドとヨハンセンのマッチアップ。フランドルの印の入ったヘルメットを冠るヨハンセンが多くの声援を受けていたが結果はスプリントで競り負け。萩原マユコ選手が所属するウィグルハイファイブのヨハンセンを多くのベルギー人と応援したがかなわなかった。
そして2周目がすぎ、3周目がやって来た。サガン、ファンマルクが目の前を過ぎる。ファビアンは?ファビアンはどこだ?すると3番目に現れた。凄いスピードで猛追するファビアンが私の目の前を駆け抜けた。ウォーーー!凄い。凄過ぎる!!この興奮はとても言葉では伝えられない。とにかく凄いとしかいいようがない。追いつくだろうか?追いつけ!頑張れ!
しばらくすると大型テレビモニターはペテルベルグのサガンを映し出す。そして彼は全てを突き放すように加速した。
とにかく今年で100回目のロンドファンフラーンデレン。昨日の綾野さんとのライドといい、今日のVIPエリアでの観戦といい、本当に最高の体験をさせてもらった。
VIPエリアでの観戦だが私の友人ミッシェルはフランドリアンアカデミーというベルギーでのサイクリングガイドツアー会社を運営している。「ちょっとエクスペンシブ(笑)」というVIPチケットは十分以上に楽しめた。来年はライドと観戦を含めたツアーを日本人向けに販売する予定があるようだ。気になる方は是非彼らのウェブサイトをチェックするといいだろう。
フランドリアンアカデミー http://flandrienacademy.com/
プロフィール
宇賀神善之(うがじんよしゆき)
出版広告制作会社の撮影部を経て、現在はフリーランスフォトグラファーに。撮影ジャンルはビューティからアウトドアまで幅広いが、趣味が高じて近年は遂に自転車分野に着手。写真を通じてロードレースの文化を伝えたいと意気込む。東京と宇都宮のダブルプレイスで活動し、ジャパンカップには深い思い入れがある。目標はプロの観客。
text&photo:Yoshiyuki.UGAJIN
photo:Makoto.AYANO
2つ目のエイドを出ると次はいよいよコッペンベルグだ。距離は500mと短いが、最大勾配が22%。ロンドで一番きついセクターだろう。そしてこのエイドから227km、130km、71kmコースのすべてのライダーが合流し、混雑が始まる。エイドでは大きなモニターが設置されライブビューをやっている。なにかと見るとコッペンベルグの今の状態が映し出されていた。写っている映像はただただバイクを押し上げている人々だ。
もう混み始めている。「渋滞を避けたい人は左の道からエスケープできます」と但し書きがあったが、避けることはしない。ここでもがき苦しむために、ただそれだけのためにやってきたと言っていい。
去年は登りきれず悔しい思いで帰国したのだが、今年はそれなりに準備した。カラダのほうはどうにもならないので(笑)、バイクを新調した。フレームはTOYOのCX-S。スチール製のシクロクロスフレームで、振動だろうが泥詰だろうがどんな場面にも対応してくれるだろう。
それにロー32Tのカセットと32Cのタイヤ。しびれた指にはDi2のシフトボタンが助けてくれるはず。もちろん50×34Tのコンパクトクランク。組んでくれた宇都宮のスポークスサイクルガレージの廣瀬店長に「アルテグラ46×34で出来ませんか?」と頼んだが、メーカー設定外でおすすめしないと却下されたのは内緒だ。
そういうわけで今年は自信があった。渋滞に巻き込まれなければ登りきれる。エイドを出てコッペンベルグまではまっすぐで平坦な農道をゆく。平和な時間だ。おしゃべりも弾む。そしてこの先を直角に左に曲がると突然石畳、そして最大勾配22%の激坂が現れた。
私が考えたここの攻略法は、まず一番右端の樋になっている部分にライン取りする。繰り返すが凹凸が少なくて走りやすいからだ。そして登りがややキツくなるあたりで道の左側にスイッチする。理由はあっさり諦めて下車する人が多くブロックされてしまうのと、まっすぐ行けても切り通しのようになっているコッペンベルグの右側ぎりぎりは、土がこぼれて石畳の目地には泥が詰まっている。一度泥を踏んでしまうとズルっとタイヤが滑って前輪が浮き、ゲームオーバーだ。
問題は走行のルールとして右が遅い人、左が早い人となっているため早い人の邪魔になってはいけないことと、渋滞していたらそもそも左に行きにくいということだ。
そんなことを思いながら石畳に突入すると、綾野さんはスーッとかっとんで行った。さすがである。粘ったつもりだが、あっさり渋滞にはまりトボトボバイクを押し上げる。押し上げるといってもビンディングシューズだ。ただ普通に歩いても歩けない急坂。1歩進んでは半歩ずり下がりを繰り返し這うように登ってゆく。
途中で撮影中の綾野さんと合流。「一瞬でも乗れればかっこ良く撮ってあげます」とおっしゃって下さった。これはなんとしても欲しい写真だということで、坂の途中からリトライ。ところがバイクにまたがっただけでなにも出来ない。ずり下がらないようにするのが精一杯で、石一つ分も前に進まなかった。面目ないが、それほどの坂なのだ。私もコッペンベルグの光景を撮影しようと見下ろすと、長い行列がずっと続いている。皆が息を切らし、這い上がってくる様はまるで刑罰のようだ。ふと「PRISONERS OF THE ROAD(路上の囚人)」の言葉を思い出した。
ようやく歩ききって舗装に入る。いやいや凄い坂だった。だがココから先、緩い下りが気持ちよい。漕がないで進むのも自転車の楽しみだ。
漕がないで進む下りが楽しいと書いたばかりだが、この先には恐ろしいだけの下りがあった。大抵は坂を登りきると舗装に入るのだが、そこはそのまま石畳を下り出すセクターだ。
コッペンベルグの次はSTEENBEEKDRIESだったと思うが、やっとの思いで登りきると、そのまま激坂下りへ。ここでの注意点はスピードのコントロールと舵取り。下るというより奈落の底に落ちて行くといった感じだ。似た感覚だとラフティングの激流下りだろうか。とにかくどの方向に落ちて行くのかも分からない。そして落とし物。激しすぎる振動で脱落したボトルがあちこちに落ちているので踏みつけたら大変だ。
ひたすら振動に耐え、足下に目を剥く。それにしてもいろんなものが落ちている。ボトルとライトが多かったが、サイコンも落ちている。ひやりとしたのはガーミンが吹っ飛んで来た時だ。「あっガーミン510!もったいないー」と思った瞬間、人影が視界に飛び込んで来た。路面しか見ていなかったので不意をつかれる格好になった。落とし主が急制動したのだ。わっ!ぶつかる!危ない! あわや大落車のところなんとかかわした。ブレーキをかける手も握力の限界だ。
と、今度はインナー✕ローのままだったことに気づく。クランクが空回りする。チェーンの踊る音が凄い。ところがシフトボタンが無い。いくら探っても無い。振動で飛んで行ってしまったのかと思った。ブレーキレバーはあるのにボタンだけ取れることがあるのだろうか? だが目で見ると付いている。振動で手指の痺れが限界を超え、すっかり麻痺してしまっているのだ。頭では指に指令をだしていても、指が実行してくれない。まるで凍傷のように何の感覚もない。とにかくブラケットにしがみつくように気力でブレーキだけは引き続け、セクターが終わるのを待つしか無かった。
セクター間をつなぐ国道もあなどってはならない。ひたすら真っすぐの道、2〜3%の勾配を延々登り、そして下る。ここはクルマも走っているので注意が必要だ。これが地味に足を削る。また年間降雨日が300日を超えるというこのフランドルでは天気予報があてにならない。今日は晴れて暖かい一日との予報だったが、空を雲が覆い太陽を遮る。寒い。エイドで休憩しすぎるとあっという間に体温を奪われる。風もある。走るしか無いのだ。
3つ目のエイドを出た私たちに残されたセクターは4つ。そのラスト2つはかの有名なオウデクワレモントとパテルベルグ。本番のレースではそれぞれ3回、2回と通過するので観戦ポイントとしても有名な場所だ。オウデクワレモントは2000mと、距離は長いが勾配がさほどでもないためとても走りやすい。いよいよ終盤になって石畳に慣れて来たようだ。
ただ足下を見、振動に耐えながらひと踏みひと踏み進む。勾配がさほどでもないと言っても、最大11.6%ある。ところが何度も20%近い坂を超えると、4〜5%程度の坂が平坦に見えてくる。勾配感覚もすっかり麻痺してしまっているようだ(笑)。
クワレモント出口でオリビエさんを待つ。ところがいくら待っても来ない。私より脚がある方なので、もしかして先行してしまったかと綾野さんとパテルベルグに向かう。いよいよ最後の決戦の場といわれる坂だ。パテルベルグは絶対決めてやろうと思っていた。最大勾配は20%を超えるが距離は400mと短めだ。歯を食いしばり我慢すれば超えられるハズ。
綾野さんが先行した。撮影のためだ。私はゆっくり取りかかる。渋滞に巻きこまれないように十分車間を空ける。だが空けた所でそんなに意味は無く、上から人が落ちて来て隙間もなにも無くなっていく。途中撮影している綾野さんを発見、あそこまで乗っていければ良い写真を撮ってもらえるだろう。
コッペンで失敗したので今度こそと意気込んだが、さあここぞというところで目の前の人がよろけ落車。私も脚をついてしまった。簡単には行かせてくれぬ。残念だがしかたがない。
もうひとつはホテルに帰りつくとまたFBメッセンジャー。今度は途中ではぐれてしまったオリビエさんからだった。ゼッケンナンバーから私のフルネームを調べてFBで連絡をくださったのだ。お互いコルトレイクに投宿していたので、その夜はお疲れ会をすることに。ベルギービールとフラマン料理に舌鼓を打ち、辛く楽しかった一日を振り返り、またの再会を約束した。
翌日はプロのロンド・ファン・フラーンデレン観戦へ
そして、翌日はロンド本戦を観戦だ。本物のヨーロッパプロトンが目の前に現れる。思っただけでゾクゾクする。そして今回友人のミッシェルの計らいでオーデクワレモントのコース沿いにあるVIPエリアで観戦できることになった。VIPエリアには大型テレビモニターがあちこちに設置されどこに居てもレース状況を見る事が出来る。皆、テラスでシャンパンやワイン、オードブルをつまみ、パーティを楽しんでいる。ミュージシャンのミニコンサートなども行われ何とも贅沢な空間だ。
1周目のクワレモントの時間が近づいてくると、みんなテラスに出始めた。鉄柵にもたれ最前列のスタンドにいても次々と飲み物や軽食が回ってくる。もちろん屋外にも大きなテレビモニターがあるのでレースをチェックすることができる。夢のような観戦環境だ。
ヘリが近づいてくると皆から歓声があがる。プロトンがその真下にいるという目印だからだ。関係車両が猛スピードで走り去る。モトがすっ飛んで行く。レーサーの通過も楽しみだが、現場で働く日本人を見るのも楽しみだ。マコトアヤノとユズルスナダ。この2人も目撃したい。ドキドキする。
クワレモントの坂下からざわめきが上がってくる「カッモーーーン!」皆が叫びだす。
来た。来た。遂に来た。
トップスポート、ランプレ、AG2R,ら6名の逃げグループが駆け抜ける。ワンティの選手が一人それを追う。その数分後、道幅いっぱいに広がったプロトンが現れた。観客の興奮と歓声が凄い。
なんだ、なんだろう、このパワー。フォースと言っていいかもしれない。風と音を全身に感じる。細い石畳道を抜けるプロトンはとてつもない大蛇か巨大な龍だ。まるで一つの生命体となり虎視眈々とそして爪を研ぎながら逃げとの時間を計る。雷を身にまとい火花を散らしながら。
集団が通りすぎると、会場には一流ホテルのケータリングランチが並べられている。舌鼓を打ちながら頂いていると、日本人が珍しいのだろう。多くの人に声をかけられた。お年を召した品の良い紳士が近づいてくると思ったら、なんと伝説のロードレーサー、ジモンディさんだ。「あれっ?君昨日の新聞に出てたよね。ウツノミヤからようこそ。」と歓迎されたり。こちらの人の多くはウツノミヤという地名を知っている。私のホームタウン。嬉しくてしかたなかった。
テラスに出ると今度は女子のレースが通過する。クワレモントは男子エリートが3回通過。その合間に女エリートが一回通過する。女子だって迫力満点だ。アミシュテッドとヨハンセンのマッチアップ。フランドルの印の入ったヘルメットを冠るヨハンセンが多くの声援を受けていたが結果はスプリントで競り負け。萩原マユコ選手が所属するウィグルハイファイブのヨハンセンを多くのベルギー人と応援したがかなわなかった。
そして2周目がすぎ、3周目がやって来た。サガン、ファンマルクが目の前を過ぎる。ファビアンは?ファビアンはどこだ?すると3番目に現れた。凄いスピードで猛追するファビアンが私の目の前を駆け抜けた。ウォーーー!凄い。凄過ぎる!!この興奮はとても言葉では伝えられない。とにかく凄いとしかいいようがない。追いつくだろうか?追いつけ!頑張れ!
しばらくすると大型テレビモニターはペテルベルグのサガンを映し出す。そして彼は全てを突き放すように加速した。
とにかく今年で100回目のロンドファンフラーンデレン。昨日の綾野さんとのライドといい、今日のVIPエリアでの観戦といい、本当に最高の体験をさせてもらった。
VIPエリアでの観戦だが私の友人ミッシェルはフランドリアンアカデミーというベルギーでのサイクリングガイドツアー会社を運営している。「ちょっとエクスペンシブ(笑)」というVIPチケットは十分以上に楽しめた。来年はライドと観戦を含めたツアーを日本人向けに販売する予定があるようだ。気になる方は是非彼らのウェブサイトをチェックするといいだろう。
フランドリアンアカデミー http://flandrienacademy.com/
プロフィール
宇賀神善之(うがじんよしゆき)
出版広告制作会社の撮影部を経て、現在はフリーランスフォトグラファーに。撮影ジャンルはビューティからアウトドアまで幅広いが、趣味が高じて近年は遂に自転車分野に着手。写真を通じてロードレースの文化を伝えたいと意気込む。東京と宇都宮のダブルプレイスで活動し、ジャパンカップには深い思い入れがある。目標はプロの観客。
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