2016/01/22(金) - 08:55
昨年秋に開催されたRapha Women's Prestige。前回に引き続き、小村サチさんのレポートをお届けします。いざ走りだした、その先に待っているものとは?
誰1人アルコールを持ち込まずさっさと寝た翌朝。朝日の気配はまだないものの、雨は降っていなかった。見れば天気予報の降水確率がだいぶ下がっている。窓を開けて気温を確認するちゅなどん。背中に忍ばせるのは軽さか、安心感か。いよいよ判断を迫られている。
傍では寝れなかったー、と嘆きながらショーツのパッドにシャモアクリームを塗るにゃおちにチハルコ。え?パッドに塗るの?え?サチは塗らないで平気なの?え?なぜ必要なの?!更に傍では1番眠そうな顔をしながら、無言でゆで卵とおにぎりをほおばるアヤ。皆のスタート前の準備や摂取量も興味深い。普段の練習ではなかなか見られない発見がたくさんある。
さあ、いよいよ会場に移動だ。
朝露なのか夜更けの雨か、アスファルトの路面はまだ濡れているが、諏訪湖の湖面からは霧が立ち上り、空はなんとか回復に向かっている。5人の薔薇の総柄女が自転車にまたがる。5人揃ったその姿に、共に走れることに、今日の冒険に、互いの顔にはこらえきれない笑みが浮かんでいる。
スタートは湖のほとりで6:00から。めいめい揃いのウェアに身を包んだ参加女性達や大会関係者らが既に集まっていて、早朝の湖のほとりとは思えない静かな熱気が漂っていた。脇の遊歩道には犬の散歩やジョギングをしていた人がこの普段と違う景色に思わず足を止めている。
おはよーさーん。私達が現れただけで爆笑が起こる。なんで笑うのよ、と言いながら私達もにやにやが止まらない。
参加女性達はそれぞれ他チームの知人を見つけおしゃべりが始まっている。緊張と興奮によるテンション高めのやり取りを眺めていると、私もみるみる心拍が上がってしまう。いやいや落ち着こう、背中に入れていたサンドイッチをもぐもぐ、いつものスタート前のマサヒフ氏直伝ストレッチをして自分を取り戻してゆく。
他のチームが自転車を携え順次スタートラインに並び、集合写真を撮ってもらい、つぎつぎ出走してゆく。最後尾でその時を待っている私達に、「ねえアタシ、これをみんなとやりたいんだ。」とチハルコがチームの決めポーズを作ろうと提案する。
イメージするはタフでセクシーな女性アスリート集団…。OK、OK。自転車はそっちのけ、スタートラインでちゅなどんを中心に4人が囲み、四方に伸ばした両腕の先は拳銃を形作って澄ました顔で狙いを定める。「なんだよそれっ!!」ポーズを決める私達にギャラリーがまた笑い、カメラに収めてくれる。そうそう、私達は今日を一日とことん遊びつくすんだ。充分にリラックスして私達はペダルを踏み出した。
コースは諏訪湖を囲むように102km、ざっくりと2300mUP。コースマップを見ると6つの大きな登りがある。グラベルの長い登りもあるらしい。チェックポイントは2つ。
またしても情けないことに、私はガーミンに地図を取り込まずして出走していた。主人のお下がりのガーミン。機材音痴の私には、心拍や速度を表示させることを覚えるのでまだ精一杯だったからだ。当然データ取込済みの慣れた4人から、ちぎれなければなんの問題もない!と、意味深な笑みをされ背筋がヒヤリとする。
まずは湖沿いの街を走る。私は5人の真ん中を走っていた。チハルコとちゅなどんが前に、私の後ろにはにゃおち、アヤの順で列を成していた。ルートはこの街を見下ろせる高台へと早速登り始める。
チハルコの走りを見るのは初めてだった。やはりとても力強いしリラックスしたフォームだ。ちゅなどんもそれに合わせてぐいぐい進んでゆく。調子が上がってくるまでは、私もしばらく耐える時間。ただ淡々と登ることを意識する。
ふと気が付くと、私の後ろの2人が離れている。にゃおちが苦しそうだ。知ってか知らずか前の2人のペースが緩むことはない。いや、「にゃおちがっ!」と知らせもした。それでも2人は前へと急ぐ。にゃおちの普段と明らかに違う姿に、そして『5人で一丸となって』と言うテーマから早速逸脱していることに、驚きを隠せない。ちぎれんようにね、とさっきの意味深なセリフがよみがえる。
私はどの位置で走るべきか…。そして私はこのチームに果たせる役割ってなんだ?
この先の道のりを考えると、私は前の2人のペースにずっとついて行けるだろうか?それともここで私が後ろの2人と合流すれば、さすがにチーム全員でゆっくり行こうか、と言うことになるんじゃないか?
―でもサチ、それは弱者を想うフリして、自分が楽な道を選ぼうとしてへんか?今日はやっぱり体調が悪いわーて、挑戦することから逃げてへんか?
関西出身のメンバーと過ごすうちに、すっかり頭に染み付いた関西弁が頭の中で私を叱咤する。にゃおちにはアヤがついてくれている。ひとまず私は前の2人についてゆくことにした。何も考えず、ただただ2人のスプロケットを見ながらペースを合わせる。
―せやでサチ、がんばりや。
この猛烈な走りは、先に出走していた他チームをすぐに捕らえ、ぐんぐん追い抜いくこととなった。おはよー、と声を掛けながらぐんぐん追い抜いてゆく。去り際には「え?私達のペースのほうが普通だよね?」と戸惑う声まで。
申し訳ない…、きっとこの人達レースの癖で前の人を見つけたら追い越さずにはいられないんです…!と心の中で詫びながら2人を追いかける。登るほどに見晴らしが良くなるところなのだろうが、今日は登るほどに霧が濃くなっていった。ひとつめの登りが終わる頃には、10m先だって怪しいほどに真っ白だった。
さて、アップ完了!とチハルコにちゅなどん。少し速いペースで走ったのはウォームアップだったからだと聞いて安心する。そのわりにパワフルではあったが。
後から知ったことだが、最初の登りでにゃおちが出遅れるのはいつものことらしい。それぞれにペースの上がり方が違い、それぞれを尊重しているのだ。チームワークを無視した行動なんてことではなかったというわけだ。そして、今回は寝れなかったことが相当ににゃおちに影響を与えていたようである。
にゃおち達の到着を待ちながら私達のFBページを確認すると、スタートのあの決めポーズ写真は3,000を越す閲覧数になっている。なんだか売れっ子アイドル見たいやな、あたし達。こっからは写真をバシバシ撮ってどんどんアップしてこうな!
5人が揃う。霧の中を下ってゆくと、諏訪大社の下社秋宮が現れた。
かちゃり、かちゃり、かちゃり。
厳かな社の中、大きな石畳の上でビンディングシューズの足音が響く。
手水舎で身を清めたが、この出で立ちにこの歩き方で畏敬の念を神様に届けられている自信がない。太くまっすぐ伸びる樹齢800年の杉のご神木、木造の神楽殿にシンボリックな特大のしめ縄。
ほんとに楽しませていただいてます、ありがとうございます。このチームで怪我なく楽しくこの諏訪を走り抜けることが出来ますように。私達が参拝しているうちに他のチームもぞくぞくと到着、みんなで記念の集合写真まで撮るにぎやかさに膨らんだ。
チェックポイントにどんな補給食が用意されてるかな、今度コンビニあったらコーヒーでひと休みしような、なんて事を楽しみにしながら走る。しかしもう少し平地が続いてもいいのに、と思うほど今回のステージは登って、下って、またすぐ次の登りが現れる。
2度目の試練は斜度が14%くらいの長い坂道だ。少し先には地元の体育会系男子校生達だって自転車を降りてダルそうにだらだら歩いて登っているのが見えた。これはさすがに私も降りていいだろう、いくら自転車が違うとはいえ、地形を熟知した体力有り余る若い男子達が歩いているのだから!とそっと心躍らせる私。
しかし彼女らは当然のごとく、漕ぐ力をぐっと強める。ははは、と力尽きそうな私の弱い笑い声は彼らを追い越すちゅなどんとチハルコの風にかき消された。後ろからアヤまで、まるでエスカレーターに乗っているのかと思うほど滑らかに、するすると上がってゆく。男子校生達もあっけにとられている。ガーミンデータの無い私も、必死に後を追い続けた。
そして山の深くまで登ってきた私達の前に、舗装路から外れる林道が現れた。
「さあ、いよいよ始まるで。」誰かがぽつりと呟いた。
text&photo:Sachi.Nakadai
誰1人アルコールを持ち込まずさっさと寝た翌朝。朝日の気配はまだないものの、雨は降っていなかった。見れば天気予報の降水確率がだいぶ下がっている。窓を開けて気温を確認するちゅなどん。背中に忍ばせるのは軽さか、安心感か。いよいよ判断を迫られている。
傍では寝れなかったー、と嘆きながらショーツのパッドにシャモアクリームを塗るにゃおちにチハルコ。え?パッドに塗るの?え?サチは塗らないで平気なの?え?なぜ必要なの?!更に傍では1番眠そうな顔をしながら、無言でゆで卵とおにぎりをほおばるアヤ。皆のスタート前の準備や摂取量も興味深い。普段の練習ではなかなか見られない発見がたくさんある。
さあ、いよいよ会場に移動だ。
朝露なのか夜更けの雨か、アスファルトの路面はまだ濡れているが、諏訪湖の湖面からは霧が立ち上り、空はなんとか回復に向かっている。5人の薔薇の総柄女が自転車にまたがる。5人揃ったその姿に、共に走れることに、今日の冒険に、互いの顔にはこらえきれない笑みが浮かんでいる。
スタートは湖のほとりで6:00から。めいめい揃いのウェアに身を包んだ参加女性達や大会関係者らが既に集まっていて、早朝の湖のほとりとは思えない静かな熱気が漂っていた。脇の遊歩道には犬の散歩やジョギングをしていた人がこの普段と違う景色に思わず足を止めている。
おはよーさーん。私達が現れただけで爆笑が起こる。なんで笑うのよ、と言いながら私達もにやにやが止まらない。
参加女性達はそれぞれ他チームの知人を見つけおしゃべりが始まっている。緊張と興奮によるテンション高めのやり取りを眺めていると、私もみるみる心拍が上がってしまう。いやいや落ち着こう、背中に入れていたサンドイッチをもぐもぐ、いつものスタート前のマサヒフ氏直伝ストレッチをして自分を取り戻してゆく。
他のチームが自転車を携え順次スタートラインに並び、集合写真を撮ってもらい、つぎつぎ出走してゆく。最後尾でその時を待っている私達に、「ねえアタシ、これをみんなとやりたいんだ。」とチハルコがチームの決めポーズを作ろうと提案する。
イメージするはタフでセクシーな女性アスリート集団…。OK、OK。自転車はそっちのけ、スタートラインでちゅなどんを中心に4人が囲み、四方に伸ばした両腕の先は拳銃を形作って澄ました顔で狙いを定める。「なんだよそれっ!!」ポーズを決める私達にギャラリーがまた笑い、カメラに収めてくれる。そうそう、私達は今日を一日とことん遊びつくすんだ。充分にリラックスして私達はペダルを踏み出した。
コースは諏訪湖を囲むように102km、ざっくりと2300mUP。コースマップを見ると6つの大きな登りがある。グラベルの長い登りもあるらしい。チェックポイントは2つ。
またしても情けないことに、私はガーミンに地図を取り込まずして出走していた。主人のお下がりのガーミン。機材音痴の私には、心拍や速度を表示させることを覚えるのでまだ精一杯だったからだ。当然データ取込済みの慣れた4人から、ちぎれなければなんの問題もない!と、意味深な笑みをされ背筋がヒヤリとする。
まずは湖沿いの街を走る。私は5人の真ん中を走っていた。チハルコとちゅなどんが前に、私の後ろにはにゃおち、アヤの順で列を成していた。ルートはこの街を見下ろせる高台へと早速登り始める。
チハルコの走りを見るのは初めてだった。やはりとても力強いしリラックスしたフォームだ。ちゅなどんもそれに合わせてぐいぐい進んでゆく。調子が上がってくるまでは、私もしばらく耐える時間。ただ淡々と登ることを意識する。
ふと気が付くと、私の後ろの2人が離れている。にゃおちが苦しそうだ。知ってか知らずか前の2人のペースが緩むことはない。いや、「にゃおちがっ!」と知らせもした。それでも2人は前へと急ぐ。にゃおちの普段と明らかに違う姿に、そして『5人で一丸となって』と言うテーマから早速逸脱していることに、驚きを隠せない。ちぎれんようにね、とさっきの意味深なセリフがよみがえる。
私はどの位置で走るべきか…。そして私はこのチームに果たせる役割ってなんだ?
この先の道のりを考えると、私は前の2人のペースにずっとついて行けるだろうか?それともここで私が後ろの2人と合流すれば、さすがにチーム全員でゆっくり行こうか、と言うことになるんじゃないか?
―でもサチ、それは弱者を想うフリして、自分が楽な道を選ぼうとしてへんか?今日はやっぱり体調が悪いわーて、挑戦することから逃げてへんか?
関西出身のメンバーと過ごすうちに、すっかり頭に染み付いた関西弁が頭の中で私を叱咤する。にゃおちにはアヤがついてくれている。ひとまず私は前の2人についてゆくことにした。何も考えず、ただただ2人のスプロケットを見ながらペースを合わせる。
―せやでサチ、がんばりや。
この猛烈な走りは、先に出走していた他チームをすぐに捕らえ、ぐんぐん追い抜いくこととなった。おはよー、と声を掛けながらぐんぐん追い抜いてゆく。去り際には「え?私達のペースのほうが普通だよね?」と戸惑う声まで。
申し訳ない…、きっとこの人達レースの癖で前の人を見つけたら追い越さずにはいられないんです…!と心の中で詫びながら2人を追いかける。登るほどに見晴らしが良くなるところなのだろうが、今日は登るほどに霧が濃くなっていった。ひとつめの登りが終わる頃には、10m先だって怪しいほどに真っ白だった。
さて、アップ完了!とチハルコにちゅなどん。少し速いペースで走ったのはウォームアップだったからだと聞いて安心する。そのわりにパワフルではあったが。
後から知ったことだが、最初の登りでにゃおちが出遅れるのはいつものことらしい。それぞれにペースの上がり方が違い、それぞれを尊重しているのだ。チームワークを無視した行動なんてことではなかったというわけだ。そして、今回は寝れなかったことが相当ににゃおちに影響を与えていたようである。
にゃおち達の到着を待ちながら私達のFBページを確認すると、スタートのあの決めポーズ写真は3,000を越す閲覧数になっている。なんだか売れっ子アイドル見たいやな、あたし達。こっからは写真をバシバシ撮ってどんどんアップしてこうな!
5人が揃う。霧の中を下ってゆくと、諏訪大社の下社秋宮が現れた。
かちゃり、かちゃり、かちゃり。
厳かな社の中、大きな石畳の上でビンディングシューズの足音が響く。
手水舎で身を清めたが、この出で立ちにこの歩き方で畏敬の念を神様に届けられている自信がない。太くまっすぐ伸びる樹齢800年の杉のご神木、木造の神楽殿にシンボリックな特大のしめ縄。
ほんとに楽しませていただいてます、ありがとうございます。このチームで怪我なく楽しくこの諏訪を走り抜けることが出来ますように。私達が参拝しているうちに他のチームもぞくぞくと到着、みんなで記念の集合写真まで撮るにぎやかさに膨らんだ。
チェックポイントにどんな補給食が用意されてるかな、今度コンビニあったらコーヒーでひと休みしような、なんて事を楽しみにしながら走る。しかしもう少し平地が続いてもいいのに、と思うほど今回のステージは登って、下って、またすぐ次の登りが現れる。
2度目の試練は斜度が14%くらいの長い坂道だ。少し先には地元の体育会系男子校生達だって自転車を降りてダルそうにだらだら歩いて登っているのが見えた。これはさすがに私も降りていいだろう、いくら自転車が違うとはいえ、地形を熟知した体力有り余る若い男子達が歩いているのだから!とそっと心躍らせる私。
しかし彼女らは当然のごとく、漕ぐ力をぐっと強める。ははは、と力尽きそうな私の弱い笑い声は彼らを追い越すちゅなどんとチハルコの風にかき消された。後ろからアヤまで、まるでエスカレーターに乗っているのかと思うほど滑らかに、するすると上がってゆく。男子校生達もあっけにとられている。ガーミンデータの無い私も、必死に後を追い続けた。
そして山の深くまで登ってきた私達の前に、舗装路から外れる林道が現れた。
「さあ、いよいよ始まるで。」誰かがぽつりと呟いた。
text&photo:Sachi.Nakadai
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