2016/05/04(水) - 09:31
100周年を迎えたロンド・ファン・フラーンデレン。その前日に行われた市民レースに参加したフリーフォトグラファーの宇賀神善之さんからのレポートが届きました。プロレースと同じパヴェ区間を走ることができる人気の市民レースを実走したレポートです。
前回のレポートも合わせてご覧ください。
ついに迎えたレース当日。初の130kmコースに挑戦。
いよいよこの日がやって来た。待ちに待ったRVV Cyclo。去年は71km走ったのだが今年は130kmと欲張った。約2倍の距離である。欲張った分、不安もアップする。大丈夫だろうか?時間内に走りきれるだろうか?真っ平らな関東平野ならなんてことない距離だが日本では見た事も無い石畳と激坂が待っているのだ。
朝4時に起きて準備する。メカは昨日ショップでみてもらったから安心だ。むしろトラブルがあって良かったのかもしれない。ゼッケンをしっかり固定する。トップチューブにコースプロフィールを貼付ける。スタートは7時〜9時までのフリースタートとなる。余裕をもって走りたいので7時きっかりにスタート位置につきたい。
コルトレイク駅発6時07分の始発でオーデナールデ駅まで移動だ。日の出が7時20分頃と遅いためあたりはまだ暗くひっそりとしている。私を含む四人のライダーがホームに見える。バイクとともに列車に乗り込む。二人は1等キャビンへ行ってしまった。リーズナブルな私はもうお一人と2等キャビンに席を取る。
お互いお一人様。隣り合った席で自己紹介。すると「昔、千葉に住んでいました。」とおっしゃるのでビックリ。スイスから来たという彼の名前はオリビエさん、自転車好きには国境も言葉の壁も無い。話が弾みあっと言う間に目的地に着いた。
夜明け前のスタート地点、徐々にライダー達が集まってくる。フリーコーヒーサービスがあり出走前に一杯頂く。ほっと心がリラックス。前夜、シクロワイアードの綾野さんとFBで連絡を取り合っていて、もしお会いできればと思っていたがこれから1万人が走り出すのだ。まだ暗いしお会いできるかもどうかわからない。運が良ければどこかで会えるだろう、そう思いオリビエさんと共にスタートを切った。
なにしろまだ暗い。前灯も尾灯も点灯する。普段日本ではチカチカと点滅させている人も多く見受けられるが、こちらでは点灯で走るのが一般的なようだった。まだ冷たい空気、徐々に明けて行く空、そして朝靄のたつエスコー川に沿って走りだす。「気持ちいいすねー!」と思わず日本語がでてしまう。本当に気持ちいい。オリビエさんも「Beautiful!」と声をあげる。でもみんな知っている。快適で気持ち良いのはここだけなのを。
そしてやって来た最初の壁。WOLVENBERG。ベルギーの地形の特徴としてずっと坂が見える、というのがある。つまり少しはくねりがあるけれど、ほぼ直登なので結構先まで丸見え。山ではなく丘なので樹木に視界を遮られる事も無い。距離は短いがそのぶん傾斜がキツくなる。私たちの目の前に現れたのはそんな坂だ。巨大滑り台を下から見上げるような感覚は、登る前から心拍があがる。
ありがたいことにこうした各セクターの入り口にはセクター名と距離、平均勾配と最大勾配の表示がある。それを横目でチラと確認し心と体とギアの準備をする。ここは表示だと距離700mで最大勾配17.3%。宇都宮の方なら分かるかもしれないが、鶴カンも直登で400m最大14%だからだいたい2倍くらいはキツイ。でもこれは最も軽いジャブ。なんとも粋なご挨拶だ。
坂のジャブを打たれると、今度は石畳のお出迎え。まずは平坦だ。ここで激しい振動の洗礼を受ける。がたがたがたがた。手が震え、足が振え、お尻が震え、脳が震え、内蔵が震え出す。とにかく真っすぐ走らなければならない。周りに多くの選手が走っているのだ。あらぬ方向に行ったり、転んだりすれば周りを巻き込みかねない。ところが真っすぐ走るのが難しい。ハンドルバーが小刻みにアッチコッチ。
昔フミのインタビュー記事で石畳はカラダをバイクに覆いかぶすように乗るのがコツ。と読んだのを思い出す。でもそうするとハンドルバーに力が入ってペダルに体重が乗らない気がする。まあ、乗っているうちに何か掴めるだろう。とにかくペダルを踏みつけるように回し石畳の最初のジャブをなんとか乗り切った。
まだまだ第一ラウンド。ガードを上げてジャブには耐えたが、この先未だ100km以上ある。強烈なボディブロー、とどめのアッパーカットが飛んでくるに違いない。そしてこのあとmolenbergとkerkgateの攻撃に耐えなんとかエイドにたどり着いた。
エイドでは水やスポーツドリンク、ワッフルやパンケーキ、バナナ、オレンジなどが用意されている。補給食を持たずに走れるので非常にありがたい。130kmのコースには3カ所のエイドがあり、トイレも食料補給も出来る。ただ惜しむらくはどこも全く同じものが用意されているので、日本のロングライドイベント、特に那須ロングライドのようにバラエティ豊かな地産のおいしいものを各エイドでいただく、といった楽しみはここにはない。でもここで休憩し補給を取り、仲間の調子を気遣い、スタッフさんに笑顔で励まされれば十分パワーを回復させることができる。そしてシマノのメカニックサービスもある。
さて、たどり着いた最初のエイドでiPhoneをみるとメッセージが届いてる。シクロワイアードの綾野さんだ。スタート時点でメッセージを頂いていたようだ。これは申し訳ないと思い、あわてて返信するとエイドのシマノブース近くにいるという。こうして綾野さんと合流でき、オリビエさんとともに3人で走る事となった。
綾野さんとご一緒することになり楽しさは倍増した。なにしろフランダースクラシックの取材者としてベテランだし、ライダーとして227kmのフルコースを走った経験もあるという。生ライドで生解説付きの豪華さだ。しかもフォトグラファーとしても素晴らしい方で私は昔から憧れていた。やはり一眼レフカメラを首から下げている。こうなると生撮影付きとなり豪華すぎて恐縮次第だ。
エイドをでた私たちは次のセクターまで綾野さん先頭に真後ろに付かせてもらったり、安全な所ではおしゃべりなどしながら快適な速度で進んでゆく。そしてセクターはやってくる。辛く苦しい我慢の時間だ。距離と勾配を確認して石畳の坂を登る。私はとにかくゆっくりゆっくり。なるべく振動を避けたいため道端の樋のようになっている凹凸の少ないラインを選んで走る。これは石畳攻略のテクニックの一つだ。可能な限りカラダへの負担を減らし次のセクターにそなえる。またゆっくりでも足を付かずに登りきった達成感がライドの醍醐味だ。
それにしても綾野さんは凄い。ダンシングで加速するとあっという間に離されてしまう。そしてビューポイントとなるところでバイクを降り撮影を始める。また激坂石畳で片手でカメラを持ち、追い越しざま振り返りながら写真を撮る。これはもう撮影技術というよりもはや芸の世界。とてもまねはできない。プロ中のプロである。そして私は少しでもいい被写体になるべく奮闘した(つもり)。こんな機会は二度と無い。これがいいモチベーションになり130kmを楽しく走りきることが出来たと思う。
二つ目のエイドで小休憩。補給を取り、トイレをすます。記念写真を撮ったりしているとスーパーマンとキャプテンアメリカがいた。これはいいネタになるとカメラを向けるとスパイダーマンも現れた。アメリカから来たのかと聞いたらイタリアンだった。こういうのも楽しくていい。
さて、エイドを出ると次はいよいよコッペンベルグ。名高い激坂を前に、期待が高まります。
プロフィール
宇賀神善之(うがじんよしゆき)
出版広告制作会社の撮影部を経て、現在はフリーランスフォトグラファーに。撮影ジャンルはビューティからアウトドアまで幅広いが、趣味が高じて近年は遂に自転車分野に着手。写真を通じてロードレースの文化を伝えたいと意気込む。東京と宇都宮のダブルプレイスで活動し、ジャパンカップには深い思い入れがある。目標はプロの観客。
text&photo:Yoshiyuki.UGAJIN
photo:Makoto.AYANO
前回のレポートも合わせてご覧ください。
ついに迎えたレース当日。初の130kmコースに挑戦。
いよいよこの日がやって来た。待ちに待ったRVV Cyclo。去年は71km走ったのだが今年は130kmと欲張った。約2倍の距離である。欲張った分、不安もアップする。大丈夫だろうか?時間内に走りきれるだろうか?真っ平らな関東平野ならなんてことない距離だが日本では見た事も無い石畳と激坂が待っているのだ。
朝4時に起きて準備する。メカは昨日ショップでみてもらったから安心だ。むしろトラブルがあって良かったのかもしれない。ゼッケンをしっかり固定する。トップチューブにコースプロフィールを貼付ける。スタートは7時〜9時までのフリースタートとなる。余裕をもって走りたいので7時きっかりにスタート位置につきたい。
コルトレイク駅発6時07分の始発でオーデナールデ駅まで移動だ。日の出が7時20分頃と遅いためあたりはまだ暗くひっそりとしている。私を含む四人のライダーがホームに見える。バイクとともに列車に乗り込む。二人は1等キャビンへ行ってしまった。リーズナブルな私はもうお一人と2等キャビンに席を取る。
お互いお一人様。隣り合った席で自己紹介。すると「昔、千葉に住んでいました。」とおっしゃるのでビックリ。スイスから来たという彼の名前はオリビエさん、自転車好きには国境も言葉の壁も無い。話が弾みあっと言う間に目的地に着いた。
夜明け前のスタート地点、徐々にライダー達が集まってくる。フリーコーヒーサービスがあり出走前に一杯頂く。ほっと心がリラックス。前夜、シクロワイアードの綾野さんとFBで連絡を取り合っていて、もしお会いできればと思っていたがこれから1万人が走り出すのだ。まだ暗いしお会いできるかもどうかわからない。運が良ければどこかで会えるだろう、そう思いオリビエさんと共にスタートを切った。
なにしろまだ暗い。前灯も尾灯も点灯する。普段日本ではチカチカと点滅させている人も多く見受けられるが、こちらでは点灯で走るのが一般的なようだった。まだ冷たい空気、徐々に明けて行く空、そして朝靄のたつエスコー川に沿って走りだす。「気持ちいいすねー!」と思わず日本語がでてしまう。本当に気持ちいい。オリビエさんも「Beautiful!」と声をあげる。でもみんな知っている。快適で気持ち良いのはここだけなのを。
そしてやって来た最初の壁。WOLVENBERG。ベルギーの地形の特徴としてずっと坂が見える、というのがある。つまり少しはくねりがあるけれど、ほぼ直登なので結構先まで丸見え。山ではなく丘なので樹木に視界を遮られる事も無い。距離は短いがそのぶん傾斜がキツくなる。私たちの目の前に現れたのはそんな坂だ。巨大滑り台を下から見上げるような感覚は、登る前から心拍があがる。
ありがたいことにこうした各セクターの入り口にはセクター名と距離、平均勾配と最大勾配の表示がある。それを横目でチラと確認し心と体とギアの準備をする。ここは表示だと距離700mで最大勾配17.3%。宇都宮の方なら分かるかもしれないが、鶴カンも直登で400m最大14%だからだいたい2倍くらいはキツイ。でもこれは最も軽いジャブ。なんとも粋なご挨拶だ。
坂のジャブを打たれると、今度は石畳のお出迎え。まずは平坦だ。ここで激しい振動の洗礼を受ける。がたがたがたがた。手が震え、足が振え、お尻が震え、脳が震え、内蔵が震え出す。とにかく真っすぐ走らなければならない。周りに多くの選手が走っているのだ。あらぬ方向に行ったり、転んだりすれば周りを巻き込みかねない。ところが真っすぐ走るのが難しい。ハンドルバーが小刻みにアッチコッチ。
昔フミのインタビュー記事で石畳はカラダをバイクに覆いかぶすように乗るのがコツ。と読んだのを思い出す。でもそうするとハンドルバーに力が入ってペダルに体重が乗らない気がする。まあ、乗っているうちに何か掴めるだろう。とにかくペダルを踏みつけるように回し石畳の最初のジャブをなんとか乗り切った。
まだまだ第一ラウンド。ガードを上げてジャブには耐えたが、この先未だ100km以上ある。強烈なボディブロー、とどめのアッパーカットが飛んでくるに違いない。そしてこのあとmolenbergとkerkgateの攻撃に耐えなんとかエイドにたどり着いた。
エイドでは水やスポーツドリンク、ワッフルやパンケーキ、バナナ、オレンジなどが用意されている。補給食を持たずに走れるので非常にありがたい。130kmのコースには3カ所のエイドがあり、トイレも食料補給も出来る。ただ惜しむらくはどこも全く同じものが用意されているので、日本のロングライドイベント、特に那須ロングライドのようにバラエティ豊かな地産のおいしいものを各エイドでいただく、といった楽しみはここにはない。でもここで休憩し補給を取り、仲間の調子を気遣い、スタッフさんに笑顔で励まされれば十分パワーを回復させることができる。そしてシマノのメカニックサービスもある。
さて、たどり着いた最初のエイドでiPhoneをみるとメッセージが届いてる。シクロワイアードの綾野さんだ。スタート時点でメッセージを頂いていたようだ。これは申し訳ないと思い、あわてて返信するとエイドのシマノブース近くにいるという。こうして綾野さんと合流でき、オリビエさんとともに3人で走る事となった。
綾野さんとご一緒することになり楽しさは倍増した。なにしろフランダースクラシックの取材者としてベテランだし、ライダーとして227kmのフルコースを走った経験もあるという。生ライドで生解説付きの豪華さだ。しかもフォトグラファーとしても素晴らしい方で私は昔から憧れていた。やはり一眼レフカメラを首から下げている。こうなると生撮影付きとなり豪華すぎて恐縮次第だ。
エイドをでた私たちは次のセクターまで綾野さん先頭に真後ろに付かせてもらったり、安全な所ではおしゃべりなどしながら快適な速度で進んでゆく。そしてセクターはやってくる。辛く苦しい我慢の時間だ。距離と勾配を確認して石畳の坂を登る。私はとにかくゆっくりゆっくり。なるべく振動を避けたいため道端の樋のようになっている凹凸の少ないラインを選んで走る。これは石畳攻略のテクニックの一つだ。可能な限りカラダへの負担を減らし次のセクターにそなえる。またゆっくりでも足を付かずに登りきった達成感がライドの醍醐味だ。
それにしても綾野さんは凄い。ダンシングで加速するとあっという間に離されてしまう。そしてビューポイントとなるところでバイクを降り撮影を始める。また激坂石畳で片手でカメラを持ち、追い越しざま振り返りながら写真を撮る。これはもう撮影技術というよりもはや芸の世界。とてもまねはできない。プロ中のプロである。そして私は少しでもいい被写体になるべく奮闘した(つもり)。こんな機会は二度と無い。これがいいモチベーションになり130kmを楽しく走りきることが出来たと思う。
二つ目のエイドで小休憩。補給を取り、トイレをすます。記念写真を撮ったりしているとスーパーマンとキャプテンアメリカがいた。これはいいネタになるとカメラを向けるとスパイダーマンも現れた。アメリカから来たのかと聞いたらイタリアンだった。こういうのも楽しくていい。
さて、エイドを出ると次はいよいよコッペンベルグ。名高い激坂を前に、期待が高まります。
プロフィール
宇賀神善之(うがじんよしゆき)
出版広告制作会社の撮影部を経て、現在はフリーランスフォトグラファーに。撮影ジャンルはビューティからアウトドアまで幅広いが、趣味が高じて近年は遂に自転車分野に着手。写真を通じてロードレースの文化を伝えたいと意気込む。東京と宇都宮のダブルプレイスで活動し、ジャパンカップには深い思い入れがある。目標はプロの観客。
text&photo:Yoshiyuki.UGAJIN
photo:Makoto.AYANO
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