2016/01/13(水) - 09:09
昨年秋に信州で開催されたRapha Women's Prestige。女性だけでチームを組み、協力して難コースに挑むという大舞台に参加した小村サチさんからのレポートを紹介します。女性らしい視点、言葉、感じたこととは。まずはチーム結成〜前日編から。
メンバーとの付き合いがまだ2ヶ月足らずだと言うと、とても驚かれる。
たしかにこれまでの交友関係を振り返ると、こんなに自分の弱さやアホさ加減を見透かされてしまっている相手は主人を除いてそういない。そして、そこには包み込んでくれる包容力と、甘えられない緊張感が存在する。
私達はRapha Women’s Prestige SUWAの大舞台を共に乗り越えた女性5名のチーム、SKRK Tinkerbell(シャカリキ ティンカーベル)。
私が初めてロードバイクにまたがってから2年が経つ。自転車乗りの主人が見る景色を共有させて欲しくて、国内外へとザックひとつ背負って夫婦で自転車旅をするのが楽しくて、一生懸命彼の後ろを追いかけた。
気が付くと、自転車がきっかけでどんどんいろんな方と知り合うもののそのほとんどが男性達で、主人はレースのトレーニングに忙しそうで、…そうだ女性とも走ってみたい!と今年7月に「Rapha Women’s 100」(以下W100)に参加、自身ほぼ初体験の自転車女子との走行中、ライドリーダーだったにゃおちと出会った。
盛夏を迎えた甲州盆地のじりじりした暑さに汗を浮かべながら、緩やかだが長い長い登りを走っていると、隣ににゃおちが現れて「サチ、今度Rapha Women's Prestige(以下RWP)ってので一緒に走らない?」と声を掛けられる。
ご存知の方も多いかと思うが、W100、RWPは、どちらもサイクルウェアブランドRaphaが企画する、世界中の自転車を愛する女性の為のイベント。W100は1日で100kmを走りきることを目指すが、RWPはそれ以上に過酷なイメージ。女性4、5人でひとつのチームを作り、地図を読み解きながら自らの力でトラブルを乗り越え、ゴールを目指す。そのコースには険しいグラベルも含まれるし、どうやらアップダウンも激しく、100kmそこそこの距離で獲得標高は2000mを超えるらしい。
今のところ決まっているというメンバーを聞いて興奮する。あの自転車界では知らない人がいない有名女性サイクリストちゅなどんと、同じく大学までホッケーに打ち込んでいたと言うほど男子顔負けの脚を持つシクロ女子チハルコ。ハンドボールに青春を捧げ、今ではライドイベントの企画までもやってしまうにゃおちも含め、豪華な面々が待つそのドアの向こう側に来ないかと言われていることがにわかに信じられない。
「うん、やる。」
仮に今、自分にそのスキルがなくっても開催までの2ヶ月で身につけてみせる。二つ返事でOKした。メンバー最後の1人に、フレームビルダーを目指して修行中!のアヤが加わってチームはいよいよ動き始めた。
事実、私は猛特訓に励んだ。
・まず初めに夫にお願いしたのは、「トレインの上手な引き方と回し方」を教えてもらうこと
→これは後日最高のお笑い種に
・アスリートフード研究家の池田清子さんから教えてもらった食事を徹底
→主人がタイのステージレースで見事優勝、私は応援
・夏休みは旅行を兼ねてイタリアのドロミテ山塊で10日間の高地トレーニング
→周囲が想像以上に一目置いてくれるようになる
・自宅でパンク対処練習
→隣で主人からプレッシャーを受けながら冷静にこなす、ただし当日は必要がなかった
・Hamster Spin福田昌弘さんのストレッチに励んで股関節や肩まわりの動きの変化を実感
→日常の過ごし方から意識が変わる!
・宮澤崇史さんの笑顔の素敵なトークショーに参加、DVDを購入
→メトロノームの音を聞きながらローラーを回す
・細沼自転車店のバイクメンテナンス教室に通う
→メンテの世界をわかりやすく教えてもらい、洗車に目覚める
・WALKRIDE須田晋太郎さんのバランストレーニング、効果的なトレーニング方法を学ぶ
→しっかりと自転車に乗ることを意識する
・主人が参加している猛者揃いの練習会(のリカバリーライド)に毎週参加
→セミナーで学んだものを実際に目の当たりにする
…などなど。話を戻そう。
自己紹介もそこそこに、今回着る揃いのユニフォームが決まったと知らせを受け、その速さに驚いた。私にとっては記念すべき初のチームジャージ…写真を見てまた驚いた。
全身が薔薇なのだ。全身がピンクで、花柄で、手のひらを広げたくらいの薔薇が余すことなくちりばめられている。
しばらく、息が止まった。なにやらこれはSKRK(シャカリキ)という既に京都で活動する男性チームのジャージらしい。彼らの写真が参考資料として次々に送られてくる。自らをピーターパンと称しウェアを身にまとい、薔薇の花園の中に埋もれてみたり、伏見稲荷の鳥居の中で涼しい顔で佇んでみたり。
「…と言うわけで、私らは“チームSKRK Tinkerbell“やで!!」とちゅなどんからのメッセージ。
なるほど…。これは充分な脚力を身につけて、如何なる道も楽しめる者だけが着られるジャージだ。森の中で、羽ばたくように悪路を乗り越える笑顔の私達の姿が見えた。うん、なんだかこれはめちゃくちゃカッコ良いことになりそうだ。
そしてもう一つ。私たちが難関を乗り切るため、パナレーサーが私たちを後押ししてくれることになった。今回私達の挑戦を知って快くタイヤ(グラベルキング)とチューブをサポートして下さったのだ。機材に関しては主人に任せっきりの無知な私とは裏腹に、他のメンバーは「ほんとにー!?あのタイヤとあのチューブとの組み合わせ、完璧!」と4人は興奮し、大喜びしている。ふむふむ、それは私も楽しみだ。
それぞれに慌しい日常生活を送りながら、FBでやり取りしたり、一緒にグラベル強化練をしたり、ユニフォームの到着に気を揉んだりしているうちに、あっという間にイベント前日が訪れる。私達の挑戦を公開しよう!と前々日に作成したFBページの登録者数は一晩で優に300を超えていた。
しかし高まる興奮とは裏腹に、数日前から天気予報は下り坂を示していることが気にかかるのであった。
9月25日(金)、関西から参加のチハルコと私はここで初顔合わせ。空港で彼女が手配してくれたタウンエースとは環八のコンビニで集合し、5台の自転車と5人の女が乗り込んだ。あの車の独特のすえた匂いは決して快適とはいえないこの座席由来のものだろうか。互いの肩をぶつけ合いながら、手すりにつかまりながら、一路諏訪を目指す。金曜の夕方は用賀から高井戸に出るのも一苦労の渋滞だ。
進まないことに腹を立てながらも、もちろん女子のおしゃべりは話題に事欠かない。ご主人や友人の話はもちろんだが、私にとって新鮮なのはそのすべてに自転車が絡んでいると言うこと。
レースも控えているのに主人が仕事で夜が遅くて食事管理を上手くサポート出来ていない。うちもうちも、どんなもの作ってんのん?てゆーかあたし達は?トレーニングしすぎて体脂肪下がってきたんだけど、みんな生理とかちゃんと来てる?どこまで追い込んでも平気?ごめんアタシ実は明日体調悪いかも。いやいやそんなんあたしもやで。アタシこないだのレースでこんなんでさ。あ、あたしこないだ早起きしてあっこのパン屋行って来たで。わーええなぁ、おいしいよなぁ!...なんて具合。
誰もがよくしゃべる。多少は控えめを装うメンバー最年少のアヤも新参者の私も、まったく遠慮しないから、みるみる曇ってゆく車窓にデフロスタをオンにする。ちゅなどんとアヤは関西出身、チハルコは関西在住者。テンポのよさに自分の思考回路も関西弁に染められてゆく。
宿に着くなり、自転車を降ろして組み立てる。明日は朝4時起き。スタート前に手間取らないように、互いの足並みを乱さないように、それぞれがてきぱきと準備をする。前後のタイヤを付けただけの私、ブレーキを握って前輪を覗き込んでいるアヤ、ペダルを手で回すチハルコ…みんな何やってるんだ?見よう見まねでみんなの仕草と目線の先を真似てみる。
アヤ、何見てるの?ブレーキシューの左右の当たり具合を確認してます。え?いいすか、こうやってブレーキ握った時の動き見てください、…シュッ。…シュッ。今最後にタイヤが左に動いちゃいましたよね、これあかんのですわ。え?どこ? …シュッ。…シュッ。見えませんか?うーーーん…見え…たような…。このままだとどんな悪影響があるの?これはどこを調整すればいいの?
みんなの自転車に対するひとつひとつの所作に、自分がいかに自転車に対して無知かを思い知らされる。私はペダルひとつで自転車を自立させる方法だってままならない。主人に何から何まで頼りっぱなしだったことを改めてカッコ悪く思う。
明日雨に降られてしまうことは皆覚悟していた。ただでさえ普段より気温の低い場所に来た。雨に打たれるかもしれないし、体が芯まで冷えて寒い思いをするかもしれない。さまざまな状況を想像して持ち運ぶ荷物を決めかねていた。
text&photo:Sachi.Komura
メンバーとの付き合いがまだ2ヶ月足らずだと言うと、とても驚かれる。
たしかにこれまでの交友関係を振り返ると、こんなに自分の弱さやアホさ加減を見透かされてしまっている相手は主人を除いてそういない。そして、そこには包み込んでくれる包容力と、甘えられない緊張感が存在する。
私達はRapha Women’s Prestige SUWAの大舞台を共に乗り越えた女性5名のチーム、SKRK Tinkerbell(シャカリキ ティンカーベル)。
私が初めてロードバイクにまたがってから2年が経つ。自転車乗りの主人が見る景色を共有させて欲しくて、国内外へとザックひとつ背負って夫婦で自転車旅をするのが楽しくて、一生懸命彼の後ろを追いかけた。
気が付くと、自転車がきっかけでどんどんいろんな方と知り合うもののそのほとんどが男性達で、主人はレースのトレーニングに忙しそうで、…そうだ女性とも走ってみたい!と今年7月に「Rapha Women’s 100」(以下W100)に参加、自身ほぼ初体験の自転車女子との走行中、ライドリーダーだったにゃおちと出会った。
盛夏を迎えた甲州盆地のじりじりした暑さに汗を浮かべながら、緩やかだが長い長い登りを走っていると、隣ににゃおちが現れて「サチ、今度Rapha Women's Prestige(以下RWP)ってので一緒に走らない?」と声を掛けられる。
ご存知の方も多いかと思うが、W100、RWPは、どちらもサイクルウェアブランドRaphaが企画する、世界中の自転車を愛する女性の為のイベント。W100は1日で100kmを走りきることを目指すが、RWPはそれ以上に過酷なイメージ。女性4、5人でひとつのチームを作り、地図を読み解きながら自らの力でトラブルを乗り越え、ゴールを目指す。そのコースには険しいグラベルも含まれるし、どうやらアップダウンも激しく、100kmそこそこの距離で獲得標高は2000mを超えるらしい。
今のところ決まっているというメンバーを聞いて興奮する。あの自転車界では知らない人がいない有名女性サイクリストちゅなどんと、同じく大学までホッケーに打ち込んでいたと言うほど男子顔負けの脚を持つシクロ女子チハルコ。ハンドボールに青春を捧げ、今ではライドイベントの企画までもやってしまうにゃおちも含め、豪華な面々が待つそのドアの向こう側に来ないかと言われていることがにわかに信じられない。
「うん、やる。」
仮に今、自分にそのスキルがなくっても開催までの2ヶ月で身につけてみせる。二つ返事でOKした。メンバー最後の1人に、フレームビルダーを目指して修行中!のアヤが加わってチームはいよいよ動き始めた。
事実、私は猛特訓に励んだ。
・まず初めに夫にお願いしたのは、「トレインの上手な引き方と回し方」を教えてもらうこと
→これは後日最高のお笑い種に
・アスリートフード研究家の池田清子さんから教えてもらった食事を徹底
→主人がタイのステージレースで見事優勝、私は応援
・夏休みは旅行を兼ねてイタリアのドロミテ山塊で10日間の高地トレーニング
→周囲が想像以上に一目置いてくれるようになる
・自宅でパンク対処練習
→隣で主人からプレッシャーを受けながら冷静にこなす、ただし当日は必要がなかった
・Hamster Spin福田昌弘さんのストレッチに励んで股関節や肩まわりの動きの変化を実感
→日常の過ごし方から意識が変わる!
・宮澤崇史さんの笑顔の素敵なトークショーに参加、DVDを購入
→メトロノームの音を聞きながらローラーを回す
・細沼自転車店のバイクメンテナンス教室に通う
→メンテの世界をわかりやすく教えてもらい、洗車に目覚める
・WALKRIDE須田晋太郎さんのバランストレーニング、効果的なトレーニング方法を学ぶ
→しっかりと自転車に乗ることを意識する
・主人が参加している猛者揃いの練習会(のリカバリーライド)に毎週参加
→セミナーで学んだものを実際に目の当たりにする
…などなど。話を戻そう。
自己紹介もそこそこに、今回着る揃いのユニフォームが決まったと知らせを受け、その速さに驚いた。私にとっては記念すべき初のチームジャージ…写真を見てまた驚いた。
全身が薔薇なのだ。全身がピンクで、花柄で、手のひらを広げたくらいの薔薇が余すことなくちりばめられている。
しばらく、息が止まった。なにやらこれはSKRK(シャカリキ)という既に京都で活動する男性チームのジャージらしい。彼らの写真が参考資料として次々に送られてくる。自らをピーターパンと称しウェアを身にまとい、薔薇の花園の中に埋もれてみたり、伏見稲荷の鳥居の中で涼しい顔で佇んでみたり。
「…と言うわけで、私らは“チームSKRK Tinkerbell“やで!!」とちゅなどんからのメッセージ。
なるほど…。これは充分な脚力を身につけて、如何なる道も楽しめる者だけが着られるジャージだ。森の中で、羽ばたくように悪路を乗り越える笑顔の私達の姿が見えた。うん、なんだかこれはめちゃくちゃカッコ良いことになりそうだ。
そしてもう一つ。私たちが難関を乗り切るため、パナレーサーが私たちを後押ししてくれることになった。今回私達の挑戦を知って快くタイヤ(グラベルキング)とチューブをサポートして下さったのだ。機材に関しては主人に任せっきりの無知な私とは裏腹に、他のメンバーは「ほんとにー!?あのタイヤとあのチューブとの組み合わせ、完璧!」と4人は興奮し、大喜びしている。ふむふむ、それは私も楽しみだ。
それぞれに慌しい日常生活を送りながら、FBでやり取りしたり、一緒にグラベル強化練をしたり、ユニフォームの到着に気を揉んだりしているうちに、あっという間にイベント前日が訪れる。私達の挑戦を公開しよう!と前々日に作成したFBページの登録者数は一晩で優に300を超えていた。
しかし高まる興奮とは裏腹に、数日前から天気予報は下り坂を示していることが気にかかるのであった。
9月25日(金)、関西から参加のチハルコと私はここで初顔合わせ。空港で彼女が手配してくれたタウンエースとは環八のコンビニで集合し、5台の自転車と5人の女が乗り込んだ。あの車の独特のすえた匂いは決して快適とはいえないこの座席由来のものだろうか。互いの肩をぶつけ合いながら、手すりにつかまりながら、一路諏訪を目指す。金曜の夕方は用賀から高井戸に出るのも一苦労の渋滞だ。
進まないことに腹を立てながらも、もちろん女子のおしゃべりは話題に事欠かない。ご主人や友人の話はもちろんだが、私にとって新鮮なのはそのすべてに自転車が絡んでいると言うこと。
レースも控えているのに主人が仕事で夜が遅くて食事管理を上手くサポート出来ていない。うちもうちも、どんなもの作ってんのん?てゆーかあたし達は?トレーニングしすぎて体脂肪下がってきたんだけど、みんな生理とかちゃんと来てる?どこまで追い込んでも平気?ごめんアタシ実は明日体調悪いかも。いやいやそんなんあたしもやで。アタシこないだのレースでこんなんでさ。あ、あたしこないだ早起きしてあっこのパン屋行って来たで。わーええなぁ、おいしいよなぁ!...なんて具合。
誰もがよくしゃべる。多少は控えめを装うメンバー最年少のアヤも新参者の私も、まったく遠慮しないから、みるみる曇ってゆく車窓にデフロスタをオンにする。ちゅなどんとアヤは関西出身、チハルコは関西在住者。テンポのよさに自分の思考回路も関西弁に染められてゆく。
宿に着くなり、自転車を降ろして組み立てる。明日は朝4時起き。スタート前に手間取らないように、互いの足並みを乱さないように、それぞれがてきぱきと準備をする。前後のタイヤを付けただけの私、ブレーキを握って前輪を覗き込んでいるアヤ、ペダルを手で回すチハルコ…みんな何やってるんだ?見よう見まねでみんなの仕草と目線の先を真似てみる。
アヤ、何見てるの?ブレーキシューの左右の当たり具合を確認してます。え?いいすか、こうやってブレーキ握った時の動き見てください、…シュッ。…シュッ。今最後にタイヤが左に動いちゃいましたよね、これあかんのですわ。え?どこ? …シュッ。…シュッ。見えませんか?うーーーん…見え…たような…。このままだとどんな悪影響があるの?これはどこを調整すればいいの?
みんなの自転車に対するひとつひとつの所作に、自分がいかに自転車に対して無知かを思い知らされる。私はペダルひとつで自転車を自立させる方法だってままならない。主人に何から何まで頼りっぱなしだったことを改めてカッコ悪く思う。
明日雨に降られてしまうことは皆覚悟していた。ただでさえ普段より気温の低い場所に来た。雨に打たれるかもしれないし、体が芯まで冷えて寒い思いをするかもしれない。さまざまな状況を想像して持ち運ぶ荷物を決めかねていた。
text&photo:Sachi.Komura
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